少女は、私を利用した。
たったそれだけ。
天涯孤独。
それだけだった私の全てを知っていて、私の一生を殆ど理解している。少女は私の内に存在しながらも、常に私とは別の口調で、別の性格で…別の存在だった。
しかし、私はある時、急に少女を閉じ込めた。
此方がどれだけ外へのドアを叩いても、私は開けてくれない。どれだけ声を荒らげても、私は反応してくれない。
孤独。
嘗て私を孤独から救った少女が、初めて心の中に現れた瞬間だった。
サミシイ。
そうか、そうだったのか。
少女にも、この気持ちを理解して欲しかったんだ。少女はそう考える事にした。
そして訪れたのは、この世界。
私が閉ざした扉の鍵が弛んだこの期に抜け出し、私の偽の身体を使い。この世界へと溶け込む事にした。
目的は只一つ。
私という存在を広める為。
という訳で、最期に素晴らしいステージを用意する事にした。工場や店などで手に入れた物を組み合わせて作ったお薬。
硝酸カリウム爆薬。
学校で実験をする際にも、細心の注意を入れてする必要のある、とても危険な素材。私は、その知識を知っていた。少女がそれを手に入れ、今の状況を理解した上で、やる事は既に決まった。
この世界に爆破テロを仕掛ける。
随分と苦労した。私の知識が豊富とはいえ、少女に出来ることはこの世界からそれを創り出す必要がある。
素材を集め、火薬の詰まった瓶を増やし、そしてあちこちの建物にそれを仕掛ける。
バレることは無い。幸いにも、少女が手に入れた力は隠密行動に適していた。瓶も小さく、且つ物の影などにそれを仕掛けている。それに、仕掛けを始めたのは今から数時間前の事。短ければ、それこそ見つかる可能性はぐんと下がる訳だ。
そうして完成した私のステージ。
長い長い包帯で結ばれた、炎へと繋ぐ道のスタートに、少女は立っている。
ライターを持って。
白い導火線に、灯りを点けて。
それは、"終着駅"へと進み始める。
さて、そろそろ少女も、去るとしようか。
手に持ったフルーツナイフを喉に突き刺そうとして。
その手前で、少女は再び扉の奥へと閉じ込められた。
─────────
カタン──と。
フルーツナイフの落ちる音。
ごめんね、"メイ"。
ここからは、私でいさせて欲しい。
……少しだけ、私の過去について。
ずっと孤独だった私が逃げ出した先は、自分で作り出した、心の中の別人。一年ほど前まで、私はずっと貴女に縋ってきた。
小学校も中学校も、時間があればずっと勉強して、本を読んで…家に帰ったら、貴女とお話して…壊れかけだった私を、ずっと支えてくれた。夢の中では、貴女といっぱい遊んだ。夢の多くは起きた時に忘れると言うけれど、私は貴女と過ごした全てを覚えている。
でも、学園生活の2年目で、私の心は大きく変わった。だから、貴女を閉じ込めた。私が作っておきながら、本当に酷いことをしたと思う。でも、この世界に来るまで…すごく楽しかった。私の居場所もクラスの中にできて、ようやく私は幸せを掴んだ。
でも、そんな幸せ日々もとっくに終わっていたんだと思うと…とても悲しい。
私はきっと、このゲームを恨んでいる。
そしてきっと、このゲームに感謝している。
だから、ここにいる人達とのお話を…
私はきっと、忘れない。
この世界で最初に会ったのは、海月さん。
メイがいきなり肘を決めてしまったのは、ここで私が謝っておくね…ごめんなさい。
次に会う時は、私が話したかったかな。そしたら、海月さんはどう反応を見せてくれるんだろう。ううん、きっと…変わらないんでしょうね。
メイがこのテロに走る原因になってしまった工場、そこに居たのはトロンパさん。
私が見てきた中では、かなりまともな方だったと思う。メイがお薬と称して渡した爆薬にも引いていたからね。
何回か死亡通知が来ていたけれど、あれは結局どんなトリックだったんだろう。生きている内に聞いておきたかったかな。
ショッピングモールでも道具集めをしてる時に出会った人、唐揚げ食べたいさん。
面白い名前に、面白い口調。メイは意味不明すぎて考えることをやめちゃったみたいだけど、私は好きだったよ。でも、そんなキャラをしてる程、裏も深そうで、私には踏み込める勇気は無い…かな。
あ、唐揚げ…私は大好きだよ。
最初は温泉で一緒にぬくぬくしたよね、あいごころ。ちゃん。
メイは、一番大変だったのかな。二度も泣かせちゃって…結局、私が出ることにしたんだから。それに、メイは私を感づかれない為に、自分に空っぽの嘘をついていた。それを破ったのもあの子だから、きっと私がこうしてまた表に出ているのは、こころちゃんのお陰だと思ってる。
あの子もきっと、裏は深い。
でも、度々見せてくれた笑顔を、私は信じているよ。信じる根拠?クレープのクリームがついた顔で、いいかな?
海が見える場所で出会ったのは、こころちゃんともう1人…マリアさん。
全く読めない…メイはそう嘆いていたかな。
でも、私は何となく解る気がする。彼女は…とても強い。彼女なら、この狂ったゲームをひっくり返してくれる…そう信じていた。
まあ、嘘かもしれないけど。
……私には、こんな台詞は似合わないね。
すっかり温泉に取り憑かれちゃったメイと出会ったのは、ヒガンバナさん。
実はあの時、少しだけ私が表に出ていた。その刀で本当に殺していたら…私はもう、貴女を手に掛けていたのかもしれない。でも、その心配はもう要らなくなった。生きているから。
でもその刀は、誰かを守る為に振るって欲しかった…なんてね。
温泉に入った後にちょっと問題が起きちゃった、痴漢者トーマスさん。
根は良い人なんだろうなと思うけれど、メイはあれから暫く上の空になってたみたい。えっと、うん…メイにとっては、ハジメテの出来事だったからだね。私は、偽の姿だったから許せたけれど。痴漢はもう、やめてね?
綺麗な雪像が並ぶ場所で出会ったのは、まにょさん。
ホッカイロを受け取った時、私は本当に暖かくなれた。心の内から、氷に包まれた気持が本当に溶けていった。でも、一緒にお茶を飲める日は、もう無いみたい…ごめんなさい。でも、貴女から受け取ったカイロは、今使っているよ。やっぱり、暖かいんだね。
…結局、あの人は逢えたのかな。ううん、逢わずに済んだのかな…。
短い時間にメイが会ってきた人達は皆、私のクラスメイト。メイも気付いていたけれど、それがどんな人達なのか、メイは知らない。
それはつまり、メイが例えどんな情報を手に入れたとしても、それを活用出来る術が無いことになる。
私がこのゲームに勝てる可能性は、最初からなかった。
だから、私はもう生きていけない事を知っていた。この決意をしなかったとしても、きっと誰かが私を殺し、生き延びたとしてもそれは私じゃ無くなっている。
"私"という存在は、消えてなくなるんだ。
なら、私の命が"私"である内に消えよう。
こうして、私は最後の舞台に辿り着いた。
SCT…スノー・カントリー・タワー、その展望台。
雪国を見渡してみると、既に不思議な光景が広がっていた。
雪はしんしんと降っているのに、その地面は紅く燃え上がっている。今も響く爆発音が、この世界の終わりを告げている。
今生きている人達は、きっとこの死の炎から逃げているのだろう。いや、中には逃げない人も居るかもしれない。そうしたら、メイは人を殺した事になるのだろう。メイは私が作った存在、私でもある。
結局、私も殺人鬼なのかな。
雪国でこんなに赤い光景が見られるとは思ってもいなかった。でも、メイはどうしてこんな事をしたのか…今の私には解る。
"私"を広めたかった。
───と、いうのもきっと建前。
このふざけたゲームに、本気で腹を立てていたんだと思う。
メイは、この世界が初めて見た景色だった。私の身体を使えるようになって、希望で満ち溢れていた筈だった。
でも、ルールを見ただけで、全てを察してしまった。だから、メイは"メイ"でありながら、狂ってしまった。
挙句の果てに、爆破テロ。
意味なんて無いのは、メイだって知っている筈なのに。
そして私の知識を無駄に活用する所が、最後までメイらしいとしか言えなかった。
あの時に見た銀世界は、既に炎の海へと姿を変えていた。
建物の倒壊も始まっている。
うん。
そろそろ、タイムリミット。
コロパッドを開き、死亡した人数を数えている内に…私はある事に気付いた。
いや、忘れていた。
一番忘れてはならない存在。
私を孤独から救ってくれた、私の大切な人。
その人も、私と同じように影が薄い。初めこそは、私とその人はクラスの中でもモブキャラだった。
だから、なのだろうか。
その人に初めて声をかけた。
すると、その人が私に笑ってくれた。
その人はそれからも、私とお話してくれた。
これが現実で起きていること。
それが嬉しくて。
とても嬉しくて。
だから私は初めて、恋を知ったんだ。
その人と付き合い始めると、私の空っぽだったグラスに、溢れるような甘い想いが注がれていく。その実感が間違いなくあった。
それからの私は、皆に存在を認められるようになった。学園祭でも、私が皆の衣装を全て繕った。
クラスメイトが私を認めてくれたのは…全て、その人のお陰。
そしてその人が輝いていたのは、舞台の上だった。付き合ってからは全ての舞台を見てきたけれど、その人が演じるキャラクターは、どれも命が籠っていて…その時だけは別人にしか思えない。
凄かった。
あれが、あれこそが、魂の演技なんだって。
心を別に作ってしまった私とは違って、役を本当に作り、そしてそれを物語になぞっていく。これが出来ていれば、今までの私は孤独ではなかったのかもしれない。
それに…いや、だからこそ。
私は見るまで解らなかった。
彼女が自分の皮を剥がした瞬間を、瓶を仕掛ける途中に見てしまった。
それを信じられなかったと同時に、納得する私が居た。
その人はいつも、妹の事を語ってくれた。今まで感じていた既視感は、恐らくその妹の事を考えてしまったから…なのだと思う。
その人が一番愛しているのは…妹なんだ。
もし、その人と私が本当に、強く結ばれていたとしたら…私は、その人がこの世界で誰だったのか、気付くことが出来たかもしれない。
或いは、その人が直ぐに気づいて私に話しかけてきたかもしれない。
でも、そんなことは無かった。
………。
そうか、そうだったんだ。
きっと、最愛だったのは、私じゃなかったんだね。
それなら…
「良かった……。」
1つ、涙が落ちる。
どうしてだろう。
私は今、物凄く暖かい。
炎が上がっているから?
…うん、そうかもしれない。
また1つ、涙が落ちる。
でも、違うと私は信じる。
だって、本当に嬉しいから。
その人が私の事を愛していなければ、私は楽になれる。私はここで命を絶つのだから。
もし、ここで私の気持ちを聴いてくれるなら。
嘘を吐き、人を騙し、生き延びる為に他人を犠牲にする…そんなゲームの中で、この気持ちを許してくれるだろうか。
「これが……"失恋"。」
更に1つ、涙が落ちる。
ああ、私はなんて自己中心なんだろう。
最後まで、私は弱い人間だった。
孤独の私を嫌い、もう1人の私であるメイを作った。そしてメイを閉じ込めても尚、その人に頼り続けていたのだから。
そして最後まで、私は醜い人間だった。
メイに縋り続けたにも関わらず、いきなり閉じ込めて無視を続けてきた。そしてその人は浮気をした訳でもないのに、ここで失恋と決めつけてしまったから。
……1つ、涙が落ちる。
ごめんなさい。
最後まで身勝手で、本当にごめんなさい。
でも、今の私には、
「これしか、できないから。」
最後の仕事をしよう。
包帯少女から、包帯を取る。
それは、メイとの本当のお別れ。
そして、私の命とのお別れ。
私に巻き付いていた全ての包帯を周囲にばら撒き、私は…最後の火を点ける。
あっという間に、私の周りは燃え広がった。
でも、結局怖がりな私はその炎に足を突っ込む勇気はない。だから空調を閉じておいた。そうすれば私は何れ、中毒で命を失う。
用の無くなったコロパッドも手から離し、あとは壁に背中を預けて、瞼を閉じる。
…これで、私の仕事は終わり。
後は時間が、世界を終わりへと導いてくれる筈。
この世界に終止符を。
私が打ってよかったのだろうか。
きっと私の知らないところで、物語は進んでいる。
それも、こんな絶望に塗れたゲームで、ひと握りの幸せを掴んでいるような…そんな物語が広がっているのかもしれない。
それを炎で包んでしまった私は、恐ろしく愚かだろう。
恐ろしく醜いだろう。
自分自身を恐ろしく憎むだろう。
そうして、全ては私を嫌う。
世界から私を隔離する。
そうして、"私"はなかったことになる。
でも、構わない。
私にはお似合いなのだから。
だって、私は孤独そのもの。
人に話しかける資格はない。
人と繋がる資格もない。
恋人なんて、以ての外。
……そうだよ。
生まれた時から、
『白鳥になれない、みにくいアヒルの子なんだから。』
でも、そんなアヒルの子に
あと一つ言葉を紡げる価値があるのなら
神様、お願いがあります
最後の私の我儘を聞いてください
最後に、もう一度告白させてください
ありがとう
大丈夫
これで、おしまい
私は終わりの時も
孤独で
初めて出逢ったその人に
初めてサヨナラを告げる
「ありがとう
エムちゃん
私の最愛の彼氏────。
……
…………
………………
さいごくらいは
えがおでもゆるしてくれるよね?
たったそれだけ。
天涯孤独。
それだけだった私の全てを知っていて、私の一生を殆ど理解している。少女は私の内に存在しながらも、常に私とは別の口調で、別の性格で…別の存在だった。
しかし、私はある時、急に少女を閉じ込めた。
此方がどれだけ外へのドアを叩いても、私は開けてくれない。どれだけ声を荒らげても、私は反応してくれない。
孤独。
嘗て私を孤独から救った少女が、初めて心の中に現れた瞬間だった。
サミシイ。
そうか、そうだったのか。
少女にも、この気持ちを理解して欲しかったんだ。少女はそう考える事にした。
そして訪れたのは、この世界。
私が閉ざした扉の鍵が弛んだこの期に抜け出し、私の偽の身体を使い。この世界へと溶け込む事にした。
目的は只一つ。
私という存在を広める為。
という訳で、最期に素晴らしいステージを用意する事にした。工場や店などで手に入れた物を組み合わせて作ったお薬。
硝酸カリウム爆薬。
学校で実験をする際にも、細心の注意を入れてする必要のある、とても危険な素材。私は、その知識を知っていた。少女がそれを手に入れ、今の状況を理解した上で、やる事は既に決まった。
この世界に爆破テロを仕掛ける。
随分と苦労した。私の知識が豊富とはいえ、少女に出来ることはこの世界からそれを創り出す必要がある。
素材を集め、火薬の詰まった瓶を増やし、そしてあちこちの建物にそれを仕掛ける。
バレることは無い。幸いにも、少女が手に入れた力は隠密行動に適していた。瓶も小さく、且つ物の影などにそれを仕掛けている。それに、仕掛けを始めたのは今から数時間前の事。短ければ、それこそ見つかる可能性はぐんと下がる訳だ。
そうして完成した私のステージ。
長い長い包帯で結ばれた、炎へと繋ぐ道のスタートに、少女は立っている。
ライターを持って。
白い導火線に、灯りを点けて。
それは、"終着駅"へと進み始める。
さて、そろそろ少女も、去るとしようか。
手に持ったフルーツナイフを喉に突き刺そうとして。
その手前で、少女は再び扉の奥へと閉じ込められた。
─────────
カタン──と。
フルーツナイフの落ちる音。
ごめんね、"メイ"。
ここからは、私でいさせて欲しい。
……少しだけ、私の過去について。
ずっと孤独だった私が逃げ出した先は、自分で作り出した、心の中の別人。一年ほど前まで、私はずっと貴女に縋ってきた。
小学校も中学校も、時間があればずっと勉強して、本を読んで…家に帰ったら、貴女とお話して…壊れかけだった私を、ずっと支えてくれた。夢の中では、貴女といっぱい遊んだ。夢の多くは起きた時に忘れると言うけれど、私は貴女と過ごした全てを覚えている。
でも、学園生活の2年目で、私の心は大きく変わった。だから、貴女を閉じ込めた。私が作っておきながら、本当に酷いことをしたと思う。でも、この世界に来るまで…すごく楽しかった。私の居場所もクラスの中にできて、ようやく私は幸せを掴んだ。
でも、そんな幸せ日々もとっくに終わっていたんだと思うと…とても悲しい。
私はきっと、このゲームを恨んでいる。
そしてきっと、このゲームに感謝している。
だから、ここにいる人達とのお話を…
私はきっと、忘れない。
この世界で最初に会ったのは、海月さん。
メイがいきなり肘を決めてしまったのは、ここで私が謝っておくね…ごめんなさい。
次に会う時は、私が話したかったかな。そしたら、海月さんはどう反応を見せてくれるんだろう。ううん、きっと…変わらないんでしょうね。
メイがこのテロに走る原因になってしまった工場、そこに居たのはトロンパさん。
私が見てきた中では、かなりまともな方だったと思う。メイがお薬と称して渡した爆薬にも引いていたからね。
何回か死亡通知が来ていたけれど、あれは結局どんなトリックだったんだろう。生きている内に聞いておきたかったかな。
ショッピングモールでも道具集めをしてる時に出会った人、唐揚げ食べたいさん。
面白い名前に、面白い口調。メイは意味不明すぎて考えることをやめちゃったみたいだけど、私は好きだったよ。でも、そんなキャラをしてる程、裏も深そうで、私には踏み込める勇気は無い…かな。
あ、唐揚げ…私は大好きだよ。
最初は温泉で一緒にぬくぬくしたよね、あいごころ。ちゃん。
メイは、一番大変だったのかな。二度も泣かせちゃって…結局、私が出ることにしたんだから。それに、メイは私を感づかれない為に、自分に空っぽの嘘をついていた。それを破ったのもあの子だから、きっと私がこうしてまた表に出ているのは、こころちゃんのお陰だと思ってる。
あの子もきっと、裏は深い。
でも、度々見せてくれた笑顔を、私は信じているよ。信じる根拠?クレープのクリームがついた顔で、いいかな?
海が見える場所で出会ったのは、こころちゃんともう1人…マリアさん。
全く読めない…メイはそう嘆いていたかな。
でも、私は何となく解る気がする。彼女は…とても強い。彼女なら、この狂ったゲームをひっくり返してくれる…そう信じていた。
まあ、嘘かもしれないけど。
……私には、こんな台詞は似合わないね。
すっかり温泉に取り憑かれちゃったメイと出会ったのは、ヒガンバナさん。
実はあの時、少しだけ私が表に出ていた。その刀で本当に殺していたら…私はもう、貴女を手に掛けていたのかもしれない。でも、その心配はもう要らなくなった。生きているから。
でもその刀は、誰かを守る為に振るって欲しかった…なんてね。
温泉に入った後にちょっと問題が起きちゃった、痴漢者トーマスさん。
根は良い人なんだろうなと思うけれど、メイはあれから暫く上の空になってたみたい。えっと、うん…メイにとっては、ハジメテの出来事だったからだね。私は、偽の姿だったから許せたけれど。痴漢はもう、やめてね?
綺麗な雪像が並ぶ場所で出会ったのは、まにょさん。
ホッカイロを受け取った時、私は本当に暖かくなれた。心の内から、氷に包まれた気持が本当に溶けていった。でも、一緒にお茶を飲める日は、もう無いみたい…ごめんなさい。でも、貴女から受け取ったカイロは、今使っているよ。やっぱり、暖かいんだね。
…結局、あの人は逢えたのかな。ううん、逢わずに済んだのかな…。
短い時間にメイが会ってきた人達は皆、私のクラスメイト。メイも気付いていたけれど、それがどんな人達なのか、メイは知らない。
それはつまり、メイが例えどんな情報を手に入れたとしても、それを活用出来る術が無いことになる。
私がこのゲームに勝てる可能性は、最初からなかった。
だから、私はもう生きていけない事を知っていた。この決意をしなかったとしても、きっと誰かが私を殺し、生き延びたとしてもそれは私じゃ無くなっている。
"私"という存在は、消えてなくなるんだ。
なら、私の命が"私"である内に消えよう。
こうして、私は最後の舞台に辿り着いた。
SCT…スノー・カントリー・タワー、その展望台。
雪国を見渡してみると、既に不思議な光景が広がっていた。
雪はしんしんと降っているのに、その地面は紅く燃え上がっている。今も響く爆発音が、この世界の終わりを告げている。
今生きている人達は、きっとこの死の炎から逃げているのだろう。いや、中には逃げない人も居るかもしれない。そうしたら、メイは人を殺した事になるのだろう。メイは私が作った存在、私でもある。
結局、私も殺人鬼なのかな。
雪国でこんなに赤い光景が見られるとは思ってもいなかった。でも、メイはどうしてこんな事をしたのか…今の私には解る。
"私"を広めたかった。
───と、いうのもきっと建前。
このふざけたゲームに、本気で腹を立てていたんだと思う。
メイは、この世界が初めて見た景色だった。私の身体を使えるようになって、希望で満ち溢れていた筈だった。
でも、ルールを見ただけで、全てを察してしまった。だから、メイは"メイ"でありながら、狂ってしまった。
挙句の果てに、爆破テロ。
意味なんて無いのは、メイだって知っている筈なのに。
そして私の知識を無駄に活用する所が、最後までメイらしいとしか言えなかった。
あの時に見た銀世界は、既に炎の海へと姿を変えていた。
建物の倒壊も始まっている。
うん。
そろそろ、タイムリミット。
コロパッドを開き、死亡した人数を数えている内に…私はある事に気付いた。
いや、忘れていた。
一番忘れてはならない存在。
私を孤独から救ってくれた、私の大切な人。
その人も、私と同じように影が薄い。初めこそは、私とその人はクラスの中でもモブキャラだった。
だから、なのだろうか。
その人に初めて声をかけた。
すると、その人が私に笑ってくれた。
その人はそれからも、私とお話してくれた。
これが現実で起きていること。
それが嬉しくて。
とても嬉しくて。
だから私は初めて、恋を知ったんだ。
その人と付き合い始めると、私の空っぽだったグラスに、溢れるような甘い想いが注がれていく。その実感が間違いなくあった。
それからの私は、皆に存在を認められるようになった。学園祭でも、私が皆の衣装を全て繕った。
クラスメイトが私を認めてくれたのは…全て、その人のお陰。
そしてその人が輝いていたのは、舞台の上だった。付き合ってからは全ての舞台を見てきたけれど、その人が演じるキャラクターは、どれも命が籠っていて…その時だけは別人にしか思えない。
凄かった。
あれが、あれこそが、魂の演技なんだって。
心を別に作ってしまった私とは違って、役を本当に作り、そしてそれを物語になぞっていく。これが出来ていれば、今までの私は孤独ではなかったのかもしれない。
それに…いや、だからこそ。
私は見るまで解らなかった。
彼女が自分の皮を剥がした瞬間を、瓶を仕掛ける途中に見てしまった。
それを信じられなかったと同時に、納得する私が居た。
その人はいつも、妹の事を語ってくれた。今まで感じていた既視感は、恐らくその妹の事を考えてしまったから…なのだと思う。
その人が一番愛しているのは…妹なんだ。
もし、その人と私が本当に、強く結ばれていたとしたら…私は、その人がこの世界で誰だったのか、気付くことが出来たかもしれない。
或いは、その人が直ぐに気づいて私に話しかけてきたかもしれない。
でも、そんなことは無かった。
………。
そうか、そうだったんだ。
きっと、最愛だったのは、私じゃなかったんだね。
それなら…
「良かった……。」
1つ、涙が落ちる。
どうしてだろう。
私は今、物凄く暖かい。
炎が上がっているから?
…うん、そうかもしれない。
また1つ、涙が落ちる。
でも、違うと私は信じる。
だって、本当に嬉しいから。
その人が私の事を愛していなければ、私は楽になれる。私はここで命を絶つのだから。
もし、ここで私の気持ちを聴いてくれるなら。
嘘を吐き、人を騙し、生き延びる為に他人を犠牲にする…そんなゲームの中で、この気持ちを許してくれるだろうか。
「これが……"失恋"。」
更に1つ、涙が落ちる。
ああ、私はなんて自己中心なんだろう。
最後まで、私は弱い人間だった。
孤独の私を嫌い、もう1人の私であるメイを作った。そしてメイを閉じ込めても尚、その人に頼り続けていたのだから。
そして最後まで、私は醜い人間だった。
メイに縋り続けたにも関わらず、いきなり閉じ込めて無視を続けてきた。そしてその人は浮気をした訳でもないのに、ここで失恋と決めつけてしまったから。
……1つ、涙が落ちる。
ごめんなさい。
最後まで身勝手で、本当にごめんなさい。
でも、今の私には、
「これしか、できないから。」
最後の仕事をしよう。
包帯少女から、包帯を取る。
それは、メイとの本当のお別れ。
そして、私の命とのお別れ。
私に巻き付いていた全ての包帯を周囲にばら撒き、私は…最後の火を点ける。
あっという間に、私の周りは燃え広がった。
でも、結局怖がりな私はその炎に足を突っ込む勇気はない。だから空調を閉じておいた。そうすれば私は何れ、中毒で命を失う。
用の無くなったコロパッドも手から離し、あとは壁に背中を預けて、瞼を閉じる。
…これで、私の仕事は終わり。
後は時間が、世界を終わりへと導いてくれる筈。
この世界に終止符を。
私が打ってよかったのだろうか。
きっと私の知らないところで、物語は進んでいる。
それも、こんな絶望に塗れたゲームで、ひと握りの幸せを掴んでいるような…そんな物語が広がっているのかもしれない。
それを炎で包んでしまった私は、恐ろしく愚かだろう。
恐ろしく醜いだろう。
自分自身を恐ろしく憎むだろう。
そうして、全ては私を嫌う。
世界から私を隔離する。
そうして、"私"はなかったことになる。
でも、構わない。
私にはお似合いなのだから。
だって、私は孤独そのもの。
人に話しかける資格はない。
人と繋がる資格もない。
恋人なんて、以ての外。
……そうだよ。
生まれた時から、
『白鳥になれない、みにくいアヒルの子なんだから。』
でも、そんなアヒルの子に
あと一つ言葉を紡げる価値があるのなら
神様、お願いがあります
最後の私の我儘を聞いてください
最後に、もう一度告白させてください
ありがとう
大丈夫
これで、おしまい
私は終わりの時も
孤独で
初めて出逢ったその人に
初めてサヨナラを告げる
「ありがとう
エムちゃん
私の最愛の彼氏────。
……
…………
………………
さいごくらいは
えがおでもゆるしてくれるよね?
走る。走る。頼りを求めて。たった一つの可能性を求めて。
その時。
「…っ!なに、これ。」
炎が、巡る。そこはまさに地獄絵図とかしていた。一体何故こんなことに…
『Azothの勝利だ!!』
その言葉が頭のなかで反芻した。…今、こころにできることを。そう思って、また走る…?
…それは小さな違和感だった。ただ、確かに無視できない違和感でもあった。
……タワーは、なぜ燃えていない?
上から炎を撒いたのであればタワーはむしろ最初に燃えてもおかしくない。実際タワーの周りは目も当てられないほど赤く燃え盛っているのだから。…なら、何故?
「……」
ああ、これは。嫌な予感、というやつだ。まるで、誰かの意思があってやられているような。…周りは炎で燃え盛っているが。こころはセレスティア。そこまでヤワな身体じゃない。…なら、行けるだろうか?
「……っ!」
…向きを変えて、走り出す。一直線に。ただ、愚直に。そこにいるであろう誰かを探して。
「…はぁ、はぁ!」
体が熱い。…肺が焼けるようだ。でも、まだ生きていれる。
「…っ、ああ!消化器!」
キャンプ場の外に放置されていた火を消すための消化器。…きっと、必要になるはず。そこにいる誰かを助けるためには。
「……はぁ、はぁ!」
走れ。足を止めるな。自分は“無意味”だ。なら、どうなってもいいだろう?そしてそこに意味を求めるのなら。…誰かを助けてみても、いいだろう?
「あああああ!邪魔だァァァァァあ!」
目の前に広がる赤に、咆哮。それは叫びなんて生ぬるいものじゃない。そこに無意味出ない何かがあるのであれば。こころの、動く理由にはなる。それは確かに、無価値なんかじゃないらしい。
消化器をぶっ掛けて無い道を作る。そして、件のタワーへと。
そしてその咆哮はきっと、その誰かにも聞こえたはずで。
その時。
「…っ!なに、これ。」
炎が、巡る。そこはまさに地獄絵図とかしていた。一体何故こんなことに…
『Azothの勝利だ!!』
その言葉が頭のなかで反芻した。…今、こころにできることを。そう思って、また走る…?
…それは小さな違和感だった。ただ、確かに無視できない違和感でもあった。
……タワーは、なぜ燃えていない?
上から炎を撒いたのであればタワーはむしろ最初に燃えてもおかしくない。実際タワーの周りは目も当てられないほど赤く燃え盛っているのだから。…なら、何故?
「……」
ああ、これは。嫌な予感、というやつだ。まるで、誰かの意思があってやられているような。…周りは炎で燃え盛っているが。こころはセレスティア。そこまでヤワな身体じゃない。…なら、行けるだろうか?
「……っ!」
…向きを変えて、走り出す。一直線に。ただ、愚直に。そこにいるであろう誰かを探して。
「…はぁ、はぁ!」
体が熱い。…肺が焼けるようだ。でも、まだ生きていれる。
「…っ、ああ!消化器!」
キャンプ場の外に放置されていた火を消すための消化器。…きっと、必要になるはず。そこにいる誰かを助けるためには。
「……はぁ、はぁ!」
走れ。足を止めるな。自分は“無意味”だ。なら、どうなってもいいだろう?そしてそこに意味を求めるのなら。…誰かを助けてみても、いいだろう?
「あああああ!邪魔だァァァァァあ!」
目の前に広がる赤に、咆哮。それは叫びなんて生ぬるいものじゃない。そこに無意味出ない何かがあるのであれば。こころの、動く理由にはなる。それは確かに、無価値なんかじゃないらしい。
消化器をぶっ掛けて無い道を作る。そして、件のタワーへと。
そしてその咆哮はきっと、その誰かにも聞こえたはずで。
『全く……世話が焼けるぜ。
詐欺師にスペクタクルは似合わないんだけれど。』
展望台。
あれが原因だというのは、見た目の異様さから概ね理解可能だった。まあそりゃあそうだ。
あれだけ、燃え方が違う。
タワー、か。
実は、高所恐怖症だったりするんだぜ、私は。
けどまあ――――――――
確か、なんだったか。
友達なら、やるんだよな。
友達の手助け位。
疾走。
肺がパンクしそうになりながらも、火炎を縫うように雪を踏みしめ駆け抜ける。
スーツが焦げた。
革靴の中で足が擦り切れた。
くそ。
最悪、だが――――……
折角私が世話をかけた奴だ。
また泣かれても癪だからな。
どんだけ騒いでるんだよお前。
だが、起きたことはわかったぜ。
なんて笑って、私は先に着いたのが功を奏し、扉をぶち破る。
荒事、力技は得意だしな。
中が燃えている可能性もある。
というか、それが濃厚だ。
じゃないなら、こんな焦げ臭いわけもない。
『まあ、最後は任せるわ。
―――――貴方が決めなさい。
私には柄じゃないのよね。
大体、最初からさ。』
空調を再起動。
防火設備の起動。
一酸化炭素が一番やばい、と聞いていた素人考えでは、どちらかと言ったら、空調を最優先したい。
外部から、というか。
あそこまでデカブツなら、機関室が何かしらあるだろう。
まあ、一石二鳥だ。
行ってこい。
そして。
言ってこい。
と、私はほくそ笑み。
裏方に回った。
詐欺師にスペクタクルは似合わないんだけれど。』
展望台。
あれが原因だというのは、見た目の異様さから概ね理解可能だった。まあそりゃあそうだ。
あれだけ、燃え方が違う。
タワー、か。
実は、高所恐怖症だったりするんだぜ、私は。
けどまあ――――――――
確か、なんだったか。
友達なら、やるんだよな。
友達の手助け位。
疾走。
肺がパンクしそうになりながらも、火炎を縫うように雪を踏みしめ駆け抜ける。
スーツが焦げた。
革靴の中で足が擦り切れた。
くそ。
最悪、だが――――……
折角私が世話をかけた奴だ。
また泣かれても癪だからな。
どんだけ騒いでるんだよお前。
だが、起きたことはわかったぜ。
なんて笑って、私は先に着いたのが功を奏し、扉をぶち破る。
荒事、力技は得意だしな。
中が燃えている可能性もある。
というか、それが濃厚だ。
じゃないなら、こんな焦げ臭いわけもない。
『まあ、最後は任せるわ。
―――――貴方が決めなさい。
私には柄じゃないのよね。
大体、最初からさ。』
空調を再起動。
防火設備の起動。
一酸化炭素が一番やばい、と聞いていた素人考えでは、どちらかと言ったら、空調を最優先したい。
外部から、というか。
あそこまでデカブツなら、機関室が何かしらあるだろう。
まあ、一石二鳥だ。
行ってこい。
そして。
言ってこい。
と、私はほくそ笑み。
裏方に回った。
「…!」
消化器を使ってタワーのそばへ。…?思ったより燃えていない…?
「…案外、お人好しもいるものだね。」
スプリンクラーの作動。どうやらこの様子だと…誰かがやってくれたみたい。着物の袖で口元を覆い、タワーの中へと。…ああ、やっぱ暑いね。いや、熱いのかな?
「…けほ、」
煙が充満した展望台。ただ、そこにいる誰かのために階段を駆ける。…まだ、DEAD ENDのアナウンスがない。なら、終わっちゃいないんでしょう?
駆ける。走る。転んでもまた、立ち上がって。誰かのために必死こいて命を削る。あーあ、折角帰れてもこころ死んじゃうかなって。…でも、今だけはそれでいい。ただ。
救えるのなら、救いたいと思う。それが、エゴでしょ?
そうして走った。…ああ、袖が焦げてる。足も痛い…血が出てるかも。でも、それでも。
「…ああああああああぁぁぁ!」
咆哮は鳴り止まない。そのその声が届くかのように。願いがかなったかのように。
…展望台の、最上部へ。
そして、人影を見る。…ああ、なんだ。あなただったんだね。その姿は見たことあるよ。…なんて声をかけようか、なんてのは簡単。
さあ、事実を単純に、直結に。そして、“素直”に伝えようじゃないか。
いつもみたいにニッコリ笑ってさ。
「助けに来たよ、フェルナお姉ちゃん。」
…息は、楽だ。どうやら誰かさんが換気すらもやってくれたようで。
消化器を使ってタワーのそばへ。…?思ったより燃えていない…?
「…案外、お人好しもいるものだね。」
スプリンクラーの作動。どうやらこの様子だと…誰かがやってくれたみたい。着物の袖で口元を覆い、タワーの中へと。…ああ、やっぱ暑いね。いや、熱いのかな?
「…けほ、」
煙が充満した展望台。ただ、そこにいる誰かのために階段を駆ける。…まだ、DEAD ENDのアナウンスがない。なら、終わっちゃいないんでしょう?
駆ける。走る。転んでもまた、立ち上がって。誰かのために必死こいて命を削る。あーあ、折角帰れてもこころ死んじゃうかなって。…でも、今だけはそれでいい。ただ。
救えるのなら、救いたいと思う。それが、エゴでしょ?
そうして走った。…ああ、袖が焦げてる。足も痛い…血が出てるかも。でも、それでも。
「…ああああああああぁぁぁ!」
咆哮は鳴り止まない。そのその声が届くかのように。願いがかなったかのように。
…展望台の、最上部へ。
そして、人影を見る。…ああ、なんだ。あなただったんだね。その姿は見たことあるよ。…なんて声をかけようか、なんてのは簡単。
さあ、事実を単純に、直結に。そして、“素直”に伝えようじゃないか。
いつもみたいにニッコリ笑ってさ。
「助けに来たよ、フェルナお姉ちゃん。」
…息は、楽だ。どうやら誰かさんが換気すらもやってくれたようで。
『……案外、バカも居るのね。』
わざわざ火災をぶち抜き、他人を助けに行く馬鹿もいたなら。
それに本気で乗る馬鹿も、居たりしたという事だ。
間に合っただろう。あの叫び声のタイミングから察するに。
くそう。
走り過ぎて喉から血が出たぜ。
血を吐きながら続ける悲しいマラソンって話か。
慣れないことはすべきじゃない。
実は、タワーには登ったことがある。6thと会った時である。
まさか、その時、概ねの部屋の位置を覚えていたりしたのが、役に立つとは思わなかったんだがな。
これだけは奴に感謝しよう。
『助けて来いよ、無意味にね。』
と、私は激励し。
――――嘘かもしれないぜ。
とは言わず、何か言われる前に消えておくことにした。
人助けなど、嘘にすべきだ。
私は恩を押し売りするほど、さもしい詐欺師ではない。
わざわざ火災をぶち抜き、他人を助けに行く馬鹿もいたなら。
それに本気で乗る馬鹿も、居たりしたという事だ。
間に合っただろう。あの叫び声のタイミングから察するに。
くそう。
走り過ぎて喉から血が出たぜ。
血を吐きながら続ける悲しいマラソンって話か。
慣れないことはすべきじゃない。
実は、タワーには登ったことがある。6thと会った時である。
まさか、その時、概ねの部屋の位置を覚えていたりしたのが、役に立つとは思わなかったんだがな。
これだけは奴に感謝しよう。
『助けて来いよ、無意味にね。』
と、私は激励し。
――――嘘かもしれないぜ。
とは言わず、何か言われる前に消えておくことにした。
人助けなど、嘘にすべきだ。
私は恩を押し売りするほど、さもしい詐欺師ではない。
熱い。
でも、熱くない。
「ゴホッ……。」
煙が鼻を、口を通り、喉を、肺を壊していく。
でも、苦しくない。
だって、もう後悔なんてないから。
その、筈なのに。
「……………ッ!?」
初め、私は幻を見たと思った。
でも、違う。
間違いなくあれは…。
「……ここ、ろ…ちゃん…………?」
どうして。
どうしてきたの。
どうしてこんな炎の中に来てしまったの。
生きているなら炎から逃げれば良いのに、それをしない子が目の前にいる。
後で気付いたことだが、私がこの方法で命を落とすには、結構な時間を要する。
中毒しやすい気体の一酸化炭素は、酸素より軽く、上に溜まる。展望台のような広い密室では、どちらかというと他の不純物で肺を圧迫する。だから、まだ死ねなかった。
でも…。
それでも…。
「はやく……逃、げて………。」
こころちゃんがここで死ぬ理由は、無いんだから。
でも、熱くない。
「ゴホッ……。」
煙が鼻を、口を通り、喉を、肺を壊していく。
でも、苦しくない。
だって、もう後悔なんてないから。
その、筈なのに。
「……………ッ!?」
初め、私は幻を見たと思った。
でも、違う。
間違いなくあれは…。
「……ここ、ろ…ちゃん…………?」
どうして。
どうしてきたの。
どうしてこんな炎の中に来てしまったの。
生きているなら炎から逃げれば良いのに、それをしない子が目の前にいる。
後で気付いたことだが、私がこの方法で命を落とすには、結構な時間を要する。
中毒しやすい気体の一酸化炭素は、酸素より軽く、上に溜まる。展望台のような広い密室では、どちらかというと他の不純物で肺を圧迫する。だから、まだ死ねなかった。
でも…。
それでも…。
「はやく……逃、げて………。」
こころちゃんがここで死ぬ理由は、無いんだから。
「……そうだねぇ。」
さぁ、前座は過ぎた。一言で言うなら助けた、だけで済む行為。だけど、ここは大袈裟に言ってみようか。
一世一代の大救出劇はここからが本番だ。
「こころ、死にそうな人に逃げて、なんて言われて逃げるほど、薄情な人間じゃないんだぁ。」
そういってニッコリと笑って。フェルナお姉ちゃんに近づいていく。…ああ、ここにずっと居るのも危険かな。
さて、始めようか。
…合図は簡単。このお人好しが降らせた雨が止んだら、だ。
「だから、ね?」
歩み寄っていく。1歩ずつ着実に。その、意味を確かめるように。
「…逃げるなら、あなたも一緒。じゃないとね?」
狐面を触る。…いいや、これはうちに潜んだ化け狐かもしれないね。
なら、問題ない。面はなくても皮なら被れる。詐欺師みたい、なんて皮じゃない。本心をぶつけるための、大切な工程のひとつ。さあ。合図を鳴らせ。
今、そのための雨が、止んだ。
さぁ、前座は過ぎた。一言で言うなら助けた、だけで済む行為。だけど、ここは大袈裟に言ってみようか。
一世一代の大救出劇はここからが本番だ。
「こころ、死にそうな人に逃げて、なんて言われて逃げるほど、薄情な人間じゃないんだぁ。」
そういってニッコリと笑って。フェルナお姉ちゃんに近づいていく。…ああ、ここにずっと居るのも危険かな。
さて、始めようか。
…合図は簡単。このお人好しが降らせた雨が止んだら、だ。
「だから、ね?」
歩み寄っていく。1歩ずつ着実に。その、意味を確かめるように。
「…逃げるなら、あなたも一緒。じゃないとね?」
狐面を触る。…いいや、これはうちに潜んだ化け狐かもしれないね。
なら、問題ない。面はなくても皮なら被れる。詐欺師みたい、なんて皮じゃない。本心をぶつけるための、大切な工程のひとつ。さあ。合図を鳴らせ。
今、そのための雨が、止んだ。
『あーあー……全く、随分と派手に燃やしてくれたものだね……。
…………何処の誰かは知らないけどさ…。』
……崩れ去る、この雪山の世界で。
白い海原は赤く染まりつつあった。
何故かって?
何処かの誰かが、大規模なテロでも起こしてくれちゃったからね。
なんとも……後味の悪い勝利さ。
…………けど、この地を消すという考え方は…些か嫌いじゃないよ。
……なーんて、思った自分が馬鹿みたいじゃないか?
タワーに向かって行ったのは……その当事者の知り合い……と、判断して良いのかな?
……あぁ、あいごころか…。
…………まあ…君なら大丈夫だろうね。
行ってこいよ、それが正しい道ならさ。
それと…もう一人。
……見えた、けど、まあ……私はそれを避ける事しか出来ないね。
けどね……出来ることも、有るんだよ。
『…………はぁ…世話の焼ける……。』
余計な事かも知れないけどさ……。
もしもを考えて、これを伝えておこうか。
……なんて、思ったさ。
けどね……あまり干渉すべきではないかも知れないね。
これは、あの子達の問題さ。
種子を撒くのに……土が関わるなんて、御法度だろう?
─────だから、せめて。
………………せめて…これを言ってしまおう。
これがあっての、私なのではないか?
『私は…………ただの土で十分さ。』
これ……赤城の言葉なんだぜ?
せめて、手向けるべき彼奴へ……。
……この、過ぎた悪戯テロ。
───さてさて?
何故人が騒ぎを起こすのか……考えた事はあるかな?
───それはね?
“自分を見てもらいたいから”だよ。
───何故かって?
私もそうだったからだよ。
もう話しても良いだろう。
私は…………これでもレディースの総長だよ?
今回のオチは……まあ、予想だけどさ。
犯人は……多分。
【誰かに振り向いて欲しかった】
……という訳じゃあないかな?
ならさ……少なくとも、誰かを思っているのは変わらないんじゃないかい?
……とはいえ、私には何も出来ないからね。
だから、これを手向けよう。
『……さて、この爆破を起こした見知らぬ君よ。
そんな君には……これを、この花を手向けてあげるよ。』
そんな、君には……この花を。
手向けるは……水仙の花。
色は……そうだね、黄色にしてみようか。
『黄色の水仙の花言葉……。
まずは水仙の共通の花言葉から、にしようか……。』
まずは、普通に、共通の花言葉から。
『水仙は……“うぬぼれ”と、“自己愛”……。
……後は、“報われぬ恋”だね。』
これは…まあ、これだけならただのナルシストだよね。
自分を考え、自分を愛する。
……けどね?
僕は用意したのは……“黄色”の水仙だよ?
これはこれで、意味があるのさ。
その人に合う……花言葉が。
『黄色の水仙の花言葉……。』
今の、あの子に当てはまるのかな?
『それは…………。』
……ねぇ、どう思う?
『“もう一度愛して欲しい”…。
……………と、“私のもとに帰って”、だ。』
……誰かを思う花言葉もあるのさ。
これは、水仙で黄色だけの花言葉……。
愛した誰かに向けて、心の内の思いを馳せる、1人の人間の心情がある。
…………なぁ、見知らぬ君よ…どうなんだ?
『この花が……君に届きますように…。』
黄色の水仙を天に掲げ、私はそう囁く。
その時、火事は強い風を吹き起こす。
そしてその水仙の花は……運が良いか悪いのか……タワーの方へと飛んで行く。
…………きっと、届くだろうね。
『───良いかい?
…………想い人は、離さない事だよ?』
そう言って、また……私は花を探しに行くのさ。
…………何の花が、見つかるか分からないけどね。
…………何処の誰かは知らないけどさ…。』
……崩れ去る、この雪山の世界で。
白い海原は赤く染まりつつあった。
何故かって?
何処かの誰かが、大規模なテロでも起こしてくれちゃったからね。
なんとも……後味の悪い勝利さ。
…………けど、この地を消すという考え方は…些か嫌いじゃないよ。
……なーんて、思った自分が馬鹿みたいじゃないか?
タワーに向かって行ったのは……その当事者の知り合い……と、判断して良いのかな?
……あぁ、あいごころか…。
…………まあ…君なら大丈夫だろうね。
行ってこいよ、それが正しい道ならさ。
それと…もう一人。
……見えた、けど、まあ……私はそれを避ける事しか出来ないね。
けどね……出来ることも、有るんだよ。
『…………はぁ…世話の焼ける……。』
余計な事かも知れないけどさ……。
もしもを考えて、これを伝えておこうか。
……なんて、思ったさ。
けどね……あまり干渉すべきではないかも知れないね。
これは、あの子達の問題さ。
種子を撒くのに……土が関わるなんて、御法度だろう?
─────だから、せめて。
………………せめて…これを言ってしまおう。
これがあっての、私なのではないか?
『私は…………ただの土で十分さ。』
これ……赤城の言葉なんだぜ?
せめて、手向けるべき彼奴へ……。
……この、過ぎた悪戯テロ。
───さてさて?
何故人が騒ぎを起こすのか……考えた事はあるかな?
───それはね?
“自分を見てもらいたいから”だよ。
───何故かって?
私もそうだったからだよ。
もう話しても良いだろう。
私は…………これでもレディースの総長だよ?
今回のオチは……まあ、予想だけどさ。
犯人は……多分。
【誰かに振り向いて欲しかった】
……という訳じゃあないかな?
ならさ……少なくとも、誰かを思っているのは変わらないんじゃないかい?
……とはいえ、私には何も出来ないからね。
だから、これを手向けよう。
『……さて、この爆破を起こした見知らぬ君よ。
そんな君には……これを、この花を手向けてあげるよ。』
そんな、君には……この花を。
手向けるは……水仙の花。
色は……そうだね、黄色にしてみようか。
『黄色の水仙の花言葉……。
まずは水仙の共通の花言葉から、にしようか……。』
まずは、普通に、共通の花言葉から。
『水仙は……“うぬぼれ”と、“自己愛”……。
……後は、“報われぬ恋”だね。』
これは…まあ、これだけならただのナルシストだよね。
自分を考え、自分を愛する。
……けどね?
僕は用意したのは……“黄色”の水仙だよ?
これはこれで、意味があるのさ。
その人に合う……花言葉が。
『黄色の水仙の花言葉……。』
今の、あの子に当てはまるのかな?
『それは…………。』
……ねぇ、どう思う?
『“もう一度愛して欲しい”…。
……………と、“私のもとに帰って”、だ。』
……誰かを思う花言葉もあるのさ。
これは、水仙で黄色だけの花言葉……。
愛した誰かに向けて、心の内の思いを馳せる、1人の人間の心情がある。
…………なぁ、見知らぬ君よ…どうなんだ?
『この花が……君に届きますように…。』
黄色の水仙を天に掲げ、私はそう囁く。
その時、火事は強い風を吹き起こす。
そしてその水仙の花は……運が良いか悪いのか……タワーの方へと飛んで行く。
…………きっと、届くだろうね。
『───良いかい?
…………想い人は、離さない事だよ?』
そう言って、また……私は花を探しに行くのさ。
…………何の花が、見つかるか分からないけどね。
………………………え……………?
今、こころちゃんはなんて言った?
逃げるなら一緒?
私と、貴方が…?
「………………………やめて。」
やめて。
やめてやめてやめて。
私に、希望を見出さないで。
「早く行って……私は、孤独でなくてはいけないの……1人に…してよ…。」
きっと、私はひどい顔をしているでしょう。
こんなに熱いのに、苦しいのに。
私の顔はきっと、吹雪の中にいるように、その寒さに凍えている。
今、こころちゃんはなんて言った?
逃げるなら一緒?
私と、貴方が…?
「………………………やめて。」
やめて。
やめてやめてやめて。
私に、希望を見出さないで。
「早く行って……私は、孤独でなくてはいけないの……1人に…してよ…。」
きっと、私はひどい顔をしているでしょう。
こんなに熱いのに、苦しいのに。
私の顔はきっと、吹雪の中にいるように、その寒さに凍えている。
「へぇ。孤独じゃないといけない、ね。」
さあ、皮を被れ。ここからはこころのターン。制限時間は2人が死ぬまで。実にわかり易いじゃないか。
「孤独ってのは寂しいもんね。全てを失ってしまったあとに残るものだもん。そりゃあ孤独になるのは寂しいよね。」
本心は、まだだ。今は会話の切り口を探す所から。最初からやってきたことだろう?なら、簡単だ。今まで通り。まずは仮面の中から様子を見よう。
そして、次の工程は?
…決まってる。揺さぶりだ。それはきっと、仮面を被った“こころ”のほうが得意でしょう?なら、任せるよ。…まだ、“私”はもつでしょ?
―――…ええ、当たり前よ。
「けど、あなたは孤独じゃないわね。…なら、今は何?簡単な事。…孤独に逃げてるだけよね?」
諭す、なんて甘いことなんて私には出来ない。出来るのは、事実を叩きつけるだけ。…でも、それでもいい。今彼女に必要なのは、甘い言葉なんかじゃないから。
「知ってる?孤独になるのは結構難しいのよ。でもね。…孤独に逃げようとするってのは、簡単なのよ?」
そういってニヤリと笑う。…頬に汗がつたるのを感じる。熱気が上へ上へと龍が如く上がっていく。やはり、あまり時間はないようだ。
「人っていうのは脆いものでね。なにか辛いようなことがあれば直ぐに逃げ道を探そうとする。あなたの場合は孤独になろうとすることかしらね?…だけど、ね。」
一呼吸。まだだ。まだ、相手のこころを揺さぶるには言葉が足りない。…だから、とにかく今は、叩きつけるしかない。
「…孤独にならなきゃいけないってのは誰かに言われた言葉なのかしら?もし、違うなら。それは。
それはただの自己満足よ。」
相手を睨みつけて、言う。…そんなの、許さないから、そんな意味を込めてね。
さあ、皮を被れ。ここからはこころのターン。制限時間は2人が死ぬまで。実にわかり易いじゃないか。
「孤独ってのは寂しいもんね。全てを失ってしまったあとに残るものだもん。そりゃあ孤独になるのは寂しいよね。」
本心は、まだだ。今は会話の切り口を探す所から。最初からやってきたことだろう?なら、簡単だ。今まで通り。まずは仮面の中から様子を見よう。
そして、次の工程は?
…決まってる。揺さぶりだ。それはきっと、仮面を被った“こころ”のほうが得意でしょう?なら、任せるよ。…まだ、“私”はもつでしょ?
―――…ええ、当たり前よ。
「けど、あなたは孤独じゃないわね。…なら、今は何?簡単な事。…孤独に逃げてるだけよね?」
諭す、なんて甘いことなんて私には出来ない。出来るのは、事実を叩きつけるだけ。…でも、それでもいい。今彼女に必要なのは、甘い言葉なんかじゃないから。
「知ってる?孤独になるのは結構難しいのよ。でもね。…孤独に逃げようとするってのは、簡単なのよ?」
そういってニヤリと笑う。…頬に汗がつたるのを感じる。熱気が上へ上へと龍が如く上がっていく。やはり、あまり時間はないようだ。
「人っていうのは脆いものでね。なにか辛いようなことがあれば直ぐに逃げ道を探そうとする。あなたの場合は孤独になろうとすることかしらね?…だけど、ね。」
一呼吸。まだだ。まだ、相手のこころを揺さぶるには言葉が足りない。…だから、とにかく今は、叩きつけるしかない。
「…孤独にならなきゃいけないってのは誰かに言われた言葉なのかしら?もし、違うなら。それは。
それはただの自己満足よ。」
相手を睨みつけて、言う。…そんなの、許さないから、そんな意味を込めてね。
「……ええ、私は…孤独に、逃げている。」
素直に認めるしかない。
私のこの一年間は、少なくとも孤独ではなかった。
私は元から孤独。
だから、元に戻ろうとしただけの事。
「元いた場所…に帰るのが、そんなに悪いこと…?」
私は駄目だった。
彼に会えなかった。
彼に会う資格なんてなかった。
だから、帰る。
それだけなのに。
いや、そもそも…
私に孤独じゃない時間はあったのか?
