ロル集 
無力を踏みしめ 9th-25th【DEAD END】
マリア(9th)-柏木 愛(25th)【DEAD END】
【マリア】
私は教会にいた。
神も仏もないだのなんだの謳っていた癖に、である。
まあ、私の持論とか。信念とか。信条とか。心情とか。
何もかも杜撰な嘘ばかりなので、それ自体嘘だったかもしれない。
実は私は敬虔なクリスチャンで、毎週日曜日に礼拝に行かなければ腹でも斬って介錯して欲しくなる(クリスチャンが切腹とはあれだが)のかもしれないし。
或いは、良縁とか、無病息災とか、子孫繁栄とか、商売繁盛とかを賽銭の５円でも握り、祈りに来たのかもしれない。
なんていうのは、悲しいくらいに嘘くさいか。
だが、良い思いつきだ。
商売繁盛は願っておく。
願うのはタダだし、嘘でも良い。
で。
実際私が、こんな薄汚い教会の、薄汚い、聖女だか正常位だかなんだかの裸婦の像の上になど試しに腰掛けたのかというと。
よじよじしたかったからである。
無論嘘だ。
実際は、隠れ家にこの教会は優秀だと目をつけていたので、上からの俯瞰で、間取りを把握しておきたかった、という次第である。
針を通し。
針先で、ひいふうみい。
隠れ場所を概ね探し。
『……降りるのどうしようか。』
降りられないのに気付いた。
【柏木 愛】
「サンタマリア、俺に力を……」
(そんな説、教会の扉を開けて入ってきたのは、皆のアイドル柏木クンである。
彼は事あるごとにサンタマリアに助けを求めるが、サンタマリアが何なのかまるで存じ上げない。『オツベルと象』で象がそんなことを言ってたから、真似てるだけだ。像の上のマリアに気がついたのは、彼が像に接近してからであった)
「オェアア！？え、人！？
あ、ども……なんか、すいません」
(ふと見上げると像の上に女性が鎮座しているのだから、驚いても無理はない。何かをしていたのだとしたら、邪魔をしてしまったかもしれない。いつも通り謝った)
【マリア】
『人の名前、気安く呼ばないでくれるかしら。私は名所旧跡の類じゃないんだけれど。』
サンタマリア
＝サンタ+マリア。
だから、私の名前。というジョークだ。サンタの方と間違えるなら、殺すことにしよう。
物騒な心境にそぐう上から目線で、刀で切りつけるように私はそう断じる。気安く呼ぶなと。
この場合。
物理的にも。
精神的にも。
上から目線、というのを使えるから、日本語というのは素敵だ。
なんてな。気味が悪いだろう？
おもむろに立ち上がり。
少なくとも二、三メートルはある謎の像から、私は飛び降りる。
落下。
自由落下。
重力が私の手を取り、床が固く、硬く、私を抱き締める。
実は割と博打だったんだが、案外綺麗に着地したらしく。
しゅた、という美しい音を立て、私は地上の人になる。
短いフライトだった。
『……まあ、私が9th。共有チャットくらい見てるだろうから、大体の事は省くけど。
殺人犯よ。』
【柏木 愛】
「9th……？
……！お前……マリア……さん」
（随分と美しい女性だな、と思う。ここには美女しかいないことは知っているわけだが。
しかし、その顔はどこかで見たことがある。当然、コロパッドの参加者リストだ。
思わず後方に二、三歩退いた。当然である。殺し合いの最中で殺人犯と名乗る人間を前にして、誰が冷静でいられようか？
唾を飲み込んだ。視界の端がぼやける。次の瞬間には、自分は死ぬかもしれない。
でも、逃げるわけにはいかない。彼女には確かめなくてはならないことがある）
「あ、あの、怒らないで聞いて欲しいんですけども、あの、チャットでは、あなたの協力者が、あの、ピエロちゃんを殺したって。
あの、それ、本当なんですか？あの、それとも貴方がピエロちゃんを？あの、いや、殺人犯って、言ってたし、そうなのかなって、すみません」
（極限にビビっている）
【マリア】
『……そんなくだらないことを聞きに来たの？』
これみよがしに、悪役を気取る。
なるだけ、煽るように。
ピエロちゃんピエロちゃん言っていたり、お前、と言いかけたり。
諸々可愛らしいが。
致命的だ。
『ピエロ？ああ、そんなのも居たわね、確か。誰が殺そうが、結局殺し合いには変わらないんだから、あんまり意味は無いと思うんだけれど。まあ、そうね。』
かつ、かつ、かつ。
靴音が教会の静寂を揺さぶる。
王侯貴族達が、処刑台に登る時。
倫敦塔では、こんな音がしたのかしら。
会話相当の距離まで歩み寄り、私は、大して何ことも無かったかのように、日曜会話と変わらぬような調子で、言葉を重ねる。
『間違いなく、私の指示で消してもらったわ。ぴいぴいぴいぴい文鳥みたいに泣いて、大変だったんだってね。……あーあ。
そんな下らない人間なら。私が、労力を払わなくて良かった。
他人に任せて大正解。
そうは思わない？
芝居の下手な道化なんて、なんの価値があるのかしら。笑えないピエロなんて、ゴミ同然よね？』
さあ、来い。
私は満面の笑みで待ち構える。
【柏木 愛】
（ざわり、と全身に鳥肌が走った。
友人の命を塵屑程にも思っていない暴言に、かつてない憤りを覚える。
落ち着け、これはただの挑発だ、と必死に自分に言い聞かせる。
だが、友人の死に際を彷彿とさせる言動を耳にした瞬間）
「なんだァ？てめぇ……」
（柏木、キレた！衝動に身を任せて右手を伸ばし、彼女の首根っこを掴もうとする）
【マリア】
『てめぇも何も――――……』
そのピエロも。貴方も。私も。生きようとしただけじゃない。』
いけしゃあしゃあと、沸点に達するまで、私は待ち構える。
『私は人を殺して命を繋ぎ。
貴方達は、人を殺さないで友情を結んだ。
……けど、どれもこれも本質的には、生きる為の行動。群れからはぐれたくなかっただけ。』
限界ぎりぎりまで、煽り。
『そこに何の違いがあるの？』
こちらに手を伸ばした時、必勝を確信する。首を傾け、あわや首を取らんと迫り来る腕を躱し。
そのまま、腕の下に潜りながら、踏み込んだクロスレンジ。
スタンガンを、取り出し。
『ああ、あったわ。
強さ、ね。』
雷光一閃、首筋に叩き込もうと。
【柏木 愛】
（許せない許せない許せない許せない。
訳の分からない戯言は、もう彼の耳に届いていない。
今は目の前の相手に一矢報いてやりたい。苦痛を味あわせてやりたい。懺悔させてやりたい。あわよくば淫行に走りたい。
ただひたすらに、それだけを込めた彼の右腕は、虚しく宙を掴み……）
「ピェッ！！！」
（相手が手にしていた獲物を認識する暇もなかった。首筋に叩きつけられたソレは、最大限の効能を発揮する。
情けない声を上げ、情けない顔で意識を失うまで、一瞬であった）
【マリア】
『客観的に見て、貴方に正義はあるんだろうけど。』
何かを愛おしむように。
何か懐かしいものを見るように。
私はそう呟く。
誰かのために戦った彼ないし彼女は、紛うことなき価値がある。崇高だと言って良い。
けれど。
けれども。
それをやって、クラスメイトとやらの為に必死で闘って。
殺された人間が、それを見たなら。大した感慨はない。
もらい泣きでもしようか？
否、否、否。
『潜った修羅場の数が違う。』
決めたはず。
私は、奪う側になると。
私が奪った物の為に。
私が奪い返す者のために。
仮にこれが物語なのだとしたら、私が負ければ良いのにな、と、苦し紛れに微笑して。
『百年後、地獄でまた。』
裁ち鋏を、彼女の胸に目掛けて思い切り振り下ろした。
【柏木 愛】
「ｶﾞﾌﾞ」
（鋭い鋏の先端は、彼の仮の身体の薄い胸板を、容易く貫いた。
突き刺された心臓から、夥しい血液が溢れ出す。
柏木は二、三度痙攣し、口から血を吐き出した後、ピクリとも動かなくなった。
流れ出た血液が、彼の周りに血溜まりを作る。
人の死が儚いとは往々にして言われることだが、実際に身をもってそれを体験する者は、どれほどいるだろうか？
回想する間も、後悔する間も、悲しむ間も、感謝する間も、なく
柏木 愛は、絶命した）
【マリア】
『割と良く切れるわね。』
殺人の高揚と興奮冷めやらぬ内であるというのに。
いや、だからこそ、か。
口をついて出た感想は、人を殺しての感情の動態などではなく、単なる五感的なものだけだった。
ハサミが。
良く切れた。
それだけ。
むしろ、詩的なテーゼなど、私にはあってはいけないのだ。
私は奪われるよりは奪う側に回ろうと思っているだけだ。
そうすることがいいとか悪いとか、正しいとか間違ってるとか、言ってるんじゃない。
私はただ“そうしたい”。
だから。殺しは殺しだけ。
それだけとして受け止める。
奪われたから。
ではなく。
奪い取るために。
私は私の意思で、悪である。
端末で、写真を撮影し。
私は教会を後にしながら、共有チャットを開いた。
【マリア】
私は教会にいた。
神も仏もないだのなんだの謳っていた癖に、である。
まあ、私の持論とか。信念とか。信条とか。心情とか。
何もかも杜撰な嘘ばかりなので、それ自体嘘だったかもしれない。
実は私は敬虔なクリスチャンで、毎週日曜日に礼拝に行かなければ腹でも斬って介錯して欲しくなる(クリスチャンが切腹とはあれだが)のかもしれないし。
或いは、良縁とか、無病息災とか、子孫繁栄とか、商売繁盛とかを賽銭の５円でも握り、祈りに来たのかもしれない。
なんていうのは、悲しいくらいに嘘くさいか。
だが、良い思いつきだ。
商売繁盛は願っておく。
願うのはタダだし、嘘でも良い。
で。
実際私が、こんな薄汚い教会の、薄汚い、聖女だか正常位だかなんだかの裸婦の像の上になど試しに腰掛けたのかというと。
よじよじしたかったからである。
無論嘘だ。
実際は、隠れ家にこの教会は優秀だと目をつけていたので、上からの俯瞰で、間取りを把握しておきたかった、という次第である。
針を通し。
針先で、ひいふうみい。
隠れ場所を概ね探し。
『……降りるのどうしようか。』
降りられないのに気付いた。
【柏木 愛】
「サンタマリア、俺に力を……」
(そんな説、教会の扉を開けて入ってきたのは、皆のアイドル柏木クンである。
彼は事あるごとにサンタマリアに助けを求めるが、サンタマリアが何なのかまるで存じ上げない。『オツベルと象』で象がそんなことを言ってたから、真似てるだけだ。像の上のマリアに気がついたのは、彼が像に接近してからであった)
「オェアア！？え、人！？
あ、ども……なんか、すいません」
(ふと見上げると像の上に女性が鎮座しているのだから、驚いても無理はない。何かをしていたのだとしたら、邪魔をしてしまったかもしれない。いつも通り謝った)
【マリア】
『人の名前、気安く呼ばないでくれるかしら。私は名所旧跡の類じゃないんだけれど。』
サンタマリア
＝サンタ+マリア。
だから、私の名前。というジョークだ。サンタの方と間違えるなら、殺すことにしよう。
物騒な心境にそぐう上から目線で、刀で切りつけるように私はそう断じる。気安く呼ぶなと。
この場合。
物理的にも。
精神的にも。
上から目線、というのを使えるから、日本語というのは素敵だ。
なんてな。気味が悪いだろう？
おもむろに立ち上がり。
少なくとも二、三メートルはある謎の像から、私は飛び降りる。
落下。
自由落下。
重力が私の手を取り、床が固く、硬く、私を抱き締める。
実は割と博打だったんだが、案外綺麗に着地したらしく。
しゅた、という美しい音を立て、私は地上の人になる。
短いフライトだった。
『……まあ、私が9th。共有チャットくらい見てるだろうから、大体の事は省くけど。
殺人犯よ。』
【柏木 愛】
「9th……？
……！お前……マリア……さん」
（随分と美しい女性だな、と思う。ここには美女しかいないことは知っているわけだが。
しかし、その顔はどこかで見たことがある。当然、コロパッドの参加者リストだ。
思わず後方に二、三歩退いた。当然である。殺し合いの最中で殺人犯と名乗る人間を前にして、誰が冷静でいられようか？
唾を飲み込んだ。視界の端がぼやける。次の瞬間には、自分は死ぬかもしれない。
でも、逃げるわけにはいかない。彼女には確かめなくてはならないことがある）
「あ、あの、怒らないで聞いて欲しいんですけども、あの、チャットでは、あなたの協力者が、あの、ピエロちゃんを殺したって。
あの、それ、本当なんですか？あの、それとも貴方がピエロちゃんを？あの、いや、殺人犯って、言ってたし、そうなのかなって、すみません」
（極限にビビっている）
【マリア】
『……そんなくだらないことを聞きに来たの？』
これみよがしに、悪役を気取る。
なるだけ、煽るように。
ピエロちゃんピエロちゃん言っていたり、お前、と言いかけたり。
諸々可愛らしいが。
致命的だ。
『ピエロ？ああ、そんなのも居たわね、確か。誰が殺そうが、結局殺し合いには変わらないんだから、あんまり意味は無いと思うんだけれど。まあ、そうね。』
かつ、かつ、かつ。
靴音が教会の静寂を揺さぶる。
王侯貴族達が、処刑台に登る時。
倫敦塔では、こんな音がしたのかしら。
会話相当の距離まで歩み寄り、私は、大して何ことも無かったかのように、日曜会話と変わらぬような調子で、言葉を重ねる。
『間違いなく、私の指示で消してもらったわ。ぴいぴいぴいぴい文鳥みたいに泣いて、大変だったんだってね。……あーあ。
そんな下らない人間なら。私が、労力を払わなくて良かった。
他人に任せて大正解。
そうは思わない？
芝居の下手な道化なんて、なんの価値があるのかしら。笑えないピエロなんて、ゴミ同然よね？』
さあ、来い。
私は満面の笑みで待ち構える。
【柏木 愛】
（ざわり、と全身に鳥肌が走った。
友人の命を塵屑程にも思っていない暴言に、かつてない憤りを覚える。
落ち着け、これはただの挑発だ、と必死に自分に言い聞かせる。
だが、友人の死に際を彷彿とさせる言動を耳にした瞬間）
「なんだァ？てめぇ……」
（柏木、キレた！衝動に身を任せて右手を伸ばし、彼女の首根っこを掴もうとする）
【マリア】
『てめぇも何も――――……』
そのピエロも。貴方も。私も。生きようとしただけじゃない。』
いけしゃあしゃあと、沸点に達するまで、私は待ち構える。
『私は人を殺して命を繋ぎ。
貴方達は、人を殺さないで友情を結んだ。
……けど、どれもこれも本質的には、生きる為の行動。群れからはぐれたくなかっただけ。』
限界ぎりぎりまで、煽り。
『そこに何の違いがあるの？』
こちらに手を伸ばした時、必勝を確信する。首を傾け、あわや首を取らんと迫り来る腕を躱し。
そのまま、腕の下に潜りながら、踏み込んだクロスレンジ。
スタンガンを、取り出し。
『ああ、あったわ。
強さ、ね。』
雷光一閃、首筋に叩き込もうと。
【柏木 愛】
（許せない許せない許せない許せない。
訳の分からない戯言は、もう彼の耳に届いていない。
今は目の前の相手に一矢報いてやりたい。苦痛を味あわせてやりたい。懺悔させてやりたい。あわよくば淫行に走りたい。
ただひたすらに、それだけを込めた彼の右腕は、虚しく宙を掴み……）
「ピェッ！！！」
（相手が手にしていた獲物を認識する暇もなかった。首筋に叩きつけられたソレは、最大限の効能を発揮する。
情けない声を上げ、情けない顔で意識を失うまで、一瞬であった）
【マリア】
『客観的に見て、貴方に正義はあるんだろうけど。』
何かを愛おしむように。
何か懐かしいものを見るように。
私はそう呟く。
誰かのために戦った彼ないし彼女は、紛うことなき価値がある。崇高だと言って良い。
けれど。
けれども。
それをやって、クラスメイトとやらの為に必死で闘って。
殺された人間が、それを見たなら。大した感慨はない。
もらい泣きでもしようか？
否、否、否。
『潜った修羅場の数が違う。』
決めたはず。
私は、奪う側になると。
私が奪った物の為に。
私が奪い返す者のために。
仮にこれが物語なのだとしたら、私が負ければ良いのにな、と、苦し紛れに微笑して。
『百年後、地獄でまた。』
裁ち鋏を、彼女の胸に目掛けて思い切り振り下ろした。
【柏木 愛】
「ｶﾞﾌﾞ」
（鋭い鋏の先端は、彼の仮の身体の薄い胸板を、容易く貫いた。
突き刺された心臓から、夥しい血液が溢れ出す。
柏木は二、三度痙攣し、口から血を吐き出した後、ピクリとも動かなくなった。
流れ出た血液が、彼の周りに血溜まりを作る。
人の死が儚いとは往々にして言われることだが、実際に身をもってそれを体験する者は、どれほどいるだろうか？
回想する間も、後悔する間も、悲しむ間も、感謝する間も、なく
柏木 愛は、絶命した）
【マリア】
『割と良く切れるわね。』
殺人の高揚と興奮冷めやらぬ内であるというのに。
いや、だからこそ、か。
口をついて出た感想は、人を殺しての感情の動態などではなく、単なる五感的なものだけだった。
ハサミが。
良く切れた。
それだけ。
むしろ、詩的なテーゼなど、私にはあってはいけないのだ。
私は奪われるよりは奪う側に回ろうと思っているだけだ。
そうすることがいいとか悪いとか、正しいとか間違ってるとか、言ってるんじゃない。
私はただ“そうしたい”。
だから。殺しは殺しだけ。
それだけとして受け止める。
奪われたから。
ではなく。
奪い取るために。
私は私の意思で、悪である。
端末で、写真を撮影し。
私は教会を後にしながら、共有チャットを開いた。
特攻夜帯 6th-12th
臨海 凪乃(6th)-トロンパ(12th)
【トロンパ】
「…………えーと。本当にあそこであってんだよな…？」
遊覧を続ける船を見て、やや呆れ気味に呟く
「…ま、いいか。さっさと終わらせちまおう…」
そう言って彼は"荷物"を抱えてモーターボートに乗り、船へと出発した
【臨海 凪乃】
「Welcome to 12th」
西の海では 海上に花火が咲き誇る
まるで、湖畔の観光地で毎日行われる花火大会のよう
「待っていた 私は待っていたのよ」
船頭、タイタニックのように立つ悪女が一人
歓迎していた
【トロンパ】
「帰っていいか？」
開口一番に出たのはそんな言葉。
「…いやまぁ、歓迎してくれるって言うんなら喜ぶが…火薬と血でお祝い、なんてやめてくれよ？」
初対面と印象が違いすぎる。あれぇ……こんなキャラだっけな…
とりあえず"荷物"を持って船に上がる
【臨海 凪乃】
「……流石に、血はないわ
血腥い争いは嫌いなの……
どうせなら美しく決着をつけましょう
……あなた、Azothって本当なの?」
ショッピングモールのあの文字は真実か
ぜひ吟味したいものである
彼に用事があったのはそれだ。
【トロンパ】
「あー、あれかぁ…」
よっこいしょ、と大きなダンボール箱を移動させる
「…本当だ、って言ったらどうする？」
ダンボール箱を足元に置き
問いかける
【臨海 凪乃】
「私は3人目の仲間を見つけたことになる……」
そういって、紅茶をすする。
甲板のプールサイドで、夜景を楽しみながら
「……で、どうなの?」
【トロンパ】
「…へぇ。」
にい、と
嗤う
「こーれはこれは、随分と面白い拾い物をしたものですねえ？まさしく？千載一遇？一騎当千？
五里霧中？ええ、ええ！ワタクシ、トロンパ=ヴァン・ルードツィッヒ。こう答えさせていただきましょう！」
その場で、一礼
「ワタクシ、アナタの味方にして-共犯者である、と。」
【臨海 凪乃】
「…………まぁ、とりあえずそういう事にしておきましょう
確たる証拠はないけれど……」
≪柏木の死亡アナウンスが流れる≫
「……ふぅ、遺言は大切にするわ。 柏木君
で……あなたはどこまで情報を知って
何をするつもりか、交流しましょうか……。
【トロンパ】
「ふーむふむ。さて。さてさてさてさて？どうします？このままだと"勝ち"はふつうにありそうですが？」
持ってきた荷物の上に立ちながらそんな事を言う。ちなみに片足立ちである
(……嗚呼、それにしても…)
【臨海 凪乃】
「えぇ、 あなたにはここで死んでもらうわ
期待はずれよ……。
また来世でお会いしましょう」
にっこり微笑んで、 ある場所を彼に示す。
ただ一点、モーターボートを見つめる。
それはさておき……。手に持ったスイッチを押す。
ﾄﾞｫﾝ……！
停電する船内。 爆音が鳴り響く客室
「水平線上の陰謀……なんて単語を思い出したけど
まぁいいでしょう。十分楽しめたでしょう。
アフロディーテは泡の女神……
船も計画も水泡に帰すべきなのよ」
激しく揺れる船は 爆音をあげながら煙を吐いている
【トロンパ】
「…？」
指し示したボートの方を、"思わず"見てしまった
その隙に
爆音
(やっべ、バレた！？)
"荷物"の事もあり、一瞬気を取られる。ひとまず脱出しようとボートに向かって走る
【臨海 凪乃】
船はゆっくりと沈んでいく
爆音を立て 煙を吐きながら
有象無象の海の底へ向かって引きずりこまれる
船は 泡に帰る
その姿は、きっとどこにいたとしても見えるだろう
【トロンパ】
「…………えーと。本当にあそこであってんだよな…？」
遊覧を続ける船を見て、やや呆れ気味に呟く
「…ま、いいか。さっさと終わらせちまおう…」
そう言って彼は"荷物"を抱えてモーターボートに乗り、船へと出発した
【臨海 凪乃】
「Welcome to 12th」
西の海では 海上に花火が咲き誇る
まるで、湖畔の観光地で毎日行われる花火大会のよう
「待っていた 私は待っていたのよ」
船頭、タイタニックのように立つ悪女が一人
歓迎していた
【トロンパ】
「帰っていいか？」
開口一番に出たのはそんな言葉。
「…いやまぁ、歓迎してくれるって言うんなら喜ぶが…火薬と血でお祝い、なんてやめてくれよ？」
初対面と印象が違いすぎる。あれぇ……こんなキャラだっけな…
とりあえず"荷物"を持って船に上がる
【臨海 凪乃】
「……流石に、血はないわ
血腥い争いは嫌いなの……
どうせなら美しく決着をつけましょう
……あなた、Azothって本当なの?」
ショッピングモールのあの文字は真実か
ぜひ吟味したいものである
彼に用事があったのはそれだ。
【トロンパ】
「あー、あれかぁ…」
よっこいしょ、と大きなダンボール箱を移動させる
「…本当だ、って言ったらどうする？」
ダンボール箱を足元に置き
問いかける
【臨海 凪乃】
「私は3人目の仲間を見つけたことになる……」
そういって、紅茶をすする。
甲板のプールサイドで、夜景を楽しみながら
「……で、どうなの?」
【トロンパ】
「…へぇ。」
にい、と
嗤う
「こーれはこれは、随分と面白い拾い物をしたものですねえ？まさしく？千載一遇？一騎当千？
五里霧中？ええ、ええ！ワタクシ、トロンパ=ヴァン・ルードツィッヒ。こう答えさせていただきましょう！」
その場で、一礼
「ワタクシ、アナタの味方にして-共犯者である、と。」
【臨海 凪乃】
「…………まぁ、とりあえずそういう事にしておきましょう
確たる証拠はないけれど……」
≪柏木の死亡アナウンスが流れる≫
「……ふぅ、遺言は大切にするわ。 柏木君
で……あなたはどこまで情報を知って
何をするつもりか、交流しましょうか……。
【トロンパ】
「ふーむふむ。さて。さてさてさてさて？どうします？このままだと"勝ち"はふつうにありそうですが？」
持ってきた荷物の上に立ちながらそんな事を言う。ちなみに片足立ちである
(……嗚呼、それにしても…)
【臨海 凪乃】
「えぇ、 あなたにはここで死んでもらうわ
期待はずれよ……。
また来世でお会いしましょう」
にっこり微笑んで、 ある場所を彼に示す。
ただ一点、モーターボートを見つめる。
それはさておき……。手に持ったスイッチを押す。
ﾄﾞｫﾝ……！
停電する船内。 爆音が鳴り響く客室
「水平線上の陰謀……なんて単語を思い出したけど
まぁいいでしょう。十分楽しめたでしょう。
アフロディーテは泡の女神……
船も計画も水泡に帰すべきなのよ」
激しく揺れる船は 爆音をあげながら煙を吐いている
【トロンパ】
「…？」
指し示したボートの方を、"思わず"見てしまった
その隙に
爆音
(やっべ、バレた！？)
"荷物"の事もあり、一瞬気を取られる。ひとまず脱出しようとボートに向かって走る
【臨海 凪乃】
船はゆっくりと沈んでいく
爆音を立て 煙を吐きながら
有象無象の海の底へ向かって引きずりこまれる
船は 泡に帰る
その姿は、きっとどこにいたとしても見えるだろう
誓い 3rd【REVIVAL】-25th【REVIVAL】
五番目の道化師(3rd)-柏木 愛(25th)
【五番目の道化師】
アナウンスが流れた。
聞こえてくるのは友人の名前。
「あぁ…柏木さんも死んじゃったか。」
そう呟きながら偶然訪れていた…初めて柏木さんと出会ったあの場所で空を見上げた。まだこんなふざけたゲームが始まる前、何も知ろうとしないでいた時に此処で柏木さんとBBQをしたんだっけ。
「料理…少しは上達したんだよ」
ショッピングモールに売っていたレシピ本を見ながら料理、練習したよ。また…一緒に料理ができると思ってさ…。正方形以外にも切れるようになったんだよ？
「…柏木さん、どこにいるんだろう」
どこかにいるんなら、見つかるといいなぁ。
【柏木 愛】
「ああ、初めてここでピエロちゃんと会ったっけな……」
（そのBBQ会場に、既に柏木はいた。
意識の戻った柏木は、自分が既に死亡し、霊体となっていることに気が付くと、激しく憤慨し、号泣……することはなかった。
そうしたい気分なのに、出来ない。霊体は感情表現が乏しいのだろうか？
ともかく、ふわふわとフィールドを彷徨い、ここへやってきたのだった。
ピエロの存在には、気が付いていないようだ）
【五番目の道化師】
声が聞こえた気がした。
柏木さんの…声が確かに聞こえた。
「かしわぎ…さん！！」
いた、見つけた！見つけられた！
私は柏木さんを見つけられたことに喜び、駆け寄って…まるで久しぶりに出会えた友人のように、私は柏木さんを後ろから抱き締めようとして───
「え…っ」
───どういうこと…？
【柏木 愛】
「ピエロちゃん……。俺、気が付いてましたよ。
気が付いたときは、めちゃくちゃ嬉しかったです。本当に」
（ピエロの身体は、柏木の身体をすり抜けた。
それは、どちらかが生者であり、どちらかが死者であることの証明に他ならない。
どっちがどっちなのかは、当然……）
「死んだのが俺で、本当に良かった。ピエロちゃんが生きてて、本当に良かった」
【五番目の道化師】
「やだ、なんで…！？なんで…っ！！」
私は死んでるんじゃないの？
いつから私は生き返っていたの…？
「柏木さん…っ、なんで、なんで…っ！！一緒に帰ろうって言ったじゃないですか！！」
いや、先に死んだのは私だ。
あのアナウンスを聞いた後──誰かに出会って、言葉を信じて殺されて───その後は？
生きているって気がついていたのなら。
先に『生きている』と連絡していたらこんなことにならなかったかもしれないのに…っ！
「良くない！よくない…っ！！ぜんぜんよくないんだよバカぁぁ！！」
崩れ落ちるように膝をつき、涙を抑えきることができない。なんで、なんでよ…。どうして…こんなことになってしまったの…？やだよ、そんなのやだよッ！！私はこんなこと望んでない！！
【柏木 愛】
「ピエロちゃん……」
（慟哭する彼女を見て、枯れ果てていた涙が沸き上がる）
「ごめんなさい、ごめんなさい……。俺、弱いくせに、調子乗って、あっけなく殺されました。
ごめんなさい……でも、本当に、ピエロちゃんにだけは、死んでほしくないです。
絶対に、絶対に死なないでください。俺の分まで、生き延びてください」
（彼女に触れようと、手を伸ばす。しかし、それは叶わない。
頬を伝う冷たい涙は、雪に落ちる前に消滅していく）
【五番目の道化師】
「こんなのって酷いよ…っ」
自分の分まで生き延びろなんて…。
それじゃあ敵討ちすらできないじゃないか…っ！！
「やだ、やだやだ！！やだ…っ、なんで…っ、そんなの…っ」
せっかく、大切な友達ができたのに…。なんで、一緒に居ることも、仇を取ることも許してくれないの？
「友達の仇くらい…とらせてくれてもいいじゃない…っ！！」
【柏木 愛】
「やめ、やめてください、ピエロちゃん。
俺、これ以上は、辛くて、やばいです。泣かないでください、
お願いします。なんでも……しますから……」
（泣き喚く彼女を抱擁してあげたい。抱擁し、一緒に声を上げて泣きたい。そうすれば、お互いに幾許か気持ちが晴れることだろう。
でも、それは叶わない。
自分は死んで、彼女は生きている。
もう、彼女に触れることもできない。
やり場のない悲しみが溢れ、どうにかなってしまいそうだった）
【五番目の道化師】
「…『なんでもします』は、言っちゃダメって、いったでしょ…っ」
ボロボロと溢れる涙を抑えることもできないまま、私は笑みを浮かべた。今までの中でも一番下手くそな不器用な笑い方。これじゃあ、私は道化師でもピエロでもない。ただのなりそこないだ。
「柏木、さん…っ、約束…、なりそこないの道化師として…誓います。私は…っ、最後まで、足掻きますから…だから、だから…っ…お名前を、教えてもらえますか？」
できたら、聞きたかった。友達…いや、それ以上に無意識に信じてしまった彼の名前を───
【柏木 愛】
「はは、俺の名前、わかってなかったんですか。
ピエロちゃんらしいや……」
（そっと彼女の耳元で、己の本名を呟く）
「ピエロちゃんの名前は聞けないですけど、まぁ楽しみにしておきますよ。
どうか、強く生きてください。敵討ちとか、変なことは考えないで」
【五番目の道化師】
「うん、わかったよ…っ」
私は、最後まで生き残る。生き残らなければならない。
その後──どうなるかはわからないけど、私は生きるよ。
「……ありがとう、柏木さん…」
私は、触れない彼女にそっと抱きつくように腕を回して言葉を呟いた。
「──────、───」
自然と微笑みを浮かべられたような気がした。
【柏木 愛】
「へへ、へへ……そんなこと言われたら俺、嬉しすぎて成仏しちゃいますよ」
（ニヤニヤと赤くなりながら、微笑む。
自分は確かに死んでしまった。最悪の結末と言っても過言ではないのかもしれない。
それでも自分は、ここで、ピエロちゃんに会うことができて良かったと、心の底から思うのであった）
「――――」
【五番目の道化師】
「───っ」
真っ赤だ。見事に耳まで真っ赤である。
まさか、冗談じゃないよね？いや、いや…こんなところで冗談を言ってどうするの！？いつもの信じやすさは何処に言ったの私！
「……っ、」
どうすればいいのか、よくわからないけど───
【柏木 愛】
「え……？」
（気が付くと、周りの風景に色が戻った感覚がした。音が、匂いが、踏みしめる地面が、全てが鮮やかだ）
「あれ？これ……あれ？」
【五番目の道化師】
「えへへ♪」
まだ恥ずかしさで顔が熱いけど、成功したことに喜び、微笑みを浮かべる。
「来世なんて待てっていうのは意地悪だよ。せっかく、好きな男子をようやく見つけたんだから」
今度は触れるね！と、私は勢いよく柏木さんに抱きついた。
(───あぁ、やっぱり安心する。やっと、触れられたよ。)
【柏木 愛】
「ピエロちゃんっ！あ、ありがとう！ありがとうございますっ！
お、俺、もう死にませんから！一緒にいましょう！ねっ！」
（彼女の身体を抱き返す。確かに触れて、確かに温かい。
自分なんかに、自分ごときに、蘇生を使ってくれた彼女に、感謝が尽きない。
ただただ号泣するのであった。
そして、このゲームで生き抜くことを誓う。必ず生きて、ピエロちゃんと共に、帰ってみせる。
ハードモードなんだよなぁ助けて）
【五番目の道化師】
「うん！」
今はこの幸せを噛みしめよう。
今の私はただのなりそこないだから───幸せであれる内に。
「えへへ…やっぱり、安心するなぁ」
永遠にこの幸せが続けばいいのになぁ。
【柏木 愛】
「あ、今夜はここでキャンプしません？前みたいにBBQもしましょうよ！ね！
そうと決まればショッピングモールへ行きましょう！」
（空を見上げると、あの日のように綺麗な夜空が広がっていた。
そうだ、ここで、またあの日を再現しよう。そう思い立った彼は、彼女の手を引き、駆け出した。
これは束の間の幸せかもしれない。今、こうしている間にも、新たな死者は出ようとしている。
死神の鎌が自分らに向かないことなど、決してない。だからといって腐るのではなく、少しでも前向きに、終わりが来るときまで、この幸せを享受しようと、心に決めるのであった）
【五番目の道化師】
アナウンスが流れた。
聞こえてくるのは友人の名前。
「あぁ…柏木さんも死んじゃったか。」
そう呟きながら偶然訪れていた…初めて柏木さんと出会ったあの場所で空を見上げた。まだこんなふざけたゲームが始まる前、何も知ろうとしないでいた時に此処で柏木さんとBBQをしたんだっけ。
「料理…少しは上達したんだよ」
ショッピングモールに売っていたレシピ本を見ながら料理、練習したよ。また…一緒に料理ができると思ってさ…。正方形以外にも切れるようになったんだよ？
「…柏木さん、どこにいるんだろう」
どこかにいるんなら、見つかるといいなぁ。
【柏木 愛】
「ああ、初めてここでピエロちゃんと会ったっけな……」
（そのBBQ会場に、既に柏木はいた。
意識の戻った柏木は、自分が既に死亡し、霊体となっていることに気が付くと、激しく憤慨し、号泣……することはなかった。
そうしたい気分なのに、出来ない。霊体は感情表現が乏しいのだろうか？
ともかく、ふわふわとフィールドを彷徨い、ここへやってきたのだった。
ピエロの存在には、気が付いていないようだ）
【五番目の道化師】
声が聞こえた気がした。
柏木さんの…声が確かに聞こえた。
「かしわぎ…さん！！」
いた、見つけた！見つけられた！
私は柏木さんを見つけられたことに喜び、駆け寄って…まるで久しぶりに出会えた友人のように、私は柏木さんを後ろから抱き締めようとして───
「え…っ」
───どういうこと…？
【柏木 愛】
「ピエロちゃん……。俺、気が付いてましたよ。
気が付いたときは、めちゃくちゃ嬉しかったです。本当に」
（ピエロの身体は、柏木の身体をすり抜けた。
それは、どちらかが生者であり、どちらかが死者であることの証明に他ならない。
どっちがどっちなのかは、当然……）
「死んだのが俺で、本当に良かった。ピエロちゃんが生きてて、本当に良かった」
【五番目の道化師】
「やだ、なんで…！？なんで…っ！！」
私は死んでるんじゃないの？
いつから私は生き返っていたの…？
「柏木さん…っ、なんで、なんで…っ！！一緒に帰ろうって言ったじゃないですか！！」
いや、先に死んだのは私だ。
あのアナウンスを聞いた後──誰かに出会って、言葉を信じて殺されて───その後は？
生きているって気がついていたのなら。
先に『生きている』と連絡していたらこんなことにならなかったかもしれないのに…っ！
「良くない！よくない…っ！！ぜんぜんよくないんだよバカぁぁ！！」
崩れ落ちるように膝をつき、涙を抑えきることができない。なんで、なんでよ…。どうして…こんなことになってしまったの…？やだよ、そんなのやだよッ！！私はこんなこと望んでない！！
【柏木 愛】
「ピエロちゃん……」
（慟哭する彼女を見て、枯れ果てていた涙が沸き上がる）
「ごめんなさい、ごめんなさい……。俺、弱いくせに、調子乗って、あっけなく殺されました。
ごめんなさい……でも、本当に、ピエロちゃんにだけは、死んでほしくないです。
絶対に、絶対に死なないでください。俺の分まで、生き延びてください」
（彼女に触れようと、手を伸ばす。しかし、それは叶わない。
頬を伝う冷たい涙は、雪に落ちる前に消滅していく）
【五番目の道化師】
「こんなのって酷いよ…っ」
自分の分まで生き延びろなんて…。
それじゃあ敵討ちすらできないじゃないか…っ！！
「やだ、やだやだ！！やだ…っ、なんで…っ、そんなの…っ」
せっかく、大切な友達ができたのに…。なんで、一緒に居ることも、仇を取ることも許してくれないの？
「友達の仇くらい…とらせてくれてもいいじゃない…っ！！」
【柏木 愛】
「やめ、やめてください、ピエロちゃん。
俺、これ以上は、辛くて、やばいです。泣かないでください、
お願いします。なんでも……しますから……」
（泣き喚く彼女を抱擁してあげたい。抱擁し、一緒に声を上げて泣きたい。そうすれば、お互いに幾許か気持ちが晴れることだろう。
でも、それは叶わない。
自分は死んで、彼女は生きている。
もう、彼女に触れることもできない。
やり場のない悲しみが溢れ、どうにかなってしまいそうだった）
【五番目の道化師】
「…『なんでもします』は、言っちゃダメって、いったでしょ…っ」
ボロボロと溢れる涙を抑えることもできないまま、私は笑みを浮かべた。今までの中でも一番下手くそな不器用な笑い方。これじゃあ、私は道化師でもピエロでもない。ただのなりそこないだ。
「柏木、さん…っ、約束…、なりそこないの道化師として…誓います。私は…っ、最後まで、足掻きますから…だから、だから…っ…お名前を、教えてもらえますか？」
できたら、聞きたかった。友達…いや、それ以上に無意識に信じてしまった彼の名前を───
【柏木 愛】
「はは、俺の名前、わかってなかったんですか。
ピエロちゃんらしいや……」
（そっと彼女の耳元で、己の本名を呟く）
「ピエロちゃんの名前は聞けないですけど、まぁ楽しみにしておきますよ。
どうか、強く生きてください。敵討ちとか、変なことは考えないで」
【五番目の道化師】
「うん、わかったよ…っ」
私は、最後まで生き残る。生き残らなければならない。
その後──どうなるかはわからないけど、私は生きるよ。
「……ありがとう、柏木さん…」
私は、触れない彼女にそっと抱きつくように腕を回して言葉を呟いた。
「──────、───」
自然と微笑みを浮かべられたような気がした。
【柏木 愛】
「へへ、へへ……そんなこと言われたら俺、嬉しすぎて成仏しちゃいますよ」
（ニヤニヤと赤くなりながら、微笑む。
自分は確かに死んでしまった。最悪の結末と言っても過言ではないのかもしれない。
それでも自分は、ここで、ピエロちゃんに会うことができて良かったと、心の底から思うのであった）
「――――」
【五番目の道化師】
「───っ」
真っ赤だ。見事に耳まで真っ赤である。
まさか、冗談じゃないよね？いや、いや…こんなところで冗談を言ってどうするの！？いつもの信じやすさは何処に言ったの私！
「……っ、」
どうすればいいのか、よくわからないけど───
【柏木 愛】
「え……？」
（気が付くと、周りの風景に色が戻った感覚がした。音が、匂いが、踏みしめる地面が、全てが鮮やかだ）
「あれ？これ……あれ？」
【五番目の道化師】
「えへへ♪」
まだ恥ずかしさで顔が熱いけど、成功したことに喜び、微笑みを浮かべる。
「来世なんて待てっていうのは意地悪だよ。せっかく、好きな男子をようやく見つけたんだから」
今度は触れるね！と、私は勢いよく柏木さんに抱きついた。
(───あぁ、やっぱり安心する。やっと、触れられたよ。)
【柏木 愛】
「ピエロちゃんっ！あ、ありがとう！ありがとうございますっ！
お、俺、もう死にませんから！一緒にいましょう！ねっ！」
（彼女の身体を抱き返す。確かに触れて、確かに温かい。
自分なんかに、自分ごときに、蘇生を使ってくれた彼女に、感謝が尽きない。
ただただ号泣するのであった。
そして、このゲームで生き抜くことを誓う。必ず生きて、ピエロちゃんと共に、帰ってみせる。
ハードモードなんだよなぁ助けて）
【五番目の道化師】
「うん！」
今はこの幸せを噛みしめよう。
今の私はただのなりそこないだから───幸せであれる内に。
「えへへ…やっぱり、安心するなぁ」
永遠にこの幸せが続けばいいのになぁ。
【柏木 愛】
「あ、今夜はここでキャンプしません？前みたいにBBQもしましょうよ！ね！
そうと決まればショッピングモールへ行きましょう！」
（空を見上げると、あの日のように綺麗な夜空が広がっていた。
そうだ、ここで、またあの日を再現しよう。そう思い立った彼は、彼女の手を引き、駆け出した。
これは束の間の幸せかもしれない。今、こうしている間にも、新たな死者は出ようとしている。
死神の鎌が自分らに向かないことなど、決してない。だからといって腐るのではなく、少しでも前向きに、終わりが来るときまで、この幸せを享受しようと、心に決めるのであった）
挨拶だけ 5th-22nd
まにょ(5th)-フェルナ(22nd)
【まにょ】
東エリアにある一角、大きく聳え立つ純白の芸術品に紛れ、ひっそりと佇む人影があった。
降り積もる雪を被る作品を、番傘をさして見上げる姿は雪女か何かに見紛うほどの線の細さと生気の薄さを醸しており、着物の白さもあってかどこか浮世離れした空間に溶け込んでいた。
船着場で錯乱してから一晩立つが、特別強い殺意を抱くことはなかった。当て所なく探し人を求めて彷徨う浮遊霊というのが、今の彼の存在を言い表すに相応しいだろう。
やがて、雪像の展覧会の役員の中にも探し人が居ないことが分かってか、引き返そうと歩き始めた。怪我をした左足が痛むのか、その歩みは緩慢としている。
【フェルナ】
行ってみたいと思って、実際特に用事が存在しなかったランキング、堂々の2位。
それが此処、雪の芸術である。
「ここを見るのも恐らく最後になるんだ。しっかり目に焼きつけるんだぞ、私。」
注視する事が主になってしまったからなのだろう。
だからこそ、誰かを見つける事が出来た。
逆に言えば、相手はそれだけ気配を消していたという事だろう。なんとまあ…忍者なことか。
ふふ、すまない。いい例えが思いつかなかったんだ。
「随分と心做しのように見えるが、どうかしたのかい？」
話し掛けてみよう。雪に埋もれそうにも見えてくる、彼の影に。
そこでようやく気付いてしまったのだが、寧ろ私の方が白かったよ。包帯だし、頭に雪被ってるし。
【まにょ】
さく、さくと雪を踏む音が止まる。番傘が傾いて憂いを帯びた面がフェルナの前に晒される。傘の上に積もった雪がずるりと滑って足元に落ちた。小さな山がまた、上から降り積もる雪に覆われていく。
「…人を、探しているのです」
彼の声が聞こえたのは、しんしんと雪の降る静かな街だったからだろう。日常的に聞こえる車の音や人の話し声がない不気味なほどに静かな街だからこそ、かき消されることもなくすっと声が通った。
少女に向けた瞳は光を失ってこそ居なかったが、拠り所となる存在も今は部屋を開けがちで上手く消化し切れていないからか、覇気が弱い。足元が覚束ない印象なのは、何も物理的な怪我だけが原因ではないのだろう。
【フェルナ】
「…成程、君はそれで今にも倒れそうに立ち続けているのかな。」
尋ねているというよりは、確認に近いか。
見ればわかる。きっと彼は、何かが足りなくなっている。それは、まるで少女が私を見ているようで…。
ああ、嫌だ。反吐が出る。
「その人は今、何処にいるか。
君は、どこまで知っているのかな？」
少女は訊いてみる。それは私に出来ることがあるのだろうか、と。いや、あったとしても…それを頼ると考えるのはあまりにも筋違いか。誰も彼も、手伝えて成果を得られる保証は何処にもない。
【まにょ】
数秒の沈黙の後、そっと瞼が伏せられた。もう一度開くとその視線はフェルナに向けられることはなく、すいと流れて雪像の隙間に泳いでいった。
「……どこにも、いらっしゃいませんでした。北のほうはまだ見ていませんが…あそこにはいませんから」
吐息を落とすような返事が宙に白く溶ける。像の影は薄ぼんやりとしており、仄暗い。そこには誰も、何も居ないのに、視線は注がれ続ける。
だが、そうしているのもそこそこに、ふっと息を吐くとぎこちなく微笑んだ。
「居てほしかったわけではないので、寧ろ、ほっとしました。…名乗り遅れて申し訳ありません、私はまにょといいます」
どこを探しても見つからない。その焦りは、人と話しているうちにいつの間にか安心感に置き換わった。居てほしくて探していたわけではないのだ。見つかって欲しくなくて、探し回っていたのだから。どこにも居ないでほしいと願いながら、その姿を追い求めていたとは我ながらおかしな話である。
心の整理が追いついていないがゆえに若干の固さはあるが、それでも十分、柔和な笑みを浮かべてフェルナに視線を戻していた。
【フェルナ】
「ほう、そうして探し続けて…今に至るのか。」
他人事のように、しかし実際他人事で。
全くもって、惨いものだと感じてしまう少女がいる。だから彼の瞳の向きにつられるように、少女もその先の雪像を見たのだろう。白くて美しい、穢れも無いその像は…本当に、人間から生み出されたものなのだろうか。
「…そうか。私の名前はフェルナ…憶えても、憶えていなくても構わないよ。」
その柔和な笑みは、ちゃんと少女の奥へと届いていた。ああ、そうか。少女はまだ、未熟だったんだなと。
そこに探すべき人を居ないことを確認するが為に…人を探す。だから、歩き続けたのか。
確証なんて何処にもない。でも、少女がそう解釈してしまえば…それは気持ちを汲み取ったものになるだろう？
【まにょ】
「よろしくおねがいします、フェルナさん」
よろしく、などという言葉は恐らく二人の間では本来必要ないものだ。同じ桜の舞う季節に入学し、同じクラスに編成され、修学旅行を共に楽しんだ。途中までであったが。実質、初対面でもなんでもない。
それではなぜ、はじめましてだの、よろしくお願いしますだのとこの口は言うのだろう。
答えは簡単だ。初対面だからだ。
だからはじめましてだの、よろしくお願いしますだのという言葉は、相手に向けても何の違和感もない。
何一つ。
それはさておき、番傘の持ち手を軽く肩に掛けながら小首を傾げる。足と同じように手のひらもすりむいているからか、長く物を持っているときれいに巻いてある包帯の下が痛むのだ。
「私は人を探してここまで来たのですが、フェルナさんは雪像を見にいらっしゃったのですか？」
偶然出くわすにしても、純粋に芸術品を楽しむような心の余裕があるのだろうかと聞いていて自分でも疑問に思うようなことだった。何か目的があるなら自分は用が済んだので帰ろうかとも思ったが、先ほどの幽鬼のような状態の自分に話しかけてくれた親切な人と言う印象を持ったからか、だいぶ好意的な目でフェルナに訊ねている。
【フェルナ】
「ああ、宜しく。」
端的に返せば、きっと彼も少女の気持ちを汲み取ってくれるだろう。
そうだ…少女と彼は、初めてであり、初めてでない。それだけで、通じる。今、お互いを知るものは…お互いの知らない所を知ろうとしているんだろう。
「…そうだな。大体の理由はそんなものだ。
でも、今更過ぎる…勿論、裏があって此処に赴いたのさ。私のやりたい事を為すために、準備をするんだ。」
此方も出来ているだろうか、柔らかな笑みとやらは。今まで表情が正直だと言われ続けた私は今、此処に居ない。少女は、何にも興味を向けていないような…そんな瞳を雪像へ向けている。
【まにょ】
「準備、ですか……」
言葉の端々に、不穏な気配が拭えていないのはこんな状況だから致し方ないのだと思う。重要なのは、そんな事情を抱えて尚も彼女が柔らかに微笑んでくれていることだ。
例えその瞳が万事に好奇を失せていたとしても、拾うべく心を拾えると言うだけで十分、友好的でいることは出来る。
「……謀には、口を挟まずにおきましょう。…あぁ、では、せめてこれを」
苦笑いで受け答えた後、思いついた顔で袖の下を探る。そこから取り出したのは貼らないタイプのホッカイロだ。商店街で簡単に調達できることもあって、出かける際はよく多めに持ち歩くのだ。
「こんな天気ですから、お体を冷やしてしまわないように…お一つどうぞ」
さく、さくと雪を踏んで近寄ると、少し身を屈めてホッカイロを差し出した。
【フェルナ】
「大丈夫だ。少なくとも、敵として居ないのなら…ね。」
彼の不安は解る。少女だって、同じ事を言われたら疑うからだ。
でも、知っていた。彼なら…この言葉でも受け止めてくれるのだろうと。だって、視えるじゃないか。
少女よりも、哀しいかもしれない裏が。
「…はは、まさかこれを貰えるとは思ってもいなかったよ。」
受け取ったのは、冬のお供であるホッカイロ。現実で寒がりだった私も、これをよく使っている。けれど、ここで貰えるカイロは、これまた特別なものだ。
「初対面だから分からなかったのか知らないが…私はずっと頭に雪を乗せて歩いてたんだぞ？」
この身体だからなのか…異常にこの環境に強い。しかし、このカイロは有難く受け取っておく。このカイロは、きっと、少女にとって特別なものだろうから。
【まにょ】
「あ、本当ですね…雪が降っても傘を差さない方を結構見るのですが、冷やしすぎると頭皮に良くないので気をつけたほうがいいですよ」
はっとして気づいた様子で、さっさっとフェルナの頭の雪を払った。何故頭に乗せたままにしておくのだろうか。冷たいと思うのだが…しかし、肉体が変わったことで感覚も変わっているのかもしれない。そういう人物と一回あったことがある。そのときはだいぶ冷たくあしらわれてしまったが。
「私のように体が弱くなくても、冷やしすぎると具合を悪くしますから」
二人を覆う番傘の下、ほんの少しではあるが、暖かな気持ちをもてることを嬉しく思った。その嬉しさはほんのりと顔にも表れ、出会いがしらに比べてだいぶ表情は穏やかに戻りつつある。目の前の少女がこれから何の為に何をするのか、それはまにょのあずかり知らぬところであるが、それが彼女なりの信念の元に行われることであるなら、自分はただ、自分の知りえる領域で彼女の身を案じるのみである。
「それでは、長くお引止めするのもご迷惑でしょうから、私はお宿へ帰ります。…ではまた、今度は温かいお茶でもごいっしょしましょうね」
叶う約束か、叶わぬ約束か、定かではないから。しかし、先の話をするのは悪いだけでもないだろう。絶対などと言う言葉を使わない代わりに、他愛のない再会を願う約束を残してゆっくりとまにょは歩き始めた。
【まにょ】
東エリアにある一角、大きく聳え立つ純白の芸術品に紛れ、ひっそりと佇む人影があった。
降り積もる雪を被る作品を、番傘をさして見上げる姿は雪女か何かに見紛うほどの線の細さと生気の薄さを醸しており、着物の白さもあってかどこか浮世離れした空間に溶け込んでいた。
船着場で錯乱してから一晩立つが、特別強い殺意を抱くことはなかった。当て所なく探し人を求めて彷徨う浮遊霊というのが、今の彼の存在を言い表すに相応しいだろう。
やがて、雪像の展覧会の役員の中にも探し人が居ないことが分かってか、引き返そうと歩き始めた。怪我をした左足が痛むのか、その歩みは緩慢としている。
【フェルナ】
行ってみたいと思って、実際特に用事が存在しなかったランキング、堂々の2位。
それが此処、雪の芸術である。
「ここを見るのも恐らく最後になるんだ。しっかり目に焼きつけるんだぞ、私。」
注視する事が主になってしまったからなのだろう。
だからこそ、誰かを見つける事が出来た。
逆に言えば、相手はそれだけ気配を消していたという事だろう。なんとまあ…忍者なことか。
ふふ、すまない。いい例えが思いつかなかったんだ。
「随分と心做しのように見えるが、どうかしたのかい？」
話し掛けてみよう。雪に埋もれそうにも見えてくる、彼の影に。
そこでようやく気付いてしまったのだが、寧ろ私の方が白かったよ。包帯だし、頭に雪被ってるし。
【まにょ】
さく、さくと雪を踏む音が止まる。番傘が傾いて憂いを帯びた面がフェルナの前に晒される。傘の上に積もった雪がずるりと滑って足元に落ちた。小さな山がまた、上から降り積もる雪に覆われていく。
「…人を、探しているのです」
彼の声が聞こえたのは、しんしんと雪の降る静かな街だったからだろう。日常的に聞こえる車の音や人の話し声がない不気味なほどに静かな街だからこそ、かき消されることもなくすっと声が通った。
少女に向けた瞳は光を失ってこそ居なかったが、拠り所となる存在も今は部屋を開けがちで上手く消化し切れていないからか、覇気が弱い。足元が覚束ない印象なのは、何も物理的な怪我だけが原因ではないのだろう。
【フェルナ】
「…成程、君はそれで今にも倒れそうに立ち続けているのかな。」
尋ねているというよりは、確認に近いか。
見ればわかる。きっと彼は、何かが足りなくなっている。それは、まるで少女が私を見ているようで…。
ああ、嫌だ。反吐が出る。
「その人は今、何処にいるか。
君は、どこまで知っているのかな？」
少女は訊いてみる。それは私に出来ることがあるのだろうか、と。いや、あったとしても…それを頼ると考えるのはあまりにも筋違いか。誰も彼も、手伝えて成果を得られる保証は何処にもない。
【まにょ】
数秒の沈黙の後、そっと瞼が伏せられた。もう一度開くとその視線はフェルナに向けられることはなく、すいと流れて雪像の隙間に泳いでいった。
「……どこにも、いらっしゃいませんでした。北のほうはまだ見ていませんが…あそこにはいませんから」
吐息を落とすような返事が宙に白く溶ける。像の影は薄ぼんやりとしており、仄暗い。そこには誰も、何も居ないのに、視線は注がれ続ける。
だが、そうしているのもそこそこに、ふっと息を吐くとぎこちなく微笑んだ。
「居てほしかったわけではないので、寧ろ、ほっとしました。…名乗り遅れて申し訳ありません、私はまにょといいます」
どこを探しても見つからない。その焦りは、人と話しているうちにいつの間にか安心感に置き換わった。居てほしくて探していたわけではないのだ。見つかって欲しくなくて、探し回っていたのだから。どこにも居ないでほしいと願いながら、その姿を追い求めていたとは我ながらおかしな話である。
心の整理が追いついていないがゆえに若干の固さはあるが、それでも十分、柔和な笑みを浮かべてフェルナに視線を戻していた。
【フェルナ】
「ほう、そうして探し続けて…今に至るのか。」
他人事のように、しかし実際他人事で。
全くもって、惨いものだと感じてしまう少女がいる。だから彼の瞳の向きにつられるように、少女もその先の雪像を見たのだろう。白くて美しい、穢れも無いその像は…本当に、人間から生み出されたものなのだろうか。
「…そうか。私の名前はフェルナ…憶えても、憶えていなくても構わないよ。」
その柔和な笑みは、ちゃんと少女の奥へと届いていた。ああ、そうか。少女はまだ、未熟だったんだなと。
そこに探すべき人を居ないことを確認するが為に…人を探す。だから、歩き続けたのか。
確証なんて何処にもない。でも、少女がそう解釈してしまえば…それは気持ちを汲み取ったものになるだろう？
【まにょ】
「よろしくおねがいします、フェルナさん」
よろしく、などという言葉は恐らく二人の間では本来必要ないものだ。同じ桜の舞う季節に入学し、同じクラスに編成され、修学旅行を共に楽しんだ。途中までであったが。実質、初対面でもなんでもない。
それではなぜ、はじめましてだの、よろしくお願いしますだのとこの口は言うのだろう。
答えは簡単だ。初対面だからだ。
だからはじめましてだの、よろしくお願いしますだのという言葉は、相手に向けても何の違和感もない。
何一つ。
それはさておき、番傘の持ち手を軽く肩に掛けながら小首を傾げる。足と同じように手のひらもすりむいているからか、長く物を持っているときれいに巻いてある包帯の下が痛むのだ。
「私は人を探してここまで来たのですが、フェルナさんは雪像を見にいらっしゃったのですか？」
偶然出くわすにしても、純粋に芸術品を楽しむような心の余裕があるのだろうかと聞いていて自分でも疑問に思うようなことだった。何か目的があるなら自分は用が済んだので帰ろうかとも思ったが、先ほどの幽鬼のような状態の自分に話しかけてくれた親切な人と言う印象を持ったからか、だいぶ好意的な目でフェルナに訊ねている。
【フェルナ】
「ああ、宜しく。」
端的に返せば、きっと彼も少女の気持ちを汲み取ってくれるだろう。
そうだ…少女と彼は、初めてであり、初めてでない。それだけで、通じる。今、お互いを知るものは…お互いの知らない所を知ろうとしているんだろう。
「…そうだな。大体の理由はそんなものだ。
でも、今更過ぎる…勿論、裏があって此処に赴いたのさ。私のやりたい事を為すために、準備をするんだ。」
此方も出来ているだろうか、柔らかな笑みとやらは。今まで表情が正直だと言われ続けた私は今、此処に居ない。少女は、何にも興味を向けていないような…そんな瞳を雪像へ向けている。
【まにょ】
「準備、ですか……」
言葉の端々に、不穏な気配が拭えていないのはこんな状況だから致し方ないのだと思う。重要なのは、そんな事情を抱えて尚も彼女が柔らかに微笑んでくれていることだ。
例えその瞳が万事に好奇を失せていたとしても、拾うべく心を拾えると言うだけで十分、友好的でいることは出来る。
「……謀には、口を挟まずにおきましょう。…あぁ、では、せめてこれを」
苦笑いで受け答えた後、思いついた顔で袖の下を探る。そこから取り出したのは貼らないタイプのホッカイロだ。商店街で簡単に調達できることもあって、出かける際はよく多めに持ち歩くのだ。
「こんな天気ですから、お体を冷やしてしまわないように…お一つどうぞ」
さく、さくと雪を踏んで近寄ると、少し身を屈めてホッカイロを差し出した。
【フェルナ】
「大丈夫だ。少なくとも、敵として居ないのなら…ね。」
彼の不安は解る。少女だって、同じ事を言われたら疑うからだ。
でも、知っていた。彼なら…この言葉でも受け止めてくれるのだろうと。だって、視えるじゃないか。
少女よりも、哀しいかもしれない裏が。
「…はは、まさかこれを貰えるとは思ってもいなかったよ。」
受け取ったのは、冬のお供であるホッカイロ。現実で寒がりだった私も、これをよく使っている。けれど、ここで貰えるカイロは、これまた特別なものだ。
「初対面だから分からなかったのか知らないが…私はずっと頭に雪を乗せて歩いてたんだぞ？」
この身体だからなのか…異常にこの環境に強い。しかし、このカイロは有難く受け取っておく。このカイロは、きっと、少女にとって特別なものだろうから。
【まにょ】
「あ、本当ですね…雪が降っても傘を差さない方を結構見るのですが、冷やしすぎると頭皮に良くないので気をつけたほうがいいですよ」
はっとして気づいた様子で、さっさっとフェルナの頭の雪を払った。何故頭に乗せたままにしておくのだろうか。冷たいと思うのだが…しかし、肉体が変わったことで感覚も変わっているのかもしれない。そういう人物と一回あったことがある。そのときはだいぶ冷たくあしらわれてしまったが。
「私のように体が弱くなくても、冷やしすぎると具合を悪くしますから」
二人を覆う番傘の下、ほんの少しではあるが、暖かな気持ちをもてることを嬉しく思った。その嬉しさはほんのりと顔にも表れ、出会いがしらに比べてだいぶ表情は穏やかに戻りつつある。目の前の少女がこれから何の為に何をするのか、それはまにょのあずかり知らぬところであるが、それが彼女なりの信念の元に行われることであるなら、自分はただ、自分の知りえる領域で彼女の身を案じるのみである。
「それでは、長くお引止めするのもご迷惑でしょうから、私はお宿へ帰ります。…ではまた、今度は温かいお茶でもごいっしょしましょうね」
叶う約束か、叶わぬ約束か、定かではないから。しかし、先の話をするのは悪いだけでもないだろう。絶対などと言う言葉を使わない代わりに、他愛のない再会を願う約束を残してゆっくりとまにょは歩き始めた。
情報錯綜圏外 3rd-24th
五番目の道化師(3rd)-痴漢者トーマス(24th)
【痴漢者トーマス】
……んー、無いねー。
ここにあると思って来たんだけどねー。
(がさごそがさごそと。廃工場で何かを漁っているようだ。)
【五番目の道化師】
生き残る、と誓い…、キャンプを終えてから数時間後…私は怖くて訪れることを避けていた廃工場へとやってきた。
「あ…っ、こんにちわ」
人がいたので、まず挨拶。
あれ…この人会ったことあるような気がするけど、誰だっけ。色々ごたごたがあったから覚えてないや。←
【痴漢者トーマス】
おっ、こんにちは？
……ううん、その可愛らしい声はどこかで聞いたことのあるような…？
まぁ、今は良いかな。えっとね、探し物してるんだけどさ、ちょっと手伝ってくれるかな？
敵意あるようには見えないしねー。
【五番目の道化師】
「え、探し物…？何を探しているんですか？」
キョトンと、首をかしげ問いかける。
まず物を探すのなら、何を探してるかわからなければ一緒に探せないし。
てか、敵意って…いや、今さらか。
今の現状…誰に殺されてもおかしくない状況だもんね。
【痴漢者トーマス】
んー…。色々。
このデスゲームの情報でも良いし…。
後は、鍵ね。あるんじゃないかな、って思ってるんだけどね…。
【五番目の道化師】
「あー…なるほど」
鍵、鍵ねぇ。
そういえば今、いくつ見つかってるんだろう。
情報は───あるのか？こんなところに。
「ヒントくらいはあるといいねぇ」
とりあえず、ガサゴソしてみよう。紙切れ一枚くらいは見つかるかも。
【痴漢者トーマス】
うんうん…。
…あ、ところで君可愛いね。名前はなんて言うのかな？
(ちょっと移動してガッサゴソ)
【五番目の道化師】
「五番目の道化師ですけど…」
あれ、なんだか前回は理由があって名乗らなかったんじゃなかったっけ？私は何故か散らばっているガラス片を退けながら山積みになっている資材の山を探してみる。
「あなたは？」
【痴漢者トーマス】
道化師っぽい見た目じゃないんだねぇ。
あ、私は痴漢者トーマスねー。
(名前を聞いたか覚えてないマン)
…っと、意味ありげなメモを発見…。うーん………読む？
(メモ発見。しかし、訳わからん。)
【五番目の道化師】
「ち、痴漢者…？」
少し、引いた。だって、偽名のネーミングは始めの頃に自分で決められたじゃん。痴漢者ってなによ！
「あ、私はピエロしてましたよ？死ぬ前は」
今はメイクめんどいからやらない。
「えぇ…？」
チラっと覗き込むけど───うむ、意味わからん。←
【痴漢者トーマス】
んー？
あ、あの時のピエロちゃん？可愛かったなぁ、商店街のなかでの熱い一時…。
(ピエロメイクで思い出す。普通に考えて、26人中2人以上ピエロメイクするやつは居ないだろうから、推測は可能である。)
………。
まぁ、メモに関してはー、推測だけでも立てていこうねー。
まず、廃工場で何かすれば良いってことだよね。対人戦のこう、何か。
【五番目の道化師】
「お前とそんなひとときをした覚えはない」
きっぱりと言っておく。てか、むしろ怯えた記憶しかないのだがそれは。
「…とりあえず、写メるか」
後でメモの内容を信頼できるひとに拡散しよう。
【痴漢者トーマス】
そっかな？気絶させられた時とか割と熱かったと思うけどね。バトル的な意味でね？
(別にそれでも熱くはないのだが。)
変な人に送っちゃダメだしねー。私も送るべき人はそんなに居ないかなー。
さて、このメモ自体はどうするね？どっちかが持つか、かこに置くか…それとも燃やすね？
【五番目の道化師】
「いや、全然熱くないでしょ？むしろフラフラしてるから心配したって」
変態を心配する必要はない…けど、心配してしまうのはなんでだろうね。
「…メモは私が持ってていいかな？たぶん、私が生き返ったことを知ってる人少ないと思うんだ。とりあえず、今は信頼できる人だけに情報を伝えるよ」
そう言って私は画像を送信した。
【痴漢者トーマス】
私のことが心配だなんてー…もう、愛されるって辛いなぁー。…あ、さすがにこれ冗談だからね？
(基本的にわかってやってる。)
ん、了解了解ー。持ってっていいよー。
…ああ、そうだ。ピエロちゃんは交換できる情報ってある？あるなら私もねー、温泉で見っけた極秘っぽい情報？渡してもいいけどねー。
【五番目の道化師】
「えぇ、交換できる情報ですか…」
柏木さんが生きてることを伝えても仕方ないし、自分が持ってる情報…。
「…んー…私が会った人の中で何人か人を殺しそうな人と会ってるのでその面々を教えられなくはないですけど…」
教えて良いものなのか…？
勘違いだったのならまだいいけど…その人を殺しそうな人が本当に人を殺せる人だった場合……
【痴漢者トーマス】
そっちの方が重要まであるねー。
印象ってのは大事だしね。じゃ、まずはフレンド申請しよう！
そしたら、こっちからも情報送るから、その人達の名前よろしくー。
【五番目の道化師】
「了解、フレンド登録ね。」
私はフレンド申請を受け入れ、情報をメールで送った。
【痴漢者トーマス】
はーい、それじゃ私もねー。
……うん、OK、ありがとね。
本当はさ、もうちょっと君とも仲良くはしたいけどー。最近、死人の数も忙しないからねぇ、今日はじゃあねー、ってことにするよ。
(そう言うと、廃工場から立ち去った。)
【痴漢者トーマス】
……んー、無いねー。
ここにあると思って来たんだけどねー。
(がさごそがさごそと。廃工場で何かを漁っているようだ。)
【五番目の道化師】
生き残る、と誓い…、キャンプを終えてから数時間後…私は怖くて訪れることを避けていた廃工場へとやってきた。
「あ…っ、こんにちわ」
人がいたので、まず挨拶。
あれ…この人会ったことあるような気がするけど、誰だっけ。色々ごたごたがあったから覚えてないや。←
【痴漢者トーマス】
おっ、こんにちは？
……ううん、その可愛らしい声はどこかで聞いたことのあるような…？
まぁ、今は良いかな。えっとね、探し物してるんだけどさ、ちょっと手伝ってくれるかな？
敵意あるようには見えないしねー。
【五番目の道化師】
「え、探し物…？何を探しているんですか？」
キョトンと、首をかしげ問いかける。
まず物を探すのなら、何を探してるかわからなければ一緒に探せないし。
てか、敵意って…いや、今さらか。
今の現状…誰に殺されてもおかしくない状況だもんね。
【痴漢者トーマス】
んー…。色々。
このデスゲームの情報でも良いし…。
後は、鍵ね。あるんじゃないかな、って思ってるんだけどね…。
【五番目の道化師】
「あー…なるほど」
鍵、鍵ねぇ。
そういえば今、いくつ見つかってるんだろう。
情報は───あるのか？こんなところに。
「ヒントくらいはあるといいねぇ」
とりあえず、ガサゴソしてみよう。紙切れ一枚くらいは見つかるかも。
【痴漢者トーマス】
うんうん…。
…あ、ところで君可愛いね。名前はなんて言うのかな？
(ちょっと移動してガッサゴソ)
【五番目の道化師】
「五番目の道化師ですけど…」
あれ、なんだか前回は理由があって名乗らなかったんじゃなかったっけ？私は何故か散らばっているガラス片を退けながら山積みになっている資材の山を探してみる。
「あなたは？」
【痴漢者トーマス】
道化師っぽい見た目じゃないんだねぇ。
あ、私は痴漢者トーマスねー。
(名前を聞いたか覚えてないマン)
…っと、意味ありげなメモを発見…。うーん………読む？
(メモ発見。しかし、訳わからん。)
【五番目の道化師】
「ち、痴漢者…？」
少し、引いた。だって、偽名のネーミングは始めの頃に自分で決められたじゃん。痴漢者ってなによ！
「あ、私はピエロしてましたよ？死ぬ前は」
今はメイクめんどいからやらない。
「えぇ…？」
チラっと覗き込むけど───うむ、意味わからん。←
【痴漢者トーマス】
んー？
あ、あの時のピエロちゃん？可愛かったなぁ、商店街のなかでの熱い一時…。
(ピエロメイクで思い出す。普通に考えて、26人中2人以上ピエロメイクするやつは居ないだろうから、推測は可能である。)
………。
まぁ、メモに関してはー、推測だけでも立てていこうねー。
まず、廃工場で何かすれば良いってことだよね。対人戦のこう、何か。
【五番目の道化師】
「お前とそんなひとときをした覚えはない」
きっぱりと言っておく。てか、むしろ怯えた記憶しかないのだがそれは。
「…とりあえず、写メるか」
後でメモの内容を信頼できるひとに拡散しよう。
【痴漢者トーマス】
そっかな？気絶させられた時とか割と熱かったと思うけどね。バトル的な意味でね？
(別にそれでも熱くはないのだが。)
変な人に送っちゃダメだしねー。私も送るべき人はそんなに居ないかなー。
さて、このメモ自体はどうするね？どっちかが持つか、かこに置くか…それとも燃やすね？
【五番目の道化師】
「いや、全然熱くないでしょ？むしろフラフラしてるから心配したって」
変態を心配する必要はない…けど、心配してしまうのはなんでだろうね。
「…メモは私が持ってていいかな？たぶん、私が生き返ったことを知ってる人少ないと思うんだ。とりあえず、今は信頼できる人だけに情報を伝えるよ」
そう言って私は画像を送信した。
【痴漢者トーマス】
私のことが心配だなんてー…もう、愛されるって辛いなぁー。…あ、さすがにこれ冗談だからね？
(基本的にわかってやってる。)
ん、了解了解ー。持ってっていいよー。
…ああ、そうだ。ピエロちゃんは交換できる情報ってある？あるなら私もねー、温泉で見っけた極秘っぽい情報？渡してもいいけどねー。
【五番目の道化師】
「えぇ、交換できる情報ですか…」
柏木さんが生きてることを伝えても仕方ないし、自分が持ってる情報…。
「…んー…私が会った人の中で何人か人を殺しそうな人と会ってるのでその面々を教えられなくはないですけど…」
教えて良いものなのか…？
勘違いだったのならまだいいけど…その人を殺しそうな人が本当に人を殺せる人だった場合……
【痴漢者トーマス】
そっちの方が重要まであるねー。
印象ってのは大事だしね。じゃ、まずはフレンド申請しよう！
そしたら、こっちからも情報送るから、その人達の名前よろしくー。
【五番目の道化師】
「了解、フレンド登録ね。」
私はフレンド申請を受け入れ、情報をメールで送った。
【痴漢者トーマス】
はーい、それじゃ私もねー。
……うん、OK、ありがとね。
本当はさ、もうちょっと君とも仲良くはしたいけどー。最近、死人の数も忙しないからねぇ、今日はじゃあねー、ってことにするよ。
(そう言うと、廃工場から立ち去った。)
お決まりの切羽刹那 9th-11th
マリア(9th)-ヒガンバナ(11th)
【ヒガンバナ】
斬るべき敵は、何処に。
剣士は今日もさ迷い、殺し合いの戦場を渡り歩く。
……なんて、言った所で。
「……結局、ここに戻るしかないか。」
疲れてはいないが、探索を切り上げてホテルに帰ってきた。
腰には二本に増えた刀と、メスが有るし、リュックにも色々武器を詰め込んだ。
……と言っても、どれが敵か分からないから無闇に使えない。
【マリア】
『……さて。これであの子には、指一本触れさせやしないわ。
ふふ、悪役なら悪役らしく…誰かを助けたいなら、こう、すべきかしら――紫織。』
"貴方には、守りたい相手や、大事な人はいる？
もし、居るなら――――――
その人だけの正義の味方に、ほかの全ての人間に対する悪になる覚悟を決めておきなさい。"
なんてセリフが、自分に帰ってくるなんて、悪い冗談みたいだぜ。
この際告白しよう。
殺せない相手は、一人だけ居る。
昔の親友とどうしてもダブる彼女を殺せはしなかった。
だから、こうした。
アゾートもセレスティアも狂人も、その他諸々有象無象も。
私に目を向け。
彼女が無事であるよう願った。
少なくとも、ゲーム中は。
それで、私も勝ち抜けるなら、一石二鳥、ベストプランだ。
ただし、私の労力に目を瞑るものとしたりするんだが。
――――――なんて。
また嘘かもな―――――――――
♦️
閑話休題。
殺人を終えて。
私はホテルで食事をとっていた。
一階のレストランを占領し、あれやこれやと料理を並べる。
今食べているのはカレーグラタンであるが、他にも本当は、ハンバーグからフライドポテトやらあんこう鍋やらふぐちりやら油淋鶏やら、馬拉糕やらを食い荒らした。
『……久々ね。まだ刀を差してるわけ？忠告したのに。』
【ヒガンバナ】
「…………貴様か。」
彼女は、味方。
いや、やはり敵か。
……全く、紛らわしい。
「随分、暴れまわっている様だな、マリア。
どういうつもりだ？」
【マリア】
『惚れた女の為、とかにしといてくれたら嬉しいんだけど？』
微笑してそう応える。
冗談も甚だしい。
元々、冗談みたいな目的で、冗談みたいなプランを実行し、冗談みたいな攻略を目指している私からしたら、目的と建前、どちらが冗談か分からない。
全く、何をしているんだか。
これでは、リスクが高くなっていくだけではないか。
他人の為、なんてやめたのに。
いや、辞めたのだ。
辞めた、たしかに辞めた。
これは、誰かのためではなく。
私の思い出が少しだけ、恋しくなったりしたからだ。
それで良い。
私は私によって悪なのだ。
『まあ、座ったら？
一応食事中よ、私。なんであろうが、今は首を取らせないわ。
だって。食べ物吐き出して死んでたらみっともないでしょう？』
【ヒガンバナ】
「……では、目的はそうだとしておく。
だが、貴様は殺りすぎだ。」
私は、刀を一本抜き、切っ先を彼女へと向ける。
彼女を放っておけば───…………
「みっともなく死にたくない、か。
ならば、食うのを止めたらどうだ……例え、貴様が蠍座であろうと、私は斬るつもりだ。」
【マリア】
『女の子は一食抜いたら死ぬのよ。知らないの？』
半ば無視と言って良い。
刀を向けられて尚。
私は平然としていられた。
何故？
それは諸事情ありけり。
『……もう少し、落ち着きを持ったらどうなのかしら。
例えば、私を殺すに殺せない状況が転がり込むかもよ。』
まあ、ひとえに死人の数、というのも考えられる。
どうにかなる局面が、半ば意図的なものとはいえ、存在した。
ナプキンで口元を拭い。
『ほらね。』
私はゆっくりと立ち上がる。
【ヒガンバナ】
「殺すに、殺せない……だと？」
そんな状況、有るものなのか？
まるで、彼女の掌で踊らされているようで……非常に胸糞悪い。
「…………一瞬で首を切り落としてやる。
せめて、苦痛を感じぬ様にな。」
【マリア】
『だ〜か〜ら〜！！』
騙されたのは。
『追い込まれたのは。』
というか、勝負が決まったのは。
私ではない。
まあ、まさかだが。
私が、アゾートを二人以上、味方に入れていた場合。
これは―――――回天する。
『お〜ま〜え〜な〜の！！』
【ヒガンバナ】
「なに……？」
私が追い込まれた？
どういう事だ、私が負けると？
「……貴様、私も殺すつもりか……」
どう、来る。
名前か、それとも、罠があるか。
どちらにしても、先手必勝か。
「……はあっ！」
私は、彼女の胸の中心。
心臓を目掛け刀を突く。
【マリア】
『元も子もないんだけれど。
貴方より私が喧嘩強い可能性だって、無くもないのよ？』
やや側面に体を傾けて、前へ。
刀の切っ先を腕で受け止め、指が吹き飛び、二の腕に穴を開けながらも、刀を止める。
すぐに、切り返すのは不可能だ。
あちらから突きを打ってくる以上、間合いには潜り込めたとしても、まだ足りない。これでは、武器が存在しないではないか。
そして、口を開く。
そう、話し始めるという慣用句だけではなく、物理的に。
『武器は晒さないもの。忠告していなかったかしら。』
舌に並行して開けたピアス。
それを留め具に。
通しておいた裁縫針。
それを押し出し、針の先を外に向けてくわえれば、喉に頭突きよろしく突き刺そうと。
【ヒガンバナ】
「……ふっ！」
刀は相手の体に突き刺さった。
だが、急所は上手く外されてしまった。
直ぐに引き抜けないと見ると、私は刀を手放して直ぐに距離を取った。
成る程、あんな仕込みを用意していたか。
「成る程、強いのなら結構。
それで死ぬなら、なっ！」
まだ、刀は一本ある。
頭突きを避けた後に、また地面を踏み締めて距離を詰めると、右下から逆袈裟斬り。
【マリア】
『―――さて。アゾートが勝つには残り何人必要でしょうか！？』