「自己満足…?
…いいえ。…私は…誰にも認められていない。元から、私は一人なの。」
私が孤独ではないと謳っていただけ。
皆、私を見てくれていたけれど…きっとそれは、私自身を見てくれた訳じゃない筈だ。
衣装を作った時だって、それは私の技術をかわれただけ。喜んでくれていたのも、私の技術。
私なんて、見ていない。
だから、私がこの一年間自惚れていただけなんだ。
そうか…それなら、私はずっと孤独なんだ。
「初めから孤独だったら…私が死んでも誰も悲しまないよね…?」
素直に認めるしかない。
私のこの一年間は、少なくとも孤独ではなかった。
私は元から孤独。
だから、元に戻ろうとしただけの事。
「元いた場所…に帰るのが、そんなに悪いこと…?」
私は駄目だった。
彼に会えなかった。
彼に会う資格なんてなかった。
だから、帰る。
それだけなのに。
いや、そもそも…
私に孤独じゃない時間はあったのか?
「自己満足…?
…いいえ。…私は…誰にも認められていない。元から、私は一人なの。」
私が孤独ではないと謳っていただけ。
皆、私を見てくれていたけれど…きっとそれは、私自身を見てくれた訳じゃない筈だ。
衣装を作った時だって、それは私の技術をかわれただけ。喜んでくれていたのも、私の技術。
私なんて、見ていない。
だから、私がこの一年間自惚れていただけなんだ。
そうか…それなら、私はずっと孤独なんだ。
「初めから孤独だったら…私が死んでも誰も悲しまないよね…?」
「へぇ…だからまた孤独になろうとしてるの?」
合図は鳴った。切り口を開けた。揺さぶりをかけた。…そして、まだターンは終わらせない。
揺さぶりかけて帰ってきた言葉に、綻びを見つけたのなら。
次の工程は、さらなる切り込み。相手のこころに強引に入り込むための、布石をここに。
「…気に入らない。気に入らないわね、その考え方。」
さらに距離を詰める。心理戦なんて大層もんじゃない。さあ、まずはひとつ。王手をかけよう。
「その孤独は本当に孤独だった?本当に?…孤独っていうのはね。成り立たせるのは結構難しいのよ。1度でも誰かと時間を共にしたのなら、それは孤独なんかになれないのだから。」
まだ、言葉を紡いでいく。大丈夫。時間はまだある。
「あなたはいなくなって、少なからずこころが動いた誰かは、いなかったの?もしいなかったならそれでいい。でもね、もしいたとしたら。」
そうして、一息。…さて、王手はかけられるか。…うん、いける。
「あなたのそれは…孤独というよりも。ただの思い込みじゃないかしら?少しでもいい。本当にあなたは他の誰かに見られていなかったかしら?いいえ、確かに誰かに見られていたはず。もし、それに気づいていないのならば。」
さて、まずは。
「それ、相当な節穴よ?」
…王手、だ。
合図は鳴った。切り口を開けた。揺さぶりをかけた。…そして、まだターンは終わらせない。
揺さぶりかけて帰ってきた言葉に、綻びを見つけたのなら。
次の工程は、さらなる切り込み。相手のこころに強引に入り込むための、布石をここに。
「…気に入らない。気に入らないわね、その考え方。」
さらに距離を詰める。心理戦なんて大層もんじゃない。さあ、まずはひとつ。王手をかけよう。
「その孤独は本当に孤独だった?本当に?…孤独っていうのはね。成り立たせるのは結構難しいのよ。1度でも誰かと時間を共にしたのなら、それは孤独なんかになれないのだから。」
まだ、言葉を紡いでいく。大丈夫。時間はまだある。
「あなたはいなくなって、少なからずこころが動いた誰かは、いなかったの?もしいなかったならそれでいい。でもね、もしいたとしたら。」
そうして、一息。…さて、王手はかけられるか。…うん、いける。
「あなたのそれは…孤独というよりも。ただの思い込みじゃないかしら?少しでもいい。本当にあなたは他の誰かに見られていなかったかしら?いいえ、確かに誰かに見られていたはず。もし、それに気づいていないのならば。」
さて、まずは。
「それ、相当な節穴よ?」
…王手、だ。
私の塞ぎ込んだ事実に、こころちゃんが入っていく。
「………………。」
やめて。
崩そうとしないで。
私の建ち上げたお城に、そんな大砲を撃たないで。
「私、は……気付いて……。」
いるのか、いないのか。
いや、そこで迷っている時点で、答えはもうひとつしかない。
「それで……どうするの。」
それでも、此処を離れる訳にはいかない。
「もう、私に生きる意味は…ない……だから、ここで…一人で……。」
私に、私を殺させて。
「………………。」
やめて。
崩そうとしないで。
私の建ち上げたお城に、そんな大砲を撃たないで。
「私、は……気付いて……。」
いるのか、いないのか。
いや、そこで迷っている時点で、答えはもうひとつしかない。
「それで……どうするの。」
それでも、此処を離れる訳にはいかない。
「もう、私に生きる意味は…ない……だから、ここで…一人で……。」
私に、私を殺させて。
「どうする?そう、そんな質問が出るなんて、まだわかってないのね。」
まずは1つ目。王への揺さぶりをかけた。…さあ、あとは。詰めるまでの過程だ。
探れ。相手の心情、表情、全ての情報を辿って。1番の最善手を。
「生きる意味?そう。あなたが生きる意味がわかんないって言うのならそれでいいわ。でもね。」
ああ、無意味なやつが何を語ってるんだか。でも、今更そんなの関係ない。だから、少し。少しだけ言葉を借りようか。
「あなたはの存在は、無意味だとしても、無価値ではないんじゃない?」
無意味と無価値。同じようで全く違う意味をもつ。それに気づかせてくれたのは。きっと今もそこにいるんだろうね。
「無意味に死んでいく?全く馬鹿らしい話しよね。意味がなかった“だけ”で死ぬなんて。」
人生に意味を求めることすら、まず馬鹿らしいのだけれど…なんてことは言わない。
さあ、道を抉りだせ。
「自分の価値にすら気づかずに死んでいく。ああ、なかなか滑稽な話じゃない?でもね、その滑稽な話に悲しむ人は少なからず確かにいるのよ。…あなたは、それにすら目を背けるのかしら?」
詰め路は、整った。
「その、滑稽な話に本気で悲しむ、馬鹿なヤツらのことすら、目に入らないのかしら?」
あとは…詰ますだけでしょう?
まずは1つ目。王への揺さぶりをかけた。…さあ、あとは。詰めるまでの過程だ。
探れ。相手の心情、表情、全ての情報を辿って。1番の最善手を。
「生きる意味?そう。あなたが生きる意味がわかんないって言うのならそれでいいわ。でもね。」
ああ、無意味なやつが何を語ってるんだか。でも、今更そんなの関係ない。だから、少し。少しだけ言葉を借りようか。
「あなたはの存在は、無意味だとしても、無価値ではないんじゃない?」
無意味と無価値。同じようで全く違う意味をもつ。それに気づかせてくれたのは。きっと今もそこにいるんだろうね。
「無意味に死んでいく?全く馬鹿らしい話しよね。意味がなかった“だけ”で死ぬなんて。」
人生に意味を求めることすら、まず馬鹿らしいのだけれど…なんてことは言わない。
さあ、道を抉りだせ。
「自分の価値にすら気づかずに死んでいく。ああ、なかなか滑稽な話じゃない?でもね、その滑稽な話に悲しむ人は少なからず確かにいるのよ。…あなたは、それにすら目を背けるのかしら?」
詰め路は、整った。
「その、滑稽な話に本気で悲しむ、馬鹿なヤツらのことすら、目に入らないのかしら?」
あとは…詰ますだけでしょう?
『……で。まあ、碌でもない悪戯でもしようかしら。』
いい事を教えよう。
私は機関室から立ち去ったとは言ったが、タワーから去ったなんて言ってはいない。奴らの話し合いを、扉のすぐ向こうでしめしめと笑い、聞いていたのだった。
最低?
嘘つき?
展開が狂った?
ペテン師には褒め言葉だ。
まあ、元も子もない結論だが。
聞いていた、という訳だ。
全く、ヒヤヒヤさせやがって。
女は何をするか分からない。
止めに入る余地がないとな。
まあ、実際不要だった訳だが。
それに関しては褒めてやろう。
私なら大体殴り合いだ。
手は出さないで口を出す、な。
で。悪戯の段だが。
無論、ペテンでしかない。
ペテンはペテンでも、まあ、良いかはともかく、不幸を呼ぶ類ではない、ペテンである。
それをペテンというのは、果たしてどうなのかとも思うが、事実ではやはりない…かもしれないのだから、少なくとも。
嘘である。
だから、今から嘘をつく。
最低最悪にして、最高最愛の。
私には、生憎、終始縁がなかった嘘だ。どうしてくれようかあのうさぎめ。ひっぱたくかな。
済まない。脱線した。
で、本題だ。
丁度、タワーには照明だの電光掲示板だのが存在する。
機関室を知る私は、途中退室し、仕込みをしておいた。
照明をつけたり。
電光掲示板を利用して。
奴にだけは救いになる細工を。
タワーを縦から読んでみると。
光の配置が皮肉にも。
【アイシテル】
になる。
なんてのは、どうだ参ったか。
周りに火がないからよく映る。
デカデカと映された、恥ずかしいメッセージ。
寂しい女なら、丁度良い。
これで口説ける。
まあ、やらないし。
そこが、詐欺師らしさだが。
『……ま、私なんかに言われるよりは、好きな人にでも言われたって思うが良いわ。
その方が、幸せだろうし。』
全く三流の詐欺だ。
騙されるバカがいるかっつーの。
だが、大事なのは。
奴を助けに来たのが彼女一人ではなく、複数居たのを伝えること。
孤独なんて無理なんだぜ、と。
孤独になりたくても、誰も彼も見捨てたくても。なんだかんだできなかったやつが、伝えることだ。
どうだお前ら、悪だと思っていた存在にその存在感を発揮される気分は。ロールプレイングゲームの主人公が待ち望まれるところだな。なんて、内心で自嘲し。
『あーあ、うんざりだぜ。
幸せムードなんて大嫌いなんだけれど……まあ。
そんな事を目指したしょうもないやつも、昔居たんだっけな。』
また、自虐した。
そして、今度こそ正真正銘。
大団円の終幕を迎え。
私は立ち去った。
バレたら台無しだしな。
奴らに金を払わせる気は無い。
単なる、自分でも絶句するほどの、気味の悪い慈善事業だ。
無償で良い。
――――――なんて、嘘かもしれないぜ。気をつける事だ。
奴らの口座番号を握ってるんだ。
と、そんな具合に私は、悲しいほど嘘くさい負け惜しみをする。
さて……閑話休題。
どうなっていくんだかなあ。
あいつらは。
まあ、私には関係ないが。
死ぬ思いまでして、なんだかんだ働いてやったんだから。
飯代をパーにしたんだから。
せいぜい……
面倒事がまた起こらないように、また頼られたりしないように。
というかなんなら、次会う時にたんまりと金をせしめるために。
幸せにやれば良いんじゃないか?
なんて。
『嘘かもしれないぜ。』
ってな。
いい事を教えよう。
私は機関室から立ち去ったとは言ったが、タワーから去ったなんて言ってはいない。奴らの話し合いを、扉のすぐ向こうでしめしめと笑い、聞いていたのだった。
最低?
嘘つき?
展開が狂った?
ペテン師には褒め言葉だ。
まあ、元も子もない結論だが。
聞いていた、という訳だ。
全く、ヒヤヒヤさせやがって。
女は何をするか分からない。
止めに入る余地がないとな。
まあ、実際不要だった訳だが。
それに関しては褒めてやろう。
私なら大体殴り合いだ。
手は出さないで口を出す、な。
で。悪戯の段だが。
無論、ペテンでしかない。
ペテンはペテンでも、まあ、良いかはともかく、不幸を呼ぶ類ではない、ペテンである。
それをペテンというのは、果たしてどうなのかとも思うが、事実ではやはりない…かもしれないのだから、少なくとも。
嘘である。
だから、今から嘘をつく。
最低最悪にして、最高最愛の。
私には、生憎、終始縁がなかった嘘だ。どうしてくれようかあのうさぎめ。ひっぱたくかな。
済まない。脱線した。
で、本題だ。
丁度、タワーには照明だの電光掲示板だのが存在する。
機関室を知る私は、途中退室し、仕込みをしておいた。
照明をつけたり。
電光掲示板を利用して。
奴にだけは救いになる細工を。
タワーを縦から読んでみると。
光の配置が皮肉にも。
【アイシテル】
になる。
なんてのは、どうだ参ったか。
周りに火がないからよく映る。
デカデカと映された、恥ずかしいメッセージ。
寂しい女なら、丁度良い。
これで口説ける。
まあ、やらないし。
そこが、詐欺師らしさだが。
『……ま、私なんかに言われるよりは、好きな人にでも言われたって思うが良いわ。
その方が、幸せだろうし。』
全く三流の詐欺だ。
騙されるバカがいるかっつーの。
だが、大事なのは。
奴を助けに来たのが彼女一人ではなく、複数居たのを伝えること。
孤独なんて無理なんだぜ、と。
孤独になりたくても、誰も彼も見捨てたくても。なんだかんだできなかったやつが、伝えることだ。
どうだお前ら、悪だと思っていた存在にその存在感を発揮される気分は。ロールプレイングゲームの主人公が待ち望まれるところだな。なんて、内心で自嘲し。
『あーあ、うんざりだぜ。
幸せムードなんて大嫌いなんだけれど……まあ。
そんな事を目指したしょうもないやつも、昔居たんだっけな。』
また、自虐した。
そして、今度こそ正真正銘。
大団円の終幕を迎え。
私は立ち去った。
バレたら台無しだしな。
奴らに金を払わせる気は無い。
単なる、自分でも絶句するほどの、気味の悪い慈善事業だ。
無償で良い。
――――――なんて、嘘かもしれないぜ。気をつける事だ。
奴らの口座番号を握ってるんだ。
と、そんな具合に私は、悲しいほど嘘くさい負け惜しみをする。
さて……閑話休題。
どうなっていくんだかなあ。
あいつらは。
まあ、私には関係ないが。
死ぬ思いまでして、なんだかんだ働いてやったんだから。
飯代をパーにしたんだから。
せいぜい……
面倒事がまた起こらないように、また頼られたりしないように。
というかなんなら、次会う時にたんまりと金をせしめるために。
幸せにやれば良いんじゃないか?
なんて。
『嘘かもしれないぜ。』
ってな。
さあさあ……次の献花の時間だ。
今度は……まあ、何かあるといいけど。
という思いが魅せた束の間の夢……。
見つけたのは……ショッピングモールの中に入っていたフラワーショップ。
…………此処なら、色々あるだろうからね。
誰に会う花があるだろうか……。
とりあえず、探してみよう…人に合う花を。
並べられた…数多の花々が淡い香りを放つ。
その周りは……まあ炎がある訳だけど、この辺りはまだ大人しい。
見て回り、脱出する余裕がある。
……さて、まずは誰に向ける?
『……お、これは…。
───うん、まずはこれかな。』
なんて言っていたら……また、見つけた。
見つけた……小さな、ヒルガオ。
これは誰に向けようか。
……そうだ、あの子に送ろうか。
このヒルガオの花を……。
最初に、フレンドになったあの子に……。
今、タワーで頑張っている……。
──────君へ、あいごころへ。
『さぁ、花言葉と共に……君に捧げよう。』
誰を救いに行ったのかは分からない。
……けど、大切な人に振り向いて欲しいとか…なんだろうけどね?
まあ、その真意は君が確かめておくれ。
私の代わりに……ね?
……さて、そろそろ…かな。
『……君に捧げよう、この花を。
君等の大地からの祝福を……さぁ、受け取りたまえ。』
───まずは、一輪。
あいごころの居るであろう、タワーへ向けて。
『ヒルガオ……花言葉は…。』
…………頼んだよ、こころ。
『“情事”…“優しい愛情”……そして、“絆”だよ。』
それが、あの子への花となるかは分からない。
……けどね、君にも優しさはあるだろう?
何か思うところが無いなら、そんな事はやらないだろう?
……なんて、小さな君の大きな勇気に向けて。
────称賛の言葉さ。
行って来るといい、君の正しいと信じる道に。
『───さぁ、救っておいで!』
まずは、ショッピングモールの硝子を叩き割る。
外からの風が、ショッピングモールを駆け抜ける。
……おや、今回は怪我をしなかったね。
最後に…ちょっと成長出来たかな?
────まあ……良いさ。
飛んで行け、こころの元へ。
ヒルガオの花よ……あの子に、力を。
『……よし、次は…ペテン師さんに、手向け用か。』
そして、私はまた……花を手向ける。
次の献花はペテン師へ。
さぁ……何を捧げようか、なんてね?
今度は……まあ、何かあるといいけど。
という思いが魅せた束の間の夢……。
見つけたのは……ショッピングモールの中に入っていたフラワーショップ。
…………此処なら、色々あるだろうからね。
誰に会う花があるだろうか……。
とりあえず、探してみよう…人に合う花を。
並べられた…数多の花々が淡い香りを放つ。
その周りは……まあ炎がある訳だけど、この辺りはまだ大人しい。
見て回り、脱出する余裕がある。
……さて、まずは誰に向ける?
『……お、これは…。
───うん、まずはこれかな。』
なんて言っていたら……また、見つけた。
見つけた……小さな、ヒルガオ。
これは誰に向けようか。
……そうだ、あの子に送ろうか。
このヒルガオの花を……。
最初に、フレンドになったあの子に……。
今、タワーで頑張っている……。
──────君へ、あいごころへ。
『さぁ、花言葉と共に……君に捧げよう。』
誰を救いに行ったのかは分からない。
……けど、大切な人に振り向いて欲しいとか…なんだろうけどね?
まあ、その真意は君が確かめておくれ。
私の代わりに……ね?
……さて、そろそろ…かな。
『……君に捧げよう、この花を。
君等の大地からの祝福を……さぁ、受け取りたまえ。』
───まずは、一輪。
あいごころの居るであろう、タワーへ向けて。
『ヒルガオ……花言葉は…。』
…………頼んだよ、こころ。
『“情事”…“優しい愛情”……そして、“絆”だよ。』
それが、あの子への花となるかは分からない。
……けどね、君にも優しさはあるだろう?
何か思うところが無いなら、そんな事はやらないだろう?
……なんて、小さな君の大きな勇気に向けて。
────称賛の言葉さ。
行って来るといい、君の正しいと信じる道に。
『───さぁ、救っておいで!』
まずは、ショッピングモールの硝子を叩き割る。
外からの風が、ショッピングモールを駆け抜ける。
……おや、今回は怪我をしなかったね。
最後に…ちょっと成長出来たかな?
────まあ……良いさ。
飛んで行け、こころの元へ。
ヒルガオの花よ……あの子に、力を。
『……よし、次は…ペテン師さんに、手向け用か。』
そして、私はまた……花を手向ける。
次の献花はペテン師へ。
さぁ……何を捧げようか、なんてね?
『…ふむ、ペテン師さんには最適の花があるんだが……何処にあるのかな…?』
さてさて、次の献花はペテン師さんへ。
…………いいや、マリアと呼ぼうか?
あの人には助けられた。
共有チャットの言葉からは……想像のつかない程の助ける動きをしているよね?
───さっきも、見ていたけどね。
こころと一緒に…タワーへ走って行っただろう?
……本当に、ペテン師だ。
なんて……思いながら、私はこの花を。
『見つけたよ……苦労させる…。
…………けど、君にはピッタリなんじゃあないか?
これは…まぁ、また飛ばしても良さそうだ。
……直接渡せるとは限らないからね。』
ちょっと時間が掛かったけど……探せば置いてあるものなんだね。
……なんで置いてあるのか、なんて言ってはいけないけど。
…………まあ、それは良いさ。
届くと良いけどね、この花も。
─────もう一度、言っておこうか。
『受け取りたまえ……大地からの祝福だ。』
そう言って、私は花を取る。
この花は……きっと君に会うだろう。
……少なくとも、私はそう思うさ。
マリア……君という、優しい詐欺師には…。
『届け……“アキレア”の花よ…。』
私は……また、花を、この灼熱の雪原に落とす。
『アキレア……花言葉は沢山あるけど、その中でも当てはまる物を贈るよ。』
アキレアの花は、雪原に飛ぶ。
……それが貴方に届くかは、先程のヒルガオや水仙と同じ様に分からないけど…。
せめて、思いは届く様に。
いつか、目の前で手渡せると良いな……。
『“勇敢”…“真心”……“治療”に“隠れた功績”…。
…当てはまる物は色々あるけどね…。』
勇気ある行動をした。
そして、隠れた功績も沢山残した。
裁縫道具や麻酔薬とか、あれがなければエムは救えなかったからね。
……これも、丁度いい。
まぁ、色々あるけれど……これが一番かな。
『“悲哀を慰める”……と、“君のほほえみ”…。』
何か、探しているんだろう?
何となく……そう思っただけなんだけどね?
───まあ、それでも君は進むんだろう?
なら止める義理も権利も無いさ。
こころや仲間を思う君は、美しいからね。
『しっかりと、笑える様に……願っているよ。』
……嗚呼。
───マリアよ…優しきペテン師よ。
君は、何処かで笑えている世界を…。
───ちゃんと、見つけられるのかな……?
さてさて、次の献花はペテン師さんへ。
…………いいや、マリアと呼ぼうか?
あの人には助けられた。
共有チャットの言葉からは……想像のつかない程の助ける動きをしているよね?
───さっきも、見ていたけどね。
こころと一緒に…タワーへ走って行っただろう?
……本当に、ペテン師だ。
なんて……思いながら、私はこの花を。
『見つけたよ……苦労させる…。
…………けど、君にはピッタリなんじゃあないか?
これは…まぁ、また飛ばしても良さそうだ。
……直接渡せるとは限らないからね。』
ちょっと時間が掛かったけど……探せば置いてあるものなんだね。
……なんで置いてあるのか、なんて言ってはいけないけど。
…………まあ、それは良いさ。
届くと良いけどね、この花も。
─────もう一度、言っておこうか。
『受け取りたまえ……大地からの祝福だ。』
そう言って、私は花を取る。
この花は……きっと君に会うだろう。
……少なくとも、私はそう思うさ。
マリア……君という、優しい詐欺師には…。
『届け……“アキレア”の花よ…。』
私は……また、花を、この灼熱の雪原に落とす。
『アキレア……花言葉は沢山あるけど、その中でも当てはまる物を贈るよ。』
アキレアの花は、雪原に飛ぶ。
……それが貴方に届くかは、先程のヒルガオや水仙と同じ様に分からないけど…。
せめて、思いは届く様に。
いつか、目の前で手渡せると良いな……。
『“勇敢”…“真心”……“治療”に“隠れた功績”…。
…当てはまる物は色々あるけどね…。』
勇気ある行動をした。
そして、隠れた功績も沢山残した。
裁縫道具や麻酔薬とか、あれがなければエムは救えなかったからね。
……これも、丁度いい。
まぁ、色々あるけれど……これが一番かな。
『“悲哀を慰める”……と、“君のほほえみ”…。』
何か、探しているんだろう?
何となく……そう思っただけなんだけどね?
───まあ、それでも君は進むんだろう?
なら止める義理も権利も無いさ。
こころや仲間を思う君は、美しいからね。
『しっかりと、笑える様に……願っているよ。』
……嗚呼。
───マリアよ…優しきペテン師よ。
君は、何処かで笑えている世界を…。
───ちゃんと、見つけられるのかな……?
「無意味と、無価値…?」
考えた事もない。
でも…考えてみる。
私には、生きる意味がなかった。
孤独であり、別の自分を作った上で、自分自身を閉じ込めた。
それは他の誰にも見られず、評価なんてされない。
意味は、ない。
「私に……それが、有り得るの……?」
しかし、価値はどうなのだろう。
命を量るのは馬鹿げた話ではある。
でも、例外もある。
そうだ、私は自分が認められていると感じ、価値を見つけたじゃないか。今の私は棄てていても、その記憶ははっきりと残っている。
なら
それが他の人から価値を求められていたとしたら…?
有り得ない。
そう切り捨てようと口を開きかけたとき、着信が鳴った。
「……?」
こころちゃんのかと思っていたが、鳴っているのは床に転がっている物。
私のだ。
拾い上げて、パスワードを解き、そのメールを開く。
「……マリア………さん…?」
その内容は。
全くの予想外のもので。
考えた事もない。
でも…考えてみる。
私には、生きる意味がなかった。
孤独であり、別の自分を作った上で、自分自身を閉じ込めた。
それは他の誰にも見られず、評価なんてされない。
意味は、ない。
「私に……それが、有り得るの……?」
しかし、価値はどうなのだろう。
命を量るのは馬鹿げた話ではある。
でも、例外もある。
そうだ、私は自分が認められていると感じ、価値を見つけたじゃないか。今の私は棄てていても、その記憶ははっきりと残っている。
なら
それが他の人から価値を求められていたとしたら…?
有り得ない。
そう切り捨てようと口を開きかけたとき、着信が鳴った。
「……?」
こころちゃんのかと思っていたが、鳴っているのは床に転がっている物。
私のだ。
拾い上げて、パスワードを解き、そのメールを開く。
「……マリア………さん…?」
その内容は。
全くの予想外のもので。
「…へぇ。」
チラリとフェルナのコロパットを覗き見して。…ああ、どうやら。馬鹿の1人が何かやってくれたらしい。
「ほら、どうやらお出迎えのようよ?そんな所で立ち止まってる暇なんてあるのかしら。」
そうしてさっさと外へいけ、と催促してみる…ああ、どうやら詰みは私には荷が重いみたいね。なら。
…さっそく、頼らせてもらおうかしらね。
「さて、私も行こうかしらね。」
ここにいる用はもうない。ここにいても仕方ないのだからね。
階段を降りて、外へと。そうして、タワーを振り返って…ため息。
「はぁ…どうやら、全部持ってかれたみたいね。」
全くこんなことされたら自分の苦労が報われないじゃないか、と少し憤るが…ま、それもそれでいいだろう。
…こんな、粋なことしてくれる馬鹿への投資としては、充分働いたからね。
「本当に、馬鹿よね。あなたも…私達も。」
チラリとフェルナのコロパットを覗き見して。…ああ、どうやら。馬鹿の1人が何かやってくれたらしい。
「ほら、どうやらお出迎えのようよ?そんな所で立ち止まってる暇なんてあるのかしら。」
そうしてさっさと外へいけ、と催促してみる…ああ、どうやら詰みは私には荷が重いみたいね。なら。
…さっそく、頼らせてもらおうかしらね。
「さて、私も行こうかしらね。」
ここにいる用はもうない。ここにいても仕方ないのだからね。
階段を降りて、外へと。そうして、タワーを振り返って…ため息。
「はぁ…どうやら、全部持ってかれたみたいね。」
全くこんなことされたら自分の苦労が報われないじゃないか、と少し憤るが…ま、それもそれでいいだろう。
…こんな、粋なことしてくれる馬鹿への投資としては、充分働いたからね。
「本当に、馬鹿よね。あなたも…私達も。」
こころちゃんは、先に行ってしまった。それなら、私はここで死ぬのを待てばいい。
その筈なのに。
どうして、私は階段を下っているんだろう。
わからない。
わからないけれど。
タワーを見ないといけない。
そんな気がする。
「……………。」
一段一段が辛い。
引き戻されるのが怖い。
このまま死んでしまいたい。
そう思っていても、私の道は下に続いている。
確認したら、改めて死んでしまおう。
これ以上辛くなる前に。
私はもう、辛い思いをしたくないから。
やがて地面に足がつき、少し離れてから、その私の友人とやらから何があるのか、確認する。
それを見た時、私は一体どんな顔をしただろう。
きっと、心が崩れていて。
きっと、思考を失って。
でも
きっと、希望を見てしまった。
「…………ぅ……。」
その場で膝をついてしまう。
駄目、立ち上がらなきゃ。
私は私のすべきことがある。
もう一度戻らなきゃ。
少し前に決心していたその気持は。
「ぁ、あ……うぁ……あぁああ、あぁあぁあああぁぁぁ…。」
完全に打ち砕かれてしまった。
『アイシテル』
その5文字は私にとって、どれだけ特別な意味を持っているのか。
彼氏…とは関係ない。
クラスメイトの1人から、こう言葉を告げられた時点で。
それが嘘であろうとも。
『私』そのものは。
生きているんだ。
そしてどこからやってきたのか。
その言葉に吸い込まれるように飛んできた。
黄色の水仙。
他の色だったなら、決して私の心には届かなかっただろう。
見知らぬ誰かさん。
貴方は物凄く。
「ずるいよ……。」
でも、ありがとう。
見知らぬ誰かさん。
私は決めたよ。
彼にもう一度会って…
"最愛の言葉"と
"帰還"を
「求めるんだ。」
ああ、また出るとは思ってもいなかった。
こんなにも清々しい笑顔は。
その筈なのに。
どうして、私は階段を下っているんだろう。
わからない。
わからないけれど。
タワーを見ないといけない。
そんな気がする。
「……………。」
一段一段が辛い。
引き戻されるのが怖い。
このまま死んでしまいたい。
そう思っていても、私の道は下に続いている。
確認したら、改めて死んでしまおう。
これ以上辛くなる前に。
私はもう、辛い思いをしたくないから。
やがて地面に足がつき、少し離れてから、その私の友人とやらから何があるのか、確認する。
それを見た時、私は一体どんな顔をしただろう。
きっと、心が崩れていて。
きっと、思考を失って。
でも
きっと、希望を見てしまった。
「…………ぅ……。」
その場で膝をついてしまう。
駄目、立ち上がらなきゃ。
私は私のすべきことがある。
もう一度戻らなきゃ。
少し前に決心していたその気持は。
「ぁ、あ……うぁ……あぁああ、あぁあぁあああぁぁぁ…。」
完全に打ち砕かれてしまった。
『アイシテル』
その5文字は私にとって、どれだけ特別な意味を持っているのか。
彼氏…とは関係ない。
クラスメイトの1人から、こう言葉を告げられた時点で。
それが嘘であろうとも。
『私』そのものは。
生きているんだ。
そしてどこからやってきたのか。
その言葉に吸い込まれるように飛んできた。
黄色の水仙。
他の色だったなら、決して私の心には届かなかっただろう。
見知らぬ誰かさん。
貴方は物凄く。
「ずるいよ……。」
でも、ありがとう。
見知らぬ誰かさん。
私は決めたよ。
彼にもう一度会って…
"最愛の言葉"と
"帰還"を
「求めるんだ。」
ああ、また出るとは思ってもいなかった。
こんなにも清々しい笑顔は。
「……さて、もう、大丈夫みたいね。」
ああ、どうやら届いたみたいで。
どうにか届かせたその思いは、今度は無駄にならないように、意味がなくならないように、祈って。
ふわりと飛んできた黄色の水仙。その中に混じって飛んできた…ヒルガオの花。確か意味は…
「優しい愛、絆あとは…」
…情事。
ああ、なかなか嫌な花を渡して来るじゃないか。…本当に。
「……その花言葉、あってないわけ、ないじゃない。」
…仕方ない。なら、もう迷う必要ない。
でも、今は、この感情に任せて。
笑顔を浮かべる彼女に向かって。…もう、仮面は要らない。
「……心配させないでよぉ!ふぇるなおねぇちゃん!…ぅう…ぁあ…ああああああああぁぁぁ!」
もう、この、感情を耐える必要は、ないだろう。
フェルナお姉ちゃんに抱きついて、大声を上げて泣く。
もう、大丈夫。全ては無駄にならなかった。…無価値には、ならなかった。
延々と煙を上げ続ける小さな炎。その煙の先は、広い大空へと繋がっていた。
ああ、どうやら届いたみたいで。
どうにか届かせたその思いは、今度は無駄にならないように、意味がなくならないように、祈って。
ふわりと飛んできた黄色の水仙。その中に混じって飛んできた…ヒルガオの花。確か意味は…
「優しい愛、絆あとは…」
…情事。
ああ、なかなか嫌な花を渡して来るじゃないか。…本当に。
「……その花言葉、あってないわけ、ないじゃない。」
…仕方ない。なら、もう迷う必要ない。
でも、今は、この感情に任せて。
笑顔を浮かべる彼女に向かって。…もう、仮面は要らない。
「……心配させないでよぉ!ふぇるなおねぇちゃん!…ぅう…ぁあ…ああああああああぁぁぁ!」
もう、この、感情を耐える必要は、ないだろう。
フェルナお姉ちゃんに抱きついて、大声を上げて泣く。
もう、大丈夫。全ては無駄にならなかった。…無価値には、ならなかった。
延々と煙を上げ続ける小さな炎。その煙の先は、広い大空へと繋がっていた。
「あーあ。負けちゃったかぁー。
…まぁ…俺にゃどうでも良い事なんだけどね。
海神学園…とか言う、全く耳にしたことないような奴らを助ける義理なんて無いし。」
親指と人差し指で、挟むように持つコロパッド。
映し出される画面には、生存者と死亡者の文字が業務的に表示されている。
ぱちぱちと、乾燥を和らげるように数度閉じられる瞼。その間に隠れた瞳の奥にあるのは、8割の呆れと2割の無関心。それもそうだろう。
…自分はこの学園の生徒ですらないのだから。
パイナポーは、一度死んでいる。
第20回コロシアイ…その参加者18人の内で。
それについては詳細のほどは省こう。またどこかで語られるであろう物語だから。
そこで死んだパイナポー。
彼女は紆余曲折あってこうして次回のコロシアイへと参加、セレスティアとしての使命を果たさんと決意を帯びていた…訳がない。
そもそもの話、パイナポーには他人と助ける事など出来るはずがない。自身のクラスメイトすら助ける事が出来なかったのだから。
ならばハナから助けようと思わないのが吉。無理が祟って死んでしまえば元も子もないのだ。
…あ、もう死んでるか。
なんて幽霊ジョーク。
「さてっと。自分の目的は果たせそうだし、上司さんへと連絡しよっかねー。あとでガミガミ言われてちゃ敵わないしな。」
さて、つまらない回想は終わり。
会いたかったやつには会えたし、助ける事は出来そうだし。最後くらいセレスティアとして頑張りましょうかね…っと。
パイナポーはコロパッドの電源を切ってポケットへと入れ、耳へと右の手をそっと、当てる。
ザーザーと言うノイズ音が耳の内へと数度ほど響き…繋がる。
「あー、あー。こちらセレスティア3号、こちらセレスティア3号。聞こえてたら返事してね、石田ちゃん。どうぞー。」
…まぁ…俺にゃどうでも良い事なんだけどね。
海神学園…とか言う、全く耳にしたことないような奴らを助ける義理なんて無いし。」
親指と人差し指で、挟むように持つコロパッド。
映し出される画面には、生存者と死亡者の文字が業務的に表示されている。
ぱちぱちと、乾燥を和らげるように数度閉じられる瞼。その間に隠れた瞳の奥にあるのは、8割の呆れと2割の無関心。それもそうだろう。
…自分はこの学園の生徒ですらないのだから。
パイナポーは、一度死んでいる。
第20回コロシアイ…その参加者18人の内で。
それについては詳細のほどは省こう。またどこかで語られるであろう物語だから。
そこで死んだパイナポー。
彼女は紆余曲折あってこうして次回のコロシアイへと参加、セレスティアとしての使命を果たさんと決意を帯びていた…訳がない。
そもそもの話、パイナポーには他人と助ける事など出来るはずがない。自身のクラスメイトすら助ける事が出来なかったのだから。
ならばハナから助けようと思わないのが吉。無理が祟って死んでしまえば元も子もないのだ。
…あ、もう死んでるか。
なんて幽霊ジョーク。
「さてっと。自分の目的は果たせそうだし、上司さんへと連絡しよっかねー。あとでガミガミ言われてちゃ敵わないしな。」
さて、つまらない回想は終わり。
会いたかったやつには会えたし、助ける事は出来そうだし。最後くらいセレスティアとして頑張りましょうかね…っと。
パイナポーはコロパッドの電源を切ってポケットへと入れ、耳へと右の手をそっと、当てる。
ザーザーと言うノイズ音が耳の内へと数度ほど響き…繋がる。
「あー、あー。こちらセレスティア3号、こちらセレスティア3号。聞こえてたら返事してね、石田ちゃん。どうぞー。」
『……こちら石田。どうかしたのか?五十嵐』
間髪入れずに応答がある。仲間からの合図を今か今かと待ち受けているのだから、当然であった。
とはいえ、ゲーム内の状況はモニターで全て把握している。この五十嵐からの通信が、単なる合図でないことは明白だった。
間髪入れずに応答がある。仲間からの合図を今か今かと待ち受けているのだから、当然であった。
とはいえ、ゲーム内の状況はモニターで全て把握している。この五十嵐からの通信が、単なる合図でないことは明白だった。
「はー、やっぱ石田ちゃんはお堅いねぇ。もっと笑えよ、スマイルスマイル。そんなんじゃきりたんぽ星人としてやっていけないぜ?」
からからからから。
小気味良く、楽しげに。
パイナポーは演技の一切を取り払って、笑う。
ここの雪国に来てからは大変だった。
柄に合わないドジっ子なアピール、嫌いな変態どもとの付き合い、狙われないために小動物を演じて。笑い方だって“ウケ”が良いように変えたんだから。
大変大変、だからこうして笑えると気持ちがいい。スッとする気分だ。節制は良くないね、うん。
「とりあえず一個。
セレスティアとしての使命…海神学園生徒の救出に失敗した事を報告。
その後、私は指示通りプランBへ、そして2名の同学園生徒の救出を行う。対象は…5thと9thだ。座標、その他諸々はよろしく頼むよ。」
からからからから。
小気味良く、楽しげに。
パイナポーは演技の一切を取り払って、笑う。
ここの雪国に来てからは大変だった。
柄に合わないドジっ子なアピール、嫌いな変態どもとの付き合い、狙われないために小動物を演じて。笑い方だって“ウケ”が良いように変えたんだから。
大変大変、だからこうして笑えると気持ちがいい。スッとする気分だ。節制は良くないね、うん。
「とりあえず一個。
セレスティアとしての使命…海神学園生徒の救出に失敗した事を報告。
その後、私は指示通りプランBへ、そして2名の同学園生徒の救出を行う。対象は…5thと9thだ。座標、その他諸々はよろしく頼むよ。」
「君は相変わらずふざけ倒しているな。特に部外者への関心のなさは、セレスティアとしてどうかと思うよ」
ふう、と息を吐く。何を言ったところで彼が態度を改めることはないだろうし、正直なところ諦めているのだが。
「了解した。5thと9thだな。
……赤城結菜をよく保護してくれた。俺からも御礼を言いたい」
キーボードを操作しながら、当初の指示を見事遂行してくれたことを労う。
なお、今回Azothに勝利が渡ったのは赤城結菜の要因が大きいわけであり、これで正しかったのかと言われると決して肯首はできないのだが。
ふう、と息を吐く。何を言ったところで彼が態度を改めることはないだろうし、正直なところ諦めているのだが。
「了解した。5thと9thだな。
……赤城結菜をよく保護してくれた。俺からも御礼を言いたい」
キーボードを操作しながら、当初の指示を見事遂行してくれたことを労う。
なお、今回Azothに勝利が渡ったのは赤城結菜の要因が大きいわけであり、これで正しかったのかと言われると決して肯首はできないのだが。
「…私が好きでやったことだ。石田ちゃん。それが結果的にセレスティアの利益へとなった…それだけで十分だろう?WINWINってやつさ。」
パイナポーは微笑んで、石田へと告げる。
自分がこのセレスティアとしての命を受けたのは一重に札仁学園の元クラスメイトが参加する事を聞いたから。
一応、セレスティアへの恩返しの意図もあるにはあるけれど…それよりも友達を救いたい、という気持ちが優ったのだから。
「でさ、頼みなんだけど。
…石田ちゃん。俺をあの南国へ戻す事は出来るかい?ちょっと謝らねぇといけないやつ残しちゃってさ。出来れば…で良いんだけどね。」
パイナポーは微笑んで、石田へと告げる。
自分がこのセレスティアとしての命を受けたのは一重に札仁学園の元クラスメイトが参加する事を聞いたから。
一応、セレスティアへの恩返しの意図もあるにはあるけれど…それよりも友達を救いたい、という気持ちが優ったのだから。
「でさ、頼みなんだけど。
…石田ちゃん。俺をあの南国へ戻す事は出来るかい?ちょっと謝らねぇといけないやつ残しちゃってさ。出来れば…で良いんだけどね。」
「……そうか」
彼の言うことは事実であり全てだ。それ以上は何も言うまいと口をつぐんだが、予想外の提案に、眉をひそめた。
一体誰の事だろうか?石田に思い当たる節はなかった。
しばし考え、思考を巡らせる。
「戻すこと自体は簡単だし、帰ってくることも、出来る……けど、絶対に帰ってこれるって保証はない。
あの南国はもうAzothの監視外のはずだけど、万が一バレてしまったら、それまでだ」
彼の言うことは事実であり全てだ。それ以上は何も言うまいと口をつぐんだが、予想外の提案に、眉をひそめた。
一体誰の事だろうか?石田に思い当たる節はなかった。
しばし考え、思考を巡らせる。
「戻すこと自体は簡単だし、帰ってくることも、出来る……けど、絶対に帰ってこれるって保証はない。
あの南国はもうAzothの監視外のはずだけど、万が一バレてしまったら、それまでだ」
「ほえー、簡単なんだ。じゃ事が片付いたら…で良いかな。また戻ってくる件については…どっちでも良いし。」
パイナポーは帽子を深く被り直し。
どこか間の抜けた口調で呟く。
石田とは友好的…というか若干馴れ馴れしく接しているが、一応は彼は自分の上司。彼の言う事は信憑性という面において高く評価する事は出来るだろう。
「…それとなぁ…。
あっ、そうだそうだもう一個。脱出についてなんだけど。限界ギリギリまで時間を引き延ばして欲しいな。ちょっとだけ、その方が都合がいい。
…理由はあまり聞かないでくれよ?」
パイナポーは帽子を深く被り直し。
どこか間の抜けた口調で呟く。
石田とは友好的…というか若干馴れ馴れしく接しているが、一応は彼は自分の上司。彼の言う事は信憑性という面において高く評価する事は出来るだろう。
「…それとなぁ…。
あっ、そうだそうだもう一個。脱出についてなんだけど。限界ギリギリまで時間を引き延ばして欲しいな。ちょっとだけ、その方が都合がいい。
…理由はあまり聞かないでくれよ?」
「俺としてはどっちでも良くないんだよな……。
ほお、時間ギリギリか……。わかった、他のセレスティアにもそう伝えておく。
参加者の誰か一人でも危険だと判断したら、すぐに脱出させることは了承してくれ」
モニターに目を移す。一部の建物は火災による崩落が始まっており、残された時間はあまり多くないことが歴然だ。
とはいえ五十嵐なら、その辺りは織り込み済みなのだろう。二つ返事で承諾した。
ほお、時間ギリギリか……。わかった、他のセレスティアにもそう伝えておく。
参加者の誰か一人でも危険だと判断したら、すぐに脱出させることは了承してくれ」
モニターに目を移す。一部の建物は火災による崩落が始まっており、残された時間はあまり多くないことが歴然だ。
とはいえ五十嵐なら、その辺りは織り込み済みなのだろう。二つ返事で承諾した。
それは、最低な物語だった。
とある所に1人の少女と少年がいた。二人はどこに行くにしても一緒だった。…そう。言ってしまえば幼なじみだよ。
本当に、本当に仲の良い二人だった。だけれども。
その中に、不安の種が、一つ。
少年の体は病弱で、なにをするにも直ぐに息を切らす。直ぐに倒れてしまう。直ぐに、辛そうな顔をしてしまう。そんな少年に、少女はよく付き添っていた。…きっと、それは。好き、という感情だったのだろう。
そのままいえば、その恋は、純愛として。その愛は、本物として、恵まれたのだろう。
――本当に、どうしてこんなにも歪んでしまったのか。
…さあね。なんて、もう惚けるつもりもないよ。ああ、でも、こんな皮肉の塊みたいな名前にしたのも、きっとここに理由があるから。だから。
――記憶の蓋を一つ、剥がそうじゃないか。
両親の離婚。発端はそれだ。父親に引き取られた女の子は、母親を失った。
…当たり前のことだけどね。そりゃあ離婚したらどちらかを失うに決まってる。幸い、父親はこの家を離れるつもりはなく、少年と離れ離れになることはなかった。…いや、不幸にも、の間違いかも?
だって。そうしなければ少女はきっと、壊れなかっただろうから。
…記憶の蓋は、ここで終わり。次はまた、いつの日か。
「…でも、ね。」
彼女は壊れなかった。いや、直されたのだろうね。このゲームを持って。
「だから、やらないといけない。」
さあ、君だけだよ。あれをどうにか出来るのは。
君は騙るのが得意だ。それも、詐欺師みたいに。だから、こそ。君だけしかいないじゃないか。君だけしか、適任がいないじゃないか。
「…うん。」
さあ、最後の舞台だ。まだ君は踊り足りないらしいね。
大丈夫。失敗しても次はある。
だから。
「…さあ、次への布石を。」
…さぁ。次への布石を。
…一つだけ、心残りがあるとしたら。
みんなと一緒に笑えないこと、かなぁ。
「ごめんね……エムお姉ちゃん。フェルナお姉ちゃん。」
とある所に1人の少女と少年がいた。二人はどこに行くにしても一緒だった。…そう。言ってしまえば幼なじみだよ。
本当に、本当に仲の良い二人だった。だけれども。
その中に、不安の種が、一つ。
少年の体は病弱で、なにをするにも直ぐに息を切らす。直ぐに倒れてしまう。直ぐに、辛そうな顔をしてしまう。そんな少年に、少女はよく付き添っていた。…きっと、それは。好き、という感情だったのだろう。
そのままいえば、その恋は、純愛として。その愛は、本物として、恵まれたのだろう。
――本当に、どうしてこんなにも歪んでしまったのか。
…さあね。なんて、もう惚けるつもりもないよ。ああ、でも、こんな皮肉の塊みたいな名前にしたのも、きっとここに理由があるから。だから。
――記憶の蓋を一つ、剥がそうじゃないか。
両親の離婚。発端はそれだ。父親に引き取られた女の子は、母親を失った。
…当たり前のことだけどね。そりゃあ離婚したらどちらかを失うに決まってる。幸い、父親はこの家を離れるつもりはなく、少年と離れ離れになることはなかった。…いや、不幸にも、の間違いかも?
だって。そうしなければ少女はきっと、壊れなかっただろうから。
…記憶の蓋は、ここで終わり。次はまた、いつの日か。
「…でも、ね。」
彼女は壊れなかった。いや、直されたのだろうね。このゲームを持って。
「だから、やらないといけない。」
さあ、君だけだよ。あれをどうにか出来るのは。
君は騙るのが得意だ。それも、詐欺師みたいに。だから、こそ。君だけしかいないじゃないか。君だけしか、適任がいないじゃないか。
「…うん。」
さあ、最後の舞台だ。まだ君は踊り足りないらしいね。
大丈夫。失敗しても次はある。
だから。
「…さあ、次への布石を。」
…さぁ。次への布石を。
…一つだけ、心残りがあるとしたら。
みんなと一緒に笑えないこと、かなぁ。
「ごめんね……エムお姉ちゃん。フェルナお姉ちゃん。」
『さてじゃあ行かなきゃ…か。』
花びらが1枚、顔に落ちる。
私は黙ってそれを払い落とし、一瞥し、振り返らず歩いた。
まあよくわからん場所へ。
白鳥は、悲しからずや……とでも引用すべきだろうか。
雪と火。そんなめちゃくちゃな風景の中にある一輪の花は酷く浮いていたし、また、なんとなく、自分に似ている気もした。
さて、奴はセッティングしたか。
ならもう良かろう。
ざまあみろ、と、諸君らが思う展開を用意してやる。
―――――なんて、それも嘘かもしれないがな。
という訳で、私は奇異な場所に足を踏み入れる。
花びらが1枚、顔に落ちる。
私は黙ってそれを払い落とし、一瞥し、振り返らず歩いた。
まあよくわからん場所へ。
白鳥は、悲しからずや……とでも引用すべきだろうか。
雪と火。そんなめちゃくちゃな風景の中にある一輪の花は酷く浮いていたし、また、なんとなく、自分に似ている気もした。
さて、奴はセッティングしたか。
ならもう良かろう。
ざまあみろ、と、諸君らが思う展開を用意してやる。
―――――なんて、それも嘘かもしれないがな。
という訳で、私は奇異な場所に足を踏み入れる。
赤城の赴いた部屋に、人影はなかった。確かに赤城は、その場所で会う約束をしていたはずだが。
室内に足を踏み入れて進むならば、真後ろから軽快な嬌声が聞こえるだろう。
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!おっつー、赤城ちゃん。
寒かったんじゃない?コーヒー飲む?紅茶もあるよ?」
ガバリと背後から赤城の両肩を掴み、顔を肩越しに乗り出し、親しい友人にでも発するような甘ったるい声で語り掛ける。
室内に足を踏み入れて進むならば、真後ろから軽快な嬌声が聞こえるだろう。
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!おっつー、赤城ちゃん。
寒かったんじゃない?コーヒー飲む?紅茶もあるよ?」
ガバリと背後から赤城の両肩を掴み、顔を肩越しに乗り出し、親しい友人にでも発するような甘ったるい声で語り掛ける。
『…はいはい。』
面倒なので、適当に私は受け流す。これはこれで厄介なやつだからな。無視だ無視。
大体、私はここまでで相当疲れているんだ。今更こいつを口説くまでする義務はない。
無いよな。
窓の外。燻る火を消し止めだした雪を見つめながら、私は華麗にスルーする。素晴らしいだろ。
『―――で。まあ、約束通りうさぎは貰っていくけれど。
私はここに身売りするとは言ったけど、こんな辛気臭い場所に四六時中居るなんて言ってないわ。
仕事がある時に呼んでもらえればベストだわ。デリバリーね。』
なんて、嘘にも満たない言葉遊びの伏線を回収する。
まあ、こいつが何度も呼び出したのに合わせその都度通うのはだるい気はしなくもないが。
奴隷として。
というより。
ゲームを展開させる玩具として。
奴は自分を重宝するだろうという結論に至る。
『回収できてない貸しがあるから、終わらせなきゃ嫌なのよ。』
馬鹿め。
詐欺師の行かないなど信用するからだ。よし、うんと食うさ。
と、私は色々台無しにする。
面倒なので、適当に私は受け流す。これはこれで厄介なやつだからな。無視だ無視。
大体、私はここまでで相当疲れているんだ。今更こいつを口説くまでする義務はない。
無いよな。
窓の外。燻る火を消し止めだした雪を見つめながら、私は華麗にスルーする。素晴らしいだろ。
『―――で。まあ、約束通りうさぎは貰っていくけれど。
私はここに身売りするとは言ったけど、こんな辛気臭い場所に四六時中居るなんて言ってないわ。
仕事がある時に呼んでもらえればベストだわ。デリバリーね。』
なんて、嘘にも満たない言葉遊びの伏線を回収する。
まあ、こいつが何度も呼び出したのに合わせその都度通うのはだるい気はしなくもないが。
奴隷として。
というより。
ゲームを展開させる玩具として。
奴は自分を重宝するだろうという結論に至る。
『回収できてない貸しがあるから、終わらせなきゃ嫌なのよ。』
馬鹿め。
詐欺師の行かないなど信用するからだ。よし、うんと食うさ。
と、私は色々台無しにする。
「あらら、ツれないなぁ……まぁいいけどさ」
するりと彼女の横を向けて前に出ると、つかつかと歩き出す。ついてこい、という意味だった。
「ふふ、言われずとも、君のような人材を鳥籠に閉じ込めるなんてしないさ。
君は大空に羽ばたいてこそ、その真価を発揮できる」
更に言うと、赤城をこちらの都合で呼び出す予定など、そうそうなかった。
そんなことをせずとも、彼女はこちらを楽しませてくれることが、明白だったから。
まぁ、嘘かもしれないけど。
便利すぎるキャッチフレーズ。流行ってしまう前に使っておこう。
そんなこんなで、廊下を進み、とある扉の前へと辿り着く。
「……ここだよ」
扉横のスイッチを押し、扉を開ける。こじんまりとしたSFチックな部屋の中央に、棺のような装置が、一台。
するりと彼女の横を向けて前に出ると、つかつかと歩き出す。ついてこい、という意味だった。
「ふふ、言われずとも、君のような人材を鳥籠に閉じ込めるなんてしないさ。
君は大空に羽ばたいてこそ、その真価を発揮できる」
更に言うと、赤城をこちらの都合で呼び出す予定など、そうそうなかった。
そんなことをせずとも、彼女はこちらを楽しませてくれることが、明白だったから。
まぁ、嘘かもしれないけど。
便利すぎるキャッチフレーズ。流行ってしまう前に使っておこう。
そんなこんなで、廊下を進み、とある扉の前へと辿り着く。
「……ここだよ」
扉横のスイッチを押し、扉を開ける。こじんまりとしたSFチックな部屋の中央に、棺のような装置が、一台。
『そりゃあそうね。私も同じことを考えていたわ。』
なんて、適当に話を合わせる。
適当な事を言うのに関して私の右に出るものは少ない。
無論、適当である。
さて。
適当なことから
不適当な。
もとい。
不穏当な。
最後のジャッジを下す。
全く、二年間もかけて。
見るからに馬鹿な計画を終わらせるのだ。大願成就の時である。
あ。
見るからに童女な私を見て、誰かわからなかったらどうしよう。
めちゃくちゃ恥ずかしいぜ。
なら。言ってやるか。
『…つ〜かま〜えた。』
私は無機質に、敢えて、わざとらしい抑揚をつけ。
棺を開け、うさぎの夢を――――
終わらせた。
『吠え面、かかせに来たわよ。』
なんて、適当に話を合わせる。
適当な事を言うのに関して私の右に出るものは少ない。
無論、適当である。
さて。
適当なことから
不適当な。
もとい。
不穏当な。
最後のジャッジを下す。
全く、二年間もかけて。
見るからに馬鹿な計画を終わらせるのだ。大願成就の時である。
あ。
見るからに童女な私を見て、誰かわからなかったらどうしよう。
めちゃくちゃ恥ずかしいぜ。
なら。言ってやるか。
『…つ〜かま〜えた。』
私は無機質に、敢えて、わざとらしい抑揚をつけ。
棺を開け、うさぎの夢を――――
終わらせた。
『吠え面、かかせに来たわよ。』
【■章︰とある×××回目の繰り返し】
道化アリスは今日も今日とて笑っていた。
カラカラ廻る風車みたいに彩る景色をぐるぐるぐるぐる。
[なんとまぁカラフルでキラキラ奇麗な世界。]
また君を殺して、また××を殺して、また僕を殺して、またまたまたまたの繰り返し。
──それを嗤う。
繰り返して塗りつぶして塗り変えればいつか君を救えるだろうと、救えなかった君を置いて逃げていく。幾つも折り重なる君を重ねては重ねてそれを上がるアリス。
螺旋階段は何処までも続いてく。
救えた君なんてまだ存在しない。それなのに、救えなかった君は笑うんだ。救えなかった僕に笑うんだ。何も知らない顔で僕と咲うんだ。
ごめんね、そんな罪悪感はとうに消えてしまった。
──だから嗤う。
この夢がこの世界がこの国が崩れさるとき、きっとアリスは初めて泣いたときの君のことを思い出して狂ったように笑うのでしょう。
此処には居ない君のことを思って、泣くのでしょう。
だから、それまではこの階段を上がることはやめない。
…──止めてたまるか。止めてやるものか。
みんな死ねみんな生きろみんなみんなみんなみんなみんなみんみんなみんなみんな…
みんなで笑って死のう。
アリスの国は永延なのだから。
私の夢は永遠なのだから。
▽以降繰り返し
繰り返し
繰り返し
くりかえし
くr_かエsi
_ _ _ _
【 第■章︰ず■とい■■────────
最終章︰おヮЯe──】
──────は?