突き刺さった刀を引き抜く。
出血多量。
失血多量
身体中がエラーコードを出すが、一向に省みない。
あと何人。そう遠くはない。
ならば。
刺し違えるが上策。
『これで終わりだ■■■■ァ！』
敢えて回避せず。
胴体から斜め上に鮮血が迸るのを眺めながら、相打ち狙いで、逆袈裟の都合上空く脇腹にめがけ、すれ違いざま、刀を横薙ぎに振り抜く。死を以て死を制す。
殺しの花がここにあり。
【ヒガンバナ】
「───いや、終わりは、貴様だ。」
想像するのは、我が全て。
創造するのは、我が剣。
片手を離し、迫る刀を見据える。
刀同士がぶつかる。
やっと握れた、『真の我が刃』
それが、相手の剣を受け止めた。
「眠れ。」
両手持ちは慣れている、そのまま相手を逆袈裟で切り上げた。
【マリア】
『言わなかったかしら。』
神算鬼謀。
その言葉はこの時の為にあった。
片腕は使えないが。
代わりに、自由。
盾にするには、無論、最も向いているのは確かで。
いや、本当に。
使えないか―――？
刀を持つ手を曲げ、刃に合わせて骨を打ち付け、腕を完全に捨てる。みしり、と肘が砕け。
『なんで追い込んだって話か。』
―――――――3
刀を阻止。
―――――――2
指の幾つか吹き飛んだ手で、ハサミを、取り出す。
―――――――1
踏み込み、体重をかけ。
『それはね。』
―――――――0
ハサミを喉元に目掛け突き出す。
『貴方が私より強いから。
私の"嘘"を信じてくれると思ったのよ。刺し違えに来た、っていうねぇ！！！！』
【ヒガンバナ】
「……嘘、か。」
迫る鋏。
これは、避けられるか？
いや、この体勢では─────
「────■■■■■■！！」
次の瞬間、私は真剣を持ち、彼女の"背後"に移動していた。
そして、確実にがら空きになっている背後から、その首を切り落とすために刀を薙ぐ。
名前を叫びながら。
【マリア】
『――――なるほど。
貴方が、アゾートだったとは。』
思い切り飛び込んだ先に何もなくなれば、転がり込むのが、必定と言える。本来死を招くはずの不測が、まさか私の命を救う事になるとは思わなかった。
髪の毛を散らしながら、頭から転倒する。痛いなあ、くそう。
とはいえ。
脇腹から肩先まで深い切り傷。
二の腕には穴。
骨折も多数。
尋常じゃないダメージだ。
よろめきながら立ち上がり。
『くく、ふふふ………』
失笑し、苦笑する。
馬鹿な話だ、この分でいくならば、友邦だろう私は。
『私を殺すのは辞めときなさい。ここで蠍を私が撃てば、半ば貴方を殺す事になる。
まあ、命乞いね。
これじゃあ、心配なんてしなくても、人殺しなんてもう、出来やしないわよ。』
確かに、殺害は無理だ。
これ程追い込まれたのだから。
殺し合いをさせたくないなら、殺しをさせたくないなら。
目論見は概ね、達成と思われる。
要するに、そういう事だ。
全く、丁重に扱え人を。
『私は貴方の脳。
……言ったでしょ？貴方の味方を、私は辞めてないわ。
こうやって私を戦闘不能にボコボコにしたのを、共有チャットにでも上げなさい。早く。
もう、勘づいてる奴がいる。
アゾートを、探し当てた奴が。』
親アゾートとして振舞ったやつが、アゾートに殺される…というか、半ば再起不能まで痛めつけられる、という展開。
さすれば、ヒガンバナをアゾートに思う理由はない。
そして、物理的に私は殺人を行うことは出来ない。
神算鬼謀とは、こちらを言う。
"追い込んだ"なんて言葉も嘘なら、"刺し違える"なんて言葉も、嘘だったっていうだけだぜ。
食堂の壁にもたれて座り込みながら、私は軽薄に笑う。
『しっかし、痛いわね………
柏木はともかく、3rdどうこうの罪なんて、背負わなくて良かったわ、本当に。』
【ヒガンバナ】
「…………ふん。」
全く、これだからこの手の輩は嫌いなのだ。
止めを刺した所で、只々こちらが不利になるだけ。
全くもって、不愉快だ。
折角"愉快な"斬り合いをしていたのに。
「貴様は、暴れすぎだ。
お陰でこちらの考えていたことが色々と無駄になった。」
取り敢えず、こいつはどうしてやろうか。
殺しても不利、殺さなければ利用出来るかもしれないが、裏切る可能性も大。
何なのだ、この爆弾は。私は爆弾処理班じゃあないんだぞ。
「不愉快だ、実に鬱陶しい。
貴様の目的は何なのだ？Azothに近付いたりなぞして……裏切り者に信用など無いぞ。」
折角蟹座対策で取っておいたゾディアックも使ってしまった。
ギリギリまでは、皆の為に動く善人でいるつもりだったのに。
【マリア】
『まあ、ゆっくり話すから少し待っていなさいな。』
そこから先、何をしたかについては、諸君ら、絶句して良い。
骨を正しく戻し、あの魔法少女コスチュームを引き裂いて吊り。
御体裁を整える為か、一応稼働していた厨房から、灼熱した調理器具をひったくり。
傷口を灼いて塞いだ。
と、字面だけ見るなら、私はさも大したことないように聞こえるし、そう聞こえるだけの努力はしたのであるが。
お世辞にもそんな事は言えやしなかった。
肉の切れたのに、焼けたフライパンを一息に押し当てる。
赤が茶色に変わる。
神経を引きずり出して炙るような凄絶極まりない激痛に、脂汗を垂らし、何度も気を失いそうになりながら、崩れた笑いを貼り付け、それでも、声は出さない。
私は嘘つきだ。
だから。
痛いのも苦しいのも嘘でなければならない。
嘘に、しなければならない。
無論。血だらけの服を脱いだら、台無しなので、自分の血のついたスーツを再び身につけ。
『目的………？なら、簡単よ。
私が生き延びたいから。』
応急処置を終わらせた後、席につき、二、三指の吹き飛んだ手を我ながら器用に使いながら、まだ残っていたステーキを口に運ぶ。
豪傑、花山薫も、これ程の真似をする事はなかろう。
自分で付けたような傷を自分で焼いて、飯を食ったならそれはバケモノがやることだ。
自分でしておきながら、実にバカバカしい。
もしかしたら私はゾンビかもな。
『その為なら、唯々諾々と私は貴方達に従うし、犬のように三回回ってワンというわ。
その理由を、というなら―――
大事な人に会いに行きたいから、でどうかしら。
嘘じゃなかったりするわよ。』
【ヒガンバナ】
「何ともまあ、荒療治だな。」
応急措置としては正しいが、骨を直すのも、傷を焼くのも、どちらも死ぬほど痛いのだ。
気絶したっておかしくはないのに、良くもまあ笑いながらやれるもんだ。
私より、狂ってるな。
「……前回も、参加したと言っていたな。
そして、Azothに加担して願うとなると……まさか、『桂木 巳之』か？」
聞いた気がする、Azothの方で一人、夢を見させている者がいると。
……名前を覚えていたのは、そこまで記憶力の良くはない私にとっては奇跡か。
「…………そもそも、だ……元々バレないようには動いていたが、貴様にもバレていなかったのか……？」
【マリア】
『まあ、その通りよ。
少しばかり、あの兎には借りがあったりしてね…用があるの。
その用さえ済めばまあ良いわ。
貴方が洗脳でもして、性奴隷にでもなんにでも使えば良い。アカエルにも、私が生き延びたらアゾートになって粉骨砕身。性処理に至るまで働く旨は既に説明してあるしね。』
なんて、適当なことを言うのに関して、私の右に出るものは多分そうそう居ない。
『まあ、実は貴方がアゾートっていうタレコミはあったのよ。そもそも。誰が送ってきたかは知らないけれど、不届き者ね。
脳が体を売り渡してどうするっていうんだか。理解に苦しむわ。』
なんて、嘘八百を並べる。
前々からあった、というのは、無論のこと嘘である。
来たのは、ついさっきだ。
柏木を消した直後、というタイムテーブルを抑えると良い。
因みにこの場合。
私が明らかな計画犯に見えるのだが、私のような浅学な人間にそんなものは無理である。
破滅的な私の趣味で、なんとかなっていたりしたと言える。
『……で。最期に、もとい、最後に。貴方達は、結局どうする気なのかしら。生徒を全員消す気？
それまた物好きな話だけれど。』
死にに行けば死から遠ざかる。
私の持論である。
ついでに、私は問いたいことがあったので、聞いてみた。
無論、どうでもいい事なのだが。
【ヒガンバナ】
「……余り下品な話をすると、今度は貴様の顎を砕くが？」
例えが悪いのだ、例えが。
何でもするつもり、と言うのは伝わるが。
……そもそも、アカエルは性処理必要なのだろうか？
ああ、私は要らんぞ……本当に、要らんぞ……
「……まあ、身内切りも覚悟の上だ。
誰にばらされようと構わぬ。」
まあ、恐らく……情報があるのであれば、出回ってしまっている可能性は高い。
もう、隠す必要性もないか。
「……どうする、か……
私は……数人、興味があるが……それ以外は、他の奴等に任せるつもりだ。
殺すか、洗脳するかは、知らぬ。」
【マリア】
『……ならまあ、気が向いたら助けてよ。
どの道私は過去の亡霊。
明日なんて嘘でしかないわ。』
と、私は破滅的に笑い。
『ただ、過去にケリを付けるの。"クラスメイト"のために、彼らの悪夢を終わらせる。』
珍しく、真実を口にした。
『――――その為なら。
悪は皆、背負う覚悟は出来てる
貴方はどう？
生きて色々やりたかった人間を、生きては返せるとして。
大事な人を、生かせるとして。
それを見殺しに……いや、殺す覚悟はある？』
楔として。
鎖として。
呪いの言葉をかけ。
『―――なんて。
こんなセリフ、悪い夢でも見てるみたいだけどね。』
嘘かもな。
とは、言わなかった。
【ヒガンバナ】
「……好きにすると良い、貴様がやりたい事など、私は知ったことではない。」
こちらに利害があるならまだしも、過去にけりを付けるだとか、夢を見ている彼女を覚ますとか、全く関係ない。
それなら、彼女の好きにすればいい。
「……愚問だな。
大切な人など、そんなもの、作らなければ良いだけの事。
作ってしまえば、弱くなる。私にそれを決断できる覚悟が怪しいのなら、尚更だ。
まあ、もし出来てしまったのなら……
私は……無理だろうな…………」
……全く、Azoth失格かもな。
【マリア】
Yesか。ああ、そうか。
だが、Noになり得るYesか。
なら、私が死んだ後、彼女は何かしら改心したりするのかもしれない。誰かしら白馬の王子様が彼女を連れ去ってくれるのかもしれなければ、最近の潮流に則り、鬱病じみた死に方をするのかもしれない。なら、良いんじゃないか。
結局、私は死に場所を探しに来ていたのだ。前回のゲームの罪を背負って、死ぬ気でいた。
なら、この後など知るか。
まにょとかいう少女が死ぬかもしれないというのは気掛かりだが、それでもまあ、良いか。
なんて。
一人の女子高生すら騙しきれなかった私はもう、自分を騙すことなんてできなかった。
『は。寂しいわね。
確か、最初は誰かを守るみたいなこと抜かしてなかったかしら。
私が嘘つきなら、貴方は大嘘つきだぜ。弱くなるから、なんて理由で、割と人間は頑張れない。わかりやすく経験が足りないわ。
彼氏とかいなかったでしょ。』
心象は悪くなるばかりなのに。
今すぐ殺されてもおかしくないのに、全く、何を言っているんだか。いよいよ私がまともな事を言い出したぜ。もう死ぬかもな。
『私が前回そうやって棄てた人間にはねぇ―――――………
底抜けに優しくて、私みたいな奴に、心底優しくしてくれて、最後まで騙されてた奴とか。
ガチガチに防具も武器も揃えてめちゃくちゃ怖いくせに、クラスメイトを殺したくなくて泣いたアゾートとか。
居たんだ。居たんだぜ。
でもそいつらは―――――――
そんな道具みたいに思っていた私にも、大事な人に。思い出に、勝手になってたりしたのよ。』
と、切り捨てた奴は歌う。
『大切な人とか、作らないなんて簡単に言ってくれたけど……
貴方には、居なかったの。
可愛い、とか、いい奴だな、とか、明るい、とか、優しい、とか、繊細、とか、賢い、とか。
なんでもいいわ。
プラスな感情を抱く人間は居なかったのかしら。
人間皆。
へのへのもへじか？
特徴の無い量産型か？
少しくらい、無いのかしら。』
言葉に熱が帯びるのを感じながら、私は続ける。返答を無視し。
相手が殺す前に、突き刺す為に。
『そういう、貴方いわく、自分が弱くなるような感情とか、感想っていうのは………
自分にしか大事に出来ないし、自分しか大事にしてくれないわ。
だから――――！
アゾートだろうがなんだろうが、使命がどうこうとかあろうが。
大事にしなきゃいけないのよ。』
『繰り返すけど……
貴方、誰か助けたい人が居たわよね。仲良い人かは知らないけど。それはどうなる……？
アゾートである事と秤にかけて完全に上になる？
今はなるんじゃない。
今はなるわよ、貴方なら。
けれど―――――……
失った後もそうとは限らないんだぜ。』
【ヒガンバナ】
「……そうだな、彼氏などと言う者も居なかった。
上部は兎も角、友と呼べる者すら、な。
何しろ……全て、私にはへのへのもへじではなく……
『斬りたい獲物』だったからな。」
ずっと、抑え込んできたさ。
こんな衝動、こんな欲求。やったら罪人、即死刑だ。
けど、ここでは──下手に殺せば狙われるが──殺してもなんら罪にはならない。
だからAzothになって参加したのだ。
「助けたい人？
居たか、そんなやつ？」
そうそう、人質として送られてきた画像。
あれは驚いた、私の家の秘蔵の名刀だったのだから。
あれが壊されたら私は本気で泣く……まあ、それだけだが。
「……ずっと、嘘だよ。
このゲーム、信用も必要だからな。
……この刀は、人を斬るための物だ。
失うのはたかが命で、得るものは、斬る快感だよ。」
落ち込んでいた？
あれは嘘さ。
花が散ってた？
表向きはな。
現に、隠す気もなくなれば、ほら。
赤い華だって、満開に近い。
【マリア】
『なら尚更、馬鹿なヤツ。』
この程度、狂っている内に入るか。アゾートも地に落ちたな。
と、私は内心嘲る。
悪いが、観測可能な敵だ。
狂っているのが、先天性か後天性なのかにもよるが。
なんて、強がりを言ってみる。
実際めちゃくちゃ逃げたいが。
どうやら私の本心とやらは、こういう奴に対し強気だ。
時には良いことをするのがプロ。
だったか、確か。
『人を斬るだかなんだか知らないけど、それをまるで趣味のように語っているけれど。何やら深刻な問題のように語るけど。
下らないわね。』
さて、いよいよ死にたいのか？
死にたいのかもな。
けれど、言葉を止めなかった。
私は弱いが。
非力だが。
やらないといけないのだ。
『しょうもないわ。』
繰り返し、否定する。
『たかだか命だとかなんとか。
黙っていりゃあ好き放題言ってくれるわね。』
まあ、黙っていた気は無いが。
好き放題言ってくれると思った。
『私の一番身近な人間は、母は、私より、金が好きらしい。
命よりも大事と言っていたわ。』
半ば、意地である。
最期の懐剣である。
他殺用ではなく。
自殺用の。
これを語り出したからには、私は負けたと言っても良いだろう。
良いだろうが。
『文面的には貴方に似ているけれど、何故かは分かる？
何より大事なんだって、金。
貴方が、何よりも人を斬るのが大事、みたいなニュアンスよ。
決定的に、意味は違うけど。』
【ヒガンバナ】
「……しょうもないか。
まあ、そうだろうな。」
まあ、何だっていいさ。
今更だ。
人斬りを否定されようが、人殺しと言われようが。
だが、流石に鬱陶しくなってきた。
「…………で、そんなもの取り出してどうした。
介錯位なら、してやるぞ。」
【マリア】
『……まあ話くらい聞いたら？
どの道、私も貴方も死ぬし。
死ぬ、だろうし。』
一応仮定形だが、意味は無い。
さあな。
もしかしたら、名前当てすら布石だったりしてな。
なんて、ありもしない冗談を私は語りながら、１つ、勘づいた。
これは、まさかだが。
―――――面白いじゃないか。
もしかしたら、発言は本当になったりも、するのかもな。
『そうだと思ってるなら、尚更気に食わねぇんだよ。』
感情を顕にしたのに割れながら絶句しつつも、私は先程までの話題の流れを一旦切る。
切らざるを得なかった。
こんな奴に、私は負けないと思えたりもしてきたから。
自殺用の文句は収める。
『別に、しょうもないから辞めろなんて言ってはない。言わない。人なんて切りたければ切れば良いさ、一億いるんだから。
けど。
少なからず、努力したものを、すぐにしょうもないっていうのはどうかと思うわ。』
酷い言い草だ。
『確かに、欲望は誰にでもある。
私にだってある。
その捌け口がここで見つかったなら、それもまた良い。
けど。
それだけなのかしら。
それしか、無いのかしら。
獲物であっても良いけど、他には何かないの？
何も見る気は無いの？
外を見てみなさい、雪合戦とか楽しそうじゃない。貴方本気でやるんだもん。びっくりしたわ。
厨房を見なさい、ご飯、美味しそうだったりするわよ。
食事くらい一緒に取りましょうよ、人殺し同士。
まあ、何？
しょうもないと認めるなら――』
だが。
大人だから私は狡いのだ。
『他の、しょうもないと思っていたことでも見てみれば良いじゃない。しょうもない事を、どんどんやるのが青春で………
貴方には、できそうなことだって、幾つもある。
何も、人切りの欲望がどうこうじゃない。何かしら合法的に消費できないかを考えろとか、今一心不乱に思っているのだけが、全てじゃ無かったりするんじゃないかとか。そんなことを、青春をなくした私は言いたい。』
自殺用のセリフの代わりに。
『剣道……』
代わりに。
最後の命運を懸ける。
『貴方めちゃくちゃ上手いじゃない。やった事ないけど、才能っていうのがあるんじゃない？
しょうもない人切りなんてのも果たせなくはないし、また始めたら、貴方、割と上手くいくんじゃあないのかしら。
嫌い？剣は。
抑えてきたんなら――――
本当はやりたいんじゃないの？』
【ヒガンバナ】
「…………っ！！」
ああ、やはり。
なんと言うか、やはり。
こう言う手の、無駄に頭が良く、口だけが達者な奴が、私は嫌いだ。
私は、言葉に表す事が苦手な方だ。
故に、この感情の表現も上手く出来ないが。
きっと、近いのは。
「……知った様な口を利くな！
私の本心など、貴様に分かるわけがないだろう！
ああ、そうさ……『今だって、偽っているのだからな！』」
私は狂ってる。
人殺し願望など、狂ってる。そうだろう？
貴様にとっては、些細な事かもしれないが。
そんな狂った私が、敵である私が、
──────
「…………もういい、
……──は生きる。
貴様はここで野垂れ死ね。
そうすれば、──の勝ちが近付く。」
自作の刀擬きを拾い上げて、彼女を残して立ち去ろうとする。
【マリア】
『なら―――――………！』
引き止めた。
切られても良い。
そう腹を括って。
私は、立ち去ろうとするその手を掴んだ。指の吹き飛んだ手で。
ズタズタの、腕で。
だが、それでも。
固く、力を込めて。
『どうしてまだ嘘をつくの。
貴方が話さないなら、誰にだって、貴方は分からないわ。』
私は、対話する。
まっすぐ目を見て。
少し、皮肉に笑い。
それから柄にもなく、真面目な顔なんてしてみたりする。
『さっき、金の話を、したわよね。あれ、応えるわよ。
金は替えがきく。唯一じゃない。使い切ってそれきり消えてしまうわけじゃないけれど、他人の、自分の、少なくとも、唯一のもののために使える。だから、価値があるんだそうよ。』
全く、私に伝家の宝刀を抜かせるとは、世話の焼ける女だ。
『逆に言ったら―――………
替えがきかない荷物なんて、人の価値にはならないわ。
貴方は、アゾートで。狂気なんて言う欠点がある。
けれど、"それだけ"じゃない。花。センスあるじゃない。なんだかんだ、約束は守るじゃない。それでいて、自分の悪い所をなんだかんだ知っている。
ただ二つだけの欠点で、貴方は否定されるの？なら、ちゃんちゃらおかしい話じゃない。』
だが、言おう。
暑苦しく、鬱陶しい文言を。
『偽らなくて良いわ。
本音を言って良い。
いや、言いなさい。
本音も言わない嘘しか言わない。
それは、私みたいな奴の食い扶持で、仕事よ。
貴方みたいな"普通"の娘が、使いこなせるなんて思わない事ね。』
全く不器用だが。
私の本心を、そのまま。
『だって、貴方―――――……
雪合戦した時、楽しそうにしてた。本当は、割と――――
ただの女の子に、なりたかったり、したんじゃない？
剣道だって、貴方の大事なものなんじゃない？
そんなの無理とか言う気なら、言ってあげるわ。』
よく分からないままに話を進める
『誰も彼も、いびつな中、なんとか普通を保ってる。
貴方だけ、特別じゃない。
特別じゃ無いって言うのは――
なろうとしなきゃなれないし。
誰にだって、なれるんだぜ。
人間。
見るものが広がればそれだけ。
良い所に替えがきくんだから。』
【ヒガンバナ】
「貴様ッ……！！」
相手の口車に乗るな。
無駄話に耳を傾けるな。
こんなもの、私を惑わせる戯れ言。
だのに、なのに…………
「……普通……そんな訳あるか！？
ああ、貴様からすれば普通だろうよ。
だけど、人を斬り殺したいなんて思う奴の、何処が普通なのよ！！」
やめろ、私。
それ以上言うな。
こんな減らず口を叩く奴の口を斬ってしまえ。
「私は狂ってる！
ああ、狂ってる筈なのよ！
だから、みんなと仲良くなんて出来ない！」
(だって、仲良くしたら───殺せないじゃない。)
「剣道だって……真剣にやればやるほど……相手を本当の刀で斬りたくなる！
頑張れば頑張るほど！」
(そしたら、私は───友人達を斬ってしまう。)
「だから、こうしてAzothになって！
斬る相手を探してた！
だから良かったよ、あんな狂った奴がいて！
貴様みたいな奴がいて！！
何の心配せず斬れるんだから！！」
下手に殺せば疑われる。
人殺し、人斬り、言われ放題。
けど、相手がAzothと疑われるただの狂人なら？
みんなも、『私も』、何も気にせず斬れる。
「…………やめてよ……やめてよ……
私は、人斬りなんだから。
…………それが、私でしかないんだから。」
【マリア】
『……世話が焼けるわね。』
苦笑。
どうやら私は、鉱脈を当てたらしい。全く、ペテン師としては、失格であるが。
『人斬り？だからどうしたのよ。
人斬りだろうがなんだろうが。
狂っていようが、狂っていまいが、私に言わせれば―――――』
人間としては、悪くは思わなかったりもした。
『誰かの為に、悩んでるんでしょう。貴方は。
いびつなのを治したくてもがいている奴の方が、私には、最初からなんとかなったのより幾分もマシに見えるけど。』
寧ろ、胸がすく思いだ。
『なら少し位、自信を持ったら良いわ。こうして出た言葉。
それは――――――………
貴方の心なんだから。
もう少し、大事になさい。』
偶には、良いこともするもんだなと、私は考える。
『漠然とした話。
貴方には、未来、とかいう、何もかも出来る世界があったりするんだから。17…まだ、第一ラウンドも終わってない内から、そんな真似しなくても良いんじゃない？』
適当な。
『――――まあ、何が言いたいかっていうんなら……
ほら、こんな長ったらしい話の間、貴方は人を斬らずに済んだりしてるんだぜ。
もっと誇ったら良いわ。』
それでいて、真っ更な。
『それでもまだ言うなら。
私が、貴方の相手になってやるわよ。戻ってからも、ね。
私、簡単には切られないし。』
言葉を託し、私は笑った。
苦笑したように。
穏やかに。
貼り付けた訳ではない笑顔を。
【ヒガンバナ】
「……適当な事を、言ってくれるな。」
……殆ど、彼女に吐き出してしまった。
これだから、嫌いだ。
こいつは、絶対斬る。
「…………こんな話をしたところで、私は、きっと変わらないぞ。
実際、人を斬るのは楽しかったのだから。」
事実。
1st斬るのは楽しかった、快感だった。
「…………貴様は休んでいろ。私の相手をして貰わんとな。
多少、今後はそれで紛れるだろう。」
【マリア】
『変われなんて言ってないわ。』
そろそろ気付け、こいつめ。
と、私はヒガンバナの額を軽く小突く。
まだ言うか。
ほう、交渉の余地はない。
『―――私が背負ってやるって言ってるのよ。』
こうしない場合を除いてな。
『で。確か……利害関係、一致するんじゃない？』
ま、厄介なものを買わせるのが、詐欺師ってやつだし。
知らん。後は。
『遊び相手一個、無料でお買い求めですが―――買う？』
騙された、と思えば良い。
騙したのだから。
いや、騙してないな。
私とヒガンバナは確かに、どちらも死ぬ。
今、とは言ってないだけだ。
【ヒガンバナ】
「…………買おう。
対価は、何が良い……」
買わない、訳がなかった。
全く、押し売りされた気分だが。
まあ、悪い気は……余り……多少しない。
【マリア】
『私の生還した後、ご飯でも連れてってくれたら手を打ちましょ。
騙されたと思って、ね。』
絶句するほど、ペテン師としては当たり障りないセリフを吐き。
『―――なんて。』
お決まりのフレーズを。
『嘘かも知れないけど。』
これまたわざとらしく私は言った
【ヒガンバナ】
「……はっ、安いな、貴様。」
食事か、幸い貯金は何だかんだあるな。
……いや待てよ。
「高級料亭とか、法外な店は無しだぞ。」
なんて、
少しだけ、笑ってみせる。
「……ああ、さて……人を斬る気も失せてきた。
どうするか。」
【ヒガンバナ】
斬るべき敵は、何処に。
剣士は今日もさ迷い、殺し合いの戦場を渡り歩く。
……なんて、言った所で。
「……結局、ここに戻るしかないか。」
疲れてはいないが、探索を切り上げてホテルに帰ってきた。
腰には二本に増えた刀と、メスが有るし、リュックにも色々武器を詰め込んだ。
……と言っても、どれが敵か分からないから無闇に使えない。
【マリア】
『……さて。これであの子には、指一本触れさせやしないわ。
ふふ、悪役なら悪役らしく…誰かを助けたいなら、こう、すべきかしら――紫織。』
"貴方には、守りたい相手や、大事な人はいる？
もし、居るなら――――――
その人だけの正義の味方に、ほかの全ての人間に対する悪になる覚悟を決めておきなさい。"
なんてセリフが、自分に帰ってくるなんて、悪い冗談みたいだぜ。
この際告白しよう。
殺せない相手は、一人だけ居る。
昔の親友とどうしてもダブる彼女を殺せはしなかった。
だから、こうした。
アゾートもセレスティアも狂人も、その他諸々有象無象も。
私に目を向け。
彼女が無事であるよう願った。
少なくとも、ゲーム中は。
それで、私も勝ち抜けるなら、一石二鳥、ベストプランだ。
ただし、私の労力に目を瞑るものとしたりするんだが。
――――――なんて。
また嘘かもな―――――――――
♦️
閑話休題。
殺人を終えて。
私はホテルで食事をとっていた。
一階のレストランを占領し、あれやこれやと料理を並べる。
今食べているのはカレーグラタンであるが、他にも本当は、ハンバーグからフライドポテトやらあんこう鍋やらふぐちりやら油淋鶏やら、馬拉糕やらを食い荒らした。
『……久々ね。まだ刀を差してるわけ？忠告したのに。』
【ヒガンバナ】
「…………貴様か。」
彼女は、味方。
いや、やはり敵か。
……全く、紛らわしい。
「随分、暴れまわっている様だな、マリア。
どういうつもりだ？」
【マリア】
『惚れた女の為、とかにしといてくれたら嬉しいんだけど？』
微笑してそう応える。
冗談も甚だしい。
元々、冗談みたいな目的で、冗談みたいなプランを実行し、冗談みたいな攻略を目指している私からしたら、目的と建前、どちらが冗談か分からない。
全く、何をしているんだか。
これでは、リスクが高くなっていくだけではないか。
他人の為、なんてやめたのに。
いや、辞めたのだ。
辞めた、たしかに辞めた。
これは、誰かのためではなく。
私の思い出が少しだけ、恋しくなったりしたからだ。
それで良い。
私は私によって悪なのだ。
『まあ、座ったら？
一応食事中よ、私。なんであろうが、今は首を取らせないわ。
だって。食べ物吐き出して死んでたらみっともないでしょう？』
【ヒガンバナ】
「……では、目的はそうだとしておく。
だが、貴様は殺りすぎだ。」
私は、刀を一本抜き、切っ先を彼女へと向ける。
彼女を放っておけば───…………
「みっともなく死にたくない、か。
ならば、食うのを止めたらどうだ……例え、貴様が蠍座であろうと、私は斬るつもりだ。」
【マリア】
『女の子は一食抜いたら死ぬのよ。知らないの？』
半ば無視と言って良い。
刀を向けられて尚。
私は平然としていられた。
何故？
それは諸事情ありけり。
『……もう少し、落ち着きを持ったらどうなのかしら。
例えば、私を殺すに殺せない状況が転がり込むかもよ。』
まあ、ひとえに死人の数、というのも考えられる。
どうにかなる局面が、半ば意図的なものとはいえ、存在した。
ナプキンで口元を拭い。
『ほらね。』
私はゆっくりと立ち上がる。
【ヒガンバナ】
「殺すに、殺せない……だと？」
そんな状況、有るものなのか？
まるで、彼女の掌で踊らされているようで……非常に胸糞悪い。
「…………一瞬で首を切り落としてやる。
せめて、苦痛を感じぬ様にな。」
【マリア】
『だ〜か〜ら〜！！』
騙されたのは。
『追い込まれたのは。』
というか、勝負が決まったのは。
私ではない。
まあ、まさかだが。
私が、アゾートを二人以上、味方に入れていた場合。
これは―――――回天する。
『お〜ま〜え〜な〜の！！』
【ヒガンバナ】
「なに……？」
私が追い込まれた？
どういう事だ、私が負けると？
「……貴様、私も殺すつもりか……」
どう、来る。
名前か、それとも、罠があるか。
どちらにしても、先手必勝か。
「……はあっ！」
私は、彼女の胸の中心。
心臓を目掛け刀を突く。
【マリア】
『元も子もないんだけれど。
貴方より私が喧嘩強い可能性だって、無くもないのよ？』
やや側面に体を傾けて、前へ。
刀の切っ先を腕で受け止め、指が吹き飛び、二の腕に穴を開けながらも、刀を止める。
すぐに、切り返すのは不可能だ。
あちらから突きを打ってくる以上、間合いには潜り込めたとしても、まだ足りない。これでは、武器が存在しないではないか。
そして、口を開く。
そう、話し始めるという慣用句だけではなく、物理的に。
『武器は晒さないもの。忠告していなかったかしら。』
舌に並行して開けたピアス。
それを留め具に。
通しておいた裁縫針。
それを押し出し、針の先を外に向けてくわえれば、喉に頭突きよろしく突き刺そうと。
【ヒガンバナ】
「……ふっ！」
刀は相手の体に突き刺さった。
だが、急所は上手く外されてしまった。
直ぐに引き抜けないと見ると、私は刀を手放して直ぐに距離を取った。
成る程、あんな仕込みを用意していたか。
「成る程、強いのなら結構。
それで死ぬなら、なっ！」
まだ、刀は一本ある。
頭突きを避けた後に、また地面を踏み締めて距離を詰めると、右下から逆袈裟斬り。
【マリア】
『―――さて。アゾートが勝つには残り何人必要でしょうか！？』
突き刺さった刀を引き抜く。
出血多量。
失血多量
身体中がエラーコードを出すが、一向に省みない。
あと何人。そう遠くはない。
ならば。
刺し違えるが上策。
『これで終わりだ■■■■ァ！』
敢えて回避せず。
胴体から斜め上に鮮血が迸るのを眺めながら、相打ち狙いで、逆袈裟の都合上空く脇腹にめがけ、すれ違いざま、刀を横薙ぎに振り抜く。死を以て死を制す。
殺しの花がここにあり。
【ヒガンバナ】
「───いや、終わりは、貴様だ。」
想像するのは、我が全て。
創造するのは、我が剣。
片手を離し、迫る刀を見据える。
刀同士がぶつかる。
やっと握れた、『真の我が刃』
それが、相手の剣を受け止めた。
「眠れ。」
両手持ちは慣れている、そのまま相手を逆袈裟で切り上げた。
【マリア】
『言わなかったかしら。』
神算鬼謀。
その言葉はこの時の為にあった。
片腕は使えないが。
代わりに、自由。
盾にするには、無論、最も向いているのは確かで。
いや、本当に。
使えないか―――？
刀を持つ手を曲げ、刃に合わせて骨を打ち付け、腕を完全に捨てる。みしり、と肘が砕け。
『なんで追い込んだって話か。』
―――――――3
刀を阻止。
―――――――2
指の幾つか吹き飛んだ手で、ハサミを、取り出す。
―――――――1
踏み込み、体重をかけ。
『それはね。』
―――――――0
ハサミを喉元に目掛け突き出す。
『貴方が私より強いから。
私の"嘘"を信じてくれると思ったのよ。刺し違えに来た、っていうねぇ！！！！』
【ヒガンバナ】
「……嘘、か。」
迫る鋏。
これは、避けられるか？
いや、この体勢では─────
「────■■■■■■！！」
次の瞬間、私は真剣を持ち、彼女の"背後"に移動していた。
そして、確実にがら空きになっている背後から、その首を切り落とすために刀を薙ぐ。
名前を叫びながら。
【マリア】
『――――なるほど。
貴方が、アゾートだったとは。』
思い切り飛び込んだ先に何もなくなれば、転がり込むのが、必定と言える。本来死を招くはずの不測が、まさか私の命を救う事になるとは思わなかった。
髪の毛を散らしながら、頭から転倒する。痛いなあ、くそう。
とはいえ。
脇腹から肩先まで深い切り傷。
二の腕には穴。
骨折も多数。
尋常じゃないダメージだ。
よろめきながら立ち上がり。
『くく、ふふふ………』
失笑し、苦笑する。
馬鹿な話だ、この分でいくならば、友邦だろう私は。
『私を殺すのは辞めときなさい。ここで蠍を私が撃てば、半ば貴方を殺す事になる。
まあ、命乞いね。
これじゃあ、心配なんてしなくても、人殺しなんてもう、出来やしないわよ。』
確かに、殺害は無理だ。
これ程追い込まれたのだから。
殺し合いをさせたくないなら、殺しをさせたくないなら。
目論見は概ね、達成と思われる。
要するに、そういう事だ。
全く、丁重に扱え人を。
『私は貴方の脳。
……言ったでしょ？貴方の味方を、私は辞めてないわ。
こうやって私を戦闘不能にボコボコにしたのを、共有チャットにでも上げなさい。早く。
もう、勘づいてる奴がいる。
アゾートを、探し当てた奴が。』
親アゾートとして振舞ったやつが、アゾートに殺される…というか、半ば再起不能まで痛めつけられる、という展開。
さすれば、ヒガンバナをアゾートに思う理由はない。
そして、物理的に私は殺人を行うことは出来ない。
神算鬼謀とは、こちらを言う。
"追い込んだ"なんて言葉も嘘なら、"刺し違える"なんて言葉も、嘘だったっていうだけだぜ。
食堂の壁にもたれて座り込みながら、私は軽薄に笑う。
『しっかし、痛いわね………
柏木はともかく、3rdどうこうの罪なんて、背負わなくて良かったわ、本当に。』
【ヒガンバナ】
「…………ふん。」
全く、これだからこの手の輩は嫌いなのだ。
止めを刺した所で、只々こちらが不利になるだけ。
全くもって、不愉快だ。
折角"愉快な"斬り合いをしていたのに。
「貴様は、暴れすぎだ。
お陰でこちらの考えていたことが色々と無駄になった。」
取り敢えず、こいつはどうしてやろうか。
殺しても不利、殺さなければ利用出来るかもしれないが、裏切る可能性も大。
何なのだ、この爆弾は。私は爆弾処理班じゃあないんだぞ。
「不愉快だ、実に鬱陶しい。
貴様の目的は何なのだ？Azothに近付いたりなぞして……裏切り者に信用など無いぞ。」
折角蟹座対策で取っておいたゾディアックも使ってしまった。
ギリギリまでは、皆の為に動く善人でいるつもりだったのに。
【マリア】
『まあ、ゆっくり話すから少し待っていなさいな。』
そこから先、何をしたかについては、諸君ら、絶句して良い。
骨を正しく戻し、あの魔法少女コスチュームを引き裂いて吊り。
御体裁を整える為か、一応稼働していた厨房から、灼熱した調理器具をひったくり。
傷口を灼いて塞いだ。
と、字面だけ見るなら、私はさも大したことないように聞こえるし、そう聞こえるだけの努力はしたのであるが。
お世辞にもそんな事は言えやしなかった。
肉の切れたのに、焼けたフライパンを一息に押し当てる。
赤が茶色に変わる。
神経を引きずり出して炙るような凄絶極まりない激痛に、脂汗を垂らし、何度も気を失いそうになりながら、崩れた笑いを貼り付け、それでも、声は出さない。
私は嘘つきだ。
だから。
痛いのも苦しいのも嘘でなければならない。
嘘に、しなければならない。
無論。血だらけの服を脱いだら、台無しなので、自分の血のついたスーツを再び身につけ。
『目的………？なら、簡単よ。
私が生き延びたいから。』
応急処置を終わらせた後、席につき、二、三指の吹き飛んだ手を我ながら器用に使いながら、まだ残っていたステーキを口に運ぶ。
豪傑、花山薫も、これ程の真似をする事はなかろう。
自分で付けたような傷を自分で焼いて、飯を食ったならそれはバケモノがやることだ。
自分でしておきながら、実にバカバカしい。
もしかしたら私はゾンビかもな。
『その為なら、唯々諾々と私は貴方達に従うし、犬のように三回回ってワンというわ。
その理由を、というなら―――
大事な人に会いに行きたいから、でどうかしら。
嘘じゃなかったりするわよ。』
【ヒガンバナ】
「何ともまあ、荒療治だな。」
応急措置としては正しいが、骨を直すのも、傷を焼くのも、どちらも死ぬほど痛いのだ。
気絶したっておかしくはないのに、良くもまあ笑いながらやれるもんだ。
私より、狂ってるな。
「……前回も、参加したと言っていたな。
そして、Azothに加担して願うとなると……まさか、『桂木 巳之』か？」
聞いた気がする、Azothの方で一人、夢を見させている者がいると。
……名前を覚えていたのは、そこまで記憶力の良くはない私にとっては奇跡か。
「…………そもそも、だ……元々バレないようには動いていたが、貴様にもバレていなかったのか……？」
【マリア】
『まあ、その通りよ。
少しばかり、あの兎には借りがあったりしてね…用があるの。
その用さえ済めばまあ良いわ。
貴方が洗脳でもして、性奴隷にでもなんにでも使えば良い。アカエルにも、私が生き延びたらアゾートになって粉骨砕身。性処理に至るまで働く旨は既に説明してあるしね。』
なんて、適当なことを言うのに関して、私の右に出るものは多分そうそう居ない。
『まあ、実は貴方がアゾートっていうタレコミはあったのよ。そもそも。誰が送ってきたかは知らないけれど、不届き者ね。
脳が体を売り渡してどうするっていうんだか。理解に苦しむわ。』
なんて、嘘八百を並べる。
前々からあった、というのは、無論のこと嘘である。
来たのは、ついさっきだ。
柏木を消した直後、というタイムテーブルを抑えると良い。
因みにこの場合。
私が明らかな計画犯に見えるのだが、私のような浅学な人間にそんなものは無理である。
破滅的な私の趣味で、なんとかなっていたりしたと言える。
『……で。最期に、もとい、最後に。貴方達は、結局どうする気なのかしら。生徒を全員消す気？
それまた物好きな話だけれど。』
死にに行けば死から遠ざかる。
私の持論である。
ついでに、私は問いたいことがあったので、聞いてみた。
無論、どうでもいい事なのだが。
【ヒガンバナ】
「……余り下品な話をすると、今度は貴様の顎を砕くが？」
例えが悪いのだ、例えが。
何でもするつもり、と言うのは伝わるが。
……そもそも、アカエルは性処理必要なのだろうか？
ああ、私は要らんぞ……本当に、要らんぞ……
「……まあ、身内切りも覚悟の上だ。
誰にばらされようと構わぬ。」
まあ、恐らく……情報があるのであれば、出回ってしまっている可能性は高い。
もう、隠す必要性もないか。
「……どうする、か……
私は……数人、興味があるが……それ以外は、他の奴等に任せるつもりだ。
殺すか、洗脳するかは、知らぬ。」
【マリア】
『……ならまあ、気が向いたら助けてよ。
どの道私は過去の亡霊。
明日なんて嘘でしかないわ。』
と、私は破滅的に笑い。
『ただ、過去にケリを付けるの。"クラスメイト"のために、彼らの悪夢を終わらせる。』
珍しく、真実を口にした。
『――――その為なら。
悪は皆、背負う覚悟は出来てる
貴方はどう？
生きて色々やりたかった人間を、生きては返せるとして。
大事な人を、生かせるとして。
それを見殺しに……いや、殺す覚悟はある？』
楔として。
鎖として。
呪いの言葉をかけ。
『―――なんて。
こんなセリフ、悪い夢でも見てるみたいだけどね。』
嘘かもな。
とは、言わなかった。
【ヒガンバナ】
「……好きにすると良い、貴様がやりたい事など、私は知ったことではない。」
こちらに利害があるならまだしも、過去にけりを付けるだとか、夢を見ている彼女を覚ますとか、全く関係ない。
それなら、彼女の好きにすればいい。
「……愚問だな。
大切な人など、そんなもの、作らなければ良いだけの事。
作ってしまえば、弱くなる。私にそれを決断できる覚悟が怪しいのなら、尚更だ。
まあ、もし出来てしまったのなら……
私は……無理だろうな…………」
……全く、Azoth失格かもな。
【マリア】
Yesか。ああ、そうか。
だが、Noになり得るYesか。
なら、私が死んだ後、彼女は何かしら改心したりするのかもしれない。誰かしら白馬の王子様が彼女を連れ去ってくれるのかもしれなければ、最近の潮流に則り、鬱病じみた死に方をするのかもしれない。なら、良いんじゃないか。
結局、私は死に場所を探しに来ていたのだ。前回のゲームの罪を背負って、死ぬ気でいた。
なら、この後など知るか。
まにょとかいう少女が死ぬかもしれないというのは気掛かりだが、それでもまあ、良いか。
なんて。
一人の女子高生すら騙しきれなかった私はもう、自分を騙すことなんてできなかった。
『は。寂しいわね。
確か、最初は誰かを守るみたいなこと抜かしてなかったかしら。
私が嘘つきなら、貴方は大嘘つきだぜ。弱くなるから、なんて理由で、割と人間は頑張れない。わかりやすく経験が足りないわ。
彼氏とかいなかったでしょ。』
心象は悪くなるばかりなのに。
今すぐ殺されてもおかしくないのに、全く、何を言っているんだか。いよいよ私がまともな事を言い出したぜ。もう死ぬかもな。
『私が前回そうやって棄てた人間にはねぇ―――――………
底抜けに優しくて、私みたいな奴に、心底優しくしてくれて、最後まで騙されてた奴とか。
ガチガチに防具も武器も揃えてめちゃくちゃ怖いくせに、クラスメイトを殺したくなくて泣いたアゾートとか。
居たんだ。居たんだぜ。
でもそいつらは―――――――
そんな道具みたいに思っていた私にも、大事な人に。思い出に、勝手になってたりしたのよ。』
と、切り捨てた奴は歌う。
『大切な人とか、作らないなんて簡単に言ってくれたけど……
貴方には、居なかったの。
可愛い、とか、いい奴だな、とか、明るい、とか、優しい、とか、繊細、とか、賢い、とか。
なんでもいいわ。
プラスな感情を抱く人間は居なかったのかしら。
人間皆。
へのへのもへじか？
特徴の無い量産型か？
少しくらい、無いのかしら。』
言葉に熱が帯びるのを感じながら、私は続ける。返答を無視し。
相手が殺す前に、突き刺す為に。
『そういう、貴方いわく、自分が弱くなるような感情とか、感想っていうのは………
自分にしか大事に出来ないし、自分しか大事にしてくれないわ。
だから――――！
アゾートだろうがなんだろうが、使命がどうこうとかあろうが。
大事にしなきゃいけないのよ。』
『繰り返すけど……
貴方、誰か助けたい人が居たわよね。仲良い人かは知らないけど。それはどうなる……？
アゾートである事と秤にかけて完全に上になる？
今はなるんじゃない。
今はなるわよ、貴方なら。
けれど―――――……
失った後もそうとは限らないんだぜ。』
【ヒガンバナ】
「……そうだな、彼氏などと言う者も居なかった。
上部は兎も角、友と呼べる者すら、な。
何しろ……全て、私にはへのへのもへじではなく……
『斬りたい獲物』だったからな。」
ずっと、抑え込んできたさ。
こんな衝動、こんな欲求。やったら罪人、即死刑だ。
けど、ここでは──下手に殺せば狙われるが──殺してもなんら罪にはならない。
だからAzothになって参加したのだ。
「助けたい人？
居たか、そんなやつ？」
そうそう、人質として送られてきた画像。
あれは驚いた、私の家の秘蔵の名刀だったのだから。
あれが壊されたら私は本気で泣く……まあ、それだけだが。
「……ずっと、嘘だよ。
このゲーム、信用も必要だからな。
……この刀は、人を斬るための物だ。
失うのはたかが命で、得るものは、斬る快感だよ。」
落ち込んでいた？
あれは嘘さ。
花が散ってた？
表向きはな。
現に、隠す気もなくなれば、ほら。
赤い華だって、満開に近い。
【マリア】
『なら尚更、馬鹿なヤツ。』
この程度、狂っている内に入るか。アゾートも地に落ちたな。
と、私は内心嘲る。
悪いが、観測可能な敵だ。
狂っているのが、先天性か後天性なのかにもよるが。
なんて、強がりを言ってみる。
実際めちゃくちゃ逃げたいが。
どうやら私の本心とやらは、こういう奴に対し強気だ。
時には良いことをするのがプロ。
だったか、確か。
『人を斬るだかなんだか知らないけど、それをまるで趣味のように語っているけれど。何やら深刻な問題のように語るけど。
下らないわね。』
さて、いよいよ死にたいのか？
死にたいのかもな。
けれど、言葉を止めなかった。
私は弱いが。
非力だが。
やらないといけないのだ。
『しょうもないわ。』
繰り返し、否定する。
『たかだか命だとかなんとか。
黙っていりゃあ好き放題言ってくれるわね。』
まあ、黙っていた気は無いが。
好き放題言ってくれると思った。
『私の一番身近な人間は、母は、私より、金が好きらしい。
命よりも大事と言っていたわ。』
半ば、意地である。
最期の懐剣である。
他殺用ではなく。
自殺用の。
これを語り出したからには、私は負けたと言っても良いだろう。
良いだろうが。
『文面的には貴方に似ているけれど、何故かは分かる？
何より大事なんだって、金。
貴方が、何よりも人を斬るのが大事、みたいなニュアンスよ。
決定的に、意味は違うけど。』
【ヒガンバナ】
「……しょうもないか。
まあ、そうだろうな。」
まあ、何だっていいさ。
今更だ。
人斬りを否定されようが、人殺しと言われようが。
だが、流石に鬱陶しくなってきた。
「…………で、そんなもの取り出してどうした。
介錯位なら、してやるぞ。」
【マリア】
『……まあ話くらい聞いたら？
どの道、私も貴方も死ぬし。
死ぬ、だろうし。』
一応仮定形だが、意味は無い。
さあな。
もしかしたら、名前当てすら布石だったりしてな。
なんて、ありもしない冗談を私は語りながら、１つ、勘づいた。
これは、まさかだが。
―――――面白いじゃないか。
もしかしたら、発言は本当になったりも、するのかもな。
『そうだと思ってるなら、尚更気に食わねぇんだよ。』
感情を顕にしたのに割れながら絶句しつつも、私は先程までの話題の流れを一旦切る。
切らざるを得なかった。
こんな奴に、私は負けないと思えたりもしてきたから。
自殺用の文句は収める。
『別に、しょうもないから辞めろなんて言ってはない。言わない。人なんて切りたければ切れば良いさ、一億いるんだから。
けど。
少なからず、努力したものを、すぐにしょうもないっていうのはどうかと思うわ。』
酷い言い草だ。
『確かに、欲望は誰にでもある。
私にだってある。
その捌け口がここで見つかったなら、それもまた良い。
けど。
それだけなのかしら。
それしか、無いのかしら。
獲物であっても良いけど、他には何かないの？
何も見る気は無いの？
外を見てみなさい、雪合戦とか楽しそうじゃない。貴方本気でやるんだもん。びっくりしたわ。
厨房を見なさい、ご飯、美味しそうだったりするわよ。
食事くらい一緒に取りましょうよ、人殺し同士。
まあ、何？
しょうもないと認めるなら――』
だが。
大人だから私は狡いのだ。
『他の、しょうもないと思っていたことでも見てみれば良いじゃない。しょうもない事を、どんどんやるのが青春で………
貴方には、できそうなことだって、幾つもある。
何も、人切りの欲望がどうこうじゃない。何かしら合法的に消費できないかを考えろとか、今一心不乱に思っているのだけが、全てじゃ無かったりするんじゃないかとか。そんなことを、青春をなくした私は言いたい。』
自殺用のセリフの代わりに。
『剣道……』
代わりに。
最後の命運を懸ける。
『貴方めちゃくちゃ上手いじゃない。やった事ないけど、才能っていうのがあるんじゃない？
しょうもない人切りなんてのも果たせなくはないし、また始めたら、貴方、割と上手くいくんじゃあないのかしら。
嫌い？剣は。
抑えてきたんなら――――
本当はやりたいんじゃないの？』
【ヒガンバナ】
「…………っ！！」
ああ、やはり。
なんと言うか、やはり。
こう言う手の、無駄に頭が良く、口だけが達者な奴が、私は嫌いだ。
私は、言葉に表す事が苦手な方だ。
故に、この感情の表現も上手く出来ないが。
きっと、近いのは。
「……知った様な口を利くな！
私の本心など、貴様に分かるわけがないだろう！
ああ、そうさ……『今だって、偽っているのだからな！』」
私は狂ってる。
人殺し願望など、狂ってる。そうだろう？
貴様にとっては、些細な事かもしれないが。
そんな狂った私が、敵である私が、
──────
「…………もういい、
……──は生きる。
貴様はここで野垂れ死ね。
そうすれば、──の勝ちが近付く。」
自作の刀擬きを拾い上げて、彼女を残して立ち去ろうとする。
【マリア】
『なら―――――………！』
引き止めた。
切られても良い。
そう腹を括って。
私は、立ち去ろうとするその手を掴んだ。指の吹き飛んだ手で。
ズタズタの、腕で。
だが、それでも。
固く、力を込めて。
『どうしてまだ嘘をつくの。
貴方が話さないなら、誰にだって、貴方は分からないわ。』
私は、対話する。
まっすぐ目を見て。
少し、皮肉に笑い。
それから柄にもなく、真面目な顔なんてしてみたりする。
『さっき、金の話を、したわよね。あれ、応えるわよ。
金は替えがきく。唯一じゃない。使い切ってそれきり消えてしまうわけじゃないけれど、他人の、自分の、少なくとも、唯一のもののために使える。だから、価値があるんだそうよ。』
全く、私に伝家の宝刀を抜かせるとは、世話の焼ける女だ。
『逆に言ったら―――………
替えがきかない荷物なんて、人の価値にはならないわ。
貴方は、アゾートで。狂気なんて言う欠点がある。
けれど、"それだけ"じゃない。花。センスあるじゃない。なんだかんだ、約束は守るじゃない。それでいて、自分の悪い所をなんだかんだ知っている。
ただ二つだけの欠点で、貴方は否定されるの？なら、ちゃんちゃらおかしい話じゃない。』
だが、言おう。
暑苦しく、鬱陶しい文言を。
『偽らなくて良いわ。
本音を言って良い。
いや、言いなさい。
本音も言わない嘘しか言わない。
それは、私みたいな奴の食い扶持で、仕事よ。
貴方みたいな"普通"の娘が、使いこなせるなんて思わない事ね。』
全く不器用だが。
私の本心を、そのまま。
『だって、貴方―――――……
雪合戦した時、楽しそうにしてた。本当は、割と――――
ただの女の子に、なりたかったり、したんじゃない？
剣道だって、貴方の大事なものなんじゃない？
そんなの無理とか言う気なら、言ってあげるわ。』
よく分からないままに話を進める
『誰も彼も、いびつな中、なんとか普通を保ってる。
貴方だけ、特別じゃない。
特別じゃ無いって言うのは――
なろうとしなきゃなれないし。
誰にだって、なれるんだぜ。
人間。
見るものが広がればそれだけ。
良い所に替えがきくんだから。』
【ヒガンバナ】
「貴様ッ……！！」
相手の口車に乗るな。
無駄話に耳を傾けるな。
こんなもの、私を惑わせる戯れ言。
だのに、なのに…………
「……普通……そんな訳あるか！？
ああ、貴様からすれば普通だろうよ。
だけど、人を斬り殺したいなんて思う奴の、何処が普通なのよ！！」
やめろ、私。
それ以上言うな。
こんな減らず口を叩く奴の口を斬ってしまえ。
「私は狂ってる！
ああ、狂ってる筈なのよ！
だから、みんなと仲良くなんて出来ない！」
(だって、仲良くしたら───殺せないじゃない。)
「剣道だって……真剣にやればやるほど……相手を本当の刀で斬りたくなる！
頑張れば頑張るほど！」
(そしたら、私は───友人達を斬ってしまう。)
「だから、こうしてAzothになって！
斬る相手を探してた！
だから良かったよ、あんな狂った奴がいて！
貴様みたいな奴がいて！！
何の心配せず斬れるんだから！！」
下手に殺せば疑われる。
人殺し、人斬り、言われ放題。
けど、相手がAzothと疑われるただの狂人なら？
みんなも、『私も』、何も気にせず斬れる。
「…………やめてよ……やめてよ……
私は、人斬りなんだから。
…………それが、私でしかないんだから。」
【マリア】
『……世話が焼けるわね。』
苦笑。
どうやら私は、鉱脈を当てたらしい。全く、ペテン師としては、失格であるが。
『人斬り？だからどうしたのよ。
人斬りだろうがなんだろうが。
狂っていようが、狂っていまいが、私に言わせれば―――――』
人間としては、悪くは思わなかったりもした。
『誰かの為に、悩んでるんでしょう。貴方は。
いびつなのを治したくてもがいている奴の方が、私には、最初からなんとかなったのより幾分もマシに見えるけど。』
寧ろ、胸がすく思いだ。
『なら少し位、自信を持ったら良いわ。こうして出た言葉。
それは――――――………
貴方の心なんだから。
もう少し、大事になさい。』
偶には、良いこともするもんだなと、私は考える。
『漠然とした話。
貴方には、未来、とかいう、何もかも出来る世界があったりするんだから。17…まだ、第一ラウンドも終わってない内から、そんな真似しなくても良いんじゃない？』
適当な。
『――――まあ、何が言いたいかっていうんなら……
ほら、こんな長ったらしい話の間、貴方は人を斬らずに済んだりしてるんだぜ。
もっと誇ったら良いわ。』
それでいて、真っ更な。
『それでもまだ言うなら。
私が、貴方の相手になってやるわよ。戻ってからも、ね。
私、簡単には切られないし。』
言葉を託し、私は笑った。
苦笑したように。
穏やかに。
貼り付けた訳ではない笑顔を。
【ヒガンバナ】
「……適当な事を、言ってくれるな。」
……殆ど、彼女に吐き出してしまった。
これだから、嫌いだ。
こいつは、絶対斬る。
「…………こんな話をしたところで、私は、きっと変わらないぞ。
実際、人を斬るのは楽しかったのだから。」
事実。
1st斬るのは楽しかった、快感だった。
「…………貴様は休んでいろ。私の相手をして貰わんとな。
多少、今後はそれで紛れるだろう。」
【マリア】
『変われなんて言ってないわ。』
そろそろ気付け、こいつめ。
と、私はヒガンバナの額を軽く小突く。
まだ言うか。
ほう、交渉の余地はない。
『―――私が背負ってやるって言ってるのよ。』
こうしない場合を除いてな。
『で。確か……利害関係、一致するんじゃない？』
ま、厄介なものを買わせるのが、詐欺師ってやつだし。
知らん。後は。
『遊び相手一個、無料でお買い求めですが―――買う？』
騙された、と思えば良い。
騙したのだから。
いや、騙してないな。
私とヒガンバナは確かに、どちらも死ぬ。
今、とは言ってないだけだ。
【ヒガンバナ】
「…………買おう。
対価は、何が良い……」
買わない、訳がなかった。
全く、押し売りされた気分だが。
まあ、悪い気は……余り……多少しない。
【マリア】
『私の生還した後、ご飯でも連れてってくれたら手を打ちましょ。
騙されたと思って、ね。』
絶句するほど、ペテン師としては当たり障りないセリフを吐き。
『―――なんて。』
お決まりのフレーズを。
『嘘かも知れないけど。』
これまたわざとらしく私は言った
【ヒガンバナ】
「……はっ、安いな、貴様。」
食事か、幸い貯金は何だかんだあるな。
……いや待てよ。
「高級料亭とか、法外な店は無しだぞ。」
なんて、
少しだけ、笑ってみせる。
「……ああ、さて……人を斬る気も失せてきた。
どうするか。」
被害加害感染症 2nd【DEAD END】-18th【DEAD END】
みかんちゃん(2nd)【DEAD END】-唐揚げ食べたい(18th)【DEAD END】
【みかんちゃん】
病室〇〇〇号室にて。
チクタクチクタクチクタクチクタク
秒針は動かない。耳の中鳴り響くだけ。
止まった秒針は昼間だか深夜だかわからぬ2時を指していた。
実際の時間は知らない。知る必要もない。
どうせあのときから止まっているだろうから。
動かない時に逆らって裏切るように自分と××は成長していく。××の意識は時と共に置いてきぼり。
──俺の感情も蓋をしたまま、置いてきぼり。
それが今更になって開いてしまって、溢れたモノも悲しいほどに泥臭く灰色。
あなたのために人を殺しました。
また人を殺しました。
自分のためにあなたを救いました。
また人を救いました。
「──君のせいにさせてはくれないだろうか」
布団も敷かれていないカラッポ伽藍堂のそのベッドの横座り込み、とうとうと流れ出した感情。
全部を全部、他人のせいにしてしまえば自分という存在は塗り替えられる。
嘘。
塗り替えることは出来ないから、代わりを作って知ったかぶった顔で知らん顔を続けて
疑いの視線を逸らす。
誰から逸らすかなんてことは興味なく、あとは流れ出した時に身を委ねるだけ。
だから、この病室に居座ることも何ら怖くはなかった。
【唐揚げ食べたい】
「…みんな死んでしまえばいいのに。」
(ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる────。
思考は廻る、目も回る。
けれども視界は歪むことなく、グニャリグニャリと虚無の世界。
人が死んだ。何人も死んだ。
何人死んだか正確な人数も言えなければ、何処の誰が死んだのかも自分には分からない。
生憎、死者の一人の"名前も出せない"。
だけど。クラスメイトであることは確か。
ならば、こんな絆なんかこれっぽっちも無いクラスならば。
いっそ全員死んでしまえ、なんて。
そんなことを思ってしまったから、つい呟いてしまった。
また、病院に居る。
気付いたら病院に居る癖を直したい。もう此処が拠点かもしれない。ペンションには暫く戻って居ない。
生前、病院のお世話になったことなんかない。お世話になりたくもなくて、無理矢理隠して学校生活を愉しんだフリをしていた。
いつからか情報が漏れて、それもおじゃんになってしまったけれど。
ベットの上に静かに座っていた。無気力に、その目には何も写していないかのように。
此処に居ると、音が聴きやすい。だから、今回の足音も聞こえた。聞こえてしまった。
此処に居ると、毎回誰かに会う。それも、苦手な部類の人間に。)
「──────、ｯあ、゛……！」
(独り言。あの声は、いつか聞いた蓋の声。
全部隠してしまう為に、自分を閉じ込めるのではなく。他人すらも、閉じ込めてしまった人間。
今まで"つみかさねたもの"を全て壊してしまおうと、更に"つみかさねてしまった"人間。
咄嗟に首を締めた。自分の。
加減してしまうから、気絶したりはしないけど。血管が締まった時のような堕落感がした。何回、こんな死にもしない自殺未遂をしたことか。)
「……誰かのせいには出来ないよ。」
(突然として、答えてしまったのは首を締めた反動か。
彼とは話したくなどなかったけれど、話さなければならなかったから丁度良い。
正常な思考が欠けている時の方が彼とは話がしやすい。
意識はあったが、無意識に反応して。自身の存在を相手へ気付かせようとしていた。
まだ××が残っていたか。憎たらしい。)
【みかんちゃん】
聞こえた声に少しだけ驚いたように瞳孔が揺れた。
我に返って、頬を緩めて笑う。
いつも通り嗤う。
××の声ではなく、見知った彼の声だと分かってはいたけど。分かっていたから嗤った。
ああ、そうかい。
なら意味も成せない理由もない××はどうしてまだ息をしている。
どうしてまだ、息を紡ぐの？
どうしてまだ、死なないの？
どうしてまだ、生きているの？
どうしてどうしてどうしてどうしてどうして…──
どうしての先には、暗闇しかなくて。
逃げたくてやめたくて死んでしまいたくてももうどうしようもなくなってしまった。だから今も私は止まらない。
私がいるから死ねないの。
「──あなたは似ているわね。
似ていて……酷く、劣ってる。」
あなたとは俺の事か。
あなたとは彼の事か。
それとも、××のことか。
…──
多分それはどちらも指していて指してはいない。
矛盾。虚言。戯言。狂言。
全てに意味はないのだけれど。
蓋をした瓶の中、また彼に会ったのだから今は偽りもなく彼に対する言葉を紡ぐことにしよう。
あくまで、加害者として。
あくまで、被害者として。
【唐揚げ食べたい】
(体育座りして、ゆらゆら──と左右に揺れる。影が伸びて、影が縮んで。影を見つめても、影送りをする陽は届かず。
いつになっても薄暗い部屋を見ることもせず、溜息と共に幸せを逃がしていく。
彼の笑みを不愉快そうに見つめて、間を置いてケラリと哂う。
もういっそ、全て忘れてしまおうか。嫌だった思い出も、楽しかった思い出も、全て全てリセットしてしまおうか。
そんなの、出来ない癖に。
いつまでもいつまでも、脳にこびり付いて離れないから。これはきっと一生付き合っていがなければならない運命なのだろう。
悪いことした罰、とか。
悪いこと、した覚えなんてないんだけど。)
「────"君"も、似ている。
自分のことしか考えてなくて、愚かなところが。」
("お前"じゃなくて"君"。はてさて、誰のことを言っている？答えは"不明"。
分からない問題、自分ですら誰のことを指しているのかなんて知らない。知りたくもない。
よって答えは無くて、分からない。
謂わば、ナンセンス。
彼の言葉も含めて、全て無意味に還る。
声は聞こえない。音沙汰もない。
でも、もうすぐ話せる気がするんだ。君と、貴方と、俺と、僕と。そして、私と。
脳内だけど、君はそこに居るから。
だから、安心してくれていいんだよ。ずっと一緒にいてあげるから。
──────
妄言。唯の意味の無い空想。"無意味"なんて言葉よりも意味の無い言葉。
どうせアイツもそう。彼もそう。
全部、雑音。全部ノイズで、邪魔で邪魔で仕方がない。
ここで問題。
加害者は、誰？
────心に決めた人間が、正解で不正解だ。)
「またこんな所に来て、何しに来たの？」
【みかんちゃん】
互いの質疑応答押し問答は誰に向けたモノなのかわからぬ[音]でしかなく。
互いに笑う。
互いに嗤う。
咲うことが出来ないのはきっとお互いが嘘で塗り固められてしまっているから。
コンクリート詰めの瓶？
そんなところか。
否、割れた瓶にコンクリートだろうがジャムだろうが詰めたところで意味なぞ成し得ないわけでありまして。
「意味はないよ。ただ必要なことを思い出しに来ただけよ。」
そしたら思ったよりも正常な脳はすっからかんと冴えたまま。驚いた。自分にとってコレはその程度のものだったのか、と。
「ねぇ…聴こえるかしら？
電子音。心臓の音。心拍数。
この音が鳴る限り、この音の前でだけ、
私は被害者なの。」
誰に語るでもなく、何を騙るでもなく、
垂れ流す言葉。
これも虚言かもしれないけれど。
いや、もうどれもこれも私が口から零す音は虚言でしかないのかもしれない。
利己主義でも利他主義でもないなんて言っておきながらその実、両方兼ね備えただけだったりするのだから。
1拍。
息を吸う。
「でも、この音が聴こえないとただの加害者。」
【唐揚げ食べたい】
「…どうだか。」
(誰に言うでも無く、"彼"に。
座るのにも飽きてしまったから、ベッドの上に寝転がった。疲れたのか、眠気が襲ってくるけれど。寝てなんかいられないし、もう目が冴えてしまって寝られない。
脳が重くて、グチャリと視界がボヤける。
涙で視界が見えない、なんて時のように。この朧な光景は嫌いだ、嫌なものも思い出してしまうから。
蓋は開かれた。
けれども、それに気付かず。開いてないと思い込んで、布で包み隠す。
どんな手段を使ってでも、他人に対してにも蓋をしようとするからタチが悪い。
"つみかさねた"モノを崩さないように、更に"つみかさねている"。
フラッシュバック。
どろどろ──、
閑話休題。
こんな思考をしてしまうのも、周りが薄暗いからだろうか。
病院なんて来るもんじゃなかったな、と今更後悔した。)
「…────、音なんか聞こえないよ。
だから、君は加害者。俺は被害者。」
(誰のことかも分からぬ"君"に、事実を突きつける。どれだけ足掻こうが、加害者が被害者になることはない。そして、その逆も然り。
此処に来て、理解してしまったんだ。復讐をしても、ぶっ壊しても、どうせ結末は被害者なのだと。
その立場が、逆転することなんかない。
大胆な復讐劇でしたね。
ちゃんちゃん。
それで終わり、何も変わらない。今までやって来たことに意味なんて無かったんだと、理解するのが"やる前"だっただけマシか。
糸は切れた。蓋も取れた。布は捨てた。
もう何も隠せるものなんかない。
フラッシュバック。
どろり。
最初に戻ろうか？リスタート、とか馬鹿らしいけど。馬鹿だから、仕方ない。
どうせ声なんか聞かせてやくれないんだから。だって全部、俺の創造物だもの。
だから、だから。吐き捨てるように、意味も無く煽るように。)
「なぁ、知ってるか？
"ユキグニ・キボウ・プログラム"ってのがあるらしいぜ？」
【みかんちゃん】
「聴こえない？
…嗚呼、ならそうね。そうなのだろうね。
──…俺は加害者なのだろうね。」
知ってましたけど。
なんて
引き攣った笑みと上擦った声がどうも拭えない罪の証拠。
この手はもうどうしようもないくらい汚れていて…別に汚したかったわけではない。出来ることなら今まで通り、昔のまま、真っ白な、手遅れ。
その手で自分の顔を覆うことすら許されない。
開いた扉の先の光景。
貴方と貴女が死んでいた。
××は生きていた。
××は死んでいた。
生きながらに死んでいた。
自分のせいで死にながらも生きている
──愚かな××。
嘘。残像。全て夢の話。
聴こえない[音]、聞こえない[声]に縋って呪われて怯えて蓋をした誰かさんの夢の話。
被害妄想とでも言っておこうかしら。
だから嘲るように笑う。
知らないフリ見えないフリ気づかないフリ。
もう意味はないと分かっていて、分からないフリをして彼の狂言にもからりと乾いた笑いを浮かべる。
「なにそれ、知らないわ。そんなもの。」
[みんな死んでしまえばいい]
訂正。
[みんなで死んでしまえばいい]
そうすれば××も私もみんな
はい、おわり。
【唐揚げ食べたい】
「…………、…人は変われないよ。」
(時は巻き戻せないから、全て生まれた環境起こった出来事で何もかも決まってしまう。
変われないが、歪みはする。隠すことも出来る。
全部包み隠して押入れにでも入れておけば、人生幾らか楽なのかもしれないが。中々そんなこと出来ないのが人生であり、…なんて"人生を分かったフリ"をして。
まだ高校生だと言うのに、馬鹿なこと馬鹿なこと。
包み隠そうとして失敗した結果が自分。
包み隠そうとして成功した結果が彼。
ただそれだけの違い。
それがたまたま加害者で、被害者だっただけなのだ。
ニィ、と無理矢理笑みを作り。
目の前の野次馬(クラスメイト)へ、笑顔を浮かべ。
�牴燭眇看柩廚蠅泙擦鵑�ら、どうぞお帰りくださいませ��
野次馬は止まらず、何もせず。言葉だけ繕って吐いて、ハイ終わり。
御愁傷様、さようなら。
純白な翼は、捥がれてしまった。元からないけれど、汚れてしまった。
何もして居ないのに、ただ××を胸に善行をしただけなのに。
嗚呼、煩い？じゃあ身の上話はこの辺で。思い出したくもないのに、自分から穴に手を突っ込んでいく。
長さの合わない螺子でも頭に嵌めたかな、なんて。
妄言に、何も意味は無いから。全て、終わらせてしまおう。
なんて決意しても、どうせ辞められない。もう癖なのだ、話す相手も居ないから。脳内で語って、会話をする。それで暇を潰して来たから。)
「どうやら、絆を深めれば此処から出れるらしいぜ。」
(嘘、虚言、演技(フェイク)。元に戻ったフリをして、現実から目を離した。
息を吸って、吐いて。どうしようもない現実に絶望して、その先に何も待っていないから。
少しだけ遠回りをしたい、させてほしかった。)
「なんてね、嘘だよ。
出たくないでしょ、此処から。
もう戻れないでしょ、彼処に。」
(此処で自分を隠していた方がよっぽど楽で楽しかったから、ずっとしていたいと思っていた。
戻りたくない訳じゃないけど、"戻れない"と仮定して。
彼の感情なんか読み取れないから、戯言を呟く。僕の、俺だけの戯言を。
だから、全部滅んでしまえ。
死んでしまえ。恨んだ人間も、好きな人間も、どうでもいい人間も、大切な人も、"唯一の友達"も、全部全部全部。
死んでしまえばいい。
頭の中は、ぐちゃぐちゃに溶けている。鮮血でも撒き散らしたかのように、視界が紅い。
このゲーム。
僕も、君も、彼も、彼女も。
全員。
どうやら、間違ってしまったみたいだね。)
【みかんちゃん】
彼の吐き出す虚言を、創り出す仮面を、喜劇のような悲劇の台詞として、拾い集めて。
底の無い瓶の中に落としてみる。落ちるなら這い上がれないところまで落としてしまおうか。
どちらヲ？ええ、何方も。
嗚呼、カレは壊れてしまったのだと誰かが悲嘆する。
大丈夫、私は正常だと誰かが傲慢な笑みを浮かべる。
誰が？
それら全部、私のこと。
目の前の彼が壊れていると思えば自分の割れた瓶はまだ壊れてはいないと。視線を彼に変えれば自分なんてもの見ないで済む。
狂者の前では私は聖者。
狂気の前では私は正気。
だから彼の前で敢えてあべこべ垂れ流して狂わして壊して。
どうせ加害者なら最後まで、最期まで、被害者である彼が加害者になるまでぶち壊してしまいたいと。
自分と対に佇む虚像が、酷く虚しく腹立だしい。
ゲームは関係なく、あくまで私情。
利己主義的なエゴイスト。嗚呼、言葉が下手くそ、何方も同じ意味よ。知ったかぶりね。
何れにせよカレは虚像。
虚像は幻覚であるならば、
私ととりかえっこしてほしい。
そう、とりかえっこしましょう。
私は被害者。あなたは加害者に。
「ふふふ、出たくないのはあなただけでしょうに？
あなたは私に何もかも奪われてどうだったのかしら。
落胆した？歓喜した？興奮した？悲嘆した？
被害者になったあなたは被害者面ぶら下げて亡霊のように徘徊でもしたのかしら？」
──失笑。
「気の毒な加害者。
蓋を開けたのはあなたでしょうに」
笑顔を忘れた。
酷く歪な笑顔しか覚えてない。
彼にぶつけるこの[音]は誰にぶつけているのか。
きっとこの[音]に意味はない。
意味の無いことはしないと決めていたくせに、蓋が開いたら壊れてしまった[音]が全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部
溢れて止まらない。
涙も笑いも出ないくせに[音]だけ垂れ流すゴミみたいな絡繰り。
「あなたの物は全部消えてなくなった。
奪われてしまったよ。
小さな少女が奪っていった。
私も結局出し抜かれたのよ？嘘だと思う？
なら、お互い様。
おあとがよろしいようで。」
依然雑音鳴り止まぬ。
【唐揚げ食べたい】
(虚空へ手を伸ばす。何かに触れるように、何かを掴むように両手を伸ばしてみた。
そこに何か居た。居ない。居た。居ない。
どうでもいい、何でもいい。どちらでも良くて、心地良くて、そんな感覚。
空を掻いた招き猫のような手は、何を招き入れたのか。
闇か、絶望か、───それとも光？
そんな答えすら待ち望んでいない。
だって、答えを幾ら導いたってどうしようもないもの。結局、何も変わらないから。
ココロを入れ替えて、その結果がコレ。
交換とか、出来たらしているもの。
だから、最初っから不可能。
それを、君は気付いてる？
あ、何でもいいか。そんなのも、全部。もし僕が加害者になるならば、被害者である"彼"の全てをぶち壊してやりたいけれど。
どうせ、君もそう思ってるんでしょう。全部、吐いてしまいたいと思っているのでしょう。
もう諦めた。
全部投げて、ポーイポーイ。
最悪のエンドね、素晴らしい。皆さん立ち上がって、スタンディングオベーション。
嘘
妄想、虚言。幻覚を見ているわけでもなく、ただ感傷に浸ってはケラケラと笑っている。
どうせ被害者、何にもなれない被害者。立場なんざ疾っくの疾うに地に堕ち果てていて、被害者として惰眠を貪っている毎日。
でも、そんな自分で理性はあるから。
思惑通りになってたまるか。
被害者ならば被害者なりに、加害者の全てを砕けさせてしまえ。
復讐して加害者になってやろうなんてココロは、何処へ言ったのやら。
思考がコロコロ変わるというのも、馬鹿らしくて子供のよう。
嘘を吐いてでも、責任転嫁したいのか。
でも、ダメ。────此処で起きた出来事なんて、×××に比べたらまだマシだから。
抉られるよりも、現実の方が辛いのよ。
過去は何にも変えられないもの、ねぇ？
なぁんて、彼の真似でもしてみる？全部演技、だけれど。やる気も無いしね。)
「残念ながら、
──────何も、なかったよ。」
(覚悟は決めたけど、嘘は言ってない。
いや、嘘か。
でも絶望に打ち拉がれるなんてことも無ければ、こんなトラブルに対して興奮したりするなんてことはもっと無かった。
少し怒ってしまったかも？なんて、記憶の範囲外だからノーカウント。
べ、と舌を出して煽るように。
"被害者"には、こんな見窄らしい小さなことが似合うだろ？
なあ、ほら、嗤ってみせろよ。
加害者は、相手が愚かで笑うものなんだろ？
時間の限り、被害者として逃げ惑ってしまおう。
おにごっこがいいかな、それとも。
かくれんぼの方が、お望みか？)
「賽は投げられた。蓋は開かれた。
僕が開いた、俺が開いた。
────でも、加害者はお前だ。」
(其れだけは、変わらない。此処まできたら、変えてやるものか。
初めはやり返そうなんて気もあったが、いつからか消えてしまった。
否、今消えてしまったのだ。
少女なんかどうでも良くて。アイテムなんかどうでも良くて。彼が奪ったことが大事で、それすらもどうでも良くて。
だから何も答えることは無く、ただ無気力のまま。)
「まだ、終わらない。
終わらせられない、終焉すら演じてないよ。」
(グラリ、と音を立てて立ち上がり。
ロングコートを脱いでは、ベッドへ投げ捨てる。
寒いなんて感覚、長い間外に居たものだからもう麻痺して消えてしまった。
ゆっくりと、彼へと近付いて。
今度は紛れも無い"彼"に触れようと、手を伸ばす。
此処に来てから、初めて誰かと触れようとする。其れも、自分から覚悟して。
だから、"お前"も賭けやがれ。
全部全部全部全部、過去も未来も全部。思い出したくも無い思い出を、全てブチまけてしまえ。)
「加害者は被害者には変われない。
なら、…なあ。加害者なんだったら、全部諦めて。
加害者らしく、
…─────僕を愛(こわ)してみせろよ。」
(蛆が這い登る感覚。
ノイズは、未だ響いている。
声は聞こえない。
薄暗い部屋。
ボー────と、何も無い音が鳴り響く中。
脳内は、結局一人だけの廃材置き場と化す。
自ら願うなど、金輪際無いことと願いたい。
鍵は外れてしまったのだ。
愛情は、あの時壊れてしまったようで。
何も知らぬ少年は、今。全て理解してしまったのだ。
全部、最初から間違っているというのに。)
【みかんちゃん】
「──────は」