口から零れた声はたったそれだけでした。それが、久方ぶりに漏れ出た[私]としての声でした。
グラリガラリグニャリ…ガラガラガラ──
アンバランスな浮遊感に踊らされて足元に視線を降下させる。螺旋階段が崩れ始めたと、それに気づいたのは今更で。崩壊のカウントダウンすらなく唐突だった。積木崩しの罪崩しは瞬く間。時の流れはいと哀れ。は、時の流れ?そんなものはない。不能な時間などという約立たず此処には存在しないから。流れは輪廻転生の繰り返し。そのはずでしょう?
この世界は輪っかだ。フラフープなんだ…ほら、ふらふらグルグル…
……──────?
クエスチョンマーク。
理解は追いつかないというのに効率こそ第一主義の時間は実に無情で無条件。
勝手に巡り始めた歯車に乗せた走馬灯(これは走馬灯と呼べる代物か)、知らないうちに逆再生を始める。
するとスルスルと僕の記憶や僕の記憶や僕の記憶や僕の記憶が記憶が記憶が記憶が…支えを無くしたジェンガのように崩れていく。脳髄に焼き付いた焼き増しの思い出達が作り物の創造物に、想像物(フィクション)に変わっていく。塗り替えられていく。
ダメだダメ、巻け。早く卷け。
そのフィルムを巻き戻せ。
監督の指示が届かない。
無しだ無死。今日は此処までで解散しよう。
んなわけあるか馬鹿が。
そんなことすれば僕の時間がゼロの夢想に溶けて縺れた糸が解けてしまうだろうが。
た■■いつまで■繰■■しが■■■■■■■■■■■
砂嵐。テロップ。
恐れ入りますが、暫くお待ちください。
無音の罵倒吐き散らしたその刹那、目の前でフラッシュが焚かれた。真っ白に包まれた視界に目を瞑り、暫くしてまた、目を開く。
いつの間にやら[私]は、隙間だらけ穴だらけのスッカラカンな劇場に佇んでいた。
お客様のお邪魔になりますのでどうかご着席を。
アナウンス、五月蝿い。
一人の客人が喚いた。
エンドロールも流れてもこない映画なんて観る価値がない。
また一人、怒鳴った。
エンドロールは何処へ?結末は何処にやりやがった。
また一人また一人と罵倒喚きが飛び交って。
終いには素面でこんなところになど居られるかなどと顔のない客人共は一斉に席を立ち、劇場の外へと飛び出した。
無音、閑寂だけが残る劇場。酷い疲れに息を吐く。
──パチパチパチ…
手を叩く音が聴こえた。
たった一人の拍手喝采。
その音に振り返る。一角に座る[あれ]はなんだろう?アレは[誰]だろう?わからない?
いや、嘘…知ってる。
不敵な笑みを浮かべた高慢な彼奴の顔
此奴の顔は────
──────マ─エ──
暗転。
……──────
身体に宿る重力に沈められて、耐えきれず息を吸った。ヘッドギアや身体に繋がれた管がその反動で揺れる。浅い呼吸を繰り返し、徐々に脈打つ身体の感覚を全身に覚える。
「────は?」
皮肉も夢の幕閉じと同じ音が目覚めた私の産声で。
生まれ落ちたばかりだというのに嫌に頭は冴えていた。冴えていたけど、思考は追いつかず。わからない。理解不能。
自らを囲う四角い箱に手を掛けてその身を起こして。この私という赤子は寝返りをうつよりも先に覚えていたらしい。起こした際、軽い立ちくらみに僅かながら視界がブラックアウトしたが問題は無い。
瞬きをすることを忘れていた眼球が乾いていて、それにも構わずぐるりと視界を廻した。なんだ、首が据わっているのか。
私が赤子であるならば産声で泣き喚き、微温湯に艷られ、開かぬ目で母親を求めるはずだ。
しかしどういうわけか。私が目を開き、捉えた人物というのは愛しの我が母というわけではなく、寧ろ対になる存在。それを理解して尚、
「わ…から、ない…」
掠れた声を、零した。
理解不能。わからない。
だって、私は南国の島に居たはずだろう?僕は今からかがみんと海に行く予定だったんだ。急いで行かなきゃいけないのに。
理解不能。というより、現実逃避。は?現実?
わけがわからない。
道化アリスは今日も今日とて笑っていた。
カラカラ廻る風車みたいに彩る景色をぐるぐるぐるぐる。
[なんとまぁカラフルでキラキラ奇麗な世界。]
また君を殺して、また××を殺して、また僕を殺して、またまたまたまたの繰り返し。
──それを嗤う。
繰り返して塗りつぶして塗り変えればいつか君を救えるだろうと、救えなかった君を置いて逃げていく。幾つも折り重なる君を重ねては重ねてそれを上がるアリス。
螺旋階段は何処までも続いてく。
救えた君なんてまだ存在しない。それなのに、救えなかった君は笑うんだ。救えなかった僕に笑うんだ。何も知らない顔で僕と咲うんだ。
ごめんね、そんな罪悪感はとうに消えてしまった。
──だから嗤う。
この夢がこの世界がこの国が崩れさるとき、きっとアリスは初めて泣いたときの君のことを思い出して狂ったように笑うのでしょう。
此処には居ない君のことを思って、泣くのでしょう。
だから、それまではこの階段を上がることはやめない。
…──止めてたまるか。止めてやるものか。
みんな死ねみんな生きろみんなみんなみんなみんなみんなみんみんなみんなみんな…
みんなで笑って死のう。
アリスの国は永延なのだから。
私の夢は永遠なのだから。
▽以降繰り返し
繰り返し
繰り返し
くりかえし
くr_かエsi
_ _ _ _
【 第■章︰ず■とい■■────────
最終章︰おヮЯe──】
──────は?
口から零れた声はたったそれだけでした。それが、久方ぶりに漏れ出た[私]としての声でした。
グラリガラリグニャリ…ガラガラガラ──
アンバランスな浮遊感に踊らされて足元に視線を降下させる。螺旋階段が崩れ始めたと、それに気づいたのは今更で。崩壊のカウントダウンすらなく唐突だった。積木崩しの罪崩しは瞬く間。時の流れはいと哀れ。は、時の流れ?そんなものはない。不能な時間などという約立たず此処には存在しないから。流れは輪廻転生の繰り返し。そのはずでしょう?
この世界は輪っかだ。フラフープなんだ…ほら、ふらふらグルグル…
……──────?
クエスチョンマーク。
理解は追いつかないというのに効率こそ第一主義の時間は実に無情で無条件。
勝手に巡り始めた歯車に乗せた走馬灯(これは走馬灯と呼べる代物か)、知らないうちに逆再生を始める。
するとスルスルと僕の記憶や僕の記憶や僕の記憶や僕の記憶が記憶が記憶が記憶が…支えを無くしたジェンガのように崩れていく。脳髄に焼き付いた焼き増しの思い出達が作り物の創造物に、想像物(フィクション)に変わっていく。塗り替えられていく。
ダメだダメ、巻け。早く卷け。
そのフィルムを巻き戻せ。
監督の指示が届かない。
無しだ無死。今日は此処までで解散しよう。
んなわけあるか馬鹿が。
そんなことすれば僕の時間がゼロの夢想に溶けて縺れた糸が解けてしまうだろうが。
た■■いつまで■繰■■しが■■■■■■■■■■■
砂嵐。テロップ。
恐れ入りますが、暫くお待ちください。
無音の罵倒吐き散らしたその刹那、目の前でフラッシュが焚かれた。真っ白に包まれた視界に目を瞑り、暫くしてまた、目を開く。
いつの間にやら[私]は、隙間だらけ穴だらけのスッカラカンな劇場に佇んでいた。
お客様のお邪魔になりますのでどうかご着席を。
アナウンス、五月蝿い。
一人の客人が喚いた。
エンドロールも流れてもこない映画なんて観る価値がない。
また一人、怒鳴った。
エンドロールは何処へ?結末は何処にやりやがった。
また一人また一人と罵倒喚きが飛び交って。
終いには素面でこんなところになど居られるかなどと顔のない客人共は一斉に席を立ち、劇場の外へと飛び出した。
無音、閑寂だけが残る劇場。酷い疲れに息を吐く。
──パチパチパチ…
手を叩く音が聴こえた。
たった一人の拍手喝采。
その音に振り返る。一角に座る[あれ]はなんだろう?アレは[誰]だろう?わからない?
いや、嘘…知ってる。
不敵な笑みを浮かべた高慢な彼奴の顔
此奴の顔は────
──────マ─エ──
暗転。
……──────
身体に宿る重力に沈められて、耐えきれず息を吸った。ヘッドギアや身体に繋がれた管がその反動で揺れる。浅い呼吸を繰り返し、徐々に脈打つ身体の感覚を全身に覚える。
「────は?」
皮肉も夢の幕閉じと同じ音が目覚めた私の産声で。
生まれ落ちたばかりだというのに嫌に頭は冴えていた。冴えていたけど、思考は追いつかず。わからない。理解不能。
自らを囲う四角い箱に手を掛けてその身を起こして。この私という赤子は寝返りをうつよりも先に覚えていたらしい。起こした際、軽い立ちくらみに僅かながら視界がブラックアウトしたが問題は無い。
瞬きをすることを忘れていた眼球が乾いていて、それにも構わずぐるりと視界を廻した。なんだ、首が据わっているのか。
私が赤子であるならば産声で泣き喚き、微温湯に艷られ、開かぬ目で母親を求めるはずだ。
しかしどういうわけか。私が目を開き、捉えた人物というのは愛しの我が母というわけではなく、寧ろ対になる存在。それを理解して尚、
「わ…から、ない…」
掠れた声を、零した。
理解不能。わからない。
だって、私は南国の島に居たはずだろう?僕は今からかがみんと海に行く予定だったんだ。急いで行かなきゃいけないのに。
理解不能。というより、現実逃避。は?現実?
わけがわからない。
『分からない、じゃなくて。』
理解可能に対し、無情にも私はログデータを叩き込む。
分からない、で済まされて堪るか。あのコロシアイが、私の二年間が。ついでに、パーになってしまった、高級料理が。
『貴方の夢を終わらせに来たのよ。私が。ニノマエ、が。』
そうだ。
悪夢を、終わらせに来た。
女の子の秘密の花園なんてやつを、ぶち壊しに来た。
翼を失くした金糸雀は。
地に落ち声を失って。
黒に染まり、血に汚れ。
そして、数多の屍越えても。
それでも、前に進んで。
今。
天国―――妄想――――の扉に、折れた嘴を叩きつける。
『ほら――――"お前"がここに残っているんだから。
私が来ないわけないじゃない?』
にやりと笑い。
いきなり殴られやしないかと、実はややビビったりしながら。
まずは再開の挨拶をした。
理解可能に対し、無情にも私はログデータを叩き込む。
分からない、で済まされて堪るか。あのコロシアイが、私の二年間が。ついでに、パーになってしまった、高級料理が。
『貴方の夢を終わらせに来たのよ。私が。ニノマエ、が。』
そうだ。
悪夢を、終わらせに来た。
女の子の秘密の花園なんてやつを、ぶち壊しに来た。
翼を失くした金糸雀は。
地に落ち声を失って。
黒に染まり、血に汚れ。
そして、数多の屍越えても。
それでも、前に進んで。
今。
天国―――妄想――――の扉に、折れた嘴を叩きつける。
『ほら――――"お前"がここに残っているんだから。
私が来ないわけないじゃない?』
にやりと笑い。
いきなり殴られやしないかと、実はややビビったりしながら。
まずは再開の挨拶をした。
────……。
真っ白な[ヒトガタ]が(恐らく)僕に対して声を発していた。輪郭はぼんやりとしていて朧気。
その[ヒトガタ]から流れ出る音を無意味に耳が拾って、それを理解しようとしやがる。お陰様で[ヒトガタ]にこびり付いた靄は絡まった糸を引きちぎったかのように消え去り、[ニノマエ]という一つの型を作った。造りやがった。
夢の終焉に拍手を送った女がそこで僕に声を発していたのだ。
嗚呼、此奴があのニノマエか。
彼女を手前にして抱いた感想は酷く淡白でつまらない。言葉を理解してしまえば理解しましたと脳が勝手に解いていくから困る。
成程、狂った僕を夢という幻想から助けに来たと。理解理解。
いや、違うか此奴の場合は壊しに来たのか。理解理解理解。
──は、何処までも憎たらしく忌々しい奴。
もう一つ理解したこと。
どうやら私は[僕]に委ねて眠っている間に大分澱んだ思考になっていたらしい。それは元々かもしれないが。
冴えた脳が流れ込む思考に理解を繰り返す。
「──────っぅあ゙」
ふいの嗚咽。
彼女から目を背けるように背中を丸めて胸を抑えた。吐いてはいない。吐きそうになったわけではない。吐きたくはなったけど。
理解しすぎた頭に私がついていけていないだけ。これ以上の理解を拒絶しようと思考を掻き消そうと胸に当てた手を咄嗟に自らの首に伸ばして軽く絞め上げた。
絞め上げれば脈打つ首の静脈も動脈も指の先に嫌というほど感じて。
けど、脳は沸騰したお湯のように静まり返った。
手を離し、息を吸う。
肺いっぱいに満たして、
「──は、はは……おい糞天使ィ……テメェ人の望みに誰かが介入するのは駄目じゃなかったのか?…あぁ…ぁぁぁぁああ゙ぁあっ塞げんな巫山戯んな出てこい糞天使がっ!!僕の望みは[永遠]だろうが!?おい、おいおいおいっ
あっははははははははははははははははははは
これ以上僕を壊すなよ」
壊れたように彼女ではないナニカに罵倒を吐き散らした。
真っ白な[ヒトガタ]が(恐らく)僕に対して声を発していた。輪郭はぼんやりとしていて朧気。
その[ヒトガタ]から流れ出る音を無意味に耳が拾って、それを理解しようとしやがる。お陰様で[ヒトガタ]にこびり付いた靄は絡まった糸を引きちぎったかのように消え去り、[ニノマエ]という一つの型を作った。造りやがった。
夢の終焉に拍手を送った女がそこで僕に声を発していたのだ。
嗚呼、此奴があのニノマエか。
彼女を手前にして抱いた感想は酷く淡白でつまらない。言葉を理解してしまえば理解しましたと脳が勝手に解いていくから困る。
成程、狂った僕を夢という幻想から助けに来たと。理解理解。
いや、違うか此奴の場合は壊しに来たのか。理解理解理解。
──は、何処までも憎たらしく忌々しい奴。
もう一つ理解したこと。
どうやら私は[僕]に委ねて眠っている間に大分澱んだ思考になっていたらしい。それは元々かもしれないが。
冴えた脳が流れ込む思考に理解を繰り返す。
「──────っぅあ゙」
ふいの嗚咽。
彼女から目を背けるように背中を丸めて胸を抑えた。吐いてはいない。吐きそうになったわけではない。吐きたくはなったけど。
理解しすぎた頭に私がついていけていないだけ。これ以上の理解を拒絶しようと思考を掻き消そうと胸に当てた手を咄嗟に自らの首に伸ばして軽く絞め上げた。
絞め上げれば脈打つ首の静脈も動脈も指の先に嫌というほど感じて。
けど、脳は沸騰したお湯のように静まり返った。
手を離し、息を吸う。
肺いっぱいに満たして、
「──は、はは……おい糞天使ィ……テメェ人の望みに誰かが介入するのは駄目じゃなかったのか?…あぁ…ぁぁぁぁああ゙ぁあっ塞げんな巫山戯んな出てこい糞天使がっ!!僕の望みは[永遠]だろうが!?おい、おいおいおいっ
あっははははははははははははははははははは
これ以上僕を壊すなよ」
壊れたように彼女ではないナニカに罵倒を吐き散らした。
『壊しに、じゃない。』
ぶち壊しに来たのなら、最初の時点で、というか前回のゲームの時、殺害していた。間違いなく。
まあ、あのクソ天使が腹立たしいという意見は珍しく一致したが。
何やら私がいないようにされているのは、気に食わなくもないな。
『――――騙しに来たのさ。』
詐欺師がこれを言ってしまえばおしまいだが、私はそれでも勝てる気がしていた。
勝とうと決めていた。
詐欺師赤城結菜ではなく。
2年C組赤城結菜として。
『さて、帰りましょ。
こんな辛気臭い場所から。』
ぶち壊しに来たのなら、最初の時点で、というか前回のゲームの時、殺害していた。間違いなく。
まあ、あのクソ天使が腹立たしいという意見は珍しく一致したが。
何やら私がいないようにされているのは、気に食わなくもないな。
『――――騙しに来たのさ。』
詐欺師がこれを言ってしまえばおしまいだが、私はそれでも勝てる気がしていた。
勝とうと決めていた。
詐欺師赤城結菜ではなく。
2年C組赤城結菜として。
『さて、帰りましょ。
こんな辛気臭い場所から。』
幾ら喚き散らしても四畳半の四角い空間に反響するだけで虚しくも音は落下地点を見失う。そこに残る音が自身の鼓膜を震わせながら現実なんだと嘲ているようで一層腹ただしかった。
その腹ただしさから逃れるように[ニノマエ]の言葉を拾う。弾かれたように顔を上げて、目が合って。折れたかとでも錯覚しそうな程カクリと首を傾げた。
グシャリと、顔が歪む。
「……はぁぁぁあぁあぁぁぁ????」
行き場のない疑念と怒りとそれ全てを総じた虚無感を彼女に投げ出すように口から飛び出た疑問。
騙しに来たなぞ知るか。いや、そうだ。そうか、お前は騙してばかりだものね。知ってるよ。それで皆を騙したんだもの。私も騙された。いや、騙したのは私か。どうでもいい。ほら、だからなんだ?それが僕の世界を踏み潰す理由とでも?あの糞天使はそれを許したとでも?君は赦されたとでも?
巫山戯るのも大概にしてほしいものだ。
頭の中にはぐるぐるぐるぐると支離滅裂とした言葉の羅列が続いて。それすらも音にして吐き出してしまおうかと吐いた息をまた吸った。
それなのに、[ニノマエ]が[帰ろう]だなんていうから、頭からするりと抜け落ちた。
「…あぁ、うん、あは、勿論帰るよ。
僕の場所に僕の世界に帰らなきゃ…あはは、帰るから帰り道を邪魔しないでよ…ああ、早く……早く帰らなきゃ…帰らなきゃいけないんだよ僕はっ…
帰らせてくれよお願いだからっ!」
僕の世界に帰らせてくれよ。
此処は僕の居場所ではないのだから。
その腹ただしさから逃れるように[ニノマエ]の言葉を拾う。弾かれたように顔を上げて、目が合って。折れたかとでも錯覚しそうな程カクリと首を傾げた。
グシャリと、顔が歪む。
「……はぁぁぁあぁあぁぁぁ????」
行き場のない疑念と怒りとそれ全てを総じた虚無感を彼女に投げ出すように口から飛び出た疑問。
騙しに来たなぞ知るか。いや、そうだ。そうか、お前は騙してばかりだものね。知ってるよ。それで皆を騙したんだもの。私も騙された。いや、騙したのは私か。どうでもいい。ほら、だからなんだ?それが僕の世界を踏み潰す理由とでも?あの糞天使はそれを許したとでも?君は赦されたとでも?
巫山戯るのも大概にしてほしいものだ。
頭の中にはぐるぐるぐるぐると支離滅裂とした言葉の羅列が続いて。それすらも音にして吐き出してしまおうかと吐いた息をまた吸った。
それなのに、[ニノマエ]が[帰ろう]だなんていうから、頭からするりと抜け落ちた。
「…あぁ、うん、あは、勿論帰るよ。
僕の場所に僕の世界に帰らなきゃ…あはは、帰るから帰り道を邪魔しないでよ…ああ、早く……早く帰らなきゃ…帰らなきゃいけないんだよ僕はっ…
帰らせてくれよお願いだからっ!」
僕の世界に帰らせてくれよ。
此処は僕の居場所ではないのだから。
『まだやってるの貴方。』
何ら綺麗事は言わない。
まだやってるの?
その呆れと拒絶と、否定だけを突きつける。相手にどんな気持ちがあろうが、経験があろうが。
蹴り飛ばしてしまえ。
今更思いやりなんて噴き出してしまう。ここに来るまで何人切り捨てた事か。
過去に向かい歩く寂寞の荒野。
撒き散らされた白骨。
踏み砕いてきた希望。
愛情、友情、恋、夢、希望。
何もかも無い。
ただただ、ケリをつけるという妄念だけ。
なんて奴なら、このまま引きずり出したんだが―――――――!
紫織。
貴方を殺しておいて。
私はまだ、人間だったみたい。
陽だまりのようなあの笑顔に、悲しい顔でお別れをして。
私は向き合う。
うさぎに。
そして。
自分の有り得た未来に。
『かがみん、だったかしら……
アレ、貴方が殺したという認識であってるわよね。』
目を開き、息を吸い。
私は口火を切る。
颯爽吹き抜ける風が如く。
私は次弾を装填する。
弾とは、思い出。
銃身は、決意。
引き金は、意思。
薬室は、記憶。
さあ、激情の撃鉄を落とし。
叩きつけろ。
『それで"そう"なったんだったとしたら―――――………
バカバカしいわ。』
無論、銃口の先の………
うさぎの巣穴を穿つまで。
『悲しいことに、まあ実際、実にウザったいことに。
私達"騙した"人間には。
喪った人間には。
殺した人間には。
裏切った人間には。
果たさなきゃいけない責任があるのよ。何か、分かる――――?』
何ら綺麗事は言わない。
まだやってるの?
その呆れと拒絶と、否定だけを突きつける。相手にどんな気持ちがあろうが、経験があろうが。
蹴り飛ばしてしまえ。
今更思いやりなんて噴き出してしまう。ここに来るまで何人切り捨てた事か。
過去に向かい歩く寂寞の荒野。
撒き散らされた白骨。
踏み砕いてきた希望。
愛情、友情、恋、夢、希望。
何もかも無い。
ただただ、ケリをつけるという妄念だけ。
なんて奴なら、このまま引きずり出したんだが―――――――!
紫織。
貴方を殺しておいて。
私はまだ、人間だったみたい。
陽だまりのようなあの笑顔に、悲しい顔でお別れをして。
私は向き合う。
うさぎに。
そして。
自分の有り得た未来に。
『かがみん、だったかしら……
アレ、貴方が殺したという認識であってるわよね。』
目を開き、息を吸い。
私は口火を切る。
颯爽吹き抜ける風が如く。
私は次弾を装填する。
弾とは、思い出。
銃身は、決意。
引き金は、意思。
薬室は、記憶。
さあ、激情の撃鉄を落とし。
叩きつけろ。
『それで"そう"なったんだったとしたら―――――………
バカバカしいわ。』
無論、銃口の先の………
うさぎの巣穴を穿つまで。
『悲しいことに、まあ実際、実にウザったいことに。
私達"騙した"人間には。
喪った人間には。
殺した人間には。
裏切った人間には。
果たさなきゃいけない責任があるのよ。何か、分かる――――?』
「まだやってるやるさ。」
誰に一笑されようと罵倒されようと貶されようと。僕の劇場に客なんかゴミは必要ない。無人の席にただ独り座り続けてまた巻き戻す監督さえ居ればそれで成り立つのだ。そうすれば僕という偶像に私は胡座をかいていられるのだから。
やってやるさ。
歪な思想で歪んだ思考を歪む笑いで言葉で、その歪ささえ呑み込むと豪語してみせた。
なのに、
君の名前が不意打ちにも聞こえてきたから身は強ばって固まって。小刻みに震える指先を隠すように握りしめた。肺が小さく凝縮したような気持ち悪さに荒く息を吐く。
僕を見据えて咲う君の顔が頭に過ぎって、何人も何人も何人もの君が僕に笑っていたのが巻き戻されて
────オリジナルの君が過ぎって
「や、めて…」
思わず零れた静止の言葉に口を覆った。
それが意味もない想像のみに創造さらた延命処置に過ぎないことくらい理解していたからこそ、彼女の紡いだ言葉を拒絶する私の言葉が無意識に零れた。
救命なんて求めてない。
救済なんて求めてない。
「わ、わからない。他人の責任とか、僕には関係ないことだから。」
責任転嫁。誰にでもなく私への。積み重ねた私のうちの一人がやったことだと擦り付け、逃げ出そうと。目を逸らした。
誰に一笑されようと罵倒されようと貶されようと。僕の劇場に客なんかゴミは必要ない。無人の席にただ独り座り続けてまた巻き戻す監督さえ居ればそれで成り立つのだ。そうすれば僕という偶像に私は胡座をかいていられるのだから。
やってやるさ。
歪な思想で歪んだ思考を歪む笑いで言葉で、その歪ささえ呑み込むと豪語してみせた。
なのに、
君の名前が不意打ちにも聞こえてきたから身は強ばって固まって。小刻みに震える指先を隠すように握りしめた。肺が小さく凝縮したような気持ち悪さに荒く息を吐く。
僕を見据えて咲う君の顔が頭に過ぎって、何人も何人も何人もの君が僕に笑っていたのが巻き戻されて
────オリジナルの君が過ぎって
「や、めて…」
思わず零れた静止の言葉に口を覆った。
それが意味もない想像のみに創造さらた延命処置に過ぎないことくらい理解していたからこそ、彼女の紡いだ言葉を拒絶する私の言葉が無意識に零れた。
救命なんて求めてない。
救済なんて求めてない。
「わ、わからない。他人の責任とか、僕には関係ないことだから。」
責任転嫁。誰にでもなく私への。積み重ねた私のうちの一人がやったことだと擦り付け、逃げ出そうと。目を逸らした。
『は。
な訳ないでしょ。
逃げられる訳もない。
分からないわけも勿論、無い。
それを決断したのは―――――
貴方なんだから。』
私は、一刀両断する。
『だから。
貴方の責任は。想いは、貴方が大事にしなきゃいけないんだぜ。
たとえ何千回何万回ゲームをやろうが、かがみん、って奴と帰りたかったんじゃないの?
ならそれまで、嘘にはしなくたって良いじゃない。』
誰かが背中を押したから。
誰よりも大事な私の友達が、引くなと私に言ったから。
誰よりも大事な家族が、進めと私を騙すから。
誰よりも強い私の被害者が、生きたかったと、確かに泣いて叫んだのを聞いたから。
『殺したなら…その相手の命を、背負わなきゃいけない。
夢は何回でも見れる。けれど、命は取り返しがつかない。
だからこそ。
自分の命は、大事にしなきゃいけないし。それがいくら悲しくても、辛くても。
他人の命を背負ったんなら、歩かなきゃいけない義務はあるんだぜ。
……いいか兎。
いや。
桂木 巳之。』
前に、歩き出せた。
顔を押さえつけるようにして、私は逸らした目を向き合わせる。
『大事なやつなら尚更―――――
ちゃんと向き合うべきだ。
貴方の大事な人間はその幻の中に、確かに"居る"かも知れない。
けどなあ……!
お前が居るのは、どう足掻いても、現実なんだぜ。
そして。
そいつが行きたかったのも。
生きたかったのも。
その作り物じゃない現実なんだ。
なら、思い出ってやつを、かけがえの無い命を、記憶を。
見てやらないでどうする。
未来からじゃなきゃ、それらは見えないし。見ようとしなきゃ、見えないものなんだから。』
口調は、あいにく荒いし。
男みたいだけど。
まあ、青春だしね?
な訳ないでしょ。
逃げられる訳もない。
分からないわけも勿論、無い。
それを決断したのは―――――
貴方なんだから。』
私は、一刀両断する。
『だから。
貴方の責任は。想いは、貴方が大事にしなきゃいけないんだぜ。
たとえ何千回何万回ゲームをやろうが、かがみん、って奴と帰りたかったんじゃないの?
ならそれまで、嘘にはしなくたって良いじゃない。』
誰かが背中を押したから。
誰よりも大事な私の友達が、引くなと私に言ったから。
誰よりも大事な家族が、進めと私を騙すから。
誰よりも強い私の被害者が、生きたかったと、確かに泣いて叫んだのを聞いたから。
『殺したなら…その相手の命を、背負わなきゃいけない。
夢は何回でも見れる。けれど、命は取り返しがつかない。
だからこそ。
自分の命は、大事にしなきゃいけないし。それがいくら悲しくても、辛くても。
他人の命を背負ったんなら、歩かなきゃいけない義務はあるんだぜ。
……いいか兎。
いや。
桂木 巳之。』
前に、歩き出せた。
顔を押さえつけるようにして、私は逸らした目を向き合わせる。
『大事なやつなら尚更―――――
ちゃんと向き合うべきだ。
貴方の大事な人間はその幻の中に、確かに"居る"かも知れない。
けどなあ……!
お前が居るのは、どう足掻いても、現実なんだぜ。
そして。
そいつが行きたかったのも。
生きたかったのも。
その作り物じゃない現実なんだ。
なら、思い出ってやつを、かけがえの無い命を、記憶を。
見てやらないでどうする。
未来からじゃなきゃ、それらは見えないし。見ようとしなきゃ、見えないものなんだから。』
口調は、あいにく荒いし。
男みたいだけど。
まあ、青春だしね?
「わたしは──────……」
君を殺した今日が明日になれば塗り替えられる。なんてこともなくて昨日までの明日は今日になっての繰り返し。
それにも関わらず記憶も罪悪感も全て、歩いた分だけ厚くなる足の裏の皮みたいに痛みを消してしまうから。
繰り返されて窒息してしまいそうな、そんな現実と向き合うくらいなら、なんて。
同じ繰り返しでも違う繰り返しを選んだのに。
無残にも無情にも僕と私を引き剥がそうとするから、塞ぎこもうとしたのに。
思い出とか、記憶とか、感情とか、最初に君に出会ったときの何もかもが僕じゃなくて、
私が出会った、私に生きてほしいと笑った君が
心に突き刺したナイフを抜いたようにとめどなく溢れて止まらなくて。
謝りたかった。
本当は、
君を裏切ったこと、
謝れないこと
知ってる。
好いた君を捨てて自分本位に自分だけ救おうとした哀れな醜い歪んだ[桂木巳之]は、
紛れもなく私なんだ。
知ってた。
知ってたけど、逃げたくて、君を救えない現実から逃げたくて、永遠なんかあるはずないのに。
ごめんなさい。救えなかった君。自分本位に折り重ねた君も。笑いあった君も。幻想も架空も現実も。
僕は、私は、君を
「っあ、」
喉を捻ったような傷みに上擦った声が零れて。
声を発してしまえばそれを待っていたとでもいうように表情に亀裂が入って、全てに亀裂が入って、
「──あぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁうぅあ…」
咳を切ったように涙が溢れていた。
君の名前を呼んだときのように、泣いていた。
君を殺した今日が明日になれば塗り替えられる。なんてこともなくて昨日までの明日は今日になっての繰り返し。
それにも関わらず記憶も罪悪感も全て、歩いた分だけ厚くなる足の裏の皮みたいに痛みを消してしまうから。
繰り返されて窒息してしまいそうな、そんな現実と向き合うくらいなら、なんて。
同じ繰り返しでも違う繰り返しを選んだのに。
無残にも無情にも僕と私を引き剥がそうとするから、塞ぎこもうとしたのに。
思い出とか、記憶とか、感情とか、最初に君に出会ったときの何もかもが僕じゃなくて、
私が出会った、私に生きてほしいと笑った君が
心に突き刺したナイフを抜いたようにとめどなく溢れて止まらなくて。
謝りたかった。
本当は、
君を裏切ったこと、
謝れないこと
知ってる。
好いた君を捨てて自分本位に自分だけ救おうとした哀れな醜い歪んだ[桂木巳之]は、
紛れもなく私なんだ。
知ってた。
知ってたけど、逃げたくて、君を救えない現実から逃げたくて、永遠なんかあるはずないのに。
ごめんなさい。救えなかった君。自分本位に折り重ねた君も。笑いあった君も。幻想も架空も現実も。
僕は、私は、君を
「っあ、」
喉を捻ったような傷みに上擦った声が零れて。
声を発してしまえばそれを待っていたとでもいうように表情に亀裂が入って、全てに亀裂が入って、
「──あぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁうぅあ…」
咳を切ったように涙が溢れていた。
君の名前を呼んだときのように、泣いていた。
『……まあ、何。』
泣き出した彼女を一瞥し。
悔しげに口を尖らせつつ、敢えて、最初は冷たく……
まあ、恥ずかしいからな。
こっからさらに。
『生きてれば良いことあるぜ、とか。案外これから楽しいことだってあるかもな、とか。友達や恋愛だけが全てじゃない、とか。』
未来について、なんて。
過去しか見ていない私が。
『嘘かもしれない――――――』
お決まりのフレーズでは。
『けど。』
終わらないぜ。
『生きてみようじゃない。
私達は、生き残った人間は。
皆を背負って生きなきゃいけないんだから、どの道。
私も、頑張るから―――――
もう少し、頑張らない?』
かっこいいよ。
なんて、紫織の声が聞こえた気がした。一筋流れる涙と共に、私は微笑して。
手を、差し伸べる。
泣き出した彼女を一瞥し。
悔しげに口を尖らせつつ、敢えて、最初は冷たく……
まあ、恥ずかしいからな。
こっからさらに。
『生きてれば良いことあるぜ、とか。案外これから楽しいことだってあるかもな、とか。友達や恋愛だけが全てじゃない、とか。』
未来について、なんて。
過去しか見ていない私が。
『嘘かもしれない――――――』
お決まりのフレーズでは。
『けど。』
終わらないぜ。
『生きてみようじゃない。
私達は、生き残った人間は。
皆を背負って生きなきゃいけないんだから、どの道。
私も、頑張るから―――――
もう少し、頑張らない?』
かっこいいよ。
なんて、紫織の声が聞こえた気がした。一筋流れる涙と共に、私は微笑して。
手を、差し伸べる。
言葉は返さない。
というよりも言葉を紡ぐ暇もない程、涙と嗚咽が混じり合って喉から零れていたから。
あの時遊園地に置いてきた亡霊はもう此処にはいなかった。置いてくることが出来なかった彼女たちは次こそ、彼処に帰ったのかもしれない。
なんて
夢は少し泣いて覚めたら忘れて、
それでお終いなんだ。
悲しいけれど哀しくてもそれが現実。
残るのは私が残した足跡と今から歩む必要のある道と。
本当は今この瞬間だって逃げ出してしまいけれど、泣いていたら君の声が聞こえたんだ。
[つきのんには生きてほしい]
って。
背中を押してくれた。なんで今まで気づかなかったのか、わからないけれど。もしかしたらただ私の中での幻聴に過ぎないかもしれないけれど。
少なくとも、幻聴が聞こえるくらいには行きたいと、生きたいと願った。
罪を背負って、命を背負って、記憶も思い出も私自身も
だから、差し込んだその光に私は手を伸ばしていた。
「うん…うん……頑張る…生きてみる…生きて、頑張るから…」
漸く出せた声は相も変わらず上擦っていて。
それでも、手は確かに掴んでいた。
というよりも言葉を紡ぐ暇もない程、涙と嗚咽が混じり合って喉から零れていたから。
あの時遊園地に置いてきた亡霊はもう此処にはいなかった。置いてくることが出来なかった彼女たちは次こそ、彼処に帰ったのかもしれない。
なんて
夢は少し泣いて覚めたら忘れて、
それでお終いなんだ。
悲しいけれど哀しくてもそれが現実。
残るのは私が残した足跡と今から歩む必要のある道と。
本当は今この瞬間だって逃げ出してしまいけれど、泣いていたら君の声が聞こえたんだ。
[つきのんには生きてほしい]
って。
背中を押してくれた。なんで今まで気づかなかったのか、わからないけれど。もしかしたらただ私の中での幻聴に過ぎないかもしれないけれど。
少なくとも、幻聴が聞こえるくらいには行きたいと、生きたいと願った。
罪を背負って、命を背負って、記憶も思い出も私自身も
だから、差し込んだその光に私は手を伸ばしていた。
「うん…うん……頑張る…生きてみる…生きて、頑張るから…」
漸く出せた声は相も変わらず上擦っていて。
それでも、手は確かに掴んでいた。
『さて…じゃあ戻りましょ。』
いい具合でセレスティアが私を転生させてくれたらしい。
丁度、頃合だったようだ。
うさぎの手を握ったまま、私達は現実へと回帰する。
……が。
場所に文句をつけたい。
崖の真下だと?
サバイバルでもやらせる気か。
赤い月の差す、真っ暗な森。
巨大な恐竜の化石のように横たわったバス。そこは実に不吉で、死の香りが充満していた。
ついでに、我々が随分遅れて帰ったせいで救助も引き上げている。
おい。
色々失策だぜセレスティア。
『……あのクソ星人……』
と、ぼやいた辺りで。
私は―――――――
腹に激しい痛みを覚えて、もんどりうって転がされた。
どうやら蹴り飛ばされたらしい。
畜生、やってくれる。と思いながら、木の枝が口に入り、唇を切ったのを拭いつつ。
まだ痛みの残る身体を押して、うさぎを庇うように立つ。
だれだ?
いや、何だ?
なんて疑問に思う程私は馬鹿ではない。アゾートの追っ手。
私達を、ついでに、セレスティアを追うとしたら、彼らくらいしかいない……
「てめぇらが海神高校の生徒か。
お前達を連れてきゃあ、セレスティアも潰しやすくなる……あの出世したヤツらにだけ良い顔はさせてたまるかよ……」
なんて、リーダー格、か?
と思われる口調の荒い男のセリフが終わるが早いか。
がさ。
と、二つ程物陰から音がする。
三人、か………
少しばかり、やばいか――…
いや、本気でやばいな。
大方功を焦った奴らなのだろうが、全く踏んだり蹴ったりだ。
しゃりん、と刃物を出したのであろう鋭い金属音がし。
私は……
何も出来なかった。
『離れないでよねうさぎ。
良い?』
が、何かあるように嘘をつく。
いい具合でセレスティアが私を転生させてくれたらしい。
丁度、頃合だったようだ。
うさぎの手を握ったまま、私達は現実へと回帰する。
……が。
場所に文句をつけたい。
崖の真下だと?
サバイバルでもやらせる気か。
赤い月の差す、真っ暗な森。
巨大な恐竜の化石のように横たわったバス。そこは実に不吉で、死の香りが充満していた。
ついでに、我々が随分遅れて帰ったせいで救助も引き上げている。
おい。
色々失策だぜセレスティア。
『……あのクソ星人……』
と、ぼやいた辺りで。
私は―――――――
腹に激しい痛みを覚えて、もんどりうって転がされた。
どうやら蹴り飛ばされたらしい。
畜生、やってくれる。と思いながら、木の枝が口に入り、唇を切ったのを拭いつつ。
まだ痛みの残る身体を押して、うさぎを庇うように立つ。
だれだ?
いや、何だ?
なんて疑問に思う程私は馬鹿ではない。アゾートの追っ手。
私達を、ついでに、セレスティアを追うとしたら、彼らくらいしかいない……
「てめぇらが海神高校の生徒か。
お前達を連れてきゃあ、セレスティアも潰しやすくなる……あの出世したヤツらにだけ良い顔はさせてたまるかよ……」
なんて、リーダー格、か?
と思われる口調の荒い男のセリフが終わるが早いか。
がさ。
と、二つ程物陰から音がする。
三人、か………
少しばかり、やばいか――…
いや、本気でやばいな。
大方功を焦った奴らなのだろうが、全く踏んだり蹴ったりだ。
しゃりん、と刃物を出したのであろう鋭い金属音がし。
私は……
何も出来なかった。
『離れないでよねうさぎ。
良い?』
が、何かあるように嘘をつく。
手を引かれていつぶり(?)かに地に足を着けて飛び出した。崩壊した夢の出入口に振り返ることなくお別れを告げて。
しかしまぁ開いた現実は、まるで悪夢かしらんとでも首を傾げてしまいそうなくらい鬱蒼としていて。
理解の追いつかぬまま庇われるままトントン拍子に出来事は進んでいく。
パラノマかな?なんて錯覚しそうなくらい。
現実はこんなにも忙しいものだったか。
こちらの感覚が麻痺しているのか、
世界の感覚が麻痺しているのか、
どちらもか。
だけど、それに不安を覚えるよりも疑問が勝って、目の前の彼女に全てを委ねるしかないというのが妙に腹ただしい。
昨日の敵は今日の味方か?
何れにせよ思考が追いつくことは諦めて彼女の言葉に頷いた。
しかしまぁ開いた現実は、まるで悪夢かしらんとでも首を傾げてしまいそうなくらい鬱蒼としていて。
理解の追いつかぬまま庇われるままトントン拍子に出来事は進んでいく。
パラノマかな?なんて錯覚しそうなくらい。
現実はこんなにも忙しいものだったか。
こちらの感覚が麻痺しているのか、
世界の感覚が麻痺しているのか、
どちらもか。
だけど、それに不安を覚えるよりも疑問が勝って、目の前の彼女に全てを委ねるしかないというのが妙に腹ただしい。
昨日の敵は今日の味方か?
何れにせよ思考が追いつくことは諦めて彼女の言葉に頷いた。
刃物を振り回し迫る、私達と同じくらいの高校生。
三対二。やれそうな気は数的にするんだが、あちらは訓練なりなんなりされた強者にして狂者。
一筋縄ではいかない。
というか私より確実に強い。
ついでに、武器もない。
おしまいだ。
私は、なさけなくも言葉が出なくなっていた。白刃が煌めき振り下ろされるのを―――――――
『―――わお。青春だなあ、君たち。高校生が刃物振り回すなんて見たの、いつ以来かなあ。
元気で何より。』
止めた少女を見るまでは。
彼女の動きは、実に手慣れている。手にしたのはバール一本。
それをふり抜き、私に襲いかかる男の眉間に食い込ませ。
飄々と笑う。
まるで、私の師のように。
中学生位にしか見えない少女は、いとも容易く、武装し、訓練されたアゾートを這いつくばらせた。
『……どうした結菜ァ。
鳩が豆鉄砲食らったような顔をして……あ、あれかァ。
改めて名乗ってなかったしねぇ。結菜の友達?かな?
そこのお嬢さん。君ともまた会ったりしそうだし、一旦名乗りを上げてしまおう。』
まさか。
そんな気持ちが私に起こる。
そんなはずは。
理解を拒む。
或いは―――――
それは、希望に代わり。
『一一二三。いち、いちにさん、で、にのまえひふみ。
ま、結菜の保護者で――――
詐欺師だ。よろしく。』
私はまんまと騙された。
『ま、君達を助けに来た。
セレスティアの坊主からの依頼だあ。青葉だかなんだか、かな。
あのゴリラからの粋な計らいだよ。迎えに行けってね。
なんて……嘘かもしれないぜ。』
そして……安心し、気を失った。
で。まあ、語り部は俺になったりするわけだ。俺、一一二三に。
まあ、せいぜい。
騙されないようにな。
と、かっこつける時の話し方で俺は言葉を連ねる。
老若男女どれにでも化ける俺は、私は、こういう使い分けをする。
結菜にまで伝染してたのはあとから知ることになるんだが。
―――――今は、仕事からだ。
三対二。やれそうな気は数的にするんだが、あちらは訓練なりなんなりされた強者にして狂者。
一筋縄ではいかない。
というか私より確実に強い。
ついでに、武器もない。
おしまいだ。
私は、なさけなくも言葉が出なくなっていた。白刃が煌めき振り下ろされるのを―――――――
『―――わお。青春だなあ、君たち。高校生が刃物振り回すなんて見たの、いつ以来かなあ。
元気で何より。』
止めた少女を見るまでは。
彼女の動きは、実に手慣れている。手にしたのはバール一本。
それをふり抜き、私に襲いかかる男の眉間に食い込ませ。
飄々と笑う。
まるで、私の師のように。
中学生位にしか見えない少女は、いとも容易く、武装し、訓練されたアゾートを這いつくばらせた。
『……どうした結菜ァ。
鳩が豆鉄砲食らったような顔をして……あ、あれかァ。
改めて名乗ってなかったしねぇ。結菜の友達?かな?
そこのお嬢さん。君ともまた会ったりしそうだし、一旦名乗りを上げてしまおう。』
まさか。
そんな気持ちが私に起こる。
そんなはずは。
理解を拒む。
或いは―――――
それは、希望に代わり。
『一一二三。いち、いちにさん、で、にのまえひふみ。
ま、結菜の保護者で――――
詐欺師だ。よろしく。』
私はまんまと騙された。
『ま、君達を助けに来た。
セレスティアの坊主からの依頼だあ。青葉だかなんだか、かな。
あのゴリラからの粋な計らいだよ。迎えに行けってね。
なんて……嘘かもしれないぜ。』
そして……安心し、気を失った。
で。まあ、語り部は俺になったりするわけだ。俺、一一二三に。
まあ、せいぜい。
騙されないようにな。
と、かっこつける時の話し方で俺は言葉を連ねる。
老若男女どれにでも化ける俺は、私は、こういう使い分けをする。
結菜にまで伝染してたのはあとから知ることになるんだが。
―――――今は、仕事からだ。
時間の流れの速さに思考は廻らず。
生きると息巻いてすぐ暗転だなんて滑稽話にもならないな。なんて客観的に目の前を流れる光景に目だけ動かして。
──…
飄々としてやけに通る声が耳に届いて、顔を持ち上げれば見たことのない女がそこにいた。
私を庇うように抱いていた彼女の指先が震えていたのに気がついて、瞳を丸くしていたことに気がついて、目の前の女の言葉を聞いて。
ああ、なるほど。
ニノマエは一二三の写し鏡だったのか。
黙々とそんなこと理解して飲み込んで、
「とんだ喜劇ね。」
なんて笑ってしまった。
失礼。
まだ夢見つつな感覚が脳から抜けていないからつい。彼女にとっては夢の再会かもしれないけれど。
生きると息巻いてすぐ暗転だなんて滑稽話にもならないな。なんて客観的に目の前を流れる光景に目だけ動かして。
──…
飄々としてやけに通る声が耳に届いて、顔を持ち上げれば見たことのない女がそこにいた。
私を庇うように抱いていた彼女の指先が震えていたのに気がついて、瞳を丸くしていたことに気がついて、目の前の女の言葉を聞いて。
ああ、なるほど。
ニノマエは一二三の写し鏡だったのか。
黙々とそんなこと理解して飲み込んで、
「とんだ喜劇ね。」
なんて笑ってしまった。
失礼。
まだ夢見つつな感覚が脳から抜けていないからつい。彼女にとっては夢の再会かもしれないけれど。
「年頃の娘の恥ずかしい秘密をばらしていくスタイルには敬意を表するけれど、なんとかなる訳?
あと、喜劇とはご挨拶ね。
これでも、その……お、親が恋しくなったりも、するのよ。
こんな奴だけど。」
なんて、言われてしまうしな。
不覚だ。娘のために格好つけたかったのになあ。
さて、あと二人だが………厄介だなあ、としか言いようがない。
奇襲でやれるのはせいぜい一人までだと思われる。
ここからは真正面からの喧嘩、格闘となるが……どうだろ。
やれるかな。
やっぱり逃げるか。
『ああ、勿論さあ。
崖の上まで行けるように、夜光塗料で目印を付けた。車も停めてある。免許くらいあるだろ?
とっととその子を連れていけ。
俺はセレスティアの迎えで、高いホテルがとってあるんだ。』
さて、あのゴリラの財布から数万は飛ぶ訳だが。
まあ、良いか。
「でも貴方、中学生にしか見えないんだけど……免許は?」
そろそろ襲いかかって来た一人の振るうナイフを受け止め、膝を腹に叩き込み、後頭部にバールをぶち込む。
快
感
さて、あと一人。
うげ、マチェットかよ。
『戸籍のない奴をどう捕まえるんだか知りたいねぇ……』
がきん。
空気を切り裂く金属音。
鋼がぶつかりあい。
火花が爆ぜる。
そろそろ行ってくれねぇかな。
「…まあ良いわ。行くわよ、うさぎ。」
結菜は物分りが良くて助かった。
崖の天険の中の、ぎりぎり坂になっていて上がれる辺りまでつけた目印に沿い、うさぎとやらの手を引き、走り出そうとしている。
また語り部は交代かな。
あと、喜劇とはご挨拶ね。
これでも、その……お、親が恋しくなったりも、するのよ。
こんな奴だけど。」
なんて、言われてしまうしな。
不覚だ。娘のために格好つけたかったのになあ。
さて、あと二人だが………厄介だなあ、としか言いようがない。
奇襲でやれるのはせいぜい一人までだと思われる。
ここからは真正面からの喧嘩、格闘となるが……どうだろ。
やれるかな。
やっぱり逃げるか。
『ああ、勿論さあ。
崖の上まで行けるように、夜光塗料で目印を付けた。車も停めてある。免許くらいあるだろ?
とっととその子を連れていけ。
俺はセレスティアの迎えで、高いホテルがとってあるんだ。』
さて、あのゴリラの財布から数万は飛ぶ訳だが。
まあ、良いか。
「でも貴方、中学生にしか見えないんだけど……免許は?」
そろそろ襲いかかって来た一人の振るうナイフを受け止め、膝を腹に叩き込み、後頭部にバールをぶち込む。
快
感
さて、あと一人。
うげ、マチェットかよ。
『戸籍のない奴をどう捕まえるんだか知りたいねぇ……』
がきん。
空気を切り裂く金属音。
鋼がぶつかりあい。
火花が爆ぜる。
そろそろ行ってくれねぇかな。
「…まあ良いわ。行くわよ、うさぎ。」
結菜は物分りが良くて助かった。
崖の天険の中の、ぎりぎり坂になっていて上がれる辺りまでつけた目印に沿い、うさぎとやらの手を引き、走り出そうとしている。
また語り部は交代かな。
「私、うさぎじゃなくて巳之よ」
皮肉で返答しながらその場を彼女の親と言っていた女性に任せて立ち去る。
全く、とんだ青春ね。こんなものを青春とか、馬鹿みたいだなぁ。
目印とやらがついた車の助手席に乗り込んで、アクションシーンさながらの状況を窓から見やる。流石に暗くて何も見えるのは飛び交う火花だけだった。
「貴女のお母さん?お父さん?かっこいいね」
なんて零していた。
皮肉で返答しながらその場を彼女の親と言っていた女性に任せて立ち去る。
全く、とんだ青春ね。こんなものを青春とか、馬鹿みたいだなぁ。
目印とやらがついた車の助手席に乗り込んで、アクションシーンさながらの状況を窓から見やる。流石に暗くて何も見えるのは飛び交う火花だけだった。
「貴女のお母さん?お父さん?かっこいいね」
なんて零していた。
『ならニノマエって呼ぶのも禁止ね?赤城結菜、よ。
ちゃんと覚えといて巳之。
取り敢えず私の家まで走らせるわ。あそこは安全だから。』
エンジンをかけ、私は車を走らせる。あの放蕩詐欺師とは違い、私はちゃんと免許はあるから、安心してくれて良い。
因みに、私の家、というのは、一一二三住まう辺境の地の話では無く、この海神学園でのゲーム終了後に、喧嘩を売ったセレスティアから可及的速やかに雲隠れする為に、偽名で用意したマンションの一室のことだから、そちらもまた、安心してくれて良い。
第一、あそこはディーゼルの電車が走るような場所だしな。
忍びの里か何かだ。
簡単には行き来できない。
で、閑話休題。
別に、名前で呼んだことがないわけでも無いだろうに、なんとなくあのゲームの後だから違和感があり、何より何故か気恥しくて、少し気後れしながら名前を呼び。
『あれは私の叔父さんの友達。
厳密に言うと、父さんでも母さんでもないわ。後見人、ね。』
一応あのろくでなしの紹介をしてやってから、真っ暗な道を走らせていく。親のことは、友人の前では悪くいうものである。
なんて、くだらない意地を張っていれば、車に備え付けられた収納から、茶封筒が見える。
金に関して大人気ないアイツが?
と、一抹の不安すら覚えながら引き抜いた。片手運転は危ないので、必要かも分からぬ信号機にひっかかった時に、だが。
『ただ――かっこいいのは、悔しいけど認めておくわ。』
まあ。それは。
私がみんなの墓を作った南の島行きの飛行機のチケットで。
ついでに。
"金はセレスティアに無理矢理持たせたから心配するな(๑>ᴗ<๑)"
という、至極"らしい"メッセージが入っていた。
皮肉に思いながら、それを私はうさぎに……もとい、桂木の方へ放り投げ。
アクセルを踏んだ。
ちゃんと覚えといて巳之。
取り敢えず私の家まで走らせるわ。あそこは安全だから。』
エンジンをかけ、私は車を走らせる。あの放蕩詐欺師とは違い、私はちゃんと免許はあるから、安心してくれて良い。
因みに、私の家、というのは、一一二三住まう辺境の地の話では無く、この海神学園でのゲーム終了後に、喧嘩を売ったセレスティアから可及的速やかに雲隠れする為に、偽名で用意したマンションの一室のことだから、そちらもまた、安心してくれて良い。
第一、あそこはディーゼルの電車が走るような場所だしな。
忍びの里か何かだ。
簡単には行き来できない。
で、閑話休題。
別に、名前で呼んだことがないわけでも無いだろうに、なんとなくあのゲームの後だから違和感があり、何より何故か気恥しくて、少し気後れしながら名前を呼び。
『あれは私の叔父さんの友達。
厳密に言うと、父さんでも母さんでもないわ。後見人、ね。』
一応あのろくでなしの紹介をしてやってから、真っ暗な道を走らせていく。親のことは、友人の前では悪くいうものである。
なんて、くだらない意地を張っていれば、車に備え付けられた収納から、茶封筒が見える。
金に関して大人気ないアイツが?
と、一抹の不安すら覚えながら引き抜いた。片手運転は危ないので、必要かも分からぬ信号機にひっかかった時に、だが。
『ただ――かっこいいのは、悔しいけど認めておくわ。』
まあ。それは。
私がみんなの墓を作った南の島行きの飛行機のチケットで。
ついでに。
"金はセレスティアに無理矢理持たせたから心配するな(๑>ᴗ<๑)"
という、至極"らしい"メッセージが入っていた。
皮肉に思いながら、それを私はうさぎに……もとい、桂木の方へ放り投げ。
アクセルを踏んだ。
「赤城、結菜…わかった。」
何とも慣れぬ心地に了承のみを口にして。何せ私という人間はうさぎとは違い上辺程度でのみしか他人と関わることはしてこなかったから、こうも口悪く散々喚き散らしたり当たり散らした半ば宿敵のような人間と当たり前のように接するということは些か複雑である。
それはまぁ、致し方なし。
それからは無言で車のエンジンの音に耳を傾けて。先程の彼女の親…後継人とやらの話を聞いていた。
家族という存在も他人に近い私にとっては羨ましくも、よくはわからない立場の存在であって。
多分だけど、そんな存在がいることが彼女の支えなんだろうなと思ってもみた。
ふいに投げられた茶封筒に僅かに眉を顰めながら中身を見て、その手紙の内容にまた相好を崩すのだ。
こうもトントン拍子の危機的状況のその最中だというのに、私も大分神経が図太くなったようで。
「あぁ、うん…本当に……貴女達は眩しいね。」
貴女たち。私が出会った貴女たちは本当に眩しくて、羨ましくて、今もこれからも私はその眩しさに手を伸ばすのかもしれない。
なんて。
そのまま暗闇の中、横目に過ぎ去る景色を眺めていた。
何とも慣れぬ心地に了承のみを口にして。何せ私という人間はうさぎとは違い上辺程度でのみしか他人と関わることはしてこなかったから、こうも口悪く散々喚き散らしたり当たり散らした半ば宿敵のような人間と当たり前のように接するということは些か複雑である。
それはまぁ、致し方なし。
それからは無言で車のエンジンの音に耳を傾けて。先程の彼女の親…後継人とやらの話を聞いていた。
家族という存在も他人に近い私にとっては羨ましくも、よくはわからない立場の存在であって。
多分だけど、そんな存在がいることが彼女の支えなんだろうなと思ってもみた。
ふいに投げられた茶封筒に僅かに眉を顰めながら中身を見て、その手紙の内容にまた相好を崩すのだ。
こうもトントン拍子の危機的状況のその最中だというのに、私も大分神経が図太くなったようで。
「あぁ、うん…本当に……貴女達は眩しいね。」
貴女たち。私が出会った貴女たちは本当に眩しくて、羨ましくて、今もこれからも私はその眩しさに手を伸ばすのかもしれない。
なんて。
そのまま暗闇の中、横目に過ぎ去る景色を眺めていた。
意識が覚醒したのを感じれば、目を開けた。
目を覚ましたのは、棺の中。
あの世界に意識を飛ばしていたであろう、機械の中。
ようやく終わったんだ、僕のデスゲームは。
そんな感慨が去来する。
相手が誰かわからない、けれど学友であり知り合い、そんな極限状態でのデスゲーム。
悪趣味としか言えない、そんな催し物。
結果として、ゲームをクリアすることが出来ずに、セレスティアとしての役割を全うできずにいたけど、結果として、半数近くの命を救えたことを、喜んでおこう。
唯一、どうしようもない、不甲斐なさだけがあったとするなら、自分の彼女である芽唯のことを見つけ出せずに、救えたかどうかすら分かっていないということだけか。
なんて謝ろう。
きっと、ただでは済ませてくれない。
それ相応の代償を提示してくるかもしれない。
なんて、そんな少しズレた考えすらも、久しぶりで。
ようやく、僕は『柊 紀』に戻れたんだって、実感できた。
「…………さてと、まずは芽唯のこと探さなきゃな……」
生きて戻ってきてくれているかわからないけど。
きっとここにいるはず、誰かが救ってくれたはず。
そんな希望的観測だけ持って、棺の中から立ち上がって、普段と変わらない視点であたりを見回した。
――――“デスゲーム中と変わらない視点で”
「…………あれ?」
おかしい。
デスゲームは終わった。
こうして帰ってきた。
なんで、『エム』の時と視点が変わらないんだ?
いや、よくよく考えてみれば、Azoth側に肉体を持っていかれているのに、どうやって元に戻すつもりだったんだ?
まさか。
まさかまさかまさか。
そんな思考が一気に頭の中を駆け巡る。
慌てて辺りを見回して、鏡を見つければ猛ダッシュ。
そして鏡を見つめれば……
――――なんともまあ、可愛い金髪の女の子がいるではありませんか。
「嘘だこんなことぉぉぉお!!!!」
演技の入らない、ただただ純粋な悲鳴。
周りに人がいようがいまいが、関係なく叫んでいた。
なんで、『エム』のままなんだよ……
僕……彼女持ちなんだけど……
――――どんまい! 『ボク』!
そんなエムの声が頭に響いて、僕は鏡の前で膝を抱える羽目になりましたとさ。
目を覚ましたのは、棺の中。
あの世界に意識を飛ばしていたであろう、機械の中。
ようやく終わったんだ、僕のデスゲームは。
そんな感慨が去来する。
相手が誰かわからない、けれど学友であり知り合い、そんな極限状態でのデスゲーム。
悪趣味としか言えない、そんな催し物。
結果として、ゲームをクリアすることが出来ずに、セレスティアとしての役割を全うできずにいたけど、結果として、半数近くの命を救えたことを、喜んでおこう。
唯一、どうしようもない、不甲斐なさだけがあったとするなら、自分の彼女である芽唯のことを見つけ出せずに、救えたかどうかすら分かっていないということだけか。
なんて謝ろう。
きっと、ただでは済ませてくれない。
それ相応の代償を提示してくるかもしれない。
なんて、そんな少しズレた考えすらも、久しぶりで。
ようやく、僕は『柊 紀』に戻れたんだって、実感できた。
「…………さてと、まずは芽唯のこと探さなきゃな……」
生きて戻ってきてくれているかわからないけど。
きっとここにいるはず、誰かが救ってくれたはず。
そんな希望的観測だけ持って、棺の中から立ち上がって、普段と変わらない視点であたりを見回した。
――――“デスゲーム中と変わらない視点で”
「…………あれ?」
おかしい。
デスゲームは終わった。
こうして帰ってきた。
なんで、『エム』の時と視点が変わらないんだ?
いや、よくよく考えてみれば、Azoth側に肉体を持っていかれているのに、どうやって元に戻すつもりだったんだ?
まさか。
まさかまさかまさか。
そんな思考が一気に頭の中を駆け巡る。
慌てて辺りを見回して、鏡を見つければ猛ダッシュ。
そして鏡を見つめれば……
――――なんともまあ、可愛い金髪の女の子がいるではありませんか。
「嘘だこんなことぉぉぉお!!!!」
演技の入らない、ただただ純粋な悲鳴。
周りに人がいようがいまいが、関係なく叫んでいた。
なんで、『エム』のままなんだよ……
僕……彼女持ちなんだけど……
――――どんまい! 『ボク』!
そんなエムの声が頭に響いて、僕は鏡の前で膝を抱える羽目になりましたとさ。
こころちゃんには感謝している。
結果的に私を救ってくれたのは、彼女で間違いないだろう。最終的な陣営を見る限り、私が一番仲良くしたと言えるのは彼女だけ。
彼については、今回は気付いていない筈だから。
しかしまあ、この展開も案の定で。
「このまま、かあ…。」
立ち上がった時に視線が変わらなかったから、元の体に戻ることは無かったと察することは出来た。
不自由は特にない。
年齢的に若返っただけの事、それだけで騒ぐ理由は成立しない。
問題なのは、彼の方で。
「………やっぱり。」
エムちゃんの可憐な悲鳴が壁越しに聞こえる。
しかし、彼は私の彼氏…中身は男だ。
当然話しかけに向かうのだが、どうやら私もひねくれてしまったらしい。
「ねぇ…"メイ"。」
一芝居、うってみない?
…………。
いつの間にか、芽唯の方は少し性格が変わってしまった様だ。
多分私のせいだが…まあいい。
彼奴の素を見るのも愉しそうだ。
「煩いな、エム…寝起きが最悪だ。」
エムのいる一室に足を踏み入れ、瞼を擦る。
ここに来て演じていると思われるだろうが、あくまでもこれは私、メイの素だ。これでもし他の人だと勘違いされるなら其れもまたよし、サプライズ力が上がる。
「……ああ、そうか。そのままになってしまったのか…。」
恰も今気付いたかのように、エムの覗いていた鏡に近づき、姿を確認して肩を落とす。
身体中に巻いていた包帯はいつの間にか消えているが、会ったのは風呂でだけ。その時に包帯は巻いていないので、向こうから見て誰か悩む必要も無いだろう。
結果的に私を救ってくれたのは、彼女で間違いないだろう。最終的な陣営を見る限り、私が一番仲良くしたと言えるのは彼女だけ。
彼については、今回は気付いていない筈だから。
しかしまあ、この展開も案の定で。
「このまま、かあ…。」
立ち上がった時に視線が変わらなかったから、元の体に戻ることは無かったと察することは出来た。
不自由は特にない。
年齢的に若返っただけの事、それだけで騒ぐ理由は成立しない。
問題なのは、彼の方で。
「………やっぱり。」
エムちゃんの可憐な悲鳴が壁越しに聞こえる。
しかし、彼は私の彼氏…中身は男だ。
当然話しかけに向かうのだが、どうやら私もひねくれてしまったらしい。
「ねぇ…"メイ"。」
一芝居、うってみない?
…………。
いつの間にか、芽唯の方は少し性格が変わってしまった様だ。
多分私のせいだが…まあいい。
彼奴の素を見るのも愉しそうだ。
「煩いな、エム…寝起きが最悪だ。」
エムのいる一室に足を踏み入れ、瞼を擦る。
ここに来て演じていると思われるだろうが、あくまでもこれは私、メイの素だ。これでもし他の人だと勘違いされるなら其れもまたよし、サプライズ力が上がる。
「……ああ、そうか。そのままになってしまったのか…。」
恰も今気付いたかのように、エムの覗いていた鏡に近づき、姿を確認して肩を落とす。
身体中に巻いていた包帯はいつの間にか消えているが、会ったのは風呂でだけ。その時に包帯は巻いていないので、向こうから見て誰か悩む必要も無いだろう。
膝を抱えて蹲っていた僕に声をかけてきたそれに、首だけ向けて、その相手を確認した。
フェルナ
フレンド登録はしていなかったものの、確か一緒に風呂に入って、急に落ち込んでしまったように俯いたから、『エム』が撫でてやったんだったか。
彼女とはそれ以上の関わりはなかったとは思うが、まあいい。
「…………フェルナか……申し訳ないけど、こればっかりは許してくれよ……普通に男子高校生してたら幼女に成り代わったんだからさ……」
謝罪はする。
実際大声を出したのは僕なわけだし、そこを言い訳する理由もない。
ただ、叫ぶなと言うのは無理な話で。
そんな言い訳をしつつ、『エム』として取り繕う余裕もなくて。
フェルナ
フレンド登録はしていなかったものの、確か一緒に風呂に入って、急に落ち込んでしまったように俯いたから、『エム』が撫でてやったんだったか。
彼女とはそれ以上の関わりはなかったとは思うが、まあいい。
「…………フェルナか……申し訳ないけど、こればっかりは許してくれよ……普通に男子高校生してたら幼女に成り代わったんだからさ……」
謝罪はする。
実際大声を出したのは僕なわけだし、そこを言い訳する理由もない。
ただ、叫ぶなと言うのは無理な話で。
そんな言い訳をしつつ、『エム』として取り繕う余裕もなくて。
「男なのかよ。」
まあ、そういう反応は返さないとだな。
さて、どうしたものか。
「これからどう生活していくつもりだ?」
残念だが、高校生活は望めそうにない。
それは私の体も同じだろうが、エムに至っては私よりも更に幼い見た目を持つ。
「私ならギリギリ働けるかもしれないが、君は養ってもらう以外のビジョンが見えないんだが。」
何とも可哀想な事だが、例えセレスティアが自立を支援したとしても、見た目は存在の大幅を決める要素。
だから、確認を取っている。
まあ、そういう反応は返さないとだな。
さて、どうしたものか。
「これからどう生活していくつもりだ?」
残念だが、高校生活は望めそうにない。
それは私の体も同じだろうが、エムに至っては私よりも更に幼い見た目を持つ。
「私ならギリギリ働けるかもしれないが、君は養ってもらう以外のビジョンが見えないんだが。」
何とも可哀想な事だが、例えセレスティアが自立を支援したとしても、見た目は存在の大幅を決める要素。
だから、確認を取っている。
「別に、それはどうとでもなるさ……」
こんな姿になれば、書類でどうにかできるとしても、普通の高校生生活には戻れない。
しかし働くとしても、この姿では雇ってくれる場所なんてまずないだろうし、雇われたとしてもきっと危ないお仕事だ。
とはいえ、働ける場所はかろうじて見つけられる。
多少危なくても『ボク』ならば耐えられる。
妹を養わなければならないのに、こんな姿だからとかそんな情けないことは言っていられない。
だから、働くのはどうにでもなる。
僕が気にしてる問題というのは、別にあって……
「…………彼女がいるんだよ、僕」
まだ『柊 紀』だとは名乗っていないから気づかれてないだろうと、そう話を始めた。
まさか目の前にいる少女が姿の変わった彼女なんて思いもしない。
「その彼女に、申し訳ないんだ。
前の僕は、それなりに身長もあったし、目立っていた訳では無いけど、何とか彼女に吊りあった彼氏ではいれたと思うんだ……相手がどうだったかは分からないけどね……」
あくまで僕の主観、彼女がどう思っていたかは全く考慮に入れてないようなそんなもの。
だから、別に吊りあってたかどうかは後で直接聞けばいい。
生きていたら、だけど。
「……言い方はあれだけど、こんなちんちくりんになっちゃってさ……しかも、彼女の事見つけてあげられなかったし……
正直、不甲斐なさすぎて彼氏名乗っていいのかすら分からなくて……」
もはや愚痴になってるのは、それだけ気にしているから。
彼女には普通言えないようなことも、他人であるフェルナになら吐露できたと言うだけの話。
こんなこと言ったら、きっと芽唯を悲しませてしまうからと、言えなかったような心の内を、その場でポツポツと話していく。
「…………許してくれるかな、芽唯」
そんな最後の一言も、少し落ち込んだ声音で
こんな姿になれば、書類でどうにかできるとしても、普通の高校生生活には戻れない。
しかし働くとしても、この姿では雇ってくれる場所なんてまずないだろうし、雇われたとしてもきっと危ないお仕事だ。
とはいえ、働ける場所はかろうじて見つけられる。
多少危なくても『ボク』ならば耐えられる。
妹を養わなければならないのに、こんな姿だからとかそんな情けないことは言っていられない。
だから、働くのはどうにでもなる。
僕が気にしてる問題というのは、別にあって……
「…………彼女がいるんだよ、僕」
まだ『柊 紀』だとは名乗っていないから気づかれてないだろうと、そう話を始めた。
まさか目の前にいる少女が姿の変わった彼女なんて思いもしない。
「その彼女に、申し訳ないんだ。
前の僕は、それなりに身長もあったし、目立っていた訳では無いけど、何とか彼女に吊りあった彼氏ではいれたと思うんだ……相手がどうだったかは分からないけどね……」
あくまで僕の主観、彼女がどう思っていたかは全く考慮に入れてないようなそんなもの。
だから、別に吊りあってたかどうかは後で直接聞けばいい。
生きていたら、だけど。
「……言い方はあれだけど、こんなちんちくりんになっちゃってさ……しかも、彼女の事見つけてあげられなかったし……
正直、不甲斐なさすぎて彼氏名乗っていいのかすら分からなくて……」
もはや愚痴になってるのは、それだけ気にしているから。
彼女には普通言えないようなことも、他人であるフェルナになら吐露できたと言うだけの話。
こんなこと言ったら、きっと芽唯を悲しませてしまうからと、言えなかったような心の内を、その場でポツポツと話していく。
「…………許してくれるかな、芽唯」
そんな最後の一言も、少し落ち込んだ声音で
なんだ。
そうか。
おい、芽唯…聞いてたか?
そうだよ。
此奴は、しっかり見てるんだよ。
芽唯の事、愛してるんだよ。
「直接聞いてみないと解らない事だらけだから、私からは何も言えんな。」
そろそろ私の出番は終わりだろう。
しかし、まあ…なんだ。
芽唯の孤独を支えた身として。
ちょっとした事を話そう。
「私はそんな経験したことないから、あまり説得力は無いが。
きっと、彼女は喜んでる筈だ。
彼女も目立つ存在じゃなかったんだろう?つり合っていると思うなら、続いている時点で彼女もそう思っているよ。」
ああ…こんな事を言う柄じゃないのに、全く。
だが、悪くない。
「だからさ。」
これで芽唯の望み通りになったなら、此奴から沢山絞ってやる。
だから、信じろ。
「会った時には、君から抱いてあげればいい。」
そうか。
おい、芽唯…聞いてたか?
そうだよ。
此奴は、しっかり見てるんだよ。
芽唯の事、愛してるんだよ。
「直接聞いてみないと解らない事だらけだから、私からは何も言えんな。」
そろそろ私の出番は終わりだろう。
しかし、まあ…なんだ。
芽唯の孤独を支えた身として。
ちょっとした事を話そう。
「私はそんな経験したことないから、あまり説得力は無いが。
きっと、彼女は喜んでる筈だ。
彼女も目立つ存在じゃなかったんだろう?つり合っていると思うなら、続いている時点で彼女もそう思っているよ。」
ああ…こんな事を言う柄じゃないのに、全く。
だが、悪くない。
「だからさ。」
これで芽唯の望み通りになったなら、此奴から沢山絞ってやる。
だから、信じろ。
「会った時には、君から抱いてあげればいい。」
「…………今の僕のこと、受け入れて貰えるかな」
こんな幼女の姿になって。
男らしく彼女を守るなんてことも出来なくなって。
むしろ、もしかしたら守られる側に回ってしまうかもしれない、こんな姿。
そんな僕のことを、受け入れてもらえるんだろうか。
そこがとてつもなく、不安だ。
それが理由で振られたりなんかしたら、本格的に『エム』に体の主導権を握らせて僕は深いところで眠りにつく自信がある。
……ただ、こうしてここでうじうじしていても、どうにもならないのは確実。
向こうから見つけてもらう、なんて恥ずかしい真似は避けたい。
こっちから逢いに行く、そして受け入れて貰えるよう頑張る、今後の行動方針が決まった。
「……ごめんね、くだらない愚痴に付き合ってもらっちゃって。
もう大丈夫、色々と踏ん切りというか、諦めがついた。」
うじうじしていたのも、自分の体が女に、しかも幼女になっていたのに混乱していただけ。
中身はれっきとした『柊 紀』本人なのだ。
そう思うことにした。
『エム』が混ざっていることはとりあえず置いておくとして。
「そろそろ、探しに行くことにするよ、彼女のこと」
そう宣言して、立ち上がる。
言葉通り、探しに行こう。
彼女のことを抱きしめてやる為にも。
柄でもないけどね。
こんな幼女の姿になって。
男らしく彼女を守るなんてことも出来なくなって。
むしろ、もしかしたら守られる側に回ってしまうかもしれない、こんな姿。
そんな僕のことを、受け入れてもらえるんだろうか。
そこがとてつもなく、不安だ。
それが理由で振られたりなんかしたら、本格的に『エム』に体の主導権を握らせて僕は深いところで眠りにつく自信がある。
……ただ、こうしてここでうじうじしていても、どうにもならないのは確実。
向こうから見つけてもらう、なんて恥ずかしい真似は避けたい。
こっちから逢いに行く、そして受け入れて貰えるよう頑張る、今後の行動方針が決まった。
「……ごめんね、くだらない愚痴に付き合ってもらっちゃって。
もう大丈夫、色々と踏ん切りというか、諦めがついた。」
うじうじしていたのも、自分の体が女に、しかも幼女になっていたのに混乱していただけ。
中身はれっきとした『柊 紀』本人なのだ。
そう思うことにした。
『エム』が混ざっていることはとりあえず置いておくとして。
「そろそろ、探しに行くことにするよ、彼女のこと」
そう宣言して、立ち上がる。
言葉通り、探しに行こう。
彼女のことを抱きしめてやる為にも。
柄でもないけどね。
ああ…手に取るように解るよ、今の君。きっと、外見のコンプレックスが身に付いてしまったんだろう。
だが、その考えは全て無駄になるだろうな。今は何も言っていないが、"私"は普通じゃない。
人より人を求め、
人より人を受け入れる。
『孤独』はいつの間にか、彼女を愛で満たすための瓶になっていたのだろう。
「ああ、待て。私の本当の名前を告げておこう。」
さて、ネタばらしだ。
私は暫く消えるとしよう。
敢えてエムの道を邪魔するように立ち、膝を少し曲げる。そして君の額に手をおき、前髪をかきあげる。
さあ、見させてくれよ。
君達の"恋"ってやつを。
───────────────
その白い額に
私は唇をつけたのです。
「……………芽唯、薿芽唯。」
ちょっとずるくてごめんなさい。
でも、ありがとう。
途中で愛を諦めていたけれど、私達の友達が私をすくい上げてくれた。
だから、そのお礼は…貴方に。
でも、まずは…
「えっと…
────ただいま、紀くん。」
"帰還"を、示さなきゃね?
だが、その考えは全て無駄になるだろうな。今は何も言っていないが、"私"は普通じゃない。
人より人を求め、
人より人を受け入れる。
『孤独』はいつの間にか、彼女を愛で満たすための瓶になっていたのだろう。
「ああ、待て。私の本当の名前を告げておこう。」
さて、ネタばらしだ。
私は暫く消えるとしよう。
敢えてエムの道を邪魔するように立ち、膝を少し曲げる。そして君の額に手をおき、前髪をかきあげる。
さあ、見させてくれよ。
君達の"恋"ってやつを。
───────────────
その白い額に
私は唇をつけたのです。
「……………芽唯、薿芽唯。」
ちょっとずるくてごめんなさい。
でも、ありがとう。
途中で愛を諦めていたけれど、私達の友達が私をすくい上げてくれた。
だから、そのお礼は…貴方に。
でも、まずは…
「えっと…
────ただいま、紀くん。」
"帰還"を、示さなきゃね?
「……………………えっ」
零れたのは、そんなかすれ声だった。
つまり、どういうことだ? まだ状況が上手く把握出来ていない。
目覚めたばかりだからだろうか、まだ頭が上手く働かないみたいだ。
しぎる めゆい。
今目の前の彼女はそう言った。
シギル メユイ
この名前は、たしか……
薿 芽唯
僕のよく知っている名前で……
気がついたら、視界が滲んでいた。
目頭から何かが落ちていくのを感じていた。
「…………ひどいな……気づいてたなら、すぐに言ってくれればよかったのに……」
情けなかった。
向こうの世界で見つけてあげることが出来なくて、守ってあげることも出来なくて、そんな自分が、情けなかった。
恥ずかしかった。
僕は気づかないうちに、彼女に見せまいとしていた弱い部分を、さらけ出してしまったことになる。
失望させたくないからと、ひた隠しにしていた不安を赤裸々に語ってしまったことになる。
それは、とても恥ずかしかった。
そして、嬉しかった。
生きていてくれて嬉しかった。
帰ってきてくれて嬉しかった。
弱い僕を見ても受け入れてくれて嬉しかった。
まだ、僕のことを好きでいてくれて……
――――――――――嬉しかった
「うん……
――――――――――おかえり、芽唯」
帰ってきてくれた芽唯に、僕は笑顔をうかべることにした。
こんなことしか出来ない自分が、やっぱり情けないし、涙でひどい顔になってるかもしれないけれど。
精一杯、受け入れようと思ったから。
零れたのは、そんなかすれ声だった。
つまり、どういうことだ? まだ状況が上手く把握出来ていない。
目覚めたばかりだからだろうか、まだ頭が上手く働かないみたいだ。
しぎる めゆい。
今目の前の彼女はそう言った。
シギル メユイ
この名前は、たしか……
薿 芽唯
僕のよく知っている名前で……
気がついたら、視界が滲んでいた。
目頭から何かが落ちていくのを感じていた。
「…………ひどいな……気づいてたなら、すぐに言ってくれればよかったのに……」
情けなかった。
向こうの世界で見つけてあげることが出来なくて、守ってあげることも出来なくて、そんな自分が、情けなかった。
恥ずかしかった。
僕は気づかないうちに、彼女に見せまいとしていた弱い部分を、さらけ出してしまったことになる。
失望させたくないからと、ひた隠しにしていた不安を赤裸々に語ってしまったことになる。
それは、とても恥ずかしかった。
そして、嬉しかった。
生きていてくれて嬉しかった。
帰ってきてくれて嬉しかった。
弱い僕を見ても受け入れてくれて嬉しかった。
まだ、僕のことを好きでいてくれて……
――――――――――嬉しかった
「うん……
――――――――――おかえり、芽唯」
帰ってきてくれた芽唯に、僕は笑顔をうかべることにした。
こんなことしか出来ない自分が、やっぱり情けないし、涙でひどい顔になってるかもしれないけれど。
精一杯、受け入れようと思ったから。
私は最低だ。
この時までずっと正体を隠し、最悪のタイミングで明かし、彼に涙を流させてしまったのだから。
でも、私は彼の幼い身体を抱きしめる。
「ごめんなさい…
ごめんなさい…
ごめんなさい…。」
何度も謝った。
幾ら謝っても謝り足りないのに、何度も謝った。
そして、私は彼の肩を濡らしてしまう。
「……っ、…っ…───っ!」
声にもならない嗚咽を洩らして、泣くのを必死に我慢している。
でも、私の涙腺は言うことを聞いてくれない。
ずっと涙を流し続けるのではないか…私ですらそう錯覚してしまうかのように。
でも、私は感じた。
きっと、彼は私に、妹とは違う感情を持つているんだって。
それが、恋なんだって。
この時までずっと正体を隠し、最悪のタイミングで明かし、彼に涙を流させてしまったのだから。
でも、私は彼の幼い身体を抱きしめる。
「ごめんなさい…
ごめんなさい…
ごめんなさい…。」
何度も謝った。
幾ら謝っても謝り足りないのに、何度も謝った。
そして、私は彼の肩を濡らしてしまう。
「……っ、…っ…───っ!」
声にもならない嗚咽を洩らして、泣くのを必死に我慢している。
でも、私の涙腺は言うことを聞いてくれない。
ずっと涙を流し続けるのではないか…私ですらそう錯覚してしまうかのように。
でも、私は感じた。
きっと、彼は私に、妹とは違う感情を持つているんだって。
それが、恋なんだって。
あのゲームからなんとか生還させてもらってから三日が経った。他のクラスメイトがどうなっているかはわからないが…私はとある事情で予想より早く社会復帰することが叶っていた。
「ぜん…っ、ぜん、わかりません…っ!!」
「お前…聞いてたより頭悪くなってねぇか?」
だけど、別のクラスに編入されて、今まで通り『そのまんま<八津柱錵>として』授業を受けることになった私は…致命的なレベルまで学力が下がっていたことに関して絶望に追い込まれそうになっていた。
(たった、あれだけの期間にあたしの学力になにが!?)
平均点数75点だったのに…まさか、30点な科目が出てしまうなんて誰が予想できたのだろうか。
「……うぅ、まさか『髪が短くなっただけ』という言い訳が通るとは…」
セレスティアな人たちに目が覚めて早々『八津柱錵としてそのまんま生きる』と、冗談のつもりで言ったら…まさかそのまま家族の元へ返されてしまうとは思いませんでした。
「それだけお前のその姿が変わってないんだろうな」
髪を切ったら印象変わるでしょう?悲しいことに多少の違和感は髪とストレスのせいにされたんですよ。クラスメイトですら、対して代わりもしない偽りの姿を見て気づいてくれなかったのに!!
「そりゃ、根倉な前髪のせいだろ。」
今すぐ箒でぶっ叩きたいけど、このアクロバティックニートゴリーラの言葉が否定できない。とりあえず、今は明日のテストに集中しよう。早く、セレスティアに保護された皆にサーカスの招待状を届けられるといいなぁ…。
「ぜん…っ、ぜん、わかりません…っ!!」
「お前…聞いてたより頭悪くなってねぇか?」
だけど、別のクラスに編入されて、今まで通り『そのまんま<八津柱錵>として』授業を受けることになった私は…致命的なレベルまで学力が下がっていたことに関して絶望に追い込まれそうになっていた。
(たった、あれだけの期間にあたしの学力になにが!?)
平均点数75点だったのに…まさか、30点な科目が出てしまうなんて誰が予想できたのだろうか。
「……うぅ、まさか『髪が短くなっただけ』という言い訳が通るとは…」
セレスティアな人たちに目が覚めて早々『八津柱錵としてそのまんま生きる』と、冗談のつもりで言ったら…まさかそのまま家族の元へ返されてしまうとは思いませんでした。
「それだけお前のその姿が変わってないんだろうな」
髪を切ったら印象変わるでしょう?悲しいことに多少の違和感は髪とストレスのせいにされたんですよ。クラスメイトですら、対して代わりもしない偽りの姿を見て気づいてくれなかったのに!!
「そりゃ、根倉な前髪のせいだろ。」
今すぐ箒でぶっ叩きたいけど、このアクロバティックニートゴリーラの言葉が否定できない。とりあえず、今は明日のテストに集中しよう。早く、セレスティアに保護された皆にサーカスの招待状を届けられるといいなぁ…。
『………………良し、少し此処で待とうか。』
さて、公園に戻って来た。
何気に此処が一番安全で……そして、落ち着いているんだ。
だったら、ここに来て残り時間を過ごすのも悪くは無いだろう?
…………つまりはそういう事さ。
なんて、こんな事をいつまでやっていられるかわからないからね……。
早く終わってくれよ、ゲームなんて。
『………………おや、こんな物あったかな…?』
それは、ヒガンバナが倒れていた場所の近く。
見つけたのは一つの仮面。
それを見て、すぐに分かった。
……これは…Celestiaの物ではないかと。
────理由?
……単純な話さ。
これは、Azothにもあるからね。
まあ、私は使わなかったけど……最後に少し、振り返るのも面白いと思うだろう?
『……ヒガンバナを刺したやつの物かな?
…………まあ、どうせ取りに来る気がするし、渡してあげるとしようか…。
もう、ゲームは終わったんだからね。』
誰の物か、なんて……正直どうでもいい。
暇つぶしになってくれれば、あとはなんだって構わない。
……さぁ、誰が来るんだろうね…?
さて、公園に戻って来た。
何気に此処が一番安全で……そして、落ち着いているんだ。
だったら、ここに来て残り時間を過ごすのも悪くは無いだろう?
…………つまりはそういう事さ。
なんて、こんな事をいつまでやっていられるかわからないからね……。
早く終わってくれよ、ゲームなんて。
『………………おや、こんな物あったかな…?』
それは、ヒガンバナが倒れていた場所の近く。
見つけたのは一つの仮面。
それを見て、すぐに分かった。
……これは…Celestiaの物ではないかと。
────理由?
……単純な話さ。
これは、Azothにもあるからね。
まあ、私は使わなかったけど……最後に少し、振り返るのも面白いと思うだろう?
『……ヒガンバナを刺したやつの物かな?
…………まあ、どうせ取りに来る気がするし、渡してあげるとしようか…。
もう、ゲームは終わったんだからね。』
誰の物か、なんて……正直どうでもいい。
暇つぶしになってくれれば、あとはなんだって構わない。
……さぁ、誰が来るんだろうね…?
「…」
…さあ、最後の最後。その仕上げのために。私は、公園に戻ってきた。
ここは、私がヒガンバナを刺した場所。…ひとつの命を、無意味へと還元した、その場所だ。
「…ああ、あなたは。」
その時の蜃気楼が、まだ燻るような。紅きヒガンバナを咲かせたその光景の近くに、立っている人影。
「…ロティ、だったわね。」
そういって、ただ何も警戒すらせず、不用心に近づいて行った。…全ては終わったのだ。何も警戒することはないだろう。…ただ、あとは私の“エゴ”を、貫き通すだけ。
「…ああ、その仮面。」
それは、私のものだった。…私にとって、最後の鍵となる。そんなもの。
きっと、そんなことを言ってもなんの事か分かりゃしないだろう。でも、必要なんだ。…最後の、本当に最後の布石のために。
だから、私はまた、仮面を被ることにする。だから、その仮面を探しに来た。
「拾って、くれたのね。」
巡る思考のなか。仮面に対する様々な感情がクルクルと湧き上がって。こころの内に沈んで行った。
ああ、きっとこれがなければいつか、私は壊れていたんだろう。ひび割れた心の表面に、潤滑油を1滴。…少しだけ、本心を話せるよう、声を出せるよう。しっかりと相手の前に立って。
「ありがとう。」
そうして、錆を落としていく。
…さあ、最後の最後。その仕上げのために。私は、公園に戻ってきた。
ここは、私がヒガンバナを刺した場所。…ひとつの命を、無意味へと還元した、その場所だ。
「…ああ、あなたは。」
その時の蜃気楼が、まだ燻るような。紅きヒガンバナを咲かせたその光景の近くに、立っている人影。
「…ロティ、だったわね。」
そういって、ただ何も警戒すらせず、不用心に近づいて行った。…全ては終わったのだ。何も警戒することはないだろう。…ただ、あとは私の“エゴ”を、貫き通すだけ。
「…ああ、その仮面。」
それは、私のものだった。…私にとって、最後の鍵となる。そんなもの。
きっと、そんなことを言ってもなんの事か分かりゃしないだろう。でも、必要なんだ。…最後の、本当に最後の布石のために。
だから、私はまた、仮面を被ることにする。だから、その仮面を探しに来た。
「拾って、くれたのね。」
巡る思考のなか。仮面に対する様々な感情がクルクルと湧き上がって。こころの内に沈んで行った。
ああ、きっとこれがなければいつか、私は壊れていたんだろう。ひび割れた心の表面に、潤滑油を1滴。…少しだけ、本心を話せるよう、声を出せるよう。しっかりと相手の前に立って。
「ありがとう。」
そうして、錆を落としていく。
『あぁ……こころじゃないか。』
仮面を取りに来たのは、かつてのあの子。
『なるほどね……。』
そうか……君もなんだね…こころ。
『君“も”……。』
なんて、思わせぶりに、私は振る舞うのさ。
『Celestia……だったんだね?』
CelestiaとAzoth……敵同士の、仮面。
これは、君の立場を示す物なのかな?
……まぁ…もう、終わった事さ。
『…………タワーでは、上手く行ったかな?
誰か、助けに行ったとか…そんな感じだろう?
…………花は、届いただろうか…。』
タワーに駆けていく君を見た。
何かを成し遂げに向かう君を見た。
誰かを助ける君を見た。
……まぁ、それは構わないんだ。
花が届こうが届かまいが……全ては現場の人次第。
私は、何もしていないのだからね。
『…まあ良いさ。
…………なぁ、こころ…君は、誰と帰るんだい?』
私は仮面を手渡して、もう1つの仮面を手に取った。
被るかどうか、考えた事もあったさ。
……けど、最後まで使わなかったね。
…………この、Azoth側の面は。
なんて…思いながら、仮面を片手に問い掛けるのさ。
───君は、誰と帰る?
仮面を取りに来たのは、かつてのあの子。
『なるほどね……。』
そうか……君もなんだね…こころ。
『君“も”……。』
なんて、思わせぶりに、私は振る舞うのさ。
『Celestia……だったんだね?』
CelestiaとAzoth……敵同士の、仮面。
これは、君の立場を示す物なのかな?
……まぁ…もう、終わった事さ。
『…………タワーでは、上手く行ったかな?
誰か、助けに行ったとか…そんな感じだろう?
…………花は、届いただろうか…。』
タワーに駆けていく君を見た。
何かを成し遂げに向かう君を見た。
誰かを助ける君を見た。
……まぁ、それは構わないんだ。
花が届こうが届かまいが……全ては現場の人次第。
私は、何もしていないのだからね。
『…まあ良いさ。
…………なぁ、こころ…君は、誰と帰るんだい?』
私は仮面を手渡して、もう1つの仮面を手に取った。
被るかどうか、考えた事もあったさ。
……けど、最後まで使わなかったね。
…………この、Azoth側の面は。
なんて…思いながら、仮面を片手に問い掛けるのさ。
───君は、誰と帰る?
「…ああ、あの悪趣味な花、ね。」
悪趣味。本当に、悪趣味だ。あんなもの。…あんな、人の決意を固めさせるような、人の背中を押してくるような、そんな献花は。
…ああ、だから、あなたには義務がある。…最後の。私と、あと一人に対する布石を。
あなたに託して、そして、誰かに繋げるために。
「…それは。」
ああ、そんなのきまっている。しっかり。しっかりと“二人”連れて帰るよ。…でも。
「…私は、フェルナお姉ちゃんと…あと。あと一人を連れて帰るわ。」
ああ、そのあと一人。少しだけ、めんどくさい所にいるから。だから。
「だから、一つお願いがあるの。」
ずっと考えていた。私に出来ることってなんだろうって。
そして、その考えはいつの間にか使命になっていた。…私は、セレスティア。なら、やることはなんだ?
…誰かを、救うことだろう?
「…これを、エムお姉ちゃんに渡して。」
そう言って差し出したのは1枚のメモ。…本当は、口頭で伝えた方が良かったんだろうけど。その時間は、あいにく炎の海へと沈んでいってしまった。
…繰り返す思考の中。最後の願いはなんだろう。ずっと考えていた。
“情事” “優しい愛“ “絆”
ヒルガオの花の花言葉。それを見て、やっと決心がついた。…もう、なら、やるしかないでしょう?
「フェルナお姉ちゃんは、仲間の人に任せる。…私はね。私にしかできないことをやるの。」
そう。きっと、それは“こころ”には出来なくて“私”には出来ること。
“狂人”にしかわからない発想。“私”には分からなくて、“こころ”には分かる発想。
きっと“私”にはわからない。“こころ”には出来ない。なら。
…なら、“あいごころ。” になら出来てるだろう?
「だから、お願い。」
この言葉を。この呪いを。あなたに。あなた達に送ろう。
潤滑油はまいた。最後のピースを今、はませるために。
狂ってしまった未来への歯車を回すため。
小さな蜘蛛の糸として、薄く、小さく、垂らしてしまうために。
「私を、私たちに…いつかでいい。手を、差しのべて。私たちをどうか、助けてください。…頼らせて、下さい。」
――――この言葉を、送ろう。
悪趣味。本当に、悪趣味だ。あんなもの。…あんな、人の決意を固めさせるような、人の背中を押してくるような、そんな献花は。
…ああ、だから、あなたには義務がある。…最後の。私と、あと一人に対する布石を。
あなたに託して、そして、誰かに繋げるために。
「…それは。」
ああ、そんなのきまっている。しっかり。しっかりと“二人”連れて帰るよ。…でも。
「…私は、フェルナお姉ちゃんと…あと。あと一人を連れて帰るわ。」
ああ、そのあと一人。少しだけ、めんどくさい所にいるから。だから。
「だから、一つお願いがあるの。」
ずっと考えていた。私に出来ることってなんだろうって。
そして、その考えはいつの間にか使命になっていた。…私は、セレスティア。なら、やることはなんだ?
…誰かを、救うことだろう?
「…これを、エムお姉ちゃんに渡して。」
そう言って差し出したのは1枚のメモ。…本当は、口頭で伝えた方が良かったんだろうけど。その時間は、あいにく炎の海へと沈んでいってしまった。
…繰り返す思考の中。最後の願いはなんだろう。ずっと考えていた。
“情事” “優しい愛“ “絆”
ヒルガオの花の花言葉。それを見て、やっと決心がついた。…もう、なら、やるしかないでしょう?
「フェルナお姉ちゃんは、仲間の人に任せる。…私はね。私にしかできないことをやるの。」
そう。きっと、それは“こころ”には出来なくて“私”には出来ること。
“狂人”にしかわからない発想。“私”には分からなくて、“こころ”には分かる発想。
きっと“私”にはわからない。“こころ”には出来ない。なら。
…なら、“あいごころ。” になら出来てるだろう?
「だから、お願い。」
この言葉を。この呪いを。あなたに。あなた達に送ろう。
潤滑油はまいた。最後のピースを今、はませるために。
狂ってしまった未来への歯車を回すため。
小さな蜘蛛の糸として、薄く、小さく、垂らしてしまうために。
「私を、私たちに…いつかでいい。手を、差しのべて。私たちをどうか、助けてください。…頼らせて、下さい。」
――――この言葉を、送ろう。
『………………その願い、聞き入れよう。』
全く……何処までお人好しを貫くのかな。
───私も……君も……。
その願いを聞く為に、私は仮面を片手に持って。
右から左へ、流す。
右から……顔を半分覗かせて。
「─────僕が。」
これで最後……。
今度は……左へ、反対の顔を覗かせて。
「─────俺が。」
…………聞き届けよう。
仮面を外し、顔を全てこころに晒し。
『─────私が。』
そのピースを、嵌める為に……いつか。
君たちに、手を差し伸べて、助け出そう。
その歯車を回すのは……私が多少の手助けをしよう。
…………なぁ、そうだろう?
だから…待っていてくれ。
君たちは…………私が、連れて帰るさ。
『…………じゃあ、最後にこれを。』
嗚呼……これも、悪趣味だ。
けど、悪趣味だから、此処で君に渡すのさ。
最後の献花……受け取っておくれ。
何時もの言葉と共に贈ろう。
『君達の大地からの祝福を……君に捧げよう。』
この献花は、助けに行く君へ。
誰かを助ける為の活力となりますように。
私は、直接支える事は出来ない。
…………から、変わりにもう一度。
こころに花を……捧げよう。
『さぁ、これで最後だ。
…………君に、幸多からん事を…。』
あいごころという、小さな騎士の大きな決意。
邪魔するのではなく、応援しよう。
……最後まで、私らしく。
……最後まで、Azothとして。
捧げよう……この花を。
『ポインセチアの花を……ね。』
最後は直接……ちょっぴり特別に。
ポインセチアの花を……あいごころの髪飾りとして。
花言葉と共に行くと良い。
今は……私からこころへ。
『私からこころへ贈る花言葉は、“祝福”と“幸運を祈る”の2つだ、そして……。』
これは、こころからその人へ、贈るといい。
どう思うか分からないけど……まあ、出来ればで構わないさ。
さて、もう1つの言葉の時間だ。
『相手には、“元気を出しなさい”……と、言う意味で、こころから渡してやるといい。
……その為に、二本用意したのさ。』
こころの髪飾りとして、二本のポインセチアを用意した。
それを伝えて、こころの前に屈み込む。
『…君の使命、果たしに行くといい。
───行っておいで、こころ。』
これで……最後さ。
私はこころの頭をそっと撫でてやる。
応援になるかは分からない……けど、これが私に出来る事だから。
全く……何処までお人好しを貫くのかな。
───私も……君も……。
その願いを聞く為に、私は仮面を片手に持って。
右から左へ、流す。
右から……顔を半分覗かせて。
「─────僕が。」
これで最後……。
今度は……左へ、反対の顔を覗かせて。
「─────俺が。」
…………聞き届けよう。
仮面を外し、顔を全てこころに晒し。
『─────私が。』
そのピースを、嵌める為に……いつか。
君たちに、手を差し伸べて、助け出そう。
その歯車を回すのは……私が多少の手助けをしよう。
…………なぁ、そうだろう?
だから…待っていてくれ。
君たちは…………私が、連れて帰るさ。
『…………じゃあ、最後にこれを。』
嗚呼……これも、悪趣味だ。
けど、悪趣味だから、此処で君に渡すのさ。
最後の献花……受け取っておくれ。
何時もの言葉と共に贈ろう。
『君達の大地からの祝福を……君に捧げよう。』
この献花は、助けに行く君へ。
誰かを助ける為の活力となりますように。
私は、直接支える事は出来ない。
…………から、変わりにもう一度。
こころに花を……捧げよう。
『さぁ、これで最後だ。
…………君に、幸多からん事を…。』
あいごころという、小さな騎士の大きな決意。
邪魔するのではなく、応援しよう。
……最後まで、私らしく。
……最後まで、Azothとして。
捧げよう……この花を。
『ポインセチアの花を……ね。』
最後は直接……ちょっぴり特別に。
ポインセチアの花を……あいごころの髪飾りとして。
花言葉と共に行くと良い。
今は……私からこころへ。
『私からこころへ贈る花言葉は、“祝福”と“幸運を祈る”の2つだ、そして……。』
これは、こころからその人へ、贈るといい。
どう思うか分からないけど……まあ、出来ればで構わないさ。
さて、もう1つの言葉の時間だ。
『相手には、“元気を出しなさい”……と、言う意味で、こころから渡してやるといい。
……その為に、二本用意したのさ。』
こころの髪飾りとして、二本のポインセチアを用意した。
それを伝えて、こころの前に屈み込む。
『…君の使命、果たしに行くといい。
───行っておいで、こころ。』
これで……最後さ。
私はこころの頭をそっと撫でてやる。
応援になるかは分からない……けど、これが私に出来る事だから。
「…ありがとう。」
言葉は届いた。布石は打った。…あとは、ただ一つ。
次に繋げるための、伏線を。
merry bad endをうち崩す、布石を。
本当に幸せな結末を迎えるための、準備を。
誰かが託されるための、記憶を。
そして。
私が貫き通したい、エゴを。
…いや、違う。最後はやっぱり。素直に言おうか。
素直な私らしい言葉。
“あなたを助けるための、希望を。”
…私は繋げに行く。
舞台は整った。そして、あとは賭けるだけ。
あなたが賭けたんだもの。私も賭けないと平等じゃないでしょう?
狐面を受け取って、付ける。さあ、面を被った。
あとはいつものように。騙すだけだ。相手も、自分も、全員を。
さあ、もうここには用はない。託された花をひとつは手に。もう1つは髪飾りとして。
そして、狐面をつけて。
…そうして、あいごころ。は、最後の舞台へ。
ほら、感動的でしょう?最後の最後に希望が託される展開。なーんて。
嘘かもしれないけどね?
…ああ、そうだ。この後続くであろう、未来の希望に。1つ声をかけておこう。
私の言葉はきっと、届くかわからないけれど。
歩き出して…思い出したかのように振り返って。
これが、最後の言葉だろうから。私は、全てを託そうじゃないか。この言葉と共に。
「幸運を。去りゆくあなたに、敬礼を。」
なーんて、嘘かもしれないけどね?
言葉は届いた。布石は打った。…あとは、ただ一つ。
次に繋げるための、伏線を。
merry bad endをうち崩す、布石を。
本当に幸せな結末を迎えるための、準備を。
誰かが託されるための、記憶を。
そして。
私が貫き通したい、エゴを。
…いや、違う。最後はやっぱり。素直に言おうか。
素直な私らしい言葉。
“あなたを助けるための、希望を。”
…私は繋げに行く。
舞台は整った。そして、あとは賭けるだけ。
あなたが賭けたんだもの。私も賭けないと平等じゃないでしょう?
狐面を受け取って、付ける。さあ、面を被った。
あとはいつものように。騙すだけだ。相手も、自分も、全員を。
さあ、もうここには用はない。託された花をひとつは手に。もう1つは髪飾りとして。
そして、狐面をつけて。
…そうして、あいごころ。は、最後の舞台へ。
ほら、感動的でしょう?最後の最後に希望が託される展開。なーんて。
嘘かもしれないけどね?
…ああ、そうだ。この後続くであろう、未来の希望に。1つ声をかけておこう。
私の言葉はきっと、届くかわからないけれど。
歩き出して…思い出したかのように振り返って。
これが、最後の言葉だろうから。私は、全てを託そうじゃないか。この言葉と共に。
「幸運を。去りゆくあなたに、敬礼を。」
なーんて、嘘かもしれないけどね?
『……請け負ったよ…こころ。』
さてさて……私はここまで。
渡されたメモはしっかりと渡してあげると約束したんだ。
そのまま……しっかりと覚悟も決めた。
私がロティとして…いいや、君の代わりに、これを届けてやるさ。
─────エム。
君の友人からの伝言は受け取った、あとはそれを届けてしまおうか。
『─────“Arrivederci”……こころ。』
そういう事なら……。
私は……ちょっと。
……ちょっと、気取ってみるのさ。
私の仕事……これは、私だけの仕事なのさ。
『これが……。』
そうだ……これが………………。
『私の……僕の……俺の……。』
これが……これこそが…………。
『────ラストオーダー…ってね?』
最後の、大仕事になるのさ。
『───さぁ、時は来たよ…。
私が僕を演じて……僕が俺を演じて……俺が私を演じる理由……。
………………それは。』
そう、それは…………。
『君達を……最高の舞台に立たせる為の……
────引導を、渡す役割だからね…。』
さようなら……こころ。
………………“また”…会おう。
さてさて……私はここまで。
渡されたメモはしっかりと渡してあげると約束したんだ。
そのまま……しっかりと覚悟も決めた。
私がロティとして…いいや、君の代わりに、これを届けてやるさ。
─────エム。
君の友人からの伝言は受け取った、あとはそれを届けてしまおうか。
『─────“Arrivederci”……こころ。』
そういう事なら……。
私は……ちょっと。
……ちょっと、気取ってみるのさ。
私の仕事……これは、私だけの仕事なのさ。
『これが……。』
そうだ……これが………………。
『私の……僕の……俺の……。』
これが……これこそが…………。
『────ラストオーダー…ってね?』
最後の、大仕事になるのさ。
『───さぁ、時は来たよ…。
私が僕を演じて……僕が俺を演じて……俺が私を演じる理由……。
………………それは。』
そう、それは…………。
『君達を……最高の舞台に立たせる為の……
────引導を、渡す役割だからね…。』
さようなら……こころ。
………………“また”…会おう。
゛終わり゛が来る、少し前
彼は、温泉に来ていました
「…………」
誰もいないそこを少しだけ見つめて
脱衣所で、服を脱ぎ始めました
コソコソと、まるで誰かに背中を向けるようにして服を脱ぎます
そうして服を脱いだ後、浴場へと向かいます
タオルで前を隠しながら入っていきました
「………」
中には、誰もいません
ただ、湯気がもくもくと出ているだけです
ちゃぷり、と音を立ててお湯につかりました
タオルは湯船のふちに置いてあります。巻いて入るのはマナー違反なので
「………」
彼は、黙っていました。ぼうっと、どこかを眺めているようでした
「…………」
そうこうしているうちに、゛終わり゛がやってきます。
…でも、そんな時になってようやく彼は口を開きました
「……ああ……そういえば…」
そんなこと、まるで考えてなかったとでも言うような様子で
「返事、してなかったなぁ…」
だっせぇなぁ、と
続くことはありませんでした。
゛おしまい゛
彼は、温泉に来ていました
「…………」
誰もいないそこを少しだけ見つめて
脱衣所で、服を脱ぎ始めました
コソコソと、まるで誰かに背中を向けるようにして服を脱ぎます
そうして服を脱いだ後、浴場へと向かいます
タオルで前を隠しながら入っていきました
「………」
中には、誰もいません
ただ、湯気がもくもくと出ているだけです
ちゃぷり、と音を立ててお湯につかりました
タオルは湯船のふちに置いてあります。巻いて入るのはマナー違反なので
「………」
彼は、黙っていました。ぼうっと、どこかを眺めているようでした
「…………」
そうこうしているうちに、゛終わり゛がやってきます。
…でも、そんな時になってようやく彼は口を開きました
「……ああ……そういえば…」
そんなこと、まるで考えてなかったとでも言うような様子で
「返事、してなかったなぁ…」
だっせぇなぁ、と
続くことはありませんでした。
゛おしまい゛
狂人、という言葉に縛られるのはたいそう退屈なもので。
何も出来ずに、何もせずに、何を見届けることもなく、サイドストーリーばっか々進めて居たら終わってしまった。
全て総て統べて無駄になってしまった?無意味無価値、無心無関心無用心無神経どれをとっても使い道が或るモノは亡かった?