引き攣った顔がさらに歪んだ。
筋肉が痙攣している。そんな感覚。
あくまで感覚だから、鏡を見なきゃわからないけれど。今はきっと笑えてない。
何も無かったとか。
──嘘だ。
そんなわけない。そんなわけないだろうが。罵倒。
常識的、正常な人間なら当たり前。少なくとも私[俺]はそうだった。何故なら正常だから。
虚勢？強がり？負けん気が強い餓鬼。ああ、いや、違う違う…彼は狂っているから仕方ない。
そう思えば何ら不思議ではないくせにどうしようもない黒い感情の塊がドロドロと煮え滾る脳を揺らす。
ゆくりと振り返ると鏡の自分と目が合った。二つの穴がこっちを見ていた。
なんだ、お前いつまでそんな風な目を向ける。見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見る見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るなな見るな…
────……
「──っは、あはははははははははははははははははははははははははは」
弾かれたように身体をへし曲げて、吹き出すように飛び出たのは爆笑。
鼓膜を震わして五月蝿い煩い。誰だ笑っているのは笑うな。そんな穢い笑いは俺[私]のモノじゃない。これ全部加害者のものだろう。
そうと理解しても止まらぬ雑音のような笑い声。砂嵐混じるテレビの音の方がまだマシだ。
止まることない笑いが病室に谺して空気を震わせる。
腹を抱えて身を捩り背中を丸めて笑うのは誰か。
そのまま捻り切れてしまえ。そのまま喉から血を吐き散らして死んでしまえ。
自分が死んだら××が死んでしまうというのにとんだ死にたがり。
泣いていた。
涙は出てはいないけれど。
そんなもの出し方は忘れてしまった。笑うよりも難しかったから、蓋をしたんだ。
それなのに、
痛くないこころが、居たくないところが、泣き喚いて鳴り止まない。
嗚呼、泣き笑いも甚だしい。
…まぁ、お望み通り嗤ってやろう。
お前が、狂人が望むなら嗤ってやるさ。
そう投げやりな気持ちに宙ぶらりんな感情は揺れる。
元通りの被害者になりたくて加害者である自分に蓋をしようとする。本当は被害者にも加害者にもなりたくなかったとかいう幻想は夢物語。
だから、これは全部悪夢だ。
「──っぇﾞ」
喉の奥で蛙でも潰れたような音が零れて笑いは止んだ。顔を上げて気づいたから。
近づいてくる黒い影に。
伸ばされたその手に。
影踏みする光はなくて逃げ場もない。苦しい逃げたいやめたい壊したい壊せ壊せ壊せと耳鳴りが総じて止まない。
声は聴こえない。
聴こえているのは耳鳴りと心拍計の音と時計の音と
只管羅列された[音]だけ。
真っ赤な部屋が残像のように頭に過ぎっては消えた。
伸ばされた腕に反射的に身体が反り返りよろめいて、座り椅子がバランス崩して(崩れたのは自分か)そのまま床に堕ちた。
転げ落ちた堕慧児なんてクソ喰らえ。いや、それこそ被害者か。
そんなの嫌だ。
嫌だ近づくな来るな悪魔め狂人め。
冷や汗ともに高まる脈圧動悸絡まる思考判断。
吐き気は覚えても吐き出すことは出来ずただ這いずるように後退り。
鏡から離れなくては
虚像から離れなくては
いや、
[壊さなくては]
「あぁぁぁああ来るな近寄るな見るな来るな来るな来るな来るなぁあぁぁぁあ」
悪魔祓いのように叫び散らす声だけが声として耳に届いていた。
あくまで、他人の声として。
気づいたら無我夢中で立ち上がり、その虚像に手を伸ばしていた。
その虚像を消してしまおうと、彼の首に手を伸ばしていた。
殺られる前に殺ってしまえ。
いや、
もう加害者から戻れないのなら、
どうせ加害者のままならば、飲みきれない吐き気も悲しみも笑いも恐怖も
ぶち壊してしまえと
【唐揚げ食べたい】
(ガラリ、コツコツ──────。
何の音かも分からない物音が木霊する。きっと足音か、それとも声か。
狂気に、狂喜に身を馳せては虚無にも笑みを浮かべていく。おはよう、こんにちは、こんぱんは。さようなら。
もう頭の中に何が居るのかも分からない。何が詰まっていて、何が欠けているのかすら理解出来ない。一つだけ言えるとするならば、どうせロクなもんは詰まっちゃいないということか。
虚空。嗤えよ。
何もないとか嘘を付くなと、笑えよ。
でも正解は不正解。だって無いものは無いでしょう？
客観的に見て、ボ───と頭の中で掻き消して、終わりだこんなもの。
失ったのは物だけで良かったですね、と。
楽観視しなきゃ、こんな世界生きていけない。…生きていけなかったから、こうして壊れているのだけど。
いろいろ予想はしていたが、その中でも一番マシなものだった。
何度も言うが"何が起こるか分からない"は"何が起こっても可笑しくない"のだ。だから、いろいろ妄想妄言吐いて───その結果、あの玩具は失った。
それだけ。
何も不思議なことなんて起きていない。
理解不能なんて事態なんか起きているわけないだろうに。何が可笑しい、可笑しいのはお前だろう。
彼を見た。何も変わってない。
鏡を見た。其処に鏡なんてない。
ほら、現実は何も変わってないじゃない？
でもそれは詰まらないから、演ってしまおう。殺ってしまおう。
思考を突き詰めて壊して理解して考えて考えて考えて考えて考えて─────。
────殺しはダメだよ────
そんな声が聞こえるまで、脳を破滅させてしまおう。
積み重ねたもの、罪重ねたものを、一瞬で崩してしまおう。一度壊れてしまったものは、もう元には戻らないから、戻れないから。
だから。
蓋を開けちゃいけないって、言われなかった？)
「ゲロゲロゲロゲロ、───…馬鹿みたい。」
(くすくす、何て無残な姿。人が壊れる時って、こんな感じなの？
なら、自分もこんな感じだったのかな───なんて。酷く客観的に、酷く楽観的に。そうでもしないとやってられないから、全部お笑い、全部大爆笑。皆様御来店有難う、二度と来るなと心の叫び。
リュックに手を伸ばして、とある液体を取り出す。有害じゃなくて、有蓋。蓋があるんだ、コレには。
じゃあ、外さないといけないな？
嗚呼────嘘。演技。
お姉さんに教わった演技が、まさかこんな悪趣味な形で使われるとは。彼女も思っては無かっただろうに。�牋�いことに使っちゃダメ�瓩辰討�姉さん言ってたもんね。言ってたっけ？
あは、おもしろーい。拍手してあげる。
彼の壊れ具合に大きな拍手を。人の不幸は蜜の味、素晴らしい演劇をありがとう。
演技なんてしてないのにね。
まるでコレじゃ、僕が加害者だ。そんなの認めない、君が加害者なんだから。
それだけは、一生背負ってくれないと。被害者が悲しむでしょう？
感情の出し方をまず学べよ、蓋をしてばっかりじゃ何も変わんないよ。…嗚呼、変わんないからこうしてこの場所に居るのか。思い出しに、なんて言ってたかな？僕なんか思い出したくなくても思い出してしまうのに、加害者様は随分と気楽らしい。
嗚呼、イタイ。遺体は、何処に？
要らないものはゴミ箱へ、蓋をしてしまいましょう。
どっちににもなりたくなくて、結局どっちかになってしまった彼の物語。俺の物語。全部必要だから、それは開けてしまいましょう。
全部、そう思った時には既に僕が開けていたんだけどね。
彼の腕は虚空へ還る。既に、その手の中に入っていたから。抱き着いてしまうような、そんな動きと共に嘲笑うようにフフフ、と笑う。
まだ誰かを愛(こわ)そうというココロを蝕むのか。
見下すような視線を送って、彼を見上げた。)
「なぁにそれ。まだ誰かに蓋をするつもり？
意味なんて無いのに、もうやめてしまえよ。
此の先には何も無いって、もう知ってるでしょ。
僕らはもう戻れないんだよ、何処にも。」
(だから、全部壊してしまえと。最初の思考に戻るわけで。
我ながら馬鹿だと思う。直ぐに見捨ててしまえばいいものを、こうしてまだ話そうとする。まだ良心が残っていたが、まだ××が残っていたか。
直ぐにでも捨ててしまいたいのに、人は如何してこんなにも変われないのか。
締めたかったら、閉めたかったら、〆てしまえ。
でも、其処の先には空っぽの世界しか待っていない。二度目は拒みなどしないから、もう一度手を伸ばして隠してしまえ。
ボト、ボ─────。
手に持っていた容器が落ちた。蓋は、開いていた。
中身の液体が流れ出た。
アルコールの、嫌な臭い。食欲が失せる、唐揚げも蜜柑も食べたくはない。
狂気は、凶器へと変わる。)
「ねぇ、どうしたいの？」
【みかんちゃん】
もう、蓋は外れてしまった。
廻しても回しても幾ら捻っても閉まらなくなってしまっていた。
ネジの捻じ切れたオルゴールの発条(ゼンマイ)か。
それに気づいた頃には時既に遅し。
可笑しくってお菓子喰ってばかりで嗚咽は止まらなかった。
嘘。ジョーク。冗談。
いっそ彼みたく掌叩いて笑ってやろうか。
お菓子なんて甘い物全て失ってから口に入れたことはない。そういえばあの季節は蜜柑が実っていた。美味しそうな香りに鉄臭い血の匂いがドロドロドロドロ。走り回った足の裏に茶色の紅が染み付いて剥がれない。
開いた瓶の奥から、割れた瓶の奥から記憶や感情、全部溶けだして絵の具で掻き混ぜた水のように薄汚い。
加害者と被害者は紙一重。
帰り道拾った蜜柑。
部屋に飾ろうってあなたに言うつもりだったんだ。
飾られていたのは血塗れたあなたで、蜜柑はぐしゃり潰れましたけど。
夢の話か？空想話か？御伽噺か？
非常に残念ながら世の中非情なわけでありまして、これら全て現実(ノンフィクション)。
──誠に遺憾である。
残った遺族はどうします？残った死体はどうします？残った感情はどうします？残った憎しみは残った虚空は残った私[俺]は？
蓋が出来なくて他のモノを壊してしまいました。
なんて笑い話もいいところ。だから今自分は笑っているのかな？なんて客観的な感想しか浮かばなくなってしまって。
まるで観客席に座る客の気分…──
椅子に深く腰掛け退屈なエンドロールだなと欠伸一つして眠りにつこうとする。
──自由落下。
そうすればぐらりゆらりと重力と体重に任せて倒れ込んでいた。
肩を押していた。
抑え込んでいた。
叩き堕ちたのだ。
失墜してしまったんだみんな。あのバスが落ちたときには手遅れだったのだ。
フリはもう無しだ。
振り付けなんて必要ない。これら全てアドリブだったんだから。この悲劇も喜劇も何もかも最初から。
「あなたが死ねば私も死ねるのに。
あなたが生きているから私は死ねない。」
呪いのような幻聴を自らの口から吐き出す度、喉から溢れる唾液に窒息死してしまいそう。
臭い臭い臭い臭い笑いも全部吐き散らして履き散らして壊してしまえ。
初めて[音]が止んでいたことに気づいた。
驚く程に何処までも無音。無音は生きている間には聴こえない[音]のはずなのに。
嗚呼、私が死んだのかしらん。
被害者としての俺が死んだのかしらん。
目の前に落ちている彼は被害者である私[俺]。
覗き込むその口が見上げるその目が動いて[声]が聞こえた。
もう戻れないよ。
戻りたくなんかないよ。
もう戻り方なんて忘れてしまった。
フリなんかじゃなくて、覚えてないんだ。
本当は、戻りたかったけれど。
────何処へ？
そりゃあ………
「────何処だっけ？」
何処へ？誰の場所へ？何時へ？
何が、したいんだろう──
「壊したいんだ。
過去も、今も、未来も、」
嗚呼、そっか。
私は俺を壊したいのか。
虚像ではなく実像を壊したかったのか。
なぁんだ……そんな簡単なこと出来ないのは、結局
彼に跨ったまま、首を持ち上げて天井を見上げた。赤なんて何処にもなくて、ただ只管に真っ白な壁が暗闇で浮かび上がっていた。
「あははぁ…──死に損ないが」
無気力に吐き出した言葉は俺にも彼にも向けてなぞいない。
此処にはいない。
唯一残った××に…
妹に向けて吐き出した。
[あなたが死なないから私は死ねない]
それは妹の言葉じゃなくて私の言葉だったのか。
「あなたがいるから俺は死にたくない」
はははは──…
「────つまんねぇの」
目の前の彼をどうすることも出来ず、ただ虚しくカラッポな
涙が、零れた。
【唐揚げ食べたい】
(泣きたい。鳴きたい。否、亡きたいか。
蓋を閉める努力もせずに、早々に投げやって蓋ごと瓶を捨ててしまったのは俺です、僕です。蓋は閉めたいけれど、堕落してしまってそんな気力すら無い。泣きたきゃ啼けばいいし、笑いたきゃ嗤えばいい。
面倒だから、そんな感情も纏めてゴミ箱に入れてしまえ。溢れ出た感情をそれ以外で止める方法なんて無いのだから。
頭の可笑しい彼を見て、頭の可笑しい僕は哂う。
どちらが正気、どちらが狂気。傷の舐め合い、押し付け合い。他人を蹴り落とすとは正にこのことで───何方も凶器だと言うのに可笑しな話。子供らしくて、馬鹿みたい。
最初から矛盾しているのだから、歯車はもう止められない。止めようとする人も居ないのだから、ある種当たり前である。
其の内錆びて動きも止まる。その時どうなっているかは僕の知る範疇ではないが。
虚言。
何のことを言っているのやら。
死にたがりは何方様、"あなた"が死んでも"私"が死んでも何も変わりなどしないのに。未だにこうして"生きる理由"を、"死ぬ理由"までも他人へ責任転嫁してしまうのか。
如何足掻いても、愚かな人間は愚かな人間でしか無く。
嗚呼、誰のこと？
─────そりゃ、勿論。
自問自答、脳内会話、妄言の連続。自己語りの究極の地。
こうして偽って消してばっかで、決してしまうこともできずにコップに水は溜まり続ける。いつしか溢れてしまったが、それすらタオルで拭いてあげれない自分を呪え。
自己犠牲、自己嫌悪、自己暗示、数え切れない不運を呪え。結局、死ぬも生きるも運命でしか無く。生き地獄を味わってしまえ。…もう味わってる？そりゃ、ごめんあそばせ。でもワザとじゃありませんのよ。マリーの戯言、漠然としていて誠に滑稽。
被害者か、加害者か。
変わることはないが、最早それも如何でもいい。一度付けられた烙印は、消せても外されることはない。
甘んじて受けよ、認めたくないものも全て。彼に言っているのでは無く、自分にそう言い聞かせ。
フラッシュバック。
とろり。暑い夏の日。蚊も嫌になるような、強い日差しの日。
善行をした。徳を積んだ。
そして、
歪んだ愛を知る。
愛情なのだから、歪みなどないはずなのに。
誰も信じられず、今日の日を迎え。そうして今に至る。
───
演技(フェイク)。だが嘘では無く、真実。
過去のことであると割り切れてしまえば楽なのに、そんな日もあると思い込んでしまえば楽なのに、その中そんな辛い人ばっかりじゃないと暗示しきってしまえば楽なのに。
如何して、それが出来ないの。
人として、最低。
演技でもして、暗示したフリでもしていればいいのに。それが出来ないのは、自分が演劇なんかしたことないからなのだろう。
やったことないものに手を突っ込むなんて、金輪際ゴメンだ。この先なんか、あるか分からないけれど。
下手な演技を重ねてしまえば拍手は大喝采。右も左も知らぬ素人に、この劇の良さが分かってたまるか。自己満足の結晶、二人だけの演劇は加速する。
客なんかには成らせない、客なんか要らないから。元より、此処に人なんか居ないよ。
だって、僕はずっと孤独だったんだから。
皆仲間だと、思ってたのに。そうじゃなかったから。
だから、────)
「──────おめでとう」
(違くて、そんな言葉じゃ無くて。そうじゃ無くて、言葉が見当たらなくて。
脳を壊しすぎて、挙げ句の果てには見合う言葉すら消えてしまったか。
あは、あはははは。変なの。
今迄ちゃんと言葉を紡げたのに、会話じゃ無くなってでも言葉を書いていたのに。それすら出来なくなってしまった、可笑しな人間。
声は聞こえない。
声を聞かせて。また言葉を連ねたいから、君と会話したいから。脳内でしか居られない君と、僕とで会話がしたいんだ。だから、お願いだから。
ねえ、ねえねえねえ─────
僕には君しか居ないんだよ。
京香。
じゃなくて、
キョーカ。
脳を、巻き戻させてくれ。時を、元に戻してくれよ。
────壊れたものはもう戻せないから────
なん、で。如何して。
だって僕には君しか居なくてでも君は消えてしまったから僕が作り直してあげて楽しい世間話をして僕の友達で居てくれて演技まで教えてくれて友達の居ない僕のずっと横に居てくれて起きる時も寝るときもずっと一緒で僕の大切な大切な大切な大切な
友達、だっけ？
大切な、もの。────もう何処にもいない。家には、帰りたくない。
閑話休題。
話を戻そう。飛躍する頭を戻してみよう。
彼は壊したいと言った。それは同じ、同じ気持ち。嗚呼、こんな最悪な気分になるならば彼となんかあわなければ良かった。)
「じゃあ壊してあげようか。
つまらない毎日も、全部。」
(もう戻りたくないでしょう。君と僕は似ていて、絶対に分かり合えないから。
知っているんだ、全部。だって、理解出来ないから。
支離滅裂理解不能、頭の中は伽藍堂。まるで淡い水彩絵の具のような、スッカラカンの頭の中。
蓋は開きました。
瓶は空きました。
全て飽きました。
何もかもリセットしたい気分。リスタートなんてしなくていいから、全部最初に戻ってしまえばいいのに。
蓋の付いてたあの頃に、布で隠してたあの頃に、戻ってしまえばいいのに。
そんな夢、そんな希望。
全部、嘘。
リセットなんてしたくないし、最初になんか戻りたくない。もう二度と、あの日々は味わいたくないから。
このまま、この"唐揚げ食べたい"として。全て終わってしまいたい。
──────
あ、そういえば。
こんな脳内語りをしていたら、蓋を閉める方法を思い付いたんだ。
試してみようよ。何もかも壊したいなら。被害者に、加害者になりたいなら。)
「おめでとう。」
(今度は意図的に、そう呟いた。
ピチャリ、と床に広がるアルコールの匂いを感じながら。電子色の、パレットを取り出して。
彩ましょう。…なんて、巫山戯たことは言わないが。とある短文を打ち込んで、送信する。
『────────────』
もうその頃には、灰しか残っていないかもしれないが。比喩ではなくて、本当に。
持っているものを入れ替えるように、マッチを手に取り。
さあ、最期の仕上げをしよう。全て蓋をする為に。
アルコールは一瓶。衣も油も無いのが残念だが。材料としては満足か。
狂気の、凶器の料理を始めよう。
味付けはこのクソみたいな俺達のシリアスとか、如何かな。)
「最期の瞬間。晩餐にて。
──────君は被害者になれたじゃないか。」
(そして僕は、加害者に。
酷く憎んでいた人間に、僕は成り下がる。
顔に弧を描いては。
火を点けた小さな松明を、床に落とし。
それは、床のアルコールに広がって。
燃ゆる燈へと、姿を変える。
───それは彼は勿論のこと、自分をも包み込み。)
「ヒッ……キヒャッヒャアハハハャッハハハハハ！！！！！」
(憎んでいたあの彼奴と、重なる哂い声。
熱さなど疾っくの疾うに麻痺してしまった。何も感じない。包み込む業火すら唯の飾りのようで────。
もう戻れない。もう戻らない。もう戻りたくはない。
さようなら、みんな。)
【みかんちゃん】
見上げた天井が涙で滲んでぼやけて消える。
あ、真っ白。
真っ白なのは天井か視界か脳みそか。
まるで白い絵の具を塗りたくっただけのキャンバスみたいね。
記憶の発条が巻き戻る。
開いた蓋の向こうのオルゴールが奏でる記憶の鎮魂歌。
あの日は真っ白な飛行機雲が青空に線を謎る快晴。何時も変わらぬ足取りで扉を開いて靴をなげだしてその手に抱えた蜜柑一つ。
落下した。世界が転倒した。点灯した。
赤い部屋の光景がぐるりぐるり。
潰れた家族の残像。作りかけの柘榴のジャムが瓶から溢れてじゅくじゅくと。
夏の終わりに消えた蝉時雨と透過した記憶の季節。
本当にその季節かは覚えてなぞいない。
ただ、小さなあなたが泣いていた。
鳴いていた。啼いていた。
悲劇の一ページにしては陳腐でありきたり。
ただその日は酷く、暑かったな。
真っ白な空間の中君は眠っていて、俺は座っていて。
君が息をする度、呼吸器が白く雲っては白く澄んでの繰り返し。
機械的な[音]に囲まれて、機械的な管に絡まって、君は植物のようにただそこに眠っていた。
植物状態というから凡そその形容は間違っちゃいないだろう。君が時々泣いていたのは、時々手を伸ばしていたのは俺に助けを求めていたからなんでしょう？
なんて…
そんなわけあるか。
あれは全て神経が本人の意志とは無関係に動いているだけだ。
医者は眉尻下げて申し訳なさげに俺に告げていた。申し訳なさそうな顔して嘲ていた。
知ってる。知っていたけど、知らないフリして、わからないフリして、あの手の先に自分がいれたなら救えたのかなって何時も何時もその手を握っていた。二人きり…否、独りきりの病室で。
只管に涙しか溢れなかった。
俺が君を助けるから。
[ならなんであの時助けてくれなかったの？]
この声が聞こえるようになったのはこの時からか。
今更。手遅れ。五月蝿い煩い五月蝿い五月蝿い五月蝿い…
蓋をした。一つ目。
気づいたときには男の首を絞めていた。
全ての元凶、悲劇の元凶のその男を。
気づいたときにはその喉をかっ捌いていた。
赤い折り鶴が空に飛んで行ったのを思い出す。
赤い彼岸花が一面に咲いたのを覚えている。
痙攣する指が足が俺の全てを奪った。
怒り妬み恨み怨み…
怒りしかでなかった。
全てに対する怨みしかでなかった。
[お前も同じ加害者だ]
俺は加害者になった。被害者の声が聞こえるようになった。それはこの時からか。この時世界が逆転した。崩壊した。
だから、
また蓋をした。二つ目。
三つ目、四つ目、五つ目、…十…──
気づいたときには笑いしか残らなかった。
笑っておけば蓋をしたままでいられると気づいたから。
[──て怒らないよね]
[──て優しいよね]
[──て不気味だよね]
[笑ってばかりで]不気味。
──────は？
意味が分からなくて、わけが分からなかったから。それだけだけど
その言葉に蓋をした。
見ないフリ知らないフリ気づかないフリ…そしたらもう平気。
嗚呼、よかった。
苦笑、失笑、冷笑、照れ笑い、微笑、愛想笑い、空笑、嘲笑、憫笑…──
その笑い全てに意味も理由もなく、あるのは[必要]だけで。
歯車を廻す。
ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる…──
現在に至る。
白い壁が赤く瞬いて揺らめいてメラメラメラメラ目に赤い炎が映っていた。
アルコールの臭い燃える臭い臭い臭い臭い鼻を劈く匂いがした。
手足が身体が吹き出すように脂汗と冷や汗が混じりあって髪の毛が額に張り付いていた。
五感が一斉に意識を引き戻す。
意識が戻って、我に返って、彼の笑い声が聞こえた。聞こえた？いや、聞こえなかった。口角上げて目は三日月のように細めているのだから、多分嗤っているのだろう。
依然、聴覚だけは戻らず、
無音という[音]だけが鼓膜の内側で続いていて。
嗚呼、私は死ぬのか…とか死ぬならあの時死にたかったな…とか、最後の最期まで客観的な感想しか浮かばなくて、酷く虚しい。
[私が死んだから君は死ねる]
独りよがり自分勝手に生に縛り続けた君を解放出来る。漸く、解放される。
君から私からあなたから俺から全てから
そう思うと、溢れた涙は止めどなく零れて、アルコールに満ちた炎の海に海の雫が流れ落ちた。堕ちて、消えた。
壊れたように笑い続ける彼はきっと過去の俺で。歪んだまま蓋も出来なかった哀れな被害者。
虚像と実像が
──今、重なった。
なんだ、やっぱり似たもの同士。
同族嫌悪も甚だしい。蓋をしてもしなくても堕ちるところは同じというわけでありまして。今まで必要だと思ってしてきたことは全部必要もないただの道化に過ぎなかったのか。
つまらない奴。つまり、お互い様ね。
「──あは、あはははははははははははははははははははははははははははは」
過去の彼が笑うから合わせて俺も笑うことにする。
阿鼻叫喚不協和音笑え笑いの大喝采。
どうせなら踊り踊れ踊られ。絡まった糸で二人這い上がれないところまで堕ちていこう。
なんて腐った結末。
エンドロールは最後まで見る必要もなくて。
たったと空っぽのポップコーンの箱持って退場しましょうか。出口はあちらでございます。ああ、暗いですからどうか足元にお気をつけを。
ご機嫌ようさようなら、
二度と来るな…──
出口の重たい扉を押し上げて帰ろう帰ろうと歩き出したとき、光が目を眩した。
最期に見えた甘い吐きそうな幻想。
それに俺は咲った。
[おかえり。お兄ちゃん。]
お前はまだ生きてるじゃないか。ああ、けど、俺が死んだらお前も死ぬのか。
そうか、合ってるか。
会えるのか。
また、次は言えるのか。
戻れるのか。
なら、
「──────ただいま…」
今日、花の付いた蜜柑を拾ったんだ。
いい香りだから、飾ろうと思って…──
それにしても
熱いね、今日は。
なんて、夢の中に堕ちていった。
【唐揚げ食べたい】
(紅い影。黒い影。白い影。───鮮血のような赤赫緋が眼に広がり、雪のような痛さが身を包み込む。
鉄が溶ける時のような、赧くてどろりとした感覚がする。自身は溶けているのか、焼けているのか。
もう何も見えないから、分からないけれど。否、写すのを諦めたと言った方がいいか。失明なんかまだしていないから、眼を閉じただけ。
瞼に焼き付いている。離れてはくれない思い出の数々。
脳にこびり付いている。消してはくれない絶望の数々。
病院は嫌いだ。病院のお世話になったことはない。
だってあの薄暗い雰囲気が、少しあの時に似ていたから。…嘘。ただ単に嫌いだっただけ。そんな昔の出来事でもないから、この理由は付け足しと言っても過言ではない。
死ぬ直前って、こんなに虚しいものなのか。ココロも脳も何もかもが空っぽの空瓶で、何故か冷静に考えられてしまう。
だから、全部思い出してしまう。それはもう、走馬灯の如く。
フラッシュバック。
何も変わらないあの日。少しだけ帰路に着く時間が遅かっただけの日。
とある人間に話しかけられた。今でも覚えている。
最初の言葉、この言葉さえ無ければ。僕は、──────。
�爐海諒佞僕茲襪僚蕕瓩討如Ｆ三篤發靴討�れないかな��
公園。近くの、何ら不思議の無い公園だった。木が生えていて、それだけ。
暑い夏の日、友達も居た。何もかも平凡な日常で、───他は何も覚えていない。
どろり。
嫌な良心が残っていたから、何の変哲も無い日常を過ごすような気分だったことを覚えている。
気紛れでも無く、最悪なココロ。踏み潰してグシャグシャにしてゴミ箱の奥の奥に投げつけて仕舞い込んで捨ててしまいたいモノ。
暑い、熱い、熱い熱い熱い、熱い熱い熱い熱い熱い熱い
──────
は、と意識が途切れる。
熱は感じているが、痛さとか苦しさとか。比にはならないけれど、自らの意思であっただけ此方の方が気が楽だから。だから、痛くも痒くもない。
ステンドグラスが割れる音がする。そこには何もないのに、そんな音がする。
これ以上は壊れてしまうと知っておきながら、もう壊れているからと無情にも扉は開く。
パキリ、────カラカラ。これはどんな音だっけ。
フラッシュバック。
家に居た。死ぬほど明るくて、真っ赤な空間。黒一つない、闇一つない部屋のような。
夜は嫌いだった。
暗いから、暗いと何か起きてしまいそうだから。何が起きても、可笑しくないから。だから、真っ赤なベッドで僕は眼を覚ます。
隣には何時も彼女が居てくれた。
友達は居ない。でも、親友がいた。
くるりと一回転。
知り合いの女の子の名前を付けたのは我ながら悪趣味だと思う。
でも、仕方ないよね。…キョーカ。
全て、包み隠そう。コンクリートに埋めてしまおう。
──────
想い出を語る。思い出を騙る。こんな所で嘘を創り出す理由などないし、この自己語りも死ぬまでの現実逃避でしか無いのだが。
無音、無音、赤赤赤赤赤赤赤赤────虚無。
闇は嫌いだ。それに、吸い込まれてしまいそうだったから。
だから全部ぶちまけて、紅色に染めてしまった。自己嫌悪に苛まれて、自らの塗料を塗りたくって。
なんて妄想。悪い癖だが、もう消えてしまうのに直す気は出ない。
実際は何色だったか。今はそれすらも思い出さない。憶えている必要もなかったんだろう。
でも幻覚を見てでも闇を消さなければ、なんて自身の防衛本能が働いたのか。それもと、実際に赤色だったか。
矛盾だらけ。脳の中は、パズルを組み立てようとして失敗しているらしい。
パズルの1ピースを一つずつ見せ付けようとしているのか、馬鹿らしい。
フラッシュバック。
かくれんぼ。鬼から隠れ切れるかな。
開始10秒、鬼ごっこのように。見つかって、さあお終い。
終わりだ終わり、こんな演劇やってられるか。
劇じゃなくて、現実だけれど。けれども逃避逃避忌避忌避忌避。逃げろ逃げろ、逃げなければ死ぬ。
まあ、死んでしまったんだけど。
──────
溶ける燃える欠ける溢れる堕ちる──考える脳も、どうやらそろそろ限界か。
最期に声が聞きたいの、あの時からずっと聞こえなかった声が。
僕が創り出したものじゃなくて、僕の脳内じゃなくて、好きでも嫌いでもないあの子の声が。
そういえば、死んでるんだっけ。
じゃあ、会えるかもね。)
「フフフアハハハハフハハハアアフアハハハハ………ハハ、アハハハ……」
(もう笑うのにも飽きてしまったから、捨てた。
塵は塵に、灰は灰に。全部纏めてゴミ箱に捨てなきゃ。そのゴミ箱も、もう容量オーバーで溢れている。詰め込むことも出来ないの、だってそれは水を入れる為の小さなカップ。
全部全部溢れ出ていくのだ。身もココロも全て、無に還る。
虚無しかなった僕にとっては、当たり前の結末(バッドエンド)か。…否、寧ろハッピーエンド。
関係の無い彼を巻き込んだことを悔もう。
然し、加害者に未来は無いと。────たった一人、孤独な被害者は考える。間違っている、間違っていることを必死に"正解だ"と暗示をかけている。
フラッシュバック。
ねえ、如何して此処にいてくれるの？
貴方が可哀想だから、かな。
僕の友達で居てくれる？
嗚呼、勿論。
ありがとう、ありがとうお姉さん。"僕だけの"お姉さん。
小さくてごめんなさい、あまり手先は器用では無いから。"正しく組み立てる"ことは出来なかったけれど。
脳内会話。何時ものこと。独りになってから、ずっと続けていた。
こうしている間だけ、僕には友達がいる。僕には仲間がいる。
人間なんか、要らないよ。人形(キミ)さえ居てくれれば。
──────
蓋なんか外されていた。…いや、元々僕に蓋なんてなかったんだ。あるようなフリをして、色んな人の真似事。子供らしくて、最も愚かなこと。
隠せないから、捨てた。捨てるフリをして、ずっと溜め込んでたんだ。何処にも投げることの出来ないこの劣等を、怒りを、恨みを、嫉妬を、全部全部ココロに詰め込んでいたんだ。詰め込んで傷んだ。
いつしかココロは壊れていた。もう元には戻せない。
いや、最初からずっと壊れていたか。
ゴポリ、と何かが湧き出る。汚くて綺麗な、何か。死の合図か。
天を仰ぐ事も出来ず、ただ朧げな脳内を見つめていたんだ。何も出来ない、人間失格な僕が。
一番人間らしく、今輝いている。
フラッシュバック。
学校。何の変哲も無い日常を過ごそうと思って、やり直そうと思っていた。
でもいつしか、全ては漏れていたらしい。
�爐覆◆※；；；；； ���
煩い。五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔
人の気持ちなど分からず、好奇心だけで聞いてくる。
野次馬(クラスメイト)は、僕のようにココロごとカラダごと全て消えて居なくなればいい。
その心を、また押し殺す。
何時ものように、同調してやり過ごす。
靴の底のようにすり減ってぐしゃり。
──────
無感情、無表情。何もすることの出来なかった自分を呪え。
ケラリ、ケラケラケラ。友達にする人間はちゃんと確かめた方がいいな。誰でも来いなんて言って、痛い目を見てしまったから。
そんな反省もまあ、全部意味なんて無くなるんだけど。
目の前の彼も含めて、全員嫌いだった。両親もクラスメイトも何もかも嫌いだった。世界を呪っていた。呪われるのは自分の方なのに、棚に上げて恨んでいた。
壊れるように笑った。加害者のように。
崩れるように泣いた。被害者のように。
今はどちらか、分からない。表情すら、表せない。
彼がどちらなのかも解らない。理解出来ない。────やっぱり、似ている。
フラッシュバック。
熱い感覚がする。逃れられない情欲と、消してしまいたい記憶の狭間。
何もかもが熱くて、暑くて、───全部忘れてしまいたい。
全てが朧げで。それでいて鮮明で。焼印のように、掻いても掻いても殴っても壊れても消えない。
音。声。復讐を誓う。未だに出来ていなくて、これからも一生出来ることはない。
�猗鏗下圓蓮△匹β�掻いても被害者だよ��
ずっと巡っているんだ。最後に言われたあの言葉が。脳に焼き付いて離れない。
肉を伝う音を、今でも忘れない。
──────
嘆いた、叫んだ。声にはならなかった。鼓動が速くなる。死が近づいている。ずっと逃げ続けて、それだけはずっとしないでおこうと思っていて、そして今やっているもの。
案外悪い気はしない。クソみたいな世界で生き続けるくらいならば、こうやって狂気的に生きていたい。
どうせ何も変われない。時計は巡る。虚無を歩く。
諦めた思考。諦めてしまっては出来るものを出来なくなるのに。
諦めてはいけない。もしもの世界を信じていたい。ポジティブに生きたい。
僕は、否。俺は、"唐揚げ食べたい"という楽観的な人物なわけで。
もし人が変われたなら。
クソみたいな世界をやり直せるとするなら。
俺は、僕は、人を信じてみたかった。人を愛してみたかった。
とか。そんなことを思っていたい。
夢物語を語るわけにはいかないけれど。
今だけは"もしも"を語りたい。全部無駄なのに、中途半端に思考は巡ってしまうから。
もし人格が違っていて、何もかもが違っていたならば。変わっていたならば。
────僕は、変われただろうか？
声にはならなかったと思う。でも、そう言い残しておきたかった。
さようなら、みんな。無駄な死になってしまうと思うけど。
でも少しだけ、楽しかったんだ。
信じることはできなかったけど。ゲームなんて、馬鹿みたいだと思うけど。
なんだか最期だけ、良いように脳内語りを締めくくるのはちょっと反則みたいで嫌だけど。
全部自分の中の世界。これも全部、脳内だから。好きなように、終演を迎えてやるさ。
ありがとう、みんな。
…みたいな。
もしかしたら、この語りも全て演技(フェイク)かもしれないな。
悔いはない。嘘。
最期に一つだけ悔いがある。大したことじゃないけど、
フラッシュバック。
…───もっと唐揚げが食べたかったな、なんて。)
【みかんちゃん】
病室〇〇〇号室にて。
チクタクチクタクチクタクチクタク
秒針は動かない。耳の中鳴り響くだけ。
止まった秒針は昼間だか深夜だかわからぬ2時を指していた。
実際の時間は知らない。知る必要もない。
どうせあのときから止まっているだろうから。
動かない時に逆らって裏切るように自分と××は成長していく。××の意識は時と共に置いてきぼり。
──俺の感情も蓋をしたまま、置いてきぼり。
それが今更になって開いてしまって、溢れたモノも悲しいほどに泥臭く灰色。
あなたのために人を殺しました。
また人を殺しました。
自分のためにあなたを救いました。
また人を救いました。
「──君のせいにさせてはくれないだろうか」
布団も敷かれていないカラッポ伽藍堂のそのベッドの横座り込み、とうとうと流れ出した感情。
全部を全部、他人のせいにしてしまえば自分という存在は塗り替えられる。
嘘。
塗り替えることは出来ないから、代わりを作って知ったかぶった顔で知らん顔を続けて
疑いの視線を逸らす。
誰から逸らすかなんてことは興味なく、あとは流れ出した時に身を委ねるだけ。
だから、この病室に居座ることも何ら怖くはなかった。
【唐揚げ食べたい】
「…みんな死んでしまえばいいのに。」
(ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる────。
思考は廻る、目も回る。
けれども視界は歪むことなく、グニャリグニャリと虚無の世界。
人が死んだ。何人も死んだ。
何人死んだか正確な人数も言えなければ、何処の誰が死んだのかも自分には分からない。
生憎、死者の一人の"名前も出せない"。
だけど。クラスメイトであることは確か。
ならば、こんな絆なんかこれっぽっちも無いクラスならば。
いっそ全員死んでしまえ、なんて。
そんなことを思ってしまったから、つい呟いてしまった。
また、病院に居る。
気付いたら病院に居る癖を直したい。もう此処が拠点かもしれない。ペンションには暫く戻って居ない。
生前、病院のお世話になったことなんかない。お世話になりたくもなくて、無理矢理隠して学校生活を愉しんだフリをしていた。
いつからか情報が漏れて、それもおじゃんになってしまったけれど。
ベットの上に静かに座っていた。無気力に、その目には何も写していないかのように。
此処に居ると、音が聴きやすい。だから、今回の足音も聞こえた。聞こえてしまった。
此処に居ると、毎回誰かに会う。それも、苦手な部類の人間に。)
「──────、ｯあ、゛……！」
(独り言。あの声は、いつか聞いた蓋の声。
全部隠してしまう為に、自分を閉じ込めるのではなく。他人すらも、閉じ込めてしまった人間。
今まで"つみかさねたもの"を全て壊してしまおうと、更に"つみかさねてしまった"人間。
咄嗟に首を締めた。自分の。
加減してしまうから、気絶したりはしないけど。血管が締まった時のような堕落感がした。何回、こんな死にもしない自殺未遂をしたことか。)
「……誰かのせいには出来ないよ。」
(突然として、答えてしまったのは首を締めた反動か。
彼とは話したくなどなかったけれど、話さなければならなかったから丁度良い。
正常な思考が欠けている時の方が彼とは話がしやすい。
意識はあったが、無意識に反応して。自身の存在を相手へ気付かせようとしていた。
まだ××が残っていたか。憎たらしい。)
【みかんちゃん】
聞こえた声に少しだけ驚いたように瞳孔が揺れた。
我に返って、頬を緩めて笑う。
いつも通り嗤う。
××の声ではなく、見知った彼の声だと分かってはいたけど。分かっていたから嗤った。
ああ、そうかい。
なら意味も成せない理由もない××はどうしてまだ息をしている。
どうしてまだ、息を紡ぐの？
どうしてまだ、死なないの？
どうしてまだ、生きているの？
どうしてどうしてどうしてどうしてどうして…──
どうしての先には、暗闇しかなくて。
逃げたくてやめたくて死んでしまいたくてももうどうしようもなくなってしまった。だから今も私は止まらない。
私がいるから死ねないの。
「──あなたは似ているわね。
似ていて……酷く、劣ってる。」
あなたとは俺の事か。
あなたとは彼の事か。
それとも、××のことか。
…──
多分それはどちらも指していて指してはいない。
矛盾。虚言。戯言。狂言。
全てに意味はないのだけれど。
蓋をした瓶の中、また彼に会ったのだから今は偽りもなく彼に対する言葉を紡ぐことにしよう。
あくまで、加害者として。
あくまで、被害者として。
【唐揚げ食べたい】
(体育座りして、ゆらゆら──と左右に揺れる。影が伸びて、影が縮んで。影を見つめても、影送りをする陽は届かず。
いつになっても薄暗い部屋を見ることもせず、溜息と共に幸せを逃がしていく。
彼の笑みを不愉快そうに見つめて、間を置いてケラリと哂う。
もういっそ、全て忘れてしまおうか。嫌だった思い出も、楽しかった思い出も、全て全てリセットしてしまおうか。
そんなの、出来ない癖に。
いつまでもいつまでも、脳にこびり付いて離れないから。これはきっと一生付き合っていがなければならない運命なのだろう。
悪いことした罰、とか。
悪いこと、した覚えなんてないんだけど。)
「────"君"も、似ている。
自分のことしか考えてなくて、愚かなところが。」
("お前"じゃなくて"君"。はてさて、誰のことを言っている？答えは"不明"。
分からない問題、自分ですら誰のことを指しているのかなんて知らない。知りたくもない。
よって答えは無くて、分からない。
謂わば、ナンセンス。
彼の言葉も含めて、全て無意味に還る。
声は聞こえない。音沙汰もない。
でも、もうすぐ話せる気がするんだ。君と、貴方と、俺と、僕と。そして、私と。
脳内だけど、君はそこに居るから。
だから、安心してくれていいんだよ。ずっと一緒にいてあげるから。
──────
妄言。唯の意味の無い空想。"無意味"なんて言葉よりも意味の無い言葉。
どうせアイツもそう。彼もそう。
全部、雑音。全部ノイズで、邪魔で邪魔で仕方がない。
ここで問題。
加害者は、誰？
────心に決めた人間が、正解で不正解だ。)
「またこんな所に来て、何しに来たの？」
【みかんちゃん】
互いの質疑応答押し問答は誰に向けたモノなのかわからぬ[音]でしかなく。
互いに笑う。
互いに嗤う。
咲うことが出来ないのはきっとお互いが嘘で塗り固められてしまっているから。
コンクリート詰めの瓶？
そんなところか。
否、割れた瓶にコンクリートだろうがジャムだろうが詰めたところで意味なぞ成し得ないわけでありまして。
「意味はないよ。ただ必要なことを思い出しに来ただけよ。」
そしたら思ったよりも正常な脳はすっからかんと冴えたまま。驚いた。自分にとってコレはその程度のものだったのか、と。
「ねぇ…聴こえるかしら？
電子音。心臓の音。心拍数。
この音が鳴る限り、この音の前でだけ、
私は被害者なの。」
誰に語るでもなく、何を騙るでもなく、
垂れ流す言葉。
これも虚言かもしれないけれど。
いや、もうどれもこれも私が口から零す音は虚言でしかないのかもしれない。
利己主義でも利他主義でもないなんて言っておきながらその実、両方兼ね備えただけだったりするのだから。
1拍。
息を吸う。
「でも、この音が聴こえないとただの加害者。」
【唐揚げ食べたい】
「…どうだか。」
(誰に言うでも無く、"彼"に。
座るのにも飽きてしまったから、ベッドの上に寝転がった。疲れたのか、眠気が襲ってくるけれど。寝てなんかいられないし、もう目が冴えてしまって寝られない。
脳が重くて、グチャリと視界がボヤける。
涙で視界が見えない、なんて時のように。この朧な光景は嫌いだ、嫌なものも思い出してしまうから。
蓋は開かれた。
けれども、それに気付かず。開いてないと思い込んで、布で包み隠す。
どんな手段を使ってでも、他人に対してにも蓋をしようとするからタチが悪い。
"つみかさねた"モノを崩さないように、更に"つみかさねている"。
フラッシュバック。
どろどろ──、
閑話休題。
こんな思考をしてしまうのも、周りが薄暗いからだろうか。
病院なんて来るもんじゃなかったな、と今更後悔した。)
「…────、音なんか聞こえないよ。
だから、君は加害者。俺は被害者。」
(誰のことかも分からぬ"君"に、事実を突きつける。どれだけ足掻こうが、加害者が被害者になることはない。そして、その逆も然り。
此処に来て、理解してしまったんだ。復讐をしても、ぶっ壊しても、どうせ結末は被害者なのだと。
その立場が、逆転することなんかない。
大胆な復讐劇でしたね。
ちゃんちゃん。
それで終わり、何も変わらない。今までやって来たことに意味なんて無かったんだと、理解するのが"やる前"だっただけマシか。
糸は切れた。蓋も取れた。布は捨てた。
もう何も隠せるものなんかない。
フラッシュバック。
どろり。
最初に戻ろうか？リスタート、とか馬鹿らしいけど。馬鹿だから、仕方ない。
どうせ声なんか聞かせてやくれないんだから。だって全部、俺の創造物だもの。
だから、だから。吐き捨てるように、意味も無く煽るように。)
「なぁ、知ってるか？
"ユキグニ・キボウ・プログラム"ってのがあるらしいぜ？」
【みかんちゃん】
「聴こえない？
…嗚呼、ならそうね。そうなのだろうね。
──…俺は加害者なのだろうね。」
知ってましたけど。
なんて
引き攣った笑みと上擦った声がどうも拭えない罪の証拠。
この手はもうどうしようもないくらい汚れていて…別に汚したかったわけではない。出来ることなら今まで通り、昔のまま、真っ白な、手遅れ。
その手で自分の顔を覆うことすら許されない。
開いた扉の先の光景。
貴方と貴女が死んでいた。
××は生きていた。
××は死んでいた。
生きながらに死んでいた。
自分のせいで死にながらも生きている
──愚かな××。
嘘。残像。全て夢の話。
聴こえない[音]、聞こえない[声]に縋って呪われて怯えて蓋をした誰かさんの夢の話。
被害妄想とでも言っておこうかしら。
だから嘲るように笑う。
知らないフリ見えないフリ気づかないフリ。
もう意味はないと分かっていて、分からないフリをして彼の狂言にもからりと乾いた笑いを浮かべる。
「なにそれ、知らないわ。そんなもの。」
[みんな死んでしまえばいい]
訂正。
[みんなで死んでしまえばいい]
そうすれば××も私もみんな
はい、おわり。
【唐揚げ食べたい】
「…………、…人は変われないよ。」
(時は巻き戻せないから、全て生まれた環境起こった出来事で何もかも決まってしまう。
変われないが、歪みはする。隠すことも出来る。
全部包み隠して押入れにでも入れておけば、人生幾らか楽なのかもしれないが。中々そんなこと出来ないのが人生であり、…なんて"人生を分かったフリ"をして。
まだ高校生だと言うのに、馬鹿なこと馬鹿なこと。
包み隠そうとして失敗した結果が自分。
包み隠そうとして成功した結果が彼。
ただそれだけの違い。
それがたまたま加害者で、被害者だっただけなのだ。
ニィ、と無理矢理笑みを作り。
目の前の野次馬(クラスメイト)へ、笑顔を浮かべ。
�牴燭眇看柩廚蠅泙擦鵑�ら、どうぞお帰りくださいませ��
野次馬は止まらず、何もせず。言葉だけ繕って吐いて、ハイ終わり。
御愁傷様、さようなら。
純白な翼は、捥がれてしまった。元からないけれど、汚れてしまった。
何もして居ないのに、ただ××を胸に善行をしただけなのに。
嗚呼、煩い？じゃあ身の上話はこの辺で。思い出したくもないのに、自分から穴に手を突っ込んでいく。
長さの合わない螺子でも頭に嵌めたかな、なんて。
妄言に、何も意味は無いから。全て、終わらせてしまおう。
なんて決意しても、どうせ辞められない。もう癖なのだ、話す相手も居ないから。脳内で語って、会話をする。それで暇を潰して来たから。)
「どうやら、絆を深めれば此処から出れるらしいぜ。」
(嘘、虚言、演技(フェイク)。元に戻ったフリをして、現実から目を離した。
息を吸って、吐いて。どうしようもない現実に絶望して、その先に何も待っていないから。
少しだけ遠回りをしたい、させてほしかった。)
「なんてね、嘘だよ。
出たくないでしょ、此処から。
もう戻れないでしょ、彼処に。」
(此処で自分を隠していた方がよっぽど楽で楽しかったから、ずっとしていたいと思っていた。
戻りたくない訳じゃないけど、"戻れない"と仮定して。
彼の感情なんか読み取れないから、戯言を呟く。僕の、俺だけの戯言を。
だから、全部滅んでしまえ。
死んでしまえ。恨んだ人間も、好きな人間も、どうでもいい人間も、大切な人も、"唯一の友達"も、全部全部全部。
死んでしまえばいい。
頭の中は、ぐちゃぐちゃに溶けている。鮮血でも撒き散らしたかのように、視界が紅い。
このゲーム。
僕も、君も、彼も、彼女も。
全員。
どうやら、間違ってしまったみたいだね。)
【みかんちゃん】
彼の吐き出す虚言を、創り出す仮面を、喜劇のような悲劇の台詞として、拾い集めて。
底の無い瓶の中に落としてみる。落ちるなら這い上がれないところまで落としてしまおうか。
どちらヲ？ええ、何方も。
嗚呼、カレは壊れてしまったのだと誰かが悲嘆する。
大丈夫、私は正常だと誰かが傲慢な笑みを浮かべる。
誰が？
それら全部、私のこと。
目の前の彼が壊れていると思えば自分の割れた瓶はまだ壊れてはいないと。視線を彼に変えれば自分なんてもの見ないで済む。
狂者の前では私は聖者。
狂気の前では私は正気。
だから彼の前で敢えてあべこべ垂れ流して狂わして壊して。
どうせ加害者なら最後まで、最期まで、被害者である彼が加害者になるまでぶち壊してしまいたいと。
自分と対に佇む虚像が、酷く虚しく腹立だしい。
ゲームは関係なく、あくまで私情。
利己主義的なエゴイスト。嗚呼、言葉が下手くそ、何方も同じ意味よ。知ったかぶりね。
何れにせよカレは虚像。
虚像は幻覚であるならば、
私ととりかえっこしてほしい。
そう、とりかえっこしましょう。
私は被害者。あなたは加害者に。
「ふふふ、出たくないのはあなただけでしょうに？
あなたは私に何もかも奪われてどうだったのかしら。
落胆した？歓喜した？興奮した？悲嘆した？
被害者になったあなたは被害者面ぶら下げて亡霊のように徘徊でもしたのかしら？」
──失笑。
「気の毒な加害者。
蓋を開けたのはあなたでしょうに」
笑顔を忘れた。
酷く歪な笑顔しか覚えてない。
彼にぶつけるこの[音]は誰にぶつけているのか。
きっとこの[音]に意味はない。
意味の無いことはしないと決めていたくせに、蓋が開いたら壊れてしまった[音]が全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部
溢れて止まらない。
涙も笑いも出ないくせに[音]だけ垂れ流すゴミみたいな絡繰り。
「あなたの物は全部消えてなくなった。
奪われてしまったよ。
小さな少女が奪っていった。
私も結局出し抜かれたのよ？嘘だと思う？
なら、お互い様。
おあとがよろしいようで。」
依然雑音鳴り止まぬ。
【唐揚げ食べたい】
(虚空へ手を伸ばす。何かに触れるように、何かを掴むように両手を伸ばしてみた。
そこに何か居た。居ない。居た。居ない。
どうでもいい、何でもいい。どちらでも良くて、心地良くて、そんな感覚。
空を掻いた招き猫のような手は、何を招き入れたのか。
闇か、絶望か、───それとも光？
そんな答えすら待ち望んでいない。
だって、答えを幾ら導いたってどうしようもないもの。結局、何も変わらないから。
ココロを入れ替えて、その結果がコレ。
交換とか、出来たらしているもの。
だから、最初っから不可能。
それを、君は気付いてる？
あ、何でもいいか。そんなのも、全部。もし僕が加害者になるならば、被害者である"彼"の全てをぶち壊してやりたいけれど。
どうせ、君もそう思ってるんでしょう。全部、吐いてしまいたいと思っているのでしょう。
もう諦めた。
全部投げて、ポーイポーイ。
最悪のエンドね、素晴らしい。皆さん立ち上がって、スタンディングオベーション。
嘘
妄想、虚言。幻覚を見ているわけでもなく、ただ感傷に浸ってはケラケラと笑っている。
どうせ被害者、何にもなれない被害者。立場なんざ疾っくの疾うに地に堕ち果てていて、被害者として惰眠を貪っている毎日。
でも、そんな自分で理性はあるから。
思惑通りになってたまるか。
被害者ならば被害者なりに、加害者の全てを砕けさせてしまえ。
復讐して加害者になってやろうなんてココロは、何処へ言ったのやら。
思考がコロコロ変わるというのも、馬鹿らしくて子供のよう。
嘘を吐いてでも、責任転嫁したいのか。
でも、ダメ。────此処で起きた出来事なんて、×××に比べたらまだマシだから。
抉られるよりも、現実の方が辛いのよ。
過去は何にも変えられないもの、ねぇ？
なぁんて、彼の真似でもしてみる？全部演技、だけれど。やる気も無いしね。)
「残念ながら、
──────何も、なかったよ。」
(覚悟は決めたけど、嘘は言ってない。
いや、嘘か。
でも絶望に打ち拉がれるなんてことも無ければ、こんなトラブルに対して興奮したりするなんてことはもっと無かった。
少し怒ってしまったかも？なんて、記憶の範囲外だからノーカウント。
べ、と舌を出して煽るように。
"被害者"には、こんな見窄らしい小さなことが似合うだろ？
なあ、ほら、嗤ってみせろよ。
加害者は、相手が愚かで笑うものなんだろ？
時間の限り、被害者として逃げ惑ってしまおう。
おにごっこがいいかな、それとも。
かくれんぼの方が、お望みか？)
「賽は投げられた。蓋は開かれた。
僕が開いた、俺が開いた。
────でも、加害者はお前だ。」
(其れだけは、変わらない。此処まできたら、変えてやるものか。
初めはやり返そうなんて気もあったが、いつからか消えてしまった。
否、今消えてしまったのだ。
少女なんかどうでも良くて。アイテムなんかどうでも良くて。彼が奪ったことが大事で、それすらもどうでも良くて。
だから何も答えることは無く、ただ無気力のまま。)
「まだ、終わらない。
終わらせられない、終焉すら演じてないよ。」
(グラリ、と音を立てて立ち上がり。
ロングコートを脱いでは、ベッドへ投げ捨てる。
寒いなんて感覚、長い間外に居たものだからもう麻痺して消えてしまった。
ゆっくりと、彼へと近付いて。
今度は紛れも無い"彼"に触れようと、手を伸ばす。
此処に来てから、初めて誰かと触れようとする。其れも、自分から覚悟して。
だから、"お前"も賭けやがれ。
全部全部全部全部、過去も未来も全部。思い出したくも無い思い出を、全てブチまけてしまえ。)
「加害者は被害者には変われない。
なら、…なあ。加害者なんだったら、全部諦めて。
加害者らしく、
…─────僕を愛(こわ)してみせろよ。」
(蛆が這い登る感覚。
ノイズは、未だ響いている。
声は聞こえない。
薄暗い部屋。
ボー────と、何も無い音が鳴り響く中。
脳内は、結局一人だけの廃材置き場と化す。
自ら願うなど、金輪際無いことと願いたい。
鍵は外れてしまったのだ。
愛情は、あの時壊れてしまったようで。
何も知らぬ少年は、今。全て理解してしまったのだ。
全部、最初から間違っているというのに。)
【みかんちゃん】
「──────は」
引き攣った顔がさらに歪んだ。
筋肉が痙攣している。そんな感覚。
あくまで感覚だから、鏡を見なきゃわからないけれど。今はきっと笑えてない。
何も無かったとか。
──嘘だ。
そんなわけない。そんなわけないだろうが。罵倒。
常識的、正常な人間なら当たり前。少なくとも私[俺]はそうだった。何故なら正常だから。
虚勢？強がり？負けん気が強い餓鬼。ああ、いや、違う違う…彼は狂っているから仕方ない。
そう思えば何ら不思議ではないくせにどうしようもない黒い感情の塊がドロドロと煮え滾る脳を揺らす。
ゆくりと振り返ると鏡の自分と目が合った。二つの穴がこっちを見ていた。
なんだ、お前いつまでそんな風な目を向ける。見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見る見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るなな見るな…
────……
「──っは、あはははははははははははははははははははははははははは」
弾かれたように身体をへし曲げて、吹き出すように飛び出たのは爆笑。
鼓膜を震わして五月蝿い煩い。誰だ笑っているのは笑うな。そんな穢い笑いは俺[私]のモノじゃない。これ全部加害者のものだろう。
そうと理解しても止まらぬ雑音のような笑い声。砂嵐混じるテレビの音の方がまだマシだ。
止まることない笑いが病室に谺して空気を震わせる。
腹を抱えて身を捩り背中を丸めて笑うのは誰か。
そのまま捻り切れてしまえ。そのまま喉から血を吐き散らして死んでしまえ。
自分が死んだら××が死んでしまうというのにとんだ死にたがり。
泣いていた。
涙は出てはいないけれど。
そんなもの出し方は忘れてしまった。笑うよりも難しかったから、蓋をしたんだ。
それなのに、
痛くないこころが、居たくないところが、泣き喚いて鳴り止まない。
嗚呼、泣き笑いも甚だしい。
…まぁ、お望み通り嗤ってやろう。
お前が、狂人が望むなら嗤ってやるさ。
そう投げやりな気持ちに宙ぶらりんな感情は揺れる。
元通りの被害者になりたくて加害者である自分に蓋をしようとする。本当は被害者にも加害者にもなりたくなかったとかいう幻想は夢物語。
だから、これは全部悪夢だ。
「──っぇﾞ」
喉の奥で蛙でも潰れたような音が零れて笑いは止んだ。顔を上げて気づいたから。
近づいてくる黒い影に。
伸ばされたその手に。
影踏みする光はなくて逃げ場もない。苦しい逃げたいやめたい壊したい壊せ壊せ壊せと耳鳴りが総じて止まない。
声は聴こえない。
聴こえているのは耳鳴りと心拍計の音と時計の音と
只管羅列された[音]だけ。
真っ赤な部屋が残像のように頭に過ぎっては消えた。
伸ばされた腕に反射的に身体が反り返りよろめいて、座り椅子がバランス崩して(崩れたのは自分か)そのまま床に堕ちた。
転げ落ちた堕慧児なんてクソ喰らえ。いや、それこそ被害者か。
そんなの嫌だ。
嫌だ近づくな来るな悪魔め狂人め。
冷や汗ともに高まる脈圧動悸絡まる思考判断。
吐き気は覚えても吐き出すことは出来ずただ這いずるように後退り。
鏡から離れなくては
虚像から離れなくては
いや、
[壊さなくては]
「あぁぁぁああ来るな近寄るな見るな来るな来るな来るな来るなぁあぁぁぁあ」
悪魔祓いのように叫び散らす声だけが声として耳に届いていた。
あくまで、他人の声として。
気づいたら無我夢中で立ち上がり、その虚像に手を伸ばしていた。
その虚像を消してしまおうと、彼の首に手を伸ばしていた。
殺られる前に殺ってしまえ。
いや、
もう加害者から戻れないのなら、
どうせ加害者のままならば、飲みきれない吐き気も悲しみも笑いも恐怖も
ぶち壊してしまえと
【唐揚げ食べたい】
(ガラリ、コツコツ──────。
何の音かも分からない物音が木霊する。きっと足音か、それとも声か。
狂気に、狂喜に身を馳せては虚無にも笑みを浮かべていく。おはよう、こんにちは、こんぱんは。さようなら。
もう頭の中に何が居るのかも分からない。何が詰まっていて、何が欠けているのかすら理解出来ない。一つだけ言えるとするならば、どうせロクなもんは詰まっちゃいないということか。
虚空。嗤えよ。
何もないとか嘘を付くなと、笑えよ。
でも正解は不正解。だって無いものは無いでしょう？
客観的に見て、ボ───と頭の中で掻き消して、終わりだこんなもの。
失ったのは物だけで良かったですね、と。
楽観視しなきゃ、こんな世界生きていけない。…生きていけなかったから、こうして壊れているのだけど。
いろいろ予想はしていたが、その中でも一番マシなものだった。
何度も言うが"何が起こるか分からない"は"何が起こっても可笑しくない"のだ。だから、いろいろ妄想妄言吐いて───その結果、あの玩具は失った。
それだけ。
何も不思議なことなんて起きていない。
理解不能なんて事態なんか起きているわけないだろうに。何が可笑しい、可笑しいのはお前だろう。
彼を見た。何も変わってない。
鏡を見た。其処に鏡なんてない。
ほら、現実は何も変わってないじゃない？
でもそれは詰まらないから、演ってしまおう。殺ってしまおう。
思考を突き詰めて壊して理解して考えて考えて考えて考えて考えて─────。
────殺しはダメだよ────
そんな声が聞こえるまで、脳を破滅させてしまおう。
積み重ねたもの、罪重ねたものを、一瞬で崩してしまおう。一度壊れてしまったものは、もう元には戻らないから、戻れないから。
だから。
蓋を開けちゃいけないって、言われなかった？)
「ゲロゲロゲロゲロ、───…馬鹿みたい。」
(くすくす、何て無残な姿。人が壊れる時って、こんな感じなの？
なら、自分もこんな感じだったのかな───なんて。酷く客観的に、酷く楽観的に。そうでもしないとやってられないから、全部お笑い、全部大爆笑。皆様御来店有難う、二度と来るなと心の叫び。
リュックに手を伸ばして、とある液体を取り出す。有害じゃなくて、有蓋。蓋があるんだ、コレには。
じゃあ、外さないといけないな？
嗚呼────嘘。演技。
お姉さんに教わった演技が、まさかこんな悪趣味な形で使われるとは。彼女も思っては無かっただろうに。�牋�いことに使っちゃダメ�瓩辰討�姉さん言ってたもんね。言ってたっけ？
あは、おもしろーい。拍手してあげる。
彼の壊れ具合に大きな拍手を。人の不幸は蜜の味、素晴らしい演劇をありがとう。
演技なんてしてないのにね。
まるでコレじゃ、僕が加害者だ。そんなの認めない、君が加害者なんだから。
それだけは、一生背負ってくれないと。被害者が悲しむでしょう？
感情の出し方をまず学べよ、蓋をしてばっかりじゃ何も変わんないよ。…嗚呼、変わんないからこうしてこの場所に居るのか。思い出しに、なんて言ってたかな？僕なんか思い出したくなくても思い出してしまうのに、加害者様は随分と気楽らしい。
嗚呼、イタイ。遺体は、何処に？
要らないものはゴミ箱へ、蓋をしてしまいましょう。
どっちににもなりたくなくて、結局どっちかになってしまった彼の物語。俺の物語。全部必要だから、それは開けてしまいましょう。
全部、そう思った時には既に僕が開けていたんだけどね。
彼の腕は虚空へ還る。既に、その手の中に入っていたから。抱き着いてしまうような、そんな動きと共に嘲笑うようにフフフ、と笑う。
まだ誰かを愛(こわ)そうというココロを蝕むのか。
見下すような視線を送って、彼を見上げた。)
「なぁにそれ。まだ誰かに蓋をするつもり？
意味なんて無いのに、もうやめてしまえよ。
此の先には何も無いって、もう知ってるでしょ。
僕らはもう戻れないんだよ、何処にも。」
(だから、全部壊してしまえと。最初の思考に戻るわけで。
我ながら馬鹿だと思う。直ぐに見捨ててしまえばいいものを、こうしてまだ話そうとする。まだ良心が残っていたが、まだ××が残っていたか。
直ぐにでも捨ててしまいたいのに、人は如何してこんなにも変われないのか。
締めたかったら、閉めたかったら、〆てしまえ。
でも、其処の先には空っぽの世界しか待っていない。二度目は拒みなどしないから、もう一度手を伸ばして隠してしまえ。
ボト、ボ─────。
手に持っていた容器が落ちた。蓋は、開いていた。
中身の液体が流れ出た。
アルコールの、嫌な臭い。食欲が失せる、唐揚げも蜜柑も食べたくはない。
狂気は、凶器へと変わる。)
「ねぇ、どうしたいの？」
【みかんちゃん】
もう、蓋は外れてしまった。
廻しても回しても幾ら捻っても閉まらなくなってしまっていた。
ネジの捻じ切れたオルゴールの発条(ゼンマイ)か。
それに気づいた頃には時既に遅し。
可笑しくってお菓子喰ってばかりで嗚咽は止まらなかった。
嘘。ジョーク。冗談。
いっそ彼みたく掌叩いて笑ってやろうか。
お菓子なんて甘い物全て失ってから口に入れたことはない。そういえばあの季節は蜜柑が実っていた。美味しそうな香りに鉄臭い血の匂いがドロドロドロドロ。走り回った足の裏に茶色の紅が染み付いて剥がれない。
開いた瓶の奥から、割れた瓶の奥から記憶や感情、全部溶けだして絵の具で掻き混ぜた水のように薄汚い。
加害者と被害者は紙一重。
帰り道拾った蜜柑。
部屋に飾ろうってあなたに言うつもりだったんだ。
飾られていたのは血塗れたあなたで、蜜柑はぐしゃり潰れましたけど。
夢の話か？空想話か？御伽噺か？
非常に残念ながら世の中非情なわけでありまして、これら全て現実(ノンフィクション)。
──誠に遺憾である。
残った遺族はどうします？残った死体はどうします？残った感情はどうします？残った憎しみは残った虚空は残った私[俺]は？
蓋が出来なくて他のモノを壊してしまいました。
なんて笑い話もいいところ。だから今自分は笑っているのかな？なんて客観的な感想しか浮かばなくなってしまって。
まるで観客席に座る客の気分…──
椅子に深く腰掛け退屈なエンドロールだなと欠伸一つして眠りにつこうとする。
──自由落下。
そうすればぐらりゆらりと重力と体重に任せて倒れ込んでいた。
肩を押していた。
抑え込んでいた。
叩き堕ちたのだ。
失墜してしまったんだみんな。あのバスが落ちたときには手遅れだったのだ。
フリはもう無しだ。
振り付けなんて必要ない。これら全てアドリブだったんだから。この悲劇も喜劇も何もかも最初から。
「あなたが死ねば私も死ねるのに。
あなたが生きているから私は死ねない。」
呪いのような幻聴を自らの口から吐き出す度、喉から溢れる唾液に窒息死してしまいそう。
臭い臭い臭い臭い笑いも全部吐き散らして履き散らして壊してしまえ。
初めて[音]が止んでいたことに気づいた。
驚く程に何処までも無音。無音は生きている間には聴こえない[音]のはずなのに。
嗚呼、私が死んだのかしらん。
被害者としての俺が死んだのかしらん。
目の前に落ちている彼は被害者である私[俺]。
覗き込むその口が見上げるその目が動いて[声]が聞こえた。
もう戻れないよ。
戻りたくなんかないよ。
もう戻り方なんて忘れてしまった。
フリなんかじゃなくて、覚えてないんだ。
本当は、戻りたかったけれど。
────何処へ？
そりゃあ………
「────何処だっけ？」
何処へ？誰の場所へ？何時へ？
何が、したいんだろう──
「壊したいんだ。
過去も、今も、未来も、」
嗚呼、そっか。
私は俺を壊したいのか。
虚像ではなく実像を壊したかったのか。
なぁんだ……そんな簡単なこと出来ないのは、結局
彼に跨ったまま、首を持ち上げて天井を見上げた。赤なんて何処にもなくて、ただ只管に真っ白な壁が暗闇で浮かび上がっていた。
「あははぁ…──死に損ないが」
無気力に吐き出した言葉は俺にも彼にも向けてなぞいない。
此処にはいない。
唯一残った××に…
妹に向けて吐き出した。
[あなたが死なないから私は死ねない]
それは妹の言葉じゃなくて私の言葉だったのか。
「あなたがいるから俺は死にたくない」
はははは──…
「────つまんねぇの」
目の前の彼をどうすることも出来ず、ただ虚しくカラッポな
涙が、零れた。
【唐揚げ食べたい】
(泣きたい。鳴きたい。否、亡きたいか。
蓋を閉める努力もせずに、早々に投げやって蓋ごと瓶を捨ててしまったのは俺です、僕です。蓋は閉めたいけれど、堕落してしまってそんな気力すら無い。泣きたきゃ啼けばいいし、笑いたきゃ嗤えばいい。
面倒だから、そんな感情も纏めてゴミ箱に入れてしまえ。溢れ出た感情をそれ以外で止める方法なんて無いのだから。
頭の可笑しい彼を見て、頭の可笑しい僕は哂う。
どちらが正気、どちらが狂気。傷の舐め合い、押し付け合い。他人を蹴り落とすとは正にこのことで───何方も凶器だと言うのに可笑しな話。子供らしくて、馬鹿みたい。
最初から矛盾しているのだから、歯車はもう止められない。止めようとする人も居ないのだから、ある種当たり前である。
其の内錆びて動きも止まる。その時どうなっているかは僕の知る範疇ではないが。
虚言。
何のことを言っているのやら。
死にたがりは何方様、"あなた"が死んでも"私"が死んでも何も変わりなどしないのに。未だにこうして"生きる理由"を、"死ぬ理由"までも他人へ責任転嫁してしまうのか。
如何足掻いても、愚かな人間は愚かな人間でしか無く。
嗚呼、誰のこと？
─────そりゃ、勿論。
自問自答、脳内会話、妄言の連続。自己語りの究極の地。
こうして偽って消してばっかで、決してしまうこともできずにコップに水は溜まり続ける。いつしか溢れてしまったが、それすらタオルで拭いてあげれない自分を呪え。
自己犠牲、自己嫌悪、自己暗示、数え切れない不運を呪え。結局、死ぬも生きるも運命でしか無く。生き地獄を味わってしまえ。…もう味わってる？そりゃ、ごめんあそばせ。でもワザとじゃありませんのよ。マリーの戯言、漠然としていて誠に滑稽。
被害者か、加害者か。
変わることはないが、最早それも如何でもいい。一度付けられた烙印は、消せても外されることはない。
甘んじて受けよ、認めたくないものも全て。彼に言っているのでは無く、自分にそう言い聞かせ。
フラッシュバック。
とろり。暑い夏の日。蚊も嫌になるような、強い日差しの日。
善行をした。徳を積んだ。
そして、
歪んだ愛を知る。
愛情なのだから、歪みなどないはずなのに。
誰も信じられず、今日の日を迎え。そうして今に至る。
───
演技(フェイク)。だが嘘では無く、真実。
過去のことであると割り切れてしまえば楽なのに、そんな日もあると思い込んでしまえば楽なのに、その中そんな辛い人ばっかりじゃないと暗示しきってしまえば楽なのに。
如何して、それが出来ないの。
人として、最低。
演技でもして、暗示したフリでもしていればいいのに。それが出来ないのは、自分が演劇なんかしたことないからなのだろう。
やったことないものに手を突っ込むなんて、金輪際ゴメンだ。この先なんか、あるか分からないけれど。
下手な演技を重ねてしまえば拍手は大喝采。右も左も知らぬ素人に、この劇の良さが分かってたまるか。自己満足の結晶、二人だけの演劇は加速する。
客なんかには成らせない、客なんか要らないから。元より、此処に人なんか居ないよ。
だって、僕はずっと孤独だったんだから。
皆仲間だと、思ってたのに。そうじゃなかったから。
だから、────)
「──────おめでとう」
(違くて、そんな言葉じゃ無くて。そうじゃ無くて、言葉が見当たらなくて。
脳を壊しすぎて、挙げ句の果てには見合う言葉すら消えてしまったか。
あは、あはははは。変なの。
今迄ちゃんと言葉を紡げたのに、会話じゃ無くなってでも言葉を書いていたのに。それすら出来なくなってしまった、可笑しな人間。
声は聞こえない。
声を聞かせて。また言葉を連ねたいから、君と会話したいから。脳内でしか居られない君と、僕とで会話がしたいんだ。だから、お願いだから。
ねえ、ねえねえねえ─────
僕には君しか居ないんだよ。
京香。
じゃなくて、
キョーカ。
脳を、巻き戻させてくれ。時を、元に戻してくれよ。
────壊れたものはもう戻せないから────
なん、で。如何して。
だって僕には君しか居なくてでも君は消えてしまったから僕が作り直してあげて楽しい世間話をして僕の友達で居てくれて演技まで教えてくれて友達の居ない僕のずっと横に居てくれて起きる時も寝るときもずっと一緒で僕の大切な大切な大切な大切な
友達、だっけ？
大切な、もの。────もう何処にもいない。家には、帰りたくない。
閑話休題。
話を戻そう。飛躍する頭を戻してみよう。
彼は壊したいと言った。それは同じ、同じ気持ち。嗚呼、こんな最悪な気分になるならば彼となんかあわなければ良かった。)
「じゃあ壊してあげようか。
つまらない毎日も、全部。」
(もう戻りたくないでしょう。君と僕は似ていて、絶対に分かり合えないから。
知っているんだ、全部。だって、理解出来ないから。
支離滅裂理解不能、頭の中は伽藍堂。まるで淡い水彩絵の具のような、スッカラカンの頭の中。
蓋は開きました。
瓶は空きました。
全て飽きました。
何もかもリセットしたい気分。リスタートなんてしなくていいから、全部最初に戻ってしまえばいいのに。
蓋の付いてたあの頃に、布で隠してたあの頃に、戻ってしまえばいいのに。
そんな夢、そんな希望。
全部、嘘。
リセットなんてしたくないし、最初になんか戻りたくない。もう二度と、あの日々は味わいたくないから。
このまま、この"唐揚げ食べたい"として。全て終わってしまいたい。
──────
あ、そういえば。
こんな脳内語りをしていたら、蓋を閉める方法を思い付いたんだ。
試してみようよ。何もかも壊したいなら。被害者に、加害者になりたいなら。)
「おめでとう。」
(今度は意図的に、そう呟いた。
ピチャリ、と床に広がるアルコールの匂いを感じながら。電子色の、パレットを取り出して。
彩ましょう。…なんて、巫山戯たことは言わないが。とある短文を打ち込んで、送信する。
『────────────』
もうその頃には、灰しか残っていないかもしれないが。比喩ではなくて、本当に。
持っているものを入れ替えるように、マッチを手に取り。
さあ、最期の仕上げをしよう。全て蓋をする為に。
アルコールは一瓶。衣も油も無いのが残念だが。材料としては満足か。
狂気の、凶器の料理を始めよう。
味付けはこのクソみたいな俺達のシリアスとか、如何かな。)
「最期の瞬間。晩餐にて。
──────君は被害者になれたじゃないか。」
(そして僕は、加害者に。
酷く憎んでいた人間に、僕は成り下がる。
顔に弧を描いては。
火を点けた小さな松明を、床に落とし。
それは、床のアルコールに広がって。
燃ゆる燈へと、姿を変える。
───それは彼は勿論のこと、自分をも包み込み。)
「ヒッ……キヒャッヒャアハハハャッハハハハハ！！！！！」
(憎んでいたあの彼奴と、重なる哂い声。
熱さなど疾っくの疾うに麻痺してしまった。何も感じない。包み込む業火すら唯の飾りのようで────。
もう戻れない。もう戻らない。もう戻りたくはない。
さようなら、みんな。)
【みかんちゃん】
見上げた天井が涙で滲んでぼやけて消える。
あ、真っ白。
真っ白なのは天井か視界か脳みそか。
まるで白い絵の具を塗りたくっただけのキャンバスみたいね。
記憶の発条が巻き戻る。
開いた蓋の向こうのオルゴールが奏でる記憶の鎮魂歌。
あの日は真っ白な飛行機雲が青空に線を謎る快晴。何時も変わらぬ足取りで扉を開いて靴をなげだしてその手に抱えた蜜柑一つ。
落下した。世界が転倒した。点灯した。
赤い部屋の光景がぐるりぐるり。
潰れた家族の残像。作りかけの柘榴のジャムが瓶から溢れてじゅくじゅくと。
夏の終わりに消えた蝉時雨と透過した記憶の季節。
本当にその季節かは覚えてなぞいない。
ただ、小さなあなたが泣いていた。
鳴いていた。啼いていた。
悲劇の一ページにしては陳腐でありきたり。
ただその日は酷く、暑かったな。
真っ白な空間の中君は眠っていて、俺は座っていて。
君が息をする度、呼吸器が白く雲っては白く澄んでの繰り返し。
機械的な[音]に囲まれて、機械的な管に絡まって、君は植物のようにただそこに眠っていた。
植物状態というから凡そその形容は間違っちゃいないだろう。君が時々泣いていたのは、時々手を伸ばしていたのは俺に助けを求めていたからなんでしょう？
なんて…
そんなわけあるか。
あれは全て神経が本人の意志とは無関係に動いているだけだ。
医者は眉尻下げて申し訳なさげに俺に告げていた。申し訳なさそうな顔して嘲ていた。
知ってる。知っていたけど、知らないフリして、わからないフリして、あの手の先に自分がいれたなら救えたのかなって何時も何時もその手を握っていた。二人きり…否、独りきりの病室で。
只管に涙しか溢れなかった。
俺が君を助けるから。
[ならなんであの時助けてくれなかったの？]
この声が聞こえるようになったのはこの時からか。
今更。手遅れ。五月蝿い煩い五月蝿い五月蝿い五月蝿い…
蓋をした。一つ目。
気づいたときには男の首を絞めていた。
全ての元凶、悲劇の元凶のその男を。
気づいたときにはその喉をかっ捌いていた。
赤い折り鶴が空に飛んで行ったのを思い出す。
赤い彼岸花が一面に咲いたのを覚えている。
痙攣する指が足が俺の全てを奪った。
怒り妬み恨み怨み…
怒りしかでなかった。
全てに対する怨みしかでなかった。
[お前も同じ加害者だ]
俺は加害者になった。被害者の声が聞こえるようになった。それはこの時からか。この時世界が逆転した。崩壊した。
だから、
また蓋をした。二つ目。
三つ目、四つ目、五つ目、…十…──
気づいたときには笑いしか残らなかった。
笑っておけば蓋をしたままでいられると気づいたから。
[──て怒らないよね]
[──て優しいよね]
[──て不気味だよね]
[笑ってばかりで]不気味。
──────は？
意味が分からなくて、わけが分からなかったから。それだけだけど
その言葉に蓋をした。
見ないフリ知らないフリ気づかないフリ…そしたらもう平気。
嗚呼、よかった。
苦笑、失笑、冷笑、照れ笑い、微笑、愛想笑い、空笑、嘲笑、憫笑…──
その笑い全てに意味も理由もなく、あるのは[必要]だけで。
歯車を廻す。
ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる…──
現在に至る。
白い壁が赤く瞬いて揺らめいてメラメラメラメラ目に赤い炎が映っていた。
アルコールの臭い燃える臭い臭い臭い臭い鼻を劈く匂いがした。
手足が身体が吹き出すように脂汗と冷や汗が混じりあって髪の毛が額に張り付いていた。
五感が一斉に意識を引き戻す。
意識が戻って、我に返って、彼の笑い声が聞こえた。聞こえた？いや、聞こえなかった。口角上げて目は三日月のように細めているのだから、多分嗤っているのだろう。
依然、聴覚だけは戻らず、
無音という[音]だけが鼓膜の内側で続いていて。
嗚呼、私は死ぬのか…とか死ぬならあの時死にたかったな…とか、最後の最期まで客観的な感想しか浮かばなくて、酷く虚しい。
[私が死んだから君は死ねる]
独りよがり自分勝手に生に縛り続けた君を解放出来る。漸く、解放される。
君から私からあなたから俺から全てから
そう思うと、溢れた涙は止めどなく零れて、アルコールに満ちた炎の海に海の雫が流れ落ちた。堕ちて、消えた。
壊れたように笑い続ける彼はきっと過去の俺で。歪んだまま蓋も出来なかった哀れな被害者。
虚像と実像が
──今、重なった。
なんだ、やっぱり似たもの同士。
同族嫌悪も甚だしい。蓋をしてもしなくても堕ちるところは同じというわけでありまして。今まで必要だと思ってしてきたことは全部必要もないただの道化に過ぎなかったのか。
つまらない奴。つまり、お互い様ね。
「──あは、あはははははははははははははははははははははははははははは」
過去の彼が笑うから合わせて俺も笑うことにする。
阿鼻叫喚不協和音笑え笑いの大喝采。
どうせなら踊り踊れ踊られ。絡まった糸で二人這い上がれないところまで堕ちていこう。
なんて腐った結末。
エンドロールは最後まで見る必要もなくて。
たったと空っぽのポップコーンの箱持って退場しましょうか。出口はあちらでございます。ああ、暗いですからどうか足元にお気をつけを。
ご機嫌ようさようなら、
二度と来るな…──
出口の重たい扉を押し上げて帰ろう帰ろうと歩き出したとき、光が目を眩した。
最期に見えた甘い吐きそうな幻想。
それに俺は咲った。
[おかえり。お兄ちゃん。]
お前はまだ生きてるじゃないか。ああ、けど、俺が死んだらお前も死ぬのか。
そうか、合ってるか。
会えるのか。
また、次は言えるのか。
戻れるのか。
なら、
「──────ただいま…」
今日、花の付いた蜜柑を拾ったんだ。
いい香りだから、飾ろうと思って…──
それにしても
熱いね、今日は。
なんて、夢の中に堕ちていった。
【唐揚げ食べたい】
(紅い影。黒い影。白い影。───鮮血のような赤赫緋が眼に広がり、雪のような痛さが身を包み込む。
鉄が溶ける時のような、赧くてどろりとした感覚がする。自身は溶けているのか、焼けているのか。
もう何も見えないから、分からないけれど。否、写すのを諦めたと言った方がいいか。失明なんかまだしていないから、眼を閉じただけ。
瞼に焼き付いている。離れてはくれない思い出の数々。
脳にこびり付いている。消してはくれない絶望の数々。
病院は嫌いだ。病院のお世話になったことはない。
だってあの薄暗い雰囲気が、少しあの時に似ていたから。…嘘。ただ単に嫌いだっただけ。そんな昔の出来事でもないから、この理由は付け足しと言っても過言ではない。
死ぬ直前って、こんなに虚しいものなのか。ココロも脳も何もかもが空っぽの空瓶で、何故か冷静に考えられてしまう。
だから、全部思い出してしまう。それはもう、走馬灯の如く。
フラッシュバック。
何も変わらないあの日。少しだけ帰路に着く時間が遅かっただけの日。
とある人間に話しかけられた。今でも覚えている。
最初の言葉、この言葉さえ無ければ。僕は、──────。
�爐海諒佞僕茲襪僚蕕瓩討如Ｆ三篤發靴討�れないかな��
公園。近くの、何ら不思議の無い公園だった。木が生えていて、それだけ。
暑い夏の日、友達も居た。何もかも平凡な日常で、───他は何も覚えていない。
どろり。
嫌な良心が残っていたから、何の変哲も無い日常を過ごすような気分だったことを覚えている。
気紛れでも無く、最悪なココロ。踏み潰してグシャグシャにしてゴミ箱の奥の奥に投げつけて仕舞い込んで捨ててしまいたいモノ。
暑い、熱い、熱い熱い熱い、熱い熱い熱い熱い熱い熱い
──────
は、と意識が途切れる。
熱は感じているが、痛さとか苦しさとか。比にはならないけれど、自らの意思であっただけ此方の方が気が楽だから。だから、痛くも痒くもない。
ステンドグラスが割れる音がする。そこには何もないのに、そんな音がする。
これ以上は壊れてしまうと知っておきながら、もう壊れているからと無情にも扉は開く。
パキリ、────カラカラ。これはどんな音だっけ。
フラッシュバック。
家に居た。死ぬほど明るくて、真っ赤な空間。黒一つない、闇一つない部屋のような。
夜は嫌いだった。
暗いから、暗いと何か起きてしまいそうだから。何が起きても、可笑しくないから。だから、真っ赤なベッドで僕は眼を覚ます。
隣には何時も彼女が居てくれた。
友達は居ない。でも、親友がいた。
くるりと一回転。
知り合いの女の子の名前を付けたのは我ながら悪趣味だと思う。
でも、仕方ないよね。…キョーカ。
全て、包み隠そう。コンクリートに埋めてしまおう。
──────
想い出を語る。思い出を騙る。こんな所で嘘を創り出す理由などないし、この自己語りも死ぬまでの現実逃避でしか無いのだが。
無音、無音、赤赤赤赤赤赤赤赤────虚無。
闇は嫌いだ。それに、吸い込まれてしまいそうだったから。
だから全部ぶちまけて、紅色に染めてしまった。自己嫌悪に苛まれて、自らの塗料を塗りたくって。
なんて妄想。悪い癖だが、もう消えてしまうのに直す気は出ない。
実際は何色だったか。今はそれすらも思い出さない。憶えている必要もなかったんだろう。
でも幻覚を見てでも闇を消さなければ、なんて自身の防衛本能が働いたのか。それもと、実際に赤色だったか。
矛盾だらけ。脳の中は、パズルを組み立てようとして失敗しているらしい。
パズルの1ピースを一つずつ見せ付けようとしているのか、馬鹿らしい。
フラッシュバック。
かくれんぼ。鬼から隠れ切れるかな。
開始10秒、鬼ごっこのように。見つかって、さあお終い。
終わりだ終わり、こんな演劇やってられるか。
劇じゃなくて、現実だけれど。けれども逃避逃避忌避忌避忌避。逃げろ逃げろ、逃げなければ死ぬ。
まあ、死んでしまったんだけど。
──────
溶ける燃える欠ける溢れる堕ちる──考える脳も、どうやらそろそろ限界か。
最期に声が聞きたいの、あの時からずっと聞こえなかった声が。
僕が創り出したものじゃなくて、僕の脳内じゃなくて、好きでも嫌いでもないあの子の声が。
そういえば、死んでるんだっけ。
じゃあ、会えるかもね。)
「フフフアハハハハフハハハアアフアハハハハ………ハハ、アハハハ……」
(もう笑うのにも飽きてしまったから、捨てた。
塵は塵に、灰は灰に。全部纏めてゴミ箱に捨てなきゃ。そのゴミ箱も、もう容量オーバーで溢れている。詰め込むことも出来ないの、だってそれは水を入れる為の小さなカップ。
全部全部溢れ出ていくのだ。身もココロも全て、無に還る。
虚無しかなった僕にとっては、当たり前の結末(バッドエンド)か。…否、寧ろハッピーエンド。
関係の無い彼を巻き込んだことを悔もう。
然し、加害者に未来は無いと。────たった一人、孤独な被害者は考える。間違っている、間違っていることを必死に"正解だ"と暗示をかけている。
フラッシュバック。
ねえ、如何して此処にいてくれるの？
貴方が可哀想だから、かな。
僕の友達で居てくれる？
嗚呼、勿論。
ありがとう、ありがとうお姉さん。"僕だけの"お姉さん。
小さくてごめんなさい、あまり手先は器用では無いから。"正しく組み立てる"ことは出来なかったけれど。
脳内会話。何時ものこと。独りになってから、ずっと続けていた。
こうしている間だけ、僕には友達がいる。僕には仲間がいる。
人間なんか、要らないよ。人形(キミ)さえ居てくれれば。
──────
蓋なんか外されていた。…いや、元々僕に蓋なんてなかったんだ。あるようなフリをして、色んな人の真似事。子供らしくて、最も愚かなこと。
隠せないから、捨てた。捨てるフリをして、ずっと溜め込んでたんだ。何処にも投げることの出来ないこの劣等を、怒りを、恨みを、嫉妬を、全部全部ココロに詰め込んでいたんだ。詰め込んで傷んだ。
いつしかココロは壊れていた。もう元には戻せない。
いや、最初からずっと壊れていたか。
ゴポリ、と何かが湧き出る。汚くて綺麗な、何か。死の合図か。
天を仰ぐ事も出来ず、ただ朧げな脳内を見つめていたんだ。何も出来ない、人間失格な僕が。
一番人間らしく、今輝いている。
フラッシュバック。
学校。何の変哲も無い日常を過ごそうと思って、やり直そうと思っていた。
でもいつしか、全ては漏れていたらしい。
�爐覆◆※；；；；； ���
煩い。五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔
人の気持ちなど分からず、好奇心だけで聞いてくる。
野次馬(クラスメイト)は、僕のようにココロごとカラダごと全て消えて居なくなればいい。
その心を、また押し殺す。
何時ものように、同調してやり過ごす。
靴の底のようにすり減ってぐしゃり。
──────
無感情、無表情。何もすることの出来なかった自分を呪え。
ケラリ、ケラケラケラ。友達にする人間はちゃんと確かめた方がいいな。誰でも来いなんて言って、痛い目を見てしまったから。
そんな反省もまあ、全部意味なんて無くなるんだけど。
目の前の彼も含めて、全員嫌いだった。両親もクラスメイトも何もかも嫌いだった。世界を呪っていた。呪われるのは自分の方なのに、棚に上げて恨んでいた。
壊れるように笑った。加害者のように。
崩れるように泣いた。被害者のように。
今はどちらか、分からない。表情すら、表せない。
彼がどちらなのかも解らない。理解出来ない。────やっぱり、似ている。
フラッシュバック。
熱い感覚がする。逃れられない情欲と、消してしまいたい記憶の狭間。
何もかもが熱くて、暑くて、───全部忘れてしまいたい。
全てが朧げで。それでいて鮮明で。焼印のように、掻いても掻いても殴っても壊れても消えない。
音。声。復讐を誓う。未だに出来ていなくて、これからも一生出来ることはない。
�猗鏗下圓蓮△匹β�掻いても被害者だよ��
ずっと巡っているんだ。最後に言われたあの言葉が。脳に焼き付いて離れない。
肉を伝う音を、今でも忘れない。
──────
嘆いた、叫んだ。声にはならなかった。鼓動が速くなる。死が近づいている。ずっと逃げ続けて、それだけはずっとしないでおこうと思っていて、そして今やっているもの。
案外悪い気はしない。クソみたいな世界で生き続けるくらいならば、こうやって狂気的に生きていたい。
どうせ何も変われない。時計は巡る。虚無を歩く。
諦めた思考。諦めてしまっては出来るものを出来なくなるのに。
諦めてはいけない。もしもの世界を信じていたい。ポジティブに生きたい。
僕は、否。俺は、"唐揚げ食べたい"という楽観的な人物なわけで。
もし人が変われたなら。
クソみたいな世界をやり直せるとするなら。
俺は、僕は、人を信じてみたかった。人を愛してみたかった。
とか。そんなことを思っていたい。
夢物語を語るわけにはいかないけれど。
今だけは"もしも"を語りたい。全部無駄なのに、中途半端に思考は巡ってしまうから。
もし人格が違っていて、何もかもが違っていたならば。変わっていたならば。
────僕は、変われただろうか？
声にはならなかったと思う。でも、そう言い残しておきたかった。
さようなら、みんな。無駄な死になってしまうと思うけど。
でも少しだけ、楽しかったんだ。
信じることはできなかったけど。ゲームなんて、馬鹿みたいだと思うけど。
なんだか最期だけ、良いように脳内語りを締めくくるのはちょっと反則みたいで嫌だけど。
全部自分の中の世界。これも全部、脳内だから。好きなように、終演を迎えてやるさ。
ありがとう、みんな。
…みたいな。
もしかしたら、この語りも全て演技(フェイク)かもしれないな。
悔いはない。嘘。
最期に一つだけ悔いがある。大したことじゃないけど、
フラッシュバック。
…───もっと唐揚げが食べたかったな、なんて。)
約束ゴト 5th-14th
まにょ(5th)-聖☆ビキニマン(14th)
【まにょ】
時折形式的に見回りをするナースの足音だけが響く院内の廊下を、白衣の天使に紛れた和装が歩く。最近怪我をしてしまったから、医薬品の類の補充をしに来たのだ。
素人目から見て、院内の薬品の区別が付くのかと言う疑問があるが、もしも怪しかったらその辺に居る専門科医に訊ねればいいのだし、下手に市販の薬を選ぶより病院の薬のほうが効き目が良いのは当たり前である。
目ぼしいものの調達は終わったようで、フロントに向かって歩いていく。あいも変わらず患者は居ないのに働く人間だけが事務的に動き回っているさまは、なかなかに不気味は場所である。
【聖☆ビキニマン】
「……病院、なんぞもあるのか。全く、ここはどうにも、ただ殺し合わせるだけじゃあ説明がつかねえなあ？」
また一人、護ると誓った女が死んだ。
だが。その瞳、最早力は些かも衰えない。
「さあて、探索を……と、よお、アンタも探索かい？」
そこでこっちにくるまにょを見つけて、手を振る
【まにょ】
話しかけてくる人間など居ないと思っていたからか、それとも唐突に筋肉ましまし生足魅惑のマーメイドのビキニ着用者（想定雄）が視界に移ったからか、心臓が大きな音を立てた。驚愕に目を見開いたまま数秒静止したが、適応能力は低くないのかすぐに冷静さを取り戻したようだった。
「いえ、私は薬をいただきに。先日、怪我をしてしまったもので」
会釈をして微笑むと、ビキニマンの前で足を止めた。自分もだいぶ身長が高いが、それを頭二つ分ほど上回られているのではないだろうかと思うほどに大きい。目の前に立たれるとかなりの威圧感だ。
流石に足の怪我を見せようとすると着物の裾を捲らなければならず、公共の場ではしたない真似をしない常識のあるまにょは包帯の巻かれた手のひらを見せた。
【聖☆ビキニマン】
「……これは、誰に？」
目を見開いて。
よく見るに、その立ち姿、少し危うい。
心だとか、そういうことではなく、物理的に、十全には力が入ってないように見受けられた。
「そんな怪我は、誰かにやられなければつくまいよ」
【まにょ】
「お恥ずかしい話、先日の主催者からの連絡で…取り乱して転んでしまって、そのときに」
自分でも恥ずかしい記憶だと自覚しているのか、珍しく言葉を濁しながら答える。「怪我をした＝誰かに傷つけられた」と考える思考の流れはゲームの参加者独特のものなのか、それとも彼ないし彼女独特のものなのか定かではないが、変な誤解をもたれて誰かに迷惑がかかってしまってはいけない。
「弱い体だと自覚していますから、余り人とは、争わないようにきをつけているのですが…自分で自滅しているのですから、世話ないですよね」
苦笑いではにかむ。争わないというのは彼なりの一種の防衛術とも言えるものだが、余り意識して行っているわけではないだけに、オート発動のアビリティのような感覚で認識してもらうのが一番正しく理解してもらえるだろう。
【聖☆ビキニマン】
「…………まあ、それならそれで良い。」
と、身体が悪いのだったか。
「なら、荷物を持とう。……俺ぁ、身体には恵まれてるもんでな。」
【まにょ】
「あぁ…ご親切に、どうもありがとうございます」
手から下げていた荷物がひょいと持ち上げられる。今日は飲み薬だけではなく、消毒液や包帯の予備も入れているため少々かさばっている。そこまで重くはないが、外は雪が降っており傘を差しながら荷物を持つのは、怪我をした手では少し痛みを我慢する必要があった。
「確かにご立派なお体をお持ちのようです。ですが…失礼を承知でお尋ねしますが、何故その格好を？」
確かに筋肉があれば寒さを感じ難いというのはよく聞く話だが、それにしたってこの真冬の気候で下着同然の格好でいて寒くないのだろうか。
【聖☆ビキニマン】
「コレか。コレは……俺の鍛錬法だ。」
したり顔。実は彼、冬場放課後は基本この格好であったりする。
「これは持論だが、格闘家が鍛えるべきは筋肉のみに非ず。動体視力などは当然ながら、皮膚の硬度、五感の鋭敏さ……果てには髪の毛一つ一つに至るまで、全てを苛め抜き、掌握する……それこそが武の極致！」
マッスルポーズッ！インビキニッッ！！
「故に、俺はこの格好で、皮膚を苛めて居るのだよ！」
【まにょ】
「鍛錬法…確かに衣服も立派な防護用装備と捉えるなら、究極的な武闘派というのは己の肉体のみであらゆる環境に耐えうる力を身につけているものと考えられますね」
自信満々に唱えられた持論に得心の行ったように頷く。確かに、どこに放り込まれても身一つで何でも出来るならそれこそが人類最強を唱えるに相応しい存在であるのだろう。ただし、強さと引き換えに多大なモラルを喪失してしまうことは口には出さなかった。そこに重きを置いているのならそもそもそんな説は提唱しないし、唯一身につける衣服として女性用水着、しかも赤いマイクロビキニを選んだりはしないのだから。
「己の理想のためにそこまでできる方は、生まれて初めて見ました」
純粋な賞賛の言葉を送ると、にこりと微笑んだ。見た目の威圧感とは裏腹に、目標のために一途になっている努力家なのだと理解すると、雰囲気の圧迫感が幾許か和らぐ。
エントランスを抜ければ雪国らしく大粒の雪が空から降ってきており、まにょは使い慣れた番傘をさした。話を聞いたさっきの今だが、隣で自分だけ傘に入っているのも気が引けてしまう日本人の業だ。荷物も持ってもらっているし、少しぐらいお返しをしようと傘を少し高く持ってみる。
ものの数十秒で、持ち上げている腕がぷるぷると震えだしているのだが。
【聖☆ビキニマン】
「……ふっ、気遣い、ありがとな。」
その傘を、一緒に持ってやり。
一方的に持つのではなく、一緒に、である。
「俺ぁ、門左衛門だ。アンタは？」
よくよく考えたら、苗字は言わなくても良いと気づき普通に名乗り。
【まにょ】
彼なりの気遣いに思わず笑んだ直後、ぴく、と傘を持つ指が動いた。門左衛門、その名前には聞き覚えがある。無論、歴史上の人物としてのそれではなく、キラキラネームもびっくりな我がクラスのメンバーの本名の中にそれがあるからだ。
共有チャットでも見ていたが、彼は本当に自分の名前を名乗っているのか。
「…私はまにょです。……も、もん…うぅん………」
ぎこちなく名乗り返して、相手を呼ぼうとして声が喉の奥で支えた。完全一致検索のように、フルネームで呼ばなければ問題はないと分かっていても肝が冷える思いだ。ふとした瞬間、名前を呼んで振り返ったらその人が死んでいるなど、思えばだいぶホラーではなかろうか。
「…門左さん」
頭の中で会議を重ねた結果、これぐらいの愛称ならよかろうと言う結論が出た。
【聖☆ビキニマン】
「おう、よろしくな。まにょ。」
門左……そういえば、門左衛門が読み難かった師匠は、よく俺をそう呼んだっけ。そう思い、笑みが溢れる。
「で、どこに行くんだ？」
というよりどこに運べば良いんだ？
【まにょ】
「中央エリアの旅館に。商店街にある宿泊施設で、温泉もあるのでそこに腰を据えました」
贅沢な話だが、結構な頻度で部屋のバスルームではなく温泉を利用しているあたりだいぶ気に入っている場所である。近くに物を買える店が多かったり、移動手段の電車に乗れる停留所も近く便利だと言うのもあるが。
「門左さんはどちらにお泊りなんですか？やっぱり、鍛えるといったら山でしょうか…」
山の方にはペンションがあって、そこにも宿泊が可能だ。だがあの雪山はどちらかと言うとスキーやスノーボードの利用が目的とされており、冬であるから修行らしい修行が出来るのか疑問はある。
【聖☆ビキニマン】
「洋風のホテルだ。住み心地は悪くない。…まあ、寝てねーから殆ど使ってもねーんだが。」
ホテルの側に拠点を置くものならば、毎夜巨漢の鍛錬、気合いの咆哮が聞こえてくるはずだ。
「ほんじゃ、そこまで送って、そのあとお暇させてもらうぜ。…物騒になってきたんでな。この体の使い所ってのは今だろうし。」
【まにょ】
近隣の住民に被害届が出されそうなことを夜な夜なしている相手とは知らず、寝てないとの言葉に少し心配そうな視線を向けた後に「分かりました」とこくりと頷いた。彼には彼のやることがあるのだろう。長く引き止めるのも恐らくは良くないのかもしれない。
そこから電車に乗って少しすれば、中央エリアの停留所に着いた。そこから旅館まではそれほど遠くもなく、五分も立たないうちに辿りついた。
中には入らず、傘を畳むと荷物を受け取った。
「…過ぎた心配かもしれませんが、お気をつけて。いえ…貴方のような方には、ご武運を、と申し上げるのが相応しい気がします」
すっと見上げて、その厳つい顔に微笑みかけるとまるで戦に赴く亭主を見送るように、随分と古臭いせりふを吐いた。
【聖☆ビキニマン】
「…………武運、か。いや、結構。その言葉は誰か、お前を真に護れるヤツにかけてくれ。」
立ち上がる。そこに浮かぶのは、正しく覚悟であった。
「だがまあ、ありがとうよ。」
旅館を出た。
「黒幕よーーー覚悟しな。俺が、出るぞ。」
【まにょ】
時折形式的に見回りをするナースの足音だけが響く院内の廊下を、白衣の天使に紛れた和装が歩く。最近怪我をしてしまったから、医薬品の類の補充をしに来たのだ。
素人目から見て、院内の薬品の区別が付くのかと言う疑問があるが、もしも怪しかったらその辺に居る専門科医に訊ねればいいのだし、下手に市販の薬を選ぶより病院の薬のほうが効き目が良いのは当たり前である。
目ぼしいものの調達は終わったようで、フロントに向かって歩いていく。あいも変わらず患者は居ないのに働く人間だけが事務的に動き回っているさまは、なかなかに不気味は場所である。
【聖☆ビキニマン】
「……病院、なんぞもあるのか。全く、ここはどうにも、ただ殺し合わせるだけじゃあ説明がつかねえなあ？」
また一人、護ると誓った女が死んだ。
だが。その瞳、最早力は些かも衰えない。
「さあて、探索を……と、よお、アンタも探索かい？」
そこでこっちにくるまにょを見つけて、手を振る
【まにょ】
話しかけてくる人間など居ないと思っていたからか、それとも唐突に筋肉ましまし生足魅惑のマーメイドのビキニ着用者（想定雄）が視界に移ったからか、心臓が大きな音を立てた。驚愕に目を見開いたまま数秒静止したが、適応能力は低くないのかすぐに冷静さを取り戻したようだった。
「いえ、私は薬をいただきに。先日、怪我をしてしまったもので」
会釈をして微笑むと、ビキニマンの前で足を止めた。自分もだいぶ身長が高いが、それを頭二つ分ほど上回られているのではないだろうかと思うほどに大きい。目の前に立たれるとかなりの威圧感だ。
流石に足の怪我を見せようとすると着物の裾を捲らなければならず、公共の場ではしたない真似をしない常識のあるまにょは包帯の巻かれた手のひらを見せた。
【聖☆ビキニマン】
「……これは、誰に？」
目を見開いて。
よく見るに、その立ち姿、少し危うい。
心だとか、そういうことではなく、物理的に、十全には力が入ってないように見受けられた。
「そんな怪我は、誰かにやられなければつくまいよ」
【まにょ】
「お恥ずかしい話、先日の主催者からの連絡で…取り乱して転んでしまって、そのときに」
自分でも恥ずかしい記憶だと自覚しているのか、珍しく言葉を濁しながら答える。「怪我をした＝誰かに傷つけられた」と考える思考の流れはゲームの参加者独特のものなのか、それとも彼ないし彼女独特のものなのか定かではないが、変な誤解をもたれて誰かに迷惑がかかってしまってはいけない。
「弱い体だと自覚していますから、余り人とは、争わないようにきをつけているのですが…自分で自滅しているのですから、世話ないですよね」
苦笑いではにかむ。争わないというのは彼なりの一種の防衛術とも言えるものだが、余り意識して行っているわけではないだけに、オート発動のアビリティのような感覚で認識してもらうのが一番正しく理解してもらえるだろう。
【聖☆ビキニマン】
「…………まあ、それならそれで良い。」
と、身体が悪いのだったか。
「なら、荷物を持とう。……俺ぁ、身体には恵まれてるもんでな。」
【まにょ】
「あぁ…ご親切に、どうもありがとうございます」
手から下げていた荷物がひょいと持ち上げられる。今日は飲み薬だけではなく、消毒液や包帯の予備も入れているため少々かさばっている。そこまで重くはないが、外は雪が降っており傘を差しながら荷物を持つのは、怪我をした手では少し痛みを我慢する必要があった。
「確かにご立派なお体をお持ちのようです。ですが…失礼を承知でお尋ねしますが、何故その格好を？」
確かに筋肉があれば寒さを感じ難いというのはよく聞く話だが、それにしたってこの真冬の気候で下着同然の格好でいて寒くないのだろうか。
【聖☆ビキニマン】
「コレか。コレは……俺の鍛錬法だ。」
したり顔。実は彼、冬場放課後は基本この格好であったりする。
「これは持論だが、格闘家が鍛えるべきは筋肉のみに非ず。動体視力などは当然ながら、皮膚の硬度、五感の鋭敏さ……果てには髪の毛一つ一つに至るまで、全てを苛め抜き、掌握する……それこそが武の極致！」
マッスルポーズッ！インビキニッッ！！
「故に、俺はこの格好で、皮膚を苛めて居るのだよ！」
【まにょ】
「鍛錬法…確かに衣服も立派な防護用装備と捉えるなら、究極的な武闘派というのは己の肉体のみであらゆる環境に耐えうる力を身につけているものと考えられますね」
自信満々に唱えられた持論に得心の行ったように頷く。確かに、どこに放り込まれても身一つで何でも出来るならそれこそが人類最強を唱えるに相応しい存在であるのだろう。ただし、強さと引き換えに多大なモラルを喪失してしまうことは口には出さなかった。そこに重きを置いているのならそもそもそんな説は提唱しないし、唯一身につける衣服として女性用水着、しかも赤いマイクロビキニを選んだりはしないのだから。
「己の理想のためにそこまでできる方は、生まれて初めて見ました」
純粋な賞賛の言葉を送ると、にこりと微笑んだ。見た目の威圧感とは裏腹に、目標のために一途になっている努力家なのだと理解すると、雰囲気の圧迫感が幾許か和らぐ。
エントランスを抜ければ雪国らしく大粒の雪が空から降ってきており、まにょは使い慣れた番傘をさした。話を聞いたさっきの今だが、隣で自分だけ傘に入っているのも気が引けてしまう日本人の業だ。荷物も持ってもらっているし、少しぐらいお返しをしようと傘を少し高く持ってみる。
ものの数十秒で、持ち上げている腕がぷるぷると震えだしているのだが。
【聖☆ビキニマン】
「……ふっ、気遣い、ありがとな。」
その傘を、一緒に持ってやり。
一方的に持つのではなく、一緒に、である。
「俺ぁ、門左衛門だ。アンタは？」
よくよく考えたら、苗字は言わなくても良いと気づき普通に名乗り。
【まにょ】
彼なりの気遣いに思わず笑んだ直後、ぴく、と傘を持つ指が動いた。門左衛門、その名前には聞き覚えがある。無論、歴史上の人物としてのそれではなく、キラキラネームもびっくりな我がクラスのメンバーの本名の中にそれがあるからだ。
共有チャットでも見ていたが、彼は本当に自分の名前を名乗っているのか。
「…私はまにょです。……も、もん…うぅん………」
ぎこちなく名乗り返して、相手を呼ぼうとして声が喉の奥で支えた。完全一致検索のように、フルネームで呼ばなければ問題はないと分かっていても肝が冷える思いだ。ふとした瞬間、名前を呼んで振り返ったらその人が死んでいるなど、思えばだいぶホラーではなかろうか。
「…門左さん」
頭の中で会議を重ねた結果、これぐらいの愛称ならよかろうと言う結論が出た。
【聖☆ビキニマン】
「おう、よろしくな。まにょ。」
門左……そういえば、門左衛門が読み難かった師匠は、よく俺をそう呼んだっけ。そう思い、笑みが溢れる。
「で、どこに行くんだ？」
というよりどこに運べば良いんだ？
【まにょ】
「中央エリアの旅館に。商店街にある宿泊施設で、温泉もあるのでそこに腰を据えました」
贅沢な話だが、結構な頻度で部屋のバスルームではなく温泉を利用しているあたりだいぶ気に入っている場所である。近くに物を買える店が多かったり、移動手段の電車に乗れる停留所も近く便利だと言うのもあるが。
「門左さんはどちらにお泊りなんですか？やっぱり、鍛えるといったら山でしょうか…」
山の方にはペンションがあって、そこにも宿泊が可能だ。だがあの雪山はどちらかと言うとスキーやスノーボードの利用が目的とされており、冬であるから修行らしい修行が出来るのか疑問はある。
【聖☆ビキニマン】
「洋風のホテルだ。住み心地は悪くない。…まあ、寝てねーから殆ど使ってもねーんだが。」
ホテルの側に拠点を置くものならば、毎夜巨漢の鍛錬、気合いの咆哮が聞こえてくるはずだ。
「ほんじゃ、そこまで送って、そのあとお暇させてもらうぜ。…物騒になってきたんでな。この体の使い所ってのは今だろうし。」
【まにょ】
近隣の住民に被害届が出されそうなことを夜な夜なしている相手とは知らず、寝てないとの言葉に少し心配そうな視線を向けた後に「分かりました」とこくりと頷いた。彼には彼のやることがあるのだろう。長く引き止めるのも恐らくは良くないのかもしれない。
そこから電車に乗って少しすれば、中央エリアの停留所に着いた。そこから旅館まではそれほど遠くもなく、五分も立たないうちに辿りついた。
中には入らず、傘を畳むと荷物を受け取った。
「…過ぎた心配かもしれませんが、お気をつけて。いえ…貴方のような方には、ご武運を、と申し上げるのが相応しい気がします」
すっと見上げて、その厳つい顔に微笑みかけるとまるで戦に赴く亭主を見送るように、随分と古臭いせりふを吐いた。
【聖☆ビキニマン】
「…………武運、か。いや、結構。その言葉は誰か、お前を真に護れるヤツにかけてくれ。」
立ち上がる。そこに浮かぶのは、正しく覚悟であった。
「だがまあ、ありがとうよ。」
旅館を出た。
「黒幕よーーー覚悟しな。俺が、出るぞ。」
束の間の応援曲 20th-22nd
あいごころ。(20th)-フェルナ(22nd)
【あいごころ。】
｢……｣
…今日は、色々な事があった。
色々なことがありすぎて。…自分の立ち位置をどうすればいいか悩んでいた。
｢…海は綺麗だなぁ。｣
誰かの死。それが今日、すごく実感出来て。ああ、嫌な日だなぁ。きっとそこかしこに“無意味”が転がっていく日だ。だけど、それに対してこころは思うことは。…“悪趣味”だ、と思うことだけだ。
｢…あぁそっか。柏木さん、死んじゃったんだ。｣
少し前に流れたアナウンスを思い出してみる。…うん、結局、彼女も死んでしまったんだ。…信用した人から死んでいくんだなぁ…なんで、なんで。…いや、この“感情”はズレてる。まだ、まだ抑えておかないと。
｢……豪華客船に乗りたい。｣
そんなどうでもいいことを呟きながら、船の甲板に座って地平線を眺める。
…きっと、まだ。悪夢は終わらないんだろうね。
【フェルナ】
この場所に来るのは、二度目か。
しかし、相変わらずといったようで…本当に役立てそうなものが見あたらない。ここで回収したものと言えば、海水くらいだろう。
え、海水を何に使うかって？禁則事項というやつさ。
「…こころ……こころなのか？」
甲板にまで足を踏み入れたのは、もっと何かが欲しかったからだろう。だからこそ、目の前に少女より小さな少女を見つけた。
それも、一度風呂を共にして、一度寄り添ったような仲だった。
嬉しくないといえば…嘘になるのかもしれない。
【あいごころ。】
｢…あ、フェルナさん！｣
人の声がした。立ち上がって振り返るとそこには見覚えのある人物。思わず、笑みが零れます。…ああ、フェルナさんかぁ。この人のおかげでこころがどのぐらい身長低いかがわかったし。…というかこころより下の身長の方はいらっしゃらないようです。このランドセルがその表明でしょう…GMあとで殺さないと。
話がそれた。…必要なのは、相手を信用すべきかすべきじゃないか。なら、今必要なのは。
…狐面を、ズラす。
｢…また、人が死んじゃったね。｣
そういって少しだけ、笑います。…うん、寂しいんだろうなぁって。無意味なものが増えていって、意味のあるはずのものが消えていくこの現状が。こんなことになるなんて誰も予想してなかったよなぁと思いながら。フェルナさんに向かって歩きだします。
…うん、やはり、やらないとダメだろうなぁ。あまり、乗り気ではないのだけれど。
【フェルナ】
「…そうだな、かなり早いペースだ。
こうなると収集がつかなくなっていくから、私個人としては結構困るものだよ。」
もう少し、慎重に動けないものなのだろうか。これでまた、少女は会える人が減っているというのに。
いや、会う気なんて更々無かった。そもそも、誰かさえ見つければ、もうそれでいい。
「…で、どうした。また人肌が恋しくなったのか？」
というのは表向き。
そうだ、少女は目の前へと歩いてくる存在の裏を、その片鱗を見ている。だから、何を企んでいるのかを知りたいのだろう。
しかし、少女が話さなければ彼女も話さないのは極めて当然のこと。何かが起これば、その時に動く。
【あいごころ。】
ああ、嫌だなぁ。フェルナさんの元に歩みよって。その距離大体2mぐらい。うん。丁度いいかな。ニッコリと笑って。未だポケットに突っ込んだままの“それ”を取り出して…相手に向けた。
｢…あなたは、人を殺しますか？｣
そう言って相手に突きつけるのは。
銃。
しっかりと相手の頭を狙うようにして。心情を悟られないように。ニコニコしたままで、質問。
…このまま引き金を引いたらどうなるのかな？なんて。でも、無理だろうね。…だってこの距離は。
…遠距離武器には不利な間合いだもの。
右手で突きつけている銃。左手は何もしていない。ただ、下におろしておくだけ。反撃しようと思えばどうとでも出来る状況。…あなたは、どうするの？
…本当はこんなこと、嫌なんだけどね。
【フェルナ】
「………………。」
気づいた頃には、
生々しい銃口が少女に突き付けられていて、
本能が危険を感じ取るのだ。
でも、まあ…どうしてだろうか。
私もいい加減、この世界のルールを理解し始めたのだろう。
本能は理性で抑え込める。
たったそれだけ。
「ふむ。」
だからか、第一の反応は首を傾げるのみだった。
動揺も何も無い。只の疑問だ。
この身体よりも身長の小さい少女に銃を向けられるこの危機は、少女にとっては危機でも何でもなかったのである。
さて、考えてみよう。
どうしてこの時で、この距離で、この少女に、銃を向けたのか。
ああ、答えは簡単だ。
──…解らない？
そうだ、その通り。私にも少女にも解らない。解るのは目の前の少女だけ。
人の心なんて、お見通しできる筈がないし、する意味なんて無い。まあ、目的の為に人の心を読む、利用する…なども居るらしいが。
人を殺しますか？
これに、答えは無い。
しかし、解答は出来なくとも、回答ならできる。
これが──
「これが、"応え"だよ。」
彼女が向けている銃口は、相変わらず少女の額を捉えている。
しかし、それより手前に、包帯で巻かれた左手があった。まるで、放たれた銃口を包み込む意図があるかのように。
それ以外には何も変わらない。
右手は下げているし、だらんと立ったままだし、武器を持った訳でもない。
どうして反撃をしないのか？
簡単だ、する意味がない。
本当に引き金を引いた時に動けばいい。そしたらその時は、目の前を赤く染めて見せよう。
未遂を感じて動くのは大事だが、結局未遂は未遂のまま。ここに実際は存在しない。こちらが決めつけた、ただの仮定。
とまあ、それはあくまで表向きの理由で。
目の前の少女にはそれが解るだろうか？
包帯の裏に隠され、更に別の包帯に包まれた…その意味を。
柔和な笑みで、"応えて"みせた。
【あいごころ。】
｢…そっか。｣
そう呟いた。…ああ、これは、これはきっと。そういうことだろう。
人を殺すかどうか。きっとこの人は…殺すかもしれないね。わからないけれど。
うん、初めてだ。この答えはわからない。けど、多分殺す。…それも、人じゃなくて。じゃあ誰を？簡単なことだよ。
―――殺すとしたら、自分…なのかな？
わからない。でも、人を殺すことは多分、あまりないのかな。…イレギュラーがない限りね。
だからね。こころは。…少しだけ俯いて。
…引き金を、引いた。
…パンッ
――――乾いた音が響いて、辺りに赤い花が。
｢…なーんて、ね。｣
静まりかえった辺りに、波の音が一つ。また一つと音を積み重ねた。…そこにあったのは、さっきと何も変わらない光景。…いや、ひとつだけ違うかな。こころが、引き金を引いている。ただ、それだけ。
ポケットに入れたままの銃。…少し付け加えれば、おもちゃの、という補足があるけれどね。
｢…ごめんね、試すような真似して。｣
そういって申し訳なく思って。頭を下げる。…信用出来るかどうか、これぐらいしかこころには分からなかったから。
…ああ、この人は、あるいみ信用出来ないかも。この人は信用できる。でも、この人の裏が、わからないから。…少なくとも、恐らく。
――――死を“死”と思わない、私にとっては。
銃から手を離す。…ああ、嫌だなぁこの気持ち。…本当に。
【フェルナ】
「…そんな事だろうと思ったよ。」
恐らく、少女は死なない。
その予想は間違えること無く、周囲に癇癪音だけが響いた。
左手を額から離し、掌を見つめる。
少し疼いたのは、痛みを予想していた本能だろうか。全く、つくづく邪魔をしてくれる。
「ふ…私を試すなんて、君も相当な物好きだね。
だが…まあ、私は他人を殺す気は更々無いよ。少なくとも自分から、だけどな。」
おっと、思わず口角を吊り上げてしまった。もし弾が出ていたのなら、少女は反撃に出ていただろう。その銃弾如きで、この左手を貫ける筈がないのだから。
「全く…これでも驚いていたんだぞ？」
【あいごころ。】
｢うん…ごめん。｣
そういって少しだけ笑います。
…うん。わかった。少しだけこの人のことが。…きっとこの言葉には嘘はないと思う。…まあ、裏が見えないから分からないけれど。
｢…あ、そういえば。｣
ランドセルからあるものを取り出して、フェルナさんに言います。
｢…着物の着付けって、できる？｣
少し、恥ずかしいことだけれども。こころは、まだしっかりと着物を着れません。今まではスキー場で取ってきたジャンパーを着ていました。…そろそろ、着替えたいのです。
｢…お願いできる、かな？｣
【フェルナ】
「ふむ、着付けか。」
まあ、当然のようにできる。
この少女は手先が器用だ、現実よりも、更に細かい作業ができている。小さい体はやはり有難い。
兎に角、バレないからだ。
「任せろ、直ぐに着付けて整えてやる。
その前に…取り敢えず、中へ入ろうか。」
海風が吹くような船の甲板の上で着替えなど、少なくとも少女はしたいと思わない。先ずは船内を指差して、少女は先にそこへと向かう。
【あいごころ。】
｢…うん。｣
断る理由もない。こんな風が吹く場所で着付けなどこころもしたくないから。
…色々、あったけれども、やっぱりフェルナさんは優しいなぁ。うん、なんだろう…あ、この感じは前感じたことがある。…まるで。
｢…お姉ちゃん、みたい｣
ああ、これかな。うん。エムお姉ちゃんも優しいけれども、こうやって頼りになるお姉ちゃんだっているんだ。…ああ、ダメだね。こころは簡単に信用してしまうんだ。
｢…フェルナお姉ちゃん。｣
なんとなく、言ってみる。…ああ、なんだ。結構しっくり来るじゃないか。…もし、フェルナさんが迷惑じゃなければこう呼ぼうかなって。
…なんだか、落ち着くかな。
【フェルナ】
「ん、どうした？」
思ったよりも、普通に返した。
しかし、直ぐに異変に気付いたらしく。
今度は途端に湯気が出た。
そんな、気がした。
「お、お…お姉ちゃん、だと…！？
わっわ…わた私が…！？」
まあ、言われ慣れていないというのが一番の理由だろう。だから、こういった発言には弱いのだ。
というのが、表向きの理由だったとしたなら？
はは、まさか…。
「か、からかってないよな…。」
ああ、全く、この少女は。
耳が赤いぞ、涙目だぞ、睨み付けているぞ。
──ふふ、貴女も私と同じだったんだね。
うるせえ。納豆菌の刑にするぞ。
【あいごころ。】
｢…だめ、かな？｣
…もしかしてすごく失礼なことを言ってしまったのかもしれないなぁって。そうだよね。…クラスメイトだもんね。お姉ちゃんなんていったら嫌がるに決まってるよね…
｢…うん、ごめん…ダメだよね。気持ち悪いよね…｣
ごめん、ね？少しだけ困ったように笑って…ああ、でも、ダメかぁ…
悲しい、かな。少しずつ、少しずつ、目の前が歪んでって…これは、きっとこころが悪いから。
｢ぅぅ…ごめんなさぃ…ぅぅあああ…｣
誤ならないといけないのに。大粒の涙がそれを邪魔をしました。それは確かに床に落ちていきます。
…ああ、やっぱり、ダメなんだ。
【フェルナ】
「────っ！」
──学習、しないんだね。
うるせえ。貯金箱にすんぞ。
全く、どうしてくれるんだ。前はどうか泣き止んでくれたが、宥めるのは物凄く苦手だ。仕方ない、何かで気を引いて解決を…
「…ごめんなさい。」
…ん？
違う、これは少女が放った言葉ではない。
なら誰だ。誰が、こんなに透き通った柔らかな声で、そんな事を口にしたんだ。
…いや、居るじゃないか。"私"という豆腐メンタルが。
おい、止めろ。お前にこの世界で生きる権利はないんだ、さっさと引っ込んで…
──────。
「ごめんね…少し、驚いちゃったの。
お姉ちゃんなんて…殆ど言われた事が無かったから。」
初めて言われたのは確か、エムちゃん…その名前の女の子からだった気がします。
きっと、"少女"はそれを流してしまったのでしょう。だから、お姉ちゃんという言葉にはどうしても慣れない。
ごめんなさい。きっと貴女も、私がもっとしっかりしていれば…。
「"お姉ちゃん"嬉しいの。貴女は、私を見てそう言ってくれている…それだけで泣きそうになるくらい…私は嬉しい。」
涙を流しているこころちゃん、私で良ければ。
距離を詰めて、その小さな身体を、私は優しく…包み…そして、その頭を…撫でるのです。
「貴女は何も悪くない…だから、私に…。
いえ、私を…貴女の"お姉ちゃん"でいさせて…？」
こんな時にまで我儘を告げてしまうのだから、私は駄目なのでしょう。
でも、私はこころちゃんが口にしてくれた、姉でありたい。
こころちゃんが拒まないのなら、私はずっと…包帯の内に隠れた温もりで、こころちゃんを暖めます。
【あいごころ。】
｢ぅうあ…ぃいの？……ぅぅ…おねぇちゃんって…呼んで…｣
泣きながら、でしたけれども。フェルナさん…いや、フェルナお姉ちゃんに抱きしめられて…頭を撫でられて…とっても、安心します。
｢…お姉ちゃん、フェルナお姉ちゃん！｣
気づいたら涙は止まっていて。代わりに、自然に笑顔で笑っていました。フェルナお姉ちゃんをギューってします。
｢ありがとう、フェルナお姉ちゃん！｣
ニコニコ。とってもいい気分です。フェルナお姉ちゃんがこうやって頭を撫でてくれると本当に、安心するから。
｢…でも、そろそろ着替えたいなって。｣
ずっとこうしててもいいですが、早く着替えなければなりません。名残惜しいですが、フェルナお姉ちゃんから離れることにします。
…うぅ、やっぱりなでなでして欲しぃ
【フェルナ】
「…こちらこそ、ありがとう。」
寧ろ、御礼を告げるのは私の方だと言うのに…。ああ、きっと皆は、心のどこかにあるのでしょう。
誰かを求める、そんな気持が。
「…そうね、先ずは着替えましょうか。
えっと…脱がす所からやる？」
何だかんだ船内には居るので、寒さもある程度和らいでいるみたいです。着替えはここで問題ないでしょう。
今まで見せたことも無い、安心感を与えるような瞳。こころちゃんが不思議に思っていても仕方ありません。でも、今だけでも、私として…。
【あいごころ。】
｢んーん、大丈夫。｣
心配されてしまいましたが、さすがに脱ぐことはこころにも出来ます。手に持ったランドセルを置くといそいそとジャンパーを脱ぐと…カラン、と音。
｢…あ、落ちちゃった。｣
袖に仕込んでおいたナイフが落ちた音です。まあ、使うつもりもないのですけども。そのまあジャンパーを下に落として…
｢…終わったよ？｣
…ジャンパーの下は何も来ていなかったりします。パンツとかも履いてません。…本当は探しに行きたかったのですけれども、なんやかんやしてるうち機会を見失ってしまったのです。そんなわけで船内で裸になります。…痴女じゃないですよ？
さて、着物を手渡して。
｢…お願いします！｣
元気よく、言ってみました。
【フェルナ】
「………！」
2つの意味で驚いてしまいました。
でも、これくらいで動揺を顕にしてはいけません。この世界は過酷、それは見てきたのだから。
「…取り敢えず、ぱんつをどうにかしたいかな…。」
何だかんだ、下着は大事です。とは言ってもここは船内、何か役立つものが存在するとも思えず…。
少し悩んだ私は、自身のスカートの横を捲り、その中の布をずり落とそうと、手を下に下げようとします。
【あいごころ。】
｢っ！！だ、だめぇ！｣
ずり下ろそうとするその手を抑えます。それは、それは絶対に許しません！
｢その…こころずっと履いてなかったから…無くてもいいよ？いいや、無くて大丈夫！｣
そういってふん、と息を吐きます。
｢それにない方がきっと動きやすいもん！｣
そういって着付けを急かしてみます。…やっぱり、着物のほうがいいですから！
【フェルナ】
「…で、でも…。」
まあ、確かに。
私もこうされたら、恐らくは躊躇うでしょう。優しさからきたものと信じたとしても、それは人のもの。断られたなら、私はそれを履き直すしかありません。
──(絶対そういう意味じゃないよな)。
「せめて、応急処置はさせて…ね？」
でも、女の子に外をこのまま歩かせる訳にはいきません。私にも、譲れない部分はあるものです。
代わりに懐から取り出したのは、私のアイデンティティとも言える、包帯。これで、下着の代わりとしてしばらく付けていてもらいたい所です。
【あいごころ。】
｢…わかった。｣
そういって包帯を大事なところに巻いていきます…こんな感じでいいのかな？
｢うん…これで大丈夫！｣
こころにしては上手に巻けました。多分、これなら大丈夫ですよね？
｢これで、いいよね？｣
一応フェルナお姉ちゃんに聞いておきます。…ああ、やっぱり持つべきものはお姉ちゃんだなって。
【フェルナ】
「……うん、多分大丈夫ね。」
そこは聞いてくれたと、ほっと胸を撫で下ろします。しっかりと隠れているのも確認したら、今度は私の番。
ようやくなので、危うく忘れてしまうところでした。
「ちゃんと、着付けてあげる。
じっとしておくのよ？」
安心させる為にもこころちゃんの頭を撫でつつ、片手に持っている着物の上下を合わせておきます。
【あいごころ。】
｢うん！ありがとー！｣
そういって大人しく待ちます。…あぁ、やっぱり安心します。フェルナお姉ちゃんのなでなでは世界で1番のなでなでかもしれません。
｢〜♪｣
久々の着物です。さっきまでジャンパーだったのでなんというか…気分が乗る感じです。鼻歌を歌って上機嫌になります。
…きっと、この後に起こることに。気を引き締めて。
そのために、着物は来ておきたかったですから。
【フェルナ】
「………。」
一度こころちゃんの頭から手を離して、そこからの私は早いものでした。
体感的には、恐らく5分も掛からなかったでしょう。帯までぴったりと結び、そして出来た合図は両肩を叩きます。
「そうね…そのままでも可愛くて美しいのだけど……髪、結ってみない？」
また、私の我儘です。
というのも、これはただの提案。私だからこそ…こころちゃんのイメージが、不思議のように湧いてくるのです。
【あいごころ。】
｢…髪、か。｣
ああ、髪をゆってみるかどうか。…その質問に私は。
｢…んーん。大丈夫。｣
遠慮しました。…だって。きっとゆったとしても。
…崩れちゃうでしょうからね。
｢…ああ、それじゃあ、フェルナお姉ちゃんありがとうね？｣
そう言ってお礼を言います。やはり、フェルナお姉ちゃんは優しいです。…だからこそ。フェルナお姉ちゃんとこれ以上は、一緒に居られないなぁって。
｢…そろそろ、こころいくね？｣
そういってニコリと笑いました。
【フェルナ】
「…ふふ、どういたしまして。」
大丈夫なら、私は大人しく引っ込みます。
出来ることなら、また違った貴女を…見たかった。
そんな願いは心の奥にしまい込み、彼女がもう行ってしまう事に新たに残念さを覚えるのです。
「……行ってらっしゃい。
貴女の帰り道は…校門になっている事を願うわ。」
きっと私も、彼女ともう会えない事を感じていたのでしょう。
だから、永遠のお別れ。
そして、学校でのただいま。
それを言えるように、私は信じています。
信じて、こころちゃんの背中を、いつまでも後押しするように優しく見守るのでした。
【あいごころ。】
｢……｣
…今日は、色々な事があった。
色々なことがありすぎて。…自分の立ち位置をどうすればいいか悩んでいた。
｢…海は綺麗だなぁ。｣
誰かの死。それが今日、すごく実感出来て。ああ、嫌な日だなぁ。きっとそこかしこに“無意味”が転がっていく日だ。だけど、それに対してこころは思うことは。…“悪趣味”だ、と思うことだけだ。
｢…あぁそっか。柏木さん、死んじゃったんだ。｣
少し前に流れたアナウンスを思い出してみる。…うん、結局、彼女も死んでしまったんだ。…信用した人から死んでいくんだなぁ…なんで、なんで。…いや、この“感情”はズレてる。まだ、まだ抑えておかないと。
｢……豪華客船に乗りたい。｣
そんなどうでもいいことを呟きながら、船の甲板に座って地平線を眺める。
…きっと、まだ。悪夢は終わらないんだろうね。
【フェルナ】
この場所に来るのは、二度目か。
しかし、相変わらずといったようで…本当に役立てそうなものが見あたらない。ここで回収したものと言えば、海水くらいだろう。
え、海水を何に使うかって？禁則事項というやつさ。
「…こころ……こころなのか？」
甲板にまで足を踏み入れたのは、もっと何かが欲しかったからだろう。だからこそ、目の前に少女より小さな少女を見つけた。
それも、一度風呂を共にして、一度寄り添ったような仲だった。
嬉しくないといえば…嘘になるのかもしれない。
【あいごころ。】
｢…あ、フェルナさん！｣
人の声がした。立ち上がって振り返るとそこには見覚えのある人物。思わず、笑みが零れます。…ああ、フェルナさんかぁ。この人のおかげでこころがどのぐらい身長低いかがわかったし。…というかこころより下の身長の方はいらっしゃらないようです。このランドセルがその表明でしょう…GMあとで殺さないと。
話がそれた。…必要なのは、相手を信用すべきかすべきじゃないか。なら、今必要なのは。
…狐面を、ズラす。
｢…また、人が死んじゃったね。｣
そういって少しだけ、笑います。…うん、寂しいんだろうなぁって。無意味なものが増えていって、意味のあるはずのものが消えていくこの現状が。こんなことになるなんて誰も予想してなかったよなぁと思いながら。フェルナさんに向かって歩きだします。
…うん、やはり、やらないとダメだろうなぁ。あまり、乗り気ではないのだけれど。
【フェルナ】
「…そうだな、かなり早いペースだ。
こうなると収集がつかなくなっていくから、私個人としては結構困るものだよ。」
もう少し、慎重に動けないものなのだろうか。これでまた、少女は会える人が減っているというのに。
いや、会う気なんて更々無かった。そもそも、誰かさえ見つければ、もうそれでいい。
「…で、どうした。また人肌が恋しくなったのか？」
というのは表向き。
そうだ、少女は目の前へと歩いてくる存在の裏を、その片鱗を見ている。だから、何を企んでいるのかを知りたいのだろう。
しかし、少女が話さなければ彼女も話さないのは極めて当然のこと。何かが起これば、その時に動く。
【あいごころ。】
ああ、嫌だなぁ。フェルナさんの元に歩みよって。その距離大体2mぐらい。うん。丁度いいかな。ニッコリと笑って。未だポケットに突っ込んだままの“それ”を取り出して…相手に向けた。
｢…あなたは、人を殺しますか？｣
そう言って相手に突きつけるのは。
銃。
しっかりと相手の頭を狙うようにして。心情を悟られないように。ニコニコしたままで、質問。
…このまま引き金を引いたらどうなるのかな？なんて。でも、無理だろうね。…だってこの距離は。
…遠距離武器には不利な間合いだもの。
右手で突きつけている銃。左手は何もしていない。ただ、下におろしておくだけ。反撃しようと思えばどうとでも出来る状況。…あなたは、どうするの？
…本当はこんなこと、嫌なんだけどね。
【フェルナ】
「………………。」
気づいた頃には、
生々しい銃口が少女に突き付けられていて、
本能が危険を感じ取るのだ。
でも、まあ…どうしてだろうか。
私もいい加減、この世界のルールを理解し始めたのだろう。
本能は理性で抑え込める。
たったそれだけ。
「ふむ。」
だからか、第一の反応は首を傾げるのみだった。
動揺も何も無い。只の疑問だ。
この身体よりも身長の小さい少女に銃を向けられるこの危機は、少女にとっては危機でも何でもなかったのである。
さて、考えてみよう。
どうしてこの時で、この距離で、この少女に、銃を向けたのか。
ああ、答えは簡単だ。
──…解らない？
そうだ、その通り。私にも少女にも解らない。解るのは目の前の少女だけ。
人の心なんて、お見通しできる筈がないし、する意味なんて無い。まあ、目的の為に人の心を読む、利用する…なども居るらしいが。
人を殺しますか？
これに、答えは無い。
しかし、解答は出来なくとも、回答ならできる。
これが──
「これが、"応え"だよ。」
彼女が向けている銃口は、相変わらず少女の額を捉えている。
しかし、それより手前に、包帯で巻かれた左手があった。まるで、放たれた銃口を包み込む意図があるかのように。
それ以外には何も変わらない。
右手は下げているし、だらんと立ったままだし、武器を持った訳でもない。
どうして反撃をしないのか？
簡単だ、する意味がない。
本当に引き金を引いた時に動けばいい。そしたらその時は、目の前を赤く染めて見せよう。
未遂を感じて動くのは大事だが、結局未遂は未遂のまま。ここに実際は存在しない。こちらが決めつけた、ただの仮定。
とまあ、それはあくまで表向きの理由で。
目の前の少女にはそれが解るだろうか？
包帯の裏に隠され、更に別の包帯に包まれた…その意味を。
柔和な笑みで、"応えて"みせた。
【あいごころ。】
｢…そっか。｣
そう呟いた。…ああ、これは、これはきっと。そういうことだろう。
人を殺すかどうか。きっとこの人は…殺すかもしれないね。わからないけれど。
うん、初めてだ。この答えはわからない。けど、多分殺す。…それも、人じゃなくて。じゃあ誰を？簡単なことだよ。
―――殺すとしたら、自分…なのかな？
わからない。でも、人を殺すことは多分、あまりないのかな。…イレギュラーがない限りね。
だからね。こころは。…少しだけ俯いて。
…引き金を、引いた。
…パンッ
――――乾いた音が響いて、辺りに赤い花が。
｢…なーんて、ね。｣
静まりかえった辺りに、波の音が一つ。また一つと音を積み重ねた。…そこにあったのは、さっきと何も変わらない光景。…いや、ひとつだけ違うかな。こころが、引き金を引いている。ただ、それだけ。
ポケットに入れたままの銃。…少し付け加えれば、おもちゃの、という補足があるけれどね。
｢…ごめんね、試すような真似して。｣
そういって申し訳なく思って。頭を下げる。…信用出来るかどうか、これぐらいしかこころには分からなかったから。
…ああ、この人は、あるいみ信用出来ないかも。この人は信用できる。でも、この人の裏が、わからないから。…少なくとも、恐らく。
――――死を“死”と思わない、私にとっては。
銃から手を離す。…ああ、嫌だなぁこの気持ち。…本当に。
【フェルナ】
「…そんな事だろうと思ったよ。」
恐らく、少女は死なない。
その予想は間違えること無く、周囲に癇癪音だけが響いた。
左手を額から離し、掌を見つめる。
少し疼いたのは、痛みを予想していた本能だろうか。全く、つくづく邪魔をしてくれる。
「ふ…私を試すなんて、君も相当な物好きだね。
だが…まあ、私は他人を殺す気は更々無いよ。少なくとも自分から、だけどな。」
おっと、思わず口角を吊り上げてしまった。もし弾が出ていたのなら、少女は反撃に出ていただろう。その銃弾如きで、この左手を貫ける筈がないのだから。
「全く…これでも驚いていたんだぞ？」
【あいごころ。】
｢うん…ごめん。｣
そういって少しだけ笑います。
…うん。わかった。少しだけこの人のことが。…きっとこの言葉には嘘はないと思う。…まあ、裏が見えないから分からないけれど。
｢…あ、そういえば。｣
ランドセルからあるものを取り出して、フェルナさんに言います。
｢…着物の着付けって、できる？｣
少し、恥ずかしいことだけれども。こころは、まだしっかりと着物を着れません。今まではスキー場で取ってきたジャンパーを着ていました。…そろそろ、着替えたいのです。
｢…お願いできる、かな？｣
【フェルナ】
「ふむ、着付けか。」
まあ、当然のようにできる。
この少女は手先が器用だ、現実よりも、更に細かい作業ができている。小さい体はやはり有難い。
兎に角、バレないからだ。
「任せろ、直ぐに着付けて整えてやる。
その前に…取り敢えず、中へ入ろうか。」
海風が吹くような船の甲板の上で着替えなど、少なくとも少女はしたいと思わない。先ずは船内を指差して、少女は先にそこへと向かう。
【あいごころ。】
｢…うん。｣
断る理由もない。こんな風が吹く場所で着付けなどこころもしたくないから。
…色々、あったけれども、やっぱりフェルナさんは優しいなぁ。うん、なんだろう…あ、この感じは前感じたことがある。…まるで。
｢…お姉ちゃん、みたい｣
ああ、これかな。うん。エムお姉ちゃんも優しいけれども、こうやって頼りになるお姉ちゃんだっているんだ。…ああ、ダメだね。こころは簡単に信用してしまうんだ。
｢…フェルナお姉ちゃん。｣
なんとなく、言ってみる。…ああ、なんだ。結構しっくり来るじゃないか。…もし、フェルナさんが迷惑じゃなければこう呼ぼうかなって。
…なんだか、落ち着くかな。
【フェルナ】
「ん、どうした？」
思ったよりも、普通に返した。
しかし、直ぐに異変に気付いたらしく。
今度は途端に湯気が出た。
そんな、気がした。
「お、お…お姉ちゃん、だと…！？
わっわ…わた私が…！？」
まあ、言われ慣れていないというのが一番の理由だろう。だから、こういった発言には弱いのだ。
というのが、表向きの理由だったとしたなら？
はは、まさか…。
「か、からかってないよな…。」
ああ、全く、この少女は。
耳が赤いぞ、涙目だぞ、睨み付けているぞ。
──ふふ、貴女も私と同じだったんだね。
うるせえ。納豆菌の刑にするぞ。
【あいごころ。】
｢…だめ、かな？｣
…もしかしてすごく失礼なことを言ってしまったのかもしれないなぁって。そうだよね。…クラスメイトだもんね。お姉ちゃんなんていったら嫌がるに決まってるよね…
｢…うん、ごめん…ダメだよね。気持ち悪いよね…｣
ごめん、ね？少しだけ困ったように笑って…ああ、でも、ダメかぁ…
悲しい、かな。少しずつ、少しずつ、目の前が歪んでって…これは、きっとこころが悪いから。
｢ぅぅ…ごめんなさぃ…ぅぅあああ…｣
誤ならないといけないのに。大粒の涙がそれを邪魔をしました。それは確かに床に落ちていきます。
…ああ、やっぱり、ダメなんだ。
【フェルナ】
「────っ！」
──学習、しないんだね。
うるせえ。貯金箱にすんぞ。
全く、どうしてくれるんだ。前はどうか泣き止んでくれたが、宥めるのは物凄く苦手だ。仕方ない、何かで気を引いて解決を…
「…ごめんなさい。」
…ん？
違う、これは少女が放った言葉ではない。
なら誰だ。誰が、こんなに透き通った柔らかな声で、そんな事を口にしたんだ。
…いや、居るじゃないか。"私"という豆腐メンタルが。
おい、止めろ。お前にこの世界で生きる権利はないんだ、さっさと引っ込んで…
──────。
「ごめんね…少し、驚いちゃったの。
お姉ちゃんなんて…殆ど言われた事が無かったから。」
初めて言われたのは確か、エムちゃん…その名前の女の子からだった気がします。
きっと、"少女"はそれを流してしまったのでしょう。だから、お姉ちゃんという言葉にはどうしても慣れない。
ごめんなさい。きっと貴女も、私がもっとしっかりしていれば…。
「"お姉ちゃん"嬉しいの。貴女は、私を見てそう言ってくれている…それだけで泣きそうになるくらい…私は嬉しい。」
涙を流しているこころちゃん、私で良ければ。
距離を詰めて、その小さな身体を、私は優しく…包み…そして、その頭を…撫でるのです。
「貴女は何も悪くない…だから、私に…。
いえ、私を…貴女の"お姉ちゃん"でいさせて…？」
こんな時にまで我儘を告げてしまうのだから、私は駄目なのでしょう。
でも、私はこころちゃんが口にしてくれた、姉でありたい。
こころちゃんが拒まないのなら、私はずっと…包帯の内に隠れた温もりで、こころちゃんを暖めます。
【あいごころ。】
｢ぅうあ…ぃいの？……ぅぅ…おねぇちゃんって…呼んで…｣
泣きながら、でしたけれども。フェルナさん…いや、フェルナお姉ちゃんに抱きしめられて…頭を撫でられて…とっても、安心します。
｢…お姉ちゃん、フェルナお姉ちゃん！｣
気づいたら涙は止まっていて。代わりに、自然に笑顔で笑っていました。フェルナお姉ちゃんをギューってします。
｢ありがとう、フェルナお姉ちゃん！｣
ニコニコ。とってもいい気分です。フェルナお姉ちゃんがこうやって頭を撫でてくれると本当に、安心するから。
｢…でも、そろそろ着替えたいなって。｣
ずっとこうしててもいいですが、早く着替えなければなりません。名残惜しいですが、フェルナお姉ちゃんから離れることにします。
…うぅ、やっぱりなでなでして欲しぃ
【フェルナ】
「…こちらこそ、ありがとう。」
寧ろ、御礼を告げるのは私の方だと言うのに…。ああ、きっと皆は、心のどこかにあるのでしょう。
誰かを求める、そんな気持が。
「…そうね、先ずは着替えましょうか。
えっと…脱がす所からやる？」
何だかんだ船内には居るので、寒さもある程度和らいでいるみたいです。着替えはここで問題ないでしょう。
今まで見せたことも無い、安心感を与えるような瞳。こころちゃんが不思議に思っていても仕方ありません。でも、今だけでも、私として…。
【あいごころ。】
｢んーん、大丈夫。｣
心配されてしまいましたが、さすがに脱ぐことはこころにも出来ます。手に持ったランドセルを置くといそいそとジャンパーを脱ぐと…カラン、と音。
｢…あ、落ちちゃった。｣
袖に仕込んでおいたナイフが落ちた音です。まあ、使うつもりもないのですけども。そのまあジャンパーを下に落として…
｢…終わったよ？｣
…ジャンパーの下は何も来ていなかったりします。パンツとかも履いてません。…本当は探しに行きたかったのですけれども、なんやかんやしてるうち機会を見失ってしまったのです。そんなわけで船内で裸になります。…痴女じゃないですよ？
さて、着物を手渡して。
｢…お願いします！｣
元気よく、言ってみました。
【フェルナ】
「………！」
2つの意味で驚いてしまいました。
でも、これくらいで動揺を顕にしてはいけません。この世界は過酷、それは見てきたのだから。
「…取り敢えず、ぱんつをどうにかしたいかな…。」
何だかんだ、下着は大事です。とは言ってもここは船内、何か役立つものが存在するとも思えず…。
少し悩んだ私は、自身のスカートの横を捲り、その中の布をずり落とそうと、手を下に下げようとします。
【あいごころ。】
｢っ！！だ、だめぇ！｣
ずり下ろそうとするその手を抑えます。それは、それは絶対に許しません！
｢その…こころずっと履いてなかったから…無くてもいいよ？いいや、無くて大丈夫！｣
そういってふん、と息を吐きます。
｢それにない方がきっと動きやすいもん！｣
そういって着付けを急かしてみます。…やっぱり、着物のほうがいいですから！
【フェルナ】
「…で、でも…。」
まあ、確かに。
私もこうされたら、恐らくは躊躇うでしょう。優しさからきたものと信じたとしても、それは人のもの。断られたなら、私はそれを履き直すしかありません。
──(絶対そういう意味じゃないよな)。
「せめて、応急処置はさせて…ね？」
でも、女の子に外をこのまま歩かせる訳にはいきません。私にも、譲れない部分はあるものです。
代わりに懐から取り出したのは、私のアイデンティティとも言える、包帯。これで、下着の代わりとしてしばらく付けていてもらいたい所です。
【あいごころ。】
｢…わかった。｣
そういって包帯を大事なところに巻いていきます…こんな感じでいいのかな？
｢うん…これで大丈夫！｣
こころにしては上手に巻けました。多分、これなら大丈夫ですよね？
｢これで、いいよね？｣
一応フェルナお姉ちゃんに聞いておきます。…ああ、やっぱり持つべきものはお姉ちゃんだなって。
【フェルナ】
「……うん、多分大丈夫ね。」
そこは聞いてくれたと、ほっと胸を撫で下ろします。しっかりと隠れているのも確認したら、今度は私の番。
ようやくなので、危うく忘れてしまうところでした。
「ちゃんと、着付けてあげる。
じっとしておくのよ？」
安心させる為にもこころちゃんの頭を撫でつつ、片手に持っている着物の上下を合わせておきます。
【あいごころ。】
｢うん！ありがとー！｣
そういって大人しく待ちます。…あぁ、やっぱり安心します。フェルナお姉ちゃんのなでなでは世界で1番のなでなでかもしれません。
｢〜♪｣
久々の着物です。さっきまでジャンパーだったのでなんというか…気分が乗る感じです。鼻歌を歌って上機嫌になります。
…きっと、この後に起こることに。気を引き締めて。
そのために、着物は来ておきたかったですから。
【フェルナ】
「………。」
一度こころちゃんの頭から手を離して、そこからの私は早いものでした。
体感的には、恐らく5分も掛からなかったでしょう。帯までぴったりと結び、そして出来た合図は両肩を叩きます。
「そうね…そのままでも可愛くて美しいのだけど……髪、結ってみない？」
また、私の我儘です。
というのも、これはただの提案。私だからこそ…こころちゃんのイメージが、不思議のように湧いてくるのです。
【あいごころ。】
｢…髪、か。｣
ああ、髪をゆってみるかどうか。…その質問に私は。
｢…んーん。大丈夫。｣
遠慮しました。…だって。きっとゆったとしても。
…崩れちゃうでしょうからね。
｢…ああ、それじゃあ、フェルナお姉ちゃんありがとうね？｣
そう言ってお礼を言います。やはり、フェルナお姉ちゃんは優しいです。…だからこそ。フェルナお姉ちゃんとこれ以上は、一緒に居られないなぁって。
｢…そろそろ、こころいくね？｣
そういってニコリと笑いました。
【フェルナ】
「…ふふ、どういたしまして。」
大丈夫なら、私は大人しく引っ込みます。
出来ることなら、また違った貴女を…見たかった。
そんな願いは心の奥にしまい込み、彼女がもう行ってしまう事に新たに残念さを覚えるのです。
「……行ってらっしゃい。
貴女の帰り道は…校門になっている事を願うわ。」
きっと私も、彼女ともう会えない事を感じていたのでしょう。
だから、永遠のお別れ。
そして、学校でのただいま。
それを言えるように、私は信じています。
信じて、こころちゃんの背中を、いつまでも後押しするように優しく見守るのでした。
失態を納めよう 9th【REVIVAL】-14th【DEAD END】
マリア(9th)【REVIVAL】-聖☆ビキニマン(14th)【DEAD END】
【マリア】
『いったあぃぃぃぃ！！！？？』
思わず、温泉で絶叫した。
そりゃあ痛いのだ。
あれだけの傷である。
しかし、お湯に浸かるまで耐えた私を、褒めてくれて良い。
体に巻いたタオルの下にハサミだけに挟み込んだハサミ。
舌の中に針。
過剰武装だが、麻酔薬の瓶すら風呂の道具の中に隠した。
という入念な準備と、実に間抜けな絶叫は対照的である。
『全く、やられたわ……』
【聖☆ビキニマン】
「……フゥーーーッ！」
パァンッ、腰を叩く音、風呂場に響く。
「さあて、湯加減は如何程か……？」
その男、威風堂々たる体躯にして、その逸物もまた泰然自若。
即ち、彼は正しく全裸であり、フルチンが、浴槽に、今ッ！！
【マリア】
『……ふざけんな！！』
珍しく、激昂した。
ふざけんなこいつ。
何裸なんだ。
何故裸なんだ。
いや、仕舞えよ。
混浴なら仕舞えよ。
『その粗チン隠せ■■■■！』
あ。
本名。
だったか、これ。あいつの。
あれ？
これ、まさか……
【聖☆ビキニマン】
「ーーーーー」
驚いた顔と共に、自らの死亡を悟る。
「…いや、嬉しいな。漸く名前を呼んでもらえた。」
それとも、少し哀しい、が正解だろうか？
結局、誰も守れなかった。
「なあ、アンタ。名は、なんて言うんだ？」
穏やかに微笑んで。
その逸物が、プランと寂しげに揺れた。
【マリア】
『マリア。貴方の敵。』
彼が名前を呼ぶ前に。
私は、殺さねばならぬ。
さて、間に合ってくれ。
この身体が持ちますように――！
全速力で、踏み出し。
私はハサミで一撃を―――――
『は？』
意識が朦朧とする。
天と地がひっくり返る。
あ。
しまった。
風呂場だ。
ついでに、麻酔薬の瓶なぞ皆持ち込んだから更に悪い。
傷だらけの消耗状態。
平衡感覚などまともなわけ無く。
思い切り飛び込んだ挙句。
転倒。
胸に深々と、ハサミが食い込み。
私は、あっけなくお陀仏という意味のわからない結末を迎えた。
【聖☆ビキニマン】
「…………マリ……ア…っておいおい…ヤムチャしやがって……」
ふぅ、と溜め息を吐く。
「月でも見ながら、眠るかねえ……」
マリアの上に座り、風呂に半分浸かりつつ月を見上げる。
「嗚呼、綺麗だなあ…！」
何処で間違えたのだろう。
「俺は……ただ…皆とまた、笑い合いたかっただけなのに、なあ……」
身体が、灰になっていく。
最後に、ビキニと逸物だけが、赤い湯船に浮かんでいた。
【マリア】
『いったあぃぃぃぃ！！！？？』
思わず、温泉で絶叫した。
そりゃあ痛いのだ。
あれだけの傷である。
しかし、お湯に浸かるまで耐えた私を、褒めてくれて良い。
体に巻いたタオルの下にハサミだけに挟み込んだハサミ。
舌の中に針。
過剰武装だが、麻酔薬の瓶すら風呂の道具の中に隠した。
という入念な準備と、実に間抜けな絶叫は対照的である。
『全く、やられたわ……』
【聖☆ビキニマン】
「……フゥーーーッ！」
パァンッ、腰を叩く音、風呂場に響く。
「さあて、湯加減は如何程か……？」
その男、威風堂々たる体躯にして、その逸物もまた泰然自若。
即ち、彼は正しく全裸であり、フルチンが、浴槽に、今ッ！！
【マリア】
『……ふざけんな！！』
珍しく、激昂した。
ふざけんなこいつ。
何裸なんだ。
何故裸なんだ。
いや、仕舞えよ。
混浴なら仕舞えよ。
『その粗チン隠せ■■■■！』
あ。
本名。
だったか、これ。あいつの。
あれ？
これ、まさか……
【聖☆ビキニマン】
「ーーーーー」
驚いた顔と共に、自らの死亡を悟る。
「…いや、嬉しいな。漸く名前を呼んでもらえた。」
それとも、少し哀しい、が正解だろうか？
結局、誰も守れなかった。
「なあ、アンタ。名は、なんて言うんだ？」
穏やかに微笑んで。
その逸物が、プランと寂しげに揺れた。
【マリア】
『マリア。貴方の敵。』
彼が名前を呼ぶ前に。
私は、殺さねばならぬ。
さて、間に合ってくれ。
この身体が持ちますように――！
全速力で、踏み出し。
私はハサミで一撃を―――――
『は？』
意識が朦朧とする。
天と地がひっくり返る。
あ。
しまった。
風呂場だ。
ついでに、麻酔薬の瓶なぞ皆持ち込んだから更に悪い。
傷だらけの消耗状態。
平衡感覚などまともなわけ無く。
思い切り飛び込んだ挙句。
転倒。
胸に深々と、ハサミが食い込み。
私は、あっけなくお陀仏という意味のわからない結末を迎えた。
【聖☆ビキニマン】
「…………マリ……ア…っておいおい…ヤムチャしやがって……」
ふぅ、と溜め息を吐く。
「月でも見ながら、眠るかねえ……」
マリアの上に座り、風呂に半分浸かりつつ月を見上げる。
「嗚呼、綺麗だなあ…！」
何処で間違えたのだろう。
「俺は……ただ…皆とまた、笑い合いたかっただけなのに、なあ……」
身体が、灰になっていく。
最後に、ビキニと逸物だけが、赤い湯船に浮かんでいた。
パンデミック・カウントダウン 6th-25th
臨海 凪乃(6th)-柏木 愛(25th)
【柏木 愛】
「俺に出来る事……俺に出来る事……」
(波止場で波を眺めながら、ブツブツと繰り返し呟く。ここに来るのは何度目だろうか？
自分は考え事があると、海を見たくなるらしい。新たな発見である)
「うーん、とりあえず、こころちゃんを守るぐらい……ですかね……」
(出来ることなど何もない。情報系ゾディアックなど持ってないし、戦うこともできない。己の無力さに腹が立つ。
余計なことをすれば、死ぬことは目に見えているので、ビビって動けないというのもあるのであった)
【臨海 凪乃】
「あら……またあったわね」
豪華客船で見た柏木
しかし、柏木は何者かによって殺されたはずだと聞いていた
どうしてこんなところにいるのか不思議ではいたが……
生きているならばいい
話を聞こうじゃないか
【柏木 愛】
「うん……？そ、それ、車椅子ですか？」
(声をかけられた先にいたのは、ノゾミエルであった。車椅子に乗ってるように見えるが気のせいだろうか？豪華客船から車椅子って、高度1万フィートからのグレード急降下ではなかろうか)
【臨海 凪乃】
「とりあえず何かに乗りたいのよ……
で、サードについて何かわかったのかしら」
単刀直入に聞く 要件はそこだ
【柏木 愛】
「え、ええ……直接会って、話をしました。
ええと、その、大したことはわからなかったんですが、はい、すみません。殺さないでください、すみません」
(柏木は焦る。自分の情報は、彼女を満足させ得るものだろうか？恐る恐る、彼女にそれを伝える)
【臨海 凪乃】
「あー……いいのよ。
もう頃合いだものね……
もうこのゲームも終わるわ……。
それはさておき、このゲームにはいろんな人間模様が絡んでいてね
争い、恋、その他いろいろ……
あなたはどう思った?