いつの間にか始まって。
最初にルールを視て、覚えた感情は落胆。
悲しかった。
すべて忘れて閉じこもりたかった
誰と逢うこともなく一人でぼうっとしていたかった
何かにひたすらに縋りたかった
自分が狂人ではないと言う確証を持った言葉が欲しかった
何もかもから目を背けて"サヨウナラ"と云ってしまいたかった
自分は狂人ではないのに、と只管に頭の中でラジカセがループしていた。
嘘吐き。
自分で分かっていた。"海月"は狂っているし壊れているし可笑しくなっている。現実逃避も程々にしてくれと誰かが叫んでいるようで。
だからそんな狂っている自分を打ち壊して閉じ込めて封印して、然も何も亡かったかのように"愉しんで"いたんだ。
ばーか。
それが一番狂っているんだって。何も判らないフリをして全部死っている辺りがまるで性根の腐り切ったトマトみたいだね。
ああ、でも、トマトは嫌いじゃない。というより、野菜より肉の方が嫌い。
如何でもいいか。如何したとしても運命なんて変わりようがなかった。
オレは"狂人"という宣告を受けた。
いつ殺されるのか、いつ殺そうとするヤツが現れるのかもわからない、恐怖に潰されるしかない役回り。
狂っているのは知っているのに。
死にたくなかったから。
逃げていた。
何処かに然うではないと証明出来る道があるんじゃないかなって。
ただオレが見違えただけだったんじゃないかなって。
例え"狂人"だったとしても、其れを使ってみんなを導けたんじゃないかなって。
何もせずに終わりはしないんじゃないかなって。
残念。
全部期待外れ。
道がない。見違えない。導けない。
何もせずに。何もすることなく。
生きるに能わざる者達の被害加害加虐被虐過失過得のコロシアイは終了しました。
ちゃんちゃん。
生存者は何人?恐らく数人。
勝利者は何人?零人。
誰も勝っているわけないじゃないか。クラスメイトだとか知り合いだとかの括りを失くして、無くして、亡くして。それで何を得る事が出来たというのか。
何を得ることも出来なかった。遺りは後悔だけ。後に悔やむ事がないのなら後に悔やむと書きはしないんだ。
知っているのに、知りたくなかったと逃避して仕舞って。
けれど、終わったのは"これ"だけ。
結局ゲエムは終わらない。続く。to be continued.
おしまい。
――終わらせてたまるか。
いや?この場合は違うね。
――続けさせてたまるか。
絶対的絶望論。ぐつぐつぐつぐつ不幸を煮込んで出来上がるのは虚無。暗くて昏くて儚くてくらくら。ぽっかり空いた心の傷を埋めるヤツはもう存在しない。
"みんな"は平穏無事で何もない素敵な不敵な学園の日常へと戻っていくんだろう。
逃げもコンティニューも難易度変更もアイテムの使用もスキルコマンドもセーブもロードも行えないようじゃゲームとしては不出来だ。
癒し手一人でもいてくれれば何か変わったのかもしれないかな。
そんな癒し手が、狂人を癒せるワケないのだろうけれど。
そもそも、一人しか入れないパーティだ。狂人の一人旅。もし他に人が入ろうものならばシステムが其れを許さないだろうし、きっと許してもソイツが狂人に成り代わってしまって終わる。
結局、オレが"狂人"でいる限り不幸のまま。連鎖して崩れない、全消しでもしてしまえば良いのだろうか。すべて。
消しすぎて自分でなくなる、というのも嫌な話ではある。
では、こういうのはどうだろう。
今までの生い立ちから幸運から不運から喜びから悲しみから慶びから哀しみまで統べて嘘だったとしよう。
次目を開けたらまた再転生、次の人生がよーいどん。こんな下らない心底から吐き気のする闇鍋を煮込むこともない平穏無事な人生を歩めることとする。
不穏で不幸で不運で不良ないまの人生とはばいばい。記憶もこころもすべてさようなら。
次の人生ははっぴぃえんどが約束されている。強くてニューゲームだ。何なら最初から伝説の剣を所持することも可能。
仲間はみんなLv99。何処でもセーブ出来て何処でロードすることも可能。何回でもコンティニュー。
そんなもの認めるわけないだろ。
この想いを、今までの皆の感情を、張り裂けるような決意を、背負って要られるのは今この時だけ。
それをたかだか"ハッピーになりたい"なんて理由で全て覆して殺してたまるか。オレは殺人鬼には成りたくない。
禍を転じて福となす。
というのとは少し、違うか。
一将功成りて万骨枯る。
確か一人の将軍が成り上がる影では無数の人の努力や犠牲があるんだっていう意味合いだったっけ。
自分が成り上がりの将軍だなんて自画自賛自己満足に終わらせる心算は毛頭ないけれど。
死に往くみんなの想いをただの思い出の一ページに刷るなんて赦されはしない。
みんなが許してもオレは別に赦そうとは思わない。こんな狂人を誰が許そうとするのだかは判らないけれど。
此処まで、みんなに照準を当てて話してきたけれど。
この場合の"みんな"とは扨て誰のことだろうか。
たとえば、この修学旅行のみんな。
1st。トランプ遊びはまたやりたいね、今度はブラックジャックなんてどうかな。
次は本当に命懸けのゲームでもやってみようよ!楽しいよ?きっと。
2nd。捻くれものだってのに相槌打って考えてないようで考えてて、心底食えない奴だったね。
水気のある蜜柑でも見つかればいいね。キミの願いも、叶ってたらいいね。
3rd。クラウンになる夢は叶えられたかな?少なくともオレはキミの道化は好きだったよ。
若しそのピエロ顔から素顔が見えたならもっと良いんだけど、道化師は素顔を見せないものだからね。
6th。また逢いたいとは懐わないけれど、人生を愉しむ生き方ってのは嫌いじゃないよ。
Azothだっけ、心の底から称賛するよ。勝利おめでとう。
7th。0を1にすることは出来た?またお茶でも呑もうか、次は冷まさないでね。
きっと今ならゆっくり、話し合う事も出来るだろうから。其処まで時間はないだろうけど。
8th。結局みんなを救うことは不可能だったけれど、歩き続けるキミの姿はちゃんと観てたよ。
誰かの成り代わりだったんだっけ?其れもまた一興、じゃないかな!
9th。ちゃんと合言葉を守ってほしいものだよねー!ちなみにグラタンもドリアも好きじゃないよ?オレ。
ああ、でも、生きようとする意味に関しては素晴らしいと思ってるよ!本当だよ?
12th。何がしたいか理解出来なかったけど、同じ"狂人"としてなら解ったつもりでいようかな。
実際、"狂人"はオレ一人だったんだけれど。キミのコトもちゃんと"狂人"だと解ってるよ。
13th。多分、一番オレに考えが近すぎた。ごめんね?変なコト言っちゃったりしてさ。
オレも、こんな殺し合いには反対だからさ。普通に話せたら、良かったのにね。
15th。途中までAzothと疑っててゴメンね!キミの警戒心の強さも一種の普通なんじゃないかな、って思うよ。
あの後、結局借りを返してくれなかったのは怒るけどね!
18th。演技かどうかは知らないけれど、あの時のキミもキミらしかったんじゃないかな?
お墓には唐揚げでも持っていくね!存分に食べていいよ、食べれるものなら!
22nd。頭ごなしの会話は楽しかったね!次は殴らないようにしてね?痛いんだからさ。
あああと、ちゃんと治療はした方がいいよ!包帯ぐるぐるされてると見てる方が痛々しくなるから。
25th。何度も言うけどセクハラは勘弁かな。ただ、キミの向き合う気持ちは忘れないよ。
オレだけじゃなく"オレ"ともちゃんと話そうとしていたの、忘れてないよ。
20th。あの時のお呪いは嘘じゃないよ。賭け、乗ってくれてありがとう。
でも、あの告白は嘘だよ!真に受けないでほしいよねー。
ああ。
こんな"みんな"と修学旅行が出来たら、どれほど楽しかったんだろう?
終学旅行なんてするつもりは、無かったのにさ。
じゃあ、普通に修学旅行を楽しめば良かったじゃないか、って?
ばーかばーか。それが出来ていたら狂人には成っていないし扨せられていない。
ゲエムは嘘でも愉しむものでしょう?なんて、こんな思考が狂人染みている。
だから、こころに嘘をついていた。それだけ。感情も心情も総て押し込んで狂わせて嘘をついて、つきすぎてどれが本当か判らなくなって。
ただ、それが"自分"。海月でも海月でもなく、自分。ってところ?
――じゃあ、本当のところは愉しかったのか?
真逆。こんな殺し合いを愉しめる訳がない。自分を偽って、殺して、足掻いて、拙い友情は千切れていった。
きっと之を観ているヤツらは御満悦だよ。本当に"良い趣味"してるな、反吐が出る。
―オレたちが何をした?オレが何をしたって言うのさ?
――何もしてない。
――――何もしてないからこうなった!!!
死んでないオレにはまだ出来る事がたくさんあった。なんなら双子座で誰かを黄泉返らせるとか、蟹座で武器を破壊して回るとか、乙女座で誰かと協力するとか。
狂人だと宣告されたオレにしか出来ないコトは無数に在ったはずだ。
なのに、なのになのに、なのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのに…!
オレが、何もしていないから。
何もしなかったから。
何もしようとしなかったから。
自分が生きて賭けに勝つことしか考えなかったから。
だからこうして今何も出来ずに何も出来なかった事を嘆いている。後悔している。こうなると知っていたなら、きっと、きっともっともっとやれる事は有ったはずなのに、其からすべて逃げていた。
逃げてばかりだった。
逃亡者。被害を被ることはない、加害を加えることもない、最低な一手。
其れでいて"道を探す"だとか"ただの見違え"だとか"導ける"だとか、甘えているにも程がある。
ただ自分が生き残る為に、全てを捨てただけ。
結局、生き残ったところで勝てるわけじゃないのにさ。
じゃあ、如何すれば勝てるのだろうか?どうすれば勝てたのだろうか?
いや、違う。
どうすればあの天使を、この状況でほくそ笑む悪魔を負かせられたのか?
あいつに一矢報いて苦汁を舐めさせてざまあみろって言ってやるには、どうすれば――
とこ、とこ、とこ。
では、歩いて往こうか。みんなとは別の方向へ。
いや、違う。
留まっておこうか、みんなとは別の世界で。
あいつに一矢報いる、一番手っ取り早く、一番回りくどく、一番単純で、一番複雑な方法。
思い付いてしまったのだから仕方ないでしょう。こんな選択を出来るのは、きっと過去にも未来にもいない。
オレしかいない。
だったら、オレが止めてやる。終わらせてやる。
然ういえば、20th。こころちゃん。影引ちゃん?
あの時、オレは「賭けだ」って言ったよね?あれ、言ってはないな。じゃあ嘘ってことにでもしておく?
冗談。本当に"賭け"の心算。
――あの賭け、まだ勝敗は決まっていない。
勝利条件はこのゲエムが"終わる"こと。
敗北条件はゲエムが終わるまでにオレが死ぬこと。
このゲエムはまだ終わっていない。オレは此処で生きている。ずっと生きている。
どうせもうチップは全て賭してしまったんだ。他の人の手札を見るくらいのタブーは許されるでしょ。
だから、こころちゃんも。その気になったらいつでも賭けに来ていいんだよ。
ただ。
次会うときは、オレは"プレイヤー"ではなく。
"ディーラー"なのだろうけれど。
もう決断してしまったので。
オレは無知で無能で無関係な"狂人"から、
全知で全能で無関係な"天使"に成り下がったから。
だから、待つ事しか出来ないから。
なんて。
閑話休題。
燃えて、焼けて、朽ちて、溶けて、全てが終わって仕舞う。
終わってしまう前に。ゲエムが終焉を遂げてしまう前に。
"海月"が終わりを迎えてしまう前に。
決めゼリフと洒落こもうか。
よく聞いておけ。
「……皆の意志は勝手に引き継ぐし、皆の想いは勝手に背負う。
皆の夢も、感情も、心も、生きようとした真実も、全部全部勝手に持っていってやる。
人殺しだろうと加害者だろうと、オレが識っている"みんな"のコトは全部覚えていてやる。
最後まで諦めずに這いつくばってやる。
もう何も出来なくなっても志だけは、この想いだけは折れずに遺してやる。
夢も希望も絶望も度外視に、キミらの思惑なんてぶっ壊してやる。」
「たとえ身体が壊れても、たとえ心が壊れそうになっても、たとえ自分や皆が死のうとも――
―――――たとえ灰になってもッ!!!
こんな巫山戯たゲエム、絶対に終わらせてやる!
オレらの生きようとした気持ちを、キミらの好き勝手になんてさせてたまるかッ!!!」
ぱたん。
薄黒い世界で、僕は目を覚ました。
実際には目を開けて認識したというのが正解。冷めていない。
物々しいヘッドギア(と言うのが正しいかは不明な代物)に糸繰られていたからか、自分の身体に感覚が戻らない。
あ、識らない天井。
棺桶だか棺だかの直方体状のイレモノに詰められていた僕が最初に得た認識は其れ。
けれど其れは病院だとかによくある白い天井みたいな救いの糸ではなく。寧ろ逆の位相を示している。
厭、黒色は高級感や神秘的な意味が込められている場合が有る。若しかしたらこれは何らかの儀式の最中で僕はその中枢に位置している存在なのかもしれない。
だからなんだ。
だいぶ軽口を叩ける程には思考が揺れ戻ってきたご様子。其れなら手足も動かせるだろう。
徐に、倦怠感の或る動きでイレモノの中で起き上がる。残念ながら幸運な事に、先程の変な期待は不正解で済んだ。
お世辞にも"自分を歓迎してくれている"とは言い難い部屋の状況は正に其れ。
取り敢えずイレモノの中から脱出して様子を―――――
あれ。動けない。
不思議そうに首を傾げる僕の身体には、ああ、拘束具が付いている。成程イレモノの中から出られないのはこう云う絡繰り。
何処かへ行ってしまう危険性か可能性かは理解らないけれど口惜しいのか。其れとも単に認証ミスか何か。
動けないというなら、しょうがない。ので、再度眠るように身体を伏せて状況確認。
如何やらあのゲームは終了した。僕は狂人として勝利して、願い事――――
ああ、理解した。
本の頁の一部の様な、ありふれた状況とは言い難いのだけれど。理解出来て仕舞うのだから、問題は無い。
詰まる所、今は後書。著者が考えもしない感想を、観想を、綴り刳る場面。
ほら、丁度好く、枕元に本でも転がっている。
然う謂えば枕の下に本を置いて眠ると其の本の夢が見れるのだと。あのゲームが唯の本の夢とするならば笑止だが。
其れならば、一つ、著者代理として綴ってみようか。残念ながらこんな物騒な話を書く気力は今現在到底湧かないので代理。
拙い物だがおひとつどうぞ。
――――あとがき。
これで僕のお話しは、いったんおしまい。
みんなの感動劇と比べてみて、どう?つまらなかったでしょ?
これは、【HAPPY END】を拝む事も出来ない狂人の些細なお話し。
これは、【DEAD END】に逃げる事も出来ない狂人の小さなお話し。
これは、【BAD END】に狂う事も出来ない狂人のちっぽけなお話し。
これは―――――――
【ANOTHER END】に総てを賭した、"天使"のつまらない御伽噺。
続きを聞きたいなら、何時でも聴きにおいで。新しい話があれば噺てあげるよ。
チップを賭けたいなら、何時でも賭けにおいで。少しなら貸し与えてあげるよ。
けれど、助けないで。
少しでも、ただ一つだけの、細い糸でも。
"終わらせる"方法があるのだから。
任せて。こういう狂った賭けに出るのは、"狂人"の専売特許だから。
狂人は、一人で十分だから。救われないのは、一人で十分だから。無謀なコトをするのは、一人で十分だから。
ああ、でも。噺を聞きたいというのなら。
また、おいで。死ぬまで、終わるまで、
いつでも、待っている。
いつまでも、待っている。
そして――――――
天使として、待ち続けた先に。結末<こたえ>があることを、願ってる。
何も出来ずに、何もせずに、何を見届けることもなく、サイドストーリーばっか々進めて居たら終わってしまった。
全て総て統べて無駄になってしまった?無意味無価値、無心無関心無用心無神経どれをとっても使い道が或るモノは亡かった?
いつの間にか始まって。
最初にルールを視て、覚えた感情は落胆。
悲しかった。
すべて忘れて閉じこもりたかった
誰と逢うこともなく一人でぼうっとしていたかった
何かにひたすらに縋りたかった
自分が狂人ではないと言う確証を持った言葉が欲しかった
何もかもから目を背けて"サヨウナラ"と云ってしまいたかった
自分は狂人ではないのに、と只管に頭の中でラジカセがループしていた。
嘘吐き。
自分で分かっていた。"海月"は狂っているし壊れているし可笑しくなっている。現実逃避も程々にしてくれと誰かが叫んでいるようで。
だからそんな狂っている自分を打ち壊して閉じ込めて封印して、然も何も亡かったかのように"愉しんで"いたんだ。
ばーか。
それが一番狂っているんだって。何も判らないフリをして全部死っている辺りがまるで性根の腐り切ったトマトみたいだね。
ああ、でも、トマトは嫌いじゃない。というより、野菜より肉の方が嫌い。
如何でもいいか。如何したとしても運命なんて変わりようがなかった。
オレは"狂人"という宣告を受けた。
いつ殺されるのか、いつ殺そうとするヤツが現れるのかもわからない、恐怖に潰されるしかない役回り。
狂っているのは知っているのに。
死にたくなかったから。
逃げていた。
何処かに然うではないと証明出来る道があるんじゃないかなって。
ただオレが見違えただけだったんじゃないかなって。
例え"狂人"だったとしても、其れを使ってみんなを導けたんじゃないかなって。
何もせずに終わりはしないんじゃないかなって。
残念。
全部期待外れ。
道がない。見違えない。導けない。
何もせずに。何もすることなく。
生きるに能わざる者達の被害加害加虐被虐過失過得のコロシアイは終了しました。
ちゃんちゃん。
生存者は何人?恐らく数人。
勝利者は何人?零人。
誰も勝っているわけないじゃないか。クラスメイトだとか知り合いだとかの括りを失くして、無くして、亡くして。それで何を得る事が出来たというのか。
何を得ることも出来なかった。遺りは後悔だけ。後に悔やむ事がないのなら後に悔やむと書きはしないんだ。
知っているのに、知りたくなかったと逃避して仕舞って。
けれど、終わったのは"これ"だけ。
結局ゲエムは終わらない。続く。to be continued.
おしまい。
――終わらせてたまるか。
いや?この場合は違うね。
――続けさせてたまるか。
絶対的絶望論。ぐつぐつぐつぐつ不幸を煮込んで出来上がるのは虚無。暗くて昏くて儚くてくらくら。ぽっかり空いた心の傷を埋めるヤツはもう存在しない。
"みんな"は平穏無事で何もない素敵な不敵な学園の日常へと戻っていくんだろう。
逃げもコンティニューも難易度変更もアイテムの使用もスキルコマンドもセーブもロードも行えないようじゃゲームとしては不出来だ。
癒し手一人でもいてくれれば何か変わったのかもしれないかな。
そんな癒し手が、狂人を癒せるワケないのだろうけれど。
そもそも、一人しか入れないパーティだ。狂人の一人旅。もし他に人が入ろうものならばシステムが其れを許さないだろうし、きっと許してもソイツが狂人に成り代わってしまって終わる。
結局、オレが"狂人"でいる限り不幸のまま。連鎖して崩れない、全消しでもしてしまえば良いのだろうか。すべて。
消しすぎて自分でなくなる、というのも嫌な話ではある。
では、こういうのはどうだろう。
今までの生い立ちから幸運から不運から喜びから悲しみから慶びから哀しみまで統べて嘘だったとしよう。
次目を開けたらまた再転生、次の人生がよーいどん。こんな下らない心底から吐き気のする闇鍋を煮込むこともない平穏無事な人生を歩めることとする。
不穏で不幸で不運で不良ないまの人生とはばいばい。記憶もこころもすべてさようなら。
次の人生ははっぴぃえんどが約束されている。強くてニューゲームだ。何なら最初から伝説の剣を所持することも可能。
仲間はみんなLv99。何処でもセーブ出来て何処でロードすることも可能。何回でもコンティニュー。
そんなもの認めるわけないだろ。
この想いを、今までの皆の感情を、張り裂けるような決意を、背負って要られるのは今この時だけ。
それをたかだか"ハッピーになりたい"なんて理由で全て覆して殺してたまるか。オレは殺人鬼には成りたくない。
禍を転じて福となす。
というのとは少し、違うか。
一将功成りて万骨枯る。
確か一人の将軍が成り上がる影では無数の人の努力や犠牲があるんだっていう意味合いだったっけ。
自分が成り上がりの将軍だなんて自画自賛自己満足に終わらせる心算は毛頭ないけれど。
死に往くみんなの想いをただの思い出の一ページに刷るなんて赦されはしない。
みんなが許してもオレは別に赦そうとは思わない。こんな狂人を誰が許そうとするのだかは判らないけれど。
此処まで、みんなに照準を当てて話してきたけれど。
この場合の"みんな"とは扨て誰のことだろうか。
たとえば、この修学旅行のみんな。
1st。トランプ遊びはまたやりたいね、今度はブラックジャックなんてどうかな。
次は本当に命懸けのゲームでもやってみようよ!楽しいよ?きっと。
2nd。捻くれものだってのに相槌打って考えてないようで考えてて、心底食えない奴だったね。
水気のある蜜柑でも見つかればいいね。キミの願いも、叶ってたらいいね。
3rd。クラウンになる夢は叶えられたかな?少なくともオレはキミの道化は好きだったよ。
若しそのピエロ顔から素顔が見えたならもっと良いんだけど、道化師は素顔を見せないものだからね。
6th。また逢いたいとは懐わないけれど、人生を愉しむ生き方ってのは嫌いじゃないよ。
Azothだっけ、心の底から称賛するよ。勝利おめでとう。
7th。0を1にすることは出来た?またお茶でも呑もうか、次は冷まさないでね。
きっと今ならゆっくり、話し合う事も出来るだろうから。其処まで時間はないだろうけど。
8th。結局みんなを救うことは不可能だったけれど、歩き続けるキミの姿はちゃんと観てたよ。
誰かの成り代わりだったんだっけ?其れもまた一興、じゃないかな!
9th。ちゃんと合言葉を守ってほしいものだよねー!ちなみにグラタンもドリアも好きじゃないよ?オレ。
ああ、でも、生きようとする意味に関しては素晴らしいと思ってるよ!本当だよ?
12th。何がしたいか理解出来なかったけど、同じ"狂人"としてなら解ったつもりでいようかな。
実際、"狂人"はオレ一人だったんだけれど。キミのコトもちゃんと"狂人"だと解ってるよ。
13th。多分、一番オレに考えが近すぎた。ごめんね?変なコト言っちゃったりしてさ。
オレも、こんな殺し合いには反対だからさ。普通に話せたら、良かったのにね。
15th。途中までAzothと疑っててゴメンね!キミの警戒心の強さも一種の普通なんじゃないかな、って思うよ。
あの後、結局借りを返してくれなかったのは怒るけどね!
18th。演技かどうかは知らないけれど、あの時のキミもキミらしかったんじゃないかな?
お墓には唐揚げでも持っていくね!存分に食べていいよ、食べれるものなら!
22nd。頭ごなしの会話は楽しかったね!次は殴らないようにしてね?痛いんだからさ。
あああと、ちゃんと治療はした方がいいよ!包帯ぐるぐるされてると見てる方が痛々しくなるから。
25th。何度も言うけどセクハラは勘弁かな。ただ、キミの向き合う気持ちは忘れないよ。
オレだけじゃなく"オレ"ともちゃんと話そうとしていたの、忘れてないよ。
20th。あの時のお呪いは嘘じゃないよ。賭け、乗ってくれてありがとう。
でも、あの告白は嘘だよ!真に受けないでほしいよねー。
ああ。
こんな"みんな"と修学旅行が出来たら、どれほど楽しかったんだろう?
終学旅行なんてするつもりは、無かったのにさ。
じゃあ、普通に修学旅行を楽しめば良かったじゃないか、って?
ばーかばーか。それが出来ていたら狂人には成っていないし扨せられていない。
ゲエムは嘘でも愉しむものでしょう?なんて、こんな思考が狂人染みている。
だから、こころに嘘をついていた。それだけ。感情も心情も総て押し込んで狂わせて嘘をついて、つきすぎてどれが本当か判らなくなって。
ただ、それが"自分"。海月でも海月でもなく、自分。ってところ?
――じゃあ、本当のところは愉しかったのか?
真逆。こんな殺し合いを愉しめる訳がない。自分を偽って、殺して、足掻いて、拙い友情は千切れていった。
きっと之を観ているヤツらは御満悦だよ。本当に"良い趣味"してるな、反吐が出る。
―オレたちが何をした?オレが何をしたって言うのさ?
――何もしてない。
――――何もしてないからこうなった!!!
死んでないオレにはまだ出来る事がたくさんあった。なんなら双子座で誰かを黄泉返らせるとか、蟹座で武器を破壊して回るとか、乙女座で誰かと協力するとか。
狂人だと宣告されたオレにしか出来ないコトは無数に在ったはずだ。
なのに、なのになのに、なのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのに…!
オレが、何もしていないから。
何もしなかったから。
何もしようとしなかったから。
自分が生きて賭けに勝つことしか考えなかったから。
だからこうして今何も出来ずに何も出来なかった事を嘆いている。後悔している。こうなると知っていたなら、きっと、きっともっともっとやれる事は有ったはずなのに、其からすべて逃げていた。
逃げてばかりだった。
逃亡者。被害を被ることはない、加害を加えることもない、最低な一手。
其れでいて"道を探す"だとか"ただの見違え"だとか"導ける"だとか、甘えているにも程がある。
ただ自分が生き残る為に、全てを捨てただけ。
結局、生き残ったところで勝てるわけじゃないのにさ。
じゃあ、如何すれば勝てるのだろうか?どうすれば勝てたのだろうか?
いや、違う。
どうすればあの天使を、この状況でほくそ笑む悪魔を負かせられたのか?
あいつに一矢報いて苦汁を舐めさせてざまあみろって言ってやるには、どうすれば――
とこ、とこ、とこ。
では、歩いて往こうか。みんなとは別の方向へ。
いや、違う。
留まっておこうか、みんなとは別の世界で。
あいつに一矢報いる、一番手っ取り早く、一番回りくどく、一番単純で、一番複雑な方法。
思い付いてしまったのだから仕方ないでしょう。こんな選択を出来るのは、きっと過去にも未来にもいない。
オレしかいない。
だったら、オレが止めてやる。終わらせてやる。
然ういえば、20th。こころちゃん。影引ちゃん?
あの時、オレは「賭けだ」って言ったよね?あれ、言ってはないな。じゃあ嘘ってことにでもしておく?
冗談。本当に"賭け"の心算。
――あの賭け、まだ勝敗は決まっていない。
勝利条件はこのゲエムが"終わる"こと。
敗北条件はゲエムが終わるまでにオレが死ぬこと。
このゲエムはまだ終わっていない。オレは此処で生きている。ずっと生きている。
どうせもうチップは全て賭してしまったんだ。他の人の手札を見るくらいのタブーは許されるでしょ。
だから、こころちゃんも。その気になったらいつでも賭けに来ていいんだよ。
ただ。
次会うときは、オレは"プレイヤー"ではなく。
"ディーラー"なのだろうけれど。
もう決断してしまったので。
オレは無知で無能で無関係な"狂人"から、
全知で全能で無関係な"天使"に成り下がったから。
だから、待つ事しか出来ないから。
なんて。
閑話休題。
燃えて、焼けて、朽ちて、溶けて、全てが終わって仕舞う。
終わってしまう前に。ゲエムが終焉を遂げてしまう前に。
"海月"が終わりを迎えてしまう前に。
決めゼリフと洒落こもうか。
よく聞いておけ。
「……皆の意志は勝手に引き継ぐし、皆の想いは勝手に背負う。
皆の夢も、感情も、心も、生きようとした真実も、全部全部勝手に持っていってやる。
人殺しだろうと加害者だろうと、オレが識っている"みんな"のコトは全部覚えていてやる。
最後まで諦めずに這いつくばってやる。
もう何も出来なくなっても志だけは、この想いだけは折れずに遺してやる。
夢も希望も絶望も度外視に、キミらの思惑なんてぶっ壊してやる。」
「たとえ身体が壊れても、たとえ心が壊れそうになっても、たとえ自分や皆が死のうとも――
―――――たとえ灰になってもッ!!!
こんな巫山戯たゲエム、絶対に終わらせてやる!
オレらの生きようとした気持ちを、キミらの好き勝手になんてさせてたまるかッ!!!」
ぱたん。
薄黒い世界で、僕は目を覚ました。
実際には目を開けて認識したというのが正解。冷めていない。
物々しいヘッドギア(と言うのが正しいかは不明な代物)に糸繰られていたからか、自分の身体に感覚が戻らない。
あ、識らない天井。
棺桶だか棺だかの直方体状のイレモノに詰められていた僕が最初に得た認識は其れ。
けれど其れは病院だとかによくある白い天井みたいな救いの糸ではなく。寧ろ逆の位相を示している。
厭、黒色は高級感や神秘的な意味が込められている場合が有る。若しかしたらこれは何らかの儀式の最中で僕はその中枢に位置している存在なのかもしれない。
だからなんだ。
だいぶ軽口を叩ける程には思考が揺れ戻ってきたご様子。其れなら手足も動かせるだろう。
徐に、倦怠感の或る動きでイレモノの中で起き上がる。残念ながら幸運な事に、先程の変な期待は不正解で済んだ。
お世辞にも"自分を歓迎してくれている"とは言い難い部屋の状況は正に其れ。
取り敢えずイレモノの中から脱出して様子を―――――
あれ。動けない。
不思議そうに首を傾げる僕の身体には、ああ、拘束具が付いている。成程イレモノの中から出られないのはこう云う絡繰り。
何処かへ行ってしまう危険性か可能性かは理解らないけれど口惜しいのか。其れとも単に認証ミスか何か。
動けないというなら、しょうがない。ので、再度眠るように身体を伏せて状況確認。
如何やらあのゲームは終了した。僕は狂人として勝利して、願い事――――
ああ、理解した。
本の頁の一部の様な、ありふれた状況とは言い難いのだけれど。理解出来て仕舞うのだから、問題は無い。
詰まる所、今は後書。著者が考えもしない感想を、観想を、綴り刳る場面。
ほら、丁度好く、枕元に本でも転がっている。
然う謂えば枕の下に本を置いて眠ると其の本の夢が見れるのだと。あのゲームが唯の本の夢とするならば笑止だが。
其れならば、一つ、著者代理として綴ってみようか。残念ながらこんな物騒な話を書く気力は今現在到底湧かないので代理。
拙い物だがおひとつどうぞ。
――――あとがき。
これで僕のお話しは、いったんおしまい。
みんなの感動劇と比べてみて、どう?つまらなかったでしょ?
これは、【HAPPY END】を拝む事も出来ない狂人の些細なお話し。
これは、【DEAD END】に逃げる事も出来ない狂人の小さなお話し。
これは、【BAD END】に狂う事も出来ない狂人のちっぽけなお話し。
これは―――――――
【ANOTHER END】に総てを賭した、"天使"のつまらない御伽噺。
続きを聞きたいなら、何時でも聴きにおいで。新しい話があれば噺てあげるよ。
チップを賭けたいなら、何時でも賭けにおいで。少しなら貸し与えてあげるよ。
けれど、助けないで。
少しでも、ただ一つだけの、細い糸でも。
"終わらせる"方法があるのだから。
任せて。こういう狂った賭けに出るのは、"狂人"の専売特許だから。
狂人は、一人で十分だから。救われないのは、一人で十分だから。無謀なコトをするのは、一人で十分だから。
ああ、でも。噺を聞きたいというのなら。
また、おいで。死ぬまで、終わるまで、
いつでも、待っている。
いつまでも、待っている。
そして――――――
天使として、待ち続けた先に。結末<こたえ>があることを、願ってる。
「終わる、終わる、全部が終わる〜……」
呪文のように歌いながら、ごうごうと燃え盛る停留所を眺めていた。
雪の白と炎の赤がこんなにもよく合うなんて、思わなかった。
少し上機嫌で、その場で数度、くるくる回った。
呪文のように歌いながら、ごうごうと燃え盛る停留所を眺めていた。
雪の白と炎の赤がこんなにもよく合うなんて、思わなかった。
少し上機嫌で、その場で数度、くるくる回った。
異国風…日本人の自分からしてみれば西洋の雰囲気を感じさせる街並みが燃えている。がらりとレンガの壁が毀れて、崩れ落ちていくのを足の裏を伝って体に微かに響く振動で感じていた。雪が溶け、じゅわ、と火に触れて音が立つ。空に立ち上る煙も、潮風に運ばれていく灰も、全てが死にゆく定めとその末路を示すようで、断末魔が止むことはない。
まるで、火葬場の釜の中にでも居るかのようだ。
そんな死臭で酷い世界の中で実に楽しそうに笑う人物を見つけた。姿を見たのは初めてだったが、声だけはよくよく覚えていた。このゲームの主催者、名をアカエルといったか。天使のような名前と格好をしているが、恍惚を湛えたその表情はおおよそ天使と呼べそうにはなかった。
暫く世話になった停留所が燃えていることに、一瞥を向ける以上の関心を示さぬまま揚々と楽しげな似非天使に声をかけた。
「ゲームマスター、アカエルだな」
向けた声音は、それまで`まにょ`として振舞っていた頃のものとは全く異なっていた。表情にも慈しみの情は一切感じられず、薄皮の剥がれた本性がそこに現れる。繕っても意味がない相手だと直感的に理解しているのか、まにょでもなく生徒会役員でもなく、侑由小路修太郎としての用件があったが故なのか。
彼と、一時期の彼を知る人物以外は全く知らない顔がそこにはあった。
まるで、火葬場の釜の中にでも居るかのようだ。
そんな死臭で酷い世界の中で実に楽しそうに笑う人物を見つけた。姿を見たのは初めてだったが、声だけはよくよく覚えていた。このゲームの主催者、名をアカエルといったか。天使のような名前と格好をしているが、恍惚を湛えたその表情はおおよそ天使と呼べそうにはなかった。
暫く世話になった停留所が燃えていることに、一瞥を向ける以上の関心を示さぬまま揚々と楽しげな似非天使に声をかけた。
「ゲームマスター、アカエルだな」
向けた声音は、それまで`まにょ`として振舞っていた頃のものとは全く異なっていた。表情にも慈しみの情は一切感じられず、薄皮の剥がれた本性がそこに現れる。繕っても意味がない相手だと直感的に理解しているのか、まにょでもなく生徒会役員でもなく、侑由小路修太郎としての用件があったが故なのか。
彼と、一時期の彼を知る人物以外は全く知らない顔がそこにはあった。
突き刺さるような冷徹な声に、ピタリと動きを止め、そちらを向く。
刹那、ぐにゃりと嫌らしく笑顔を歪め、司会者が如く両手を広げながら、彼に歩み寄っていく。
「おやぁ、まにょくん。そんな怖い顔して、どうかしたのかな?
アナウンスは聞いただろう?負けたんだよ、君は。君たちは。
ああ、君はどうなるんだろうね?世にも恐ろしい残酷な方法で、凄絶な苦痛と恐怖の中で死ぬのかもしれないね?Azothのあの子は、そんなことをするって言ってたなぁ〜」
へらへらと嘲笑う。腹立たしいことに、目の前の参加者がセレスティアによって救助されんとしてることは、認知している。
だが、彼は知らない。
彼女なりの嫌がらせだった。
刹那、ぐにゃりと嫌らしく笑顔を歪め、司会者が如く両手を広げながら、彼に歩み寄っていく。
「おやぁ、まにょくん。そんな怖い顔して、どうかしたのかな?
アナウンスは聞いただろう?負けたんだよ、君は。君たちは。
ああ、君はどうなるんだろうね?世にも恐ろしい残酷な方法で、凄絶な苦痛と恐怖の中で死ぬのかもしれないね?Azothのあの子は、そんなことをするって言ってたなぁ〜」
へらへらと嘲笑う。腹立たしいことに、目の前の参加者がセレスティアによって救助されんとしてることは、認知している。
だが、彼は知らない。
彼女なりの嫌がらせだった。
「これが普通の顔だ。この惨状を見て今更、死ぬ心積もりができないと思われていたのなら心外だな。だがそれは困る。俺は生きてやらなければならないことがある。その後なら別にいいので、延命措置が取りたい」
死への畏れは、一切ないというほどでもないが、ある程度の心構えが出来ていたのか取り乱すこともなかった。
――……と、それでは語弊がある。
彼が心を乱す理由は、ただひとつしかないだけだ。
自分へ救済措置が取られていることを全く知らない。知っていたらこんなところまでこんなやつ相手に話にくるなどせず、さっさと帰るなりしていただろう。
ここにいるのは、この分岐は、彼が、何も知らされていなかったがゆえに発生した道なのだ。
「単刀直入に言う。御船直如の解放と命乞いをしにきた。人質の選出から、恐らく俺の`したいこと`はそちらも把握しているはずだ」
この行為が、今も尚、自分の救済のために動いている組織に反する行いだとしても。それを理解していても、動かずにはいられなかった。自分にとって一番大事なもののために、動かなければならないから。自分の生の価値をぶらしてはいけないから。
「俺の支払える対価なら、死と御船直如の命以外のものなら全て差し出す。もう一度やれと言うならまたゲームに参加することになってもいい。望むならどんな奉仕でも喜んでやろう」
胸元に手を当てて告げた。成されればすべて失われる価値の命で、尊厳で、自尊心だ。
どんな苦痛も屈辱も、その目的のためであるなら幾ら受けたとしても文句などない。
死への畏れは、一切ないというほどでもないが、ある程度の心構えが出来ていたのか取り乱すこともなかった。
――……と、それでは語弊がある。
彼が心を乱す理由は、ただひとつしかないだけだ。
自分へ救済措置が取られていることを全く知らない。知っていたらこんなところまでこんなやつ相手に話にくるなどせず、さっさと帰るなりしていただろう。
ここにいるのは、この分岐は、彼が、何も知らされていなかったがゆえに発生した道なのだ。
「単刀直入に言う。御船直如の解放と命乞いをしにきた。人質の選出から、恐らく俺の`したいこと`はそちらも把握しているはずだ」
この行為が、今も尚、自分の救済のために動いている組織に反する行いだとしても。それを理解していても、動かずにはいられなかった。自分にとって一番大事なもののために、動かなければならないから。自分の生の価値をぶらしてはいけないから。
「俺の支払える対価なら、死と御船直如の命以外のものなら全て差し出す。もう一度やれと言うならまたゲームに参加することになってもいい。望むならどんな奉仕でも喜んでやろう」
胸元に手を当てて告げた。成されればすべて失われる価値の命で、尊厳で、自尊心だ。
どんな苦痛も屈辱も、その目的のためであるなら幾ら受けたとしても文句などない。
「へえ……」
口元を三日月型に曲げ、さらに嫌らしく、残忍な笑顔になる。
「君がそこまで言うのなら、聞いてあげないこともないよ。僕は君たちが大好きだからさ。
でも、君のその果敢な態度……なんか、気に入らないなぁ。見下ろされてるのも、腹が立つし」
目と鼻の先……否、身長差的に、胸と鼻の先にまで接近すると、雪の積もる地面を指さした。
「土下座して懇願するなら、その願い、聞いてあげるよ。
ちゃんと僕の小さい小さい自尊心が満たされるように、情けなく、哀れに懇願してよ」
口元を三日月型に曲げ、さらに嫌らしく、残忍な笑顔になる。
「君がそこまで言うのなら、聞いてあげないこともないよ。僕は君たちが大好きだからさ。
でも、君のその果敢な態度……なんか、気に入らないなぁ。見下ろされてるのも、腹が立つし」
目と鼻の先……否、身長差的に、胸と鼻の先にまで接近すると、雪の積もる地面を指さした。
「土下座して懇願するなら、その願い、聞いてあげるよ。
ちゃんと僕の小さい小さい自尊心が満たされるように、情けなく、哀れに懇願してよ」
ぴくり、と無表情を決め込んでいた柳眉が動いた。元の姿なら何の躊躇いもなく出来たことだろう。だが、敬愛して止まない人のこの姿でそれをすることは躊躇われた。例えて言うなら、踏み絵を前にした信者の心情だ。
雪の冷たさも、炎に乾いたひりつく空気の痛みも、頭を垂れて許しを請うことも。
―――全てはあの人のためのことだ。
幼き日に、自分の命に刻んだ決意だ。今更、引き下がれるような覚悟ではない。
ただの写し身だ。あの人ではない。
「………」
軽く袖を払って、まだ冷たい雪の残る地面へ膝を突いた。すっと伸びた背筋は変わらず上品な所作で、そこだけは、二人の間に共通したものだったのだろう。
細い指先をそろえて雪の上へ下ろす。刺すような冷たさに手が沈んでいった。柔らかな髪を揺らして、ゆっくりとその頭を下げた。
「…どうか、貴女様の温情をを賜りたくお願い申し上げます」
その声に、悔しさの類はなかった。
悔しさとは、自尊心の持てる人間が有する感情だ。自分に尊厳を見出し、屈辱的な命乞いを恥じる心があるからこそ感じるものであるのだ。自尊心のない人間が、そのような感情を持つことはない。
彼の言葉に、姿にあるのは、ただただ情けを願う必死の懇願だけだ。
差し出せるものを全て差し出すと言う隷属の姿勢だ。
頭を下げたまま姿勢が崩れることはない。どれだけ火の粉が降っても、雪で指が悴んでも。
雪の冷たさも、炎に乾いたひりつく空気の痛みも、頭を垂れて許しを請うことも。
―――全てはあの人のためのことだ。
幼き日に、自分の命に刻んだ決意だ。今更、引き下がれるような覚悟ではない。
ただの写し身だ。あの人ではない。
「………」
軽く袖を払って、まだ冷たい雪の残る地面へ膝を突いた。すっと伸びた背筋は変わらず上品な所作で、そこだけは、二人の間に共通したものだったのだろう。
細い指先をそろえて雪の上へ下ろす。刺すような冷たさに手が沈んでいった。柔らかな髪を揺らして、ゆっくりとその頭を下げた。
「…どうか、貴女様の温情をを賜りたくお願い申し上げます」
その声に、悔しさの類はなかった。
悔しさとは、自尊心の持てる人間が有する感情だ。自分に尊厳を見出し、屈辱的な命乞いを恥じる心があるからこそ感じるものであるのだ。自尊心のない人間が、そのような感情を持つことはない。
彼の言葉に、姿にあるのは、ただただ情けを願う必死の懇願だけだ。
差し出せるものを全て差し出すと言う隷属の姿勢だ。
頭を下げたまま姿勢が崩れることはない。どれだけ火の粉が降っても、雪で指が悴んでも。
「……………………」
(本当に土下座をしてきたのならば、盛大に笑い飛ばしてやるつもりだった。頭を踏み付け、唾を吐いてやるつもりだった(※ガチ)
しかし、そんな気持ちは瞬く間に霧散してしまった。目の前の男は、茶番劇の土下座一つで屈辱を覚えるほど、俗な人間ではなかったのだ。
興醒めしてしまった。舌打ちを一つ、溜息を一つ)
「いいよ、もう。あーあー、つまんないの!ばーか、うんち。
あ、そうそう、君の言うナンチャラ君だけど、もうとっくに帰ってるよ。軟弱な君達が誰かを殺す理由を作れるように連れてきただけだし、余計なとこで利用するようなアンフェアな事はしないさ」
(本当に土下座をしてきたのならば、盛大に笑い飛ばしてやるつもりだった。頭を踏み付け、唾を吐いてやるつもりだった(※ガチ)
しかし、そんな気持ちは瞬く間に霧散してしまった。目の前の男は、茶番劇の土下座一つで屈辱を覚えるほど、俗な人間ではなかったのだ。
興醒めしてしまった。舌打ちを一つ、溜息を一つ)
「いいよ、もう。あーあー、つまんないの!ばーか、うんち。
あ、そうそう、君の言うナンチャラ君だけど、もうとっくに帰ってるよ。軟弱な君達が誰かを殺す理由を作れるように連れてきただけだし、余計なとこで利用するようなアンフェアな事はしないさ」
舌打ちと溜め息が頭上から聞こえ、見えぬ伏せた面の目を細めたが、興醒めしても激昂はしないタイプのようだと分かるとゆっくり顔を上げた。自分の案じた人の身が安全であるならそれで十分満足していると言う風な様子で、ここ一番の安堵の表情を浮かべていた。
「そうか。あの人が無事ならそれでいい。…まぁここからは、何とかして逃げ出すしかないな。時間もなさそうなのでこれで失礼する」
アカエルが示したのが人質の安否のみと言うことは、自分の脱出に関しては関与しないのだろうと判断して立ち上がる。それが自分の態度で気を悪くしたからであるのかは分からないが、それならそれで何とかして脱出を目指すべく模索の時間を確保しなくてはならない。
それ以上の用はないからと、とっとと立ち去ろうと早足に歩き始めた。
「そうか。あの人が無事ならそれでいい。…まぁここからは、何とかして逃げ出すしかないな。時間もなさそうなのでこれで失礼する」
アカエルが示したのが人質の安否のみと言うことは、自分の脱出に関しては関与しないのだろうと判断して立ち上がる。それが自分の態度で気を悪くしたからであるのかは分からないが、それならそれで何とかして脱出を目指すべく模索の時間を確保しなくてはならない。
それ以上の用はないからと、とっとと立ち去ろうと早足に歩き始めた。
「ふん、逃げ出す方法なんて、あるわけないだろ」
去り行く彼を止める事なく、独り言のように呟いた。自発的に脱出する手段など、ありはしない。ただ、外部から救われるのみだ。
それにしても、滑稽だ。元の身体をこちらで保管している以上、セレスティアに救助された人間は大方、ここの身体データのコピーを得るのだろう。彼は果たしてその姿で、"お兄ちゃん"に合わせる顔があるのだろうか?
さらにアカエルは、仮の身体がもたらすもう一つの可能性に、気がついていた。全くもって偶然の産物。全知全能(自称)の彼女ですら、予測できなかった事態。
「……君自身が、"適合者"になれるじゃないか」
そして、誰もいなくなった。
去り行く彼を止める事なく、独り言のように呟いた。自発的に脱出する手段など、ありはしない。ただ、外部から救われるのみだ。
それにしても、滑稽だ。元の身体をこちらで保管している以上、セレスティアに救助された人間は大方、ここの身体データのコピーを得るのだろう。彼は果たしてその姿で、"お兄ちゃん"に合わせる顔があるのだろうか?
さらにアカエルは、仮の身体がもたらすもう一つの可能性に、気がついていた。全くもって偶然の産物。全知全能(自称)の彼女ですら、予測できなかった事態。
「……君自身が、"適合者"になれるじゃないか」
そして、誰もいなくなった。
「全員の処分完了……」
脱落者全員を殺害し終えて、ふうっ吐息をつく
流石に10人以上の殺処分は時間がかかる
「灯ちゃん……
多少は退屈しないゲームだったでしょう」
『…………メイヴィア、あなたに伝えたいことがあるの。』
「…………ガフッ!?」
唐突に景色は暗転した。
脱落者全員を殺害し終えて、ふうっ吐息をつく
流石に10人以上の殺処分は時間がかかる
「灯ちゃん……
多少は退屈しないゲームだったでしょう」
『…………メイヴィア、あなたに伝えたいことがあるの。』
「…………ガフッ!?」
唐突に景色は暗転した。
「あぁ……つまらない……。
処分の執行人なんて……つまらない……。
……あなたはもう無償の愛を受け取った
だからあなたには奈落を送るの……。
こうやってすべてが、灯の罪になるのね……。
真紅の花を摘み取るの
白い花弁が、野を満たすの……
きっとそれは美しいの……。
……君、 あぁ…… 逝かないで
この花は 菩薩に備える華じゃないの……。
ハァ…… ……君のために殺さないと
天の名前を冠する …………で屍の道を作るの。
灯にしか、できないことなの…………。
人は望のまま生きるから美しいの」
「灯はこの白無垢が紅染まで殺すの……
生きとし生けるものに価値はないの。
灯の心を満たしてくれるのは……君の愛だけなの……
虚構だと知っていてもそれで私が満たされるの。
それまで真っ赤なブーケで花を満たすの。
愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテル……
もう灯はとまらないの。
遅かりし由良之助…………再び動き出した時間はもう戻らない……」
処分の執行人なんて……つまらない……。
……あなたはもう無償の愛を受け取った
だからあなたには奈落を送るの……。
こうやってすべてが、灯の罪になるのね……。
真紅の花を摘み取るの
白い花弁が、野を満たすの……
きっとそれは美しいの……。
……君、 あぁ…… 逝かないで
この花は 菩薩に備える華じゃないの……。
ハァ…… ……君のために殺さないと
天の名前を冠する …………で屍の道を作るの。
灯にしか、できないことなの…………。
人は望のまま生きるから美しいの」
「灯はこの白無垢が紅染まで殺すの……
生きとし生けるものに価値はないの。
灯の心を満たしてくれるのは……君の愛だけなの……
虚構だと知っていてもそれで私が満たされるの。
それまで真っ赤なブーケで花を満たすの。
愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテル……
もう灯はとまらないの。
遅かりし由良之助…………再び動き出した時間はもう戻らない……」
『嗚呼……終わりか…。
やれやれ…私もこうなるとは思わなかったよ…。
…………彼奴は、元気にしてるかな?』
あのデスゲームから帰ってきた。
身体は……あぁ、前のままだね。
そして帰ってきてから気付くのは…終わったということ。
けど……本来はAzothとして行った筈。
……なのに、最後はあの小さな騎士に動かされたさ。
嗚呼……あの花達は届いたのかな?
…………いいや、届いた事を信じるのさ。
帰って来るかな……まあ、私がロティと気付けるかは分からないけどね。
そうだね、どうせなら少しイメチェンでもしようかね?
あの時に近付いて、また会える時が在るなら。
あの学び舎で……君達と会えるのかな?
……私の妹分は、元気にやってるのかな?
さっさと帰ってきて、元気な顔を見せておくれよ。
『もう、手向ける花は無いけどね。
お前達の元気な姿……見られる事を信じてるからね。
…………また、会おうって、言ったの覚えてるだろう?』
もう、花は必要無いよ。
あの約束を、その代わりにするからね。
さあ……行こうか?
また、君達に会いに……。
…………私の、最初で最後の一日なのさ。
だから…これで仕舞いだよ。
『……君は、どんな花を咲かせるんだい?』
『……あれ、そう言えば…。
こっちの姿で彼奴達は分かるのかな……?』
ふと、思った事が1つある。
…………この姿、皆分かるだろうか…?
向こうでは、確か紫の髪色をしていたから……染めた方が良いのだろうか……?
……一旦、考えてみるとしよう。
今は……ブロンド。
……違うね。
髪型は……下ろしている。
……違うね。
………………染めて、束ねて…。
スーツを着たら…分かるだろうか……?
やってみよう……かな?
『…………やってみようか、よし。』
やることは決まった、なら……行動あるのみだ。
……メモの内容は、頭に叩き込んだ。
後で……みんなに伝えに行くとしよう。
まずは…………髪を、染める。
あの頃の私と同じ……紫色に。
髪も……いや、ここ位は私で居ようか。
服は……ズボンにワイシャツでも学校なら許してくれるだろう?
…………さぁ、行こうか。
『……今、会いに行くよ…君達。』
この姿で……君達の元へ…。
…………なんて、思うのさ。
私には……まだ育てるべき物があるから…ね?