好きな人とかできた?
何か守りたい、そんな気持ちは生まれた?」
なんて、遠い水平線を見ながら
【柏木 愛】
「え、ええ……その、好きな人は、できました。
両想い？なのかな？多分。
ふへ、ふへへ、やばくないですか？俺16年間生きてて初めて彼女できたんすよ。
ふへ、やばくないですか？童貞卒業まで秒読みですよこれ。ふへ」
（ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべながら、要らないことをだらだらと話す。
彼は彼女が出来たらきっとTwitterの専用垢を作り、誰も聞いてないノロケを延々と投下し続け、別れたとたんに病みツイを連発する極めて自己メンタル管理能力の低い人間である。
ちなみに彼は童貞であって処女ではない。悲しいなぁ）
【臨海 凪乃】
「 【相手の本名】 」
……
…………
「そう、いいわね。
私ね……
そういう
幸せを
破壊するのが
絶望に叩き落とすのが
……大好きなの」
【柏木 愛】
「え……？」
ざわり、と冷たい風が、二人の間を吹き抜けた。
ビーッ、ビーッ。
懐から不安を駆り立てる音が鳴った。
震える手でコロパッドを取り出す。
待ち受け画面に大きく表示されていたのは
『死亡まであと 0：59：48』
死を告げる、カウントダウンだった。
世界から匂いが消え、音が消え、光が消える。
力を失った両手から、するりとコロパッドが抜け落ちた。
「……どう……して……。
なんでだ！？なんで俺の、名前を呼んだんですか！？
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして！！
殺さないって言ったじゃないですか！嘘つき！死ね！死んじまえ！」
【臨海 凪乃】
「あと1時間あるわね……
いいでしょう…… じゃあ説明してあげる。
あなたは双子座を使って蘇生させてもらった
3rdの手によって、そうでしょう?
あなたは私に3rdの情報を売った それは感謝しているわ。
でも、あなたが二重スパイの可能性も考えていた。
あまり私から情報が流れるくらいなら、ここで王手をかけておくべきでしょう?
それと……
適当に泳がせておいて、3rdのゾディアックを封じさせたのよ。
これで3rdも殺しやすくなるわね
あのね…… それにね……
人の幸せを踏みにじるのが大好きなの！！！！！
アハハハハハハハハ！！！！！！」
【柏木 愛】
「くそっ！くそっ！くそおおおおおおおおおおおおっ！」
（憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔。
ああ、こんなことなら前みたいに、気絶したまま死ねればよかったのに。
冷たい地面に何度も頭を打ち付ける。血が流れ、視界を赤く染めた）
「ピエロちゃん、ごめん……！俺、俺、生きたかったのにっ……！！
こころちゃん、ごめん！約束、果たせそうにないっ……！ごめん、ごめん、ごめん！
ごめんなさいでしたぁぁぁ！！」
【臨海 凪乃】
「……そう、それでいいのよ
さて……次は9thの息の根を止めるか
11thを切り捨てるか…… 悩むわね……。
柏木君、 これだけは言っておきたいの
女って怖いでしょう?
あなたが手玉にとれるほど、可愛い生き物でもないのよ」
その柏木の姿をカメラに収める
「残りの時間……
好きなように生きなさい。
会いたい人に会いなさい。
私は、そうね…… 十分楽しんだ」
【柏木 愛】
「俺に出来る事……俺に出来る事……」
(波止場で波を眺めながら、ブツブツと繰り返し呟く。ここに来るのは何度目だろうか？
自分は考え事があると、海を見たくなるらしい。新たな発見である)
「うーん、とりあえず、こころちゃんを守るぐらい……ですかね……」
(出来ることなど何もない。情報系ゾディアックなど持ってないし、戦うこともできない。己の無力さに腹が立つ。
余計なことをすれば、死ぬことは目に見えているので、ビビって動けないというのもあるのであった)
【臨海 凪乃】
「あら……またあったわね」
豪華客船で見た柏木
しかし、柏木は何者かによって殺されたはずだと聞いていた
どうしてこんなところにいるのか不思議ではいたが……
生きているならばいい
話を聞こうじゃないか
【柏木 愛】
「うん……？そ、それ、車椅子ですか？」
(声をかけられた先にいたのは、ノゾミエルであった。車椅子に乗ってるように見えるが気のせいだろうか？豪華客船から車椅子って、高度1万フィートからのグレード急降下ではなかろうか)
【臨海 凪乃】
「とりあえず何かに乗りたいのよ……
で、サードについて何かわかったのかしら」
単刀直入に聞く 要件はそこだ
【柏木 愛】
「え、ええ……直接会って、話をしました。
ええと、その、大したことはわからなかったんですが、はい、すみません。殺さないでください、すみません」
(柏木は焦る。自分の情報は、彼女を満足させ得るものだろうか？恐る恐る、彼女にそれを伝える)
【臨海 凪乃】
「あー……いいのよ。
もう頃合いだものね……
もうこのゲームも終わるわ……。
それはさておき、このゲームにはいろんな人間模様が絡んでいてね
争い、恋、その他いろいろ……
あなたはどう思った?
好きな人とかできた?
何か守りたい、そんな気持ちは生まれた?」
なんて、遠い水平線を見ながら
【柏木 愛】
「え、ええ……その、好きな人は、できました。
両想い？なのかな？多分。
ふへ、ふへへ、やばくないですか？俺16年間生きてて初めて彼女できたんすよ。
ふへ、やばくないですか？童貞卒業まで秒読みですよこれ。ふへ」
（ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべながら、要らないことをだらだらと話す。
彼は彼女が出来たらきっとTwitterの専用垢を作り、誰も聞いてないノロケを延々と投下し続け、別れたとたんに病みツイを連発する極めて自己メンタル管理能力の低い人間である。
ちなみに彼は童貞であって処女ではない。悲しいなぁ）
【臨海 凪乃】
「 【相手の本名】 」
……
…………
「そう、いいわね。
私ね……
そういう
幸せを
破壊するのが
絶望に叩き落とすのが
……大好きなの」
【柏木 愛】
「え……？」
ざわり、と冷たい風が、二人の間を吹き抜けた。
ビーッ、ビーッ。
懐から不安を駆り立てる音が鳴った。
震える手でコロパッドを取り出す。
待ち受け画面に大きく表示されていたのは
『死亡まであと 0：59：48』
死を告げる、カウントダウンだった。
世界から匂いが消え、音が消え、光が消える。
力を失った両手から、するりとコロパッドが抜け落ちた。
「……どう……して……。
なんでだ！？なんで俺の、名前を呼んだんですか！？
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして！！
殺さないって言ったじゃないですか！嘘つき！死ね！死んじまえ！」
【臨海 凪乃】
「あと1時間あるわね……
いいでしょう…… じゃあ説明してあげる。
あなたは双子座を使って蘇生させてもらった
3rdの手によって、そうでしょう?
あなたは私に3rdの情報を売った それは感謝しているわ。
でも、あなたが二重スパイの可能性も考えていた。
あまり私から情報が流れるくらいなら、ここで王手をかけておくべきでしょう?
それと……
適当に泳がせておいて、3rdのゾディアックを封じさせたのよ。
これで3rdも殺しやすくなるわね
あのね…… それにね……
人の幸せを踏みにじるのが大好きなの！！！！！
アハハハハハハハハ！！！！！！」
【柏木 愛】
「くそっ！くそっ！くそおおおおおおおおおおおおっ！」
（憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔。
ああ、こんなことなら前みたいに、気絶したまま死ねればよかったのに。
冷たい地面に何度も頭を打ち付ける。血が流れ、視界を赤く染めた）
「ピエロちゃん、ごめん……！俺、俺、生きたかったのにっ……！！
こころちゃん、ごめん！約束、果たせそうにないっ……！ごめん、ごめん、ごめん！
ごめんなさいでしたぁぁぁ！！」
【臨海 凪乃】
「……そう、それでいいのよ
さて……次は9thの息の根を止めるか
11thを切り捨てるか…… 悩むわね……。
柏木君、 これだけは言っておきたいの
女って怖いでしょう?
あなたが手玉にとれるほど、可愛い生き物でもないのよ」
その柏木の姿をカメラに収める
「残りの時間……
好きなように生きなさい。
会いたい人に会いなさい。
私は、そうね…… 十分楽しんだ」
リミットまで三刻と少し 3rd-25th
五番目の道化師(3rd)-柏木 愛(25th)
【五番目の道化師】
なんだか、嫌な予感がした。
気がつけば探索を切り上げて、自然とキャンプ場に来ていて…あの時、柏木くんと出会ったことを──、両思いだと知れたことを色々思い出す。
「……。」
ぎゅっと、首から下げているロザリオ握ってしまうのはなんでだろうね。不安で手が震えるのはなんでだろうね…。
(××くん…)
月が見えないくらい真っ暗な空に祈るように、心の中で彼の名前を呼んでみる───
【柏木 愛】
「……ピエロちゃん」
（背後からそっと、声をかけた。なんとなく、ここにいる気がしたからだ。
限られた時間を、無駄に使いたくはない。今は彼女と出会えた幸運に感謝しようではないか）
「ピエロちゃん、ごめんなさい……。
お別れです」
（虚ろな動作で、コロパッドの画面を見せる。
死を告げるカウントダウンが、刻一刻と、進んでいる）
【五番目の道化師】
「柏木くん…っ！！」
無事だったの、よかった！と、私は喜ぼうとした。
だけど…なんだか様子がおかしい。
「え、な、なにを…いっているの…？」
お別れ？
せっかく、甦ったばかりなのに──？
「うそよ、嘘よ…ッ！！そんなの、嫌ッ！！」
目に写るのは…彼が死へ向かうカウントダウン。
なんで、私が彼から目を離した隙に何があったの！？
(カウントダウンということは───ッ、あぁ、やられた。誰かが××くんの名前を…ッ！！)
今感じているのは──悲しみか、怒りか、無念さか、後悔か。それとも絶望か？私は柏木くんを強く抱き締めて「死なないでよ！」と嘆く。
【柏木 愛】
「は、はは……俺たち、泣いてばっかりですね……」
（彼女の身体を強く抱きしめる。開いた手から落ちたコロパッドが、雪に埋もれた）
「お、俺、本当にダメなやつです。きっとこのまま生き延びても、俺ではピエロちゃんを幸せにできなかったと思います。
だから、ピエロちゃんは、俺の事なんて忘れて……生きてください、お願いします」
（ボロボロと涙を流し、彼女の服を強く握りながら、そう告げた。
きっと、きっと、これでよかった。自分のようなどうしようもない人間が、彼女に釣り合うはずはなかったのだ。
ここで関係を断ち切り、彼女には、彼女の人生を歩んでほしい。
切実に、そう思う）
【五番目の道化師】
鉄の味がする。
「ふざけないで！！忘れろとか、酷いことを言わないでよ！！」
バッと柏木を突き放し、怒りを込めて睨み付ける。
「忘れられたら、どれだけ悲しいか……。忘れてしまったら…どれだけ苦しいか…。それもわからないのに、簡単にそんなこと、言わないでよ…ッ！！」
ボロボロと涙を溢し…涙を拭うその手からは涙とは別の赤い色の雫が溢れる。
「忘れない、絶対に───っ、忘れてやらないんだからッ！！」
【柏木 愛】
「ああ、君は本当に……どうしてそんな……良い子なんですか……」
（力なくその場に崩れ落ちる。何度も流したはずの涙なのに、枯れることなく溢れ続ける）
「そんなこと言われても、俺たち、辛いだけですよ。もう、俺たちに未来はないんです。
だから、ぐすっ、切り捨ててくださいよ……その方が、ピエロちゃんのためなんですって……」
【五番目の道化師】
「うるさいっ、うるさいっ！！柏木くんまで『切り捨てろ』何て言わないでよ！」
赤い色で染まるその手で耳を覆った。
紅い色は頬を伝い、涙と共に地に吸い込まれるようにぽたり、ぽたりと落ちていく。
「『私の為』とか言わないでよッ！！残されたあたしの寂しさなんて知らないくせにっ！！」
記憶が消えていく先輩も『切り捨てろ』って、言ってきた。
自分の事なんて忘れて幸せに生きろって。
柏木くん…。
××くんも『切り捨てろ』『忘れて生きろ』って言う。
酷いよ、なんでこんなことになっちゃうの？
「酷いよ、二人とも…」
【柏木 愛】
「…………」
（彼女は過去に、既に誰かを失っていたのだろうか。だとすれば、自分は、彼女の心を更に傷つける存在となってしまった。
本当に、自分は……。
……いや、そうか、そういうことか。
彼女は自分を、好いてくれている。そんな自分を自分で貶すということは、彼女を否定するのと同義ではないのか。
ああ、そんなことに、今際の際で気が付くなんて）
「……ごめんなさい、俺、わかった気がします。間違いだらけで、もう取り返しのつかないことになってしまいましたが……ちょっとでも、何が間違ってたのか、わかった気がします。
ピエロちゃん、ありがとう。俺と一緒にいてくれて、ありがとう。好きです、これからも、ずっと」
【五番目の道化師】
「柏木、くん…っ」
私も、好きだ。今も、これからも。
「私、××くんに会えてよかった…っ！」
もう一度、強く抱き締めて───軽く、唇同士を合わせた。
「あなたに、私のファーストキスをあげる。それ以外、あげられるもの…っ、なかったから…」
私は、未だに涙を止めることができないまま笑みを浮かべた。私はあなたの事を愛していた。これはその証拠としての行動だった。
【柏木 愛】
「んっ……。
何言ってるんですか、俺、ピエロちゃんに沢山の事貰いましたよ。
本当に、返しきれないほど、感謝してます」
（そう言って、今度は自分から、キスをする）
「あの……こんなこと頼むのは、申し訳ないんですけど。
俺が死ぬときに、立ち会ってくれませんか？あ、まだ数十分あって、その間にちょっと行きたいところもあって……最後にまた、会いたいなって」
【五番目の道化師】
「…そんなこと、んむ…っ」
『そんなことない』って否定しようとしたところで口が塞がれる。
「ええ…良いですよ」
本当は死ぬ瞬間なんてみたくない。
大好きな人なら、尚更見たいはずがない。だけど…そうしたら本当に永遠の別れになってしまう。そんなのは嫌だった。
「独りぼっちは寂しいですもん」
だから、私はあなたの最後を見届けよう。
せめて…少しでも寂しい思いはしないように。
【柏木 愛】
「……ありがとう、ございます」
（彼は微笑み、安堵する。一度死んでいるからだろうか？死への恐怖は、さほどない。
あるのはただ、彼女を一人残してしまうことと
多少なりとも両親への感謝 そしてペットの亀美を最期に一目見れなかった後悔ぐらいである。
人間、自分勝手なものだ。あれほど生前に巡らせていた思案も、いざ死ぬとなれば、どうでもよくなってくる。
関わりがあった者たちには、申し訳ないが……あとは野となれ山となれだ）
「……じゃあ、また、１５分後に、ここで」
（残された時間は、多くない。彼はすぐさま駆けだした）
【五番目の道化師】
なんだか、嫌な予感がした。
気がつけば探索を切り上げて、自然とキャンプ場に来ていて…あの時、柏木くんと出会ったことを──、両思いだと知れたことを色々思い出す。
「……。」
ぎゅっと、首から下げているロザリオ握ってしまうのはなんでだろうね。不安で手が震えるのはなんでだろうね…。
(××くん…)
月が見えないくらい真っ暗な空に祈るように、心の中で彼の名前を呼んでみる───
【柏木 愛】
「……ピエロちゃん」
（背後からそっと、声をかけた。なんとなく、ここにいる気がしたからだ。
限られた時間を、無駄に使いたくはない。今は彼女と出会えた幸運に感謝しようではないか）
「ピエロちゃん、ごめんなさい……。
お別れです」
（虚ろな動作で、コロパッドの画面を見せる。
死を告げるカウントダウンが、刻一刻と、進んでいる）
【五番目の道化師】
「柏木くん…っ！！」
無事だったの、よかった！と、私は喜ぼうとした。
だけど…なんだか様子がおかしい。
「え、な、なにを…いっているの…？」
お別れ？
せっかく、甦ったばかりなのに──？
「うそよ、嘘よ…ッ！！そんなの、嫌ッ！！」
目に写るのは…彼が死へ向かうカウントダウン。
なんで、私が彼から目を離した隙に何があったの！？
(カウントダウンということは───ッ、あぁ、やられた。誰かが××くんの名前を…ッ！！)
今感じているのは──悲しみか、怒りか、無念さか、後悔か。それとも絶望か？私は柏木くんを強く抱き締めて「死なないでよ！」と嘆く。
【柏木 愛】
「は、はは……俺たち、泣いてばっかりですね……」
（彼女の身体を強く抱きしめる。開いた手から落ちたコロパッドが、雪に埋もれた）
「お、俺、本当にダメなやつです。きっとこのまま生き延びても、俺ではピエロちゃんを幸せにできなかったと思います。
だから、ピエロちゃんは、俺の事なんて忘れて……生きてください、お願いします」
（ボロボロと涙を流し、彼女の服を強く握りながら、そう告げた。
きっと、きっと、これでよかった。自分のようなどうしようもない人間が、彼女に釣り合うはずはなかったのだ。
ここで関係を断ち切り、彼女には、彼女の人生を歩んでほしい。
切実に、そう思う）
【五番目の道化師】
鉄の味がする。
「ふざけないで！！忘れろとか、酷いことを言わないでよ！！」
バッと柏木を突き放し、怒りを込めて睨み付ける。
「忘れられたら、どれだけ悲しいか……。忘れてしまったら…どれだけ苦しいか…。それもわからないのに、簡単にそんなこと、言わないでよ…ッ！！」
ボロボロと涙を溢し…涙を拭うその手からは涙とは別の赤い色の雫が溢れる。
「忘れない、絶対に───っ、忘れてやらないんだからッ！！」
【柏木 愛】
「ああ、君は本当に……どうしてそんな……良い子なんですか……」
（力なくその場に崩れ落ちる。何度も流したはずの涙なのに、枯れることなく溢れ続ける）
「そんなこと言われても、俺たち、辛いだけですよ。もう、俺たちに未来はないんです。
だから、ぐすっ、切り捨ててくださいよ……その方が、ピエロちゃんのためなんですって……」
【五番目の道化師】
「うるさいっ、うるさいっ！！柏木くんまで『切り捨てろ』何て言わないでよ！」
赤い色で染まるその手で耳を覆った。
紅い色は頬を伝い、涙と共に地に吸い込まれるようにぽたり、ぽたりと落ちていく。
「『私の為』とか言わないでよッ！！残されたあたしの寂しさなんて知らないくせにっ！！」
記憶が消えていく先輩も『切り捨てろ』って、言ってきた。
自分の事なんて忘れて幸せに生きろって。
柏木くん…。
××くんも『切り捨てろ』『忘れて生きろ』って言う。
酷いよ、なんでこんなことになっちゃうの？
「酷いよ、二人とも…」
【柏木 愛】
「…………」
（彼女は過去に、既に誰かを失っていたのだろうか。だとすれば、自分は、彼女の心を更に傷つける存在となってしまった。
本当に、自分は……。
……いや、そうか、そういうことか。
彼女は自分を、好いてくれている。そんな自分を自分で貶すということは、彼女を否定するのと同義ではないのか。
ああ、そんなことに、今際の際で気が付くなんて）
「……ごめんなさい、俺、わかった気がします。間違いだらけで、もう取り返しのつかないことになってしまいましたが……ちょっとでも、何が間違ってたのか、わかった気がします。
ピエロちゃん、ありがとう。俺と一緒にいてくれて、ありがとう。好きです、これからも、ずっと」
【五番目の道化師】
「柏木、くん…っ」
私も、好きだ。今も、これからも。
「私、××くんに会えてよかった…っ！」
もう一度、強く抱き締めて───軽く、唇同士を合わせた。
「あなたに、私のファーストキスをあげる。それ以外、あげられるもの…っ、なかったから…」
私は、未だに涙を止めることができないまま笑みを浮かべた。私はあなたの事を愛していた。これはその証拠としての行動だった。
【柏木 愛】
「んっ……。
何言ってるんですか、俺、ピエロちゃんに沢山の事貰いましたよ。
本当に、返しきれないほど、感謝してます」
（そう言って、今度は自分から、キスをする）
「あの……こんなこと頼むのは、申し訳ないんですけど。
俺が死ぬときに、立ち会ってくれませんか？あ、まだ数十分あって、その間にちょっと行きたいところもあって……最後にまた、会いたいなって」
【五番目の道化師】
「…そんなこと、んむ…っ」
『そんなことない』って否定しようとしたところで口が塞がれる。
「ええ…良いですよ」
本当は死ぬ瞬間なんてみたくない。
大好きな人なら、尚更見たいはずがない。だけど…そうしたら本当に永遠の別れになってしまう。そんなのは嫌だった。
「独りぼっちは寂しいですもん」
だから、私はあなたの最後を見届けよう。
せめて…少しでも寂しい思いはしないように。
【柏木 愛】
「……ありがとう、ございます」
（彼は微笑み、安堵する。一度死んでいるからだろうか？死への恐怖は、さほどない。
あるのはただ、彼女を一人残してしまうことと
多少なりとも両親への感謝 そしてペットの亀美を最期に一目見れなかった後悔ぐらいである。
人間、自分勝手なものだ。あれほど生前に巡らせていた思案も、いざ死ぬとなれば、どうでもよくなってくる。
関わりがあった者たちには、申し訳ないが……あとは野となれ山となれだ）
「……じゃあ、また、１５分後に、ここで」
（残された時間は、多くない。彼はすぐさま駆けだした）
嘘で塗りたくる嘘 5th-9th
まにょ(5th)-マリア(9th)
【まにょ】
夕とも夜とも付かない、まだ沈んだ陽の色が残る空の下を歩く。キャンパスに絵の具を滲ませるように空の色を見に纏った雪像は純白のそれとはまた違った魅力を持っていて、衣替えをしたような変化を楽しむように通路を歩いていく。
雪の降らないこんな日は、こうして出かけては何かを探している。それは物だったり人だったりするし、見つかる確信があって探しているわけでない。今がそうであるように。
彩られた雪像の隙間を進んでいく。色づいたそれらに混ざって動いていると、自分だけ異質なようで、何だか不思議な感覚がした。
【マリア】
『腹立たしいわね。』
舌打ち。
我ながら酷い態度で雪像を見る。
これは、ムカついた。
私の親友を象ったものであったからである。
厳密には、名前のプレートがあったりはしないので、個人をモチーフに作られたかは不明だが。
単に似た造形だっただけなのかも、知れないのだが。
私は―――――――
『本物のが何倍も美人よ。』
蹴りを一発打ち込み、破壊した。
盛大に真っ二つになったそれが倒れ、道を作り。
『……貴方は……』
彼女と私を繋いだ。
【まにょ】
突如として眼前の雪像がぱかりと左右に割れ、崩れ落ちる様を見せられて唖然とする。だが逆光を背にする影が消えたわけではなくて、恐らくその雪像を破壊したのだろう彼女の姿が目に入れば、驚きにぽかんとした顔がゆるりと笑みを浮かべた。
「駄目じゃないですか、展示品を壊したら」
ふふ、と他愛のない調子で窘める。隣の部屋で暮らしているのに、こうも久しぶりにあったような気になってしまうのは、彼女に起きた色々なことを鑑みれば仕方のないことなのかもしれない。
【マリア】
『……うるさいわね。こんなの、あのクソ天使が作ったやつだし構わないわよ。』
不貞腐れたようにそう呟く。
やれやれ、私もガキっぽさがまだ抜けていないらしい。
やれやれ、この私も人の子か。
なんて、思ってもいないが。
少しだけ辟易したのは確かだったりもするのである。
なんで？
いや、純粋に気まずい。
私は殺人犯である。
二人殺したわけだから、連続殺人犯と言っても良い。
そしてその理由は、一応、当面は、ギリギリまでは。
彼女を護るというどうでもいい。
私に言わせれば、しょうもないドクトリンに基づいているから、実に恥ずかしい。
自傷的で。
破滅的で。
郷愁的で。
そんな思い出に、実質腕二本をくれてやっているのだから、バカバカしい事この上ない。
全く、誰から請求すればいい。
死人から金は取れないんだが。
『…というか、私は殺人犯なのだけれど。そうのうのうとしていたら、貴方死ぬかも知れないわ。
逃げたりしないわけ？』
なんて、どこに当てれば良いかわからない懐かしい、親愛なる苛立ちを、八つ当たりに私はぶつけ、務めて剣呑な口調で咎める。
まあ、私は殺す気は無いが。
いや、待て。
ヒガンバナの件からペースが狂いまくっているが、この護っていただのなんだのだって、嘘かもしれないじゃないか。
ここで、殺す気は無い…かもしれない、と意味深に足すのが赤城結奈の筈であったろう。
くそう。
してやられた。
なんて、こんな茶番自体が嘘かもしれないがな。
と、私は折り合いを付けたりする。人間らしく細かいのだ私は。
人でなしの癖にな。
【まにょ】
「貴女が人を殺せることと、私が貴女に殺されることの因果関係はありませんよ。貴女は快楽殺人者ではないので」
理由があれば躊躇わないだろうが、今のところ彼女が自分を殺すことに価値を見出しているようには思えなかった。生きていても死んでいても支障がないほどの位置づけに居る、という方が正しい。それは心因性のものではなくて、単純にこのゲームの盤上で見た客観性に基づく話だ。
「貴女が教えてくれた通り、命の危険は避けるようにしています。今逃げていないのは…そういうことです」
絶大な信頼と安心感は、時として煩わしく思うこともあるだろう。
彼女がそういったものに嫌悪を示すことは理解していた。だけれども、それでも、誰もが彼女を危険視しているのなら、自分ぐらいはそういう目で見なくても構わないではないか。
自分はこの盤上で、何の価値もないのだから。
【マリア】
『あっそ。』
ち、分かってやがる。
と、私は苦々しい思いをした。
流石私の見込んだ女だ。
なんてな？
とはいえ、言葉を言葉通り受け取らない、というのは万事に通ずる鉄則である。
私の言うことなど、鵜呑みにするべきではないのだから。
それでいい。
『ま、貴方が生き延びてるなんて私にはびっくりだけど。
死ななくて良かったんじゃない？アゾートにはなるだろうけど。』
とかいう悲しいくらいに見え見えな負け惜しみしかなかった。
『なんだかんだ、なりたいものになれれば人間構わないんだし。
アゾートだからって、それが出来ない訳じゃないんだから。』
【まにょ】
「私もここまで生き延びていることに自分でも驚いています。出会った方が良かったのでしょう」
柏木しかり、フェルナしかり、ビキニマンしかり――無論、目の前のマリアもそうである。
ゲーム開始後に出会った人物が総じて好戦的ではなかったことが、今もまにょが生き延びている理由だ。それだけ自分が舐められているとも捉えることが出来るが、それで命拾いをしているのなら尊厳と言うのは如何に生存すると言う一点の目的においては大きな重要性を持たないと言えるだろう。
「このまま生き延びていたら運営側の人間になる、と…今後もこのようなげーむに連れ出されるのはあまり良い気分とは言えませんが、私は……私にも、最低限譲れないものはありますから、致し方のないことなのですね」
胸に手を当て、嘆息を溢す。だがそれもそこそこに顔を上げると数歩マリアに近づいた。足元で崩れた雪像の亡骸を踏み崩して、苦笑いを浮かべる。
「少なくとも貴女がそこに居るなら、余り恐ろしくはないのでしょうね」
信頼が、より強固になるだけだ。立場として確約されるのだから。
【マリア】
『……全く。』
困ったように、私は眉を八の字にして微笑する。
彼女が居なくなったなら、私は多分、また、傷を負うであろう。
極めて、深い傷を。
アゾート次第でどうにでもなるっていうのに、困ったものだ。
一応、私自身はあのヒガンバナだか言う少女が。
奴隷なり。
仲間なり。
適当にやってくれるであろう。
あれは、自分を騙せるタイプの人間ではなかったと思う。結局。
でなければ、いよいよペテン師としてすら私の負けだ。
それに関しては、死んでも良い。
なんて、潔くは無く。
良くはない。
決して、良くはないから。
アカエルに、ゲーム終了時点で私は私をくれてやることになっている。最後の、アゾートによる選別投票的なものに関して言うなら、言わば出来レースだ。
騙されたな。
しめしめ。
と、私は年下相手に、大人気なく優越感に浸る。
最低である。
やれやれ、全く。
『ばーか。』
バカバカしい。
と、思いながらも。
私は笑って、彼女を抱き締めた。
今生の別れが直ぐそばに居ても。
また、奪われても。
まあ、今この時間は永遠だ。
『まあ、また騙してあげるとするわね――――――』
また。
というか。
一回も騙していないが。
それは恥ずかしいのでこじつけようとして、結局行き着いたのは。
『なんて、嘘かもしれないけど』
いつも通りのあの言葉だ。
あーあ。
久々に、本気で笑ってしまった。
失策。
一生の不覚。
人間失格。
いや、ある意味合格か。
だがまあ。
いずれにせよ悪い気分ではない。
なんとなく、年貢の納め時が近いのかもしれないと感じるが、どうだろう。どちらの、だろう。
あの嗜虐趣味の女なら、多分。
引き剥がして今殺すなんて当たり障りないことをするよりは多分、次回でも、次々回でも。
私達を殺し合わせるだろうか。
まあ良い。
それすら、構わない。
私が死のうが。
彼女が死のうが。
絆って奴は、割と長生きする。
永遠かは知らないが。
観測する奴が消えるまで。
消えた後も、なにかは残る。
なんて、嘘かもしれないがな。
【まにょ】
回された腕に何を求められたのか、推し量ることは出来ない。存外、寒いから何となくなのかもしれない。
細く長い腕で抱きしめ返して軽く背を叩いた。こうして触れてみれば何のことはない。小柄で細身の少女の体だ。内に包容するものの大きさには相応しからぬ器だ。こうでもしておかなければ釣り合いが取れないのかもしれない。
「構いませんよ。人間は、信じたいものを信じる生き物ですから」
そのときが来るのなら、どうぞ、ご存分に、徹底的にそうしてくれと願うばかりだ。
包帯の巻かれた手をマリアの頭に乗せてゆっくりと撫でる。冷風が襟足の短いうなじを擽った。
忘れなければなくなることはない。絆でも、記憶でも、忘れない人が居るのならその形は半永久的に残り続ける。自分と彼女の間にあるそれが、或いは、彼女と誰かの間にあるそれが健在しているように。
【まにょ】
夕とも夜とも付かない、まだ沈んだ陽の色が残る空の下を歩く。キャンパスに絵の具を滲ませるように空の色を見に纏った雪像は純白のそれとはまた違った魅力を持っていて、衣替えをしたような変化を楽しむように通路を歩いていく。
雪の降らないこんな日は、こうして出かけては何かを探している。それは物だったり人だったりするし、見つかる確信があって探しているわけでない。今がそうであるように。
彩られた雪像の隙間を進んでいく。色づいたそれらに混ざって動いていると、自分だけ異質なようで、何だか不思議な感覚がした。
【マリア】
『腹立たしいわね。』
舌打ち。
我ながら酷い態度で雪像を見る。
これは、ムカついた。
私の親友を象ったものであったからである。
厳密には、名前のプレートがあったりはしないので、個人をモチーフに作られたかは不明だが。
単に似た造形だっただけなのかも、知れないのだが。
私は―――――――
『本物のが何倍も美人よ。』
蹴りを一発打ち込み、破壊した。
盛大に真っ二つになったそれが倒れ、道を作り。
『……貴方は……』
彼女と私を繋いだ。
【まにょ】
突如として眼前の雪像がぱかりと左右に割れ、崩れ落ちる様を見せられて唖然とする。だが逆光を背にする影が消えたわけではなくて、恐らくその雪像を破壊したのだろう彼女の姿が目に入れば、驚きにぽかんとした顔がゆるりと笑みを浮かべた。
「駄目じゃないですか、展示品を壊したら」
ふふ、と他愛のない調子で窘める。隣の部屋で暮らしているのに、こうも久しぶりにあったような気になってしまうのは、彼女に起きた色々なことを鑑みれば仕方のないことなのかもしれない。
【マリア】
『……うるさいわね。こんなの、あのクソ天使が作ったやつだし構わないわよ。』
不貞腐れたようにそう呟く。
やれやれ、私もガキっぽさがまだ抜けていないらしい。
やれやれ、この私も人の子か。
なんて、思ってもいないが。
少しだけ辟易したのは確かだったりもするのである。
なんで？
いや、純粋に気まずい。
私は殺人犯である。
二人殺したわけだから、連続殺人犯と言っても良い。
そしてその理由は、一応、当面は、ギリギリまでは。
彼女を護るというどうでもいい。
私に言わせれば、しょうもないドクトリンに基づいているから、実に恥ずかしい。
自傷的で。
破滅的で。
郷愁的で。
そんな思い出に、実質腕二本をくれてやっているのだから、バカバカしい事この上ない。
全く、誰から請求すればいい。
死人から金は取れないんだが。
『…というか、私は殺人犯なのだけれど。そうのうのうとしていたら、貴方死ぬかも知れないわ。
逃げたりしないわけ？』
なんて、どこに当てれば良いかわからない懐かしい、親愛なる苛立ちを、八つ当たりに私はぶつけ、務めて剣呑な口調で咎める。
まあ、私は殺す気は無いが。
いや、待て。
ヒガンバナの件からペースが狂いまくっているが、この護っていただのなんだのだって、嘘かもしれないじゃないか。
ここで、殺す気は無い…かもしれない、と意味深に足すのが赤城結奈の筈であったろう。
くそう。
してやられた。
なんて、こんな茶番自体が嘘かもしれないがな。
と、私は折り合いを付けたりする。人間らしく細かいのだ私は。
人でなしの癖にな。
【まにょ】
「貴女が人を殺せることと、私が貴女に殺されることの因果関係はありませんよ。貴女は快楽殺人者ではないので」
理由があれば躊躇わないだろうが、今のところ彼女が自分を殺すことに価値を見出しているようには思えなかった。生きていても死んでいても支障がないほどの位置づけに居る、という方が正しい。それは心因性のものではなくて、単純にこのゲームの盤上で見た客観性に基づく話だ。
「貴女が教えてくれた通り、命の危険は避けるようにしています。今逃げていないのは…そういうことです」
絶大な信頼と安心感は、時として煩わしく思うこともあるだろう。
彼女がそういったものに嫌悪を示すことは理解していた。だけれども、それでも、誰もが彼女を危険視しているのなら、自分ぐらいはそういう目で見なくても構わないではないか。
自分はこの盤上で、何の価値もないのだから。
【マリア】
『あっそ。』
ち、分かってやがる。
と、私は苦々しい思いをした。
流石私の見込んだ女だ。
なんてな？
とはいえ、言葉を言葉通り受け取らない、というのは万事に通ずる鉄則である。
私の言うことなど、鵜呑みにするべきではないのだから。
それでいい。
『ま、貴方が生き延びてるなんて私にはびっくりだけど。
死ななくて良かったんじゃない？アゾートにはなるだろうけど。』
とかいう悲しいくらいに見え見えな負け惜しみしかなかった。
『なんだかんだ、なりたいものになれれば人間構わないんだし。
アゾートだからって、それが出来ない訳じゃないんだから。』
【まにょ】
「私もここまで生き延びていることに自分でも驚いています。出会った方が良かったのでしょう」
柏木しかり、フェルナしかり、ビキニマンしかり――無論、目の前のマリアもそうである。
ゲーム開始後に出会った人物が総じて好戦的ではなかったことが、今もまにょが生き延びている理由だ。それだけ自分が舐められているとも捉えることが出来るが、それで命拾いをしているのなら尊厳と言うのは如何に生存すると言う一点の目的においては大きな重要性を持たないと言えるだろう。
「このまま生き延びていたら運営側の人間になる、と…今後もこのようなげーむに連れ出されるのはあまり良い気分とは言えませんが、私は……私にも、最低限譲れないものはありますから、致し方のないことなのですね」
胸に手を当て、嘆息を溢す。だがそれもそこそこに顔を上げると数歩マリアに近づいた。足元で崩れた雪像の亡骸を踏み崩して、苦笑いを浮かべる。
「少なくとも貴女がそこに居るなら、余り恐ろしくはないのでしょうね」
信頼が、より強固になるだけだ。立場として確約されるのだから。
【マリア】
『……全く。』
困ったように、私は眉を八の字にして微笑する。
彼女が居なくなったなら、私は多分、また、傷を負うであろう。
極めて、深い傷を。
アゾート次第でどうにでもなるっていうのに、困ったものだ。
一応、私自身はあのヒガンバナだか言う少女が。
奴隷なり。
仲間なり。
適当にやってくれるであろう。
あれは、自分を騙せるタイプの人間ではなかったと思う。結局。
でなければ、いよいよペテン師としてすら私の負けだ。
それに関しては、死んでも良い。
なんて、潔くは無く。
良くはない。
決して、良くはないから。
アカエルに、ゲーム終了時点で私は私をくれてやることになっている。最後の、アゾートによる選別投票的なものに関して言うなら、言わば出来レースだ。
騙されたな。
しめしめ。
と、私は年下相手に、大人気なく優越感に浸る。
最低である。
やれやれ、全く。
『ばーか。』
バカバカしい。
と、思いながらも。
私は笑って、彼女を抱き締めた。
今生の別れが直ぐそばに居ても。
また、奪われても。
まあ、今この時間は永遠だ。
『まあ、また騙してあげるとするわね――――――』
また。
というか。
一回も騙していないが。
それは恥ずかしいのでこじつけようとして、結局行き着いたのは。
『なんて、嘘かもしれないけど』
いつも通りのあの言葉だ。
あーあ。
久々に、本気で笑ってしまった。
失策。
一生の不覚。
人間失格。
いや、ある意味合格か。
だがまあ。
いずれにせよ悪い気分ではない。
なんとなく、年貢の納め時が近いのかもしれないと感じるが、どうだろう。どちらの、だろう。
あの嗜虐趣味の女なら、多分。
引き剥がして今殺すなんて当たり障りないことをするよりは多分、次回でも、次々回でも。
私達を殺し合わせるだろうか。
まあ良い。
それすら、構わない。
私が死のうが。
彼女が死のうが。
絆って奴は、割と長生きする。
永遠かは知らないが。
観測する奴が消えるまで。
消えた後も、なにかは残る。
なんて、嘘かもしれないがな。
【まにょ】
回された腕に何を求められたのか、推し量ることは出来ない。存外、寒いから何となくなのかもしれない。
細く長い腕で抱きしめ返して軽く背を叩いた。こうして触れてみれば何のことはない。小柄で細身の少女の体だ。内に包容するものの大きさには相応しからぬ器だ。こうでもしておかなければ釣り合いが取れないのかもしれない。
「構いませんよ。人間は、信じたいものを信じる生き物ですから」
そのときが来るのなら、どうぞ、ご存分に、徹底的にそうしてくれと願うばかりだ。
包帯の巻かれた手をマリアの頭に乗せてゆっくりと撫でる。冷風が襟足の短いうなじを擽った。
忘れなければなくなることはない。絆でも、記憶でも、忘れない人が居るのならその形は半永久的に残り続ける。自分と彼女の間にあるそれが、或いは、彼女と誰かの間にあるそれが健在しているように。
単純な誤解 9th-15th
マリア(9th)-ペペロンチーノ(15th)
【ペペロンチーノ】
<西エリア 教会周辺>
廃工場を出た後、少し休憩でも取ろうかと、最初に訪れた教会に向かっていた。なんとなく、居心地の良さを感じたからだ。RPGなどで最初の村に全クリした後も訪れてしまうとの同じ、人は故郷とか、帰る場所とかの言葉に弱い。そこに行けば安息が得られると、無意識のうちに錯覚してしまっているのだ。そんなわけで何かに引っ張られるように教会周辺を彷徨いていた。
共有チャットの確認はこまめにしているが、実際の情報がわからない以上は過信し過ぎるのは良くない。彼が信じるのはGMからのアナウンスだ。彼がノロノロしている間にゲームはかなり進行してしまったらしい。が、それは彼にとっては喜ばしいことだ。彼の最終目標にして最優先事項は生き残ること。人数が減れば、人と遭遇する率は少なくなる。彼にも彼の仕事があるが、それよりも生き残ることの方が重要だった。仕事はそのついでだ。
【マリア】
『はーあ。』
死んだか、と私は溜息をつく。
そりゃあそうだ死んだのだから。
食事奢ってもらえるはずだったんだがな。というさもしい話はまあ、ともかくとして。
アゾートでもまさか、私など召抱えたいやつはいるまい。
まあ、生き残りを皆一括しアゾートにするのが主目的なら、或いは、となるんだが。
可能性は低い。
全く、悲しい話だ。
前回のゲームから引きずってきた怨念すら果たせず終わりか。
まあ、ある意味私らしい。
ここぞというところで死ぬのだ。
バカバカしい。
ふざけるのも大概にしろ。
まあ、悪い気はしない。
手が届かないからこそ、か。
なんてニヒリズムにひたり。
せめて、極楽浄土を神頼みしに来た訳であるが。
『……貴方が、15thで良い？
散々こき使う気でいてくれたみたいだけれど。今となっては許せるわ。アゾート？狂人？
まさか…セレスティアなわけ、無いわよね？』
匿名メッセージで何度もタレコミをしてきた張本人であろう、15thと最後に会うとは思わなかった。
やれやれ。
そこはまにょで締めろ。
私はそんな事を恨みつつ。
皮肉るようにそう言った。
【ペペロンチーノ】
「？？？何の話だ？そもそもお前は誰だ？」
突然目の前に現れたかと思えば、訳の分からないことを口走る女性にとても困惑した表情を浮かべる。匿名だかなんだか知らないが、彼が共有チャットで発言した回数は2回。「なるほど⋯ここで情報を共有できるのか。てか、何があったんだ？」と、「おい⋯ここには頭のおかしい奴しかいないのか」だけ。その2つもペペロンチーノという偽名で発言している。そしてこの女性に心当たりはないし、あったとしても彼は覚えていない。
「俺はペペロンチーノ。お前の名前は知らんが、お前がなにか勘違いをしていることはわかる。取り敢えず、お前がそう考えるのに至った理由を教えてくれないか？」
よく、状況が理解できないが、彼女はきっと人違いかなにかだろう。そこまで重要なポジションにいる訳でもないし、彼は場を引っ掻き回して混乱させるようなことはしてない。ましてや誰かをこき使ってやろうなんて微塵も考えたことは無い。つまり、誰かが彼を騙って、彼女に何かを吹き込んだのだろうと推測する。
【マリア】
『9th。
疑問に疑問で返すな、殺すぞ。』
割と本気で殺してやるのも面白い気すらしたが、やめてやった。
私は優しいのだ。
『こちらの望みは一つ。狂人の殺害のみだ。こちらからは分かり次第情報を流す、せいぜい役立ててくれ。狂人さえ殺せるなら後は何をしてもいい。
どうしても連絡が取りたくなった場合、15thに伝えたい事をそのまま送ってくれ。尤も、これは"緊急手段"だが。
よくよく考えたら直接話す方が楽だな。後で会おうぜ、場所だけきめて共有に落としといて。
偽装は任せる。』
まんま、個人メッセージの通り読み上げる。自分でも見上げた記憶力であると思う。
だが。あんなに怪しいメッセージ、忘れる訳もあるまい。
『こんなメッセージが来てたりしたんだけど。違うの？
……まあ、今更違くたって構わないわ。単刀直入に言うけど。
貴方に役職はある？ない？』
ないなら始末するか。
と、末期的で破滅的な思考がよぎる。これまた酷い話だ。
【ペペロンチーノ】
「ふむ⋯⋯」
少し思案する。単刀直入に言って、彼は無所属である。だが、彼が無所属ではないだの、アゾートだの、という情報が流れている。まぁ、彼のゾディアックの力によるものなのだが。この局面で偽の情報をバラ撒けるメリットはデカいが、リスクも高い。彼女が情報を知ることのできるゾディアックであるなら、簡単にボロが出る。そこまで考えて口を開いた。
「お前に教える義理はない。用が済んだのなら失せろ。厄介事に巻き込まれるのはごめんなんだ」
と、啖呵を切ってみる。これでは殺されても文句は言えないが⋯そもそもの話、状況が全く分かっていない状態で、よく分からないまま殺そうとする頭のネジがぶっ飛んだ奴に正直にこちらの情報を教えるメリットはない。答えによってルートが変化し、その先はどれも未知数。一歩間違えれば、死ぬかもしれない。なら、そんな質問、答えなければいいのだ。
【マリア】
『なら失礼しましょう。』
そして、私は背を向け歩き出す。
だが、実際これはどういう事だ？
彼がアゾートなんだったら、別にこのまま情報を流せば良いのではなかろうか。それが偽であれ、真であれ。どちらだろうが、実際大して変わらないだろう。
私はこれを元に、アゾートに付いたのであるから。
最終的にはこれを盾に脅迫でも何でもして、というプランが最後にあったからこそ、これを選んだと言って良い。
詰まり。
詰まり、だが。
ああ、なるほど――――……
ひょっとして、これは。
分かったぞ、ようやく。
『……ばっかみてぇ。』
がん、と机を蹴り倒し。
私は乾いた笑いを漏らした。
【ペペロンチーノ】
<西エリア 教会周辺>
廃工場を出た後、少し休憩でも取ろうかと、最初に訪れた教会に向かっていた。なんとなく、居心地の良さを感じたからだ。RPGなどで最初の村に全クリした後も訪れてしまうとの同じ、人は故郷とか、帰る場所とかの言葉に弱い。そこに行けば安息が得られると、無意識のうちに錯覚してしまっているのだ。そんなわけで何かに引っ張られるように教会周辺を彷徨いていた。
共有チャットの確認はこまめにしているが、実際の情報がわからない以上は過信し過ぎるのは良くない。彼が信じるのはGMからのアナウンスだ。彼がノロノロしている間にゲームはかなり進行してしまったらしい。が、それは彼にとっては喜ばしいことだ。彼の最終目標にして最優先事項は生き残ること。人数が減れば、人と遭遇する率は少なくなる。彼にも彼の仕事があるが、それよりも生き残ることの方が重要だった。仕事はそのついでだ。
【マリア】
『はーあ。』
死んだか、と私は溜息をつく。
そりゃあそうだ死んだのだから。
食事奢ってもらえるはずだったんだがな。というさもしい話はまあ、ともかくとして。
アゾートでもまさか、私など召抱えたいやつはいるまい。
まあ、生き残りを皆一括しアゾートにするのが主目的なら、或いは、となるんだが。
可能性は低い。
全く、悲しい話だ。
前回のゲームから引きずってきた怨念すら果たせず終わりか。
まあ、ある意味私らしい。
ここぞというところで死ぬのだ。
バカバカしい。
ふざけるのも大概にしろ。
まあ、悪い気はしない。
手が届かないからこそ、か。
なんてニヒリズムにひたり。
せめて、極楽浄土を神頼みしに来た訳であるが。
『……貴方が、15thで良い？
散々こき使う気でいてくれたみたいだけれど。今となっては許せるわ。アゾート？狂人？
まさか…セレスティアなわけ、無いわよね？』
匿名メッセージで何度もタレコミをしてきた張本人であろう、15thと最後に会うとは思わなかった。
やれやれ。
そこはまにょで締めろ。
私はそんな事を恨みつつ。
皮肉るようにそう言った。
【ペペロンチーノ】
「？？？何の話だ？そもそもお前は誰だ？」
突然目の前に現れたかと思えば、訳の分からないことを口走る女性にとても困惑した表情を浮かべる。匿名だかなんだか知らないが、彼が共有チャットで発言した回数は2回。「なるほど⋯ここで情報を共有できるのか。てか、何があったんだ？」と、「おい⋯ここには頭のおかしい奴しかいないのか」だけ。その2つもペペロンチーノという偽名で発言している。そしてこの女性に心当たりはないし、あったとしても彼は覚えていない。
「俺はペペロンチーノ。お前の名前は知らんが、お前がなにか勘違いをしていることはわかる。取り敢えず、お前がそう考えるのに至った理由を教えてくれないか？」
よく、状況が理解できないが、彼女はきっと人違いかなにかだろう。そこまで重要なポジションにいる訳でもないし、彼は場を引っ掻き回して混乱させるようなことはしてない。ましてや誰かをこき使ってやろうなんて微塵も考えたことは無い。つまり、誰かが彼を騙って、彼女に何かを吹き込んだのだろうと推測する。
【マリア】
『9th。
疑問に疑問で返すな、殺すぞ。』
割と本気で殺してやるのも面白い気すらしたが、やめてやった。
私は優しいのだ。
『こちらの望みは一つ。狂人の殺害のみだ。こちらからは分かり次第情報を流す、せいぜい役立ててくれ。狂人さえ殺せるなら後は何をしてもいい。
どうしても連絡が取りたくなった場合、15thに伝えたい事をそのまま送ってくれ。尤も、これは"緊急手段"だが。
よくよく考えたら直接話す方が楽だな。後で会おうぜ、場所だけきめて共有に落としといて。
偽装は任せる。』
まんま、個人メッセージの通り読み上げる。自分でも見上げた記憶力であると思う。
だが。あんなに怪しいメッセージ、忘れる訳もあるまい。
『こんなメッセージが来てたりしたんだけど。違うの？
……まあ、今更違くたって構わないわ。単刀直入に言うけど。
貴方に役職はある？ない？』
ないなら始末するか。
と、末期的で破滅的な思考がよぎる。これまた酷い話だ。
【ペペロンチーノ】
「ふむ⋯⋯」
少し思案する。単刀直入に言って、彼は無所属である。だが、彼が無所属ではないだの、アゾートだの、という情報が流れている。まぁ、彼のゾディアックの力によるものなのだが。この局面で偽の情報をバラ撒けるメリットはデカいが、リスクも高い。彼女が情報を知ることのできるゾディアックであるなら、簡単にボロが出る。そこまで考えて口を開いた。
「お前に教える義理はない。用が済んだのなら失せろ。厄介事に巻き込まれるのはごめんなんだ」
と、啖呵を切ってみる。これでは殺されても文句は言えないが⋯そもそもの話、状況が全く分かっていない状態で、よく分からないまま殺そうとする頭のネジがぶっ飛んだ奴に正直にこちらの情報を教えるメリットはない。答えによってルートが変化し、その先はどれも未知数。一歩間違えれば、死ぬかもしれない。なら、そんな質問、答えなければいいのだ。
【マリア】
『なら失礼しましょう。』
そして、私は背を向け歩き出す。
だが、実際これはどういう事だ？
彼がアゾートなんだったら、別にこのまま情報を流せば良いのではなかろうか。それが偽であれ、真であれ。どちらだろうが、実際大して変わらないだろう。
私はこれを元に、アゾートに付いたのであるから。
最終的にはこれを盾に脅迫でも何でもして、というプランが最後にあったからこそ、これを選んだと言って良い。
詰まり。
詰まり、だが。
ああ、なるほど――――……
ひょっとして、これは。
分かったぞ、ようやく。
『……ばっかみてぇ。』
がん、と机を蹴り倒し。
私は乾いた笑いを漏らした。
演技指導と成り代わり 7th-17th
ロティ(7th)-エム(17th)
【ロティ】
またショッピングモールに来てみた。
今回探すのは……とりあえずはアルコールに濡れたギターケースの代わりのケース。
まあ、それはあれば良いな程度。
本来探している物は別の物なんだけどね？
これは“私”じゃなくて“僕”が欲している物。
僕でも、私でも、身体は変わらないけど…まぁ、良かろう？
…………いや、やっぱり、今は変わっておこう。
任せた───任された。
｢ん…………はぁ…くだらね……。
さっさと捜し物を見つけて、帰る方法見つけないとなァ……？
……また、一人…死んだらしいが……。
まぁ……“俺”にゃ関係ねぇか…………あとは私に任せるし。｣
此処では……“僕”が前に出る。
僕は私から見ての僕で、私とは俺から見ての私。
今は、僕だ。
帰る方法を探して、早く彼奴と会いたいからな。
本当に……演じるのは大変だよ……。
そんなことを呟き、ショッピングモールの中を煙草を咥えて歩いて行く。
……欲しい物は、何処にあるかな。
【エム】
「歩きタバコはご遠慮ください、お兄さん……いやお姉さん？」
まあどっちでもいいか、なんて。
エムは、モール内でタバコを吸う彼ないし彼女に、そう注意しました。
今日モールにきたのは、またクレープが食べたくなったから。
なんてことはなく、単純にもの探し。
着替えを用意しておきたいのと、あとは適当に自衛用のなにか探し。
といっても、せいぜいフライパンとかがいいとこでしょうけど。
そしていざショッピング、ってタイミングでタバコの臭いがしたものですから、さすがに出鼻をくじかれるようなものです。
注意するのも、仕方がないとエムは思うのです。
【ロティ】
｢ぁ……？
……なんか、随分ちっこい奴だな…悪いがその注意は聞けないね。
これ以上ルールに縛られるのはゴメンなんだ。｣
随分、小さな警告者であった。
その警告は聞き入れる義理は無いから、煙草は咥えたままだけど。
とりあえずこれだけは言おうか。
……ルールを守るのは疲れたんだ。
それは“私”としての意見であり、“僕”としての意見ではないけれど…。
“俺”からすれば、その考えは嫌いじゃない。
……私は僕。
……僕は俺。
……俺は私。
こんなサイクルの中で、一致した物。
それがルールの唾棄。
しかし、そのルールを受け入れていたのも、またひとつの事実であって。
本当に……馬鹿馬鹿しい。
｢……で、何をしているんだい？
わざわざ注意する為だけに来た…なんて、巫山戯た事は言わないだろう？｣
歩きながら、僕は相手に問う。
注意する……その為だけに来たとは到底思えないし、思わない。
大方なにか探しに来たとか、その辺だろう？
……なんて、思うのさ。
【エム】
「…………ふうん、未成年はタバコ吸っちゃいけないんですよ」
そんな当たり前のことをもう一度言って、それからはタバコについての注意を言う気に離れませんでしたけど。
こんなデスゲーム中に、いちいちそんなこと注意していたらキリがないことにも気づきましたし。
盗撮覗きが平然と行われるこの場所でタバコなんて今更か、なんて。
諦めたとも言いますか。
「エムだってそこまで暇じゃないですよ、お買い物です、お買い物」
わざわざタバコを吸ってる人の気配がするから、なんて理由でここまで来て注意したから帰る、なんてこと、さすがにやりません。
【ロティ】
｢まあ……それは認めようか。
煙草は確かに未成年は駄目だけどね、ルールに縛られるのはもう疲れたんだよ。｣
確かに、煙草に関しての事は認めるとしよう。
未成年者の喫煙は本来は駄目……だけど、道化師にも言ったね。
──真面目は、疲れたんだ。
ルールは絶対に守らないといけないものと言われて、縛られた。
まあ、このゲームのルールは守るとも。
……が、法律はどうだ？
未成年者の飲酒や喫煙を咎め、逮捕する者が此処には居ないと思った。
だから、ルールは破ろうか。
此処で護るべきものは……何も無いのさ。
…………己が心に嘘はつかない。
それは自ずと自分を殺し、そして、次の自分を生み出して行くのだ。
嗚呼……嗚呼…………今宵も、一人で……。
｢買い物……と、言うよりは捜し物だろ？
……ところで…誰だ？
あぁ……先に名乗るか…俺はロティ、今は“俺”だ。
その内、“私”にも会うだろうよ、そん時は普通に接しろよ？
色々印象違うと思うけど、なァ……？｣
どうせここに居るなら…なにか探しているのだろう？
なんて、分かり切った事じゃないか？
そう思いつつ……“俺”が、前に出て語る。
いずれ会うであろう、“私”について、話せる事をある程度。
どうにも上手く言えないが……。
……まあ、同一人物なのは変わらない。
そんなことを言いながら……“俺”は目的の物を探しに行こうと思う。
【エム】
「エムはエムです、よろしくお願いしますね。
それじゃあ、今はお兄さん、と呼んだ方がいいですか？」
一人称だけなら、男の人と感じる。
この人も、1人で何人もいるひとなら、誰かによって呼び方は変えた方がいいかな、なんて。
そんな気遣いを口に出して、そう問いかけました。
別に、お姉さんでいい、と言われたならそう呼ぶつもりですが。
そして、ロティお兄さんないしお姉さんの後ろをついていくようにして、エムも歩き始めます。
【ロティ】
｢エム……か、まあ…呼び方は好きにしな。
だが、“私”の時には姉さんはやめとけ、そん時は嫌な時だ。｣
エム……エム……よし、覚えた。
“俺”は覚えたさ、が……“私”は知らない。
そんな物気にする必要が無いのだから、まずはゆっくり捜し物を。
なんて思いながらも、呼び方については一つだけ指摘しようか。
“私”の時には、お姉さんはやめろ…と。
それは、あまり好ましい呼び方ではない。
勿論、“私”にとっては、である。
“俺”には関係ないが……あとは、“僕”はどうかな？
…………まあ、良いか。
なら“僕”にも話をしてもらうか？
そうだ、そうしよう。
だから……任せたぜ───任された。
これが、俺で、私で、僕なのだ。
｢……と、言う訳さ、分かったかな？エム君。
“僕”としては、どちらでも構わないけど…君の好きに呼ぶと良い。｣
そうだ、“僕”の出番さ。
エムの方を向いた僕は、穏やかに笑う。
とりあえず……欲しい物は、多分ある。
エムの欲しい物が何なのかは分からないけどさ、多分自分で見つけてくれるよね。
呼び方は……僕はなんでもいいや。
｢さてさて……エム君の目的の物は何かな？｣
一応、聞いてやるさ。
早く探したほうが……僕として…いいや、“俺”として…かな？
色々やりやすいのさ。
それにしても……面白い話だと思わないかい？
───僕が……
───一番……
───危険って言われるんだぜ？
嗚呼……本当に、分からないね。
とりあえずは……『捜し物』をしようか。
【エム】
「じゃあ、ロティさん、とお呼びしますね」
女の人をお兄さんと呼ぶのは嫌だし(柏木は除く)
かと言って一人称でいちいち呼び方を変えるのも面倒。
だから、エムはさん付けで呼ぶことにしました。今のところ参加者のうち初めてです。栄誉ですよ栄誉、嘘ですけど。
「……そうですね、エムはフライパンとか、お洋服とか探しに来たんですよ」
フライパンは防具にも武器にもなるスグレモノ、最高の武器、汎用兵装。
洋服は、単純におしゃれのつもりです。
縫い直したりして、改造はするかもですけどね。
【ロティ】
｢なるほどねぇ……じゃあ、こっちかな。｣
探している、僕は、何かを、それを。
それは、武器……かな？
そうだね……捜し物は、武器さ。
見つけた、見つけた……工具店。
素晴らしいね、実に素晴らしい。
殆ど物は無いけど、僕は知っている。
如何なる場合でも……アレはある。
あった、あった、やっぱりだ……。
絶対、絶対、あるんだよ……僕の、私の、俺の、捜し物。
アッタヨ、アッタヨ、“サガシモノ”…。
───僕ハ……どンな顔ヲしていたのカナ？
……まあ…僕は、もう終わるさ。
それは、もう、仕事として。
｢ねぇ……エム、君の瞳を見せておくれ。｣
その目は……とても、美しい。
その目は……まるで、宝石の様で。
その目は……きっと、僕を見る。
その目で……きっと、僕を見る。
その目で……絶対、僕を魅せてやる。
｢嗚呼……エム、君の瞳は素晴らしい…。
ねぇ…………君の瞳を…“眼球”を……僕に見せておくれよ。
せめて…“僕”が“僕”でなくなる前に……。｣
その瞳の映す物……それは、何なのかな？
その双眸で、何を映しているのかな？
僕…………なんて、ある訳ないよね。
でも、気になっちゃうんだよ、分かるだろう？
…………さぁ、君は、何と答えてくれる？
けど、聞けない……だって、もう、交代だ。
だから……こう言ってやるのさ。
『まあ、“私”に戻るけどねぇ！？
はじめましてぇ！
私がぁ……本来のロティでぇぇっす！
ねぇねぇ、もう繕うの辞めて良いよね！？
だってぇ……私、もう疲れちゃったからさぁ！？
大変だよォ、“演じる”ってさぁ！
言ったよねぇ……私はルールが〜ってさぁ、ねぇねぇねぇ！？』
本当なら……見せたくなかったよ…なんて、思っても遅いよね？
そう、僕は思いながら、消えていくのさ。
最後に残るのは、やっぱり、頭の壊れた私。
もう良いよ…好きにしなよ……。
僕は、俺は……。
────もう、止めないから。
『ふふふふふふ……ごめんねぇ……？
じゃあ、改めて聞いちゃおうかなぁ……エムちゃんはぁ……その目に、何が映ってるかなぁ？』
やったやったやった、私の時間だよ。
なぁんて、此処で言うのは初めてだねぇ。
とりあえずはエムちゃんに謝らないとね？
はぁい、ごめんなさいって……さ。
でもでも……やっぱり気になるから聞いてみるよ？
ハットを捨て、髪も束ねるのを解けば。
私はバットを持ち、バールをベルトに引っ掛けて問う。
───その瞳には、何が、映るのかな？
【エム】
「…………」
唐突なこの変わりように、流石のエムもビックリです、言葉なんてとっさに出てきません。
なるほど、これは確かに“俺”か“僕”のロティさんがお姉さんなんて呼ぶな、という訳です。
似合いませんもん、この感じ。
嫌いですもん、この雰囲気。
お姉さんなんて、似合いません。
それにしても……
「…………演じる、ですか」
演じる。
演技をする。
なるほど、なるほど。
この人は今、それをしていたと。
そう言ったんですね？
許せますか？『ボク』
今この人、演じてたって言いましたよ。
――――それは君が一番わかってるだろ、『エム』
『ボク』は――――――
「――――中途半端な演技が嫌いなんだよ、出直してこい、ド素人」
気持ちの悪いものを見た、そんなふうに僕は目の前のそれに嫌悪感を露わにする。
こちとらそれが本職であり、演じることなんて十八番も十八番。
見破れはしないにしても、あれを演技と呼ばれたことには少々、いやかなり頭にきている。
これが多分、虫唾が走ると言うやつなんだと思う。
初めての経験だ、今後の参考になる。
そこだけは感謝しておこう、そこだけは認めてやろう。
もちろん、演技を馬鹿にしたこいつを許すつもりは欠けらも無いが。
ここからは『ボク』が表にでよう。『エム』に争いごとは似合わない。
だって『エム』はそういうキャラクターだから。
『ボク』が1から作ったキャラクターだから。
この姿になって、性格から、仕草から、口調から、服のセンスから。
何から何まで、作ったのは『ボク』だから。
誰かを真剣に怒れるようには作ってないから。
誰かと本気でぶつかり合うためには作ってないから。
だから、今回だけは、『エム』をやめる。
ここから先は、僕の領分だ。
始めよう、これが最後だ。
この姿で、このゲームで、最初で最後の、コロシアイだ。
背負っていたバッグを下ろせば、雑多に詰め込まれた中身から、いつでも抜き出せるようにしまわれていた一振りの包丁を取り出した。
いつだったか、キャンプ場で探索をしていた時に見つけたこれ。
自衛用に、と持っていたけど、これさえあれば十分か。
小柄な少女が短い包丁で戦う、キャラ的にも立っているから満足だ。
もう1つ、片手の袖に配布されたアイテムを隠し持ったが、まあ大したことには使えまい。
「演技に疲れてるようじゃ三流も良いところだよ、体力つけてから出直した方がいい」
こんな軽口を叩けるのも、いつまでだろう。
片手に包丁を構えて、僕は間抜けな素人にそうアドバイスする。
さあ、演技指導の時間だ。
【ロティ】
『そうそう！それだよ、それだよエムちゃぁん！
私が素人？
そーんなの分かり切ってるさぁ！
だからこそ、疲れるんだよぉ！？
だってさだってさぁ！？
演劇なんてやった事無いしぃ、やろうとも思わなかったしさぁ！
はぁぁぁ………………よし、さぁやろうかぁ！』
やっとやっと、本性を表した。
相手もそれは変わらなくて、それが、楽しい。
いいねェ……楽しいじゃあないか！
そう、思って私はバットを持っていた。
しっかり握って、しかし、使い慣れて馴染んだそれは、私の中に確かにある。
嗚呼……分かるだろう？
………………楽しもうって訳さ。
『何でもアリ、で……良いよねぇ？
まあ、エムちゃんもそうするつもりでしょ！？
私は自分のやりたいようにやるからさぁ！』
カラカラとバットを引き摺り、エムの方へ歩み寄る。
……前に、確認。
ポケットには…………ある。
リュックサックには……ある。
背中に……大丈夫。
行けるさ……勝てる勝てないじゃなく、楽しめる位の事ならば……ね？
さぁ、おいで…コロシアイの時間だよ。
【エム】
「あぁ、やろうか」
その場で数度跳躍する。
体は動く、むしろ軽いくらいだ。
それもそうか、元の体より小さいんだから。
それにしても、なんでもあり、か。
嫌な言葉だよ。
どんな卑怯な手を使ってもいい、そんな条件なんだから。
『エム』は殺し合いを率先する性格してないから、大した準備もできてない。
この身一つであんな狂人相手にするなんて馬鹿げてる。
なんて、今更思っても仕方が無いわけだけど。
左袖に隠したそれを、手に持ち、回転させるように投擲。
狙いはロティの顔面、左目。
それはさながら手裏剣のように飛翔して…………
とは、言うものの。
それは実際、ただのプリペイドカード。
なんの効果もありはしない。
単純に、目くらまし程度のものだが。
【ロティ】
『アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ！！！
課金でもしなよぉ、せめてさぁ！
まあ、エムちゃんはそう使う人なんだねぇ！？
分かってたよぉ、何か持ってるのはさ！
私も持ってるからねぇ……そうでしょエムちゃぁん！？』
なぁんか、飛んできたけど。
…………そんなの知らないね、だって何か持ってるのは分かっていたんだ。
さぁて…まずは、弾こうか。
バットを逆手持ちに切り替え、持ち手を少し顔の前に移動させる。
カードくらい、弾ける。
しかしこれの利点、それは、視界の確保。
まあ、そんなのは二の次。
行くよ……今度は、私の番だからさ？
『次はぁ……私の番さぁ！』
さてさて、空いた片手は遊ばせていて良いのかな？
いいや、ＮＯだよ諸君。
片手に持ったのはゴキジェット。
中身は沢山あるさ、まだ使えるよ。
さて、まずはバットを使おう。
握り閉めれば、一歩前に足を踏み込んだと思えばそのまま前方に、包丁ごとエムを着き飛ばそうと動く。
……が、それは前置きに過ぎない。
一つ……差があるのは身長。
でも、踏み込みの時点で身体は下がる故に、バットはロティの身体を守る盾となる。
さぁさぁ、本番はこっちだ。
ゴキジェットの噴出口を、持った手を下から掬い上げるように動かし噴出させながら、エムの顔の前に。
そして、顔へ目掛けてゴキジェットを使い、まずは視界を奪おうと。
【エム】
「こんなの見破れても何の自慢にもならないよ。
そんなにハイテンションになるなんて、大丈夫？ タバコの吸いすぎ？」
心にもない心配を口にして、そんな余裕もないだろと、心のうちで苦笑する。
こんなあからさまな敵と戦うなんて、どうかしてると思う。
普段なら、逃げたと思う。
でも、こいつは僕の大切なものを貶した。
犯してはならない聖域に土足で踏みいった。
命を奪うには、十分すぎる理由だ。
少なくとも、僕のなかでは。
シューッというスプレー缶の吹き出す音が聞こえる。
音の出所は、あれか。
認識すれば、やることは早かった。
後方へ跳躍。
いわゆるバックステップだが、それでスプレー缶の直撃は免れつつ、踏み込みにより近くなった相手の胴体めがけて、包丁を投擲する。
自分で前方にスプレーを放っているなら、少なくとも不明瞭になるわけで。
投擲された包丁は、スプレーの煙にその姿を隠しながらまっすぐロティの胴体めがけ飛翔する。
【ロティ】
『人の心配してる暇あるのぉ？
凄いねぇ、余裕だねぇ、楽しくなってくるよ！
さぁて……見え見えだけど、まだ何かあるんでしょ！？
嗚呼……良いよねぇ、昔を思い出すよ。
馬鹿騒ぎしてたあの頃は、まだ記憶にもあるだろう？
………………無論、お互いにさ…！』
他人よりも自分を優先すべきだろう？
そんな事を思い、私は包丁をバットを横に動かす事で弾いて。
そして、ゴキジェットはリュックサックのポケット部分にしまって、そのまま片手を空ける。
エムの余裕の有りそうな態度は、割と楽しい。
だってそうでしょう？
……私は、楽しんでいるから。
まだ、何かあるのは明確で、その為に出来ることをまたひとつ。
けどさぁ……楽しんでいるんだよ。
『今度は……私から行くよ！？』
そして、バットで弾いた後。
距離は僅か、詰められない事はなかろう？
なんて、思ったからさ？
私は、バックステップをしたエムへ向かい、包丁を弾いたタイミングで踏み出して距離を詰める。
そしてそのまま、着地をしたエムの足へ目掛けてバットを相手から見て右下。
そのポイントから膝へ目掛けて振るう。
【エム】
「僕はそんな覚えないけどね、静かな方が好きなんだ」
わざわざ騒々しいのが好きなやつなんて、いるとは思えないけど、それはそれで個人の自由か。
それにしても、もっと武器は集めておくんだったなぁ。
このタイミングで武器がなくなるだなんて、準備不足もいいところだ。
こんなことなら『エム』をもう少し“ズレた”子に設定しておけばよかったか。
こんなこと、今更考えても手遅れもいいところなわけだけど。
……まぁ、僕が“ズレてる”から、大した理由もないか。
跳躍。
今度は前方へ。
低身長ゆえに、膝を狙うにしてもやはりかなりの低姿勢になるのは確定的で。
もっと言えば、近づけば威力も落ちるから、というのもあるけど。
狙いはもちろん別にある。
前方への跳躍によって、こちらは接近しているから、賭けに出る。
虚空を掴み、突き出すような動作。
現出するは、白銀の槍。
“セレスティア固有能力”が1つ『ゲオルギウスの槍』
Azoth、もしくはMadman以外を傷つければ、その時点で消滅するというそれを、極限まで接近した状態で、相手との距離がほぼゼロな位置から突き出す。
ただ、槍を失う恐れはなかった。
仲間から送られてきた情報、信頼できる確率のあるそれ。
そこに記されていたものに、彼女の正体が書いてあった。
これで終わる、なんて安直な考えはしていないけど、ひとまず一撃見舞う分には、過剰火力とも言えるそれを、なんの躊躇いもなく突き出した。
【ロティ】
『うっわ、槍とかずるくねぇ？』
……なんて言っているけれど、その動きは捉えた。
というより、この距離だからこそ何が来るか分かったと言った方が正しい。
この距離で、突き出すような動作。
この間合いは……よく、見ていた。
バットを振りぬき、相手が飛んできたタイミングには既に身体……もとい、左足を流れに任せる事で半身になる。
無論、振り抜きに合わせた故にギリギリの運の良かった回避だった。
…………が、それも■■■のお陰だ。
更なる幸運はもう一つ。
肩にかけるように背負っていたギターケースが、槍の軌道を外側にずらす様に、側面に沿って受け流した。
これにより回避が成功したのだ。
そして、踏み出して、それなら……。
『武器の扱いは素人か……。』
左手は空き、そして腰にはバール。
……なら、次はこれをやるべきだろ？
なんて、思った時には動いている。
足を動かすと同時に、腰のベルトに引っ掛けていたバールを掴んで、真っ直ぐ上に突き上げるす。
槍を放った後の僅かな硬直のタイミング、かつ空中で、バールの先端はエムの腹を貫かんと迫るだろう。
【エム】
「なっ――――」
かすりもせずに躱され、反撃の機会を与えてしまった。
ただの突きとはいえ、長柄武器の攻撃はだいたい大きめな隙が生じるわけで、バールに関しては回避するすべはなかった。
ああ、もう死ぬのか……
――――なんて、絶望する演技もほどほどに。
空中で槍を突き出したのだから、少なくとも重心は前へと向かっている。
その勢いは殺さずに、右足から着地すれば、それを軸に勢いを使って身を翻し、体を回転、槍の持ち手を橋の方へとスライドさせながら長く持てば、薙ぎ払いを放ちながらバールの回避を行って。
「武器の扱いに慣れてる高校生がいると思う？」
そんな憎まれ口を僕は叩いてみる。
【ロティ】
『そうかねぇ？
エムちゃんがやってないだけじゃないのか……なっ！』
あの状態からバールを避ける身体能力を持っていて何を言うのだと思う……が、まあ良かろう。
今は其方では無いのだ。
薙ぎ払う様に振るわれた槍は、今度はバールを使って止めて防げば良い。
また、戦況は止まる。
深紅の針は此処で止まり、軋みながら動き出すその時を待つ。
止まる度に思う事がある。
次の一手はどう動くか、出来るだけ予測の外を行かねばならない。
なんて、考えるけどさ？
1個、思うんだ。
今……エムの顔の前にはギターケースがあるだろう？
そいつはカバーにたっぷりとウォッカが染みている。
……気化していたら、火を付けたら燃えるんだけどな……なんて。
まあ、それは……後にしてあげるよ。
今は……もう少し楽しみたいんだ。
─────分かるだろう？
……僕？
『はぁぁ……。
このテンション疲れたから普通にするか…。
………まあ、エムちゃんとのコロシアイは続けるけどねぇ？
アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ！！！』
テンションは……僕に合わせるよ。
だが、コロシアイは続く。
けど、今、止まっている。
………なら、次はどうする？
なんて、分かってるよね。
止めた脇腹の隙間から、見えるのはエムの顔。
槍の持ち手に沿ってバールを滑らせながら左足を引いて半身に。
そして、エムの足の間に自分の足を。
かつバットを持った腕を槍の下側から振るい、エムのがら空きの脇腹へ殴打を加えようと。
【エム】