やれやれ…私もこうなるとは思わなかったよ…。
…………彼奴は、元気にしてるかな?』
あのデスゲームから帰ってきた。
身体は……あぁ、前のままだね。
そして帰ってきてから気付くのは…終わったということ。
けど……本来はAzothとして行った筈。
……なのに、最後はあの小さな騎士に動かされたさ。
嗚呼……あの花達は届いたのかな?
…………いいや、届いた事を信じるのさ。
帰って来るかな……まあ、私がロティと気付けるかは分からないけどね。
そうだね、どうせなら少しイメチェンでもしようかね?
あの時に近付いて、また会える時が在るなら。
あの学び舎で……君達と会えるのかな?
……私の妹分は、元気にやってるのかな?
さっさと帰ってきて、元気な顔を見せておくれよ。
『もう、手向ける花は無いけどね。
お前達の元気な姿……見られる事を信じてるからね。
…………また、会おうって、言ったの覚えてるだろう?』
もう、花は必要無いよ。
あの約束を、その代わりにするからね。
さあ……行こうか?
また、君達に会いに……。
…………私の、最初で最後の一日なのさ。
だから…これで仕舞いだよ。
『……君は、どんな花を咲かせるんだい?』
『……あれ、そう言えば…。
こっちの姿で彼奴達は分かるのかな……?』
ふと、思った事が1つある。
…………この姿、皆分かるだろうか…?
向こうでは、確か紫の髪色をしていたから……染めた方が良いのだろうか……?
……一旦、考えてみるとしよう。
今は……ブロンド。
……違うね。
髪型は……下ろしている。
……違うね。
………………染めて、束ねて…。
スーツを着たら…分かるだろうか……?
やってみよう……かな?
『…………やってみようか、よし。』
やることは決まった、なら……行動あるのみだ。
……メモの内容は、頭に叩き込んだ。
後で……みんなに伝えに行くとしよう。
まずは…………髪を、染める。
あの頃の私と同じ……紫色に。
髪も……いや、ここ位は私で居ようか。
服は……ズボンにワイシャツでも学校なら許してくれるだろう?
…………さぁ、行こうか。
『……今、会いに行くよ…君達。』
この姿で……君達の元へ…。
…………なんて、思うのさ。
私には……まだ育てるべき物があるから…ね?
本も一度読み終えて仕舞えば次に棚から出てくるのは忘却後。
内容を忘れる事が無ければ其の本の頁を再び捲る事など有り得ない、有り得ない。
有るとすれば記憶に叩き付け永遠に物語を繰りたい奇特な者か危篤な者くらいでは無いだろうか。
まあ、そんな奴が居ないという根拠も無い訳で。また一つ議題が無駄に。
さて、"僕"は今悩んでいる。
生憎本を開いたのがいつだったかを覚えていない。何時の間にか僕は本を読んでいて、読み終わっていて、閉じていた。それが真実。
あの物語の登場人物は"海月"で、僕では無かったのだから其の程度しか覚えていないのかもしれない。
または。
覚えていたとしても、閉じ込めているのかもしれない。偶然にも、狂人であったり願い事であったりと、物語のキーパーソンは欠かさず憶えているもの。
容量オーバー、アウトプット。
あの本を読む時間が長過ぎたからか此処で起きていた事を疎かにしているのかもしれない。
オレは、今とても困っている。何せ歓迎の形がこれな物だ。もう少し身体に良い物を用意して欲しい。
相も変わらず直方体のイレモノに身を包まれて、思考放棄。思考破棄。
違います。ざんねーん。
取り敢えず此の拘束具を何とかしたいものなんだけれど。誰か、歓迎するんだったら来てくれてもいいはず。
来て。寂しい。
内容を忘れる事が無ければ其の本の頁を再び捲る事など有り得ない、有り得ない。
有るとすれば記憶に叩き付け永遠に物語を繰りたい奇特な者か危篤な者くらいでは無いだろうか。
まあ、そんな奴が居ないという根拠も無い訳で。また一つ議題が無駄に。
さて、"僕"は今悩んでいる。
生憎本を開いたのがいつだったかを覚えていない。何時の間にか僕は本を読んでいて、読み終わっていて、閉じていた。それが真実。
あの物語の登場人物は"海月"で、僕では無かったのだから其の程度しか覚えていないのかもしれない。
または。
覚えていたとしても、閉じ込めているのかもしれない。偶然にも、狂人であったり願い事であったりと、物語のキーパーソンは欠かさず憶えているもの。
容量オーバー、アウトプット。
あの本を読む時間が長過ぎたからか此処で起きていた事を疎かにしているのかもしれない。
オレは、今とても困っている。何せ歓迎の形がこれな物だ。もう少し身体に良い物を用意して欲しい。
相も変わらず直方体のイレモノに身を包まれて、思考放棄。思考破棄。
違います。ざんねーん。
取り敢えず此の拘束具を何とかしたいものなんだけれど。誰か、歓迎するんだったら来てくれてもいいはず。
来て。寂しい。
「おっはよ〜〜〜〜!☆新しい朝、希望の朝だよ!
まだ寝てたい?ダメダメ、寝坊助は一匹で十分だから!」
装置のフチから覗き込むように、ヒョコリと顔を出す赤色の天使。
儚げな顔をする彼の目の前で手をブンブン振ると、彼の身体に引っ付いてるコードやら、拘束具やら、セーミツキカイやらを、ガチャガチャと乱雑に外していく。壊れたらまた作れば良いのだ。問題ない。
「生還おめでとう。【Madman】、海月こと……小鳥遊チキくん」
物理的に自由の身になった彼に、手を差し伸べた。
まだ寝てたい?ダメダメ、寝坊助は一匹で十分だから!」
装置のフチから覗き込むように、ヒョコリと顔を出す赤色の天使。
儚げな顔をする彼の目の前で手をブンブン振ると、彼の身体に引っ付いてるコードやら、拘束具やら、セーミツキカイやらを、ガチャガチャと乱雑に外していく。壊れたらまた作れば良いのだ。問題ない。
「生還おめでとう。【Madman】、海月こと……小鳥遊チキくん」
物理的に自由の身になった彼に、手を差し伸べた。
ああ。見覚えが有る。此の本の著者。原作者とは違うかもしれないけれど。
其れが此処に出てくる、という事は。本当に終劇ったと考えても問題が無いはずで。
容量オーバー、アウトプット。
「……ッ、あ。…アカエルちゃんか。」
何とも悲しい事に、現実に帰ってきたオレの第一声は情けない憎悪を孕んだ声になってしまった。
歓迎をしてほしいとは言ったが、何もこんな悪趣味な人選をしなくてもいいだろうに。
なんて心の中で吐き捨てつつ。
「…ふ。新しい朝ねぇ。寧ろ夜って謂われてもオレは信じるよ?
朝日で目ー覚ますタイプなんだけどなぁ、オレ。」
良し。相手に軽口を吐ける程度に思考が回復して来た。とは言え、何日眠っていたのかも判らないもので、差し伸べられた手は皮肉にも借りる事になってしまった訳だけれど。
覚束ない足取りで立つ。彼方での身体より些か縮んでいる事は気にしない。別に気にしてない。
相手に返事を返す前に、周囲を見回す。同じ様なイレモノは幾つか散見すれど、中身は空か機能停止済み。
機能停止、と謂う事は、中に入っている人間は"然う"いう事なのだろう。空、と謂うのもAzothが抜け出した証拠。
と、いう事は。今此処で活動している人間はオレと目の前の天使だけ。是も皮肉なもので。
「……生還したってことは、さ。叶えてくれるんだよね?ネガイゴト」
暫し考えて、出た発言はいきなりの本題。もう少し踏み込まない言葉も言えただろうに、まだ頭が纏まっていないのか。
其れが此処に出てくる、という事は。本当に終劇ったと考えても問題が無いはずで。
容量オーバー、アウトプット。
「……ッ、あ。…アカエルちゃんか。」
何とも悲しい事に、現実に帰ってきたオレの第一声は情けない憎悪を孕んだ声になってしまった。
歓迎をしてほしいとは言ったが、何もこんな悪趣味な人選をしなくてもいいだろうに。
なんて心の中で吐き捨てつつ。
「…ふ。新しい朝ねぇ。寧ろ夜って謂われてもオレは信じるよ?
朝日で目ー覚ますタイプなんだけどなぁ、オレ。」
良し。相手に軽口を吐ける程度に思考が回復して来た。とは言え、何日眠っていたのかも判らないもので、差し伸べられた手は皮肉にも借りる事になってしまった訳だけれど。
覚束ない足取りで立つ。彼方での身体より些か縮んでいる事は気にしない。別に気にしてない。
相手に返事を返す前に、周囲を見回す。同じ様なイレモノは幾つか散見すれど、中身は空か機能停止済み。
機能停止、と謂う事は、中に入っている人間は"然う"いう事なのだろう。空、と謂うのもAzothが抜け出した証拠。
と、いう事は。今此処で活動している人間はオレと目の前の天使だけ。是も皮肉なもので。
「……生還したってことは、さ。叶えてくれるんだよね?ネガイゴト」
暫し考えて、出た発言はいきなりの本題。もう少し踏み込まない言葉も言えただろうに、まだ頭が纏まっていないのか。
「はは、いきなりかい?勿論、僕は誠実さがウリだから、約束を反故にしたりはしない。
ほら、これ使っていいよ」
彼の調子は悪くないようだ。あの時、教会で初めて出会った時に感じた、彼からの"温度"のようなものを、今も変わらず感じ取る事が出来た。
まだ自立に労力を要するであろう彼に、杖を一本手渡した。取っ手に可愛らしい猫の顔が彫ってある、どっピンクな杖だった。
「そういえば、君にはもう話したっけな?僕のこの姿も、"海月"のような仮の姿であること。
お互いに腹を割って話すのなら、こうするのがフェアだろう」
アカエルの身体が、蜃気楼のように、揺らぐ。細かい振動の末、一際大きく身体が揺れたかと思うと、彼女の姿はどこにもなかった。
代わりに立っていたのは、ただ一人の男性だった。
男性、以外に形容しようのない、至って普通の男性だ。街に出れば、いくらでもその辺に歩いている。そんな、男性。
「……僕は西条 東(サイジョウ アズマ)
アカエルの"中の人"さ」
ほら、これ使っていいよ」
彼の調子は悪くないようだ。あの時、教会で初めて出会った時に感じた、彼からの"温度"のようなものを、今も変わらず感じ取る事が出来た。
まだ自立に労力を要するであろう彼に、杖を一本手渡した。取っ手に可愛らしい猫の顔が彫ってある、どっピンクな杖だった。
「そういえば、君にはもう話したっけな?僕のこの姿も、"海月"のような仮の姿であること。
お互いに腹を割って話すのなら、こうするのがフェアだろう」
アカエルの身体が、蜃気楼のように、揺らぐ。細かい振動の末、一際大きく身体が揺れたかと思うと、彼女の姿はどこにもなかった。
代わりに立っていたのは、ただ一人の男性だった。
男性、以外に形容しようのない、至って普通の男性だ。街に出れば、いくらでもその辺に歩いている。そんな、男性。
「……僕は西条 東(サイジョウ アズマ)
アカエルの"中の人"さ」
躊躇いつつも杖を受け取る。こう謂う所が嫌いなんだ、此奴は。こういう所が。
「……さいじょう、あずま。」
朧気にそう復唱して、頭の回転を始める。ああ、くそ、如何してこうも要領が悪くなっているんだ。オレらしくない。
相手が正体を明かした。この際考えるべきなのは、"誰"か、"何者"か、ではない。
"中の人"という事は、ゲームマスター。あの物語の"黒幕"。であらば。
「…で。あんなゲエムを仕組んだのはどういったワケがあるのかな?
いや。それだけじゃない。あのレポート。……あれは、"そのままの意味"で捉えていいってコト?」
推理小説ではよく探偵が出てくるのがベターな展開。
では、此処で一つ問題。探偵が世に重要な事件を広める時に、何処を重要視させたいと思う?
犯人?否。手段?否。被害者?否。凶器?否。
――言い訳。
探偵が突き止めるべきは事件の"動機"。と言う訳で、世の探偵をなぞっている訳ではないのだけれど。
其れを聞く権利があるのなら、いいでしょう?
「……さいじょう、あずま。」
朧気にそう復唱して、頭の回転を始める。ああ、くそ、如何してこうも要領が悪くなっているんだ。オレらしくない。
相手が正体を明かした。この際考えるべきなのは、"誰"か、"何者"か、ではない。
"中の人"という事は、ゲームマスター。あの物語の"黒幕"。であらば。
「…で。あんなゲエムを仕組んだのはどういったワケがあるのかな?
いや。それだけじゃない。あのレポート。……あれは、"そのままの意味"で捉えていいってコト?」
推理小説ではよく探偵が出てくるのがベターな展開。
では、此処で一つ問題。探偵が世に重要な事件を広める時に、何処を重要視させたいと思う?
犯人?否。手段?否。被害者?否。凶器?否。
――言い訳。
探偵が突き止めるべきは事件の"動機"。と言う訳で、世の探偵をなぞっている訳ではないのだけれど。
其れを聞く権利があるのなら、いいでしょう?
「……えらく核心を突いてくるじゃないか。そんなにも気になるかな?」
寝起きだというのに、大したものだと付け加え、訊かれた内容に端的に答える。文章でも朗読するかのような、抑揚の小さい声色だった。
「あのレポート自体に深い意味はない。拾った君達がどう解釈してくれるかが、ポイントだからね」
寝起きだというのに、大したものだと付け加え、訊かれた内容に端的に答える。文章でも朗読するかのような、抑揚の小さい声色だった。
「あのレポート自体に深い意味はない。拾った君達がどう解釈してくれるかが、ポイントだからね」
「……ああ、くそ…」
小さく。本当に小さく然う呟いた。相手に聞こえているかはこの際、何ら問題では無い。
余談だがオレは嘘を見破るのが得意だ。何故かと謂うのは聞かないで欲しいね。
そして、そんな嘘を見破るのが得意なオレからしてみれば、この話は。
荷が重い、というレベルじゃあない。
目の前の…西条だったか。は何一つ、嘘を言っている気配がしない。ああ、くそ、胸糞悪い話だ。
―――である点に関しては、オレも予想が付いていた。寧ろ、そうでなければ可笑しい話。
非現実的だとか、非科学的だとか然ういった話はこの際抜きにしよう。何しろ、その非現実的なゲームに今まで巻き込まれていた訳だから。
だけれど。その、理由。
そんな理由、酷いじゃないか。そんな事…いや、一概に"そんな事"とは一蹴出来ないけれど。
それでも、人を殺して、平然と――――
「……ッ。…何となくは分かったよ。
それで…キミが今は、"それ"を担当してるってワケだ。…よくもまあ、平然と。やるもんだね?」
まだ世界に順応出来ていない頭にはかなり堪える話だ。
だが。思考を止めるな、止めるな…回せ。まだ、話せる。
小さく。本当に小さく然う呟いた。相手に聞こえているかはこの際、何ら問題では無い。
余談だがオレは嘘を見破るのが得意だ。何故かと謂うのは聞かないで欲しいね。
そして、そんな嘘を見破るのが得意なオレからしてみれば、この話は。
荷が重い、というレベルじゃあない。
目の前の…西条だったか。は何一つ、嘘を言っている気配がしない。ああ、くそ、胸糞悪い話だ。
―――である点に関しては、オレも予想が付いていた。寧ろ、そうでなければ可笑しい話。
非現実的だとか、非科学的だとか然ういった話はこの際抜きにしよう。何しろ、その非現実的なゲームに今まで巻き込まれていた訳だから。
だけれど。その、理由。
そんな理由、酷いじゃないか。そんな事…いや、一概に"そんな事"とは一蹴出来ないけれど。
それでも、人を殺して、平然と――――
「……ッ。…何となくは分かったよ。
それで…キミが今は、"それ"を担当してるってワケだ。…よくもまあ、平然と。やるもんだね?」
まだ世界に順応出来ていない頭にはかなり堪える話だ。
だが。思考を止めるな、止めるな…回せ。まだ、話せる。
「……へぇ、それが感想?俗っぽいなぁ、俗っぽいなぁ。
Madmanが聞いて呆れるね」
本当は知っている。彼が人並み以上に心優しくて、人並み以上に葛藤していることを。
器の話で言えば、彼は絶対に狂人の器ではない。存在そのものが狂人な赤城や、純粋無垢な狂気をぶら下げる藤本や、目的のためならどこまでも狂える侑由小路の方が、狂人らしいと言えば狂人らしい。
でも、わかっていたから。知っていたから。こうなることを、読んでいたから。
だから彼を、狂人に選んだ。一番"面白い"狂気を抱えていたから。
「君だって、おめおめと死んだフリで逃げまわりながら、沢山見殺しにしたじゃないか。
君が狸寝入りしてる間に、何人死んだか、わかってるだろ?誰よりも力を持っていた君なら、状況を動かすことは可能だった。
でも、君はそれをしなかった。
よくもまぁ、平然と、やるもんだね?」
Madmanが聞いて呆れるね」
本当は知っている。彼が人並み以上に心優しくて、人並み以上に葛藤していることを。
器の話で言えば、彼は絶対に狂人の器ではない。存在そのものが狂人な赤城や、純粋無垢な狂気をぶら下げる藤本や、目的のためならどこまでも狂える侑由小路の方が、狂人らしいと言えば狂人らしい。
でも、わかっていたから。知っていたから。こうなることを、読んでいたから。
だから彼を、狂人に選んだ。一番"面白い"狂気を抱えていたから。
「君だって、おめおめと死んだフリで逃げまわりながら、沢山見殺しにしたじゃないか。
君が狸寝入りしてる間に、何人死んだか、わかってるだろ?誰よりも力を持っていた君なら、状況を動かすことは可能だった。
でも、君はそれをしなかった。
よくもまぁ、平然と、やるもんだね?」
違う。知っている。出来る事は無数に有ったし死から逃げていた事も解っている。
だから、止めて。やめて。違う、オレはひとごろしじゃない。殺人鬼じゃ、ない。違う。
見殺しにした、訳じゃない。大丈夫。思考を止めるな、壊れるな、狂っている事は分かっている判っている解っている…!
「…っはは。褒め、言葉として…受け取っておこうかな。」
大丈夫。ゲエムの時にも出来ていた。今だって出来る筈。
まだ身体も頭も付いていけていないけど、それでも嘘は吐ける筈。飲まれるな。
目の前に居るのは、"狂人"だ。惑わされるな。
容量オーバー、アウトプット。
――――っははは!オレが居なかった事で、ゲエムは円滑に進んだんだよ?
人もいっぱい死んだし結果的にはAzothの大勝利。
当事者として愉しむ事が出来なかったのは至極残念で仕方がないけれど、これも一興。だよね?
「ゲエムの愉しみ方の一つだよ。キミが其れに口出しする権利はないよね?
……其れとも。やり方が気に入らない、なんていうつもり?」
心外だなぁ。ゲエムは娯楽で遊戯で愉しむ為のモノなんだから、その愉しみ方にああだこうだ言われるスジアイは無い。
これは、オレの愉しみ方の一つってね!
だから、止めて。やめて。違う、オレはひとごろしじゃない。殺人鬼じゃ、ない。違う。
見殺しにした、訳じゃない。大丈夫。思考を止めるな、壊れるな、狂っている事は分かっている判っている解っている…!
「…っはは。褒め、言葉として…受け取っておこうかな。」
大丈夫。ゲエムの時にも出来ていた。今だって出来る筈。
まだ身体も頭も付いていけていないけど、それでも嘘は吐ける筈。飲まれるな。
目の前に居るのは、"狂人"だ。惑わされるな。
容量オーバー、アウトプット。
――――っははは!オレが居なかった事で、ゲエムは円滑に進んだんだよ?
人もいっぱい死んだし結果的にはAzothの大勝利。
当事者として愉しむ事が出来なかったのは至極残念で仕方がないけれど、これも一興。だよね?
「ゲエムの愉しみ方の一つだよ。キミが其れに口出しする権利はないよね?
……其れとも。やり方が気に入らない、なんていうつもり?」
心外だなぁ。ゲエムは娯楽で遊戯で愉しむ為のモノなんだから、その愉しみ方にああだこうだ言われるスジアイは無い。
これは、オレの愉しみ方の一つってね!
「ああ、そうだな。プレイヤーの行動にガミガミ口出しするゲームマスターほど、ウザいものはない。
確かに君の言うとおりだ。君は君なりにゲームを楽しみ、勝利した……結構なことだよ」
嗚呼、出てきた。解離性人格障害、という奴だろうか?
自分で自分を守るための、人格構成。西条には理解の及ばぬ現象だった。
この状態の彼は、まずまず面倒だ。傷つく心なんて持ち合わせてないから、どれだけ責めても暖簾に腕押し。
なんてズルくて強固で、哀れな盾なのだろうか。
自分で自分を盾にするという矛盾を成立させる、狂気。
でも、せっかくだし、突いてみるか。
「それ、便利だねぇ。人格を使い分けてる自覚はあるんだろう?
子供みたいだよね。聞きたくない、見たくないことには蓋をして。必死にもう一人の自分で受け止めて、消化して、勝手になかったことにするんだ。
君はそれで満足かもしれないけどさぁ、見てる側からすればすごい滑稽なんだよね。『うわぁアイツ一人で、痛々しいなぁ、うわぁ』って、皆言ってるよ。
現実逃避は良くないって、思わない?ダメダメな自分をちょっとでも変えようって、思ったりしない?思えない?」
確かに君の言うとおりだ。君は君なりにゲームを楽しみ、勝利した……結構なことだよ」
嗚呼、出てきた。解離性人格障害、という奴だろうか?
自分で自分を守るための、人格構成。西条には理解の及ばぬ現象だった。
この状態の彼は、まずまず面倒だ。傷つく心なんて持ち合わせてないから、どれだけ責めても暖簾に腕押し。
なんてズルくて強固で、哀れな盾なのだろうか。
自分で自分を盾にするという矛盾を成立させる、狂気。
でも、せっかくだし、突いてみるか。
「それ、便利だねぇ。人格を使い分けてる自覚はあるんだろう?
子供みたいだよね。聞きたくない、見たくないことには蓋をして。必死にもう一人の自分で受け止めて、消化して、勝手になかったことにするんだ。
君はそれで満足かもしれないけどさぁ、見てる側からすればすごい滑稽なんだよね。『うわぁアイツ一人で、痛々しいなぁ、うわぁ』って、皆言ってるよ。
現実逃避は良くないって、思わない?ダメダメな自分をちょっとでも変えようって、思ったりしない?思えない?」
何の事だか。聴きたくない視たくない事なんて先程まで無かったでしょう。今も、これから、も…
――違う。
現実逃避?無かった事?目の前の彼は何を言っているんだか。さっきまで楽しい愉しいゲエムの噺をしていたんだからさ、折角だしその続きでもしようよ。お堅い話は耳障りだよ?
――駄目。
見ている側からしたら滑稽、かぁ。確かに見世物にされている側としては致命的な欠点だ。でも欠点は短所にもなるけれど個性にも成る。そうだよね?
――止め、
其れを途中で変えようだとか、キャラチェンジは何回も許されるモノじゃないんだよ?思うとか思わないとかじゃなくて、何を変えている事もないじゃんか。
「……あ。」
れ?
――――オレじゃ、ない…!違う、嫌、だ、嫌だいやだ止めてやめてやめて、誰か、助け…ッ
―――――――――、ブチッ。
「……あ、」
れ?
此処は何処だろう。どことなく機械質で、近未来的な一室。個室?"ボク"、さっきまで、何をしていたんだっけ。
くるりと辺りを見回して。目に着いた、一人。
「……こんにちは?」
取り敢えず、挨拶でもどうかなって。
――違う。
現実逃避?無かった事?目の前の彼は何を言っているんだか。さっきまで楽しい愉しいゲエムの噺をしていたんだからさ、折角だしその続きでもしようよ。お堅い話は耳障りだよ?
――駄目。
見ている側からしたら滑稽、かぁ。確かに見世物にされている側としては致命的な欠点だ。でも欠点は短所にもなるけれど個性にも成る。そうだよね?
――止め、
其れを途中で変えようだとか、キャラチェンジは何回も許されるモノじゃないんだよ?思うとか思わないとかじゃなくて、何を変えている事もないじゃんか。
「……あ。」
れ?
――――オレじゃ、ない…!違う、嫌、だ、嫌だいやだ止めてやめてやめて、誰か、助け…ッ
―――――――――、ブチッ。
「……あ、」
れ?
此処は何処だろう。どことなく機械質で、近未来的な一室。個室?"ボク"、さっきまで、何をしていたんだっけ。
くるりと辺りを見回して。目に着いた、一人。
「……こんにちは?」
取り敢えず、挨拶でもどうかなって。
「ブフッ」
意図せず吹き出してしまった。彼の中の何かが外れ、振り切れる音が聞こえてくるような……あまりに明瞭な、壊れ方だったから。
存外あっけなくショートするものだな、と思う。思い返せば彼はゲーム中、何度もそうやって"メンテナンス"を行っていた。
なんて矮小で、惨めな存在なのだろう。自分を守り切ることさえ、不完全だとは。
「ああ、ええと……」
記憶を引き継げないというのは面倒だ。鬱陶しさを覚えながらも、彼はここまでの状況(ゲーム終了後、望んでここへとやって来たこと等)と、軽い対話の内容(ボロクソに言ったらもう一人の君は引っ込んじゃったよ。ザコだな!等)を、説明してやるのだった。
意図せず吹き出してしまった。彼の中の何かが外れ、振り切れる音が聞こえてくるような……あまりに明瞭な、壊れ方だったから。
存外あっけなくショートするものだな、と思う。思い返せば彼はゲーム中、何度もそうやって"メンテナンス"を行っていた。
なんて矮小で、惨めな存在なのだろう。自分を守り切ることさえ、不完全だとは。
「ああ、ええと……」
記憶を引き継げないというのは面倒だ。鬱陶しさを覚えながらも、彼はここまでの状況(ゲーム終了後、望んでここへとやって来たこと等)と、軽い対話の内容(ボロクソに言ったらもう一人の君は引っ込んじゃったよ。ザコだな!等)を、説明してやるのだった。
取り敢えず、目の前の人(名前は西条さん、らしい)に此れまでの事情を説明して貰った。態々ボクなんかに教えてくれるあたり、きっと何かと優しい人なんだろうね。
"ボク"が引っ込んでいったのに関しては…蛙の子は蛙、かな。ボクの人格の一つなんだし、みんなと口喧嘩して勝つ方がおかしいのだから普通と言えば普通。
というより、寧ろこの人はよくボクなんかとの話し合いに応じていたものだ。…なんて、こんな考え方をしていると9thさんにでも怒られそうだね。
「……ええ、と。望んで此処にやってきた…ってことは。
ルールから考えると、願い事に関するコト、だよね?此れから、ボクはどうすればいいかとかあるかな。
…あはは、ごめんね。本当に何も覚えてないから…こんなボクなんかに1から説明してくれてありがとう。」
純粋な感謝。
何故なら、目の前の彼はこの世で最も必要ないボクに、此処まで面倒見てくれる。
コロシアイをやっていた時の"みんな"もそうだけれど、こんなヤツに優しくする気概なんてないのに。
なら、今は精一杯、其れに応えないといけない。そうでしょ?
"ボク"が引っ込んでいったのに関しては…蛙の子は蛙、かな。ボクの人格の一つなんだし、みんなと口喧嘩して勝つ方がおかしいのだから普通と言えば普通。
というより、寧ろこの人はよくボクなんかとの話し合いに応じていたものだ。…なんて、こんな考え方をしていると9thさんにでも怒られそうだね。
「……ええ、と。望んで此処にやってきた…ってことは。
ルールから考えると、願い事に関するコト、だよね?此れから、ボクはどうすればいいかとかあるかな。
…あはは、ごめんね。本当に何も覚えてないから…こんなボクなんかに1から説明してくれてありがとう。」
純粋な感謝。
何故なら、目の前の彼はこの世で最も必要ないボクに、此処まで面倒見てくれる。
コロシアイをやっていた時の"みんな"もそうだけれど、こんなヤツに優しくする気概なんてないのに。
なら、今は精一杯、其れに応えないといけない。そうでしょ?
「…………」
話が停滞……どころか、巻き戻っている。本題に入ろうにも、本人が本題を認識していないのなら意味がない。
どうすればいいかって、こっちが聞きたいんだが。
とりあえず罵倒することにした。
「君のその卑屈な態度、ウザイなぁ。他の人に傷つけられるのが嫌だから、先に自分で自分を傷つけて、防御した気でいるんだよね。自分を散々卑下しておきながら、本当は誰よりも他人に卑下されるのを厭う。自己中心的甚だしいな。
それに、嫌いな自分を変えようとする気も0だよね。現状に甘えて、解決策を案じることもない。新しいことを考えるより、今を引き摺っていた方が楽だもんね。他人からも自分からも愛されない存在なんて、価値あるのかな?」
話が停滞……どころか、巻き戻っている。本題に入ろうにも、本人が本題を認識していないのなら意味がない。
どうすればいいかって、こっちが聞きたいんだが。
とりあえず罵倒することにした。
「君のその卑屈な態度、ウザイなぁ。他の人に傷つけられるのが嫌だから、先に自分で自分を傷つけて、防御した気でいるんだよね。自分を散々卑下しておきながら、本当は誰よりも他人に卑下されるのを厭う。自己中心的甚だしいな。
それに、嫌いな自分を変えようとする気も0だよね。現状に甘えて、解決策を案じることもない。新しいことを考えるより、今を引き摺っていた方が楽だもんね。他人からも自分からも愛されない存在なんて、価値あるのかな?」
そっか。
終了。
然ういった事は前にも言われた事があるし、"みんな"にボクの存在が如何思われようと構わない。
他人に傷つけられるのが嫌、と彼が解釈するなら若しかしたらそうなのかもしれない。
確かにボクから何かを変えようとはしない。"みんな"に変えろと謂われれば勿論変えるよ。現に9thさんに怒られた事もあるし。
今を引き摺っていた方が楽なのか、どうなのだろう。楽だとか楽ではないとかで物事をとらえた事がない。
だってボクが楽なのか楽ではないのかだなんて、みんなには関係のないこと、意味のないこと、価値のないこと。
然れで言えば"他人からも自分からも愛されない存在"には、文字通り"価値がない"のかもしれない。
「えっ、と、キミの気に触ったなら謝るよ。ごめん。
やっぱりこんなゴミクズには価値がない、のかな。今から詫びれるモノなら何でもして詫びたいけど…」
意訳。ボクに出来る事ならば何でもするよ。
目の前の彼は、見るからにボクに不満があるようだし…ああ、ならこの際死んで詫びるって手段もアリかな。
終了。
然ういった事は前にも言われた事があるし、"みんな"にボクの存在が如何思われようと構わない。
他人に傷つけられるのが嫌、と彼が解釈するなら若しかしたらそうなのかもしれない。
確かにボクから何かを変えようとはしない。"みんな"に変えろと謂われれば勿論変えるよ。現に9thさんに怒られた事もあるし。
今を引き摺っていた方が楽なのか、どうなのだろう。楽だとか楽ではないとかで物事をとらえた事がない。
だってボクが楽なのか楽ではないのかだなんて、みんなには関係のないこと、意味のないこと、価値のないこと。
然れで言えば"他人からも自分からも愛されない存在"には、文字通り"価値がない"のかもしれない。
「えっ、と、キミの気に触ったなら謝るよ。ごめん。
やっぱりこんなゴミクズには価値がない、のかな。今から詫びれるモノなら何でもして詫びたいけど…」
意訳。ボクに出来る事ならば何でもするよ。
目の前の彼は、見るからにボクに不満があるようだし…ああ、ならこの際死んで詫びるって手段もアリかな。
「…………」
こちらの形態の方が防御力が高いのは予想外だった。防御力というより、吸収力が半端ではない。罵詈雑言など、一瞬にして溶かしてしまう。
……本当の狂人は、こっちなのか?
ん?今なんでもするって言ったよね?そうだなぁ、どんなことを頼んでやろうかなぁ、へっへっへ
そういえば今週はトイレ掃除がまだだった気がする。ゴミ捨てもだ。換気扇が壊れてるから直してもらおうか?
違う、そうじゃない。
この応酬が無価値であることを悟った。そろそろ本題に移らねば。
「もう一人の君と話がしたいんだが……。僕はそもそも君の願いを受け入れるべく、君と対峙したんだ。話の通じない君に用はない……」
こちらの形態の方が防御力が高いのは予想外だった。防御力というより、吸収力が半端ではない。罵詈雑言など、一瞬にして溶かしてしまう。
……本当の狂人は、こっちなのか?
ん?今なんでもするって言ったよね?そうだなぁ、どんなことを頼んでやろうかなぁ、へっへっへ
そういえば今週はトイレ掃除がまだだった気がする。ゴミ捨てもだ。換気扇が壊れてるから直してもらおうか?
違う、そうじゃない。
この応酬が無価値であることを悟った。そろそろ本題に移らねば。
「もう一人の君と話がしたいんだが……。僕はそもそも君の願いを受け入れるべく、君と対峙したんだ。話の通じない君に用はない……」
もう一人のボク。つまり"ボク"の事。
…と言われても、そもそもの切り替える方法が不明瞭なんだよね。何時の間にか切り替わっているし、何時の間にか戻っている。多分"其れ"に関しては"ボク"の方が多く知っている…と思う。
然ういえば前起きた時はナイフが刺さっていたんだっけ。痛みもトリガーになるかもしれない。
後は…"ボク"が言い負かされて引っ込んでいった、と言う事なら其れも一つの手段かもしれない。
とは、言いつつ、良くは分からない訳で。
けれど"ボク"と話したいと言うのが彼の、お願いなら。聞き届けないと行けない。
見渡す。
直方体の棺の様な物がつらつらと並べられている。その内の一つ、乱雑にコードやらが引っ張られ壊れていて。
ああ、これ、使える。
なるべく破損箇所が大きく、切っ先の尖った物を選んで。
躊躇なく、勢い良く、深々と。腕に突き刺した。
あは、ちょっと痛いかもしれない。けれどこれで西条さんのお願い事を達成出来るかもしれないなら、本望かな。
血が垂れてきて、意識が朧気になって来て、足元がふらついて来て、そのまま―――
―――――――
倒れそうになった身体を、貰っていた杖で必死に支えた。
何、これは。腕が痛い。…厭、覚えている。覚えているからこそ、何だ、これ。
取り敢えず、自分で刺したコード(のようなもの…?)を引き抜いて、血が出てくるのは…防ぎようも無いから、そのままで良いか。
状況整理。
先程まで何をしていたか、何を言っていたか、オレは覚えている。
「……あー、いたい。…で、話がしたい?だっけ?」
ので。まずは話を進める事にした。目の前のむかつく奴は少しだけ存在を無かった事にしておこう。
…と言われても、そもそもの切り替える方法が不明瞭なんだよね。何時の間にか切り替わっているし、何時の間にか戻っている。多分"其れ"に関しては"ボク"の方が多く知っている…と思う。
然ういえば前起きた時はナイフが刺さっていたんだっけ。痛みもトリガーになるかもしれない。
後は…"ボク"が言い負かされて引っ込んでいった、と言う事なら其れも一つの手段かもしれない。
とは、言いつつ、良くは分からない訳で。
けれど"ボク"と話したいと言うのが彼の、お願いなら。聞き届けないと行けない。
見渡す。
直方体の棺の様な物がつらつらと並べられている。その内の一つ、乱雑にコードやらが引っ張られ壊れていて。
ああ、これ、使える。
なるべく破損箇所が大きく、切っ先の尖った物を選んで。
躊躇なく、勢い良く、深々と。腕に突き刺した。
あは、ちょっと痛いかもしれない。けれどこれで西条さんのお願い事を達成出来るかもしれないなら、本望かな。
血が垂れてきて、意識が朧気になって来て、足元がふらついて来て、そのまま―――
―――――――
倒れそうになった身体を、貰っていた杖で必死に支えた。
何、これは。腕が痛い。…厭、覚えている。覚えているからこそ、何だ、これ。
取り敢えず、自分で刺したコード(のようなもの…?)を引き抜いて、血が出てくるのは…防ぎようも無いから、そのままで良いか。
状況整理。
先程まで何をしていたか、何を言っていたか、オレは覚えている。
「……あー、いたい。…で、話がしたい?だっけ?」
ので。まずは話を進める事にした。目の前のむかつく奴は少しだけ存在を無かった事にしておこう。
私[桂木巳之]という人間はこの世では亡くなったことになっていた。
行方不明のまま見つからず、痺れを切らした我が両親こと桂木夫妻は養子をとり、後継人を見立てたとか。用無しの顔無しはこの世から消えてしまった。けど、悲しくはなかった。寧ろこの腐れた縁という柵から解放されたとい清々しさすらある。自らの人生を歩めるのだ。
これからは。
だから私は私の足で歩けるようになったと塗り替えた戸籍ついでに[月乃巳之]なんて、陳腐で安易な名前に変えてみた。大した意味はないが、敢えて意味をつけるなら[区切り]とでも。
ここまでは余談。
さて、私はここまでで学んできたことがある。
人世を歩むということは傷つき傷つけられることであり、赤子のうちは傷一つもつきやしない。だから無垢で居られるのであってそれに永久性など存在しない。
生きてる限りは。
瞳を閉じて音を拾い集める。足音、話し声、風の音、騒音、雑音、私の生きている音。
[人世を歩いている音]。
その歩みの先に確かなものは何一つ無くて、生きている限り続く道を唯淡々と歩くだけ。意味があるかもわからない。もしかしたら何も残らないかもしれない。そんな道を只管に。私達は歩いて、音を零しながら生きていく。
そんな簡単なことを学んだのは本当に最近のこと。
場面転換。
歩みを止めた先、君が眠る場所に独りで佇んでいた。赤城とその師である一二三の力がなければ今頃見つからない君を探して途方に暮れていたであろう。
顔の無い君に向けて私は咲いかける。
──来たよ、かがみん………いや、京香ちゃん。
人世とは実に不思議なもので、上辺で塗りたくっただけの仮面だらけの人間が出会って笑って涙して、お互いに傷を残し合う。この世界で赤子であった私がそれに気付いたのは傷ついたのは、皮肉にも薄汚れて血に濡れた歪な疑心暗鬼の渦の世界。そこで私は初めて生まれて、人世というものを歩んで、君という人間に出会った。お互いが仮面であったかもしれないけれど、お互いが写し鏡であったかもしれないけれど。その中で存在していた気持ちというものは紛れもなく本物だから。私は私の心に傷を残して生きて、行きたいと思う。
ごめんね、ありがとう。
顔を持ち上げると太陽光が目をくらまして、視界を遮断した。閉じた視界は真っ暗だ。その瞼の裏に終わらない夢はもう存在しない。
時は流れていく。深い闇の中、変わりゆく街の中で。変わらない君のことだけ置いて進んでいく。
ちっぽけな私にはどうしようもなく不条理な世界。
時に置いていかれるのはその一瞬に存在する私の気持ちも同様だ。ならば、この気持ちもあの時の気持ちもこれから先の気持ちも君と共に置いていく。
それで、その一瞬を私も君も僕もかがみんもずっと一緒に生きていこうか。
その為にも、そうだね。
「次こそは、君を救うよ。」
終わらない世界に終止符を。君以外の君という誰かを私は救いに。
踵を返してそれからはもう、振り返ることはなかった。
さぁ、あのクソッタレたゲームを終わらせに行こう。
──────…
✕月✕日✕✕時頃
南の島のチンケなお墓の傍。ぽつり二つ並んだ星型の髪留めを、誰かが拾っては首を傾げていた。
▷to be continued?
行方不明のまま見つからず、痺れを切らした我が両親こと桂木夫妻は養子をとり、後継人を見立てたとか。用無しの顔無しはこの世から消えてしまった。けど、悲しくはなかった。寧ろこの腐れた縁という柵から解放されたとい清々しさすらある。自らの人生を歩めるのだ。
これからは。
だから私は私の足で歩けるようになったと塗り替えた戸籍ついでに[月乃巳之]なんて、陳腐で安易な名前に変えてみた。大した意味はないが、敢えて意味をつけるなら[区切り]とでも。
ここまでは余談。
さて、私はここまでで学んできたことがある。
人世を歩むということは傷つき傷つけられることであり、赤子のうちは傷一つもつきやしない。だから無垢で居られるのであってそれに永久性など存在しない。
生きてる限りは。
瞳を閉じて音を拾い集める。足音、話し声、風の音、騒音、雑音、私の生きている音。
[人世を歩いている音]。
その歩みの先に確かなものは何一つ無くて、生きている限り続く道を唯淡々と歩くだけ。意味があるかもわからない。もしかしたら何も残らないかもしれない。そんな道を只管に。私達は歩いて、音を零しながら生きていく。
そんな簡単なことを学んだのは本当に最近のこと。
場面転換。
歩みを止めた先、君が眠る場所に独りで佇んでいた。赤城とその師である一二三の力がなければ今頃見つからない君を探して途方に暮れていたであろう。
顔の無い君に向けて私は咲いかける。
──来たよ、かがみん………いや、京香ちゃん。
人世とは実に不思議なもので、上辺で塗りたくっただけの仮面だらけの人間が出会って笑って涙して、お互いに傷を残し合う。この世界で赤子であった私がそれに気付いたのは傷ついたのは、皮肉にも薄汚れて血に濡れた歪な疑心暗鬼の渦の世界。そこで私は初めて生まれて、人世というものを歩んで、君という人間に出会った。お互いが仮面であったかもしれないけれど、お互いが写し鏡であったかもしれないけれど。その中で存在していた気持ちというものは紛れもなく本物だから。私は私の心に傷を残して生きて、行きたいと思う。
ごめんね、ありがとう。
顔を持ち上げると太陽光が目をくらまして、視界を遮断した。閉じた視界は真っ暗だ。その瞼の裏に終わらない夢はもう存在しない。
時は流れていく。深い闇の中、変わりゆく街の中で。変わらない君のことだけ置いて進んでいく。
ちっぽけな私にはどうしようもなく不条理な世界。
時に置いていかれるのはその一瞬に存在する私の気持ちも同様だ。ならば、この気持ちもあの時の気持ちもこれから先の気持ちも君と共に置いていく。
それで、その一瞬を私も君も僕もかがみんもずっと一緒に生きていこうか。
その為にも、そうだね。
「次こそは、君を救うよ。」
終わらない世界に終止符を。君以外の君という誰かを私は救いに。
踵を返してそれからはもう、振り返ることはなかった。
さぁ、あのクソッタレたゲームを終わらせに行こう。
──────…
✕月✕日✕✕時頃
南の島のチンケなお墓の傍。ぽつり二つ並んだ星型の髪留めを、誰かが拾っては首を傾げていた。
▷to be continued?
あのゲームから数日経った。
学校に関しては……まあ、案外何とかなっている。
最初こそ、頭の花を色んな奴から聞かれたが、それも収まった。
エムの様に、面影もない位に変わったりはしていないからな。
……ただ少し、友達と言えそうな人が増えたのは、良かったか。
そんなこんなでこの日、件の約束を果たすために待ち合わせをしていた。
例の詐欺師、かなり斬り甲斐のあった彼女。
そいつに、飯を奢るために。
で、一応、財布は分けておいた。
何をされるか分からない、予算としては1〜2万では絶対に抑えたい所。
……このあと、色んな奴にも奢るのだから。
学校に関しては……まあ、案外何とかなっている。
最初こそ、頭の花を色んな奴から聞かれたが、それも収まった。
エムの様に、面影もない位に変わったりはしていないからな。
……ただ少し、友達と言えそうな人が増えたのは、良かったか。
そんなこんなでこの日、件の約束を果たすために待ち合わせをしていた。
例の詐欺師、かなり斬り甲斐のあった彼女。
そいつに、飯を奢るために。
で、一応、財布は分けておいた。
何をされるか分からない、予算としては1〜2万では絶対に抑えたい所。
……このあと、色んな奴にも奢るのだから。
『……待った?』
髪をバッサリ切った。
前と変わった身体を受け入れた。
私の変動はまあ、今のところそれくらいだ。嫌に前の赤城結菜に近づけたりしなくて良くなったのは嬉しい。メイクなんてだるいし。
帰省は、少し先になるかな。
とはいえ、予定的にはそれなりに早く帰れそうだ。
どうやら、誕生日プレゼントだろうか、桂木の一件以来借りっぱなしの、黒塗りの外車を乗り回し。
ヒガンバナの目の前で横に車をつけ、停車。扉を開ける。
どうにもものものしい。
そりゃあそうだ。
ロールス・ロイスである。
全く、また誰か騙されたのだろう。私の師の詐欺師に。
彼女は彼女で、悪党相手の方が身バレしにくいからと悪党専門の詐欺師なんぞを私の親になってからはしていたらしいから、いよいよ車の出どころが怪しい。
さて。
私は奢ってもらわないかのような顔をしていたが、あれは嘘だ。
詐欺である。
どの道名義は『マリア』だしな。
あちらからしたら嘘ですらない。
『乗って。』
さて、いくら払わせるか……
髪をバッサリ切った。
前と変わった身体を受け入れた。
私の変動はまあ、今のところそれくらいだ。嫌に前の赤城結菜に近づけたりしなくて良くなったのは嬉しい。メイクなんてだるいし。
帰省は、少し先になるかな。
とはいえ、予定的にはそれなりに早く帰れそうだ。
どうやら、誕生日プレゼントだろうか、桂木の一件以来借りっぱなしの、黒塗りの外車を乗り回し。
ヒガンバナの目の前で横に車をつけ、停車。扉を開ける。
どうにもものものしい。
そりゃあそうだ。
ロールス・ロイスである。
全く、また誰か騙されたのだろう。私の師の詐欺師に。
彼女は彼女で、悪党相手の方が身バレしにくいからと悪党専門の詐欺師なんぞを私の親になってからはしていたらしいから、いよいよ車の出どころが怪しい。
さて。
私は奢ってもらわないかのような顔をしていたが、あれは嘘だ。
詐欺である。
どの道名義は『マリア』だしな。
あちらからしたら嘘ですらない。
『乗って。』
さて、いくら払わせるか……
「………………待っては、いない。」
いやいやいやいや。
おかしいだろう、登場の仕方が!
心の中で盛大に突っ込みを入れる。
何だってこんな高そうな車に乗って現れる奴が居るんだ!?
滅茶苦茶浮くだろう!?
もしかしたら私は、とんでもない契約をしたのかもしれない。
「…………こんな車、初めて乗ったぞ……」
いやいやいやいや。
おかしいだろう、登場の仕方が!
心の中で盛大に突っ込みを入れる。
何だってこんな高そうな車に乗って現れる奴が居るんだ!?
滅茶苦茶浮くだろう!?
もしかしたら私は、とんでもない契約をしたのかもしれない。
「…………こんな車、初めて乗ったぞ……」
『私も乗ったことないわよこんなの。母さ……まあ、私の後見人から頂いたものだし、胡散臭い品でしかないでしょうけど。』
母さん、と言いそうになるのは親不孝かもな。時代が時代なら。
けれど。
楽に儲かる!みたいな訳の分からない投資だの、新興宗教だのに金を巻き上げられて、私に多分の不自由を強いた挙句、ついに窮して、叔父さんを経由して一二三の元に放り出した両親よりは。
彼女の方が。
あの学園に合格した時、笑顔を向けてくれた人の方が。
私には"両親"だ。
が、言い出したらこの上なく厄介なので、やめておく。
後見人、位の胡散臭い感じが、あいつには丁度よかろう。
本来修学旅行で回るはずだった名古屋市街に車を転がすのは、なんとなく寂しい気はしたが。
『失礼なことを聞くようだけれど。幾らある?私は財布、持ってきてないわよ。』
まさか。
帰省する予定があるから、無論相応の金はある。
だが、無いことにした。
酷い話である。
『ホテルのフルコース……』
とはいえ、いくらなんでも、ぎりぎり高校生なら金が残るな。
ぐぬぬ。
『と。』
なんてな。
『"幾つか"お店を予約しているのだけれど……
おねがぁいヒガンバナちゃん♡』
騙される方が悪い。
私は、飯を奢れ、と言った。
一食に食いきれば。
ハシゴ禁止とは聞いていない。
母さん、と言いそうになるのは親不孝かもな。時代が時代なら。
けれど。
楽に儲かる!みたいな訳の分からない投資だの、新興宗教だのに金を巻き上げられて、私に多分の不自由を強いた挙句、ついに窮して、叔父さんを経由して一二三の元に放り出した両親よりは。
彼女の方が。
あの学園に合格した時、笑顔を向けてくれた人の方が。
私には"両親"だ。
が、言い出したらこの上なく厄介なので、やめておく。
後見人、位の胡散臭い感じが、あいつには丁度よかろう。
本来修学旅行で回るはずだった名古屋市街に車を転がすのは、なんとなく寂しい気はしたが。
『失礼なことを聞くようだけれど。幾らある?私は財布、持ってきてないわよ。』
まさか。
帰省する予定があるから、無論相応の金はある。
だが、無いことにした。
酷い話である。
『ホテルのフルコース……』
とはいえ、いくらなんでも、ぎりぎり高校生なら金が残るな。
ぐぬぬ。
『と。』
なんてな。
『"幾つか"お店を予約しているのだけれど……
おねがぁいヒガンバナちゃん♡』
騙される方が悪い。
私は、飯を奢れ、と言った。
一食に食いきれば。
ハシゴ禁止とは聞いていない。
「……恐ろしいな、全く。」
まあきっと、この感じだと親?後見人?も詐欺師か?
いや、恐ろしすぎる。
本当に敵でなくて良かった。
まあ、絶賛金が消えそうになっているのだが。
「冗談がキツいな、貴様…………
私とて高校生、あのゲームでAzothとして最後まで勝てたのならまだしも、普通の高校生だぞ?
…………一万で頼む。」
……最悪、黒崎にでも泣きつこう。
まあきっと、この感じだと親?後見人?も詐欺師か?
いや、恐ろしすぎる。
本当に敵でなくて良かった。
まあ、絶賛金が消えそうになっているのだが。
「冗談がキツいな、貴様…………
私とて高校生、あのゲームでAzothとして最後まで勝てたのならまだしも、普通の高校生だぞ?
…………一万で頼む。」
……最悪、黒崎にでも泣きつこう。
『……仕方ないわねぇ…一万五千円で負けてあげる。』
因みに幾つか予約しているというのは嘘である。
なら詐欺じゃない、なんて言い訳は聞かない。帰りの飲み代(実は私は生還した日が誕生日である)位は払わせてやろう。
必ずな。
まあ良い、腰を落ち着けて食えるようになったと考えれば。
♦️
さて、到着である。
あの高級車が全く以て浮かない、ドレスコードが必須と言われても違和感がないような、紳士淑女の飲食する、広い食堂。
ペルシャ絨毯だろうか。複雑な花柄の敷物に、大理石がごとく磨き上げられた回転式の丸テーブルを、温暖な色の照明がほのかに照らしている。
外を見やれば、さて、宝石を砕いたのを散らしたような抜群の夜景。地上200階はある。
薄ら寒い思いをそろそろヒガンバナ女史はするが良い。
悪いが。
"一人につき"
一万円である。
これでもある程度安いコースにしたが、案外高いな。
『……まあ、ぎりぎり足りるんじゃないかしら。』
ウエイターに軽く応対してから、私は席につく。
余裕げに。
ついでに。
皮肉に笑って。
因みに幾つか予約しているというのは嘘である。
なら詐欺じゃない、なんて言い訳は聞かない。帰りの飲み代(実は私は生還した日が誕生日である)位は払わせてやろう。
必ずな。
まあ良い、腰を落ち着けて食えるようになったと考えれば。
♦️
さて、到着である。
あの高級車が全く以て浮かない、ドレスコードが必須と言われても違和感がないような、紳士淑女の飲食する、広い食堂。
ペルシャ絨毯だろうか。複雑な花柄の敷物に、大理石がごとく磨き上げられた回転式の丸テーブルを、温暖な色の照明がほのかに照らしている。
外を見やれば、さて、宝石を砕いたのを散らしたような抜群の夜景。地上200階はある。
薄ら寒い思いをそろそろヒガンバナ女史はするが良い。
悪いが。
"一人につき"
一万円である。
これでもある程度安いコースにしたが、案外高いな。
『……まあ、ぎりぎり足りるんじゃないかしら。』
ウエイターに軽く応対してから、私は席につく。
余裕げに。
ついでに。
皮肉に笑って。
「……………………。」
ああ、なんというか。コイツ何なんだよ。
……初めて登ったぞ、こんな高い所。
どれだけこの瞬間で初体験させるつもりだ。
……そもそも、こんな場所に学生服で良いのだろうか?
「一万、五千円……だな……あ、ああ、ギリギリ足りるだろう……ああ。
…………そもそも、私浮いていないか?」
ああ、なんというか。コイツ何なんだよ。
……初めて登ったぞ、こんな高い所。
どれだけこの瞬間で初体験させるつもりだ。
……そもそも、こんな場所に学生服で良いのだろうか?
「一万、五千円……だな……あ、ああ、ギリギリ足りるだろう……ああ。
…………そもそも、私浮いていないか?」
『浮いてるわね。』
歯に衣着せず答えて。
皿の周りにも添える類の、洒落たドレッシングの掛け方がされた前菜のサラダを食らう。
そりゃあそうだ。
学生服でこんなところ来てみろ、私がおっさんなら、間違いなく援助交際を疑われて、一声かけられていたであろう。
浮いているな、無論。
私も人のことを言えないが、しかし、場慣れしている。
いかれた金持ちだの殺人鬼だのが調子に乗って開いたデスゲームに身を置き続けてきた。
それは即ち、金と。賞金とは縁が切っても切れないので、それに伴い、美食に親しんできた。
だから、余裕である。
『……で、あいごころ、だったかしら。彼女とは会った?』
答えのわかりきった質問を、私は投げかける。
歯に衣着せず答えて。
皿の周りにも添える類の、洒落たドレッシングの掛け方がされた前菜のサラダを食らう。
そりゃあそうだ。
学生服でこんなところ来てみろ、私がおっさんなら、間違いなく援助交際を疑われて、一声かけられていたであろう。
浮いているな、無論。
私も人のことを言えないが、しかし、場慣れしている。
いかれた金持ちだの殺人鬼だのが調子に乗って開いたデスゲームに身を置き続けてきた。
それは即ち、金と。賞金とは縁が切っても切れないので、それに伴い、美食に親しんできた。
だから、余裕である。
『……で、あいごころ、だったかしら。彼女とは会った?』
答えのわかりきった質問を、私は投げかける。
「……くそっ、こんな事ならもっと良い私服で来るんだった……!」
今更だが、確認しなかった私も悪いのか!
もういい、本当に今更だ、この際浮いていようが食いまくってやる!
「……あいごころか、結局会えていないのだ。
……このあと、エムやフェルナと一緒に何かご馳走する予定だったのだが。」
連絡はした(重要)
無論、殺された相手ではあるが、鱈腹ご馳走するつもりだ。(最重要)
……まあ、ここより安い店にはなるが。
今更だが、確認しなかった私も悪いのか!
もういい、本当に今更だ、この際浮いていようが食いまくってやる!
「……あいごころか、結局会えていないのだ。
……このあと、エムやフェルナと一緒に何かご馳走する予定だったのだが。」
連絡はした(重要)
無論、殺された相手ではあるが、鱈腹ご馳走するつもりだ。(最重要)
……まあ、ここより安い店にはなるが。
『……まさかあのバカ…』
表情が曇る。
フォークを取り落とす。
過ぎったのは、とある人間の事。
桂木という少女は、あの後、どうしたかを知る私には。
関係は良好なはずであるあいごころとヒガンバナの間で、しかも私の方から事前に言ってあるというのに、こんな不可解があるなら。
想像される可能性は絞られた。
それに、セレスティアの方からもコンタクトが取れていないと見える――――これに関しては、調べたのは時系列的には少し後になる話だが、セレスティアに雇われた一二三を辿れば概ね判別がつくので、既に情報として確定してあることにしておく――――――
ったく。
世話の焼ける女だ。
仕事はまだ、どうあっても、終わらないみたいだぜ。
『落ち着いて話を聞いて。
まあ、女子高生らしい、些細な関係のもつれとかでは無いなら。
その心当たりがないなら。
………彼女は、アカエルの所に行ったかもしれない。』
まあ、私も行ったしな。
という元も子もない事は、この際もう言わずに。
黙々と並べられる料理を腹に放り込みながら、私はそう回答する。
こんな時に飯なんて。
と言われそうだが。
こんな時だからこそ。
普段のペースを崩さない。
冷静沈着に。
Be cool and steady!
狂気には理性を。
真相には嘘を。
純真には退廃を。
眉間にぶち込んでやる。
だからそれまで、ペースを狂わせるな。それは、私にしかできない仕事なんだから。
『……まあ、戻っては来ないでしょう、多分ね。』
癪に障る位の他人事!
こんなに涼しい顔を出来ているとは、私の名演極まれり、だな。
表情が曇る。
フォークを取り落とす。
過ぎったのは、とある人間の事。
桂木という少女は、あの後、どうしたかを知る私には。
関係は良好なはずであるあいごころとヒガンバナの間で、しかも私の方から事前に言ってあるというのに、こんな不可解があるなら。
想像される可能性は絞られた。
それに、セレスティアの方からもコンタクトが取れていないと見える――――これに関しては、調べたのは時系列的には少し後になる話だが、セレスティアに雇われた一二三を辿れば概ね判別がつくので、既に情報として確定してあることにしておく――――――
ったく。
世話の焼ける女だ。
仕事はまだ、どうあっても、終わらないみたいだぜ。
『落ち着いて話を聞いて。
まあ、女子高生らしい、些細な関係のもつれとかでは無いなら。
その心当たりがないなら。
………彼女は、アカエルの所に行ったかもしれない。』
まあ、私も行ったしな。
という元も子もない事は、この際もう言わずに。
黙々と並べられる料理を腹に放り込みながら、私はそう回答する。
こんな時に飯なんて。
と言われそうだが。
こんな時だからこそ。
普段のペースを崩さない。
冷静沈着に。
Be cool and steady!
狂気には理性を。
真相には嘘を。
純真には退廃を。
眉間にぶち込んでやる。
だからそれまで、ペースを狂わせるな。それは、私にしかできない仕事なんだから。
『……まあ、戻っては来ないでしょう、多分ね。』
癪に障る位の他人事!
こんなに涼しい顔を出来ているとは、私の名演極まれり、だな。
「……は?
いや、馬鹿な……こころは、Celestiaだろう?」
それが何だって、アカエルに付くと言うのだ。
Celestiaは、私達──私はもう元だが──Azothを倒すための組織ではなかったのか?
「…………だが……あり得るか。
はぁ、何だってそんな……いや、だからと言って連絡がつかないのもな……」
Azothになるのは、ありだとしよう。
何しろ私も入れたのだから。
……だが、飯くらい食って行ったっていいじゃあないか。
寂しいぞ(´・ω・`)(お花萎え……)
いや、馬鹿な……こころは、Celestiaだろう?」
それが何だって、アカエルに付くと言うのだ。
Celestiaは、私達──私はもう元だが──Azothを倒すための組織ではなかったのか?
「…………だが……あり得るか。
はぁ、何だってそんな……いや、だからと言って連絡がつかないのもな……」
Azothになるのは、ありだとしよう。
何しろ私も入れたのだから。
……だが、飯くらい食って行ったっていいじゃあないか。
寂しいぞ(´・ω・`)(お花萎え……)
『……で。提案だけれど。』
提案。
無論、決まりきった。
助けに行く理由は、そうだな。
セレスティアを奪還してきたならば、セレスティアからかなり稼げそうだから、というところで良いだろう。
別に、あいごころとか言う少女がどうなっても良いが。
自分に似たやつを見捨てるのは、流石に寝覚めが悪いしな。
何より、これでは依頼を完遂していないことになる。飯代を払わされてしまうではないか。
『取り返しに行かない?』
ウエイトレスが皿を片付けていく中、私は――――――多分皮肉るようにそう聞いた。
提案。
無論、決まりきった。
助けに行く理由は、そうだな。
セレスティアを奪還してきたならば、セレスティアからかなり稼げそうだから、というところで良いだろう。
別に、あいごころとか言う少女がどうなっても良いが。
自分に似たやつを見捨てるのは、流石に寝覚めが悪いしな。
何より、これでは依頼を完遂していないことになる。飯代を払わされてしまうではないか。
『取り返しに行かない?』
ウエイトレスが皿を片付けていく中、私は――――――多分皮肉るようにそう聞いた。
「……取り返す、だと?」
ああ、確かこいつは、今回のも取り返す為に来たんだったか。
なら、こう言うのは得意か。
「……そうだな、取り返そうか。
……そうでないと、エムに合わせる顔も無いし……貴様の依頼も達成とは認めないしな。」
こんな高級料理を奢るのだ、ちゃんと働いて貰わんとな。
ああ、確かこいつは、今回のも取り返す為に来たんだったか。
なら、こう言うのは得意か。
「……そうだな、取り返そうか。
……そうでないと、エムに合わせる顔も無いし……貴様の依頼も達成とは認めないしな。」
こんな高級料理を奢るのだ、ちゃんと働いて貰わんとな。
『とはいえ、セレスティアの協力を取り付けないと……いや、無理そうね、私と貴方じゃ。』
ち、バレていやがる。
なんていう、さもしい感想。
劇的でもない理由で、また、命を懸けるというのも凄まじい話だが、金が命より大事なのは、師、だけではなかっただけだ。
断じて、情が湧いた訳では無い。
なんて言い訳は、もう、悲しいくらい嘘くさいか?
だが、私はセレスティアに関しては喧嘩を売った形で、彼女は元アゾートである。
いくらなんでも、そうほいほいと協力は得られない。となると、どう、参加するべきか――――?
『どうしたものかしら――……』
皿を片付けてくれたウエイトレスが、去り際、何か手紙のようなものを置き去りにして行った。
落し物というより。
請求書とか、そんな感じで置いて行くものだから、気にもとめなかったが、デザートもまだだ。
ヒガンバナの方に置くあたり、尚更私は不審に思う。
まあ確かに払うのは彼女だが。
私と彼女の風采とでは。
学生服と。
ドレスコード位に差がある。
些か不躾ではないか?
なんて、眉をひそめ、訝る。
ち、バレていやがる。
なんていう、さもしい感想。
劇的でもない理由で、また、命を懸けるというのも凄まじい話だが、金が命より大事なのは、師、だけではなかっただけだ。
断じて、情が湧いた訳では無い。
なんて言い訳は、もう、悲しいくらい嘘くさいか?
だが、私はセレスティアに関しては喧嘩を売った形で、彼女は元アゾートである。
いくらなんでも、そうほいほいと協力は得られない。となると、どう、参加するべきか――――?
『どうしたものかしら――……』
皿を片付けてくれたウエイトレスが、去り際、何か手紙のようなものを置き去りにして行った。
落し物というより。
請求書とか、そんな感じで置いて行くものだから、気にもとめなかったが、デザートもまだだ。
ヒガンバナの方に置くあたり、尚更私は不審に思う。
まあ確かに払うのは彼女だが。
私と彼女の風采とでは。
学生服と。
ドレスコード位に差がある。
些か不躾ではないか?
なんて、眉をひそめ、訝る。
「まあ、無理だろうな……いや、エムを頼れば案外?」
エムもCelestiaなのだから、その伝でいけなくはないか?
いや、仮にも娘に頼るのも恥ずかしい話だが。
……まさか、Celestiaを助ける為に、元AzothがCelestiaに入る、もしくは協力するという馬鹿げた話になるとは思わなんだ。
「……む?これ、は?」
気がつけば手紙らしきものが置いてあった。
私宛か?会計には早いと思うのだが……
一先ず、開けてみる事に。
エムもCelestiaなのだから、その伝でいけなくはないか?
いや、仮にも娘に頼るのも恥ずかしい話だが。
……まさか、Celestiaを助ける為に、元AzothがCelestiaに入る、もしくは協力するという馬鹿げた話になるとは思わなんだ。
「……む?これ、は?」
気がつけば手紙らしきものが置いてあった。
私宛か?会計には早いと思うのだが……
一先ず、開けてみる事に。
♦️手紙の内容
【前略。話は聞かせてもらったぜ、偽造の身分も、二人くらいなら簡単に作れるだろう。
参加自体はどうにかしてあげられる筈だ。あとは君たち次第だが。
ま、青春してこい。
赤城結菜の保護者より。】
ああ、そうである。
"セレスティアの迎えで高級ホテルをとってある"
奴が、既に居たのだ。
あんな物々しい車で行けば、車種と私の容姿を、あらかじめ指定しておけば、連れだとでも言ってこの位の仕込みはできる。
大方、あのウエイトレスは奴の変装であった訳だ。
一杯食わされた。
『……だ、そうよ。』
少し背伸びしてのぞき込み、私は、苦笑しながらそう言った。
【前略。話は聞かせてもらったぜ、偽造の身分も、二人くらいなら簡単に作れるだろう。
参加自体はどうにかしてあげられる筈だ。あとは君たち次第だが。
ま、青春してこい。
赤城結菜の保護者より。】
ああ、そうである。
"セレスティアの迎えで高級ホテルをとってある"
奴が、既に居たのだ。
あんな物々しい車で行けば、車種と私の容姿を、あらかじめ指定しておけば、連れだとでも言ってこの位の仕込みはできる。
大方、あのウエイトレスは奴の変装であった訳だ。
一杯食わされた。
『……だ、そうよ。』
少し背伸びしてのぞき込み、私は、苦笑しながらそう言った。
「…………全く、貴様らは恐ろしいな。」
これだって、人を斬りたい以外の感性は普通……だと、思っている。
だから、この自然とレールの上に乗せられて走らされているような、掌の上で踊らされているような感覚には、恐ろしい物を感じる。
「……了解した。
では……また死にに行くか……ああ、斬りに行くか、の方が私らしいか?」
これだって、人を斬りたい以外の感性は普通……だと、思っている。
だから、この自然とレールの上に乗せられて走らされているような、掌の上で踊らされているような感覚には、恐ろしい物を感じる。
「……了解した。
では……また死にに行くか……ああ、斬りに行くか、の方が私らしいか?」
『そうね…
ふふ、良い顔するじゃん?』
こいつめ、と額を小突き、私は笑う。まあ、彼女の衝動をぶつけるには、これ以上ない舞台だ。
『騙してやるわよ、こころ。』
さて……
自問自答だ。
ヒガンバナと別れた後。
私は、先刻食事をしたホテルと比べれば随分落ち着いたビジネスホテルに滞在を決めた。
無論私の金ではない。
一二三の騙し取った金でも良いし、拾ったのかもしれない。
もしくは強盗でもしたかもな。
まあ少なくとも、私の金ではない、というのと。
報酬を得るために帰省中であった道中、というのだけ抑えてくれ。
なんて、意味有りげに言ってから、私はシャワー室に入る。
こういう時には、芯まで寒くなるほど冷たい水を被るのに限る。
ざあざあと強い水圧が肌を擽り、水の滴る髪は、烏の濡れ羽色、というのに相応しく、透き通り、研ぎ澄まされていく。
機械が冷却を必要とするように。
思考を鋭敏にするには、私にはこれが一番早い。
で。
その後。
一気に、火傷しそうなくらいにシャワーの温度を、マックスに持っていく。
全身の血の巡りが良くなってきたからか、ピリピリと血管が痛むのに、私の肉体と頭の発動機が、ぐおんと唸り出すかのような感覚を覚えながら、思考が出来上がった時点で体を拭き。
そのまま裸体を天下に――――まあ、比較的安い割に、思いの外高層階だからな。文字通りの意味の、天(のすぐ)下、だ。私は公然猥褻はしない―――――晒さんばかり無防備にベッドに転がり。
―――――自問自答する。
支離滅裂な依頼を受けてしまったことについて―――――――
"私に、次またゲームに参加することに関しての怯えや、恐怖はあったりするか?"
―――――Yesだ。死にたくはない。これでも人間である。
"自分に似ているから、同じような無茶を見過ごせない、という動機に否定的な気持ちはあるか?"
―――――Yesだ。非合理的だ。
"金儲けはたしかに少ないであろう。だから、あいごころとやらがどうなろうが知るか、という残酷さはあるか?"
―――――Yesだ。無論、奴のためだけにやる気はない。寧ろ、やつもある程度酷い目にあった方がすっとしてしまいそうだ。
"ヒガンバナとの友情とか云々のために、戦うのは馬鹿げているとは果たして思わないか?"
―――――Yesだ。だからその理由をつけていない。
困ったな。随分否定的だ。
どうしたら私は"乗れる?"
なら、最後に。
"私のかつての思い出に。誰かを助けたくて命を懸け、ついに死んだ私の親友への手向けとして。
代わりに、誰かを助けたいと願ったりした私が、ここで引き下がっても良いのか?"
―――――Noだ。
さて、やるとしようか。
ふふ、良い顔するじゃん?』
こいつめ、と額を小突き、私は笑う。まあ、彼女の衝動をぶつけるには、これ以上ない舞台だ。
『騙してやるわよ、こころ。』
さて……
自問自答だ。
ヒガンバナと別れた後。
私は、先刻食事をしたホテルと比べれば随分落ち着いたビジネスホテルに滞在を決めた。
無論私の金ではない。
一二三の騙し取った金でも良いし、拾ったのかもしれない。
もしくは強盗でもしたかもな。
まあ少なくとも、私の金ではない、というのと。
報酬を得るために帰省中であった道中、というのだけ抑えてくれ。
なんて、意味有りげに言ってから、私はシャワー室に入る。
こういう時には、芯まで寒くなるほど冷たい水を被るのに限る。
ざあざあと強い水圧が肌を擽り、水の滴る髪は、烏の濡れ羽色、というのに相応しく、透き通り、研ぎ澄まされていく。
機械が冷却を必要とするように。
思考を鋭敏にするには、私にはこれが一番早い。
で。
その後。
一気に、火傷しそうなくらいにシャワーの温度を、マックスに持っていく。
全身の血の巡りが良くなってきたからか、ピリピリと血管が痛むのに、私の肉体と頭の発動機が、ぐおんと唸り出すかのような感覚を覚えながら、思考が出来上がった時点で体を拭き。
そのまま裸体を天下に――――まあ、比較的安い割に、思いの外高層階だからな。文字通りの意味の、天(のすぐ)下、だ。私は公然猥褻はしない―――――晒さんばかり無防備にベッドに転がり。
―――――自問自答する。
支離滅裂な依頼を受けてしまったことについて―――――――
"私に、次またゲームに参加することに関しての怯えや、恐怖はあったりするか?"
―――――Yesだ。死にたくはない。これでも人間である。
"自分に似ているから、同じような無茶を見過ごせない、という動機に否定的な気持ちはあるか?"
―――――Yesだ。非合理的だ。
"金儲けはたしかに少ないであろう。だから、あいごころとやらがどうなろうが知るか、という残酷さはあるか?"
―――――Yesだ。無論、奴のためだけにやる気はない。寧ろ、やつもある程度酷い目にあった方がすっとしてしまいそうだ。
"ヒガンバナとの友情とか云々のために、戦うのは馬鹿げているとは果たして思わないか?"
―――――Yesだ。だからその理由をつけていない。
困ったな。随分否定的だ。
どうしたら私は"乗れる?"
なら、最後に。
"私のかつての思い出に。誰かを助けたくて命を懸け、ついに死んだ私の親友への手向けとして。
代わりに、誰かを助けたいと願ったりした私が、ここで引き下がっても良いのか?"
―――――Noだ。
さて、やるとしようか。
「…」
さざめく波が押しては引き。押しては引き。いつものように耳障りな音を立てる。海の表面は白い泡が微かに浮かび、水面の反射を拒む。太陽は今は雲に覆われ、きっとこれから起きる殺戮に赤く染まる雪を照らすことを今か今かと待ち構えている。地平線は相変わらず濃霧に隠れて姿を表さず、私の未来をただただ暗示していた。
「…もう、全部終わりね。」
全てが終わった。正義も。悪も。ゲームも。疑心暗鬼も。伏線の回収だって。それら全てが終幕を迎えるために終わりの鐘を鳴らし始める。
そこに残ったのは抗えきれぬ絶望だろうか?それともなにも出来ない無力感だろうか?はたまたもう全て無くしてしまったという虚無感?
…もし、そうだとしたら私はここには来ていないだろう。
さて、忘れ物がないか振り返ろう。あったとしても、もう遅いけれど。自問自答の開始だ。
Q.後続へ託すためのバトンは?
A.メモとして託した。
Q.BAD ENDを回避するための伏線は?
A.人を頼ってどうにか残した。
Q.相手や、自分すらも偽る仮面は?
A.花とともに拾ってきた。
どうやら、準備は万端なようで。
なら…心配することなど何も無い。あとはただ、自分を信じて“賭ける”だけだ。
一世一代の大博打。賭けるものは自分。得られるものは絶望を断ち切る希望。ああ、なんともわかりやすい事だ。
狐面を触る。…さて、そろそろディーラーのお出ましだ。
…さあ、始めようか。
さざめく波が押しては引き。押しては引き。いつものように耳障りな音を立てる。海の表面は白い泡が微かに浮かび、水面の反射を拒む。太陽は今は雲に覆われ、きっとこれから起きる殺戮に赤く染まる雪を照らすことを今か今かと待ち構えている。地平線は相変わらず濃霧に隠れて姿を表さず、私の未来をただただ暗示していた。
「…もう、全部終わりね。」
全てが終わった。正義も。悪も。ゲームも。疑心暗鬼も。伏線の回収だって。それら全てが終幕を迎えるために終わりの鐘を鳴らし始める。
そこに残ったのは抗えきれぬ絶望だろうか?それともなにも出来ない無力感だろうか?はたまたもう全て無くしてしまったという虚無感?
…もし、そうだとしたら私はここには来ていないだろう。
さて、忘れ物がないか振り返ろう。あったとしても、もう遅いけれど。自問自答の開始だ。
Q.後続へ託すためのバトンは?
A.メモとして託した。
Q.BAD ENDを回避するための伏線は?
A.人を頼ってどうにか残した。
Q.相手や、自分すらも偽る仮面は?
A.花とともに拾ってきた。
どうやら、準備は万端なようで。
なら…心配することなど何も無い。あとはただ、自分を信じて“賭ける”だけだ。
一世一代の大博打。賭けるものは自分。得られるものは絶望を断ち切る希望。ああ、なんともわかりやすい事だ。
狐面を触る。…さて、そろそろディーラーのお出ましだ。
…さあ、始めようか。
ざくざくと雪の表面を踏みしめながら、アカエルはあいごころ。へと近寄っていく。
いつものような神出鬼没ではなく、たまには、普通に。
「やあ」
声の届く範囲まで来ると、声をかけた。
いつものようなふざけたあいさつではなく、たまには、普通に。
物事には緩急が大切だから。ワンパターンでは、飽きるし、飽きられる。
「ゲームはどうだったかな?負けてしまったとはいえ、君は今ゲームにおいて、Azothを討った唯一の人間だからね。ちょっとは誇り高いんじゃないかい?」
いつものような神出鬼没ではなく、たまには、普通に。
「やあ」
声の届く範囲まで来ると、声をかけた。
いつものようなふざけたあいさつではなく、たまには、普通に。
物事には緩急が大切だから。ワンパターンでは、飽きるし、飽きられる。
「ゲームはどうだったかな?負けてしまったとはいえ、君は今ゲームにおいて、Azothを討った唯一の人間だからね。ちょっとは誇り高いんじゃないかい?」
「…ええ、そうね、こんなにも糞みたいな気分は始めてよ。」
軽口には軽口を。いつもやってきたように返そう。サクリと音を立てて軽く足を動かして。今回のディーラーと、対面した。
「本当に気分が悪いわ。こんな悪趣味なゲーム、どうやったら思いつくのか、親の顔が見てみたいわね。」
いつもより慎重に。念入りに。石橋を叩いてまた叩くように。会話をあえて遠回りさせて。…いつものように。“あいつ”とやっていたように。
ああ、本当になんでこんなことになったのか。全部あいつが悪いんだ、と心の中で愚痴を一つ。それでも、この現状は変わるわけが無いのだけれど。
「ま、どうせロクでもない顔なんでしょうけど。」
この言葉がどれ程相手を喜ばせるだろうか。知ったこっちゃない。軽口ついでに言いたいことを言ってやったに過ぎないのだから。これでも抑えてる方。正直褒めて欲しいぐらいでもある。
…そんな人がいたら、底抜けの馬鹿野郎だろうけど。
軽口には軽口を。いつもやってきたように返そう。サクリと音を立てて軽く足を動かして。今回のディーラーと、対面した。
「本当に気分が悪いわ。こんな悪趣味なゲーム、どうやったら思いつくのか、親の顔が見てみたいわね。」
いつもより慎重に。念入りに。石橋を叩いてまた叩くように。会話をあえて遠回りさせて。…いつものように。“あいつ”とやっていたように。
ああ、本当になんでこんなことになったのか。全部あいつが悪いんだ、と心の中で愚痴を一つ。それでも、この現状は変わるわけが無いのだけれど。
「ま、どうせロクでもない顔なんでしょうけど。」
この言葉がどれ程相手を喜ばせるだろうか。知ったこっちゃない。軽口ついでに言いたいことを言ってやったに過ぎないのだから。これでも抑えてる方。正直褒めて欲しいぐらいでもある。
…そんな人がいたら、底抜けの馬鹿野郎だろうけど。
「おやおや、皆して僕にツンツンしちゃってさぁ。
一人くらい、こう、仲良くしてくれる人がいても良かったんじゃないかなぁ?ああ、海月くん辺りは結構フレンドリーだったっけ」
手を伸ばせば届く距離まで接近すると、振り返り、海とは反対側の雪国を眺める。
澄んだ空気が遠くの景色をはっきりと移す。あちこちで、黒煙が上がっていた。
目を細めてそれを眺めながら、飄々と語りだす。
「そんなにアレなゲームだったかなぁ?だめだよぉこころちゃん、人や物を見るときは、悪い所より良い所を見ないと!
そうそう、君なんて、その可愛らしい身体で余生を謳歌できるじゃないか!いやぁ、すっごく似合ってるし、良いよねぇ」
一人くらい、こう、仲良くしてくれる人がいても良かったんじゃないかなぁ?ああ、海月くん辺りは結構フレンドリーだったっけ」
手を伸ばせば届く距離まで接近すると、振り返り、海とは反対側の雪国を眺める。
澄んだ空気が遠くの景色をはっきりと移す。あちこちで、黒煙が上がっていた。
目を細めてそれを眺めながら、飄々と語りだす。
「そんなにアレなゲームだったかなぁ?だめだよぉこころちゃん、人や物を見るときは、悪い所より良い所を見ないと!
そうそう、君なんて、その可愛らしい身体で余生を謳歌できるじゃないか!いやぁ、すっごく似合ってるし、良いよねぇ」
「そう?この体も結構苦労するものよ?1度あなたもなってみればいいんじゃないかしら。」
この程度のやり取り。何度してきたことか。それでも。相変わらずこの相手は、人を小馬鹿にするのが得意なようで。
この先、キレずに居られるだろうか少しだけ不安になる。
相手の見ている先。燃え盛る街を見て、もうすぐエンドロールは近いな、なんておもった志向すら。今の私には不安を駆り立てる一因となる。…それでも、やらなければならないだろう。例えそれが、希望のない選択だったとしても。
「…さて、こんな所に来てもらってなんだけれども。話があるの。」
もう、軽口はいいだろう?これから話すことは前代未聞と大番狂わせ。ゲームのルールなんて無視した場面外交渉。もしこのゲームに賭けをした人がいるならば今頃腕を振り上げて大声で罵倒している所だろう。
…問題ない。だからなんだ。
勝算が無いわけじゃない。むしろ僅かでもあったからこそこうして動いているんだ。…さあて。最後の最後。
ゲームを。否。
ゲエムを始めようか。嘘ばかりに塗れた糞みたいなゲエムを。
「…海月を、どうするつもりなのかしら?」
この程度のやり取り。何度してきたことか。それでも。相変わらずこの相手は、人を小馬鹿にするのが得意なようで。
この先、キレずに居られるだろうか少しだけ不安になる。
相手の見ている先。燃え盛る街を見て、もうすぐエンドロールは近いな、なんておもった志向すら。今の私には不安を駆り立てる一因となる。…それでも、やらなければならないだろう。例えそれが、希望のない選択だったとしても。
「…さて、こんな所に来てもらってなんだけれども。話があるの。」
もう、軽口はいいだろう?これから話すことは前代未聞と大番狂わせ。ゲームのルールなんて無視した場面外交渉。もしこのゲームに賭けをした人がいるならば今頃腕を振り上げて大声で罵倒している所だろう。
…問題ない。だからなんだ。
勝算が無いわけじゃない。むしろ僅かでもあったからこそこうして動いているんだ。…さあて。最後の最後。
ゲームを。否。
ゲエムを始めようか。嘘ばかりに塗れた糞みたいなゲエムを。
「…海月を、どうするつもりなのかしら?」
「どうするつもり、なんてのは、お門違いなんじゃないかい?彼女は"狂人"としてゲームの勝利条件を満たし、願いを叶える権利を手に入れた。
こちらから何かを強要するつもりは、一切ない」
腹の内が、読めない。
GMは常にゲームを監視し、参加者についてならありとあらゆる事を知っている。しかし、心が読めるわけではない。アカエルが頻繁にゲームの舞台に降り、参加者と対峙するのは、"ハプニング"を期待しているからなのである。
さて、彼女は海月の行末を気にしているようだ。
海月が狂人だと、知ってか知らずか。ここは、海月が狂人だとバラしてしまうことにした。仮に知らなかったとしても、問題はないだろう。それくらいの情報は与えてやろう。僕は、優しいのだから。
「それとも、その質問は、彼女の願いを教えろ、という解釈なのかな?」
こちらから何かを強要するつもりは、一切ない」
腹の内が、読めない。
GMは常にゲームを監視し、参加者についてならありとあらゆる事を知っている。しかし、心が読めるわけではない。アカエルが頻繁にゲームの舞台に降り、参加者と対峙するのは、"ハプニング"を期待しているからなのである。
さて、彼女は海月の行末を気にしているようだ。
海月が狂人だと、知ってか知らずか。ここは、海月が狂人だとバラしてしまうことにした。仮に知らなかったとしても、問題はないだろう。それくらいの情報は与えてやろう。僕は、優しいのだから。
「それとも、その質問は、彼女の願いを教えろ、という解釈なのかな?」
「そんなもんとっくに知ってるわよ。」
あんなやつの考えてること、とっくにわかってる。メッセージだって来たしね。…でも、こっちがいってるのはそうではない。
「…その願いとやらを叶えた時の海月の待遇。どういうことをやらせ、どういう対応をあなたがするのか。私が聞きたいのはそれ。」
あくまで遠回しに話を進めていく。相手の穴を探していくように。
…いいや、嘘。
これはただ私が怯えているだけね。…ただその話題に行くことを怖がっているだけ。もし何も臆していないなら軽口なんて叩く前に本題に入ってるものね。
…でも、それでもこれは必要。ルーティーンみたいに。こころを落ち着かせていく時間が必要だった。さて、もう後戻りなんて出来ないんだ。
「もちろん、そんな願いやめろなんて言う気もないわ。あいつが勝手決めて、あいつにはその権利があった。それだけのこと。」
嘘だ。そんなことは。
納得なんて出来ているわけが無い。自分勝手に“呪い”をかけておいて。それでいて自分だけは反対側へと渡っていくなんて。そんなこと認められるわけが無い。
だから。私は。
あんなやつの考えてること、とっくにわかってる。メッセージだって来たしね。…でも、こっちがいってるのはそうではない。
「…その願いとやらを叶えた時の海月の待遇。どういうことをやらせ、どういう対応をあなたがするのか。私が聞きたいのはそれ。」
あくまで遠回しに話を進めていく。相手の穴を探していくように。
…いいや、嘘。
これはただ私が怯えているだけね。…ただその話題に行くことを怖がっているだけ。もし何も臆していないなら軽口なんて叩く前に本題に入ってるものね。
…でも、それでもこれは必要。ルーティーンみたいに。こころを落ち着かせていく時間が必要だった。さて、もう後戻りなんて出来ないんだ。
「もちろん、そんな願いやめろなんて言う気もないわ。あいつが勝手決めて、あいつにはその権利があった。それだけのこと。」
嘘だ。そんなことは。
納得なんて出来ているわけが無い。自分勝手に“呪い”をかけておいて。それでいて自分だけは反対側へと渡っていくなんて。そんなこと認められるわけが無い。
だから。私は。
「僕と"同じ仕事"をしてもらう。それだけだよ。
言っておくけど、僕たちはかなりホワイトなんだよ?衣食住は整ってて、完全週休二日制。黒組織あるあるみたいな、無能な奴を容赦なく切り捨てるような真似はしない」
無能な奴は6年前に全員死んだので、そんな相手がいないというだけだが。
さらに言えば、一部の人間は普通に仲間を殺しちゃったりしてるわけだが、そこはご愛敬。
「正直ゲームの準備以外にやることないから、暇だし、よく遊んでるよ。
そんなにも海月ちゃんが心配なのかな?健気だねぇ」
海月の身を案じる気持ちは伝わってくる。しかし、彼女の本題は、恐らく別のところにあるのだろう。
核心がどういったものなのか、心を躍らせていた。
言っておくけど、僕たちはかなりホワイトなんだよ?衣食住は整ってて、完全週休二日制。黒組織あるあるみたいな、無能な奴を容赦なく切り捨てるような真似はしない」
無能な奴は6年前に全員死んだので、そんな相手がいないというだけだが。
さらに言えば、一部の人間は普通に仲間を殺しちゃったりしてるわけだが、そこはご愛敬。
「正直ゲームの準備以外にやることないから、暇だし、よく遊んでるよ。
そんなにも海月ちゃんが心配なのかな?健気だねぇ」
海月の身を案じる気持ちは伝わってくる。しかし、彼女の本題は、恐らく別のところにあるのだろう。
核心がどういったものなのか、心を躍らせていた。
「へぇ…なら、“身体”は問題ないでしょうね?」
どうやら、そろそろ本題に入るべき時が来たようだ。震えそうになる体をどうにか沈めるようにして。
狐面を、触る。…この癖も、すっかりとお馴染みになってしまった。この身体になる前はなかったんだけどね。
耳障りな波の音も、しんしんと降る雪も。こころの中の雑音さえも無視して、目の前の存在にのみ集中して。
…ここからは、全てが賭けだ。この思考も、この身体も。この先の未来すら、台に乗せられるような、そんな賭け。
ならばまずは、相手をその気にさせないとね。
「あなたも知ってるでしょう?海月は二重人格ってこと。たしか、クラゲとみづき、だったかしら?その2人がひとつの身体の精神として宿ってるってことをね。」
そう、たとえその条件だとしても、精神的に安定する、と言うだけのこと。ならば、そこをつくことは可能のはずだ。
「確かに二重人格っていうのは“参加者”としては最高ね。主催者側からみてそんな人物が入ってきたのであれば。そんなもの愉快に決まってるもの。でも、“主催者”としては、あまり良くないんじゃないかしら?」
参加者と主催者。それら2つに求められるのは全く違うものだ。特にこのゲームの場合。参加者に求められるのは“どれほどこのゲームを面白くできるか”という課題、それだけなのだ。だからこそこいつは本来無干渉であるはずの参加者と主催者の関係を無視して接触をする。…こうやって私の前に現れてるのがその証拠だもの。
そして主催者に求められるもの。それは…ゲームの円滑な進行。ゲームが崩壊しない程度のハプニング。そしてそれらを纏めるだけの判断力…まあ、色々挙げられるが、やはり1番は。
“ゲームの進行を妨げず、ゲームそのものを楽しめる精神”そのものだ。…それが海月には出来るだろうか?
クラゲ。ああ、あなたには出来るでしょうね。嘘に嘘を重ねたあなたなら自分の気持ちすらも欺いて、狂うことが出来るはず。
…なら、みづきは?あなたには出来ない。なぜならあなたは“人の幸福を願ってしまう”人だから。そして、そのためには自分の命すら厭わない、自己犠牲の塊みたいな存在だから。むしろ、出来てしまうのであれば、それこそあなたは真の狂人なのでしょうね。
「主催者がゲームの妨げになってしまうなんてシナリオほど、興醒めする展開は無いわ。記憶の引き継ぎすらもできないあいつじゃ、GMとしての仕事を果たして本当に全うできるのか知らね。…これは精神が入れ替わる可能性なんていくらでもあるわよ?それも、ゲーム中に入れ替わるなんて起きてしまったらそれこそ破綻が起きかねないもの。」
記憶の引き継ぎが出来ない、というのもあいつがGMとして向いていないひとつの要因。いや、最大の要因かもしれない。GMがゲームの記憶が無い、なんてことあってはならないものね?
「つまり、あいつはGMとしては失格、とまでは言わないけれど落第点ギリギリ。精神を作り直す、なんてことが出来るかどうか知らないけれど、そんなのはあなたとしては不本意じゃないかしら?」
そう、あいつは主催者なんて向いてない。…それが今回の賭けの中心となることだ。
「だからこそ、1つ提案があるの。」
私だからこそ出来る強行策。常人や、多少ズレた奴でも思いつかない最悪の提案。
…私なら、きっと、出来る。
さあ、賭けるものの確認だ。私の身体と、その未来。…そして、置いてきた布石の数々。
それを今、全てチップとして賭けにだす。
…外れたら終わり。細く繋がった蜘蛛の糸は今、手元で切れて地獄へ落ちるだけ。
なぁんだ。なんともわかりやすい構図じゃないか。私はどうやら、これ以上にないくらいの馬鹿なことをしているということだ。
覚悟は、決まった。そして、その提案を口に。
「…私を、GMにする気はないかしら?」
未来へ希望を託すため、自ら絶望に落ちようじゃないか。
どうやら、そろそろ本題に入るべき時が来たようだ。震えそうになる体をどうにか沈めるようにして。
狐面を、触る。…この癖も、すっかりとお馴染みになってしまった。この身体になる前はなかったんだけどね。
耳障りな波の音も、しんしんと降る雪も。こころの中の雑音さえも無視して、目の前の存在にのみ集中して。
…ここからは、全てが賭けだ。この思考も、この身体も。この先の未来すら、台に乗せられるような、そんな賭け。
ならばまずは、相手をその気にさせないとね。
「あなたも知ってるでしょう?海月は二重人格ってこと。たしか、クラゲとみづき、だったかしら?その2人がひとつの身体の精神として宿ってるってことをね。」
そう、たとえその条件だとしても、精神的に安定する、と言うだけのこと。ならば、そこをつくことは可能のはずだ。
「確かに二重人格っていうのは“参加者”としては最高ね。主催者側からみてそんな人物が入ってきたのであれば。そんなもの愉快に決まってるもの。でも、“主催者”としては、あまり良くないんじゃないかしら?」
参加者と主催者。それら2つに求められるのは全く違うものだ。特にこのゲームの場合。参加者に求められるのは“どれほどこのゲームを面白くできるか”という課題、それだけなのだ。だからこそこいつは本来無干渉であるはずの参加者と主催者の関係を無視して接触をする。…こうやって私の前に現れてるのがその証拠だもの。
そして主催者に求められるもの。それは…ゲームの円滑な進行。ゲームが崩壊しない程度のハプニング。そしてそれらを纏めるだけの判断力…まあ、色々挙げられるが、やはり1番は。
“ゲームの進行を妨げず、ゲームそのものを楽しめる精神”そのものだ。…それが海月には出来るだろうか?
クラゲ。ああ、あなたには出来るでしょうね。嘘に嘘を重ねたあなたなら自分の気持ちすらも欺いて、狂うことが出来るはず。
…なら、みづきは?あなたには出来ない。なぜならあなたは“人の幸福を願ってしまう”人だから。そして、そのためには自分の命すら厭わない、自己犠牲の塊みたいな存在だから。むしろ、出来てしまうのであれば、それこそあなたは真の狂人なのでしょうね。
「主催者がゲームの妨げになってしまうなんてシナリオほど、興醒めする展開は無いわ。記憶の引き継ぎすらもできないあいつじゃ、GMとしての仕事を果たして本当に全うできるのか知らね。…これは精神が入れ替わる可能性なんていくらでもあるわよ?それも、ゲーム中に入れ替わるなんて起きてしまったらそれこそ破綻が起きかねないもの。」
記憶の引き継ぎが出来ない、というのもあいつがGMとして向いていないひとつの要因。いや、最大の要因かもしれない。GMがゲームの記憶が無い、なんてことあってはならないものね?
「つまり、あいつはGMとしては失格、とまでは言わないけれど落第点ギリギリ。精神を作り直す、なんてことが出来るかどうか知らないけれど、そんなのはあなたとしては不本意じゃないかしら?」
そう、あいつは主催者なんて向いてない。…それが今回の賭けの中心となることだ。
「だからこそ、1つ提案があるの。」
私だからこそ出来る強行策。常人や、多少ズレた奴でも思いつかない最悪の提案。
…私なら、きっと、出来る。
さあ、賭けるものの確認だ。私の身体と、その未来。…そして、置いてきた布石の数々。
それを今、全てチップとして賭けにだす。
…外れたら終わり。細く繋がった蜘蛛の糸は今、手元で切れて地獄へ落ちるだけ。
なぁんだ。なんともわかりやすい構図じゃないか。私はどうやら、これ以上にないくらいの馬鹿なことをしているということだ。
覚悟は、決まった。そして、その提案を口に。
「…私を、GMにする気はないかしら?」
未来へ希望を託すため、自ら絶望に落ちようじゃないか。
彼女の言葉に、静かに聞き入っていた。話が進むにつれ、彼女の真意が輪郭を帯び、明瞭になってゆく。
頬を吊り上げずには、居られなかった。
そんなことが許されるのだろうか?
我々と対極にあるセレスティアの人間が、こちらの中枢に関わりたいなどと。
「君の言うことに誤りはない。海月ちゃんはGMどころか、人間としても不完全。僕と同じことをやっていく上で、不都合なトラブルが生じることは目に見えている」
そもそも、海月の場合は、GMに携わる理由が理由なのだから。
「だから"面白い"んじゃないか。僕が彼を狂人に選んだのも、面白そうだったからだし、僕は常に"面白さ"を求めているんだ。わかるかい?スマイルだよ、スマイル。笑う門には福来たるってね。
それに、行っただろう。僕たちはスーパーホワイトなのさ。従業員の抱える欠点の一つや二つ、なんのその。大切なのは短所よりも長所だよ」
とどのつまり、海月がGMに携わる上での不安は、アカエルとしては無いのである。
「ああ、君は良い。実に良い。本当に僕は、君たちが大好きだよ。常に僕の予想を上回ってくれて、生者も、死者も、常に最高の輝きを見せてくれる。
だから君の提案は、是非とも受け入れたいところだ。最高に面白いからね。でも……」
そう、大事なのは、面白さ。
「聞いておきたいな。君はどうして、GMになりたい?」
頬を吊り上げずには、居られなかった。
そんなことが許されるのだろうか?
我々と対極にあるセレスティアの人間が、こちらの中枢に関わりたいなどと。
「君の言うことに誤りはない。海月ちゃんはGMどころか、人間としても不完全。僕と同じことをやっていく上で、不都合なトラブルが生じることは目に見えている」
そもそも、海月の場合は、GMに携わる理由が理由なのだから。
「だから"面白い"んじゃないか。僕が彼を狂人に選んだのも、面白そうだったからだし、僕は常に"面白さ"を求めているんだ。わかるかい?スマイルだよ、スマイル。笑う門には福来たるってね。
それに、行っただろう。僕たちはスーパーホワイトなのさ。従業員の抱える欠点の一つや二つ、なんのその。大切なのは短所よりも長所だよ」
とどのつまり、海月がGMに携わる上での不安は、アカエルとしては無いのである。
「ああ、君は良い。実に良い。本当に僕は、君たちが大好きだよ。常に僕の予想を上回ってくれて、生者も、死者も、常に最高の輝きを見せてくれる。
だから君の提案は、是非とも受け入れたいところだ。最高に面白いからね。でも……」
そう、大事なのは、面白さ。
「聞いておきたいな。君はどうして、GMになりたい?」
「あら、そうね。なら教えてあげる。」
当たり前だろう。こんな提案、それにセレスティアであろう人間がGMになりたい、などと吐いているのだ。そりゃあ理由の一つや二つ聞かれてもおかしくはないだろう。
「理由は簡単。海月を助けたいからよ。」
…これは本音。建前のない、なんの変哲もない本音だ。…だから、これじゃあ足りない。そんなことのために自分を賭けているのだ…だからこそ、これは私の本音。そう。
本音の“1つ”だ。
もう1つ、私には理由がある。だからこそ、GMになるだなんて狂気じみた発想が生まれた。
常人であるならば大人しく参加者として、海月を助けようと足掻くだろう。GMになるだなんて発想は思いつかないはずだ。…思いついたとしても、実行には移せない。理由は簡単だ。
1人を助けるために、10を犠牲にする勇気がないから。
…なら、それは私には出来るだろうか?…少なくとも、前の私には出来なかった。
だけれど、今なら出来る。なぜなら。
私は狂人だと気づいたから。
海月は私にとって意味を持ってしまった。海月は私にとって特別となってしまった。…ならそれを助けるために。
それ相応の対価は必要。そうでしょう?
…それに、私は気づいてしまったから。だって、私にはもう、わかってしまっている。あいつはこのゲームを“いい趣味”だなんて言ってたけれど。本心ではそんなこと微塵も思ってなかったはず。
…対して私は。このゲームを“悪趣味”だなんて切り捨てていたけれど。…それは、自分の狂気を押さえ込んでいたからに過ぎない。だから。
もう1つ、理由を付け足そう。
「…なんて、そんな理由じゃ納得しないわよね。だから、理由をもう1つ。」
…さあ、ここだ。“私”にとっての賭けは。…私が、“私”に飲み込まれるかどうか。
もし、飲み込まれないのであればそれは賭けの続行を意味する。
もし、飲み込まれたのであれば…それは、賭けの負けだ。その瞬間、ここまで積み上げてきた全ては無駄になるから。…さあ、これが、私の狂気だから。
いま、蓋を開けよう。
「…もう1つの理由。それは私の欲、よ。」
そういって狐面を。
…ああ、そういえばこうやって使うのは初めてだったね。いつもは、触るか、ズラすか、あとは。…外すかのどれかだったから。
この使い方の意味は簡単。単なる自己暗示だ。…“この気持ちは作られたもので、ただの嘘なんだ”、なんていうね。
そう、嘘かもしれないけどね、なんていう常套句を具現化した使い方だ。…そう、狐面本来の使い方。私は、狐面を。
“狐面を、被る”
「その理由は…
――――みーんなを壊したいからさ!」
…別人格。そうやって勘違いされても仕方が無いだろう。だが、そうじゃない。これは私の狂気。ずっと、頭の中で響いていた、あの声そのもの。
私はずっと、嘘をついて。この狂気を欺いてきた。
こころはずっと、素直に。自分の心に従ってこの狂気を抑えてきた。
そして今。誰かを助けるために、誰かを殺す狂気を解き放つ。
「こころはねぇ…ずっとわかんなかったんだよねぇ。なんで人を殺すのかって。そんなの悪趣味だよ!って。だって死んだらもう何も無いんだよ?そんなのつまんないじゃん!」
…そう、それが私のk0#*g__n%[v-hc;k………
……こころの行動概念だったんだよねー。セレスティアとしてこのゲエムを壊しに来たりゆうでもあるんだよ?
でもね!でもね!あの時に気づいたんだぁ!
「ヒガンバナを壊したときにね!ピカーンってなったんだぁ!人を壊すってすっごい楽しいんだって!愉快なんだって!だから、こころはもっと壊れるところが見たいの!肉体的に、精神的に、完膚なきまでの絶望がみたいの!ねぇ!あなたもそうじゃないの?そうでしょう!!ああ、本当に…本っ当に…」
ああ、これだよ!こころが心のそこから求めていた欲望!
こんな、こんな皆にとって悪趣味なゲームは、本当に……!!!
「“いい趣味”してるよね!!このゲエム!!」
そうしてこころはお前に満開の笑顔を見してやったんだぁ!!アハハハ!!!
当たり前だろう。こんな提案、それにセレスティアであろう人間がGMになりたい、などと吐いているのだ。そりゃあ理由の一つや二つ聞かれてもおかしくはないだろう。
「理由は簡単。海月を助けたいからよ。」
…これは本音。建前のない、なんの変哲もない本音だ。…だから、これじゃあ足りない。そんなことのために自分を賭けているのだ…だからこそ、これは私の本音。そう。
本音の“1つ”だ。
もう1つ、私には理由がある。だからこそ、GMになるだなんて狂気じみた発想が生まれた。
常人であるならば大人しく参加者として、海月を助けようと足掻くだろう。GMになるだなんて発想は思いつかないはずだ。…思いついたとしても、実行には移せない。理由は簡単だ。
1人を助けるために、10を犠牲にする勇気がないから。
…なら、それは私には出来るだろうか?…少なくとも、前の私には出来なかった。
だけれど、今なら出来る。なぜなら。
私は狂人だと気づいたから。
海月は私にとって意味を持ってしまった。海月は私にとって特別となってしまった。…ならそれを助けるために。
それ相応の対価は必要。そうでしょう?
…それに、私は気づいてしまったから。だって、私にはもう、わかってしまっている。あいつはこのゲームを“いい趣味”だなんて言ってたけれど。本心ではそんなこと微塵も思ってなかったはず。
…対して私は。このゲームを“悪趣味”だなんて切り捨てていたけれど。…それは、自分の狂気を押さえ込んでいたからに過ぎない。だから。
もう1つ、理由を付け足そう。
「…なんて、そんな理由じゃ納得しないわよね。だから、理由をもう1つ。」
…さあ、ここだ。“私”にとっての賭けは。…私が、“私”に飲み込まれるかどうか。
もし、飲み込まれないのであればそれは賭けの続行を意味する。
もし、飲み込まれたのであれば…それは、賭けの負けだ。その瞬間、ここまで積み上げてきた全ては無駄になるから。…さあ、これが、私の狂気だから。
いま、蓋を開けよう。
「…もう1つの理由。それは私の欲、よ。」
そういって狐面を。
…ああ、そういえばこうやって使うのは初めてだったね。いつもは、触るか、ズラすか、あとは。…外すかのどれかだったから。
この使い方の意味は簡単。単なる自己暗示だ。…“この気持ちは作られたもので、ただの嘘なんだ”、なんていうね。
そう、嘘かもしれないけどね、なんていう常套句を具現化した使い方だ。…そう、狐面本来の使い方。私は、狐面を。
“狐面を、被る”
「その理由は…
――――みーんなを壊したいからさ!」
…別人格。そうやって勘違いされても仕方が無いだろう。だが、そうじゃない。これは私の狂気。ずっと、頭の中で響いていた、あの声そのもの。
私はずっと、嘘をついて。この狂気を欺いてきた。
こころはずっと、素直に。自分の心に従ってこの狂気を抑えてきた。
そして今。誰かを助けるために、誰かを殺す狂気を解き放つ。
「こころはねぇ…ずっとわかんなかったんだよねぇ。なんで人を殺すのかって。そんなの悪趣味だよ!って。だって死んだらもう何も無いんだよ?そんなのつまんないじゃん!」
…そう、それが私のk0#*g__n%[v-hc;k………
……こころの行動概念だったんだよねー。セレスティアとしてこのゲエムを壊しに来たりゆうでもあるんだよ?
でもね!でもね!あの時に気づいたんだぁ!
「ヒガンバナを壊したときにね!ピカーンってなったんだぁ!人を壊すってすっごい楽しいんだって!愉快なんだって!だから、こころはもっと壊れるところが見たいの!肉体的に、精神的に、完膚なきまでの絶望がみたいの!ねぇ!あなたもそうじゃないの?そうでしょう!!ああ、本当に…本っ当に…」
ああ、これだよ!こころが心のそこから求めていた欲望!
こんな、こんな皆にとって悪趣味なゲームは、本当に……!!!
「“いい趣味”してるよね!!このゲエム!!」
そうしてこころはお前に満開の笑顔を見してやったんだぁ!!アハハハ!!!
「アハ、アハ……アハハハハ!」
連られて笑う。笑わずにはいられなかった。
壊すのが好き、殺すのが好き。
酷く単純で粗雑で飾り気がなくて、チープな狂気。
チープだからこそ、どこまでも真っすぐに、暗く輝けるのではないか。
「わかってくれて嬉しいよ!いや、本当に!
結局さぁ、デスゲームのGMなんて、行動理念を突き詰めれば、人の死が好きなわけよ!そりゃあ僕たちだって、革命の種の選別とか、次世代のエンターテインメントとか、色々それっぽい理由は並べてるけどね?それ自身嘘じゃないんだけどさぁ、やっぱり結局は死だよね、死!
精神的な死もいいよねぇ、場合によっちゃ肉体的な死よりもゾクゾクしちゃう!
死!殺し!絶望!それが見たくてGMしてるよね!」
物語には必ず終わりがある。終わりがあるから、物語が成立する。人生という名の物語も、例には漏れず。
その"終わり"を、夭折というドス黒い澱で塗り固める。悲劇な死、喜劇な死、残酷な死、無意味な死……ありとあらゆる死がここにはあり、どれもが、人生の終幕を彩ってくれている。
その彩りを鑑賞できるのは、部外者のみだ。
「いやぁ君はわかってるよ!いいよ!来いよ!一緒に「死」を鑑賞しようよ!」
彼女の手を取り、ブンブンと縦に振る。
端から見れば、さぞかし幸福に満ちた光景なのであろう。
連られて笑う。笑わずにはいられなかった。
壊すのが好き、殺すのが好き。
酷く単純で粗雑で飾り気がなくて、チープな狂気。
チープだからこそ、どこまでも真っすぐに、暗く輝けるのではないか。
「わかってくれて嬉しいよ!いや、本当に!
結局さぁ、デスゲームのGMなんて、行動理念を突き詰めれば、人の死が好きなわけよ!そりゃあ僕たちだって、革命の種の選別とか、次世代のエンターテインメントとか、色々それっぽい理由は並べてるけどね?それ自身嘘じゃないんだけどさぁ、やっぱり結局は死だよね、死!
精神的な死もいいよねぇ、場合によっちゃ肉体的な死よりもゾクゾクしちゃう!