「…………早いところくたばって死んでくれ、って言っても聞いてくれないよね」
薙ぎ払いを止められれば、放たれたのは殴打で。
いい加減、面倒になってきたな。
そんなことを思っても、この狂人は止まってくれないんだよな。
今更になって、命乞いなんてかっこ悪いしね。
着地からの薙ぎ払い、しかも狙いは背後の相手。
身の丈の合わない武装でそんなものをやらかせば、バランスが崩れるのは、当たり前で。
止められた槍を“消せば”、崩れたバランスを無理に戻そうとせずに、それに身を委ね利用し、脇腹への殴打を回避。
加えて地面を、ついでに相手の足を強く蹴りつければ、上半身と下半身の位置は逆転。
それを何度か繰り返し、後方へと距離を取った。
いわゆるバク転、と言うやつで。
【ロティ】
『……悪いね、私だって、“僕”と“俺”の命も背負っているんだよ？
此処でくたばるのは御免だし、何より彼奴より先に死ぬのは嫌だからな。』
足を蹴られ、そのままエムは離れていく。
なら、此方も少し距離を取ろう。
位置は……最初の場所。
…………貰っておこうか、包丁。
まあ、それはさておき。
今、早くくたばってくれと言われたが、それは聞けない頼みだ。
私だって、“僕”と“俺”を背負っている。
それに……■■■よりも前に死ねない。
先に死ぬのは、どうも嫌だから。
『…………エムちゃんにも居るでしょ？
大切な人の一人や二人……ねぇ？
……私はね、どっちかって言うと仲間以外はあんまり信じないのさ。
だから、彼奴は特別なのさ……。
…………喋り過ぎたね、さぁ……来るかな？』
エムにも、大切な人の一人や二人は居るだろう？
なんて、問いかけながら身の上話。
彼奴の……■■■の事を話すのみ。
……が、少し話し過ぎたかな？
もう良いよね、自己語りなんて物はさ。
さぁ、再開するよ。
『──止まった深紅の針は、軋みながらも加速する。
……刻み込まれる、記憶の歯車。
……それは、鳥の様に……碧い空へ目掛けて。
……輝く水面へと向かい……。
……そして、水平線に消えるのだ。』
なんて、思いながら、エムの動きを見ている。
【エム】
「…………大切な人？」
いるとも。
それだけ。
それ以上はなにもない。
失いたくない人がいる。
そのために、命を投げ捨てられる、なんてほど崇高なものでもないけど。
確かに居る。
ここにもいるかもね、なんて。
そんな軽口を叩いてみる。
まぁ、いたところでなんだ、という話なんだけど。
「言いたいことは、それだけ？」
いつまでも無駄話が続くのは、お互い面倒だろうし。
さっそく、再開しよう。
工具店の店先に並んでいた鋸をひとつ。
ヒュンと、風切り音を鳴らして。
たわみながら頓狂な音を鳴らして。
と、言っても。
「わざわざ格上に突っ込んでいくほど、僕も馬鹿じゃないんだぜ？」
なんて。
バットとバール、その背中にはその他武装。
あるかは知らないけど、備えだけは十分な相手目がけて突っ込むバカは、そう居ないだろう。
もちろん、僕を含めてね。
だから言いたいことはつまり……
「――――――――かかってこいよ、“3人”で｣
【ロティ】
『…………言ったね？』
｢なら望み通りに、俺達…………｣
「三人で、相手をしてあげるよ。」
そう言った、エムに合わせる様に。
私は…………俺は…………僕は…………。
……初めて、三人で相手をする。
先程の考えは、割と合っているらしい。
───そうだね……。
私が、深紅の針で……俺が、歯車で……僕が、鳥になるのかな？
任せる？任せた、任された。
さぁ、まずは…………“私”からだよ、二人とも？
『…………じゃあ、始めようか。
せめて楽しんでから、散る時は散るんだ。
……いや、違うか。
散るものは無いさ、私は、散った花弁を受け止める土になる。
────始めよう、私がラストピリオドを打つんだ。
この、世界と、私の心の灯火に……。』
本性なんて、人格なんて、三人なんて、居ないけれど。
今は、三人で、ここに居る。
それぞれ、得意な事が違うのだったら。
…………良かったのにね？
───嗚呼……嗚呼…………嗚呼ッ！！！
此処で、初めて。
私と、僕と、俺が、出会う。
私…………？
───うん、行けるよ。
僕…………？
───ああ、行けるとも。
俺…………？
───おう、行けるぜ。
…………じゃあ、“私”はここまで。
任せるよ、僕？
ああ、任されたよ、私。
…………………………良し、行けるね、お前達ッ！
───楽しもうぜ、お前達！
───ここまで来たんだ、意地を見せてやれ！
───私達の団結力、侮るんじゃないよ！
………………………お前達、私達が抜けても、達者で過ごすんだよ！
……全部、■■■の鼓舞だ。
なんでそれが頭に浮かぶ？
今ここで浮かぶべき物だったのかな？
いいや、いいや……違う。
────浮かべるべき物なのだ。
私が私で居続ける為に。
僕が僕で居続ける為に。
俺が俺で居続ける為に。
行くよ、■■■……私達、お前の隣で頑張って来たんだ。
……お前が、生きる間は、私は全力で生きてやるさ！
「さてさて……“僕”が思い出すのはこれくらいかな……。
──エム君、君の瞳は綺麗だったよ。
……どうせなら、傍に置いておきたいけど、それは辞めておこう。
…もう、“僕”だけの身体じゃないんだ。」
残念だね……その瞳は欲しかったよ。
……けど、もう良いさ、充分満足したんだ…楽しめる内に楽しもう。
…………■■■も、言っていたからね。
「さて、と。」
もういいよね、俺？
あとは君が好きにしつつ、時々僕と私にも好きにさせておくれよ……だから、さ。
任せたよ、俺？
ああ……任されたぜ、僕。
「…………さぁてさぁて、待たせたな！
これから……本当のコロシアイだからなァ！
お前は……鋸を持ったんだ…もう、意思は持ったんだろ！？
ヒトゴロシになる、その覚悟を！」
ようやく俺だ、そう、俺だ。
私と僕には譲って貰ったんだ……易々と死んでたまるか……ってな。
相手は、鋸。
なら、此方はバールと包丁にしようか。
バットは……例の如くベルトに引っ掛ける。
……覚悟、持ったんだろ、俺。
最初に殺した、彼奴の声を、今でも覚えている。
────苦しかったろ？
────悪かったな。
────せめて、安らかな死を。
……さぁ、お祈りは済んださ。
始めよう、何度目になるか分からないけど。
…………俺はそう思った。
人を殺す勇気は……身につかないけど、ね？
『お前の覚悟は！
どれくらい強いのか、見せてもらうぞ！』
問題は……鋸か。
対策は……しよう、それが正しい。
まずは右手でバールを握り。
次に、左手に包丁。
これも、逆手持ち。
よし……動くしかないだろう、ここまで来たら。
そして、エムの鋸を持っている方の腕へ向けて、バールの先端を突き刺さんと振るうのだ。
【エム】
「――――うん、それでいいよ」
三人、俺と、僕と、私の、三人。
相手取るのは大変そうだ。
挑発したのは僕だけど、仕方ない。
頑張ろう、やれるだけ、やってみようか。
右足を後ろに下げて、突きを回避。
そして、右腕を振り上げて、鋸の凹凸を相手の左腕へと振るい、右手で“槍”を逆手につかめば、一歩踏み出し、相手の懐に入り込みながらそれを腹部めがけて突き刺そうとする。
一歩進んだことで、仮に鋸が当たっていたなら、そのまま切り裂かんとするはずで。
【ロティ】
｢おおっと……怖いねぇ、その槍はさぁ…。｣
まあ、これ位は避けるだろうと分かっていた。
というより、避けない方がおかしいと思った故にもうその先への回避に繋げる。
と言っても、そんな大それた事はしない。
単純……そう、単純なんだ。
突きは伸ばしきる前に、引き戻す。
槍は一歩後ろへ下がり、腹の前を通す。
嗚呼……単純、単純だけど。
……単純こそが、複雑なんだ。
そう、それが……これこそが……。
なんて、俺はここまで。
……後は、任せる。
───任されたよ。
｢これが、“僕”の信じる、道なんだよ。｣
槍の持ち手を、包丁を持つ手で逆手で掴み、しかとその手に力を込めた。
そして、もう一つ。
鋸を止めたバール、これも。
叩きつける様にして止めた後、槍を放った後の硬直時間……も、僅かな物だろう。
……が、その僅かすらも今は恐ろしい物だ。
そして、そのまま、包丁を持った手を外側へ腕ごと動かすことで、エムの腹に包丁は向かうだろう。
【エム】
「…………そうか、信じる道か」
まさか、こんな奴からそんな言葉を聞くだなんて思ってもいなかった。
殺し合いを率先して行うようなやつから、信じるだなんて言葉を。
……いや、だからこそ、かな。
自分の信じる道を、素直に感じることが出来るからこそ、殺し合い(信じる道)に向かうことが出来る。
僕ですら、信じる道をまだ見つけられてないのに、なんという皮肉だろう。
弾かれた鋸、躱された槍、迫る銀の刃、命を奪おうとする相手の顔。
全部が視界に入った。
ここで勝てなきゃどうなるんだろう。
死ぬんだろうか。
死ぬんだろうな。
結局、ここで“あいつ”に会うことも出来なかった。
守れたのかすらわからない。
そもそも、役目を全うできていたか？
そんな自問自答を繰り返す。
『エム』も答えてくれない、ただの独白。
――――僕はどうしたい？
死にたくない。
――――それだけ？
……生きて、“あいつ”に会いたい。
――――なら、やることは一つだけだろ？ 僕。
……そうだね。
振り終える直前に、逆手に放った槍を消し、その腕を引き戻せば、ナイフと腹の間に割り込ませる。
呆気なく貫かれ、切り裂かれた華奢な腕。
『エム』の体に傷をつけてしまったのは、後で謝らないとな、なんて。
バールで弾かれた鋸は、呆気なく手放して、再びその手で槍を握った。
狙いは脇腹、その直前に穂先を現す。
突きを戻して再び突きなら、普段よりも隙は大きいだろう、という予想の元。
体をひねり加速させ、零距離からの全力の刺突。
片腕を犠牲にした、捨て身の特攻。
躱されれば死ぬ、当たって相手が“敵”ならば僕の勝ち。
違ったなら僕の負け。
とんだ博打だと、苦笑しながら、全力で、左腕を突き出した。
【ロティ】
｢なっ……くそっ！｣
本当……ずるいよね、その槍。
何処からでも直ぐに出せちゃうんだもん。
……なんて、思っても遅いさ。
だって出された時点で矛先が脇腹に軽く触れているんだからね。
……でも、避けられなくても傷は浅く出来る。
そうだろう？
……ここは、“私”に任せようかな、あんまり慣れていないからね。
同じ身体だけど、気分の問題さ。
……じゃあ、任せたよ。
───任された、任せてよ。
『ふっ……！
……がっ、ふぅ……痛い…ね、随分。
けど………耐えられない痛み、じゃあ……無い！』
槍の穂先は、身体を捻りロティの脇腹を掠める程度に。
けど、槍も消えず、傷は普通よりも大きいんだろうね……だって、貫かれるべき存在なのだから。
……けど、思い出した。
■■■達と、やんちゃして、他校の奴らと喧嘩になった時…。
みーんな、血の気が多いから、そりゃあもう大喧嘩になった物だ。
病院に世話になる奴も居たね……。
血だらけになった奴も居た……。
骨も折れたし、皆、満身創痍もいい所さ……。
…………けど、あれを経験したおかげで、こうして立っていられるんだろうね。
此処での言葉は…………“ありがとう”、かな？
────なんて、思うのもそろそろ辞めようか。
いい加減、痛みが強くて考えるより動けって言ってるんだよ。
……まだ、死ねないって、ね？
痛い……確かに痛いさ。
……けどね、相手にもダメージを入れた。
まだ戦況は五分五分って所。
そして、今、良いシチュエーションなんだ。
だってそうだろう？
…………左手で、槍を突き出して。
…………私は、その内側に居て。
…………エムと、私はほぼ密着していて。
…………右手には、バールがあって。
…………槍を、突き出した後の状況。
嗚呼、本当……良いよね。
『君も、正しいと思える事はあるだろ？
……………私は……有る。
これで……良いんだ！』
つまり何をするか、なんて……決まってるよ。
エムの、首筋へ向けて、バールの先端を振るう。
密着している状態で、こちらもほぼ零距離。
かつ、槍を放って、首筋はさらに近づく。
そう……これは、エムがロティにやった事と、同じ。
違うのは……首を狙っている位だ。
【エム】
嫌な予感がした。
なんとも中途半端で、論理的でもなくて、不確定要素だらけ。
でも、なぜかそれが勘違いに思えない。
たぶん、それは僕も全く同じことをしていたから。
咄嗟に、首を傾けた。
次に感じたのは、音と熱だった。
自分の肉がちぎれる音と、認識を超過した痛みによる熱。
「あぐっ…………くそ……」
肉が抉れ、血が飛び散る。
致命傷とまでは行かないけれど、それでもかなりの痛手。
少なくとも、下手に動けば出血多量で失血死。
かと言って動かなければ、目の前のあれに殺される。
槍を消し、数度の跳躍。
血を地面に滴らせて、ワンピースも赤く染める。
満身創痍、ではまだ無いか。
それでも、十分なパフォーマンスは期待できなさそうな今の状態。
一人勝ち。
この状態からは難しい。
相打ち。
まだ僕は死にたくないだろ？
敗北。
もってのほか、論外。
こんなことなら、もっと戦えるように物資を集めておけば、こんなことにはならなかっただろうな。
なんて、ないものねだりもほどほどにしよう。
そんなことを考えてる暇があるなら、諦めずに戦おう。
せめて、セレスティアの役目は全うしよう。
まだ血は足りてる、あとは時間との勝負だ。
槍を出し、構える。
今度こそ、槍使いの演技をしきってやる。
そう決意した、直後だった。
『11th【ヒガンバナ】が死亡しました。』
『生き残りメンバー 残り 17人』
「…………はっ？」
呆気に取られた。
訳が分からなかった。
いま、なんてアナウンスが流れた？
いま、何が起こったと言った？
まさか……そんな…………
「――――おかあ……さん？」
そんな言葉が漏れ出た。
今は『エム』じゃないはずなのに、今は『ボク』が出ているはずなのに。
――――脳裏によぎったのは、おかあさんと初めてあった時のことだった。
初めて会ったのはお風呂で。
一緒に体の洗いっこをして。
おかあさんってよんだら、嬉しそうにしていて。
護ってくれるって、いってくれて。
そんなおかあさんが――――死んだ？
自殺？ そんなことは考えられない。
他殺？ それしか考えられない。
守れなかったの？ 『エム』達は……セレスティアだったのに……守るべき人がいたのに……そのための潜入だったのに…………
構えた槍をその場で落とした。
カランと、無機質な音がショッピングモールに響く。
「…………行かなきゃ」
今言葉を発したのは、『ボク』と『エム』
どっちだろうね？
そんなことを気にする余裕はなかった。
取り落とした槍も無視して、駆け出す。
腕から、首から、滴る血も、今は全く気にならない。
もしかしたら、ゾディアックの偽装かもしれない。
多分、時間が無い。
こんな相手、殺してる暇はない。
おかあさんをさがして、見つけなくちゃ……
【ロティ】
『おかあさん…………ヒガンバナの事か？
なんでまた……って、おい！』
死亡アナウンスが聞こえ、仲間が死んだかと悟ってまたエムの方へ向いた時。
エムは自分を見ていなかった。
首から血を流しているにも関わらず、エムはどこかへ行こうとしている。
……おかあさん？
……死んだのはヒガンバナだろう？
……嗚呼、何となく分かった。
『仕方ねぇな……おい待て！』
まさかこんな事にこのゾディアックを使うなんて、我ながら馬鹿だね。
…………けど、大切に思う人が死んだ。
それは、その辛さは……。
……似た物だけど、分かっているから。
嗚呼……まだ、“人間”なんだな……。
本当、こんな事に使う物じゃないだろ？
この……“麒麟座”のゾディアックはさ。
そう思いつつ、エムの前に瞬間移動をするのだ。
『その出血じゃあ、Azoth……いや、ヒガンバナの所に行く前にくたばるぞ。
…………これ、やるからせめて首に巻いていけ。
それなら…最悪、一緒の場所で死ぬくらいは出来るだろうよ。』
そう言って、スーツの上着をエムに投げる。
Azothがなにやってんだか……。
まあ、Azothをおかあさんと呼ぶCelestiaも中々にどうかと思うけどさ。
けど、それだけ言えば、あとは道を開けるだけ。
目線は、戦いの時の目ではなくて。
それは、大切な人の元へ行ってやれという、ただの……人間の目だった。
【エム】
まだ邪魔をする気か。
目の前にロティが現れた時、そう思った。
先程まで殺しあっていた敵だ、エムはセレスティアで、ロティはそれ以外で。
でも今のテレポートは、きっとアゾート。
だから、殺す。
そう思っていた。
「…………え？」
彼女から投げかけられたのは、優しい言葉だった。
口から紡がれたのは、心配する言葉だった。
慌てて、投げつけられたコートを受け取る。
エムが着るには大きすぎる。
でも、使う分には十分だった。
勢いよく布を破り、腕と首に軽く巻き付ける。
簡易的な止血。
でも、“死なないため”だけなら、事足りた。
「…………ありがと」
なんて。
敵に言う言葉じゃないけれど。
優しくされたらこう言えって、教わってきたから。
そして『エム』は、できる限りの全速力で、走り去って行った。
【ロティ】
またショッピングモールに来てみた。
今回探すのは……とりあえずはアルコールに濡れたギターケースの代わりのケース。
まあ、それはあれば良いな程度。
本来探している物は別の物なんだけどね？
これは“私”じゃなくて“僕”が欲している物。
僕でも、私でも、身体は変わらないけど…まぁ、良かろう？
…………いや、やっぱり、今は変わっておこう。
任せた───任された。
｢ん…………はぁ…くだらね……。
さっさと捜し物を見つけて、帰る方法見つけないとなァ……？
……また、一人…死んだらしいが……。
まぁ……“俺”にゃ関係ねぇか…………あとは私に任せるし。｣
此処では……“僕”が前に出る。
僕は私から見ての僕で、私とは俺から見ての私。
今は、僕だ。
帰る方法を探して、早く彼奴と会いたいからな。
本当に……演じるのは大変だよ……。
そんなことを呟き、ショッピングモールの中を煙草を咥えて歩いて行く。
……欲しい物は、何処にあるかな。
【エム】
「歩きタバコはご遠慮ください、お兄さん……いやお姉さん？」
まあどっちでもいいか、なんて。
エムは、モール内でタバコを吸う彼ないし彼女に、そう注意しました。
今日モールにきたのは、またクレープが食べたくなったから。
なんてことはなく、単純にもの探し。
着替えを用意しておきたいのと、あとは適当に自衛用のなにか探し。
といっても、せいぜいフライパンとかがいいとこでしょうけど。
そしていざショッピング、ってタイミングでタバコの臭いがしたものですから、さすがに出鼻をくじかれるようなものです。
注意するのも、仕方がないとエムは思うのです。
【ロティ】
｢ぁ……？
……なんか、随分ちっこい奴だな…悪いがその注意は聞けないね。
これ以上ルールに縛られるのはゴメンなんだ。｣
随分、小さな警告者であった。
その警告は聞き入れる義理は無いから、煙草は咥えたままだけど。
とりあえずこれだけは言おうか。
……ルールを守るのは疲れたんだ。
それは“私”としての意見であり、“僕”としての意見ではないけれど…。
“俺”からすれば、その考えは嫌いじゃない。
……私は僕。
……僕は俺。
……俺は私。
こんなサイクルの中で、一致した物。
それがルールの唾棄。
しかし、そのルールを受け入れていたのも、またひとつの事実であって。
本当に……馬鹿馬鹿しい。
｢……で、何をしているんだい？
わざわざ注意する為だけに来た…なんて、巫山戯た事は言わないだろう？｣
歩きながら、僕は相手に問う。
注意する……その為だけに来たとは到底思えないし、思わない。
大方なにか探しに来たとか、その辺だろう？
……なんて、思うのさ。
【エム】
「…………ふうん、未成年はタバコ吸っちゃいけないんですよ」
そんな当たり前のことをもう一度言って、それからはタバコについての注意を言う気に離れませんでしたけど。
こんなデスゲーム中に、いちいちそんなこと注意していたらキリがないことにも気づきましたし。
盗撮覗きが平然と行われるこの場所でタバコなんて今更か、なんて。
諦めたとも言いますか。
「エムだってそこまで暇じゃないですよ、お買い物です、お買い物」
わざわざタバコを吸ってる人の気配がするから、なんて理由でここまで来て注意したから帰る、なんてこと、さすがにやりません。
【ロティ】
｢まあ……それは認めようか。
煙草は確かに未成年は駄目だけどね、ルールに縛られるのはもう疲れたんだよ。｣
確かに、煙草に関しての事は認めるとしよう。
未成年者の喫煙は本来は駄目……だけど、道化師にも言ったね。
──真面目は、疲れたんだ。
ルールは絶対に守らないといけないものと言われて、縛られた。
まあ、このゲームのルールは守るとも。
……が、法律はどうだ？
未成年者の飲酒や喫煙を咎め、逮捕する者が此処には居ないと思った。
だから、ルールは破ろうか。
此処で護るべきものは……何も無いのさ。
…………己が心に嘘はつかない。
それは自ずと自分を殺し、そして、次の自分を生み出して行くのだ。
嗚呼……嗚呼…………今宵も、一人で……。
｢買い物……と、言うよりは捜し物だろ？
……ところで…誰だ？
あぁ……先に名乗るか…俺はロティ、今は“俺”だ。
その内、“私”にも会うだろうよ、そん時は普通に接しろよ？
色々印象違うと思うけど、なァ……？｣
どうせここに居るなら…なにか探しているのだろう？
なんて、分かり切った事じゃないか？
そう思いつつ……“俺”が、前に出て語る。
いずれ会うであろう、“私”について、話せる事をある程度。
どうにも上手く言えないが……。
……まあ、同一人物なのは変わらない。
そんなことを言いながら……“俺”は目的の物を探しに行こうと思う。
【エム】
「エムはエムです、よろしくお願いしますね。
それじゃあ、今はお兄さん、と呼んだ方がいいですか？」
一人称だけなら、男の人と感じる。
この人も、1人で何人もいるひとなら、誰かによって呼び方は変えた方がいいかな、なんて。
そんな気遣いを口に出して、そう問いかけました。
別に、お姉さんでいい、と言われたならそう呼ぶつもりですが。
そして、ロティお兄さんないしお姉さんの後ろをついていくようにして、エムも歩き始めます。
【ロティ】
｢エム……か、まあ…呼び方は好きにしな。
だが、“私”の時には姉さんはやめとけ、そん時は嫌な時だ。｣
エム……エム……よし、覚えた。
“俺”は覚えたさ、が……“私”は知らない。
そんな物気にする必要が無いのだから、まずはゆっくり捜し物を。
なんて思いながらも、呼び方については一つだけ指摘しようか。
“私”の時には、お姉さんはやめろ…と。
それは、あまり好ましい呼び方ではない。
勿論、“私”にとっては、である。
“俺”には関係ないが……あとは、“僕”はどうかな？
…………まあ、良いか。
なら“僕”にも話をしてもらうか？
そうだ、そうしよう。
だから……任せたぜ───任された。
これが、俺で、私で、僕なのだ。
｢……と、言う訳さ、分かったかな？エム君。
“僕”としては、どちらでも構わないけど…君の好きに呼ぶと良い。｣
そうだ、“僕”の出番さ。
エムの方を向いた僕は、穏やかに笑う。
とりあえず……欲しい物は、多分ある。
エムの欲しい物が何なのかは分からないけどさ、多分自分で見つけてくれるよね。
呼び方は……僕はなんでもいいや。
｢さてさて……エム君の目的の物は何かな？｣
一応、聞いてやるさ。
早く探したほうが……僕として…いいや、“俺”として…かな？
色々やりやすいのさ。
それにしても……面白い話だと思わないかい？
───僕が……
───一番……
───危険って言われるんだぜ？
嗚呼……本当に、分からないね。
とりあえずは……『捜し物』をしようか。
【エム】
「じゃあ、ロティさん、とお呼びしますね」
女の人をお兄さんと呼ぶのは嫌だし(柏木は除く)
かと言って一人称でいちいち呼び方を変えるのも面倒。
だから、エムはさん付けで呼ぶことにしました。今のところ参加者のうち初めてです。栄誉ですよ栄誉、嘘ですけど。
「……そうですね、エムはフライパンとか、お洋服とか探しに来たんですよ」
フライパンは防具にも武器にもなるスグレモノ、最高の武器、汎用兵装。
洋服は、単純におしゃれのつもりです。
縫い直したりして、改造はするかもですけどね。
【ロティ】
｢なるほどねぇ……じゃあ、こっちかな。｣
探している、僕は、何かを、それを。
それは、武器……かな？
そうだね……捜し物は、武器さ。
見つけた、見つけた……工具店。
素晴らしいね、実に素晴らしい。
殆ど物は無いけど、僕は知っている。
如何なる場合でも……アレはある。
あった、あった、やっぱりだ……。
絶対、絶対、あるんだよ……僕の、私の、俺の、捜し物。
アッタヨ、アッタヨ、“サガシモノ”…。
───僕ハ……どンな顔ヲしていたのカナ？
……まあ…僕は、もう終わるさ。
それは、もう、仕事として。
｢ねぇ……エム、君の瞳を見せておくれ。｣
その目は……とても、美しい。
その目は……まるで、宝石の様で。
その目は……きっと、僕を見る。
その目で……きっと、僕を見る。
その目で……絶対、僕を魅せてやる。
｢嗚呼……エム、君の瞳は素晴らしい…。
ねぇ…………君の瞳を…“眼球”を……僕に見せておくれよ。
せめて…“僕”が“僕”でなくなる前に……。｣
その瞳の映す物……それは、何なのかな？
その双眸で、何を映しているのかな？
僕…………なんて、ある訳ないよね。
でも、気になっちゃうんだよ、分かるだろう？
…………さぁ、君は、何と答えてくれる？
けど、聞けない……だって、もう、交代だ。
だから……こう言ってやるのさ。
『まあ、“私”に戻るけどねぇ！？
はじめましてぇ！
私がぁ……本来のロティでぇぇっす！
ねぇねぇ、もう繕うの辞めて良いよね！？
だってぇ……私、もう疲れちゃったからさぁ！？
大変だよォ、“演じる”ってさぁ！
言ったよねぇ……私はルールが〜ってさぁ、ねぇねぇねぇ！？』
本当なら……見せたくなかったよ…なんて、思っても遅いよね？
そう、僕は思いながら、消えていくのさ。
最後に残るのは、やっぱり、頭の壊れた私。
もう良いよ…好きにしなよ……。
僕は、俺は……。
────もう、止めないから。
『ふふふふふふ……ごめんねぇ……？
じゃあ、改めて聞いちゃおうかなぁ……エムちゃんはぁ……その目に、何が映ってるかなぁ？』
やったやったやった、私の時間だよ。
なぁんて、此処で言うのは初めてだねぇ。
とりあえずはエムちゃんに謝らないとね？
はぁい、ごめんなさいって……さ。
でもでも……やっぱり気になるから聞いてみるよ？
ハットを捨て、髪も束ねるのを解けば。
私はバットを持ち、バールをベルトに引っ掛けて問う。
───その瞳には、何が、映るのかな？
【エム】
「…………」
唐突なこの変わりように、流石のエムもビックリです、言葉なんてとっさに出てきません。
なるほど、これは確かに“俺”か“僕”のロティさんがお姉さんなんて呼ぶな、という訳です。
似合いませんもん、この感じ。
嫌いですもん、この雰囲気。
お姉さんなんて、似合いません。
それにしても……
「…………演じる、ですか」
演じる。
演技をする。
なるほど、なるほど。
この人は今、それをしていたと。
そう言ったんですね？
許せますか？『ボク』
今この人、演じてたって言いましたよ。
――――それは君が一番わかってるだろ、『エム』
『ボク』は――――――
「――――中途半端な演技が嫌いなんだよ、出直してこい、ド素人」
気持ちの悪いものを見た、そんなふうに僕は目の前のそれに嫌悪感を露わにする。
こちとらそれが本職であり、演じることなんて十八番も十八番。
見破れはしないにしても、あれを演技と呼ばれたことには少々、いやかなり頭にきている。
これが多分、虫唾が走ると言うやつなんだと思う。
初めての経験だ、今後の参考になる。
そこだけは感謝しておこう、そこだけは認めてやろう。
もちろん、演技を馬鹿にしたこいつを許すつもりは欠けらも無いが。
ここからは『ボク』が表にでよう。『エム』に争いごとは似合わない。
だって『エム』はそういうキャラクターだから。
『ボク』が1から作ったキャラクターだから。
この姿になって、性格から、仕草から、口調から、服のセンスから。
何から何まで、作ったのは『ボク』だから。
誰かを真剣に怒れるようには作ってないから。
誰かと本気でぶつかり合うためには作ってないから。
だから、今回だけは、『エム』をやめる。
ここから先は、僕の領分だ。
始めよう、これが最後だ。
この姿で、このゲームで、最初で最後の、コロシアイだ。
背負っていたバッグを下ろせば、雑多に詰め込まれた中身から、いつでも抜き出せるようにしまわれていた一振りの包丁を取り出した。
いつだったか、キャンプ場で探索をしていた時に見つけたこれ。
自衛用に、と持っていたけど、これさえあれば十分か。
小柄な少女が短い包丁で戦う、キャラ的にも立っているから満足だ。
もう1つ、片手の袖に配布されたアイテムを隠し持ったが、まあ大したことには使えまい。
「演技に疲れてるようじゃ三流も良いところだよ、体力つけてから出直した方がいい」
こんな軽口を叩けるのも、いつまでだろう。
片手に包丁を構えて、僕は間抜けな素人にそうアドバイスする。
さあ、演技指導の時間だ。
【ロティ】
『そうそう！それだよ、それだよエムちゃぁん！
私が素人？
そーんなの分かり切ってるさぁ！
だからこそ、疲れるんだよぉ！？
だってさだってさぁ！？
演劇なんてやった事無いしぃ、やろうとも思わなかったしさぁ！
はぁぁぁ………………よし、さぁやろうかぁ！』
やっとやっと、本性を表した。
相手もそれは変わらなくて、それが、楽しい。
いいねェ……楽しいじゃあないか！
そう、思って私はバットを持っていた。
しっかり握って、しかし、使い慣れて馴染んだそれは、私の中に確かにある。
嗚呼……分かるだろう？
………………楽しもうって訳さ。
『何でもアリ、で……良いよねぇ？
まあ、エムちゃんもそうするつもりでしょ！？
私は自分のやりたいようにやるからさぁ！』
カラカラとバットを引き摺り、エムの方へ歩み寄る。
……前に、確認。
ポケットには…………ある。
リュックサックには……ある。
背中に……大丈夫。
行けるさ……勝てる勝てないじゃなく、楽しめる位の事ならば……ね？
さぁ、おいで…コロシアイの時間だよ。
【エム】
「あぁ、やろうか」
その場で数度跳躍する。
体は動く、むしろ軽いくらいだ。
それもそうか、元の体より小さいんだから。
それにしても、なんでもあり、か。
嫌な言葉だよ。
どんな卑怯な手を使ってもいい、そんな条件なんだから。
『エム』は殺し合いを率先する性格してないから、大した準備もできてない。
この身一つであんな狂人相手にするなんて馬鹿げてる。
なんて、今更思っても仕方が無いわけだけど。
左袖に隠したそれを、手に持ち、回転させるように投擲。
狙いはロティの顔面、左目。
それはさながら手裏剣のように飛翔して…………
とは、言うものの。
それは実際、ただのプリペイドカード。
なんの効果もありはしない。
単純に、目くらまし程度のものだが。
【ロティ】
『アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ！！！
課金でもしなよぉ、せめてさぁ！
まあ、エムちゃんはそう使う人なんだねぇ！？
分かってたよぉ、何か持ってるのはさ！
私も持ってるからねぇ……そうでしょエムちゃぁん！？』
なぁんか、飛んできたけど。
…………そんなの知らないね、だって何か持ってるのは分かっていたんだ。
さぁて…まずは、弾こうか。
バットを逆手持ちに切り替え、持ち手を少し顔の前に移動させる。
カードくらい、弾ける。
しかしこれの利点、それは、視界の確保。
まあ、そんなのは二の次。
行くよ……今度は、私の番だからさ？
『次はぁ……私の番さぁ！』
さてさて、空いた片手は遊ばせていて良いのかな？
いいや、ＮＯだよ諸君。
片手に持ったのはゴキジェット。
中身は沢山あるさ、まだ使えるよ。
さて、まずはバットを使おう。
握り閉めれば、一歩前に足を踏み込んだと思えばそのまま前方に、包丁ごとエムを着き飛ばそうと動く。
……が、それは前置きに過ぎない。
一つ……差があるのは身長。
でも、踏み込みの時点で身体は下がる故に、バットはロティの身体を守る盾となる。
さぁさぁ、本番はこっちだ。
ゴキジェットの噴出口を、持った手を下から掬い上げるように動かし噴出させながら、エムの顔の前に。
そして、顔へ目掛けてゴキジェットを使い、まずは視界を奪おうと。
【エム】
「こんなの見破れても何の自慢にもならないよ。
そんなにハイテンションになるなんて、大丈夫？ タバコの吸いすぎ？」
心にもない心配を口にして、そんな余裕もないだろと、心のうちで苦笑する。
こんなあからさまな敵と戦うなんて、どうかしてると思う。
普段なら、逃げたと思う。
でも、こいつは僕の大切なものを貶した。
犯してはならない聖域に土足で踏みいった。
命を奪うには、十分すぎる理由だ。
少なくとも、僕のなかでは。
シューッというスプレー缶の吹き出す音が聞こえる。
音の出所は、あれか。
認識すれば、やることは早かった。
後方へ跳躍。
いわゆるバックステップだが、それでスプレー缶の直撃は免れつつ、踏み込みにより近くなった相手の胴体めがけて、包丁を投擲する。
自分で前方にスプレーを放っているなら、少なくとも不明瞭になるわけで。
投擲された包丁は、スプレーの煙にその姿を隠しながらまっすぐロティの胴体めがけ飛翔する。
【ロティ】
『人の心配してる暇あるのぉ？
凄いねぇ、余裕だねぇ、楽しくなってくるよ！
さぁて……見え見えだけど、まだ何かあるんでしょ！？
嗚呼……良いよねぇ、昔を思い出すよ。
馬鹿騒ぎしてたあの頃は、まだ記憶にもあるだろう？
………………無論、お互いにさ…！』
他人よりも自分を優先すべきだろう？
そんな事を思い、私は包丁をバットを横に動かす事で弾いて。
そして、ゴキジェットはリュックサックのポケット部分にしまって、そのまま片手を空ける。
エムの余裕の有りそうな態度は、割と楽しい。
だってそうでしょう？
……私は、楽しんでいるから。
まだ、何かあるのは明確で、その為に出来ることをまたひとつ。
けどさぁ……楽しんでいるんだよ。
『今度は……私から行くよ！？』
そして、バットで弾いた後。
距離は僅か、詰められない事はなかろう？
なんて、思ったからさ？
私は、バックステップをしたエムへ向かい、包丁を弾いたタイミングで踏み出して距離を詰める。
そしてそのまま、着地をしたエムの足へ目掛けてバットを相手から見て右下。
そのポイントから膝へ目掛けて振るう。
【エム】
「僕はそんな覚えないけどね、静かな方が好きなんだ」
わざわざ騒々しいのが好きなやつなんて、いるとは思えないけど、それはそれで個人の自由か。
それにしても、もっと武器は集めておくんだったなぁ。
このタイミングで武器がなくなるだなんて、準備不足もいいところだ。
こんなことなら『エム』をもう少し“ズレた”子に設定しておけばよかったか。
こんなこと、今更考えても手遅れもいいところなわけだけど。
……まぁ、僕が“ズレてる”から、大した理由もないか。
跳躍。
今度は前方へ。
低身長ゆえに、膝を狙うにしてもやはりかなりの低姿勢になるのは確定的で。
もっと言えば、近づけば威力も落ちるから、というのもあるけど。
狙いはもちろん別にある。
前方への跳躍によって、こちらは接近しているから、賭けに出る。
虚空を掴み、突き出すような動作。
現出するは、白銀の槍。
“セレスティア固有能力”が1つ『ゲオルギウスの槍』
Azoth、もしくはMadman以外を傷つければ、その時点で消滅するというそれを、極限まで接近した状態で、相手との距離がほぼゼロな位置から突き出す。
ただ、槍を失う恐れはなかった。
仲間から送られてきた情報、信頼できる確率のあるそれ。
そこに記されていたものに、彼女の正体が書いてあった。
これで終わる、なんて安直な考えはしていないけど、ひとまず一撃見舞う分には、過剰火力とも言えるそれを、なんの躊躇いもなく突き出した。
【ロティ】
『うっわ、槍とかずるくねぇ？』
……なんて言っているけれど、その動きは捉えた。
というより、この距離だからこそ何が来るか分かったと言った方が正しい。
この距離で、突き出すような動作。
この間合いは……よく、見ていた。
バットを振りぬき、相手が飛んできたタイミングには既に身体……もとい、左足を流れに任せる事で半身になる。
無論、振り抜きに合わせた故にギリギリの運の良かった回避だった。
…………が、それも■■■のお陰だ。
更なる幸運はもう一つ。
肩にかけるように背負っていたギターケースが、槍の軌道を外側にずらす様に、側面に沿って受け流した。
これにより回避が成功したのだ。
そして、踏み出して、それなら……。
『武器の扱いは素人か……。』
左手は空き、そして腰にはバール。
……なら、次はこれをやるべきだろ？
なんて、思った時には動いている。
足を動かすと同時に、腰のベルトに引っ掛けていたバールを掴んで、真っ直ぐ上に突き上げるす。
槍を放った後の僅かな硬直のタイミング、かつ空中で、バールの先端はエムの腹を貫かんと迫るだろう。
【エム】
「なっ――――」
かすりもせずに躱され、反撃の機会を与えてしまった。
ただの突きとはいえ、長柄武器の攻撃はだいたい大きめな隙が生じるわけで、バールに関しては回避するすべはなかった。
ああ、もう死ぬのか……
――――なんて、絶望する演技もほどほどに。
空中で槍を突き出したのだから、少なくとも重心は前へと向かっている。
その勢いは殺さずに、右足から着地すれば、それを軸に勢いを使って身を翻し、体を回転、槍の持ち手を橋の方へとスライドさせながら長く持てば、薙ぎ払いを放ちながらバールの回避を行って。
「武器の扱いに慣れてる高校生がいると思う？」
そんな憎まれ口を僕は叩いてみる。
【ロティ】
『そうかねぇ？
エムちゃんがやってないだけじゃないのか……なっ！』
あの状態からバールを避ける身体能力を持っていて何を言うのだと思う……が、まあ良かろう。
今は其方では無いのだ。
薙ぎ払う様に振るわれた槍は、今度はバールを使って止めて防げば良い。
また、戦況は止まる。
深紅の針は此処で止まり、軋みながら動き出すその時を待つ。
止まる度に思う事がある。
次の一手はどう動くか、出来るだけ予測の外を行かねばならない。
なんて、考えるけどさ？
1個、思うんだ。
今……エムの顔の前にはギターケースがあるだろう？
そいつはカバーにたっぷりとウォッカが染みている。
……気化していたら、火を付けたら燃えるんだけどな……なんて。
まあ、それは……後にしてあげるよ。
今は……もう少し楽しみたいんだ。
─────分かるだろう？
……僕？
『はぁぁ……。
このテンション疲れたから普通にするか…。
………まあ、エムちゃんとのコロシアイは続けるけどねぇ？
アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ！！！』
テンションは……僕に合わせるよ。
だが、コロシアイは続く。
けど、今、止まっている。
………なら、次はどうする？
なんて、分かってるよね。
止めた脇腹の隙間から、見えるのはエムの顔。
槍の持ち手に沿ってバールを滑らせながら左足を引いて半身に。
そして、エムの足の間に自分の足を。
かつバットを持った腕を槍の下側から振るい、エムのがら空きの脇腹へ殴打を加えようと。
【エム】
「…………早いところくたばって死んでくれ、って言っても聞いてくれないよね」
薙ぎ払いを止められれば、放たれたのは殴打で。
いい加減、面倒になってきたな。
そんなことを思っても、この狂人は止まってくれないんだよな。
今更になって、命乞いなんてかっこ悪いしね。
着地からの薙ぎ払い、しかも狙いは背後の相手。
身の丈の合わない武装でそんなものをやらかせば、バランスが崩れるのは、当たり前で。
止められた槍を“消せば”、崩れたバランスを無理に戻そうとせずに、それに身を委ね利用し、脇腹への殴打を回避。
加えて地面を、ついでに相手の足を強く蹴りつければ、上半身と下半身の位置は逆転。
それを何度か繰り返し、後方へと距離を取った。
いわゆるバク転、と言うやつで。
【ロティ】
『……悪いね、私だって、“僕”と“俺”の命も背負っているんだよ？
此処でくたばるのは御免だし、何より彼奴より先に死ぬのは嫌だからな。』
足を蹴られ、そのままエムは離れていく。
なら、此方も少し距離を取ろう。
位置は……最初の場所。
…………貰っておこうか、包丁。
まあ、それはさておき。
今、早くくたばってくれと言われたが、それは聞けない頼みだ。
私だって、“僕”と“俺”を背負っている。
それに……■■■よりも前に死ねない。
先に死ぬのは、どうも嫌だから。
『…………エムちゃんにも居るでしょ？
大切な人の一人や二人……ねぇ？
……私はね、どっちかって言うと仲間以外はあんまり信じないのさ。
だから、彼奴は特別なのさ……。
…………喋り過ぎたね、さぁ……来るかな？』
エムにも、大切な人の一人や二人は居るだろう？
なんて、問いかけながら身の上話。
彼奴の……■■■の事を話すのみ。
……が、少し話し過ぎたかな？
もう良いよね、自己語りなんて物はさ。
さぁ、再開するよ。
『──止まった深紅の針は、軋みながらも加速する。
……刻み込まれる、記憶の歯車。
……それは、鳥の様に……碧い空へ目掛けて。
……輝く水面へと向かい……。
……そして、水平線に消えるのだ。』
なんて、思いながら、エムの動きを見ている。
【エム】
「…………大切な人？」
いるとも。
それだけ。
それ以上はなにもない。
失いたくない人がいる。
そのために、命を投げ捨てられる、なんてほど崇高なものでもないけど。
確かに居る。
ここにもいるかもね、なんて。
そんな軽口を叩いてみる。
まぁ、いたところでなんだ、という話なんだけど。
「言いたいことは、それだけ？」
いつまでも無駄話が続くのは、お互い面倒だろうし。
さっそく、再開しよう。
工具店の店先に並んでいた鋸をひとつ。
ヒュンと、風切り音を鳴らして。
たわみながら頓狂な音を鳴らして。
と、言っても。
「わざわざ格上に突っ込んでいくほど、僕も馬鹿じゃないんだぜ？」
なんて。
バットとバール、その背中にはその他武装。
あるかは知らないけど、備えだけは十分な相手目がけて突っ込むバカは、そう居ないだろう。
もちろん、僕を含めてね。
だから言いたいことはつまり……
「――――――――かかってこいよ、“3人”で｣
【ロティ】
『…………言ったね？』
｢なら望み通りに、俺達…………｣
「三人で、相手をしてあげるよ。」
そう言った、エムに合わせる様に。
私は…………俺は…………僕は…………。
……初めて、三人で相手をする。
先程の考えは、割と合っているらしい。
───そうだね……。
私が、深紅の針で……俺が、歯車で……僕が、鳥になるのかな？
任せる？任せた、任された。
さぁ、まずは…………“私”からだよ、二人とも？
『…………じゃあ、始めようか。
せめて楽しんでから、散る時は散るんだ。
……いや、違うか。
散るものは無いさ、私は、散った花弁を受け止める土になる。
────始めよう、私がラストピリオドを打つんだ。
この、世界と、私の心の灯火に……。』
本性なんて、人格なんて、三人なんて、居ないけれど。
今は、三人で、ここに居る。
それぞれ、得意な事が違うのだったら。
…………良かったのにね？
───嗚呼……嗚呼…………嗚呼ッ！！！
此処で、初めて。
私と、僕と、俺が、出会う。
私…………？
───うん、行けるよ。
僕…………？
───ああ、行けるとも。
俺…………？
───おう、行けるぜ。
…………じゃあ、“私”はここまで。
任せるよ、僕？
ああ、任されたよ、私。
…………………………良し、行けるね、お前達ッ！
───楽しもうぜ、お前達！
───ここまで来たんだ、意地を見せてやれ！
───私達の団結力、侮るんじゃないよ！
………………………お前達、私達が抜けても、達者で過ごすんだよ！
……全部、■■■の鼓舞だ。
なんでそれが頭に浮かぶ？
今ここで浮かぶべき物だったのかな？
いいや、いいや……違う。
────浮かべるべき物なのだ。
私が私で居続ける為に。
僕が僕で居続ける為に。
俺が俺で居続ける為に。
行くよ、■■■……私達、お前の隣で頑張って来たんだ。
……お前が、生きる間は、私は全力で生きてやるさ！
「さてさて……“僕”が思い出すのはこれくらいかな……。
──エム君、君の瞳は綺麗だったよ。
……どうせなら、傍に置いておきたいけど、それは辞めておこう。
…もう、“僕”だけの身体じゃないんだ。」
残念だね……その瞳は欲しかったよ。
……けど、もう良いさ、充分満足したんだ…楽しめる内に楽しもう。
…………■■■も、言っていたからね。
「さて、と。」
もういいよね、俺？
あとは君が好きにしつつ、時々僕と私にも好きにさせておくれよ……だから、さ。
任せたよ、俺？
ああ……任されたぜ、僕。
「…………さぁてさぁて、待たせたな！
これから……本当のコロシアイだからなァ！
お前は……鋸を持ったんだ…もう、意思は持ったんだろ！？
ヒトゴロシになる、その覚悟を！」
ようやく俺だ、そう、俺だ。
私と僕には譲って貰ったんだ……易々と死んでたまるか……ってな。
相手は、鋸。
なら、此方はバールと包丁にしようか。
バットは……例の如くベルトに引っ掛ける。
……覚悟、持ったんだろ、俺。
最初に殺した、彼奴の声を、今でも覚えている。
────苦しかったろ？
────悪かったな。
────せめて、安らかな死を。
……さぁ、お祈りは済んださ。
始めよう、何度目になるか分からないけど。
…………俺はそう思った。
人を殺す勇気は……身につかないけど、ね？
『お前の覚悟は！
どれくらい強いのか、見せてもらうぞ！』
問題は……鋸か。
対策は……しよう、それが正しい。
まずは右手でバールを握り。
次に、左手に包丁。
これも、逆手持ち。
よし……動くしかないだろう、ここまで来たら。
そして、エムの鋸を持っている方の腕へ向けて、バールの先端を突き刺さんと振るうのだ。
【エム】
「――――うん、それでいいよ」
三人、俺と、僕と、私の、三人。
相手取るのは大変そうだ。
挑発したのは僕だけど、仕方ない。
頑張ろう、やれるだけ、やってみようか。
右足を後ろに下げて、突きを回避。
そして、右腕を振り上げて、鋸の凹凸を相手の左腕へと振るい、右手で“槍”を逆手につかめば、一歩踏み出し、相手の懐に入り込みながらそれを腹部めがけて突き刺そうとする。
一歩進んだことで、仮に鋸が当たっていたなら、そのまま切り裂かんとするはずで。
【ロティ】
｢おおっと……怖いねぇ、その槍はさぁ…。｣
まあ、これ位は避けるだろうと分かっていた。
というより、避けない方がおかしいと思った故にもうその先への回避に繋げる。
と言っても、そんな大それた事はしない。
単純……そう、単純なんだ。
突きは伸ばしきる前に、引き戻す。
槍は一歩後ろへ下がり、腹の前を通す。
嗚呼……単純、単純だけど。
……単純こそが、複雑なんだ。
そう、それが……これこそが……。
なんて、俺はここまで。
……後は、任せる。
───任されたよ。
｢これが、“僕”の信じる、道なんだよ。｣
槍の持ち手を、包丁を持つ手で逆手で掴み、しかとその手に力を込めた。
そして、もう一つ。
鋸を止めたバール、これも。
叩きつける様にして止めた後、槍を放った後の硬直時間……も、僅かな物だろう。
……が、その僅かすらも今は恐ろしい物だ。
そして、そのまま、包丁を持った手を外側へ腕ごと動かすことで、エムの腹に包丁は向かうだろう。
【エム】
「…………そうか、信じる道か」
まさか、こんな奴からそんな言葉を聞くだなんて思ってもいなかった。
殺し合いを率先して行うようなやつから、信じるだなんて言葉を。
……いや、だからこそ、かな。
自分の信じる道を、素直に感じることが出来るからこそ、殺し合い(信じる道)に向かうことが出来る。
僕ですら、信じる道をまだ見つけられてないのに、なんという皮肉だろう。
弾かれた鋸、躱された槍、迫る銀の刃、命を奪おうとする相手の顔。
全部が視界に入った。
ここで勝てなきゃどうなるんだろう。
死ぬんだろうか。
死ぬんだろうな。
結局、ここで“あいつ”に会うことも出来なかった。
守れたのかすらわからない。
そもそも、役目を全うできていたか？
そんな自問自答を繰り返す。
『エム』も答えてくれない、ただの独白。
――――僕はどうしたい？
死にたくない。
――――それだけ？
……生きて、“あいつ”に会いたい。
――――なら、やることは一つだけだろ？ 僕。
……そうだね。
振り終える直前に、逆手に放った槍を消し、その腕を引き戻せば、ナイフと腹の間に割り込ませる。
呆気なく貫かれ、切り裂かれた華奢な腕。
『エム』の体に傷をつけてしまったのは、後で謝らないとな、なんて。
バールで弾かれた鋸は、呆気なく手放して、再びその手で槍を握った。
狙いは脇腹、その直前に穂先を現す。
突きを戻して再び突きなら、普段よりも隙は大きいだろう、という予想の元。
体をひねり加速させ、零距離からの全力の刺突。
片腕を犠牲にした、捨て身の特攻。
躱されれば死ぬ、当たって相手が“敵”ならば僕の勝ち。
違ったなら僕の負け。
とんだ博打だと、苦笑しながら、全力で、左腕を突き出した。
【ロティ】
｢なっ……くそっ！｣
本当……ずるいよね、その槍。
何処からでも直ぐに出せちゃうんだもん。
……なんて、思っても遅いさ。
だって出された時点で矛先が脇腹に軽く触れているんだからね。
……でも、避けられなくても傷は浅く出来る。
そうだろう？
……ここは、“私”に任せようかな、あんまり慣れていないからね。
同じ身体だけど、気分の問題さ。
……じゃあ、任せたよ。
───任された、任せてよ。
『ふっ……！
……がっ、ふぅ……痛い…ね、随分。
けど………耐えられない痛み、じゃあ……無い！』
槍の穂先は、身体を捻りロティの脇腹を掠める程度に。
けど、槍も消えず、傷は普通よりも大きいんだろうね……だって、貫かれるべき存在なのだから。
……けど、思い出した。
■■■達と、やんちゃして、他校の奴らと喧嘩になった時…。
みーんな、血の気が多いから、そりゃあもう大喧嘩になった物だ。
病院に世話になる奴も居たね……。
血だらけになった奴も居た……。
骨も折れたし、皆、満身創痍もいい所さ……。
…………けど、あれを経験したおかげで、こうして立っていられるんだろうね。
此処での言葉は…………“ありがとう”、かな？
────なんて、思うのもそろそろ辞めようか。
いい加減、痛みが強くて考えるより動けって言ってるんだよ。
……まだ、死ねないって、ね？
痛い……確かに痛いさ。
……けどね、相手にもダメージを入れた。
まだ戦況は五分五分って所。
そして、今、良いシチュエーションなんだ。
だってそうだろう？
…………左手で、槍を突き出して。
…………私は、その内側に居て。
…………エムと、私はほぼ密着していて。
…………右手には、バールがあって。
…………槍を、突き出した後の状況。
嗚呼、本当……良いよね。
『君も、正しいと思える事はあるだろ？
……………私は……有る。
これで……良いんだ！』
つまり何をするか、なんて……決まってるよ。
エムの、首筋へ向けて、バールの先端を振るう。
密着している状態で、こちらもほぼ零距離。
かつ、槍を放って、首筋はさらに近づく。
そう……これは、エムがロティにやった事と、同じ。
違うのは……首を狙っている位だ。
【エム】
嫌な予感がした。
なんとも中途半端で、論理的でもなくて、不確定要素だらけ。
でも、なぜかそれが勘違いに思えない。
たぶん、それは僕も全く同じことをしていたから。
咄嗟に、首を傾けた。
次に感じたのは、音と熱だった。
自分の肉がちぎれる音と、認識を超過した痛みによる熱。
「あぐっ…………くそ……」
肉が抉れ、血が飛び散る。
致命傷とまでは行かないけれど、それでもかなりの痛手。
少なくとも、下手に動けば出血多量で失血死。
かと言って動かなければ、目の前のあれに殺される。
槍を消し、数度の跳躍。
血を地面に滴らせて、ワンピースも赤く染める。
満身創痍、ではまだ無いか。
それでも、十分なパフォーマンスは期待できなさそうな今の状態。
一人勝ち。
この状態からは難しい。
相打ち。
まだ僕は死にたくないだろ？
敗北。
もってのほか、論外。
こんなことなら、もっと戦えるように物資を集めておけば、こんなことにはならなかっただろうな。
なんて、ないものねだりもほどほどにしよう。
そんなことを考えてる暇があるなら、諦めずに戦おう。
せめて、セレスティアの役目は全うしよう。
まだ血は足りてる、あとは時間との勝負だ。
槍を出し、構える。
今度こそ、槍使いの演技をしきってやる。
そう決意した、直後だった。
『11th【ヒガンバナ】が死亡しました。』
『生き残りメンバー 残り 17人』
「…………はっ？」
呆気に取られた。
訳が分からなかった。
いま、なんてアナウンスが流れた？
いま、何が起こったと言った？
まさか……そんな…………
「――――おかあ……さん？」
そんな言葉が漏れ出た。
今は『エム』じゃないはずなのに、今は『ボク』が出ているはずなのに。
――――脳裏によぎったのは、おかあさんと初めてあった時のことだった。
初めて会ったのはお風呂で。
一緒に体の洗いっこをして。
おかあさんってよんだら、嬉しそうにしていて。
護ってくれるって、いってくれて。
そんなおかあさんが――――死んだ？
自殺？ そんなことは考えられない。
他殺？ それしか考えられない。
守れなかったの？ 『エム』達は……セレスティアだったのに……守るべき人がいたのに……そのための潜入だったのに…………
構えた槍をその場で落とした。
カランと、無機質な音がショッピングモールに響く。
「…………行かなきゃ」
今言葉を発したのは、『ボク』と『エム』
どっちだろうね？
そんなことを気にする余裕はなかった。
取り落とした槍も無視して、駆け出す。
腕から、首から、滴る血も、今は全く気にならない。
もしかしたら、ゾディアックの偽装かもしれない。
多分、時間が無い。
こんな相手、殺してる暇はない。
おかあさんをさがして、見つけなくちゃ……
【ロティ】
『おかあさん…………ヒガンバナの事か？
なんでまた……って、おい！』
死亡アナウンスが聞こえ、仲間が死んだかと悟ってまたエムの方へ向いた時。
エムは自分を見ていなかった。
首から血を流しているにも関わらず、エムはどこかへ行こうとしている。
……おかあさん？
……死んだのはヒガンバナだろう？
……嗚呼、何となく分かった。
『仕方ねぇな……おい待て！』
まさかこんな事にこのゾディアックを使うなんて、我ながら馬鹿だね。
…………けど、大切に思う人が死んだ。
それは、その辛さは……。
……似た物だけど、分かっているから。
嗚呼……まだ、“人間”なんだな……。
本当、こんな事に使う物じゃないだろ？
この……“麒麟座”のゾディアックはさ。
そう思いつつ、エムの前に瞬間移動をするのだ。
『その出血じゃあ、Azoth……いや、ヒガンバナの所に行く前にくたばるぞ。
…………これ、やるからせめて首に巻いていけ。
それなら…最悪、一緒の場所で死ぬくらいは出来るだろうよ。』
そう言って、スーツの上着をエムに投げる。
Azothがなにやってんだか……。
まあ、Azothをおかあさんと呼ぶCelestiaも中々にどうかと思うけどさ。
けど、それだけ言えば、あとは道を開けるだけ。
目線は、戦いの時の目ではなくて。
それは、大切な人の元へ行ってやれという、ただの……人間の目だった。
【エム】
まだ邪魔をする気か。
目の前にロティが現れた時、そう思った。
先程まで殺しあっていた敵だ、エムはセレスティアで、ロティはそれ以外で。
でも今のテレポートは、きっとアゾート。
だから、殺す。
そう思っていた。
「…………え？」
彼女から投げかけられたのは、優しい言葉だった。
口から紡がれたのは、心配する言葉だった。
慌てて、投げつけられたコートを受け取る。
エムが着るには大きすぎる。
でも、使う分には十分だった。
勢いよく布を破り、腕と首に軽く巻き付ける。
簡易的な止血。
でも、“死なないため”だけなら、事足りた。
「…………ありがと」
なんて。
敵に言う言葉じゃないけれど。
優しくされたらこう言えって、教わってきたから。
そして『エム』は、できる限りの全速力で、走り去って行った。
それは紅い華の咲く 11th【DEAD END】-20th
ヒガンバナ(11th)【DEAD END】-あいごころ。(20th)
【あいごころ。】
｢…よし！｣
私は今、公園の中央にいます。
え？何をしてるかって？
｢…んーおいしー！｣
一人鍋です。傍らにランドセルを置いて。そして反対側には大きな袋。…うん。鍋の準備は完璧です。前にはコンロといくつかの具材、そして中身を煮込んでいる鍋。グツグツ。
｢やっぱり鍋といえば鶏だよね！｣
そういって自信作の鍋を食べていきます。…さて、そろそろ来ますかね？あの人と少し、話をしたかったので呼びだしたのですが…ああ、一応自分のかっこを確認。…うん。大丈夫。いい気分です。さすがフェルナお姉ちゃんだなぁと、幸せな気持ちでニコニコします。
【ヒガンバナ】
「…………ん？」
何だかんだ、あいつのせいで気分はスッキリしている。
皮肉な物だ。
そんなこんなで、私は散歩していた。
いやもうどうせ私働かなくても終わるだろこれ。
……あ、刀は持ってるよ。好きだし。
そんな時、ふわりと風にのって美味しそうな出汁の香り。
ふらふら歩いていただけなので、自然と足はそちらへと向く。
「……お前さんは……こころ、だったか。」
そこでは、小さな幼女が一人鍋。
……旨そうだな。
【あいごころ。】
｢ヒガンバナさん！｣
そう言ってにっこりと微笑みます。
｢どうです？食べます？｣
そういって鍋を進めます…どうでしょう、気に入ってくれるかな？私の自信作なんですけれども…
｢…そういえば。ヒガンバナさん。名前が出てましたけど、何かありました？｣
名前、というのは本名のこと。…一体何があったんでしょうか？少しだけ、…気になりますね。
【ヒガンバナ】
「……良いのか、頂いても？」
正直言って、かなり美味しそうなので食べてみたい。
彼女が料理が上手だとは。
「……ん、ああ、あれか？
そのまんまだ、少し名前を当てようとして、外した。
ふっ、三卓になってしまうと、流石に分かったかな？私の名前も。」
そんな感じで、冗談ぽく言ってみた。
……ああ、死ぬ気はないぞ。一応、まだな。
【あいごころ。】
｢そっかぁ…｣
そういって、少し顔を伏せました。
…ああ、嫌だなぁ。やっぱりみんな殺しあったんだなぁ。そして誰かの名前を言った。つまりそれは。
――誰かを殺そうとする意志があった。そういうこと。
…また、誰かが死んでしまうのだろうか？否、きっとそんなことは無い。こころは、“みんな”のことを信用してるから。…まあ、信用といっても一方的な押し付け。裏切られるなんてこともあるのだけれどね。…ああ、誰も死んで欲しくないなぁ。誰も意味を失って欲しくないなぁ。
『聖☆ビキニマンが死亡しました。』
『マリアが死亡しました。』
……やっぱり。信用ってのは裏切られるものだね？ビキニマンかぁ。あの時込めた思いはあってたんだね。…きっと、もうあえないだろうなぁって。
｢はは、また人が死んじゃったね。｣
ああ、悲しいなぁ。けれども。その思いは死者にむけるものじゃない。気に入っていたおもちゃに向ける思いだ。
だって。
――こころ、死んだ人なんて興味ないから。
死ぬ。つまり意味をなくすってこと。ああ、本当にもったいないと思うなぁ…あれ、もったいない？
『みかんちゃんが死亡しました。』
『唐揚げ食べたいが死亡しました。』
…ああ、まだ死ぬんだね。みんな急ぎすぎだなぁ。
｢…あは。いいよ。食べても。どんどん食べて？｣
ああ、また。もったいないなぁ…
…？もったいない？…ああ、わかった。この感情。
いつからだろうね。こころが“ズレ”ているって言うのがわかったのは。わかったからこそ仮面を被った。そして、自分がわからなくなった。…そして今、自分は素直になりつつある。
自分の欲望に正直に。その言葉に嘘はない。
…いや、嘘か。一つだけあるもんね。こころが正直にならない“欲望”が。
……まだ、だめだよ。その、欲は。
【ヒガンバナ】
「ふむ、では頂こうか。」
私は取り皿と箸をもって……え？なんで持っているのかって？
ご都合主義だ。無いと食えんだろう。
早速、具材を幾つか摘まんで皿に取ると、息を吹き掛けて一口。
「……旨いな。」
伝わりにくいかもしれないが、これだってかなり自分では表現したつもりだ。
現に、顔は自然と綻ぶ。
「……随時トントン拍子で逝ったな。」
反応が淡白なのは許してほしい。
ビキニマンは……いや、共有に名前を載せてたし。
マリアは……どうせ計画の内だろう。現にほら、既に復活してる。
蜜柑と唐揚げは……どちらも胡散臭くて、気味の悪い奴らだったから、何となく気にしなかった。
ああ言う手の奴らは、大抵直ぐに死ぬものだ。
故に、斬る標的でもあったのだが。
「……それにしても、お前さんかなり雰囲気か変わっていないか？」
【あいごころ。】
｢そうかなぁ？｣
あえて惚けよう。
あえて何もわからないでいよう。
そうやって自分を騙してきた。そして最後にのこるのは？
…やはり、この欲だ。
｢…こころはね、無意味なものに意味を持たせたいんだァ…｣
突拍子もなくそんなことを切り出す。ねぇ、やっぱりこうすべきだったよね？もっと早くこうすべきだったよね？
｢でも、それはできなかったんだァ…やっちゃダメだって、“私”が抑えてたから。｣
相手はいきなり何の話をしだしたのか、わかってないだろう。
でも、それでいい。それでいいんだ。私の欲に相手の意思なんて関係ない。
ただ、そこにあるのは…
――――愉悦。
｢けれど、もういいの。｣
そういってニヤリと。いいや、ニッコリと？まあ、もうどうでもいい。もうすぐ、全て壊れてしまうだろうから。
鍋の食べるために使っていた皿を置く。…さあ、ネタばらしをしようじゃないか。
この世で最低で、最悪のネタばらしを。
｢ねぇ聞かせて。どう？“殺した人の味は？”｣
今、こころはどんな顔をしてるのかな？悲しんでる？それとも笑ってる？…いいや、今どんな顔してるかなんて自分ではもう分かってる。
これは。…狂気だね？
狂気。つまり狂った人の顔。ずっと理解しないでいたこの欲が、ついにこころに、私に覆いかぶさって。新しい誰かを殺していく。
…誰か？いいや、これは私だ。こころじゃない。これはこころだ。私じゃない。
…それを含めて全部、あいごころ。だ。
さあ、最後のピリオドの意味を今、体現しようじゃないか。さあ、さあ、さあ！！！
狂気の渦に、ようこそ？
【ヒガンバナ】
「……む？」
やはり、と言うか……アカエルがこのクラスを選んだ理由が分かる気がした。
どいつもこいつも、狂ってやがる。
……いや、私もだが。
誰も彼もが狂っていたのを抑え込んでいたのかと思うと、あいつが言っていた事も真実なのかと思ってしまう。
……そう考えれば、案外私なんかもまともだったのか。
「……殺した人か。
ならば、これは人肉か？誰の肉だ？」
……まあ、腹に入れば皆同じ。
別に食人の趣味は無かったが、嫌悪感も然程ない。
……いや、本当に人肉だったら、寧ろ衛生面大丈夫か、これ？
【あいごころ。】
｢おぉ、結構いける口だねぇ！あ、衛生面とかは心配しなくていいよ！どうせ仮の肉体だしお腹壊したとしても問題ないでしょ？｣
なーんだ。ネタばらししてもつまんない反応しか帰ってこなかったなぁ。…ああ、頭の声は止んでる。そりゃそうだよね。その声ですらあいごころ。だったのだからさ。
｢誰の？ああ、言ってなかったね！｣
無邪気に、楽しそうにそうやって。何も考えてないように。それが正しいことだと信じるように。
この事実を見せつけよう。
座っていた椅子から立ち上がって。少し移動して傍らに置いていた大きな袋の元へ。…ああ、あまり緊迫感もないね？まあ、そっちの方がやりやすいかぁ。変にギスギスするのも楽しくないからね！
｢この人だーよ！｣
そうして中身を手で…触るのは嫌だから足で蹴り出す。…ごめんね？と頭のなかでちょっと謝っておく。…まあ、この人の要望でもあったんだけどさ。
｢見たことあるでしょ？“君が殺した”この人の事。そう、ふ○なっしーさん！｣
両手を上げて笑顔でいった。ああ、気分はいいよ？反応が淡白だったのは置いておいてさ。
｢やっぱり可哀想だと思うんだよね。無意味なものになっちゃうてさ。だから、こころが意味を付け足してあげたの。ただ死ぬだけだったらつまらないから！だから、だから、“食料”として意味を付け足したの！｣
ああ、やっぱりこころはズレているのかな？それとももう、狂人？
わかんないけれど。わかんないけれど。
…“愉しい”なぁ
【ヒガンバナ】
「……よりによってコイツか。」
何人か死んだから誰だろうと思ったら、まさかの1st。
他の人なら良いかもしれないが、直ぐに気分が悪くなり、不味く感じた。
「……こんな奴は無意味で良いんだ。全く……人を騙し、約束を破り、おちょくる奴だぞ……」
旨い、なんて言ってしまった私が馬鹿らしい。
食欲も失せて、ため息を吐く。
【あいごころ。】
｢そっかぁ…｣
そういって静かに笑う。
うん、どうやら全く動揺もしないね。…こんな人だったっけ？あの時は人を殺してあんなに落ち込んでたのになぁ…ああ、もちろんあの時こころはあなたが人を殺したことを知ってたよ。
…うーん。やっぱりこの欲は抑えきれそうにない。なら。端的にこの状況でやることはひとつ。
｢…怖いよね。これは賭けだもん。あなたが獅子座かもしれないのに、これを言わないといけないのが本当に嫌だなぁって。あなたは、獅子座なのですか？■■ ■■？｣
名前を、呼ぶことぐらいしか、こころにはできないなぁ…
もしこれがハズれてたら…あとはもう、やるしかないね。
まあ、当たったとしても、だけどね。ここはもう正直にいこう。あなたが獅子座だとしてもそうじゃないとしても、もうこころのやることは変わらないから。
とりあえず元の位置に戻って、ランドセルを掴む。
ああ、すこしだけ、体が震えてる。
【ヒガンバナ】
「…………そうか。」
まあ、殆ど分かりきっていた事だ。
殺したのだから、殺される事もあるさ。
けどまあ、案外堪える物だな、このカウントダウン。
「……良かったな、私は獅子座じゃあないぞ。
蠍座でもない。
でも随分と突然だな。あいごころ。」
……案外、冷静でいられるもんだな。
これだって、心臓は痛い位に跳ね回り、頭の中では死にたくないと叫んでいる。
「何故、私を殺す？」
【あいごころ。】
｢…最後の最後に、仕事しないとなって。｣
そういって手に出したのは。
1本の槍。
｢…こういうことだよ。｣
そういって笑った。
｢あなたがAzothであることは知ってたんだ。ですニャンが死んだ時からね。…だけど、手を出せなかった。こころは戦闘苦手だからね。｣
セレスティアの癖に、ね。
｢…だから、だよ。あなたの名前当てが失敗した時は嬉しかったなぁ…でも、もうダメみたい。きっと他のAzothは生きてるから。｣
最後の微笑み。これが、私に残された最後の仮面。
だから、こころは、私は、最後に。
｢お願い。…せめてものケジメ。…最後にあなたを、この手で殺させて？｣
…狐面に手をかけて。反対側の手には槍を持って。…ヒガンバナに突きつける。
…そして私は…狐面を、外した。
【ヒガンバナ】
「……成る程、ははは……そう言うことか。
全く気づかなんだ。……と言うか、Celestiaがそんなに狂っていて良いのか？」
随分とズレた正義の味方だ。
これなら狂人と言われた方が、まだ納得するぞ。
「……構わないぞ、私は。
煮るなり焼くなり好きにしろ。既に私達の勝ちは確定しているのだから。
貴様ら、何もしない物だから、楽だったな。」
私の死も確定している。
復活の予定も無いし、これは死ぬだけか。
「……ああ、けどまあ、最後に遺言でも残そうかな……共有に送るか？
いや、普通に伝言でもいいか……」
やっぱり、色々混乱しているらしく、中々纏まらない。
【あいごころ。】
｢…伝言ぐらいなら、聞くよ。｣
そういって寂しそうに微笑んだ。…ああ、だめだ。
こころの中の黒いものがもう既にそこまで迫ってる。
体が、震える。分かってる、これは、
―――歓喜だよね。
無意味じゃなかった生きた人間っていうものをこころは“壊す”っていう遊びを覚えてしまった。…だからもう、こころはズレているだけじゃなくなっちゃった。
｢狂人…｣
今だとすっと体に馴染んでいく。…ああ、だめだよ。まだ、殺しちゃいけない。槍を持った腕がすぐさま胸を貫かんと震えるけど、だめだ。
…ああ、このゲームは悪趣味だ。こんなにも、人を無意味に変えてしまうのだから。それを言うならこころも悪趣味だ。…ああ、もう。
…ああ、言うなら早く言ってくれ。
【ヒガンバナ】
「……うーむ、そうさなぁ……いや、案外こうなると思い付かない物だな。
ああ、先ずは…………
エムに、すまないと伝えてくれ。」
もしも生き残れたら、彼女は助けるつもりだった。
案外、お母さんの響きが良くてな。
後は……ああ、余り出てこないと言うか、出てきすぎる。
「まあ、それぐらいで構わない。
……最悪、共有にでもそのメッセージを流してくれ。
みんなすまない、とな。
……さあ、殺るならやれ。」
【あいごころ。】
｢…わかった。｣
それだけ伝えた。それだけ伝えて。…あとは、もう。
｢…ごめんね。｣
いつの間にかそんなことを呟いていた。どうして？なんで？…ああ、今気づいたよ。
こころにも、良心ってのがあったんだね。
こんなことに巻き込んでごめんなさい？
――いいや、違う。それは相手にも言えることだ。
殺してしまってごめんなさい？
――いいや、違う。それは誰かを殺した時から相手も覚悟していたことだ。
なら、なにに？
簡単だ。…私の“欲”の犠牲にしてしまったこと。
そのことに対してこころは。恐怖している。後悔している。嫌悪している…そして、なにより。ありがとう、と喜んでいる。
両手で槍を持ち。狙いを相手の左胸…心臓へ。
どれだけ待ち望んだことだろう、と誰かが歓喜した。
こんなに苦しいことはないよ、と誰かが号哭した。
これが君の望んだことだろう、と誰かが諭した。
これが人のやることか、と誰かが怒号を鳴らした。
…それが、全部。その他もろもろを合わせて、私。
そしていまその均衡は崩れようとしている。襲い狂うは歓喜、狂乱、愉悦、悦楽、享楽、快楽、優越、陶酔。
…なによりも、狂気。
しっかりと狙いを、定めた。…槍、は初めてだけれど。…貫くことは、慣れている。
…頭のなかで誰かが言った。
『ごめんね。そして、ありがとう。』
腕を、放つ。
放たれた狂気は相手の心臓を得んとその身を加速させる。
…きっと、あなたがどう思っているのか、分からないけれど。せめて最後は、笑顔で送ろう。
きっとあなたの咲かせるその鮮血は。
――――ヒガンバナに、似るだろうから。
【ヒガンバナ】
謝るな、私は悪なのだから。
言葉にはならない中、私は静かに地面に横たわる。
案外と、痛みは無かった。
心臓が貫かれたからだろうか。
紅い華が咲く。
雪の上に、枯れぬ事はない華が。
願わくは、この華が誰かの為になりますように。
【あいごころ。】
…花弁が、堕ちる。
それは地面を華麗に染め上げ、大きな、1つの花を咲かせた。それは、まるで。
その存在の無意味、ということを否定したように。
…これで、終わりだ。これで、終わり。
…ああ、なんだ。呆気ないものじゃないか。やってみれば。
…これで、こころも。狂人の、仲間入り。
槍をしまうと、その場を立ち去るべく振り返って。
……頬に涙が伝ってることに、気づかないで、歩き出した。
【あいごころ。】
｢…よし！｣
私は今、公園の中央にいます。
え？何をしてるかって？
｢…んーおいしー！｣
一人鍋です。傍らにランドセルを置いて。そして反対側には大きな袋。…うん。鍋の準備は完璧です。前にはコンロといくつかの具材、そして中身を煮込んでいる鍋。グツグツ。
｢やっぱり鍋といえば鶏だよね！｣
そういって自信作の鍋を食べていきます。…さて、そろそろ来ますかね？あの人と少し、話をしたかったので呼びだしたのですが…ああ、一応自分のかっこを確認。…うん。大丈夫。いい気分です。さすがフェルナお姉ちゃんだなぁと、幸せな気持ちでニコニコします。
【ヒガンバナ】
「…………ん？」
何だかんだ、あいつのせいで気分はスッキリしている。
皮肉な物だ。
そんなこんなで、私は散歩していた。
いやもうどうせ私働かなくても終わるだろこれ。
……あ、刀は持ってるよ。好きだし。
そんな時、ふわりと風にのって美味しそうな出汁の香り。
ふらふら歩いていただけなので、自然と足はそちらへと向く。
「……お前さんは……こころ、だったか。」
そこでは、小さな幼女が一人鍋。
……旨そうだな。
【あいごころ。】
｢ヒガンバナさん！｣
そう言ってにっこりと微笑みます。
｢どうです？食べます？｣