死!殺し!絶望!それが見たくてGMしてるよね!」
物語には必ず終わりがある。終わりがあるから、物語が成立する。人生という名の物語も、例には漏れず。
その"終わり"を、夭折というドス黒い澱で塗り固める。悲劇な死、喜劇な死、残酷な死、無意味な死……ありとあらゆる死がここにはあり、どれもが、人生の終幕を彩ってくれている。
その彩りを鑑賞できるのは、部外者のみだ。
「いやぁ君はわかってるよ!いいよ!来いよ!一緒に「死」を鑑賞しようよ!」
彼女の手を取り、ブンブンと縦に振る。
端から見れば、さぞかし幸福に満ちた光景なのであろう。
「いいの?いいの?やったぁ!こころ嬉しいなぁ!!」
壊れろ壊れろ壊れろ!全部壊れろ!そして私をもっと楽しませてよ!
このゲエムは私にとっての理想。ユートピアそのもの。そして、それを高みの見物する。ああ、こんなにもゾクゾクすること他にないもん!!
でもね、でもね…1つだけ、不満あるんだぁ。
「だけどね、だけどね。一つだけ、嫌なところあるんだぁ。」
死の鑑賞。それはとってもいい趣味だ。でも。それだけじゃ“及第点”。
「死んだ後の、死んだ後の死体の処理の仕方、嫌いだよ。あれじゃあ意味が無い。意味が無いよ!!死体だよ?もっと意味を持たせないと!例えば死んだ人の写真乗せて皆に送信!残った死体は椅子にでもしようか?いいや、食べ物として調理するのもいいよね!グラタンとか!皆絶望して意味もできるなんて、こころ、こんな優しいこと思いつくなんて天才!崇め奉ってもいいよ?」
やっぱり死体には意味が無いと!絶望のきっかけ。みんなの食糧。なんでもいいけど、無意味な死体なんて心が許さない!
「アカエルは、アカエルはどう思うのかなぁ?やっぱりそうした方が面白くないかなぁ?うん!絶対面白いよ!!アハハハ!!!」
笑顔。笑顔。笑顔!きっと私は今、希望に満ちた顔をしてると思うんだぁ!
こころは、素直だから!ね?
壊れろ壊れろ壊れろ!全部壊れろ!そして私をもっと楽しませてよ!
このゲエムは私にとっての理想。ユートピアそのもの。そして、それを高みの見物する。ああ、こんなにもゾクゾクすること他にないもん!!
でもね、でもね…1つだけ、不満あるんだぁ。
「だけどね、だけどね。一つだけ、嫌なところあるんだぁ。」
死の鑑賞。それはとってもいい趣味だ。でも。それだけじゃ“及第点”。
「死んだ後の、死んだ後の死体の処理の仕方、嫌いだよ。あれじゃあ意味が無い。意味が無いよ!!死体だよ?もっと意味を持たせないと!例えば死んだ人の写真乗せて皆に送信!残った死体は椅子にでもしようか?いいや、食べ物として調理するのもいいよね!グラタンとか!皆絶望して意味もできるなんて、こころ、こんな優しいこと思いつくなんて天才!崇め奉ってもいいよ?」
やっぱり死体には意味が無いと!絶望のきっかけ。みんなの食糧。なんでもいいけど、無意味な死体なんて心が許さない!
「アカエルは、アカエルはどう思うのかなぁ?やっぱりそうした方が面白くないかなぁ?うん!絶対面白いよ!!アハハハ!!!」
笑顔。笑顔。笑顔!きっと私は今、希望に満ちた顔をしてると思うんだぁ!
こころは、素直だから!ね?
「な、なんだと……!?死体を……写真……調理……!?
すっっっっっごくいいよ!天っっ才だよそのアイデア!いいねぇいいねぇ!」
アカエルは、参加者が死にゆく過程と、その結果に重きを置いていた。死んだ参加者に意味はない。ただの脱落者であり、興味の対象外だった。
しかし、その抜け殻を有効活用する術があるのなら、しないわけがない。
想像するだけで身震いがした。
「色々できるよね、それ!バラバラにして、参加者にプレゼントしたりしてさぁ!特に親密にしてた人には、頭をプレゼントしてあげようよ!目や脳みそがくり抜かれてたりすると、尚良いかもね!
料理ってのは本当に良いよ!全くどこでそんな知恵を付けたんだろうねぇ!なんなら料理した死体も参加者に振る舞おう!素知らぬふりして食べさせて、後でネタバラシしてあげるんだよ!調理過程の動画と一緒にさ!うわぁ楽しそう!
何かのペナルティとしてさ、参加者に強制的に料理させてもいいかもね!参加者の身体の自由を操るなんて、お手の物だから!
あぁ、歓迎するよ、あいごころ。ちゃん……!君となら、僕は仲良くやっていけそうだ……!」
すっっっっっごくいいよ!天っっ才だよそのアイデア!いいねぇいいねぇ!」
アカエルは、参加者が死にゆく過程と、その結果に重きを置いていた。死んだ参加者に意味はない。ただの脱落者であり、興味の対象外だった。
しかし、その抜け殻を有効活用する術があるのなら、しないわけがない。
想像するだけで身震いがした。
「色々できるよね、それ!バラバラにして、参加者にプレゼントしたりしてさぁ!特に親密にしてた人には、頭をプレゼントしてあげようよ!目や脳みそがくり抜かれてたりすると、尚良いかもね!
料理ってのは本当に良いよ!全くどこでそんな知恵を付けたんだろうねぇ!なんなら料理した死体も参加者に振る舞おう!素知らぬふりして食べさせて、後でネタバラシしてあげるんだよ!調理過程の動画と一緒にさ!うわぁ楽しそう!
何かのペナルティとしてさ、参加者に強制的に料理させてもいいかもね!参加者の身体の自由を操るなんて、お手の物だから!
あぁ、歓迎するよ、あいごころ。ちゃん……!君となら、僕は仲良くやっていけそうだ……!」
「こころもね!こころもね!アカエルのこと大好きになれる気がするんだ!!」
こんなにも趣味を共感出来る人がかつていただろうか?いいや、いなかった。あの子だって。あの美味しそうな名前の狂人だって。海月すらも理解出来ないこの狂った境地。
そこに今私は、踏み込んでいる。…いいや、もともと踏み込んでいた、と言うべきなのかな?
「うんうん!やっぱり全てのものには意味がないとね!ああ、もう待ちきれない、待ちきれないなぁ…!」
そういってめいいっぱいの笑顔で言ってのけた。
…あ、そうだ。まだやることあったんだった。ここでアカエルに付いていくのもいいけれど、まずは、今回の絶望を見届けないとね?
「こころね、こころね、もう少し終わりを見てから帰るね。アカエルのいる所にはどうすれば行けるかな?」
さすがにこころの事情に付き合わさせる訳にはいかないよね。だからそうやってこころはお前に先に帰っていいよと伝えてやるのです。
これからのことを思って思わず顔がにやけちゃうけれども…まあ、これに関しては見られても平気だよね。
こんなにも趣味を共感出来る人がかつていただろうか?いいや、いなかった。あの子だって。あの美味しそうな名前の狂人だって。海月すらも理解出来ないこの狂った境地。
そこに今私は、踏み込んでいる。…いいや、もともと踏み込んでいた、と言うべきなのかな?
「うんうん!やっぱり全てのものには意味がないとね!ああ、もう待ちきれない、待ちきれないなぁ…!」
そういってめいいっぱいの笑顔で言ってのけた。
…あ、そうだ。まだやることあったんだった。ここでアカエルに付いていくのもいいけれど、まずは、今回の絶望を見届けないとね?
「こころね、こころね、もう少し終わりを見てから帰るね。アカエルのいる所にはどうすれば行けるかな?」
さすがにこころの事情に付き合わさせる訳にはいかないよね。だからそうやってこころはお前に先に帰っていいよと伝えてやるのです。
これからのことを思って思わず顔がにやけちゃうけれども…まあ、これに関しては見られても平気だよね。
「そうだなぁ、Azothと一緒に君をこっちに連れてこられれば楽なんだけど……憎いことにCelestiaのサルベージをこっちで阻止できないんだ。だから君はどうやっても一度は、Celestiaに戻されるだろうね。
だから、何食わぬ顔でお疲れした〜とでも言って、飲み会でも終わった後に、こっそりこちらが指定する場所に来てくれればいいさ。迎えの者を寄越そう」
まぁ、自分が行くんだけど、と心の中で付け足しながら、彼女に接近し、耳打ちをした。
現実世界、日本のとある場所を指定する。間違っても他の人間に漏れないよう、彼女の頭の中に留めておいてもらいたい。
彼女から離れ、ククッと喉を鳴らす。時間は山ほどあるのだから、焦ることはない。
彼女を海月に会わせる必要もあるだろう。海月はどんな反応をし、どのように彼女と接していくのだろうか?
予想だに出来ない共同生活に、心を躍らせるのであった。
だから、何食わぬ顔でお疲れした〜とでも言って、飲み会でも終わった後に、こっそりこちらが指定する場所に来てくれればいいさ。迎えの者を寄越そう」
まぁ、自分が行くんだけど、と心の中で付け足しながら、彼女に接近し、耳打ちをした。
現実世界、日本のとある場所を指定する。間違っても他の人間に漏れないよう、彼女の頭の中に留めておいてもらいたい。
彼女から離れ、ククッと喉を鳴らす。時間は山ほどあるのだから、焦ることはない。
彼女を海月に会わせる必要もあるだろう。海月はどんな反応をし、どのように彼女と接していくのだろうか?
予想だに出来ない共同生活に、心を躍らせるのであった。
「うん、うん!わかった!そこに行けばいいんだね?」
ああ、なんて甘美なことなんだろう。絶望の鑑賞。そして、命が潰える様を、そして、無意味が意味あるものへと昇華される喜びを。
私は今、幸福の絶頂にいる。きっとそれはいつまで続くであろう幸福。
ああ、私は狂っているんだ。でも、それでいい。管理者なんて、GMなんて。
狂ったぐらいがちょうどいいんだから。
「それじゃ、それじゃ、ここで一旦お別れだね?」
そう。いったん。つかの間の離別。でも、それは問題ない。これは、“再開”が約束された別れだから。
「こころね、こころね、楽しみだなぁ…これからのこと。参加者のみんなを、平等に、均等に、絶望するところを鑑賞するの、きっと楽しいよね!アハハ!…それじゃあ、“またね”?」
ああ、そろそろ時間みたいだね?
…ああ、そう言えばこころはひとつやり忘れたことがあったね!それじゃあ、ここで1つ、言葉を返してやろうじゃないか。
アカエルを向きながら。1歩、2歩と下がっていく。…そして。アカエルを見ながら…いや、実際にはその先の未来を見ながら。ニッコリ笑顔で。
呪いを返してやろう
「私も、“こころ”から“あい”してるよ!海月!」
そうして、体を後ろに傾けて…
落下。
その先にあるのは海。縄もなにもつけづに後ろ向きに海へと落下して…
バシャンという音は、聞こえなかったようで。
ああ、なんて甘美なことなんだろう。絶望の鑑賞。そして、命が潰える様を、そして、無意味が意味あるものへと昇華される喜びを。
私は今、幸福の絶頂にいる。きっとそれはいつまで続くであろう幸福。
ああ、私は狂っているんだ。でも、それでいい。管理者なんて、GMなんて。
狂ったぐらいがちょうどいいんだから。
「それじゃ、それじゃ、ここで一旦お別れだね?」
そう。いったん。つかの間の離別。でも、それは問題ない。これは、“再開”が約束された別れだから。
「こころね、こころね、楽しみだなぁ…これからのこと。参加者のみんなを、平等に、均等に、絶望するところを鑑賞するの、きっと楽しいよね!アハハ!…それじゃあ、“またね”?」
ああ、そろそろ時間みたいだね?
…ああ、そう言えばこころはひとつやり忘れたことがあったね!それじゃあ、ここで1つ、言葉を返してやろうじゃないか。
アカエルを向きながら。1歩、2歩と下がっていく。…そして。アカエルを見ながら…いや、実際にはその先の未来を見ながら。ニッコリ笑顔で。
呪いを返してやろう
「私も、“こころ”から“あい”してるよ!海月!」
そうして、体を後ろに傾けて…
落下。
その先にあるのは海。縄もなにもつけづに後ろ向きに海へと落下して…
バシャンという音は、聞こえなかったようで。
「よし、よし!到着だね?」
セレスティア本部に帰還して、何度か体の調子を確かめる。うん、問題なし。体はこのままなんだっけ?まあ、問題ないよね!!
ぴょんぴょんと飛び跳ね、その場をクルクルとして…
“わざと”ゆるくしていた狐面の紐が解ける。
カラン、と音を立てて狐面が落ちる。…あーあ、もう。調子狂うなぁ
「ああ、ああ。全く。面倒だなぁ。」
自分で落としておいて何を言うか、なんてツッコミを入れて。
こころはまた狐面をつkenA0sc%[”((&@@......
……私は狐面をつけ直した。それも、最初と同じく、顔の半分を隠すようにして。
「……どうやら、賭けには勝った、と見て良さそうね。」
狐面をずっとつけてしまっていてはこうなることは明確であった。だからこそ、緩く。何かの衝撃で外れるように。
そして、私はどうやら賭け勝ったようだ。だから、賭けは続行。…全てを賭けたこのゲームはまだ、終焉を迎えちゃいない。
「…絶対、連れて帰るわよ。海月。」
そうして、自分の決意を確認。…ああ、問題ない。問題ないさ。自分は無意味だから。どうなってもいい。
だから。
布石は打ち終わった。あとは、願うだけだ。
…だれか、私たちを助けてと。私が頼ったみんなに。
なーんて、嘘かもしれないけど。…と、誤魔化せたら。いいんだけどね。
セレスティア本部に帰還して、何度か体の調子を確かめる。うん、問題なし。体はこのままなんだっけ?まあ、問題ないよね!!
ぴょんぴょんと飛び跳ね、その場をクルクルとして…
“わざと”ゆるくしていた狐面の紐が解ける。
カラン、と音を立てて狐面が落ちる。…あーあ、もう。調子狂うなぁ
「ああ、ああ。全く。面倒だなぁ。」
自分で落としておいて何を言うか、なんてツッコミを入れて。
こころはまた狐面をつkenA0sc%[”((&@@......
……私は狐面をつけ直した。それも、最初と同じく、顔の半分を隠すようにして。
「……どうやら、賭けには勝った、と見て良さそうね。」
狐面をずっとつけてしまっていてはこうなることは明確であった。だからこそ、緩く。何かの衝撃で外れるように。
そして、私はどうやら賭け勝ったようだ。だから、賭けは続行。…全てを賭けたこのゲームはまだ、終焉を迎えちゃいない。
「…絶対、連れて帰るわよ。海月。」
そうして、自分の決意を確認。…ああ、問題ない。問題ないさ。自分は無意味だから。どうなってもいい。
だから。
布石は打ち終わった。あとは、願うだけだ。
…だれか、私たちを助けてと。私が頼ったみんなに。
なーんて、嘘かもしれないけど。…と、誤魔化せたら。いいんだけどね。
俺が一年以上砂漠で生存競争をしている間にゲームが終わったらしい。どんな結末になったのかは、セレスティアの支部から情報を得たのでだいたいはわかっている。
支部も本部も得られる情報は詳しさが多少違えどだいたい同じだしな。本部へ戻ったときに得た情報といえば…セレスティアのリーダー石田さんが疲れ果ててたくらいか。
「ねぇ、豊穣さん。今からどこに向かうの?」
バスを降りると同時に聞こえてくる、最近聞き覚えた声が聞こえた。
「いや、なんで着いてきたんだよ?」
「そりゃ、面白そうだからに決まってるじゃないですか☆」
振り向いて見るとそこにいたのは、今、俺が家庭教師として遅れたぶんの勉強を教えている生徒。今回のゲームの生還者である<八津柱 錵>であった。ホント、なんでついてきたの?
「で、これからどこへ向かうんです?」
「今回の件の報酬を払いにいくんだよ」
あぁ…、いくら取られるんだろう。事前に話し合って報酬決めとけば良かったなぁ…なんて今さらか。八津柱は不思議そうに首を傾げているが───今さら帰れなんて言ったら行方不明になりそうだし、しかたない。着いてきてしまったんなら来てもらおう。
向かうのは赤城結奈の経営しているだろう探偵事務所である。
支部も本部も得られる情報は詳しさが多少違えどだいたい同じだしな。本部へ戻ったときに得た情報といえば…セレスティアのリーダー石田さんが疲れ果ててたくらいか。
「ねぇ、豊穣さん。今からどこに向かうの?」
バスを降りると同時に聞こえてくる、最近聞き覚えた声が聞こえた。
「いや、なんで着いてきたんだよ?」
「そりゃ、面白そうだからに決まってるじゃないですか☆」
振り向いて見るとそこにいたのは、今、俺が家庭教師として遅れたぶんの勉強を教えている生徒。今回のゲームの生還者である<八津柱 錵>であった。ホント、なんでついてきたの?
「で、これからどこへ向かうんです?」
「今回の件の報酬を払いにいくんだよ」
あぁ…、いくら取られるんだろう。事前に話し合って報酬決めとけば良かったなぁ…なんて今さらか。八津柱は不思議そうに首を傾げているが───今さら帰れなんて言ったら行方不明になりそうだし、しかたない。着いてきてしまったんなら来てもらおう。
向かうのは赤城結奈の経営しているだろう探偵事務所である。
さて、我が懐かしの探偵事務所に、一昨晩漸く到着できた。
悲しいかな車で移動する他ないので、相当の無茶をして運転を続けていた、というのは語っても良いだろう。
だから、私は気分が悪かった。
しかし、プロだからな、この田舎町の―――どうやら町おこしやUターンとやらが上手くいったらしく、人も増え、活気を帯びだした――――住民達の、些細な雑用位はわけないが。しかし仕事が増えた。探偵事務所の人間が何故、猪退治だの畑仕事だのせねばならない。まあ、食材は手に入るから許せなくもないが。
純粋に疲労と睡魔が身体にのしかかる。寝癖で髪はぼさぼさのまま、寝巻きにしていた白い浴衣は半分位はだけていて、深々と刻まれた隈は青黒く。
何宮様だかの邸宅を使った旅館をさらに改造したこの邸の、時代から100年ばかり取り残されたような、侘び寂び残した美とは正反対に、亡霊じみていた。
『……ああ、いらっしゃい。』
そんな調子のまま、私は来客に掠れた声で応対する。
確か道化師、だったか?
あれが居るのは疑問だが、まあ良いだろう。金が減る訳では無い。
悲しいかな車で移動する他ないので、相当の無茶をして運転を続けていた、というのは語っても良いだろう。
だから、私は気分が悪かった。
しかし、プロだからな、この田舎町の―――どうやら町おこしやUターンとやらが上手くいったらしく、人も増え、活気を帯びだした――――住民達の、些細な雑用位はわけないが。しかし仕事が増えた。探偵事務所の人間が何故、猪退治だの畑仕事だのせねばならない。まあ、食材は手に入るから許せなくもないが。
純粋に疲労と睡魔が身体にのしかかる。寝癖で髪はぼさぼさのまま、寝巻きにしていた白い浴衣は半分位はだけていて、深々と刻まれた隈は青黒く。
何宮様だかの邸宅を使った旅館をさらに改造したこの邸の、時代から100年ばかり取り残されたような、侘び寂び残した美とは正反対に、亡霊じみていた。
『……ああ、いらっしゃい。』
そんな調子のまま、私は来客に掠れた声で応対する。
確か道化師、だったか?
あれが居るのは疑問だが、まあ良いだろう。金が減る訳では無い。
「あー…出直そうか?」
家から顔を出した赤城の姿を見て最初に出た言葉がこれである。さすがにここまで疲れてるところ、上がり込むのは酷だろうと思っての言葉だった。
「……っ」
おい、八津柱。お前はなんで怯えたように背後に隠れたんだ?いくら亡霊のような様相で出迎えられてもそれはあまりにも失礼だぞ。いや、なんで震えてるの?なんで逃げ出そうとしてるの?
「赤城さん、なんかやったのか?」
とりあえず、問いかけてみる。
おかしいな…八津柱と赤城が敵対してたなんて情報ないから大丈夫だと思ったんだけど…。
家から顔を出した赤城の姿を見て最初に出た言葉がこれである。さすがにここまで疲れてるところ、上がり込むのは酷だろうと思っての言葉だった。
「……っ」
おい、八津柱。お前はなんで怯えたように背後に隠れたんだ?いくら亡霊のような様相で出迎えられてもそれはあまりにも失礼だぞ。いや、なんで震えてるの?なんで逃げ出そうとしてるの?
「赤城さん、なんかやったのか?」
とりあえず、問いかけてみる。
おかしいな…八津柱と赤城が敵対してたなんて情報ないから大丈夫だと思ったんだけど…。
『別に良いわ。大丈夫。』
と言って私は、書斎に案内する。
まあ、こんなのは日常茶飯事だしな。構わない。
しかし、いつ見ても長テーブルとペン立て。座布団の他には、何も無いなあと思う。
だが、ペン立ての位置が少しずれていやがる。
もしかしたら、ここの主が使ったりしたのかも知れない。
♦️
と、取り敢えず私のオフィス(?)に到着し、座ってお茶と飴玉を並べてやり。
漸く、質問に回答する。
答えるのを忘れていた。
頭がまだ回ってないな。
『…何かしたって……まあ、椅子でぶん殴ったくらいよ。
大したことじゃないわ。
後、さん、は要らないわ。』
ふわぁぁ。
大きな欠伸をしながら私はそう答える。
と言って私は、書斎に案内する。
まあ、こんなのは日常茶飯事だしな。構わない。
しかし、いつ見ても長テーブルとペン立て。座布団の他には、何も無いなあと思う。
だが、ペン立ての位置が少しずれていやがる。
もしかしたら、ここの主が使ったりしたのかも知れない。
♦️
と、取り敢えず私のオフィス(?)に到着し、座ってお茶と飴玉を並べてやり。
漸く、質問に回答する。
答えるのを忘れていた。
頭がまだ回ってないな。
『…何かしたって……まあ、椅子でぶん殴ったくらいよ。
大したことじゃないわ。
後、さん、は要らないわ。』
ふわぁぁ。
大きな欠伸をしながら私はそう答える。
部屋に案内され、話を聴くと───
「……ライオンより赤城が怖いのかよ」
普段、猛獣を檻も装備なしで世話しているお前がその程度を怖がるのかよ…っとツッコミを入れる。猛獣より赤城の方が怖いとは───八津柱からすると赤城はどう見えているのだろうか。もしや、鬼かなんかに見えているのだろうか。
(…まぁ、ある意味では鬼か)
豊穣も豊穣で中々に失礼である。
「───さて、唐突だが…『まずは』今回の依頼の報酬について話したいんだがいいか?」
唐突すぎる話題転換である。
相手が眠そうだが、こちらの時間猶予があまりないためだ。
「……ライオンより赤城が怖いのかよ」
普段、猛獣を檻も装備なしで世話しているお前がその程度を怖がるのかよ…っとツッコミを入れる。猛獣より赤城の方が怖いとは───八津柱からすると赤城はどう見えているのだろうか。もしや、鬼かなんかに見えているのだろうか。
(…まぁ、ある意味では鬼か)
豊穣も豊穣で中々に失礼である。
「───さて、唐突だが…『まずは』今回の依頼の報酬について話したいんだがいいか?」
唐突すぎる話題転換である。
相手が眠そうだが、こちらの時間猶予があまりないためだ。
『……誰がライオンよ。
ああ、後、その子……少し借りるわね。所用があるわ。
ここ、元は旅館だし。
何故か温泉すらあるから。貴方達、泊まっていくと良いわ。
セレスティアの関係者は、目をつけられてるだろうから。』
と、実に良心的な前置きからの。
『取り敢えず、諸々合わせて20万。………を、手付金として。
後ほど請求するわ。
貴方の財布も厳しいだろうし。』
クソのような暴利。
ああ、後、その子……少し借りるわね。所用があるわ。
ここ、元は旅館だし。
何故か温泉すらあるから。貴方達、泊まっていくと良いわ。
セレスティアの関係者は、目をつけられてるだろうから。』
と、実に良心的な前置きからの。
『取り敢えず、諸々合わせて20万。………を、手付金として。
後ほど請求するわ。
貴方の財布も厳しいだろうし。』
クソのような暴利。
「20万か…」
既に請求されてる金額と比べると値段は下回るが…額がでかい。まぁ、命を懸けたゲームに参加しているのなら…しかたないのか?
「ん、手付金…?」
これは…何か他にも望むことがあるということなんだろうか。俺としたら『俺たちのクラスメイトが帰ってきた』時点で契約が終わると思ったんだが───……
既に請求されてる金額と比べると値段は下回るが…額がでかい。まぁ、命を懸けたゲームに参加しているのなら…しかたないのか?
「ん、手付金…?」
これは…何か他にも望むことがあるということなんだろうか。俺としたら『俺たちのクラスメイトが帰ってきた』時点で契約が終わると思ったんだが───……
『私への依頼は、ゲームへの参加。その回数まで聞いてない。』
セレスティアと書いて鴨と読む。
とはいえ、また死ぬ思いか。
やれやれ……
世話が焼けるぜ。
『次回もまた行くから、経費を貰うわよ。少し忘れ物をしてね。』
セレスティアと書いて鴨と読む。
とはいえ、また死ぬ思いか。
やれやれ……
世話が焼けるぜ。
『次回もまた行くから、経費を貰うわよ。少し忘れ物をしてね。』
「なんだよ…お前もかよ」
どんだけ忘れ物をしてくるんだ…。
頼むから一回で済ませてくれよ、俺、上司のメンタルケアまで担うの嫌だからな。
「わかった。一度だけでなく、二度も生還したお前になら枠くらい作ってやるよ、報酬も用意しとく」
次はいくら取られるんだろうな。
破産しなければいいけど。
「あ、あの…赤城さん?って…何回も参加してるんですか?」
気まずそうに問いかける八津柱。
あぁ、そういえば教えてなかったっけな。
「赤城は俺たちのクラスメイトだったんだよ」
「…つまり、赤城さんも30代?」
「んなわけあるか!?なんで俺のクラスメイトだって言ってるのに30代になってるんだ?」
「…えっ?」
おい、八津柱。なぜそんなに不思議そうな顔をするんだ?
俺、まだ20にすらなってないぞ。
どんだけ忘れ物をしてくるんだ…。
頼むから一回で済ませてくれよ、俺、上司のメンタルケアまで担うの嫌だからな。
「わかった。一度だけでなく、二度も生還したお前になら枠くらい作ってやるよ、報酬も用意しとく」
次はいくら取られるんだろうな。
破産しなければいいけど。
「あ、あの…赤城さん?って…何回も参加してるんですか?」
気まずそうに問いかける八津柱。
あぁ、そういえば教えてなかったっけな。
「赤城は俺たちのクラスメイトだったんだよ」
「…つまり、赤城さんも30代?」
「んなわけあるか!?なんで俺のクラスメイトだって言ってるのに30代になってるんだ?」
「…えっ?」
おい、八津柱。なぜそんなに不思議そうな顔をするんだ?
俺、まだ20にすらなってないぞ。
『OKありがと。
私もっていうのは気がかりだけれど……まあ良いわ。300万は用意しなさい。』
仏頂面で、そう回答する。
『そこのゴリラ、これで19よ。
私は早生まれだから、もうなんだかんだハタチだけど。』
……と、これみよがしに私は師の忘れ物であろう煙管を咥え、中に丸薬状の煙草を詰めれば、一息に吹かした。
二年間、中々荒んだ場所にいたから、この位の粗相は、遠慮しない下地ができている。
『……後、年齢について次聞いたらぶちのめすからな。』
私もっていうのは気がかりだけれど……まあ良いわ。300万は用意しなさい。』
仏頂面で、そう回答する。
『そこのゴリラ、これで19よ。
私は早生まれだから、もうなんだかんだハタチだけど。』
……と、これみよがしに私は師の忘れ物であろう煙管を咥え、中に丸薬状の煙草を詰めれば、一息に吹かした。
二年間、中々荒んだ場所にいたから、この位の粗相は、遠慮しない下地ができている。
『……後、年齢について次聞いたらぶちのめすからな。』
「さ、300万か…」
高いな。想定してた金額の3倍か…キツいな。でも、どうにかできなくもなくない…。
「えっ、この人36歳じゃないの!?」
「…先輩と同じこと言うんじゃねぇよ」
「ひぇ…っ」
俺が未成年だと知って、驚いたと思ったら赤城の言葉に怯えるって…案外器用だな。てか、俺どんだけ老け顔なんだ?
高いな。想定してた金額の3倍か…キツいな。でも、どうにかできなくもなくない…。
「えっ、この人36歳じゃないの!?」
「…先輩と同じこと言うんじゃねぇよ」
「ひぇ…っ」
俺が未成年だと知って、驚いたと思ったら赤城の言葉に怯えるって…案外器用だな。てか、俺どんだけ老け顔なんだ?
『面倒だから、道化師、と便宜上呼ぶんだけれど。聞いた感じだと……貴方も、何か"置いてきた"という事で良いのかしらね。』
煙管の灰を灰皿に落としつつ、二度目の欠伸をし、私は胡乱げに尋ねる。実際、そうだったにしろ、そうでなかったにしろ。
構わないと言えば、構わないが。
まあ、だとするならな。
少しばかり用はある。
煙管の灰を灰皿に落としつつ、二度目の欠伸をし、私は胡乱げに尋ねる。実際、そうだったにしろ、そうでなかったにしろ。
構わないと言えば、構わないが。
まあ、だとするならな。
少しばかり用はある。
「まぁ…そんな感じなのかも…」
ビクッと体を震わせて自信なさげに呟く八津柱。
「…返してほしいものが『二つ』ほど」
自分は料理してたり、曲芸してたりしかしてないから…あそこがどれだけ危険だったのか自覚はないけど…命を賭けても取り返したいから豊穣さんに懇願したのだ。
豊穣さんには全力で反対されたけど…
ビクッと体を震わせて自信なさげに呟く八津柱。
「…返してほしいものが『二つ』ほど」
自分は料理してたり、曲芸してたりしかしてないから…あそこがどれだけ危険だったのか自覚はないけど…命を賭けても取り返したいから豊穣さんに懇願したのだ。
豊穣さんには全力で反対されたけど…
『まあ、そんな感じなら………
死ぬわよ、貴方。
今の貴方じゃただ無駄死にするだけではないかしら。』
そりゃあそうだ。
私だって、タダの高校生から逸脱し切って尚、ぎりぎりの生還だったんだからな。
『―――ただ、そうねぇ…さっきも言った通り部屋も浴場もスカスカだし、いつか旅館にでもしてしまう気だった位だし。
拠点も余りがあれば、ここは"偶然にも"探偵事務所。元は"詐欺師の事務所"な訳だし?
騙し合いが基本なら、役に立つ情報なり、実務経験なり。積めなくも無いわよね〜』
全く、私は何を言ってるんだろうか。これでは、色々仕込んでやる、と言わんばかりではないか。
私の口は私の敵か。
『……異論は?』
死ぬわよ、貴方。
今の貴方じゃただ無駄死にするだけではないかしら。』
そりゃあそうだ。
私だって、タダの高校生から逸脱し切って尚、ぎりぎりの生還だったんだからな。
『―――ただ、そうねぇ…さっきも言った通り部屋も浴場もスカスカだし、いつか旅館にでもしてしまう気だった位だし。
拠点も余りがあれば、ここは"偶然にも"探偵事務所。元は"詐欺師の事務所"な訳だし?
騙し合いが基本なら、役に立つ情報なり、実務経験なり。積めなくも無いわよね〜』
全く、私は何を言ってるんだろうか。これでは、色々仕込んでやる、と言わんばかりではないか。
私の口は私の敵か。
『……異論は?』
「あはは、そりゃそうですよねぇ…」
自分の行いを思い出して…うん、むしろ死んだよね。って感じだ。
「…お、おい…赤城?まさかこいつのことを化け物にするきじゃねぇだろうな?」
困惑気味に問いかける豊穣。
豊穣は八津柱の既に身に付いている技術を身をもって知っているのだ。あえて、問題があるとするなら───八津柱は道化師としての技能は持っているが…『自分以上』に素直すぎる。それも、本人が自覚してしまっているほどに。
「お、俺は反対だぞ!!こいつは───」
「豊穣さん、うるさい。あと、異論はありません。あたしも殺されたくありませんし」
「(お前もか!?お前もなのか!?)」
殺意はないが、女の睨みって怖い。
豊穣は何度目かの女性の恐ろしさを体験した。
自分の行いを思い出して…うん、むしろ死んだよね。って感じだ。
「…お、おい…赤城?まさかこいつのことを化け物にするきじゃねぇだろうな?」
困惑気味に問いかける豊穣。
豊穣は八津柱の既に身に付いている技術を身をもって知っているのだ。あえて、問題があるとするなら───八津柱は道化師としての技能は持っているが…『自分以上』に素直すぎる。それも、本人が自覚してしまっているほどに。
「お、俺は反対だぞ!!こいつは───」
「豊穣さん、うるさい。あと、異論はありません。あたしも殺されたくありませんし」
「(お前もか!?お前もなのか!?)」
殺意はないが、女の睨みって怖い。
豊穣は何度目かの女性の恐ろしさを体験した。
『まあ、なら好きになさい。
ゴリラ一匹増えても私は気にしないし、心配なら居たら?』
私は大きく伸びをし、目を擦る。
そろそろ寝ようか。
『私は寝るから、後はどうにかして。ここの仕事は雑用ばかりだけど、前のこの部屋の主人は、中々の変わり者でね。手口から何からを理論化するっていう気味の悪い趣味をしていたから。』
今日からはじめる詐欺の本。
これ、多分奴の監修ではなかろうか、という不安すらある。
『何かしら手がかりはある筈よ、多分。貴方の武器になる何かが無くもないんじゃない?』
体を引きずり、寝室に向かいながら私はそんな適当なことを抜かして。
『―――なんて、嘘かもしれないぜ。』
と、締めた。
ゴリラ一匹増えても私は気にしないし、心配なら居たら?』
私は大きく伸びをし、目を擦る。
そろそろ寝ようか。
『私は寝るから、後はどうにかして。ここの仕事は雑用ばかりだけど、前のこの部屋の主人は、中々の変わり者でね。手口から何からを理論化するっていう気味の悪い趣味をしていたから。』
今日からはじめる詐欺の本。
これ、多分奴の監修ではなかろうか、という不安すらある。
『何かしら手がかりはある筈よ、多分。貴方の武器になる何かが無くもないんじゃない?』
体を引きずり、寝室に向かいながら私はそんな適当なことを抜かして。
『―――なんて、嘘かもしれないぜ。』
と、締めた。
ゲームから帰ってきて数時間後。今回の報酬などの交渉を終え、何食わぬ顔でセレスティア本部から出ていく。
長い髪は邪魔だ。あとでどこかのタイミングで切りに行こうと思う。そんなことよりも重要なことがひとつ。
「…姿、このままなのね。」
戻ってもしかしたら姿が戻るかもしれないと何となく期待していた。しかし、どうやらその希望は見事に裏切られたようで。…まあ、それで慰謝料ふんだくってこれたのだけど。もちろん金が目的じゃない。腹いせだ。
「…さて、そろそろよね。」
やってきたのはとあるカフェ。落ち着いた雰囲気とクラシックな雰囲気、そしてオリジナルブレンドのコーヒーといった少々懐かしさを感じるような場所。まあ、私のお気に入りの所なのだけれど。軽く外を見ると高さ200mはあろう…ホテル、と思わしき建物が少し先にそびえ立っていた。
「さぁて、“向こうでやることは”全て終わったもの。」
嘘はついていない。確かに私のやることは終わりだ。…“むこうでやる”ことに関しては、だが。
このままアカエルの指定していた場所に向かってもいいが…それだと、展開に面白みをかける。なら、ひとつ成功率を上げる仕掛けでもしてやろうという魂胆である。
だから、待ち合わせ場所を指定してまで会いたい人物がいた。一応メールを送っては置いたはずだが…呼び出しに応じるかは少し不安だ。…まあ、なんだかんだで来るのがあれだろうけど。
「ま、来るまで寛いでましょうか。」
そうしてあいごころ…いや、もう偽名を語らなくても問題なかろう。影引あさりはコーヒーに角砂糖をひとつ入れ、ティースプーンを使って混ぜ始めた。
長い髪は邪魔だ。あとでどこかのタイミングで切りに行こうと思う。そんなことよりも重要なことがひとつ。
「…姿、このままなのね。」
戻ってもしかしたら姿が戻るかもしれないと何となく期待していた。しかし、どうやらその希望は見事に裏切られたようで。…まあ、それで慰謝料ふんだくってこれたのだけど。もちろん金が目的じゃない。腹いせだ。
「…さて、そろそろよね。」
やってきたのはとあるカフェ。落ち着いた雰囲気とクラシックな雰囲気、そしてオリジナルブレンドのコーヒーといった少々懐かしさを感じるような場所。まあ、私のお気に入りの所なのだけれど。軽く外を見ると高さ200mはあろう…ホテル、と思わしき建物が少し先にそびえ立っていた。
「さぁて、“向こうでやることは”全て終わったもの。」
嘘はついていない。確かに私のやることは終わりだ。…“むこうでやる”ことに関しては、だが。
このままアカエルの指定していた場所に向かってもいいが…それだと、展開に面白みをかける。なら、ひとつ成功率を上げる仕掛けでもしてやろうという魂胆である。
だから、待ち合わせ場所を指定してまで会いたい人物がいた。一応メールを送っては置いたはずだが…呼び出しに応じるかは少し不安だ。…まあ、なんだかんだで来るのがあれだろうけど。
「ま、来るまで寛いでましょうか。」
そうしてあいごころ…いや、もう偽名を語らなくても問題なかろう。影引あさりはコーヒーに角砂糖をひとつ入れ、ティースプーンを使って混ぜ始めた。
私の知る限り、フランス文学とは概して情事から始まる。
薔薇色のカーテン。窓の外から差す陽光。そして、バスローブの美男美女、がお決まりである。
では、日本ではどうか。
日本は、猫がいれば文学であるし、蛙が池に飛び込めば俳諧であるし、風が吹けば生きねばならぬ。つまり、唐突さである。
唐突。
やあやあ我こそは國風文学である、いざ尋常に……と、名乗りあげるほど、私は文学然としていないが、そんな訳だから。
アニメで言ったら第二期。
講談なら下巻。
謡曲なら二番。
に、当たる私の次の物語が。
一通の唐突なメールから始まろうが、構わないのである。
私の滞在中のホテルの近隣にあるカフェに来い。という内容。
別に、行ってやらなくもないが。
その送り主があいごころとやらなのが、私に少なからず衝撃を与えたのは確かである。
あれ。
やらかしたか。
ヒガンバナには悪いことをしたかもしれない。
なんて思いながら、私は草臥れたスーツを羽織り、カフェへと向かった。無論徒歩である。
♦️
さて、到着し、所定の席に座る。私だって痴呆老人では無いのだから、あれだけ印象的な邂逅と思い出を築く羽目になった相手の顔を忘れたりはしない。
オレンジジュースを注文し、ついでにパンケーキと、ドーナツの盛り合わせというあまり見ないメニューを注文し、本題に移る。
金は払わせてやろう。
詐欺師らしく、せこく。
狡く。
さもしく。
割引券をちらつかせ、払う素振りだけをして。
『……で、何の用?』
一度は言いたかったセリフを吐く
薔薇色のカーテン。窓の外から差す陽光。そして、バスローブの美男美女、がお決まりである。
では、日本ではどうか。
日本は、猫がいれば文学であるし、蛙が池に飛び込めば俳諧であるし、風が吹けば生きねばならぬ。つまり、唐突さである。
唐突。
やあやあ我こそは國風文学である、いざ尋常に……と、名乗りあげるほど、私は文学然としていないが、そんな訳だから。
アニメで言ったら第二期。
講談なら下巻。
謡曲なら二番。
に、当たる私の次の物語が。
一通の唐突なメールから始まろうが、構わないのである。
私の滞在中のホテルの近隣にあるカフェに来い。という内容。
別に、行ってやらなくもないが。
その送り主があいごころとやらなのが、私に少なからず衝撃を与えたのは確かである。
あれ。
やらかしたか。
ヒガンバナには悪いことをしたかもしれない。
なんて思いながら、私は草臥れたスーツを羽織り、カフェへと向かった。無論徒歩である。
♦️
さて、到着し、所定の席に座る。私だって痴呆老人では無いのだから、あれだけ印象的な邂逅と思い出を築く羽目になった相手の顔を忘れたりはしない。
オレンジジュースを注文し、ついでにパンケーキと、ドーナツの盛り合わせというあまり見ないメニューを注文し、本題に移る。
金は払わせてやろう。
詐欺師らしく、せこく。
狡く。
さもしく。
割引券をちらつかせ、払う素振りだけをして。
『……で、何の用?』
一度は言いたかったセリフを吐く
「なに、少し顔を見たかっただけよ。ちゃんと無事に戻れたのからってね。」
そんなこと言いながらクスクスと笑う。もちろんいつも通りの会話のきっかけ、みたいなものだ。焦ってもいいことは生まれないからね。
ちなみに今、狐面はしていない。あれは勝負時に使うものだし、今は必要ない。…まあ、ある意味今も勝負時っちゃ勝負時か。
「ちなみに先に言っておくけど私が払うわ。それが礼儀だもの。」
そういってまたクスリと。こういうことはしっかりしておかないと後々痛い目を見たりするものだ。…例えば、近場の詐欺師にカモられたり、とかね?
3つ目の角砂糖をコーヒーに入れてクルクルと回す。…まだ、苦いかしらね。
「ま、そんなことは置いておいて。単刀直入に話した方がいいかしらね。」
さて、時間はあるからといって雑談する、なんてことはしない。まあ、時間もそれなりに無いのだけれどね。
…私がやるべき事を成すために、本題に入ろうじゃないか。
「あなたにお願い…いや、依頼の方がいいのかしら?…どっちでもいいわね。お願いが、あるの。
お願いっていうのは簡単。私と…私の友人を、助けて欲しい。そんな単純明快なお願いよ。依頼という意味でも受け取ってもらって構わないわ。」
依頼。お願い。この際どっちでもいい。どちらも誰かに頼る、という 意味は変わらない。
相手の様子を見ながらコーヒーを啜って…また、角砂糖を1個入れる。
そんなこと言いながらクスクスと笑う。もちろんいつも通りの会話のきっかけ、みたいなものだ。焦ってもいいことは生まれないからね。
ちなみに今、狐面はしていない。あれは勝負時に使うものだし、今は必要ない。…まあ、ある意味今も勝負時っちゃ勝負時か。
「ちなみに先に言っておくけど私が払うわ。それが礼儀だもの。」
そういってまたクスリと。こういうことはしっかりしておかないと後々痛い目を見たりするものだ。…例えば、近場の詐欺師にカモられたり、とかね?
3つ目の角砂糖をコーヒーに入れてクルクルと回す。…まだ、苦いかしらね。
「ま、そんなことは置いておいて。単刀直入に話した方がいいかしらね。」
さて、時間はあるからといって雑談する、なんてことはしない。まあ、時間もそれなりに無いのだけれどね。
…私がやるべき事を成すために、本題に入ろうじゃないか。
「あなたにお願い…いや、依頼の方がいいのかしら?…どっちでもいいわね。お願いが、あるの。
お願いっていうのは簡単。私と…私の友人を、助けて欲しい。そんな単純明快なお願いよ。依頼という意味でも受け取ってもらって構わないわ。」
依頼。お願い。この際どっちでもいい。どちらも誰かに頼る、という 意味は変わらない。
相手の様子を見ながらコーヒーを啜って…また、角砂糖を1個入れる。
『は?』
は?
敢えて聞き返す。
小銭を払う払わないより、そちらが先に鼻についた。
私を助けてくれ、か。
構わないが。
構わないんだが………
要するに、こいつは、結局。
煎じ詰めるなら。
自分で帰る手段なしに博打に出ていたという事か?
は?
となるだろう。
破滅的に見えて、実際酷く臆病かつ繊細なる私には。
そんな豪胆―――馬鹿―――な真似は有り得なかった。
『私は詐欺師。人を救うのはまあ、普通に考えて無理ね。
誰を騙せば良いのかしら。』
だから、それを踏まえ。
私は不愉快そうに仏頂面をして、それはそれは突き放すようにそう応えた。
馬鹿な話だ、という否定も含め。
は?
敢えて聞き返す。
小銭を払う払わないより、そちらが先に鼻についた。
私を助けてくれ、か。
構わないが。
構わないんだが………
要するに、こいつは、結局。
煎じ詰めるなら。
自分で帰る手段なしに博打に出ていたという事か?
は?
となるだろう。
破滅的に見えて、実際酷く臆病かつ繊細なる私には。
そんな豪胆―――馬鹿―――な真似は有り得なかった。
『私は詐欺師。人を救うのはまあ、普通に考えて無理ね。
誰を騙せば良いのかしら。』
だから、それを踏まえ。
私は不愉快そうに仏頂面をして、それはそれは突き放すようにそう応えた。
馬鹿な話だ、という否定も含め。
「あら?てっきり正義のヒーローさんかと思っていたわ。」
なんて言葉が出てしまう。…まあ、こういうことが言えるだけ、心にゆとりをもててるということだろうか。…ゲームの時はずっと張り詰めていたものね。
「何を騙せばいいか、ね。それなら、簡単よ。」
そういってニッコリと笑って。
「ゲームそのもの、よ。Azothも、Celestiaも、その他の人も。GMすらも欺いて。かすめ取るものは人を2人ほど。それが今回の依頼よ。ほら、簡単でしょう?」
笑顔のまま、そんな依頼を注文した。
「ほら、今回とほぼ同じよ?ただただ少し、かすめ取るものが増えた。ただそれだけの事。なんの問題もないでしょう?」
そう、あなたには実績がある。1度?2度?数はわからない。でも、今回あなたは何かを救った実績がある。そうじゃないかしら?
「それにあなたが教えてくれたのよ?誰かに頼ってみてもいいんじゃないかってね。なら、せっかくなら頼る人も多い方がいいじゃない。」
未来へ繋げるための布石。それを回収するのは私じゃないもの。
「私はね。“信用”したからこそこんな賭けに出たの。もしかしたらまた、私なんかを助けようとする馬鹿が出てくるかもしれない、なんてね。」
嘘かもしれないけどね、とは続かない。だってそれを言うのは私の役目じゃないもの。
角砂糖をもう1つ、コーヒーの中に入れる。
なんて言葉が出てしまう。…まあ、こういうことが言えるだけ、心にゆとりをもててるということだろうか。…ゲームの時はずっと張り詰めていたものね。
「何を騙せばいいか、ね。それなら、簡単よ。」
そういってニッコリと笑って。
「ゲームそのもの、よ。Azothも、Celestiaも、その他の人も。GMすらも欺いて。かすめ取るものは人を2人ほど。それが今回の依頼よ。ほら、簡単でしょう?」
笑顔のまま、そんな依頼を注文した。
「ほら、今回とほぼ同じよ?ただただ少し、かすめ取るものが増えた。ただそれだけの事。なんの問題もないでしょう?」
そう、あなたには実績がある。1度?2度?数はわからない。でも、今回あなたは何かを救った実績がある。そうじゃないかしら?
「それにあなたが教えてくれたのよ?誰かに頼ってみてもいいんじゃないかってね。なら、せっかくなら頼る人も多い方がいいじゃない。」
未来へ繋げるための布石。それを回収するのは私じゃないもの。
「私はね。“信用”したからこそこんな賭けに出たの。もしかしたらまた、私なんかを助けようとする馬鹿が出てくるかもしれない、なんてね。」
嘘かもしれないけどね、とは続かない。だってそれを言うのは私の役目じゃないもの。
角砂糖をもう1つ、コーヒーの中に入れる。
『若いわね…決して褒めてはいないんだけれど。……悪役に敵が多いだけで、別に、正義の味方をする気は無いし。』
まあ、ヒーローじゃなく。
詐欺師だからな。
『仕事自体は―――容易いわ。
この程度仕事にもならない。』
オレンジジュースを一気に飲み干し、私は皮肉るように笑う。
嘲るように。
でも構わない。
少なからず私には、勝てるだろうという算段があるからな。
余裕がある。
無論、嘘である。
貧弱な私に、そんな無茶はありえないと言って良い。
だが、無いものをあるとするのが、詐欺師である。
『とはいえ、罪もない高校生を騙し討ちにするなんて、ともすれば粗方殺す可能性すらあるなんて。
良心が痛んで仕方ないわね。』
なんて、心にもないことを言って調子を合わせる。
まあ、ヒーローじゃなく。
詐欺師だからな。
『仕事自体は―――容易いわ。
この程度仕事にもならない。』
オレンジジュースを一気に飲み干し、私は皮肉るように笑う。
嘲るように。
でも構わない。
少なからず私には、勝てるだろうという算段があるからな。
余裕がある。
無論、嘘である。
貧弱な私に、そんな無茶はありえないと言って良い。
だが、無いものをあるとするのが、詐欺師である。
『とはいえ、罪もない高校生を騙し討ちにするなんて、ともすれば粗方殺す可能性すらあるなんて。
良心が痛んで仕方ないわね。』
なんて、心にもないことを言って調子を合わせる。
「あら、とても頼りになる言葉ね。」
ま、内心どう思ってるのか知らないけど。詐欺師の言葉ほど信用できるものはないもの。
それでも、詐欺師は信用できなくてもあなたは信用できる、からね。
「あなたに良心なんてものが存在したのね。驚いたわ。」
クスリと笑う。人を騙す詐欺師が人を殺すことに良心を痛めるだなんて、おかしい話だもの。コーヒーをティースプーンでクルクルと回す。…コーヒーってこんなに苦かったかしら。
「さて、つまりやってくれるって判断でいいのかしらね?」
さあて、最終結論。
あなたは賭けに参加するかどうかを、問う。
…これは賭け。だけれどもう、私に出来ることは少ないものね。だから、私に出来ることを精一杯やるしかない。
ま、内心どう思ってるのか知らないけど。詐欺師の言葉ほど信用できるものはないもの。
それでも、詐欺師は信用できなくてもあなたは信用できる、からね。
「あなたに良心なんてものが存在したのね。驚いたわ。」
クスリと笑う。人を騙す詐欺師が人を殺すことに良心を痛めるだなんて、おかしい話だもの。コーヒーをティースプーンでクルクルと回す。…コーヒーってこんなに苦かったかしら。
「さて、つまりやってくれるって判断でいいのかしらね?」
さあて、最終結論。
あなたは賭けに参加するかどうかを、問う。
…これは賭け。だけれどもう、私に出来ることは少ないものね。だから、私に出来ることを精一杯やるしかない。
『偶然にも今日あたり、帰省しなくてはならなくてね……
車の燃料代も嵩むし、何より次泊まるホテル代、用意しはぐっていたりしてて……』
おいおい、その程度なら余りあるくらい軍資金――帰宅に使う言葉ではないだろうが―――は用意してあるはずだというのに。
何を言ってるんだろうか。
『やれやれ……仕事をしないと家に帰れなそうね。』
だが、私の本心とやらは、やらなければならない気がしている。
本心なんて、あるかも分からないが。無いかもしれないが。
『仕方ないから――――――
騙してやるわ。』
どうやら、やらなければならないらしいな。
『取り敢えず貴方を連れ帰る為に動くから、"忘れ物があるならそちらでやりなさい。』
車の燃料代も嵩むし、何より次泊まるホテル代、用意しはぐっていたりしてて……』
おいおい、その程度なら余りあるくらい軍資金――帰宅に使う言葉ではないだろうが―――は用意してあるはずだというのに。
何を言ってるんだろうか。
『やれやれ……仕事をしないと家に帰れなそうね。』
だが、私の本心とやらは、やらなければならない気がしている。
本心なんて、あるかも分からないが。無いかもしれないが。
『仕方ないから――――――
騙してやるわ。』
どうやら、やらなければならないらしいな。
『取り敢えず貴方を連れ帰る為に動くから、"忘れ物があるならそちらでやりなさい。』
「そう、なら。…お願い、するわ。」
どうやら賭けに乗ってくれたようで。…なら、いい。これでこっちは憂うことは無くなった。かな。
「そうね、少しだけ回収の面倒な忘れ物があるの。」
そういってクスクスと笑った。
…さあ、だからもう、やることは済んだろう?
こっち側の立場で出来ることはもう全部、やったはずだ。…あとは、
相手の懐に飛び込んていくだけ。はてさて、そこに残るのは…
狂うほどの絶望か。
それとも。
目覚しい希望か。
…まあ、どちらにせよもうやることは変わらない。
だから、あとは。
「だから…あとは、馬鹿どもに任せることにする。」
賭けに乗る馬鹿‹きぼう›どもに頼って、こっちは欠伸でもしながら待つことにしましょうか。
どうやら賭けに乗ってくれたようで。…なら、いい。これでこっちは憂うことは無くなった。かな。
「そうね、少しだけ回収の面倒な忘れ物があるの。」
そういってクスクスと笑った。
…さあ、だからもう、やることは済んだろう?
こっち側の立場で出来ることはもう全部、やったはずだ。…あとは、
相手の懐に飛び込んていくだけ。はてさて、そこに残るのは…
狂うほどの絶望か。
それとも。
目覚しい希望か。
…まあ、どちらにせよもうやることは変わらない。
だから、あとは。
「だから…あとは、馬鹿どもに任せることにする。」
賭けに乗る馬鹿‹きぼう›どもに頼って、こっちは欠伸でもしながら待つことにしましょうか。
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