そういって鍋を進めます…どうでしょう、気に入ってくれるかな？私の自信作なんですけれども…
｢…そういえば。ヒガンバナさん。名前が出てましたけど、何かありました？｣
名前、というのは本名のこと。…一体何があったんでしょうか？少しだけ、…気になりますね。
【ヒガンバナ】
「……良いのか、頂いても？」
正直言って、かなり美味しそうなので食べてみたい。
彼女が料理が上手だとは。
「……ん、ああ、あれか？
そのまんまだ、少し名前を当てようとして、外した。
ふっ、三卓になってしまうと、流石に分かったかな？私の名前も。」
そんな感じで、冗談ぽく言ってみた。
……ああ、死ぬ気はないぞ。一応、まだな。
【あいごころ。】
｢そっかぁ…｣
そういって、少し顔を伏せました。
…ああ、嫌だなぁ。やっぱりみんな殺しあったんだなぁ。そして誰かの名前を言った。つまりそれは。
――誰かを殺そうとする意志があった。そういうこと。
…また、誰かが死んでしまうのだろうか？否、きっとそんなことは無い。こころは、“みんな”のことを信用してるから。…まあ、信用といっても一方的な押し付け。裏切られるなんてこともあるのだけれどね。…ああ、誰も死んで欲しくないなぁ。誰も意味を失って欲しくないなぁ。
『聖☆ビキニマンが死亡しました。』
『マリアが死亡しました。』
……やっぱり。信用ってのは裏切られるものだね？ビキニマンかぁ。あの時込めた思いはあってたんだね。…きっと、もうあえないだろうなぁって。
｢はは、また人が死んじゃったね。｣
ああ、悲しいなぁ。けれども。その思いは死者にむけるものじゃない。気に入っていたおもちゃに向ける思いだ。
だって。
――こころ、死んだ人なんて興味ないから。
死ぬ。つまり意味をなくすってこと。ああ、本当にもったいないと思うなぁ…あれ、もったいない？
『みかんちゃんが死亡しました。』
『唐揚げ食べたいが死亡しました。』
…ああ、まだ死ぬんだね。みんな急ぎすぎだなぁ。
｢…あは。いいよ。食べても。どんどん食べて？｣
ああ、また。もったいないなぁ…
…？もったいない？…ああ、わかった。この感情。
いつからだろうね。こころが“ズレ”ているって言うのがわかったのは。わかったからこそ仮面を被った。そして、自分がわからなくなった。…そして今、自分は素直になりつつある。
自分の欲望に正直に。その言葉に嘘はない。
…いや、嘘か。一つだけあるもんね。こころが正直にならない“欲望”が。
……まだ、だめだよ。その、欲は。
【ヒガンバナ】
「ふむ、では頂こうか。」
私は取り皿と箸をもって……え？なんで持っているのかって？
ご都合主義だ。無いと食えんだろう。
早速、具材を幾つか摘まんで皿に取ると、息を吹き掛けて一口。
「……旨いな。」
伝わりにくいかもしれないが、これだってかなり自分では表現したつもりだ。
現に、顔は自然と綻ぶ。
「……随時トントン拍子で逝ったな。」
反応が淡白なのは許してほしい。
ビキニマンは……いや、共有に名前を載せてたし。
マリアは……どうせ計画の内だろう。現にほら、既に復活してる。
蜜柑と唐揚げは……どちらも胡散臭くて、気味の悪い奴らだったから、何となく気にしなかった。
ああ言う手の奴らは、大抵直ぐに死ぬものだ。
故に、斬る標的でもあったのだが。
「……それにしても、お前さんかなり雰囲気か変わっていないか？」
【あいごころ。】
｢そうかなぁ？｣
あえて惚けよう。
あえて何もわからないでいよう。
そうやって自分を騙してきた。そして最後にのこるのは？
…やはり、この欲だ。
｢…こころはね、無意味なものに意味を持たせたいんだァ…｣
突拍子もなくそんなことを切り出す。ねぇ、やっぱりこうすべきだったよね？もっと早くこうすべきだったよね？
｢でも、それはできなかったんだァ…やっちゃダメだって、“私”が抑えてたから。｣
相手はいきなり何の話をしだしたのか、わかってないだろう。
でも、それでいい。それでいいんだ。私の欲に相手の意思なんて関係ない。
ただ、そこにあるのは…
――――愉悦。
｢けれど、もういいの。｣
そういってニヤリと。いいや、ニッコリと？まあ、もうどうでもいい。もうすぐ、全て壊れてしまうだろうから。
鍋の食べるために使っていた皿を置く。…さあ、ネタばらしをしようじゃないか。
この世で最低で、最悪のネタばらしを。
｢ねぇ聞かせて。どう？“殺した人の味は？”｣
今、こころはどんな顔をしてるのかな？悲しんでる？それとも笑ってる？…いいや、今どんな顔してるかなんて自分ではもう分かってる。
これは。…狂気だね？
狂気。つまり狂った人の顔。ずっと理解しないでいたこの欲が、ついにこころに、私に覆いかぶさって。新しい誰かを殺していく。
…誰か？いいや、これは私だ。こころじゃない。これはこころだ。私じゃない。
…それを含めて全部、あいごころ。だ。
さあ、最後のピリオドの意味を今、体現しようじゃないか。さあ、さあ、さあ！！！
狂気の渦に、ようこそ？
【ヒガンバナ】
「……む？」
やはり、と言うか……アカエルがこのクラスを選んだ理由が分かる気がした。
どいつもこいつも、狂ってやがる。
……いや、私もだが。
誰も彼もが狂っていたのを抑え込んでいたのかと思うと、あいつが言っていた事も真実なのかと思ってしまう。
……そう考えれば、案外私なんかもまともだったのか。
「……殺した人か。
ならば、これは人肉か？誰の肉だ？」
……まあ、腹に入れば皆同じ。
別に食人の趣味は無かったが、嫌悪感も然程ない。
……いや、本当に人肉だったら、寧ろ衛生面大丈夫か、これ？
【あいごころ。】
｢おぉ、結構いける口だねぇ！あ、衛生面とかは心配しなくていいよ！どうせ仮の肉体だしお腹壊したとしても問題ないでしょ？｣
なーんだ。ネタばらししてもつまんない反応しか帰ってこなかったなぁ。…ああ、頭の声は止んでる。そりゃそうだよね。その声ですらあいごころ。だったのだからさ。
｢誰の？ああ、言ってなかったね！｣
無邪気に、楽しそうにそうやって。何も考えてないように。それが正しいことだと信じるように。
この事実を見せつけよう。
座っていた椅子から立ち上がって。少し移動して傍らに置いていた大きな袋の元へ。…ああ、あまり緊迫感もないね？まあ、そっちの方がやりやすいかぁ。変にギスギスするのも楽しくないからね！
｢この人だーよ！｣
そうして中身を手で…触るのは嫌だから足で蹴り出す。…ごめんね？と頭のなかでちょっと謝っておく。…まあ、この人の要望でもあったんだけどさ。
｢見たことあるでしょ？“君が殺した”この人の事。そう、ふ○なっしーさん！｣
両手を上げて笑顔でいった。ああ、気分はいいよ？反応が淡白だったのは置いておいてさ。
｢やっぱり可哀想だと思うんだよね。無意味なものになっちゃうてさ。だから、こころが意味を付け足してあげたの。ただ死ぬだけだったらつまらないから！だから、だから、“食料”として意味を付け足したの！｣
ああ、やっぱりこころはズレているのかな？それとももう、狂人？
わかんないけれど。わかんないけれど。
…“愉しい”なぁ
【ヒガンバナ】
「……よりによってコイツか。」
何人か死んだから誰だろうと思ったら、まさかの1st。
他の人なら良いかもしれないが、直ぐに気分が悪くなり、不味く感じた。
「……こんな奴は無意味で良いんだ。全く……人を騙し、約束を破り、おちょくる奴だぞ……」
旨い、なんて言ってしまった私が馬鹿らしい。
食欲も失せて、ため息を吐く。
【あいごころ。】
｢そっかぁ…｣
そういって静かに笑う。
うん、どうやら全く動揺もしないね。…こんな人だったっけ？あの時は人を殺してあんなに落ち込んでたのになぁ…ああ、もちろんあの時こころはあなたが人を殺したことを知ってたよ。
…うーん。やっぱりこの欲は抑えきれそうにない。なら。端的にこの状況でやることはひとつ。
｢…怖いよね。これは賭けだもん。あなたが獅子座かもしれないのに、これを言わないといけないのが本当に嫌だなぁって。あなたは、獅子座なのですか？■■ ■■？｣
名前を、呼ぶことぐらいしか、こころにはできないなぁ…
もしこれがハズれてたら…あとはもう、やるしかないね。
まあ、当たったとしても、だけどね。ここはもう正直にいこう。あなたが獅子座だとしてもそうじゃないとしても、もうこころのやることは変わらないから。
とりあえず元の位置に戻って、ランドセルを掴む。
ああ、すこしだけ、体が震えてる。
【ヒガンバナ】
「…………そうか。」
まあ、殆ど分かりきっていた事だ。
殺したのだから、殺される事もあるさ。
けどまあ、案外堪える物だな、このカウントダウン。
「……良かったな、私は獅子座じゃあないぞ。
蠍座でもない。
でも随分と突然だな。あいごころ。」
……案外、冷静でいられるもんだな。
これだって、心臓は痛い位に跳ね回り、頭の中では死にたくないと叫んでいる。
「何故、私を殺す？」
【あいごころ。】
｢…最後の最後に、仕事しないとなって。｣
そういって手に出したのは。
1本の槍。
｢…こういうことだよ。｣
そういって笑った。
｢あなたがAzothであることは知ってたんだ。ですニャンが死んだ時からね。…だけど、手を出せなかった。こころは戦闘苦手だからね。｣
セレスティアの癖に、ね。
｢…だから、だよ。あなたの名前当てが失敗した時は嬉しかったなぁ…でも、もうダメみたい。きっと他のAzothは生きてるから。｣
最後の微笑み。これが、私に残された最後の仮面。
だから、こころは、私は、最後に。
｢お願い。…せめてものケジメ。…最後にあなたを、この手で殺させて？｣
…狐面に手をかけて。反対側の手には槍を持って。…ヒガンバナに突きつける。
…そして私は…狐面を、外した。
【ヒガンバナ】
「……成る程、ははは……そう言うことか。
全く気づかなんだ。……と言うか、Celestiaがそんなに狂っていて良いのか？」
随分とズレた正義の味方だ。
これなら狂人と言われた方が、まだ納得するぞ。
「……構わないぞ、私は。
煮るなり焼くなり好きにしろ。既に私達の勝ちは確定しているのだから。
貴様ら、何もしない物だから、楽だったな。」
私の死も確定している。
復活の予定も無いし、これは死ぬだけか。
「……ああ、けどまあ、最後に遺言でも残そうかな……共有に送るか？
いや、普通に伝言でもいいか……」
やっぱり、色々混乱しているらしく、中々纏まらない。
【あいごころ。】
｢…伝言ぐらいなら、聞くよ。｣
そういって寂しそうに微笑んだ。…ああ、だめだ。
こころの中の黒いものがもう既にそこまで迫ってる。
体が、震える。分かってる、これは、
―――歓喜だよね。
無意味じゃなかった生きた人間っていうものをこころは“壊す”っていう遊びを覚えてしまった。…だからもう、こころはズレているだけじゃなくなっちゃった。
｢狂人…｣
今だとすっと体に馴染んでいく。…ああ、だめだよ。まだ、殺しちゃいけない。槍を持った腕がすぐさま胸を貫かんと震えるけど、だめだ。
…ああ、このゲームは悪趣味だ。こんなにも、人を無意味に変えてしまうのだから。それを言うならこころも悪趣味だ。…ああ、もう。
…ああ、言うなら早く言ってくれ。
【ヒガンバナ】
「……うーむ、そうさなぁ……いや、案外こうなると思い付かない物だな。
ああ、先ずは…………
エムに、すまないと伝えてくれ。」
もしも生き残れたら、彼女は助けるつもりだった。
案外、お母さんの響きが良くてな。
後は……ああ、余り出てこないと言うか、出てきすぎる。
「まあ、それぐらいで構わない。
……最悪、共有にでもそのメッセージを流してくれ。
みんなすまない、とな。
……さあ、殺るならやれ。」
【あいごころ。】
｢…わかった。｣
それだけ伝えた。それだけ伝えて。…あとは、もう。
｢…ごめんね。｣
いつの間にかそんなことを呟いていた。どうして？なんで？…ああ、今気づいたよ。
こころにも、良心ってのがあったんだね。
こんなことに巻き込んでごめんなさい？
――いいや、違う。それは相手にも言えることだ。
殺してしまってごめんなさい？
――いいや、違う。それは誰かを殺した時から相手も覚悟していたことだ。
なら、なにに？
簡単だ。…私の“欲”の犠牲にしてしまったこと。
そのことに対してこころは。恐怖している。後悔している。嫌悪している…そして、なにより。ありがとう、と喜んでいる。
両手で槍を持ち。狙いを相手の左胸…心臓へ。
どれだけ待ち望んだことだろう、と誰かが歓喜した。
こんなに苦しいことはないよ、と誰かが号哭した。
これが君の望んだことだろう、と誰かが諭した。
これが人のやることか、と誰かが怒号を鳴らした。
…それが、全部。その他もろもろを合わせて、私。
そしていまその均衡は崩れようとしている。襲い狂うは歓喜、狂乱、愉悦、悦楽、享楽、快楽、優越、陶酔。
…なによりも、狂気。
しっかりと狙いを、定めた。…槍、は初めてだけれど。…貫くことは、慣れている。
…頭のなかで誰かが言った。
『ごめんね。そして、ありがとう。』
腕を、放つ。
放たれた狂気は相手の心臓を得んとその身を加速させる。
…きっと、あなたがどう思っているのか、分からないけれど。せめて最後は、笑顔で送ろう。
きっとあなたの咲かせるその鮮血は。
――――ヒガンバナに、似るだろうから。
【ヒガンバナ】
謝るな、私は悪なのだから。
言葉にはならない中、私は静かに地面に横たわる。
案外と、痛みは無かった。
心臓が貫かれたからだろうか。
紅い華が咲く。
雪の上に、枯れぬ事はない華が。
願わくは、この華が誰かの為になりますように。
【あいごころ。】
…花弁が、堕ちる。
それは地面を華麗に染め上げ、大きな、1つの花を咲かせた。それは、まるで。
その存在の無意味、ということを否定したように。
…これで、終わりだ。これで、終わり。
…ああ、なんだ。呆気ないものじゃないか。やってみれば。
…これで、こころも。狂人の、仲間入り。
槍をしまうと、その場を立ち去るべく振り返って。
……頬に涙が伝ってることに、気づかないで、歩き出した。
後悔無きように 1st-20th
ふ〇なっしー(1st/DEAD)-あいごころ。(20th)
【あいごころ。】
｢……｣
…これで、終わりかな。どうやらあと1人で全てが終わる。
…殺せたAzothは1人。それ以外は…だめ。
｢…あーあ。なにも、出来なかったなぁ。｣
別に死者を弔いたい訳じゃない。ただ、悪趣味なこのゲームを、止めたかっただけ。
内に広がったのは。敗北感のみだった。
｢ははっ…｣
湯船に入りながら。そんな笑い声が、反響した。
【ふ〇なっしー】
「やぁやぁ！はじめまして！君の名前はなんて言うのかな？私の名前はフリッツさんだ！気軽にフリッツって言ってくれ！！」
お湯の中から現れる幽霊、ふ○なっしー
たしか初めてあった時はこんな感じだったか？
「ゲームをしようか！！そうだなぁ……僕今トランプ持ってないからさ、君が何かやってよ」
ニコニコ笑う、前まではこちらが仕掛ける側だったが今度はこちらが参加者側だ
「さぁ、なんのゲームする？」
【ふ〇なっしー】
｢あ…｣
…この人が、今回の協力者であり、こころにとっての呪縛だった。
…でも。もう。それも終わり。
｢…そうだね。なら。｣
なんとなしに、持ち込んだトランプを適当に広げて。
｢…この中からJOKERを見つけて。｣
そういっていつの日かのごとく。上に放り投げた。…カードが、舞う。
それが、先のことを思い出させて。
また、誰かが叫んだ気がした。
【ふ〇なっしー】
「へぇ……そんなの1発でわかるよ」
「君がジョーカーだ」
間を置いて答える、このジョーカーゲームに答えは無い、カードが全部ジョーカーだったり服の中に仕込まれたり主催者がジョーカーだったりするが
答えは相手次第、だからジョーカーが無いと断言すればそれが正解、ジョーカーは何者でもなり得るからね
「……これでいいかい？」
自分の作ったゲームだ、答えなんて初めっから分かっている。
目の前の協力者……まぁ、結構楽しかったね。上手くやっていたしこちらとしては目的は達成されている。だからもうあいごころとはなんの関係の無いただの幽霊だ
「…………………さぁ、僕の目的は達成されている、何より死んだ時に達成されているのだけど……………まぁ、君がセレスティアなのは少し驚いたが………後は……どうなるんだろ……まぁ上手くやりな」
【あいごころ。】
｢…そうだね。｣
こころがJOKER、か。それが本当なら、あとはやり残したことをやるだけ。
…やり残したこと？…こころが、やり残したこと。
………ああ、一つだけ。
｢海月に返事、言いたかったなぁ。｣
あのゼリーに何も言えなかった。その事だけがココロノコリ。
あいごころ。その意味を定義してくれたのはいつだって、あなただったからね。だから、虚空に呟こうではないか。
｢……大好きだよ、海月。｣
…反響した音は、誰に届くわけでもなく。ただ、ただ、何処かへと消えていった。
【あいごころ。】
｢……｣
…これで、終わりかな。どうやらあと1人で全てが終わる。
…殺せたAzothは1人。それ以外は…だめ。
｢…あーあ。なにも、出来なかったなぁ。｣
別に死者を弔いたい訳じゃない。ただ、悪趣味なこのゲームを、止めたかっただけ。
内に広がったのは。敗北感のみだった。
｢ははっ…｣
湯船に入りながら。そんな笑い声が、反響した。
【ふ〇なっしー】
「やぁやぁ！はじめまして！君の名前はなんて言うのかな？私の名前はフリッツさんだ！気軽にフリッツって言ってくれ！！」
お湯の中から現れる幽霊、ふ○なっしー
たしか初めてあった時はこんな感じだったか？
「ゲームをしようか！！そうだなぁ……僕今トランプ持ってないからさ、君が何かやってよ」
ニコニコ笑う、前まではこちらが仕掛ける側だったが今度はこちらが参加者側だ
「さぁ、なんのゲームする？」
【ふ〇なっしー】
｢あ…｣
…この人が、今回の協力者であり、こころにとっての呪縛だった。
…でも。もう。それも終わり。
｢…そうだね。なら。｣
なんとなしに、持ち込んだトランプを適当に広げて。
｢…この中からJOKERを見つけて。｣
そういっていつの日かのごとく。上に放り投げた。…カードが、舞う。
それが、先のことを思い出させて。
また、誰かが叫んだ気がした。
【ふ〇なっしー】
「へぇ……そんなの1発でわかるよ」
「君がジョーカーだ」
間を置いて答える、このジョーカーゲームに答えは無い、カードが全部ジョーカーだったり服の中に仕込まれたり主催者がジョーカーだったりするが
答えは相手次第、だからジョーカーが無いと断言すればそれが正解、ジョーカーは何者でもなり得るからね
「……これでいいかい？」
自分の作ったゲームだ、答えなんて初めっから分かっている。
目の前の協力者……まぁ、結構楽しかったね。上手くやっていたしこちらとしては目的は達成されている。だからもうあいごころとはなんの関係の無いただの幽霊だ
「…………………さぁ、僕の目的は達成されている、何より死んだ時に達成されているのだけど……………まぁ、君がセレスティアなのは少し驚いたが………後は……どうなるんだろ……まぁ上手くやりな」
【あいごころ。】
｢…そうだね。｣
こころがJOKER、か。それが本当なら、あとはやり残したことをやるだけ。
…やり残したこと？…こころが、やり残したこと。
………ああ、一つだけ。
｢海月に返事、言いたかったなぁ。｣
あのゼリーに何も言えなかった。その事だけがココロノコリ。
あいごころ。その意味を定義してくれたのはいつだって、あなただったからね。だから、虚空に呟こうではないか。
｢……大好きだよ、海月。｣
…反響した音は、誰に届くわけでもなく。ただ、ただ、何処かへと消えていった。
嘘かもしれないぜ。 8th-9th
酢豚に極稀に入ってるパイナポー(8th)-マリア(9th)
【酢豚パイナポー】
パイナポーは、教会へ。
そういえば…ここは一度も行ったことが無かったな、なんて考えるのはどうでもいい事。
だって、パイナポー…そう、三郎丸には前回しか意味は無いのだから。
意味も、意義も。全てはあの日に止まった。
壊れたレコードは、音を鳴らさない。キュルキュルとただ回るだけ。
あのセピア色の日常を…永遠と。
「…うーさぎおーいしー
かーのーやーまー…。」
追われたウサギは何処へ。
「こーぶなつーりし
かーのがわー…。」
アイツは魚のように掴み所は無かったな。
「ゆーめーは、
いーまーも…
めぇぐぅーりぃーてー…」
最早、壊れた夢は。
「……わーすれがーたき。
ふーるーさーとー。」
ははっ、阿呆らしい。童謡に適当に意味を付け加えて。全く暇そうにしか見えないのは考えものだな…なんて。
実際、暇だけど…ね。
【マリア】
『さて……最後の最後だし。』
私が最後の最後までアゾートの味方で、親アゾート路線とでも言うべき攻略法を続けるなどと思っていたのであろう諸君。
君達は総じて騙された。
まあ、嘘かもしれないがな。を連発した私の場合、厳密に言うと嘘ではないのかもしれないが。
『貴方に会えて良かった。
大体、察しはついてるでしょ？』
なぞなぞを出すかもよ？
と言ってから出すなぞなぞはなぞなぞとはいわないのである。
閑話休題。
私は始まる前。
最後の最後の話における、最初の最初の事だったか。
青葉陽光という私の依頼主から、このゲームをクリアせよと言われきたわけなのだが。
その折、興味深い話を聞いた。
枠が、二つだからどうこう。
だから生きて帰れうんぬん。
イマイチ訳の分からないセリフだったが、奴は知っていたらしい。
諸々を。
そこから。考えた。
奴らもまたレジスタンスながら。
セレスティアを勝たせろと言わなかった理由を。
私が生きて帰れるかのように言っていた理由を。
よって、博打に出たのだ。
こんな、アゾートに勝たせる、なんていう。
『……さて、ウサギを捕まえに行くわよ。良いかしら。
貴方に、このクラスに助けたい友人がどうしても居たりしなければ、なんだけど。
多分貴方も…過去ばかり見てる人間だろうから白々しい？』
【酢豚パイナポー】
「…初めは耳を疑ったよ。
セレスティアの上司が俺を無理矢理な方法で生き返らせたのもそうなんだが、まさか君が出張ってくるなんてね。」
パイナポーはコートをはためかせる。
非常用、なんて考えてずっと持っていた薬品瓶同士がからんからんと軽く触れ、音を立てる。
結構大きな音だったのに、みんな気づかないもんだね…なんて。
「まぁ、上司さんから命じられたしな。”元赤城結菜のサポートをしろ“って。前回のレポートを見てたし、君の行動理念は察しはついてるよ。」
AzothとMadman含めて全員を助ける？
…ごめんね、それ嘘だよ。
善人と悪人を区別する？
…ごめんね、それも嘘だよ。
このゲームは暇つぶし？
…ごめんね、ちょっとホントだよ。
じゃあ、俺も君の言葉を借りて。
”君達は俺に騙された“。
…なんて嘯いたりしちゃってもいいかな？
猫被り、嘘つき。
嫌われても仕方ないね。
まぁ、酢豚の中に入ってるパイナポーなんて、みんなから嫌われるようなもの。
ちょっとコクを足すだけ足して、はいさよならな可哀想な具材。
そんなもんだろ、俺は。
「オーケー。きりたんぽ星人こととっぽぎ三郎丸、同盟のニノマエ君に全面的に君に協力するよ。
…まぁ、ブレーンとしての才は俺にはない事は前回痛感したからな…。采配と作戦は任せるぜ。好きに動かしてくれ。」
このゲームも彼女がいると聞いて来ただけ。
ならば…彼女に従うのが道理だろう？
これじゃ同盟じゃなくて、従属みたいだけどな。
【マリア】
『厳密には、確証がないんだけれど……ともかく、私を生きて返して。アカエルにバレたくないし。詳細は行動で示すわ。』
確か、枠は二人。という言葉を聞いていた。セレスティアを歴任したのは彼だ。なら、セレスティアにその鍵があることになる。
よって、あと一人。
悪いが。
助手か友人なら私は助手を取る。
アダム、奴は、私の助手である。
悪びれるつもりは無い。
当然だとふんぞり返ってやる。
とまではいかないのが、私の悪い所である。くそう。
少し目頭が熱くなった。
実に悔しい。私は悪役だぜ？
だが……だが……
それで、良いのか？
私は、選択を一旦後回しにしておく。
『…で。時に。貴方のゾディアックは、双子座だったりする？』
【酢豚パイナポー】
くすくすくすくす…
…おっと違った。
この作り笑いじゃダメだった。
…からからからから。
小気味良く笑う、パイナポー。
そろそろカマトトぶるのも疲れちゃった。
どうせ彼女は自分の友。猫被ってにゃんにゃんする必要性なんてないだろうて。
一時は彼女を逆恨みもしたけれど…
…別段もう、どうでもいい。友達だし。
ほら…喧嘩するほど仲がいい、って言うだろう？
「オッケー了解。その使命はきっちりかっちり果たそうか。前回の償いの意思も込めてな。」
「ゾディアックの件もexactly。
俺は嘘がつけない性分だからな。共有チャットに書いた事は本当だ。きりたんぽ星人の悪いサガだな。」
パイナポーはコートに手を突っ込んで。仕込んでいた数個ある薬品瓶、全てをポイ捨て道理に反し、見もせずに後ろへ投げる。
クロロホルムにシアン化合物、ベンゼンクロロベンゼン睡眠薬。どれもどれも危険な薬品。
パリンと割れて、中身が漏れ出す。
もう…必要性はない。
【マリア】
『ヒガンバナっていう奴がいたでしょう。あいつに使って。
食事奢ってもらえるはずだったのを、わざわざ回収しきれないのは癪に障るし。』
無論、あの世話の焼ける女に使ってやろうとも。
『最後に、一つ相談。
あなたは……その。
大事な度合いが同じだとして、仮にそうだとして。
最近出来た友達と昔からの仲間、どちらを救う？』
【酢豚パイナポー】
「ヒガンバナか。アイツはゲーム前に俺のこのゲームでの設定付けも兼ねて接触した事がある。
…君の好みそうなやつだったな。いいぞ、俺はアイツを生き返らせよう。」
パイナポーは顎に手を当てて、ふむと一つ言葉を漏らしたのちに答える。
まあまあ大丈夫、双子座は私に使ってくれと個人チャットで言われたが。あのクソお化けを思い出すような野郎に言われたが。
旧来の友人と全くの他人との間にどんな秤を持ち出せば良いのやら。どうでもいいけど。
「新しい友人だな。過去に縋る必要性はない。」
即答。
「…ニノマエ、いや…“マリア”か。君は前回、俺と同盟を組んだのだが…そろそろ無効にした方がいいんじゃないかな？
どうせ俺は只の死体だ。気にかける必要性はない。…いくら旧友だとしてもな。」
帽子を深く被り。”あの人“の様に。
パイナポーは嘘を、ついた。
【マリア】
『貴方の事じゃないわよ。』
お前なら見捨てている。
いや、見捨てはしないか。
取り敢えず、最低限の努力をして終わらせるだろう。
最大限の努力は、多分しない。
誓っても良いぜ。
私が言うのもなんだけれど。
そして、決意の時。
『ま、不服だけど……私は、裏切らせてもらうわ。
今度こそ、私は――――――』
涙を一筋流し、私はこう言った。
『まにょ、を助け出して。』
共有チャットに、せめてもの償いを記入しながら。
ごめん、ごめんと、泣き崩れ。
【酢豚パイナポー】
「おやおや、これは手厳しい事で。」
パイナポーは顔に苦笑を浮かばせて。やれやれ、同盟は裏切られるまでがワンセットか。
ま、関係ないし。それで恨みもしないんだけど。
とりあえず、俺の現在の生存理由。
“9thへの最大限のサポート”
これが継続不可能にならない限り。
俺は彼女を手助けするんだ。
それが現在の生存理由。
死に損ないの小さな願い。
…何故かって？
友達だからだろう？
助けるに決まってるじゃないか。
「…了解。まにょを俺は生存させるべくベストを尽くそう。それが、俺の友の願いならな。叶える事こそ……
本当の友だろう？」
くっさい台詞。自分でも吐き気がしそう。
でも…それでも。
きりたんぽ星人はこうでなくっちゃね。
【マリア】
『あ と 私 も ね。』
無論嘘泣きである。
バカにするな。
侮るな。
あれは私の助手だ。
それが、私の為に命をかけると言ってここまで来たのだ。
ならば。
見捨てる腹など決まっているし。
こういう時、見捨てない方が、奴に対しての愚弄だ。
なら何故泣いたか？
そりゃあもう。
『良い？嘘つきは。嘘つきだからこそ、辛い時とか…悲しい時とか。そういう時に、自分の気持ちを、思い出を、嘘にしなくちゃならないんだぜ。』
嘘にするためだ。
私なんかの悲しみも、怒りも。
全て。
総て。
統べて。
何もかも、嘘にするための踏ん切りだ。自分で自分の気持ちを、嘘にするという。
『だから……それに付け足すのに、いい言葉を教えたげる。』
そして。
これを言うためだ。くさいセリフでも引き出して。
『―――なんて。』
相手がこれに連なる言葉を吐くまでの、間を置き。
【酢豚パイナポー】
「……ハァー……。
俺にゃ、やっぱお前みたいな嘘つきになるための才能ってのは無いな。嘘つくよりその罪悪感が勝っちゃうぜ。」
大きく溜息。
全く…なんて面倒くさい女だ。
嘘つき、詐欺師、信用ならない相手。
本当に…、………だ。
最悪だな。これもそれも。
パイナポーは帽子をさらに深く被り。
彼女の待つであろう言葉を。
「じゃ、ご教授願おうかな。9th。
その言葉はなんだい？」
【マリア】
『なら、尚更ね。
私も。
あなたも。
嘘をつくのがどうしてもダメな人間は。
他人がなんだかんだ、大事になっちまう人間は。』
一呼吸置き。
『――――嘘かもしれないぜ。
とか言って、へらへら笑うのが必勝法なのよ。』
適当に私はそう答えた。
実に当たり障りない台詞だ。
一縷の本音すらない。
やれやれ、私は冷血動物だ。
大事な人？バカバカしい。
そんな奴らはあれだ。ウサギ小屋にでもしまってしまえ。
私には、そんなもの必要ない。
誰に抱いた感情すら、嘘だ。
嘘だ。
嘘だ。
全て嘘だ。
――――なんて。
嘘かもしれないがな―――――
【酢豚パイナポー】
パイナポーは、教会へ。
そういえば…ここは一度も行ったことが無かったな、なんて考えるのはどうでもいい事。
だって、パイナポー…そう、三郎丸には前回しか意味は無いのだから。
意味も、意義も。全てはあの日に止まった。
壊れたレコードは、音を鳴らさない。キュルキュルとただ回るだけ。
あのセピア色の日常を…永遠と。
「…うーさぎおーいしー
かーのーやーまー…。」
追われたウサギは何処へ。
「こーぶなつーりし
かーのがわー…。」
アイツは魚のように掴み所は無かったな。
「ゆーめーは、
いーまーも…
めぇぐぅーりぃーてー…」
最早、壊れた夢は。
「……わーすれがーたき。
ふーるーさーとー。」
ははっ、阿呆らしい。童謡に適当に意味を付け加えて。全く暇そうにしか見えないのは考えものだな…なんて。
実際、暇だけど…ね。
【マリア】
『さて……最後の最後だし。』
私が最後の最後までアゾートの味方で、親アゾート路線とでも言うべき攻略法を続けるなどと思っていたのであろう諸君。
君達は総じて騙された。
まあ、嘘かもしれないがな。を連発した私の場合、厳密に言うと嘘ではないのかもしれないが。
『貴方に会えて良かった。
大体、察しはついてるでしょ？』
なぞなぞを出すかもよ？
と言ってから出すなぞなぞはなぞなぞとはいわないのである。
閑話休題。
私は始まる前。
最後の最後の話における、最初の最初の事だったか。
青葉陽光という私の依頼主から、このゲームをクリアせよと言われきたわけなのだが。
その折、興味深い話を聞いた。
枠が、二つだからどうこう。
だから生きて帰れうんぬん。
イマイチ訳の分からないセリフだったが、奴は知っていたらしい。
諸々を。
そこから。考えた。
奴らもまたレジスタンスながら。
セレスティアを勝たせろと言わなかった理由を。
私が生きて帰れるかのように言っていた理由を。
よって、博打に出たのだ。
こんな、アゾートに勝たせる、なんていう。
『……さて、ウサギを捕まえに行くわよ。良いかしら。
貴方に、このクラスに助けたい友人がどうしても居たりしなければ、なんだけど。
多分貴方も…過去ばかり見てる人間だろうから白々しい？』
【酢豚パイナポー】
「…初めは耳を疑ったよ。
セレスティアの上司が俺を無理矢理な方法で生き返らせたのもそうなんだが、まさか君が出張ってくるなんてね。」
パイナポーはコートをはためかせる。
非常用、なんて考えてずっと持っていた薬品瓶同士がからんからんと軽く触れ、音を立てる。
結構大きな音だったのに、みんな気づかないもんだね…なんて。
「まぁ、上司さんから命じられたしな。”元赤城結菜のサポートをしろ“って。前回のレポートを見てたし、君の行動理念は察しはついてるよ。」
AzothとMadman含めて全員を助ける？
…ごめんね、それ嘘だよ。
善人と悪人を区別する？
…ごめんね、それも嘘だよ。
このゲームは暇つぶし？
…ごめんね、ちょっとホントだよ。
じゃあ、俺も君の言葉を借りて。
”君達は俺に騙された“。
…なんて嘯いたりしちゃってもいいかな？
猫被り、嘘つき。
嫌われても仕方ないね。
まぁ、酢豚の中に入ってるパイナポーなんて、みんなから嫌われるようなもの。
ちょっとコクを足すだけ足して、はいさよならな可哀想な具材。
そんなもんだろ、俺は。
「オーケー。きりたんぽ星人こととっぽぎ三郎丸、同盟のニノマエ君に全面的に君に協力するよ。
…まぁ、ブレーンとしての才は俺にはない事は前回痛感したからな…。采配と作戦は任せるぜ。好きに動かしてくれ。」
このゲームも彼女がいると聞いて来ただけ。
ならば…彼女に従うのが道理だろう？
これじゃ同盟じゃなくて、従属みたいだけどな。
【マリア】
『厳密には、確証がないんだけれど……ともかく、私を生きて返して。アカエルにバレたくないし。詳細は行動で示すわ。』
確か、枠は二人。という言葉を聞いていた。セレスティアを歴任したのは彼だ。なら、セレスティアにその鍵があることになる。
よって、あと一人。
悪いが。
助手か友人なら私は助手を取る。
アダム、奴は、私の助手である。
悪びれるつもりは無い。
当然だとふんぞり返ってやる。
とまではいかないのが、私の悪い所である。くそう。
少し目頭が熱くなった。
実に悔しい。私は悪役だぜ？
だが……だが……
それで、良いのか？
私は、選択を一旦後回しにしておく。
『…で。時に。貴方のゾディアックは、双子座だったりする？』
【酢豚パイナポー】
くすくすくすくす…
…おっと違った。
この作り笑いじゃダメだった。
…からからからから。
小気味良く笑う、パイナポー。
そろそろカマトトぶるのも疲れちゃった。
どうせ彼女は自分の友。猫被ってにゃんにゃんする必要性なんてないだろうて。
一時は彼女を逆恨みもしたけれど…
…別段もう、どうでもいい。友達だし。
ほら…喧嘩するほど仲がいい、って言うだろう？
「オッケー了解。その使命はきっちりかっちり果たそうか。前回の償いの意思も込めてな。」
「ゾディアックの件もexactly。
俺は嘘がつけない性分だからな。共有チャットに書いた事は本当だ。きりたんぽ星人の悪いサガだな。」
パイナポーはコートに手を突っ込んで。仕込んでいた数個ある薬品瓶、全てをポイ捨て道理に反し、見もせずに後ろへ投げる。
クロロホルムにシアン化合物、ベンゼンクロロベンゼン睡眠薬。どれもどれも危険な薬品。
パリンと割れて、中身が漏れ出す。
もう…必要性はない。
【マリア】
『ヒガンバナっていう奴がいたでしょう。あいつに使って。
食事奢ってもらえるはずだったのを、わざわざ回収しきれないのは癪に障るし。』
無論、あの世話の焼ける女に使ってやろうとも。
『最後に、一つ相談。
あなたは……その。
大事な度合いが同じだとして、仮にそうだとして。
最近出来た友達と昔からの仲間、どちらを救う？』
【酢豚パイナポー】
「ヒガンバナか。アイツはゲーム前に俺のこのゲームでの設定付けも兼ねて接触した事がある。
…君の好みそうなやつだったな。いいぞ、俺はアイツを生き返らせよう。」
パイナポーは顎に手を当てて、ふむと一つ言葉を漏らしたのちに答える。
まあまあ大丈夫、双子座は私に使ってくれと個人チャットで言われたが。あのクソお化けを思い出すような野郎に言われたが。
旧来の友人と全くの他人との間にどんな秤を持ち出せば良いのやら。どうでもいいけど。
「新しい友人だな。過去に縋る必要性はない。」
即答。
「…ニノマエ、いや…“マリア”か。君は前回、俺と同盟を組んだのだが…そろそろ無効にした方がいいんじゃないかな？
どうせ俺は只の死体だ。気にかける必要性はない。…いくら旧友だとしてもな。」
帽子を深く被り。”あの人“の様に。
パイナポーは嘘を、ついた。
【マリア】
『貴方の事じゃないわよ。』
お前なら見捨てている。
いや、見捨てはしないか。
取り敢えず、最低限の努力をして終わらせるだろう。
最大限の努力は、多分しない。
誓っても良いぜ。
私が言うのもなんだけれど。
そして、決意の時。
『ま、不服だけど……私は、裏切らせてもらうわ。
今度こそ、私は――――――』
涙を一筋流し、私はこう言った。
『まにょ、を助け出して。』
共有チャットに、せめてもの償いを記入しながら。
ごめん、ごめんと、泣き崩れ。
【酢豚パイナポー】
「おやおや、これは手厳しい事で。」
パイナポーは顔に苦笑を浮かばせて。やれやれ、同盟は裏切られるまでがワンセットか。
ま、関係ないし。それで恨みもしないんだけど。
とりあえず、俺の現在の生存理由。
“9thへの最大限のサポート”
これが継続不可能にならない限り。
俺は彼女を手助けするんだ。
それが現在の生存理由。
死に損ないの小さな願い。
…何故かって？
友達だからだろう？
助けるに決まってるじゃないか。
「…了解。まにょを俺は生存させるべくベストを尽くそう。それが、俺の友の願いならな。叶える事こそ……
本当の友だろう？」
くっさい台詞。自分でも吐き気がしそう。
でも…それでも。
きりたんぽ星人はこうでなくっちゃね。
【マリア】
『あ と 私 も ね。』
無論嘘泣きである。
バカにするな。
侮るな。
あれは私の助手だ。
それが、私の為に命をかけると言ってここまで来たのだ。
ならば。
見捨てる腹など決まっているし。
こういう時、見捨てない方が、奴に対しての愚弄だ。
なら何故泣いたか？
そりゃあもう。
『良い？嘘つきは。嘘つきだからこそ、辛い時とか…悲しい時とか。そういう時に、自分の気持ちを、思い出を、嘘にしなくちゃならないんだぜ。』
嘘にするためだ。
私なんかの悲しみも、怒りも。
全て。
総て。
統べて。
何もかも、嘘にするための踏ん切りだ。自分で自分の気持ちを、嘘にするという。
『だから……それに付け足すのに、いい言葉を教えたげる。』
そして。
これを言うためだ。くさいセリフでも引き出して。
『―――なんて。』
相手がこれに連なる言葉を吐くまでの、間を置き。
【酢豚パイナポー】
「……ハァー……。
俺にゃ、やっぱお前みたいな嘘つきになるための才能ってのは無いな。嘘つくよりその罪悪感が勝っちゃうぜ。」
大きく溜息。
全く…なんて面倒くさい女だ。
嘘つき、詐欺師、信用ならない相手。
本当に…、………だ。
最悪だな。これもそれも。
パイナポーは帽子をさらに深く被り。
彼女の待つであろう言葉を。
「じゃ、ご教授願おうかな。9th。
その言葉はなんだい？」
【マリア】
『なら、尚更ね。
私も。
あなたも。
嘘をつくのがどうしてもダメな人間は。
他人がなんだかんだ、大事になっちまう人間は。』
一呼吸置き。
『――――嘘かもしれないぜ。
とか言って、へらへら笑うのが必勝法なのよ。』
適当に私はそう答えた。
実に当たり障りない台詞だ。
一縷の本音すらない。
やれやれ、私は冷血動物だ。
大事な人？バカバカしい。
そんな奴らはあれだ。ウサギ小屋にでもしまってしまえ。
私には、そんなもの必要ない。
誰に抱いた感情すら、嘘だ。
嘘だ。
嘘だ。
全て嘘だ。
――――なんて。
嘘かもしれないがな―――――
終わり。 3rd-25th【DEAD END】
五番目の道化師(3rd)-柏木 愛(25th)【DEAD END】
【五番目の道化師】
そろそろ…時間だろうか。
私は降り始めている雪を眺めながら、コロパットを見た。
「柏木くん、間に合えば良いけど」
下手に動いたら二度と会えないような気がするから、此処に留まって思い出を整理していた。綺麗な景色、柏木くんとの思い出の写真…。あぁ、たくさんあって…どれも消せない大切な思い出ばかりだった。
「そろそろ、時間ですよぅ」
小さく呟いてみた。
【柏木 愛】
「ピエロちゃん」
(その背後から声をかけた。その表情は虚心坦懐。晴れ晴れとしていて、心残りなど何一つないかのようだった)
「コロパッドの通知、見ました？
10人死んだようですけど、終わりませんね。もしかしたら、俺の死で終わるのかもしれません。
だとすれば俺は、とんだ戦犯ですね」
(実際その通りであるし深く反省すべきなのだが、死にゆく彼にとってはどうでもよく、乾いた笑い声を発した)
【五番目の道化師】
「あっ、おかえり柏木くん」
あぁ、よかった。暗い顔はしていない。
私は安堵の笑みを浮かべて柏木くんを見る
「うん、見たよ…。
あはは…っ、柏木くんの死は柏木くんのせいじゃないじゃん。誰も柏木くんの事は責めたりしないよ。」
死んだ人の名前の中に友達の名前があった。
あぁ、せっかく仲良くなったのに皆いなくなってくなぁ。
「柏木くん、座る？」
私は自分の隣を指して言った。
【柏木 愛】
「ええ……。俺の死はまぁしょうがないんですけど。
問題は、アゾートやらが勝利してしまうことですね。ピエロちゃん、もしかしたら、殺されちゃうかもしれませんよ」
(彼女の隣に座り、静かに肩を寄せた。いつか見た景色は、いつも変わらず、目の前にある)
【五番目の道化師】
「そういえば、そうだね…」
10人死んだらアゾートの勝利。
今、その条件は揃ってしまっている。
「死んだら死んだでしかたないよ…。そしたら…、本当に来世に期待するよ。」
正直、死にたくない。けど…洗脳されたり、下僕にされたくもない。
「あはは…来世かぁ…」
自分で言っといて何を考えているのやら。
一瞬でも『洗脳されるより、今此処で命を絶って死んだ方が幸せなのでは？』と考えた自分が情けない。
【柏木 愛】
「来世でも一緒になれるといいね……なんて、ちょっとキモいですね。
……ああ、本当に、悔しいです。ピエロちゃんだけは、どうにか、守りたかった……」
(彼女の手をそっと握る。柏木の手は、震えていた。
自分の死に対して、後悔はもう、さほど無い。
しかし、目の前の愛する女性に、危機がもうそこまで迫っているのに
何もできない、自分が、とてつもなく腹立たしかった)
「ああ、だれか……誰でもいい……ピエロちゃんを、守ってください……」
【五番目の道化師】
「全然キモくありませんよ。むしろ、一緒にいたいです。」
どんな姿でもいい。
来世でも一緒にいられたら…それだけで嬉しいよ。
「柏木くん…」
ぎゅっと、無理矢理引き寄せ、何も話さず抱き締めて…
───あぁ、失いたくなかったな…と、思わず呟く。
「………今からでも救えないのかな」
双子座はもう使えない。
カウントダウンは進むばかり…今からでも柏木くんを助けられたらよかったのになぁ。
【柏木 愛】
「ピエロちゃん……」
(抱擁は、とても温かかった。願わくば、このままずっと、こうしていられないだろうか？
いや、下手な希望に縋るのは、やめた。自分はもう、冥界の扉を開けてしまったのだから)
「ピエロちゃん……最後に、名前、教えてもらえませんか？声には出さず、コロパッドで」
(彼女があのクラスで、どういう存在だったのか。確かめないまま、終わりたくなかった)
【五番目の道化師】
「うん、いいよ」
私は自分の名前を、メールで送った。
柏木くんの名前を知っておいて、自分が教えないなんて不公平だもんね…。
「……予想外、だったかな？」
道化師だった頃以外は演じてない──いや、よく考えたら道化師してた頃からちょいちょい素が出てたから…もしかしたら、気づかれてたかもしれないね。
【柏木 愛】
「へえ……うん、確かに予想外だった。そっか、あの子か……でも、納得がいくよ」
（教室にいた彼女の姿を思い出す。彼女の姿は、よく目で追いかけていた。
なんたって、巨乳だったのだから。
「……そろそろ……お別れ、かな」
（コロパッドに視線を落とす。もうあと、５分も残されていない。
覚悟はとっくに決めたはずなのに、涙が溢れて止まないのは、なぜだろうか）
【五番目の道化師】
「柏木くん、泣かないで…」
ぎゅっと、抱き締めて…私は笑みを浮かべようとする。
泣かないで、なんて言っといて私が泣いてるんだから───
「………また、会おうね」
また、会えると信じてるよ。
××くん…
【柏木 愛】
(カウントが、刻一刻と、減っていく。あれほど達観していたのに、死の間際に立たされると、やはり恐怖が生まれるものだ。
口を薄く開き、震える声を発した)
「……あの……最期に……おっ〇い触らせて……」
【五番目の道化師】
「ぷ…っ、あはははははっ！！ちょっと…今それ言うの？」
いや、笑うのは失礼か。
だけど…うん、柏木くんらしいや。
「───────」
顔、真っ赤である。
【柏木 愛】
「っ……！」
こちらも揃って真っ赤になる。まさかそんなことを言われる日が来るとは。
非常に残念だが、残された時間はもう、ない。
彼は彼女の服を脱がし、下着も外し……
その豊満な胸に、顔を埋めた。
「へへ……ずっと、ずっと思ってた。こうやって死ねたら、幸せだなって。
願い、叶えてくれて、ありがとう……」
0：0：5
0：0：4
0：0：3
0：0：2
0：0：1
0：0：0
ピシッ
全身に、亀裂が走った。
【五番目の道化師】
もっと…時間があればよかったのに。
そう、思ったことは今回で何回目なんだろう。
「………。」
ありがとう、と聞いても…これほど悲しくなるのはなぜだろうね。いつもは『いえいえ、お気になさらず』って誰かの為になれたことに喜ぶのに…。
(───あぁ、時間か…)
柏木くんの、命が───
【柏木 愛/石川 超絶変速】
全身の亀裂から、ぼろりぼろりと、灰が零れる。
皮膚が陶器のように割れ落ち、人としての身体が失われていく。
その手が、身体が、崩れ去るまで
柏木は彼女を、離すことがなかった。
『ありがとう、ピエロちゃん。大好きだよ』
その言葉だけを残して、柏木愛の仮の身体は、消滅。
彼女の身体に抱き着くようにして残されたのは、
石川 超絶変速の、本来の姿の、亡骸だった。
【五番目の道化師】
彼が、命を失うと同時に流れる死亡告知のアナウンス。
「───っぁ、あああああああああああ…ッ！！」
死んだ、死んでしまった。
偽りの姿が崩れ去り、真実の姿での彼の亡骸がこの場に残る。
私は抑えていた涙を抑えきれず…
ただただ泣いた。
「ギアくん…っ、ギアくん…っ！！」
目を覚ますことはないとわかっているのに呼び掛けて…実は死んだふりをして『どっきりでした！！』なんて言って変態染みた言葉を言ってくれればいいのに…。
「ねぇ、起きてよ…っ！！」
受け入れたくない、受け入れたくない、
こんなの嘘だよね？
ねぇ、ねえってば…
「……っ、あぁ…っ……」
わかってる、わかってるんだ……彼は死んだ。この私の目の前で、この腕のなかで死んだ……。
「あたしも、大好きだよ……ぎあくん」
そう言って───あたしはキスをする。
そのキスは冷たくて、温かさの何も感じない。
深い悲しみの入り交じる死の味がした。
【五番目の道化師】
そろそろ…時間だろうか。
私は降り始めている雪を眺めながら、コロパットを見た。
「柏木くん、間に合えば良いけど」
下手に動いたら二度と会えないような気がするから、此処に留まって思い出を整理していた。綺麗な景色、柏木くんとの思い出の写真…。あぁ、たくさんあって…どれも消せない大切な思い出ばかりだった。
「そろそろ、時間ですよぅ」
小さく呟いてみた。
【柏木 愛】
「ピエロちゃん」
(その背後から声をかけた。その表情は虚心坦懐。晴れ晴れとしていて、心残りなど何一つないかのようだった)
「コロパッドの通知、見ました？
10人死んだようですけど、終わりませんね。もしかしたら、俺の死で終わるのかもしれません。
だとすれば俺は、とんだ戦犯ですね」
(実際その通りであるし深く反省すべきなのだが、死にゆく彼にとってはどうでもよく、乾いた笑い声を発した)
【五番目の道化師】
「あっ、おかえり柏木くん」
あぁ、よかった。暗い顔はしていない。
私は安堵の笑みを浮かべて柏木くんを見る
「うん、見たよ…。
あはは…っ、柏木くんの死は柏木くんのせいじゃないじゃん。誰も柏木くんの事は責めたりしないよ。」
死んだ人の名前の中に友達の名前があった。
あぁ、せっかく仲良くなったのに皆いなくなってくなぁ。
「柏木くん、座る？」
私は自分の隣を指して言った。
【柏木 愛】
「ええ……。俺の死はまぁしょうがないんですけど。
問題は、アゾートやらが勝利してしまうことですね。ピエロちゃん、もしかしたら、殺されちゃうかもしれませんよ」
(彼女の隣に座り、静かに肩を寄せた。いつか見た景色は、いつも変わらず、目の前にある)
【五番目の道化師】
「そういえば、そうだね…」
10人死んだらアゾートの勝利。
今、その条件は揃ってしまっている。
「死んだら死んだでしかたないよ…。そしたら…、本当に来世に期待するよ。」
正直、死にたくない。けど…洗脳されたり、下僕にされたくもない。
「あはは…来世かぁ…」
自分で言っといて何を考えているのやら。
一瞬でも『洗脳されるより、今此処で命を絶って死んだ方が幸せなのでは？』と考えた自分が情けない。
【柏木 愛】
「来世でも一緒になれるといいね……なんて、ちょっとキモいですね。
……ああ、本当に、悔しいです。ピエロちゃんだけは、どうにか、守りたかった……」
(彼女の手をそっと握る。柏木の手は、震えていた。
自分の死に対して、後悔はもう、さほど無い。
しかし、目の前の愛する女性に、危機がもうそこまで迫っているのに
何もできない、自分が、とてつもなく腹立たしかった)
「ああ、だれか……誰でもいい……ピエロちゃんを、守ってください……」
【五番目の道化師】
「全然キモくありませんよ。むしろ、一緒にいたいです。」
どんな姿でもいい。
来世でも一緒にいられたら…それだけで嬉しいよ。
「柏木くん…」
ぎゅっと、無理矢理引き寄せ、何も話さず抱き締めて…
───あぁ、失いたくなかったな…と、思わず呟く。
「………今からでも救えないのかな」
双子座はもう使えない。
カウントダウンは進むばかり…今からでも柏木くんを助けられたらよかったのになぁ。
【柏木 愛】
「ピエロちゃん……」
(抱擁は、とても温かかった。願わくば、このままずっと、こうしていられないだろうか？
いや、下手な希望に縋るのは、やめた。自分はもう、冥界の扉を開けてしまったのだから)
「ピエロちゃん……最後に、名前、教えてもらえませんか？声には出さず、コロパッドで」
(彼女があのクラスで、どういう存在だったのか。確かめないまま、終わりたくなかった)
【五番目の道化師】
「うん、いいよ」
私は自分の名前を、メールで送った。
柏木くんの名前を知っておいて、自分が教えないなんて不公平だもんね…。
「……予想外、だったかな？」
道化師だった頃以外は演じてない──いや、よく考えたら道化師してた頃からちょいちょい素が出てたから…もしかしたら、気づかれてたかもしれないね。
【柏木 愛】
「へえ……うん、確かに予想外だった。そっか、あの子か……でも、納得がいくよ」
（教室にいた彼女の姿を思い出す。彼女の姿は、よく目で追いかけていた。
なんたって、巨乳だったのだから。
「……そろそろ……お別れ、かな」
（コロパッドに視線を落とす。もうあと、５分も残されていない。
覚悟はとっくに決めたはずなのに、涙が溢れて止まないのは、なぜだろうか）
【五番目の道化師】
「柏木くん、泣かないで…」
ぎゅっと、抱き締めて…私は笑みを浮かべようとする。
泣かないで、なんて言っといて私が泣いてるんだから───
「………また、会おうね」
また、会えると信じてるよ。
××くん…
【柏木 愛】
(カウントが、刻一刻と、減っていく。あれほど達観していたのに、死の間際に立たされると、やはり恐怖が生まれるものだ。
口を薄く開き、震える声を発した)
「……あの……最期に……おっ〇い触らせて……」
【五番目の道化師】
「ぷ…っ、あはははははっ！！ちょっと…今それ言うの？」
いや、笑うのは失礼か。
だけど…うん、柏木くんらしいや。
「───────」
顔、真っ赤である。
【柏木 愛】
「っ……！」
こちらも揃って真っ赤になる。まさかそんなことを言われる日が来るとは。
非常に残念だが、残された時間はもう、ない。
彼は彼女の服を脱がし、下着も外し……
その豊満な胸に、顔を埋めた。
「へへ……ずっと、ずっと思ってた。こうやって死ねたら、幸せだなって。
願い、叶えてくれて、ありがとう……」
0：0：5
0：0：4
0：0：3
0：0：2
0：0：1
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ピシッ
全身に、亀裂が走った。
【五番目の道化師】
もっと…時間があればよかったのに。
そう、思ったことは今回で何回目なんだろう。
「………。」
ありがとう、と聞いても…これほど悲しくなるのはなぜだろうね。いつもは『いえいえ、お気になさらず』って誰かの為になれたことに喜ぶのに…。
(───あぁ、時間か…)
柏木くんの、命が───
【柏木 愛/石川 超絶変速】
全身の亀裂から、ぼろりぼろりと、灰が零れる。
皮膚が陶器のように割れ落ち、人としての身体が失われていく。
その手が、身体が、崩れ去るまで
柏木は彼女を、離すことがなかった。
『ありがとう、ピエロちゃん。大好きだよ』
その言葉だけを残して、柏木愛の仮の身体は、消滅。
彼女の身体に抱き着くようにして残されたのは、
石川 超絶変速の、本来の姿の、亡骸だった。
【五番目の道化師】
彼が、命を失うと同時に流れる死亡告知のアナウンス。
「───っぁ、あああああああああああ…ッ！！」
死んだ、死んでしまった。
偽りの姿が崩れ去り、真実の姿での彼の亡骸がこの場に残る。
私は抑えていた涙を抑えきれず…
ただただ泣いた。
「ギアくん…っ、ギアくん…っ！！」
目を覚ますことはないとわかっているのに呼び掛けて…実は死んだふりをして『どっきりでした！！』なんて言って変態染みた言葉を言ってくれればいいのに…。
「ねぇ、起きてよ…っ！！」
受け入れたくない、受け入れたくない、
こんなの嘘だよね？
ねぇ、ねえってば…
「……っ、あぁ…っ……」
わかってる、わかってるんだ……彼は死んだ。この私の目の前で、この腕のなかで死んだ……。
「あたしも、大好きだよ……ぎあくん」
そう言って───あたしはキスをする。
そのキスは冷たくて、温かさの何も感じない。
深い悲しみの入り交じる死の味がした。
其れは親子のように 7th-17th +11th
ロティ(7th)-エム(17th)
【ロティ】
……エムとの戦いは…まあ、あんな終わり方をした訳だが……。
此処に来て、こんな事になるとは。
……まだ、人として生きているのか？
…………なら、誰だ？
｢おい……もう分かってるだろ？｣
脳裏に響く、“俺”の声だ。
分かっている……とは、何が？
｢君の、本当の気持ちだよ。｣
今度は、“僕”の声だ。
……本当の、気持ちとは何か…。
｢最後に、エムを行かせた時の行動、それが答えなんじゃないのか？｣
「なら、追いかけたらどうかな？」
…………追いかける、か……。
仕方ない、そうしようか……せめて最後を見に行こうか……なんて。
なんて、思った時に…ふと風呂場で何かを見つけた。
『……これ、は…。』
嗚呼……そうかい、最後に、人になれと？
そう言うんだね……君達は。
────誰だ？
｢お前は……｣
「僕達だ……。」
────私は……。
『………………くそっ、間に合うかっ！？』
そうだ、それで良い。
そう私の中の何かが叫ぶ。
コレで、救えるなら、救ってやろう。
…………あの、小さな、正義の騎士を。
｢そうだ、行け……私。｣
「僕達は……此処でさよならだ。」
…………嗚呼、ごめんよ、お前達……。
せめて、完璧に、演じられる時が来たら…。
『私と、僕と、俺の……。
この……三人で…海に行くんだ…。
……山でも、川でも…何ならまた雪山でも良い！
頼むからさ……。
…………私達に、明日を見せてくれよッ！！』
そして、“私”は走った。
エムの行先は、何となく、分かっていた。
というより、追いかけてきたのだから。
……そして、見つけた。
────公園の真ん中。
白いヒガンバナと共に光る、金色の、花。
どんな花かな…なんて、思わない。
せめて、これだけやってやるさ。
『おい……エム！』
近付いたら、また敵になるのかな？
まあ、その時はその時さ。
……大人しく殺されてやるとしよう。
エムには……色々痛い思いをさせただろう。
けど……拾った、コレで、助けてから。
『まだ、生きるつもりはあるか？』
そう声を、エムに掛けるのだった。
【エム】
「…………さっきまで殺し合ってた相手に、言うような言葉ですか？ それ……」
『エム』は、涙で濡れた目元を拭って、声をかけてきてくれたロティさんにそう返しました。
今は『ボク』はお休み中。
エムの邪魔をしないようにと、気を使ってくれたのです。
少しだけ、出血は少なくなっているけど、このまま放置してしまえば、きっとエムは死んでしまうでしょう。
エムには、治療の技能なんてありませんから、どうしようもありません。
「生きたいです……エムも……『ボク』も……」
――――でも、死にたいわけ、ありませんでした。
おかあさんが死んでしまって、知り合いが何人も死んでいって。
でも、エムも一緒に死のうとは思えませんでした。
もしここで死んでしまったら、エムが守れなかった人達の命は誰が背負うのでしょう。
だれが、その責任を負うのでしょう。
ほかのセレスティアに押し付ける？ そんなこと、出来ません。
だから、生きたい。
罪を償う訳では無いけど、もし次があったなら、その時こそは――――と、思っているから。
【ロティ】
『……その言葉に、嘘が無くて…。
私を、今だけでも信じる気持ちがあるなら……。』
嗚呼……私は罪を犯したのだろう。
喫煙や飲酒もそうだが。
何より……は、殺人。
済まない……本当に……。
なんて、謝って済む問題じゃあないのは。
……分かってるさ。
でも……。
これで……。
…………ラストピリオドだ。
今だけ、今だけでも良いのだ。
私を…僕を…俺を……。
────────信じてくれ。
それで、救える命があるなら。
私は、こう言ってやるさ。
『───私が、お前の生命を繋ぐ。』
道具は……アイツが残してくれた。
取り出したのは、麻酔薬と裁縫セット。
ありがとう……見知らぬペテン師よ。
此処での言葉は、貴女に届く事は無いのでしょう……。
(………………ねぇ、■■■。)
(私は……人間になります……。)
『……ヒガンバナにも、私から言いたい事があったんだ。
けど、言えない上に、目の前でお前さんを見殺しにしたら……それこそ呪われるさ。
…………エム、信じてくれるなら…傷を見せてくれ。』
なんて、私は、おどけてみせる。
私がなれるのは……花を咲かせる土なのさ。
【エム】
「…………『ボク』なら断りましたよ」
くしゃりと、笑みを浮かべて、エムは止血用に使っていた布を取り外しました。
『ボク』なら断ったでしょう、言葉通りの意味です。
さっきまで殺し合ってた相手に「命を救ってやる」なんて言われて、簡単に身を委ねるほど単純ではありません。
彼の領分はいま、“否定”ですから。
だけど、『エム』はそんなロティさんのことを信じることにしました。
エムは、お人好しです。
直ぐに人を信じてしまうような、単純な子です。
慰めてあげたいから、という理由だけで雪の中を全裸で駆け回って写真を撮らせてあげるような子です。
痴女ではないですよ？
だから、今更です。
「――――お願いしますね、ロティさん」
殺し合った相手に、自分の命を委ねるくらい、エムにとっては今更なことなのです。
【ロティ】
『はは……だろうね。
あの時のお前さんは、そうするだろうさ。』
そうだろう……あの時のエムなら。
けど、今のエムなら……大丈夫だろう？
“僕”が……彼処まで固執したんだ、なら…これは“僕”の願いであり、私の願い。
救える命がある、そう思ったのは、昔から。
仲間の前で、そう思ったのを思い出す。
けど、今は構わない。
エム……君の傷は、私が塞ぐとも。
『少し痛いと思うけど、麻酔薬があるから大丈夫。
傷は……裁縫道具で縫うけど…本当の身体になにかあったらすぐ病院行けよ？』
麻酔薬をエムに。
傷周りの痛みが、引いていく様に。
そして傷は、裁縫道具を使って縫い合わせる。
上手く出来る出来ないでは無い、終わりまで生きる事が大切だろう？
……君の、傷は、私の傷だ。
────そうだろう？
なんて……私の中の俺と僕は、言うと思うんだ。
そして、私は、エムの生命を繋ぐ。
『……………………よし…。』
どれくらい経ったかな？
……いや、案外時間は経ってはいない。
エムの傷を塞ぎ、生きているだろうから。
その傷は……私が受けるよ、受け先は心になるけれど……許しておくれ。
────これが…。
────私の……信じる道さ。
【エム】
「――――」
時間にして、数分くらいでしょうか。
処置の邪魔にならないように体を動かさずにいて、しばらくボーッとして。
ロティさんのよしという言葉で、エムは我にかえりました。
気がついたら、傷の縫合は終わっていて、血もすっかり止まっていました。
「……ありがとうございます、ロティさん。Azothなんて本当は向いてないんじゃないですか？」
そんな軽口を叩く余裕すらできました。
血を流しすぎたせいで、少し貧血気味ですけど、それ以外は万全です。
……本当に、傷の手当てをしてもらえるなんて、やっぱり少し不安でしたから。
【ロティ】
『あはは……そうかな…？
私はただ、生きる為に必死だっただけなんだけどね？
大切な人に、ただ会いたかったからさ。
エムにも……色々痛い思いをさせたね、ごめん。』
Azothに向いているいないは……まあ、よく分からないのが本音なんだ。
だけど、生きる為に必死に抗ってきた。
けど、最後に必死になってみたら、こうやって本音を話せる位にはなったさ。
だから、もう、良いんだよ。
大切な人に会いたかったから……。
けど、エムを傷つけてしまったのは事実で。
そこは……本当に申し訳なかった。
『さて……エム。
ヒガンバナ…あぁ、花の方だよ？
その花言葉って……君は知っているかな？』
地面に横たわる、ヒガンバナに近付きながら。
私は、ちょっとした雑談を交える。
問い掛けるのは、ヒガンバナの花言葉。
知っているかな……なんて、簡単な問い掛け。
『……ヒガンバナの花言葉には、“独立”…“あきらめ”…“悲しい思い出”…なんて言うのがある。
良く、不吉な花って言われているよね。』
ヒガンバナの花言葉をぽつりぽつりと漏らしつつ、エムの方を向く。
足元には、寝転がるヒガンバナ。
けど、これはまだ、幕開けさ。
『けどね……？』
私は、そこでまた、人間になる。
今までの私は……。
─────さしずめ、パンドラの匣さ。
絶望を詰め込み、開けられた、匣。
けど……最後には…。
────希望も、残してあるさ。
『……こんな、花言葉もあるのさ。
それは……“再会”と、“また会う日を楽しみに”……だよ。』
それは、希望を持たせることは出来たのかな？
……なんて、思いながら、ヒガンバナの前にかがみ込んで。
ここまで来たら、君も、分かるかな？
『ほら、ヒガンバナ。
いつまで寝たフリしてないで、エムに顔くらい見せてやれよ。』
その言葉の意味通り。
ヒガンバナは、またこの地に咲き誇る。
“エム”という、金の花の隣で。
私は……それを支えるだけの土なのだ。
……見せてあげるといい。
────その、赤色の、芸術を。
【ヒガンバナ】
「…………全く、ここは大人しく寝ておこうかと思ったんだが。」
重い体を動かして、私はゆっくりと目を開ける。
また、会えたか、エム。
「……心配をかけたな、エム。」
私に寄り添う、小さき金の華。
私はそっと、その優しい彼女の頬に手を添え、微笑んだ。
「…………って、待て！？
怪我をしていたのは聞こえていたが、その腕大丈夫なのか！？」
雰囲気をぶち壊して悪いが、ガバッと起き上がって重症のエムを心配する。
この状況だと、誰がやったかは分かるが、なんかそいつが治療したらしいし、一体どうなっているんだ。
【エム】
「…………ふぇ？」
何をいってるんでしょう。
おかあさんは死んでたはずで……それなのにロティさんは声をかけていて……
気がつけば、おかあさんが目をさましていました。
死んだと思っていた、おかあさんが……
「――うん、おかあさん」
にこりと微笑みました。
慌てて心配してくれて、きっとおかあさんは偽物なんかじゃありません、正真正銘おかあさんです。
――『ボク』、エムのやりたいことわかりますか？
わかるさ、僕は『エム』なんだから。
ふふっと笑って、そしてエムは…………
「――――一発！！殴らせてください！！」
全力で拳を引いて、おかあさんの胸元めがけてその拳を叩きつけようと振るいました。
心配掛けた、罰ですから――――おとなしく受けてくださいね！！
【ヒガンバナ】
「がフッ……！？」
考えてもみてください。
いくらエムが小さいからって、侮ってはいけません。
相手はCelestia、猫の仮面があるので普通に強い。
そして私はと言うと、一度は確実に死んだので猫の仮面は無くなりました。
となると、私は胸に付いている無駄な贅肉しか防ぐものはありません。
「(´ཀ`)…………」
なんでみんな胸を、心臓を狙うんでしょうね？
死にますよ、ほんと？
お母さん生き返って早々死にますよ、ほんと？
【エム】
「全く、勝手に死ぬんですから、エムだってさすがに怒るんですよ？」
まさか、生きかえってくれるとは思わなかったから、その驚きの分が入ってるのは、内緒です。
完全な私怨ですけど、これでチャラになるんですから、これくらい我慢してもらわないと。
ただ、もちろん鞭の後には飴を、というわけでもないですけど。
そのまま、おかあさんの体に抱きつきました。
「本当に……怖かったんですから」
大切な人を、失ってしまっていたら、そう思うと怖くて、怖くて。
こうして生き延びてくれて、安心しました。
こんなこと、恥ずかしくて言えないですけど。
【ヒガンバナ】
「……かッ……勝手に、死ぬつもりは、無かったんだがなぁ……」
正直心臓が痛くて、また止まりそうなんだが。だが。
一応弁解すると、私は死ぬ予定は無かった。本気で。
まさかちょっと鋭そうとは思っていたけど、Celestia二人目がこころとは思わないだろう。
あれなのか、Celestiaは幼女にされるのか？
「……すまなかった……私も、Azothだったからな。
……エムには、心配なぞかけたくなかったのだが。」
最初に会った時、お母さんと呼ばれたのは。
……本心から、嬉しかった。
だから、彼女は護りたかった、それも本当の事で。
【エム】
「…………本当に、『エム』に変な心配をかけさせないでほしいね。
まったく、演技していた役に主導権とられるなんて、いままでにない経験だよ」
――――少しだけ交代してくれ『エム』。僕も彼女には言いたいことがあるんだ。
そして、表に出てきたのは『ボク』
『エム』を作った役者、今回一番面倒なことになってしまった自信がある僕だ。
もちろん、生きてる人間の中で開始時点との差異という意味でだけどね。
「君のせいでこれから先、頭の中で幼女を飼うはめになった僕の気持ちわかるかい？
本当にとんでもないことしてくれたよ」
話すのはだいたい恨み節。
『エム』という自我が確立してしまった要因であり、『エム』のなかで大きくなりすぎた存在であるヒガンバナ。
まあ、彼女からしたら僕とは初対面なんだろうけど、そんなこと知ったことではない。
これくらいはは許してほしい、エムと同じようにね
【ヒガンバナ】
「……成る程、演技か……ハハハ、そりゃあ大変だろうな。
なに、これからは心配させない様に気を付けるさ。
これまでだって、まともを演じてきたからな。」
どうやら雰囲気が違うので、今話しているのは『エム』ではないらしい。
全く、Celestiaは(以下略
「まあ、考えてもみろ。
本気で守りたいと思った相手が演技だったら悲しいだろう？
別人格なら、まだ許せるがな。」
本当に娘の様に思った者が、只の演技で消えてしまう物だったとすれば、残ってくれただけでも良い。
……ただ、エムの元の姿……ゴツい男だったら、なんだか少し嫌だな。
【エム】
「敵に可哀想、なんて思うほど僕は優しくなんてないよ。『エム』のこと守りたかったなら、そこにつけ込んで殺してたよ」
そう、僕はそんな奴。
与えられた役目を全うするなら、どんな手だって使う。
それが他人を騙すような行為でも、貶めるような所業でも、なんだってする。
だからこそ、人畜無害な幼女の姿を演じていた。
あそこまで警戒心を削ぎ落とせるキャラ、そうそういないだろうから。
だからこそ――――本当に嫌になる。
「もうそんなこと、出来なくなったけどね。
責任を取ってくれよ、ヒガンバナ。『エム』の面倒はちゃんと見てくれ。僕じゃ手に負えない」
演じていたものが、ここまで大きくなって。
知らないうちに、人格になって。
僕の体が乗っ取られる。
本当に嫌になる。
でも、これはこれで面白くはあるかもしれない。
そんなことを僕は思ってたりする。
一人じゃなくて二人なら、何かと都合がいいかもしれない。
意思疎通がはかれるのなら、暇な時にでも会話が出来るだろうし。
自分の意思で『交代』が出来るなら、うっかり人前で『エム』が表に出てくることも無い。
使い勝手は、まだいい方なのかもしれない。
実際の多重人格なんて、僕は知らないからこんなことが言えるけど。
だからこそ、責任はとってもらう。
『エム』に悲しまれたら、僕が恥をかくは目になるんだから。
元の姿では、ね？
【ヒガンバナ】
「そりゃあ酷いな、まんまと敵の罠に嵌まってた訳だ。
……なに、もうAzothは辞めた……と言うか辞めさせられた？一度死んだらなんか色々無くなるからな……復活システムがあるのに、それもどうかと思うのだが……
まあ、とどのつまり……エムの事は任せておけ。」
責任は取るさ。
曲がりなりにもお母さんと呼んでくれるなら、それなりに、良い母ではあろうと努力しよう。
そうしている内に、人斬りも止められそうな気もする。
【エム】
「あぁ、頼んだよ」
――――ほら、僕の言いたいことは終わった。交代だよ『エム』
向こうに行ったら僕がメインになるんだ、この体の時くらいは好きにやっておくんだよ。
なんて、エムにお父さんみたいなことを言ってきました。
『ボク』に言われるまでもなく、そうするつもりですよ。
「……じゃあ、ちゃんと責任とってもらいますね」
『エム』に戻って、にこりと微笑みます。
セレスティアが最後まで生き残れば、救える人を選択できる。
それの中のひとつを、お母さんに使うことにします。
本当なら、ロティさんも救ってあげたかったけど、それは難しそうですから、向こうに帰ってまた会えることを祈りましょう。
あと一人は、誰にしましょうか。
【ヒガンバナ】
「任せろ。
こう見えて、家事やらも得意なんだぞ？
……っと、そう言えば普通にエムも高校生だから、その心配は要らないか？」
なんか幼い養子でも引き取る気でいたが、一応は高校生なのを思い出した。
まあ、一先ずは可愛いらしい彼女の頭を優しく撫でる。
また、こうする事が出来ただけでも、生きてて良かったと思える。
【エム】
「『ボク』は料理もできるから、大丈夫だよ。
おかあさんのご飯も食べてみたいけどね」
こうして撫でられるのも、いつぶりでしょう。
気持ちよさそうに撫でられておきます。
向こうの体でこんなことしてたら、相当気持ち悪がられるでしょうから、今のうちです。
なんて、向こうに行ったらおかあさんが男か女かも分からないわけですから、お互い様かもしれませんが。
【ヒガンバナ】
「そうだな、何時かご馳走してやるさ。」
本当に、可愛い娘だ。
今なら、ずっと悩んでいた事も忘れられ、殺しあいなんかも関係無くなる。
ああ、案外と、私も狂っていなかったのだろうか。
「……それにしても、Celestiaか……どちらにしても私は負けていたんだろうな。
……さて、恐らくもうじきゲームも終わるだろうし。
Celestiaのエムはどうするつもりだ？
私はこうして最後の時まで、お前さんを撫でていられれば構わないのだが。」
最後の足掻きは何をするんだろうか。
私は分からないけれども。
【エム】
「そうですね……エムも終わるのを待つだけです。
……あぁでも、最後に一回くらい、また温泉に行きたいですね」
助ける人は、もう決めました。
そして、それをするにはゲームセットを待つだけ。
それまでの時間を、お母さんと一緒に過ごせればいいなって。
だから、初めてお母さんとあった温泉にもう一回行って、ゆっくり温泉に浸かってみたいのです。
温泉幼女復活です、なんちゃって。
【ヒガンバナ】
「温泉か、賛成だな。
私もあの温泉は好きだ。」
結局、入ろう入ろうと思いつつも、ちゃんと入ったのはその一回位か。
思い出すと心残りなので、最後の時間はそこで過ごそうと思う。
「……では行こうか、エム。」
立ち上がってから、エムに手を差し伸べる。
……自分では分からないが、きっと良い笑顔にはなっている筈だ。
【エム】
「うん！」
そう元気よく返事して、差し伸べられた手を取りました。
おかあさん、嬉しそうでよかったな。
そんなことをこっそりと考えながら立ち上がって、さあ行こうと、お母さんの手をひいていきます。
きっと、エムもお母さんと同じくらいいい笑顔をしてるんだろうなって。
【ロティ】
……エムとの戦いは…まあ、あんな終わり方をした訳だが……。
此処に来て、こんな事になるとは。
……まだ、人として生きているのか？
…………なら、誰だ？
｢おい……もう分かってるだろ？｣
脳裏に響く、“俺”の声だ。
分かっている……とは、何が？
｢君の、本当の気持ちだよ。｣
今度は、“僕”の声だ。
……本当の、気持ちとは何か…。
｢最後に、エムを行かせた時の行動、それが答えなんじゃないのか？｣
「なら、追いかけたらどうかな？」
…………追いかける、か……。
仕方ない、そうしようか……せめて最後を見に行こうか……なんて。
なんて、思った時に…ふと風呂場で何かを見つけた。
『……これ、は…。』
嗚呼……そうかい、最後に、人になれと？
そう言うんだね……君達は。
────誰だ？
｢お前は……｣
「僕達だ……。」
────私は……。
『………………くそっ、間に合うかっ！？』
そうだ、それで良い。
そう私の中の何かが叫ぶ。
コレで、救えるなら、救ってやろう。
…………あの、小さな、正義の騎士を。
｢そうだ、行け……私。｣
「僕達は……此処でさよならだ。」
…………嗚呼、ごめんよ、お前達……。
せめて、完璧に、演じられる時が来たら…。
『私と、僕と、俺の……。
この……三人で…海に行くんだ…。
……山でも、川でも…何ならまた雪山でも良い！
頼むからさ……。
…………私達に、明日を見せてくれよッ！！』
そして、“私”は走った。
エムの行先は、何となく、分かっていた。
というより、追いかけてきたのだから。
……そして、見つけた。
────公園の真ん中。
白いヒガンバナと共に光る、金色の、花。
どんな花かな…なんて、思わない。
せめて、これだけやってやるさ。
『おい……エム！』
近付いたら、また敵になるのかな？
まあ、その時はその時さ。
……大人しく殺されてやるとしよう。
エムには……色々痛い思いをさせただろう。
けど……拾った、コレで、助けてから。
『まだ、生きるつもりはあるか？』
そう声を、エムに掛けるのだった。
【エム】
「…………さっきまで殺し合ってた相手に、言うような言葉ですか？ それ……」
『エム』は、涙で濡れた目元を拭って、声をかけてきてくれたロティさんにそう返しました。
今は『ボク』はお休み中。
エムの邪魔をしないようにと、気を使ってくれたのです。
少しだけ、出血は少なくなっているけど、このまま放置してしまえば、きっとエムは死んでしまうでしょう。
エムには、治療の技能なんてありませんから、どうしようもありません。
「生きたいです……エムも……『ボク』も……」
――――でも、死にたいわけ、ありませんでした。
おかあさんが死んでしまって、知り合いが何人も死んでいって。
でも、エムも一緒に死のうとは思えませんでした。
もしここで死んでしまったら、エムが守れなかった人達の命は誰が背負うのでしょう。
だれが、その責任を負うのでしょう。
ほかのセレスティアに押し付ける？ そんなこと、出来ません。
だから、生きたい。
罪を償う訳では無いけど、もし次があったなら、その時こそは――――と、思っているから。
【ロティ】
『……その言葉に、嘘が無くて…。
私を、今だけでも信じる気持ちがあるなら……。』
嗚呼……私は罪を犯したのだろう。
喫煙や飲酒もそうだが。
何より……は、殺人。
済まない……本当に……。
なんて、謝って済む問題じゃあないのは。
……分かってるさ。
でも……。
これで……。
…………ラストピリオドだ。
今だけ、今だけでも良いのだ。
私を…僕を…俺を……。
────────信じてくれ。
それで、救える命があるなら。
私は、こう言ってやるさ。
『───私が、お前の生命を繋ぐ。』
道具は……アイツが残してくれた。
取り出したのは、麻酔薬と裁縫セット。
ありがとう……見知らぬペテン師よ。
此処での言葉は、貴女に届く事は無いのでしょう……。
(………………ねぇ、■■■。)
(私は……人間になります……。)
『……ヒガンバナにも、私から言いたい事があったんだ。
けど、言えない上に、目の前でお前さんを見殺しにしたら……それこそ呪われるさ。
…………エム、信じてくれるなら…傷を見せてくれ。』
なんて、私は、おどけてみせる。
私がなれるのは……花を咲かせる土なのさ。
【エム】
「…………『ボク』なら断りましたよ」
くしゃりと、笑みを浮かべて、エムは止血用に使っていた布を取り外しました。
『ボク』なら断ったでしょう、言葉通りの意味です。
さっきまで殺し合ってた相手に「命を救ってやる」なんて言われて、簡単に身を委ねるほど単純ではありません。
彼の領分はいま、“否定”ですから。
だけど、『エム』はそんなロティさんのことを信じることにしました。
エムは、お人好しです。
直ぐに人を信じてしまうような、単純な子です。
慰めてあげたいから、という理由だけで雪の中を全裸で駆け回って写真を撮らせてあげるような子です。
痴女ではないですよ？
だから、今更です。
「――――お願いしますね、ロティさん」
殺し合った相手に、自分の命を委ねるくらい、エムにとっては今更なことなのです。
【ロティ】
『はは……だろうね。
あの時のお前さんは、そうするだろうさ。』
そうだろう……あの時のエムなら。
けど、今のエムなら……大丈夫だろう？
“僕”が……彼処まで固執したんだ、なら…これは“僕”の願いであり、私の願い。
救える命がある、そう思ったのは、昔から。
仲間の前で、そう思ったのを思い出す。
けど、今は構わない。
エム……君の傷は、私が塞ぐとも。
『少し痛いと思うけど、麻酔薬があるから大丈夫。
傷は……裁縫道具で縫うけど…本当の身体になにかあったらすぐ病院行けよ？』
麻酔薬をエムに。
傷周りの痛みが、引いていく様に。
そして傷は、裁縫道具を使って縫い合わせる。
上手く出来る出来ないでは無い、終わりまで生きる事が大切だろう？
……君の、傷は、私の傷だ。
────そうだろう？
なんて……私の中の俺と僕は、言うと思うんだ。
そして、私は、エムの生命を繋ぐ。
『……………………よし…。』
どれくらい経ったかな？
……いや、案外時間は経ってはいない。
エムの傷を塞ぎ、生きているだろうから。
その傷は……私が受けるよ、受け先は心になるけれど……許しておくれ。
────これが…。
────私の……信じる道さ。
【エム】
「――――」
時間にして、数分くらいでしょうか。
処置の邪魔にならないように体を動かさずにいて、しばらくボーッとして。
ロティさんのよしという言葉で、エムは我にかえりました。
気がついたら、傷の縫合は終わっていて、血もすっかり止まっていました。
「……ありがとうございます、ロティさん。Azothなんて本当は向いてないんじゃないですか？」
そんな軽口を叩く余裕すらできました。
血を流しすぎたせいで、少し貧血気味ですけど、それ以外は万全です。
……本当に、傷の手当てをしてもらえるなんて、やっぱり少し不安でしたから。
【ロティ】
『あはは……そうかな…？
私はただ、生きる為に必死だっただけなんだけどね？
大切な人に、ただ会いたかったからさ。
エムにも……色々痛い思いをさせたね、ごめん。』
Azothに向いているいないは……まあ、よく分からないのが本音なんだ。
だけど、生きる為に必死に抗ってきた。
けど、最後に必死になってみたら、こうやって本音を話せる位にはなったさ。
だから、もう、良いんだよ。
大切な人に会いたかったから……。
けど、エムを傷つけてしまったのは事実で。
そこは……本当に申し訳なかった。
『さて……エム。
ヒガンバナ…あぁ、花の方だよ？
その花言葉って……君は知っているかな？』
地面に横たわる、ヒガンバナに近付きながら。
私は、ちょっとした雑談を交える。
問い掛けるのは、ヒガンバナの花言葉。
知っているかな……なんて、簡単な問い掛け。
『……ヒガンバナの花言葉には、“独立”…“あきらめ”…“悲しい思い出”…なんて言うのがある。
良く、不吉な花って言われているよね。』
ヒガンバナの花言葉をぽつりぽつりと漏らしつつ、エムの方を向く。
足元には、寝転がるヒガンバナ。
けど、これはまだ、幕開けさ。
『けどね……？』
私は、そこでまた、人間になる。
今までの私は……。
─────さしずめ、パンドラの匣さ。
絶望を詰め込み、開けられた、匣。
けど……最後には…。
────希望も、残してあるさ。
『……こんな、花言葉もあるのさ。
それは……“再会”と、“また会う日を楽しみに”……だよ。』
それは、希望を持たせることは出来たのかな？
……なんて、思いながら、ヒガンバナの前にかがみ込んで。
ここまで来たら、君も、分かるかな？
『ほら、ヒガンバナ。
いつまで寝たフリしてないで、エムに顔くらい見せてやれよ。』
その言葉の意味通り。
ヒガンバナは、またこの地に咲き誇る。
“エム”という、金の花の隣で。
私は……それを支えるだけの土なのだ。
……見せてあげるといい。
────その、赤色の、芸術を。
【ヒガンバナ】
「…………全く、ここは大人しく寝ておこうかと思ったんだが。」
重い体を動かして、私はゆっくりと目を開ける。
また、会えたか、エム。
「……心配をかけたな、エム。」
私に寄り添う、小さき金の華。
私はそっと、その優しい彼女の頬に手を添え、微笑んだ。
「…………って、待て！？
怪我をしていたのは聞こえていたが、その腕大丈夫なのか！？」
雰囲気をぶち壊して悪いが、ガバッと起き上がって重症のエムを心配する。
この状況だと、誰がやったかは分かるが、なんかそいつが治療したらしいし、一体どうなっているんだ。
【エム】
「…………ふぇ？」
何をいってるんでしょう。
おかあさんは死んでたはずで……それなのにロティさんは声をかけていて……
気がつけば、おかあさんが目をさましていました。
死んだと思っていた、おかあさんが……
「――うん、おかあさん」
にこりと微笑みました。
慌てて心配してくれて、きっとおかあさんは偽物なんかじゃありません、正真正銘おかあさんです。
――『ボク』、エムのやりたいことわかりますか？
わかるさ、僕は『エム』なんだから。
ふふっと笑って、そしてエムは…………
「――――一発！！殴らせてください！！」
全力で拳を引いて、おかあさんの胸元めがけてその拳を叩きつけようと振るいました。
心配掛けた、罰ですから――――おとなしく受けてくださいね！！
【ヒガンバナ】
「がフッ……！？」
考えてもみてください。
いくらエムが小さいからって、侮ってはいけません。
相手はCelestia、猫の仮面があるので普通に強い。
そして私はと言うと、一度は確実に死んだので猫の仮面は無くなりました。
となると、私は胸に付いている無駄な贅肉しか防ぐものはありません。
「(´ཀ`)…………」
なんでみんな胸を、心臓を狙うんでしょうね？
死にますよ、ほんと？
お母さん生き返って早々死にますよ、ほんと？
【エム】
「全く、勝手に死ぬんですから、エムだってさすがに怒るんですよ？」
まさか、生きかえってくれるとは思わなかったから、その驚きの分が入ってるのは、内緒です。
完全な私怨ですけど、これでチャラになるんですから、これくらい我慢してもらわないと。
ただ、もちろん鞭の後には飴を、というわけでもないですけど。
そのまま、おかあさんの体に抱きつきました。
「本当に……怖かったんですから」
大切な人を、失ってしまっていたら、そう思うと怖くて、怖くて。
こうして生き延びてくれて、安心しました。
こんなこと、恥ずかしくて言えないですけど。
【ヒガンバナ】
「……かッ……勝手に、死ぬつもりは、無かったんだがなぁ……」
正直心臓が痛くて、また止まりそうなんだが。だが。
一応弁解すると、私は死ぬ予定は無かった。本気で。
まさかちょっと鋭そうとは思っていたけど、Celestia二人目がこころとは思わないだろう。
あれなのか、Celestiaは幼女にされるのか？
「……すまなかった……私も、Azothだったからな。
……エムには、心配なぞかけたくなかったのだが。」
最初に会った時、お母さんと呼ばれたのは。
……本心から、嬉しかった。
だから、彼女は護りたかった、それも本当の事で。
【エム】
「…………本当に、『エム』に変な心配をかけさせないでほしいね。
まったく、演技していた役に主導権とられるなんて、いままでにない経験だよ」
――――少しだけ交代してくれ『エム』。僕も彼女には言いたいことがあるんだ。
そして、表に出てきたのは『ボク』
『エム』を作った役者、今回一番面倒なことになってしまった自信がある僕だ。
もちろん、生きてる人間の中で開始時点との差異という意味でだけどね。
「君のせいでこれから先、頭の中で幼女を飼うはめになった僕の気持ちわかるかい？
本当にとんでもないことしてくれたよ」
話すのはだいたい恨み節。
『エム』という自我が確立してしまった要因であり、『エム』のなかで大きくなりすぎた存在であるヒガンバナ。
まあ、彼女からしたら僕とは初対面なんだろうけど、そんなこと知ったことではない。
これくらいはは許してほしい、エムと同じようにね
【ヒガンバナ】
「……成る程、演技か……ハハハ、そりゃあ大変だろうな。
なに、これからは心配させない様に気を付けるさ。
これまでだって、まともを演じてきたからな。」
どうやら雰囲気が違うので、今話しているのは『エム』ではないらしい。
全く、Celestiaは(以下略
「まあ、考えてもみろ。
本気で守りたいと思った相手が演技だったら悲しいだろう？
別人格なら、まだ許せるがな。」
本当に娘の様に思った者が、只の演技で消えてしまう物だったとすれば、残ってくれただけでも良い。
……ただ、エムの元の姿……ゴツい男だったら、なんだか少し嫌だな。
【エム】
「敵に可哀想、なんて思うほど僕は優しくなんてないよ。『エム』のこと守りたかったなら、そこにつけ込んで殺してたよ」
そう、僕はそんな奴。
与えられた役目を全うするなら、どんな手だって使う。
それが他人を騙すような行為でも、貶めるような所業でも、なんだってする。
だからこそ、人畜無害な幼女の姿を演じていた。
あそこまで警戒心を削ぎ落とせるキャラ、そうそういないだろうから。
だからこそ――――本当に嫌になる。
「もうそんなこと、出来なくなったけどね。
責任を取ってくれよ、ヒガンバナ。『エム』の面倒はちゃんと見てくれ。僕じゃ手に負えない」
演じていたものが、ここまで大きくなって。
知らないうちに、人格になって。
僕の体が乗っ取られる。
本当に嫌になる。
でも、これはこれで面白くはあるかもしれない。
そんなことを僕は思ってたりする。
一人じゃなくて二人なら、何かと都合がいいかもしれない。
意思疎通がはかれるのなら、暇な時にでも会話が出来るだろうし。
自分の意思で『交代』が出来るなら、うっかり人前で『エム』が表に出てくることも無い。
使い勝手は、まだいい方なのかもしれない。
実際の多重人格なんて、僕は知らないからこんなことが言えるけど。
だからこそ、責任はとってもらう。
『エム』に悲しまれたら、僕が恥をかくは目になるんだから。
元の姿では、ね？
【ヒガンバナ】
「そりゃあ酷いな、まんまと敵の罠に嵌まってた訳だ。
……なに、もうAzothは辞めた……と言うか辞めさせられた？一度死んだらなんか色々無くなるからな……復活システムがあるのに、それもどうかと思うのだが……
まあ、とどのつまり……エムの事は任せておけ。」
責任は取るさ。
曲がりなりにもお母さんと呼んでくれるなら、それなりに、良い母ではあろうと努力しよう。
そうしている内に、人斬りも止められそうな気もする。
【エム】
「あぁ、頼んだよ」
――――ほら、僕の言いたいことは終わった。交代だよ『エム』
向こうに行ったら僕がメインになるんだ、この体の時くらいは好きにやっておくんだよ。
なんて、エムにお父さんみたいなことを言ってきました。
『ボク』に言われるまでもなく、そうするつもりですよ。
「……じゃあ、ちゃんと責任とってもらいますね」
『エム』に戻って、にこりと微笑みます。
セレスティアが最後まで生き残れば、救える人を選択できる。
それの中のひとつを、お母さんに使うことにします。
本当なら、ロティさんも救ってあげたかったけど、それは難しそうですから、向こうに帰ってまた会えることを祈りましょう。
あと一人は、誰にしましょうか。
【ヒガンバナ】
「任せろ。
こう見えて、家事やらも得意なんだぞ？
……っと、そう言えば普通にエムも高校生だから、その心配は要らないか？」
なんか幼い養子でも引き取る気でいたが、一応は高校生なのを思い出した。
まあ、一先ずは可愛いらしい彼女の頭を優しく撫でる。
また、こうする事が出来ただけでも、生きてて良かったと思える。
【エム】
「『ボク』は料理もできるから、大丈夫だよ。
おかあさんのご飯も食べてみたいけどね」
こうして撫でられるのも、いつぶりでしょう。
気持ちよさそうに撫でられておきます。
向こうの体でこんなことしてたら、相当気持ち悪がられるでしょうから、今のうちです。
なんて、向こうに行ったらおかあさんが男か女かも分からないわけですから、お互い様かもしれませんが。
【ヒガンバナ】
「そうだな、何時かご馳走してやるさ。」
本当に、可愛い娘だ。
今なら、ずっと悩んでいた事も忘れられ、殺しあいなんかも関係無くなる。
ああ、案外と、私も狂っていなかったのだろうか。
「……それにしても、Celestiaか……どちらにしても私は負けていたんだろうな。
……さて、恐らくもうじきゲームも終わるだろうし。
Celestiaのエムはどうするつもりだ？
私はこうして最後の時まで、お前さんを撫でていられれば構わないのだが。」
最後の足掻きは何をするんだろうか。
私は分からないけれども。
【エム】
「そうですね……エムも終わるのを待つだけです。
……あぁでも、最後に一回くらい、また温泉に行きたいですね」
助ける人は、もう決めました。
そして、それをするにはゲームセットを待つだけ。
それまでの時間を、お母さんと一緒に過ごせればいいなって。
だから、初めてお母さんとあった温泉にもう一回行って、ゆっくり温泉に浸かってみたいのです。
温泉幼女復活です、なんちゃって。
【ヒガンバナ】
「温泉か、賛成だな。
私もあの温泉は好きだ。」
結局、入ろう入ろうと思いつつも、ちゃんと入ったのはその一回位か。
思い出すと心残りなので、最後の時間はそこで過ごそうと思う。
「……では行こうか、エム。」
立ち上がってから、エムに手を差し伸べる。
……自分では分からないが、きっと良い笑顔にはなっている筈だ。
【エム】
「うん！」
そう元気よく返事して、差し伸べられた手を取りました。
おかあさん、嬉しそうでよかったな。
そんなことをこっそりと考えながら立ち上がって、さあ行こうと、お母さんの手をひいていきます。
きっと、エムもお母さんと同じくらいいい笑顔をしてるんだろうなって。
背負わずにいる 3rd-14th
五番目の道化師(3rd)-聖☆ビキニマン(14th)
【五番目の道化師】
これが、たぶん最後のピエロメイクだと思う。
私は誰もいない公園で独り、道化師としてそこにいた。
「クヒヒッ、誰もいませぇんが…ワタクシィ、五番目の道化師の最後の曲芸を始めたいとぉ、思いまぁす☆」
こうでもしてないと…また泣いてしまうから。
コロパットの録画機能を使いながら挨拶をする。まるで、舞台に立っているかのように…。
道化師らしく私は笑う。
【聖☆ビキニマン】
「ほう、曲芸も出来るのか。いや、ピエロ、っつーくらいだ。そら出来るか。」
その周りから、声がした。
巨体は影もなく、声だけの弱々しいものだが、確かにその声はまだ優しさを持っていた。
「んじゃ、一つ見せてもらおうか。なに、するんだい？」
【五番目の道化師】
「おや、嬉しいですねぇ…観客が来てくれるなんて…」
呟くように言った道化師は目を瞑っていた。
「では！まずはジャグリング！」
ポン、ポン、と何処からかジャグリングボールを取り出してジャグリングを始める。はじめは単調なジャグリングだったが徐々にボールが増え、流れが変わる。
道化師の背後から人が乗れる大きさの玉が転がってきて…道化師はそれを目視することもなく全ジャグリングボールを高く放り投げて、玉に飛び乗り…ジャグリングボールを一つも落とすこともなくキャッチし、ジャグリングを再開したのだ。
【聖☆ビキニマン】
「おぉ！なんだなんだ、どっから出してんだソレ！？」
ジャグリングも凄いが、手品染みた物の出し方も凄かった。
「いいね、やっぱりピエロってのはこういう芸がよく映える！」
【五番目の道化師】
「まぁだ…驚くのは早いでぇす☆」
気をつけろ、次はミスをしやすいぞ。
道化師としての私は笑みを崩すことなくボールの上からポヨンっと、飛び上がり空中で一回転した。すると今までジャグリングボールだったモノは消え、紙吹雪と化してバランスボールに着地した私を祝福するかのように舞った。
「次はこれでぇす☆」
そう言って私が次の演目の道具を取り出そうとしたところで…不意にパンっという破裂音が響きバランスボールが───割れた。
「きゃあッッ！！！？」
不意に失われた足場…私はそのまま地面に落ち───
【聖☆ビキニマン】
「お、おい大丈夫か！？…悪い、俺、もう身体がねえから……手も貸せねえけど…！」
不安そうな声。しかし、事実彼は手も足も出ないのだ。
【五番目の道化師】
「ぅ…大丈夫でぇす」
道化師は目を開けることはない。
「トラブルが起きましたがぁ、ご心配なく☆次なる演目でぇす☆」
道化師は倒れたその身を起こすと…へらりと笑った。
「次は───」
次はナイフ投げだ。
【聖☆ビキニマン】
「お、おいおい大丈夫か？…ま、気を取り直して…的はなんだい？」
やんややんやと囃し立て。
【五番目の道化師】
「空をごらんくださぁい！！」
天を、指差しそこに浮かぶものを示す。
そこに浮かぶのは───先ほど紙吹雪と化したはずのジャグリングボールだ。浮かぶはずのないものが空中で静止しているだけでも不可思議なのに…いったいどうやってタネを仕込んだのやら。
「ワタクシィが投げるはこの銀色のナイフ！食器のナイフ故刺しにくいので失敗したらぁ、笑ってごまかしてくださぁい！！」
【聖☆ビキニマン】
「あっはっはっは！」
先 に 笑 っ て お き ま し た
【五番目の道化師】
「おおっとぉ？失敗すること前提でぇすか…まぁ、いい」
道化師たる私はここで目をあけた。
「『────』…」
誰にも聞こえないように口だけを動かし…ナイフを投擲した。すると───空中に静止していたジャグリングボールがナイフが刺さった状態で雪の上に落ちた。
「………、どうでぇす？ワタクシィの曲芸も見れるものでしょう？」
私は笑う。
しかし、先制して笑ったから少し、怒気の籠った笑みだったと明記する。
【聖☆ビキニマン】
「おお……いや、悪かった。降参だ。」
お手上げのポーズ……をする手は、もうないのだが。
「アンタの腕みたいな筋肉で、無理くり食器ナイフなんざ刺すのは難しいと思ったんだ。……良い技じゃあないか。」
【五番目の道化師】
「そりゃ、研磨してれば金属は刺さりまぁす☆」
私はコロパットの録画を止めてからそう言うが…。ナイフ、研磨してないですね。しかも、ナイフは丸みを帯びたタイプの中々キレないもので…
「はぁ…」
道化師はこの動画を共通チャットに上げながら深い溜め息を吐いた。
「こんな業、あっても使い道ないって」
どうせ、生きてたって帰れる保証ないし。
【聖☆ビキニマン】
「……いやあ、いい技だよ。」
だって、とても楽しかった。
「俺は、身体を鍛えた。それは、誰かを護りたかったからで……でもさ、それって、護ることしかできないんだよ。」
……しかも、それすら確証はない。事実、俺は何も護れなかった。
「ピエロの技はさ、楽しいんだ。誰かを救える技だ。…誰かを傷付ける強さなんて論外で、誰かを護るための強さなんて、傷付ける誰かがいなくなったら無用の長物さ。でも、誰かを救う強さ、っていうのは、なによりも尊いもんだとおもうぜ？」
【五番目の道化師】
「こんな業なんかあったって、あたしにはただ一人も救えなかったッ！！こんな業あったって…楽しさなんて───なんの役にもたちやしないじゃない…っ！！」
だって、仲良くなった友人も、恋人になった彼も死んだんだから。しかも、今の現状…生きて帰れる可能性は限りなく低い。私は──彼の分まで生きる。その願いすら叶えることが出来ない…っ！！
「死にたくない、けど洗脳も奴隷になるのも嫌ッ！！セレスティアが生きてくれている保証はない！！もし、セレスティアが生きていても私を救ってくれるはずなんてない！！選ばれなかった私は……っ！！」
選ばれなかった私は───死を待つだけ。
アゾートが誰なのかも、セレスティアが誰なのかもわからないあたしには……生き残るためだけに媚を売ることも不可能だ。
【聖☆ビキニマン】
「俺は今、救われたさ。」
事実だった。
死んで、霊体になって。
諦観に塗れた彼を、救ったのはその技であった。
「死にたくねえ、奴隷も嫌だ……なら、足掻くしかねえだろ。セレスティアに媚売るのも嫌だっつーなら、頭ぁ使って勝ち取りな。」
とはいえ、こんな発破、掛けられた立場じゃあない。
「俺は、駄目だったがよ…俺らは、たとえお前がどんな終わりを迎えようとも、お前を見てる。」
大体、死ぬのが嫌だとはなんだ。皮肉か？目の前にいるのは死人であるぞ。
「安心して抵抗しろ。足掻いて、足掻いて、それでもダメならニンマリ笑って諦めな！…………フフン、死んじまったら、一緒にあの世で騒ごうぜ。」
【五番目の道化師】
「くっ、あはははは！！いいよ。もし、本当にダメで死んだら『皆で』騒ごう。そうしたら、また別の曲芸でもしながら馬鹿騒ぎを盛り上げてあげる」
泣いていても、しかたないか。だって、道化師が泣いたら…笑わせる人がいなくなるしね。
「生きても死んでも笑うよ、これからは。だって、道化師だし？」
まぁ、未熟だからなんの道化師なのか名はもらってないけど。
【聖☆ビキニマン】
「ようし、その意気だ！」
ニヤリと笑った気配がする。
勿論、笑う顔もないのだが。
「……じゃあよ、こいつは独り言なんだが。」
雰囲気が変わる。
といっても、優しい、という一点において、それは今までと共通している。
「よく、死んだ奴を背負って、なんざ宣う馬鹿がいるけどよぉ、俺らからすりゃあ良い迷惑だ。」
「死人に口なし。代弁なんざするんじゃあねえ。人は、忘れられた時に初めて死ねるんだ。……とっとと忘れて、寝かしてくれや。そんで、こっちに来たら思い出せ。……勘違いなら悪いんだけどよ…お前を見てるのは、俺らだけでもねえんだ。きっと、誰か、お前がいつか会う誰かが、お前を待ち望んでるんだ。」
足掻いて駄目なら諦めてもいい、とは言った。
「でもそれは、足掻かずに諦めていい、って意味じゃあないんだ。俺ぁお前に励まされに来て、お返しに励ましたつもりじゃああるけどよ、それは俺達死人に縛られろってことじゃあねえの、覚えといてくれや。」
【五番目の道化師】
「もう、死人に縛られるつもりはないよ。柏木くんもいつまでもウジウジしてるのは迷惑だろうからね。あの世、もしくは来世に期待するよ」
自分が逆の立場だったらウジウジされるのは正直困るしね。
「んー…とりあえず、生きてる人でも探そうか。アゾートでも、セレスティアでもいい。『媚を売るのは嫌』！なんて言ってたら本格的に死にかねない」
ケラケラと笑いながら。
今は生き残る術を探すのが最優先事項だな。
「やっぱわがまま言ってても、足掻きもしないでまた死者の仲間入りは嫌だからね。ダメだったらダメだったらでスッパリ諦めるさ」
【聖☆ビキニマン】
「……なら、いいのさ。」
身体が、実体を保てない。
崩れていく。
死ぬだとか、そういう話ではない。
もう、居てはいけないと悟ったのだ。
死人に口なし、眠らせてくれ。……嗚呼、嘘ではないさ。
けれど、本当は生きたかった…！
皆とまた遊びたかった。
皆とまた学校に行きたかった。
馬鹿話をして、授業を寝て、家に帰って、明日も退屈だろうと床に就く。
そんな日常の、なんと得難いことか！
なんで信用してくれなかった！？
なんで助けを求めなかった！？
なんで、俺は間に合わなかった！？
逆恨みかもしれない。呼んでくれなかったあいつらが、あいつらを殺した誰かが、黒幕が、自分が、何よりも憎い！
道化師の、”誰かを救える“技が妬ましい！
だけど……俺はもう、終わったんだ。
目の前の道化師に全てぶちまけるのは簡単。だがそうしたら、もう二度と俺は俺を許せない。
だから、今日は眠るのだ。
全てを抱えて、俺は逝く。
「頑張れよ……！」
俺の諦念は、救われた。
だが、俺の全ては、救われなかった。
……これでよかったのだ。
そう言い聞かせて、意識は沈んでいった。
【五番目の道化師】
「あぁ、頑張るよ」
気配が消えた。どうやら幽霊には人と話せる時間制限があったらしい。
「…………」
私はとある文章を共通チャットに打ち込んで、その場を去るのだった。
【五番目の道化師】
これが、たぶん最後のピエロメイクだと思う。
私は誰もいない公園で独り、道化師としてそこにいた。
「クヒヒッ、誰もいませぇんが…ワタクシィ、五番目の道化師の最後の曲芸を始めたいとぉ、思いまぁす☆」
こうでもしてないと…また泣いてしまうから。
コロパットの録画機能を使いながら挨拶をする。まるで、舞台に立っているかのように…。
道化師らしく私は笑う。
【聖☆ビキニマン】
「ほう、曲芸も出来るのか。いや、ピエロ、っつーくらいだ。そら出来るか。」
その周りから、声がした。
巨体は影もなく、声だけの弱々しいものだが、確かにその声はまだ優しさを持っていた。
「んじゃ、一つ見せてもらおうか。なに、するんだい？」
【五番目の道化師】
「おや、嬉しいですねぇ…観客が来てくれるなんて…」
呟くように言った道化師は目を瞑っていた。
「では！まずはジャグリング！」
ポン、ポン、と何処からかジャグリングボールを取り出してジャグリングを始める。はじめは単調なジャグリングだったが徐々にボールが増え、流れが変わる。
道化師の背後から人が乗れる大きさの玉が転がってきて…道化師はそれを目視することもなく全ジャグリングボールを高く放り投げて、玉に飛び乗り…ジャグリングボールを一つも落とすこともなくキャッチし、ジャグリングを再開したのだ。
【聖☆ビキニマン】
「おぉ！なんだなんだ、どっから出してんだソレ！？」
ジャグリングも凄いが、手品染みた物の出し方も凄かった。
「いいね、やっぱりピエロってのはこういう芸がよく映える！」
【五番目の道化師】
「まぁだ…驚くのは早いでぇす☆」
気をつけろ、次はミスをしやすいぞ。
道化師としての私は笑みを崩すことなくボールの上からポヨンっと、飛び上がり空中で一回転した。すると今までジャグリングボールだったモノは消え、紙吹雪と化してバランスボールに着地した私を祝福するかのように舞った。
「次はこれでぇす☆」
そう言って私が次の演目の道具を取り出そうとしたところで…不意にパンっという破裂音が響きバランスボールが───割れた。
「きゃあッッ！！！？」
不意に失われた足場…私はそのまま地面に落ち───
【聖☆ビキニマン】
「お、おい大丈夫か！？…悪い、俺、もう身体がねえから……手も貸せねえけど…！」
不安そうな声。しかし、事実彼は手も足も出ないのだ。
【五番目の道化師】
「ぅ…大丈夫でぇす」
道化師は目を開けることはない。
「トラブルが起きましたがぁ、ご心配なく☆次なる演目でぇす☆」
道化師は倒れたその身を起こすと…へらりと笑った。
「次は───」
次はナイフ投げだ。
【聖☆ビキニマン】
「お、おいおい大丈夫か？…ま、気を取り直して…的はなんだい？」
やんややんやと囃し立て。
【五番目の道化師】
「空をごらんくださぁい！！」
天を、指差しそこに浮かぶものを示す。
そこに浮かぶのは───先ほど紙吹雪と化したはずのジャグリングボールだ。浮かぶはずのないものが空中で静止しているだけでも不可思議なのに…いったいどうやってタネを仕込んだのやら。
「ワタクシィが投げるはこの銀色のナイフ！食器のナイフ故刺しにくいので失敗したらぁ、笑ってごまかしてくださぁい！！」
【聖☆ビキニマン】
「あっはっはっは！」
先 に 笑 っ て お き ま し た
【五番目の道化師】
「おおっとぉ？失敗すること前提でぇすか…まぁ、いい」
道化師たる私はここで目をあけた。
「『────』…」
誰にも聞こえないように口だけを動かし…ナイフを投擲した。すると───空中に静止していたジャグリングボールがナイフが刺さった状態で雪の上に落ちた。
「………、どうでぇす？ワタクシィの曲芸も見れるものでしょう？」
私は笑う。
しかし、先制して笑ったから少し、怒気の籠った笑みだったと明記する。
【聖☆ビキニマン】
「おお……いや、悪かった。降参だ。」
お手上げのポーズ……をする手は、もうないのだが。
「アンタの腕みたいな筋肉で、無理くり食器ナイフなんざ刺すのは難しいと思ったんだ。……良い技じゃあないか。」
【五番目の道化師】
「そりゃ、研磨してれば金属は刺さりまぁす☆」
私はコロパットの録画を止めてからそう言うが…。ナイフ、研磨してないですね。しかも、ナイフは丸みを帯びたタイプの中々キレないもので…
「はぁ…」
道化師はこの動画を共通チャットに上げながら深い溜め息を吐いた。
「こんな業、あっても使い道ないって」
どうせ、生きてたって帰れる保証ないし。
【聖☆ビキニマン】
「……いやあ、いい技だよ。」
だって、とても楽しかった。
「俺は、身体を鍛えた。それは、誰かを護りたかったからで……でもさ、それって、護ることしかできないんだよ。」
……しかも、それすら確証はない。事実、俺は何も護れなかった。
「ピエロの技はさ、楽しいんだ。誰かを救える技だ。…誰かを傷付ける強さなんて論外で、誰かを護るための強さなんて、傷付ける誰かがいなくなったら無用の長物さ。でも、誰かを救う強さ、っていうのは、なによりも尊いもんだとおもうぜ？」
【五番目の道化師】
「こんな業なんかあったって、あたしにはただ一人も救えなかったッ！！こんな業あったって…楽しさなんて───なんの役にもたちやしないじゃない…っ！！」
だって、仲良くなった友人も、恋人になった彼も死んだんだから。しかも、今の現状…生きて帰れる可能性は限りなく低い。私は──彼の分まで生きる。その願いすら叶えることが出来ない…っ！！
「死にたくない、けど洗脳も奴隷になるのも嫌ッ！！セレスティアが生きてくれている保証はない！！もし、セレスティアが生きていても私を救ってくれるはずなんてない！！選ばれなかった私は……っ！！」
選ばれなかった私は───死を待つだけ。
アゾートが誰なのかも、セレスティアが誰なのかもわからないあたしには……生き残るためだけに媚を売ることも不可能だ。
【聖☆ビキニマン】
「俺は今、救われたさ。」
事実だった。
死んで、霊体になって。
諦観に塗れた彼を、救ったのはその技であった。
「死にたくねえ、奴隷も嫌だ……なら、足掻くしかねえだろ。セレスティアに媚売るのも嫌だっつーなら、頭ぁ使って勝ち取りな。」
とはいえ、こんな発破、掛けられた立場じゃあない。
「俺は、駄目だったがよ…俺らは、たとえお前がどんな終わりを迎えようとも、お前を見てる。」
大体、死ぬのが嫌だとはなんだ。皮肉か？目の前にいるのは死人であるぞ。
「安心して抵抗しろ。足掻いて、足掻いて、それでもダメならニンマリ笑って諦めな！…………フフン、死んじまったら、一緒にあの世で騒ごうぜ。」
【五番目の道化師】
「くっ、あはははは！！いいよ。もし、本当にダメで死んだら『皆で』騒ごう。そうしたら、また別の曲芸でもしながら馬鹿騒ぎを盛り上げてあげる」
泣いていても、しかたないか。だって、道化師が泣いたら…笑わせる人がいなくなるしね。
「生きても死んでも笑うよ、これからは。だって、道化師だし？」
まぁ、未熟だからなんの道化師なのか名はもらってないけど。
【聖☆ビキニマン】
「ようし、その意気だ！」
ニヤリと笑った気配がする。
勿論、笑う顔もないのだが。
「……じゃあよ、こいつは独り言なんだが。」
雰囲気が変わる。
といっても、優しい、という一点において、それは今までと共通している。
「よく、死んだ奴を背負って、なんざ宣う馬鹿がいるけどよぉ、俺らからすりゃあ良い迷惑だ。」
「死人に口なし。代弁なんざするんじゃあねえ。人は、忘れられた時に初めて死ねるんだ。……とっとと忘れて、寝かしてくれや。そんで、こっちに来たら思い出せ。……勘違いなら悪いんだけどよ…お前を見てるのは、俺らだけでもねえんだ。きっと、誰か、お前がいつか会う誰かが、お前を待ち望んでるんだ。」
足掻いて駄目なら諦めてもいい、とは言った。
「でもそれは、足掻かずに諦めていい、って意味じゃあないんだ。俺ぁお前に励まされに来て、お返しに励ましたつもりじゃああるけどよ、それは俺達死人に縛られろってことじゃあねえの、覚えといてくれや。」
【五番目の道化師】
「もう、死人に縛られるつもりはないよ。柏木くんもいつまでもウジウジしてるのは迷惑だろうからね。あの世、もしくは来世に期待するよ」
自分が逆の立場だったらウジウジされるのは正直困るしね。
「んー…とりあえず、生きてる人でも探そうか。アゾートでも、セレスティアでもいい。『媚を売るのは嫌』！なんて言ってたら本格的に死にかねない」
ケラケラと笑いながら。
今は生き残る術を探すのが最優先事項だな。
「やっぱわがまま言ってても、足掻きもしないでまた死者の仲間入りは嫌だからね。ダメだったらダメだったらでスッパリ諦めるさ」
【聖☆ビキニマン】
「……なら、いいのさ。」
身体が、実体を保てない。
崩れていく。
死ぬだとか、そういう話ではない。
もう、居てはいけないと悟ったのだ。
死人に口なし、眠らせてくれ。……嗚呼、嘘ではないさ。
けれど、本当は生きたかった…！
皆とまた遊びたかった。
皆とまた学校に行きたかった。
馬鹿話をして、授業を寝て、家に帰って、明日も退屈だろうと床に就く。
そんな日常の、なんと得難いことか！
なんで信用してくれなかった！？
なんで助けを求めなかった！？
なんで、俺は間に合わなかった！？
逆恨みかもしれない。呼んでくれなかったあいつらが、あいつらを殺した誰かが、黒幕が、自分が、何よりも憎い！
道化師の、”誰かを救える“技が妬ましい！
だけど……俺はもう、終わったんだ。
目の前の道化師に全てぶちまけるのは簡単。だがそうしたら、もう二度と俺は俺を許せない。
だから、今日は眠るのだ。
全てを抱えて、俺は逝く。
「頑張れよ……！」
俺の諦念は、救われた。
だが、俺の全ては、救われなかった。
……これでよかったのだ。
そう言い聞かせて、意識は沈んでいった。
【五番目の道化師】
「あぁ、頑張るよ」
気配が消えた。どうやら幽霊には人と話せる時間制限があったらしい。
「…………」
私はとある文章を共通チャットに打ち込んで、その場を去るのだった。
無意味でも無価値でもない 9th-20th
マリア(9th)-あいごころ。(20th)
【あいごころ。】
｢…｣
ああ、やっちゃたんだね。ついに。…まあ、相手がazothであったからの決断だったんだけれども。…でも、仕方ないよね？
…まだ、全身が震えてる。これは、悲しんでるからじゃないね。…歓喜。つまり、喜びからくる涙。ついに悲願が達成されたような、そんな涙。…この場合の悲願っていうのは、とても悪趣味なことなんだけれども。
｢…あは、｣
乾いた笑いがこぼれた。…この笑いは、一体誰の笑い声なのか、わからないけれど。
何気なく、持ってきたものを眺める。それは、彼岸花。…彼女の頭に咲いていた、あの花だ。…ああ、ごめんね？ありがとう？
…こころは、彼女になんて声をかければ良かったんだろうね。
【マリア】
『気持ち悪い笑い方をするわね、貴方。』
さて、最後の事業だ。
悪いが、私は生存が半ば決まっている。誰かをまた踏み台にして。
であるなら、誰かを。
誰かを救わねばなるまい。
なので私は動いていた―――――
と、解釈してくれて良い。
いや。
私に言わせれば、ペテンにかけにきた、で良いな。
馬鹿め。救いなどするか。
騙すんだぜ。
ああいう。
一番ヤバそうなやつ。
それを、私は標的とした。
『どうしたのかしら―――――』
飄々と、私は声をかける。
どこぞのお化けを思い出すような軽薄さだった。ぞっとする。
しかし、何故私が彼女に行ったか。勝算などまさか無い。
単に。
あの彼岸花に――――――
『人殺しでもしたの？』
見覚えがなくも無かったから。
【あいごころ。】
｢…よくお気づきで。｣
なんだか、こんな気分の時になにやら人が来た。…ああ、嫌だね。こんな気分は。
仮面は…ああ、そういえば置いてきたんだった。あの人の所に。…もう、必要ないって思ってたから。
｢…ま、そんなところかな。それで、なにか？まさか人殺しなんて、と言いに来たわけじゃあるまいに。｣
少しだけ棘のある言い方になったかな。まあ、それも仕方ないと思う。
…内なる狂気は今、こころの中では落ち着いてきてる。しばらくは、大丈夫。
…仮面を、被ろうか。今しばらくね。
少し深呼吸して、相手を見て、ニッコリと笑う。
また、この時間がやってきたみたいで。
【マリア】
『人殺し？まさか。
今生きてる奴をどう殺したの。』
やれやれ、こいつもイかれているタイプか、全く。
そのくせ、それを隠せる。
ヒガンバナのヤツめ。
随分、無理難題を押し付けて来たものだ。焼肉を奢らせよう。
寿司でも良い。
死ぬほど食ってやるぞ。
さて、何がともあれ、だ。
ペテン師が金を払われたら、ペテンにかけないとな。
まあまずは出鼻をくじいてやる。
実際、生き返らせたしな。
これで、主導権を握る。
『いや、単に―――………
何か、"そんな程度"でイカれたフリをしてるやつを、馬鹿にしに来ただけよ。』
あーあ。
また喧嘩を売る。
最低である。
『貴方が殺したヒガンバナは、貴方になんで殺されたと思う？』
だが。
ギアが入った。
【あいごころ。】
｢今生きてるやつ…？あぁ。なるほど！｣
ああ、これは嫌いなタイプかもなぁ。仕方ない、演じてみようか。こんな拙い演技だけれども、許してね？
｢生き返らせたんだね。…確かに、いい人だもんね、ヒガンバナさん！
…そんな程度かぁ。…言われてみればそうかもね。｣
今のこころには人殺しがどれほどの事なのかが分からない。だから、ここは曖昧に。
うん、今1度復唱しようか。何も気づかないでいよう。何も分からないでいよう、それが、こころのスタンス。
｢なんで…さあ、こころにはわかんない！…教えてくれるのかな？｣
あえて笑顔で。その答えがこころにはわからないはずだからね。狂人には、常人のことはわからない、からね。ニコニコと、ただ笑っていようじゃないか。
さあ、答えは、なんなんだろう？
【マリア】
『良い奴か？あいつ。』
つい。
つい、口の悪さが出た。
地の文らしきものが出た。
私は案外口が悪いやつなので、割と頑張って取り繕っていたりするのだが、それすら取れた。
私の感情はそれだけ揺れたと言って良い。両手潰されたんだが、その良いやつとやらに。
ふざけるのも大概にしろ。
とは言わず、私は続ける。
『貴方の為を思ってだそうよ。
人を殺して来た罪滅ぼしに、せめて大切な貴方に…ってさ。』
知るか。んな話はない。
あるいは事実かも知れないんじゃないか、という疑いがなくもないが、私に言わせれば気持ち悪い。
いや無理だろ。
ひとのために死ぬとか。
さて、地雷を踏んだらサヨウナラだが、地雷を探ろうか。
『バカみたいよね。』
バカみたいな話を作ったのは私自身だが、バカな依頼をしたのはあいつだ。まあ、バカな依頼を受けたのは、私だが。
『貴方みたいな、人殺しになんの責任もない無意味な奴にそれをやるなんて、信じられないわ。』
そして、言葉の弾丸に撃鉄を叩き付けていく。
『聞かせてよ。貴方は、彼女を殺して、どう考えた？正直無意味に殺害して、実際、有意義に使えた蘇生のゾディアックを、命を、嬲り去った気持ちはどうなのか。
あなたは。
何故―――――
そんなに、自分が好きなのか。』
ペテン、ペテン、ペテン。
私は大体、こいつの事など知らない。知らないが――――
それらしくするコツはある。
【あいごころ。】
｢…無意味、ね。｣
こころが無意味。か。…あは、それは確かにそうだね。わかってるよ。だからこそ、こころは“壊れかけた”んだからね？
｢うん、そうだね。こころは無意味だ。…なんでそんな人に慈悲をかけるのか、こころにはわからない。｣
意味を与えようとしたのかな？こころみたいにね。
うん。わかってる。こころは無価値なんだよ。無意味なんだよ。だって、いっかい“死んでいる”からね？だから、わかってる。…ああ、前の私ならこんなこと言われてたら怒ってたね？でも、今は違うんだぁ。…こころ、素直だから。
｢こころは、ヒガンバナさんを殺して。…うん、楽しかったかな。そしてその後のことはどうでもよかった。…でも、少しだけ寂しくもあったなぁ…｣
一呼吸おいて。
｢…こころは、“素直”だから。｣
そういってまたニッコリと。ああ、この素直って言葉をここで使うなんて。本当に、悪趣味なのかもね。
【マリア】
馬鹿め、急所は隠すものだぜ。
私は、内心そう呟きつつ。
敢えて迂回する。
『素直？』
吹き出しかけた。
変な上ずり方をした。
悪いが、お前も気付いてないのかもしれないが―――――
『幼い、の間違いでは？』
それは少しやらかしてるんだぜ。
詐欺師に言わせれば、預金通帳を手渡したようなものだ。
『大体…無意味とか、自分で言っているのが第一胡散臭い。』
――――既成事実の一端を握らせたんだからな。
『自分で決めた無意味ほど、気持ち悪いものは無いんだぜ。
無意味を肯定するのは、結局貴方の価値観に過ぎない。無意味だとか認めておきながら、一々何が意味があって、何が意味が無いか。
それを自分だけで決めている。
単一の価値観しかない。
卑屈なことを言う割に、本当はガキの癇癪以下じゃない。
貴方は単に――――自己愛で、世界が終わってるだけよ。
それを、素直で上塗りして、免罪符にして、しまい込んだものが薄っぺらいのを隠してる。』
さて、まだ行く。反論の余地など与えてたまるか。
『何の大義名分があるかは知らない。何があったから狂ったとか、そんな錆びた鍵を握ってるんだろうけれど………貴方は結局、何かの為にはそうなっていない。
実際。人のせいにしただけ。』
【あいごころ。】
｢おおーいうねー｣
こころってここまで言われるほどの何かをしたでしょうか。…まあ。いいや。
｢自己愛？うん。それがどうかしたのかな？｣
ニッコリと笑って。
｢だから言ってるじゃないかぁ。素直だって。まあ、どういう意味で捉えるかは置いておいて。｣
何も気づかない。相手の言っていることがどこまで正しいかなんて。
何も察しない。相手の言っていることの裏なんてわかっていないように。…あるかしらないけどね。
｢人のせいにするのも結局考え方次第だもんねぇ…全部こころが悪いっていえばいいのかなぁ。うん。確かにそっちの方が綺麗かも？ああ、別にいいよ。君の言っていることは全部正しい…いや、少し違うところがある、かな。｣
うーん、と頭をひねったようにして。両手を上に。
…俗にいう万歳のポーズ。
｢こころはね！幼い、じゃなくて素直。それも、自己愛のための、ね？｣
自分のことをさらけ出すことに抵抗なんてないよ。別に相手を騙す意義も感じられないから。
…ああ、なんだろうね。なにかが、根本的にズレているような…
【マリア】
馬鹿め、急所は隠すものだぜ。
私は、内心そう呟きつつ。
敢えて迂回する。
『素直？』
吹き出しかけた。
変な上ずり方をした。
悪いが、お前も気付いてないのかもしれないが―――――
『幼い、の間違いでは？』
それは少しやらかしてるんだぜ。
詐欺師に言わせれば、預金通帳を手渡したようなものだ。
『大体…無意味とか、自分で言っているのが第一胡散臭い。』
――――既成事実の一端を握らせたんだからな。
『自分で決めた無意味ほど、気持ち悪いものは無いんだぜ。
無意味を肯定するのは、結局貴方の価値観に過ぎない。無意味だとか認めておきながら、一々何が意味があって、何が意味が無いか。
それを自分だけで決めている。
単一の価値観しかない。
卑屈なことを言う割に、本当はガキの癇癪以下じゃない。
貴方は単に――――自己愛で、世界が終わってるだけよ。
それを、素直で上塗りして、免罪符にして、しまい込んだものが薄っぺらいのを隠してる。』
さて、まだ行く。反論の余地など与えてたまるか。
『何の大義名分があるかは知らない。何があったから狂ったとか、そんな錆びた鍵を握ってるんだろうけれど………貴方は結局、何かの為にはそうなっていない。
実際。人のせいにしただけ。』
【あいごころ。】
｢おおーいうねー｣
こころってここまで言われるほどの何かをしたでしょうか。…まあ。いいや。
｢自己愛？うん。それがどうかしたのかな？｣
ニッコリと笑って。
｢だから言ってるじゃないかぁ。素直だって。まあ、どういう意味で捉えるかは置いておいて。｣
何も気づかない。相手の言っていることがどこまで正しいかなんて。
何も察しない。相手の言っていることの裏なんてわかっていないように。…あるかしらないけどね。
｢人のせいにするのも結局考え方次第だもんねぇ…全部こころが悪いっていえばいいのかなぁ。うん。確かにそっちの方が綺麗かも？ああ、別にいいよ。君の言っていることは全部正しい…いや、少し違うところがある、かな。｣
うーん、と頭をひねったようにして。両手を上に。
…俗にいう万歳のポーズ。
｢こころはね！幼い、じゃなくて素直。それも、自己愛のための、ね？｣
自分のことをさらけ出すことに抵抗なんてないよ。別に相手を騙す意義も感じられないから。
…ああ、なんだろうね。なにかが、根本的にズレているような…
【マリア】
適当な事言ってた割に割と当たるもんだな。
私は適当に受け流す。
『そう…なら、聞いておきたいことがあるんだけれど。』
そして、話題を変える。
巨大な岸壁を掘り進むような感覚を、覚えたりしながら。
多分あれは、自己防衛。
理解しない察しない考えない。
最強の盾に見える。
だがそれは―――割と弱い。
『貴方、それで寂しくないの？』
くそ以下の肯定にはな。
『他人から見て、他人と接してどうこうじゃあないわ。
自分と接して、それでも無意味っていうのは、悲しくないの。』
徐々に言葉に熱が帯びる。
またか、まただ。
いよいよ本気になりそうらしい。
『私の知ってる奴らは―――――
私含め大体、酷くてさ。
前回のこれも、今回のも。
酷くきたない争いだった。
でも、生きようとしていた。
生きていた。自分を無意味とだけは、言わなかった。
ヒガンバナ然り、ね。
それって、要は。
自分を認めてる人間が、貴方を認めてくれてるんだぜ。意味があるって言ったんだぜ。
そんな寂しい感情で受け取るには、もったいないんじゃない。』
【あいごころ。】
｢…さみ、しい？｣
…寂しい？誰が。…こころが。
｢…ああ、うん。｣
ああ、なんだ、なかなかきついものがあるなぁ…そっかぁ。寂しいかどうかかぁ。考えたこと無かったなぁ。
｢…お前に何がわかる、なーんて言うつもりもないけれど。｣
まあ、そんなこと言ってる時点でこっちの負けかなぁ。…うん、どうやら、なかなかに自分は気づいてなかったらしい。全く、また、“上手くやりすぎた”みたいだ。
｢だったら、誰がこころを認めてくれてるんだろうね。わかんないや。…いーや、これはあなたに聞いても仕方ないね。｣
うん、わからない。それが本心。だからここに対する理解を放棄して、だからこそ、わからないままでいたかった。…誰かと一緒にいることで得られる安心なんて、いつか裏切られるから。
｢あーあ…寂しい、かぁ。寂しいなぁ。｣
自然とそういう言葉が出てくる。…仮面？ああ、そんなものとっくに壊れてるさ。もともとひび割れていたものを無理やり使ったんだから。どうやらもう、無意味なものには偽る権利すらないらしいね。
…はは、どうしよっか。
【マリア】
『なら、よく聞いておきなさい。
仮に、それを貴方がどう思っていようと、人から与えられる感情っていうのは、厄介でね……
別に要らなくても、正直うんざりするとしても。
なんだかんだ―――――
一定の責任を負うのよ。』
ふむ。なら交渉の余地はない。
相手の言葉など知るか。
ひっぱたくか。
なんて言いだしたらペテンにならないので、私はそれなりに対応はしておきながら、プロらしく、平静を崩さないで嘘をつく。
『それはね。
自分が、一定の価値があるって言う責任。大体世間一般、それを略して――――――
絆、なんて呼ぶ。』
無意味だが。
無価値じゃない。
それが、青春なんだぜ。
なんて、いよいよ私は頭がおかしくなったのかもな。
『意味は無い。意味なんて無いさ。貴方が意味が無いと定義するなら、意味なんてずっと捨ててみても良い。犬にでも食わせてしまうのが、賢明よ。』
ああ、そうでも無いか？
いや、悪い気分じゃないから、分からないだけかもしれないが。
なんて、まだ私は恥も外聞もなく、恥ずかしいことを連ねる。
『――――けど。
貴方は少なくとも、無価値なんかじゃなかったりするんだから。
貴方に、正直恥ずかしい位、家族みたいに思うやつが居るんだから、その限りは―――――』
そりゃあまあ。
家族って良いもんだしな。
大体これを言っときゃ良い。
なんてヤケクソで。
更に、一手。
『誰かに言われた言葉だけで、貴方は否定されなくて良い。
貴方は、貴方で良い。』
全く、私らしくないなあ。
バカバカしい。
―――だがそれでも、人の思いには価値があるというのは本気だ。いつまでも間違えたままでも、無意味でも。偽物でも。その手で何かが出来る以上、必ず、救えるものがあるだろう。
多分な。
と、全て内心台無しにして。
『自分に惚れるで、自惚れる。
自己愛だなんだ言ってるが……
割とあれ難しいのよ。
自分を愛すって言うのは、嫌なこともなんだかんだ恥ずかしい黒歴史も全部ひっくるめて。
好きじゃなけゃいけない苦行。
そんなものは、"あなた"を愛してくれる人間に任せて――――』
愛情友情。私が語りだしたら大体終わりだっつの。
まあ、終わりらしくて良いか。
『もう少し、笑えば？
貴方、可愛い顔してるのに。
もったいないぜ。』
なんて、嘘かもしれないぜ。
と、口にするのはやめにした。
癖は抜けないが、だからと言って、言ったら台無しだ。
それに私は。
もう、自分を偽れてない。
他人を騙す為にやるのに。
本心で語ってどうする。
畜生。
まあ、いよいよこんな茶番は嘘かもしれないがな。
なんて、そろそろ寒いか――――
『あなたを認めてくれる人間。
私で良いなら安請け合いするけれど……もっと、適役が居るぜ。
もう、分かるんじゃない？
貴方に殺される事すら認めた、ヘンテコな奴に押し付ければ、万事解決なんだけれど。』
【あいごころ。】
｢…そっか。｣
あーあ。無意味と無価値の意味を履き違えたのかな、こころは。
もう、騙るための仮面はない。修復する時間もない。だから、今残っているのは…その無意味な本心だけ。…ああ、だから、今だけは。
こころにある仮面を。
狐面を、外す。…まあ今は、ないのだけれど。
｢誰かに頼るなんて、馬鹿みたい。…でも、誰かを信じないと、ダメみたい。ああ、嫌になるなぁ。｣
本当に、嫌になる。
｢…自分だけ良ければ良かったはずなんだぁ。ここに来たのも自分のエゴが理由だから。なのに、ね。なんでだろう。｣
肩にほつりとなにかが落ちてきて。…ああ、雪か。
｢こんなにも、誰かに頼りたいのは、初めてだ。｣
全て自分の中で自己完結してきた。自分はズレているから、そうした方が楽だと思ってた。このゲームに入っても、それは同じだと思っていた。でも、それは違った。…いよいよ、こころも手遅れらしいね。
｢頼る。頼るかぁ…うん。…受け入れてくれればいいけれども。｣
そういって、いつの間にか伝っていた涙を片手で拭う。これが、こころの最後。
｢頼っても、いいのかな。｣
最初で最後の、弱さだ。
【マリア】
『まあ、良いんじゃない。
頼られた時に、頼られてあげれば良いんだから。そのヒガンバナだって、私に貴方をどうにかするよう頼んだんだし。』
まあ、この事実は彼女とヒガンバナ両方に色々気まずい空気を味あわせてやる事になるのだが。
まあ良い。
ざまあみろ、という所だ。
『――――……で、時に。
まあこれは関係ない話だけれど。私はヒガンバナを生き返らせた報酬で、元々の報酬だった食事からグレードアップして、東西の高級料理をうんと食わせてもらうはずだったんだけど。』
さて。
詐欺は一応、失敗した。
私が本心で話したからな。
ペテン師が金を渡されたからには、誰かを騙さねばならないが。
逆に言ったら、騙せないペテン師に、金を受け取る資格はない。
ほら。
自分を騙せなかったんだし。
と言って、私は折り合いを付け。
『生憎、私は食が細かったのを思い出してね…金ばかりかけてもま、仕方ないし。
私の分は断ろうかな、なんてこっそり考えていたのよねぇ……けどまあ、悔しいし、私こと、マリア、の名義で奢らせられたらなぁ。』
ロハでの仕事を引き受ける。
『仲直り、してきたら？
騙されたと思って。』
絶句するほど、寒いセリフを吐きながら、いよいよ寒々しい雪をスーツから払い落とし。
『まあなんであれ、せいぜい、幸せにやれば良い。
意味も無くても、幸せなら、割となんとかなるんだから。
応援してるわよ。』
胸がすく思いで、背を向け立ち去ろうと
―――――して。
忘れ物を、もとい、事を、思い出し、振り返る。
『なんて、嘘かもしれないけど』
これを忘れたらおしまいだろ。
【あいごころ。】
｢…わかった。｣
そうして、振り返る。
仮面を付けて生きてきた。底にある欲望が怖くて、誰に対してもそうしてきた。そしてそれはいつしか、自分にとって当たり前になっていた。…自分以外信じられなくなっていた…なんて言うつもりは無い。でも、裏切られる前提で信じることは、もう疲れた。…だから。
元来た道を歩き出す。
否、既に走り出していた。
もし、本当に、誰かを信じることが。誰かを頼ることが出来るのなら。
｢…少しだけ。…自分を、好きでいられるかな。｣
無価値じゃない、自分を。
【あいごころ。】
｢…｣
ああ、やっちゃたんだね。ついに。…まあ、相手がazothであったからの決断だったんだけれども。…でも、仕方ないよね？
…まだ、全身が震えてる。これは、悲しんでるからじゃないね。…歓喜。つまり、喜びからくる涙。ついに悲願が達成されたような、そんな涙。…この場合の悲願っていうのは、とても悪趣味なことなんだけれども。
｢…あは、｣
乾いた笑いがこぼれた。…この笑いは、一体誰の笑い声なのか、わからないけれど。
何気なく、持ってきたものを眺める。それは、彼岸花。…彼女の頭に咲いていた、あの花だ。…ああ、ごめんね？ありがとう？
…こころは、彼女になんて声をかければ良かったんだろうね。
【マリア】
『気持ち悪い笑い方をするわね、貴方。』
さて、最後の事業だ。
悪いが、私は生存が半ば決まっている。誰かをまた踏み台にして。
であるなら、誰かを。
誰かを救わねばなるまい。
なので私は動いていた―――――
と、解釈してくれて良い。
いや。
私に言わせれば、ペテンにかけにきた、で良いな。
馬鹿め。救いなどするか。
騙すんだぜ。
ああいう。
一番ヤバそうなやつ。
それを、私は標的とした。
『どうしたのかしら―――――』
飄々と、私は声をかける。
どこぞのお化けを思い出すような軽薄さだった。ぞっとする。
しかし、何故私が彼女に行ったか。勝算などまさか無い。
単に。
あの彼岸花に――――――
『人殺しでもしたの？』
見覚えがなくも無かったから。
【あいごころ。】
｢…よくお気づきで。｣
なんだか、こんな気分の時になにやら人が来た。…ああ、嫌だね。こんな気分は。
仮面は…ああ、そういえば置いてきたんだった。あの人の所に。…もう、必要ないって思ってたから。
｢…ま、そんなところかな。それで、なにか？まさか人殺しなんて、と言いに来たわけじゃあるまいに。｣
少しだけ棘のある言い方になったかな。まあ、それも仕方ないと思う。
…内なる狂気は今、こころの中では落ち着いてきてる。しばらくは、大丈夫。
…仮面を、被ろうか。今しばらくね。
少し深呼吸して、相手を見て、ニッコリと笑う。
また、この時間がやってきたみたいで。
【マリア】
『人殺し？まさか。
今生きてる奴をどう殺したの。』
やれやれ、こいつもイかれているタイプか、全く。
そのくせ、それを隠せる。
ヒガンバナのヤツめ。
随分、無理難題を押し付けて来たものだ。焼肉を奢らせよう。
寿司でも良い。
死ぬほど食ってやるぞ。
さて、何がともあれ、だ。
ペテン師が金を払われたら、ペテンにかけないとな。
まあまずは出鼻をくじいてやる。
実際、生き返らせたしな。
これで、主導権を握る。
『いや、単に―――………
何か、"そんな程度"でイカれたフリをしてるやつを、馬鹿にしに来ただけよ。』
あーあ。
また喧嘩を売る。
最低である。
『貴方が殺したヒガンバナは、貴方になんで殺されたと思う？』
だが。
ギアが入った。
【あいごころ。】
｢今生きてるやつ…？あぁ。なるほど！｣
ああ、これは嫌いなタイプかもなぁ。仕方ない、演じてみようか。こんな拙い演技だけれども、許してね？
｢生き返らせたんだね。…確かに、いい人だもんね、ヒガンバナさん！
…そんな程度かぁ。…言われてみればそうかもね。｣
今のこころには人殺しがどれほどの事なのかが分からない。だから、ここは曖昧に。
うん、今1度復唱しようか。何も気づかないでいよう。何も分からないでいよう、それが、こころのスタンス。
｢なんで…さあ、こころにはわかんない！…教えてくれるのかな？｣
あえて笑顔で。その答えがこころにはわからないはずだからね。狂人には、常人のことはわからない、からね。ニコニコと、ただ笑っていようじゃないか。
さあ、答えは、なんなんだろう？
【マリア】
『良い奴か？あいつ。』
つい。
つい、口の悪さが出た。
地の文らしきものが出た。
私は案外口が悪いやつなので、割と頑張って取り繕っていたりするのだが、それすら取れた。
私の感情はそれだけ揺れたと言って良い。両手潰されたんだが、その良いやつとやらに。
ふざけるのも大概にしろ。
とは言わず、私は続ける。
『貴方の為を思ってだそうよ。
人を殺して来た罪滅ぼしに、せめて大切な貴方に…ってさ。』
知るか。んな話はない。
あるいは事実かも知れないんじゃないか、という疑いがなくもないが、私に言わせれば気持ち悪い。
いや無理だろ。
ひとのために死ぬとか。
さて、地雷を踏んだらサヨウナラだが、地雷を探ろうか。
『バカみたいよね。』
バカみたいな話を作ったのは私自身だが、バカな依頼をしたのはあいつだ。まあ、バカな依頼を受けたのは、私だが。
『貴方みたいな、人殺しになんの責任もない無意味な奴にそれをやるなんて、信じられないわ。』
そして、言葉の弾丸に撃鉄を叩き付けていく。
『聞かせてよ。貴方は、彼女を殺して、どう考えた？正直無意味に殺害して、実際、有意義に使えた蘇生のゾディアックを、命を、嬲り去った気持ちはどうなのか。
あなたは。
何故―――――
そんなに、自分が好きなのか。』
ペテン、ペテン、ペテン。
私は大体、こいつの事など知らない。知らないが――――
それらしくするコツはある。
【あいごころ。】
｢…無意味、ね。｣
こころが無意味。か。…あは、それは確かにそうだね。わかってるよ。だからこそ、こころは“壊れかけた”んだからね？
｢うん、そうだね。こころは無意味だ。…なんでそんな人に慈悲をかけるのか、こころにはわからない。｣
意味を与えようとしたのかな？こころみたいにね。
うん。わかってる。こころは無価値なんだよ。無意味なんだよ。だって、いっかい“死んでいる”からね？だから、わかってる。…ああ、前の私ならこんなこと言われてたら怒ってたね？でも、今は違うんだぁ。…こころ、素直だから。
｢こころは、ヒガンバナさんを殺して。…うん、楽しかったかな。そしてその後のことはどうでもよかった。…でも、少しだけ寂しくもあったなぁ…｣
一呼吸おいて。
｢…こころは、“素直”だから。｣
そういってまたニッコリと。ああ、この素直って言葉をここで使うなんて。本当に、悪趣味なのかもね。
【マリア】
馬鹿め、急所は隠すものだぜ。
私は、内心そう呟きつつ。
敢えて迂回する。
『素直？』
吹き出しかけた。
変な上ずり方をした。
悪いが、お前も気付いてないのかもしれないが―――――
『幼い、の間違いでは？』
それは少しやらかしてるんだぜ。
詐欺師に言わせれば、預金通帳を手渡したようなものだ。
『大体…無意味とか、自分で言っているのが第一胡散臭い。』
――――既成事実の一端を握らせたんだからな。
『自分で決めた無意味ほど、気持ち悪いものは無いんだぜ。
無意味を肯定するのは、結局貴方の価値観に過ぎない。無意味だとか認めておきながら、一々何が意味があって、何が意味が無いか。
それを自分だけで決めている。
単一の価値観しかない。
卑屈なことを言う割に、本当はガキの癇癪以下じゃない。
貴方は単に――――自己愛で、世界が終わってるだけよ。
それを、素直で上塗りして、免罪符にして、しまい込んだものが薄っぺらいのを隠してる。』
さて、まだ行く。反論の余地など与えてたまるか。
『何の大義名分があるかは知らない。何があったから狂ったとか、そんな錆びた鍵を握ってるんだろうけれど………貴方は結局、何かの為にはそうなっていない。
実際。人のせいにしただけ。』
【あいごころ。】
｢おおーいうねー｣
こころってここまで言われるほどの何かをしたでしょうか。…まあ。いいや。
｢自己愛？うん。それがどうかしたのかな？｣
ニッコリと笑って。
｢だから言ってるじゃないかぁ。素直だって。まあ、どういう意味で捉えるかは置いておいて。｣
何も気づかない。相手の言っていることがどこまで正しいかなんて。
何も察しない。相手の言っていることの裏なんてわかっていないように。…あるかしらないけどね。
｢人のせいにするのも結局考え方次第だもんねぇ…全部こころが悪いっていえばいいのかなぁ。うん。確かにそっちの方が綺麗かも？ああ、別にいいよ。君の言っていることは全部正しい…いや、少し違うところがある、かな。｣
うーん、と頭をひねったようにして。両手を上に。
…俗にいう万歳のポーズ。
｢こころはね！幼い、じゃなくて素直。それも、自己愛のための、ね？｣
自分のことをさらけ出すことに抵抗なんてないよ。別に相手を騙す意義も感じられないから。
…ああ、なんだろうね。なにかが、根本的にズレているような…
【マリア】
馬鹿め、急所は隠すものだぜ。
私は、内心そう呟きつつ。
敢えて迂回する。
『素直？』
吹き出しかけた。
変な上ずり方をした。
悪いが、お前も気付いてないのかもしれないが―――――
『幼い、の間違いでは？』
それは少しやらかしてるんだぜ。
詐欺師に言わせれば、預金通帳を手渡したようなものだ。
『大体…無意味とか、自分で言っているのが第一胡散臭い。』
――――既成事実の一端を握らせたんだからな。
『自分で決めた無意味ほど、気持ち悪いものは無いんだぜ。
無意味を肯定するのは、結局貴方の価値観に過ぎない。無意味だとか認めておきながら、一々何が意味があって、何が意味が無いか。
それを自分だけで決めている。
単一の価値観しかない。
卑屈なことを言う割に、本当はガキの癇癪以下じゃない。
貴方は単に――――自己愛で、世界が終わってるだけよ。
それを、素直で上塗りして、免罪符にして、しまい込んだものが薄っぺらいのを隠してる。』
さて、まだ行く。反論の余地など与えてたまるか。
『何の大義名分があるかは知らない。何があったから狂ったとか、そんな錆びた鍵を握ってるんだろうけれど………貴方は結局、何かの為にはそうなっていない。
実際。人のせいにしただけ。』
【あいごころ。】
｢おおーいうねー｣
こころってここまで言われるほどの何かをしたでしょうか。…まあ。いいや。
｢自己愛？うん。それがどうかしたのかな？｣
ニッコリと笑って。
｢だから言ってるじゃないかぁ。素直だって。まあ、どういう意味で捉えるかは置いておいて。｣
何も気づかない。相手の言っていることがどこまで正しいかなんて。
何も察しない。相手の言っていることの裏なんてわかっていないように。…あるかしらないけどね。
｢人のせいにするのも結局考え方次第だもんねぇ…全部こころが悪いっていえばいいのかなぁ。うん。確かにそっちの方が綺麗かも？ああ、別にいいよ。君の言っていることは全部正しい…いや、少し違うところがある、かな。｣
うーん、と頭をひねったようにして。両手を上に。
…俗にいう万歳のポーズ。
｢こころはね！幼い、じゃなくて素直。それも、自己愛のための、ね？｣
自分のことをさらけ出すことに抵抗なんてないよ。別に相手を騙す意義も感じられないから。
…ああ、なんだろうね。なにかが、根本的にズレているような…
【マリア】
適当な事言ってた割に割と当たるもんだな。
私は適当に受け流す。
『そう…なら、聞いておきたいことがあるんだけれど。』
そして、話題を変える。
巨大な岸壁を掘り進むような感覚を、覚えたりしながら。
多分あれは、自己防衛。
理解しない察しない考えない。
最強の盾に見える。
だがそれは―――割と弱い。
『貴方、それで寂しくないの？』
くそ以下の肯定にはな。
『他人から見て、他人と接してどうこうじゃあないわ。
自分と接して、それでも無意味っていうのは、悲しくないの。』
徐々に言葉に熱が帯びる。
またか、まただ。
いよいよ本気になりそうらしい。
『私の知ってる奴らは―――――
私含め大体、酷くてさ。
前回のこれも、今回のも。
酷くきたない争いだった。
でも、生きようとしていた。
生きていた。自分を無意味とだけは、言わなかった。
ヒガンバナ然り、ね。
それって、要は。
自分を認めてる人間が、貴方を認めてくれてるんだぜ。意味があるって言ったんだぜ。
そんな寂しい感情で受け取るには、もったいないんじゃない。』
【あいごころ。】
｢…さみ、しい？｣
…寂しい？誰が。…こころが。
｢…ああ、うん。｣
ああ、なんだ、なかなかきついものがあるなぁ…そっかぁ。寂しいかどうかかぁ。考えたこと無かったなぁ。
｢…お前に何がわかる、なーんて言うつもりもないけれど。｣
まあ、そんなこと言ってる時点でこっちの負けかなぁ。…うん、どうやら、なかなかに自分は気づいてなかったらしい。全く、また、“上手くやりすぎた”みたいだ。
｢だったら、誰がこころを認めてくれてるんだろうね。わかんないや。…いーや、これはあなたに聞いても仕方ないね。｣
うん、わからない。それが本心。だからここに対する理解を放棄して、だからこそ、わからないままでいたかった。…誰かと一緒にいることで得られる安心なんて、いつか裏切られるから。
｢あーあ…寂しい、かぁ。寂しいなぁ。｣
自然とそういう言葉が出てくる。…仮面？ああ、そんなものとっくに壊れてるさ。もともとひび割れていたものを無理やり使ったんだから。どうやらもう、無意味なものには偽る権利すらないらしいね。
…はは、どうしよっか。
【マリア】
『なら、よく聞いておきなさい。
仮に、それを貴方がどう思っていようと、人から与えられる感情っていうのは、厄介でね……
別に要らなくても、正直うんざりするとしても。
なんだかんだ―――――
一定の責任を負うのよ。』
ふむ。なら交渉の余地はない。
相手の言葉など知るか。
ひっぱたくか。
なんて言いだしたらペテンにならないので、私はそれなりに対応はしておきながら、プロらしく、平静を崩さないで嘘をつく。
『それはね。
自分が、一定の価値があるって言う責任。大体世間一般、それを略して――――――
絆、なんて呼ぶ。』
無意味だが。
無価値じゃない。
それが、青春なんだぜ。
なんて、いよいよ私は頭がおかしくなったのかもな。
『意味は無い。意味なんて無いさ。貴方が意味が無いと定義するなら、意味なんてずっと捨ててみても良い。犬にでも食わせてしまうのが、賢明よ。』
ああ、そうでも無いか？
いや、悪い気分じゃないから、分からないだけかもしれないが。
なんて、まだ私は恥も外聞もなく、恥ずかしいことを連ねる。
『――――けど。
貴方は少なくとも、無価値なんかじゃなかったりするんだから。
貴方に、正直恥ずかしい位、家族みたいに思うやつが居るんだから、その限りは―――――』
そりゃあまあ。
家族って良いもんだしな。
大体これを言っときゃ良い。
なんてヤケクソで。
更に、一手。
『誰かに言われた言葉だけで、貴方は否定されなくて良い。
貴方は、貴方で良い。』
全く、私らしくないなあ。
バカバカしい。
―――だがそれでも、人の思いには価値があるというのは本気だ。いつまでも間違えたままでも、無意味でも。偽物でも。その手で何かが出来る以上、必ず、救えるものがあるだろう。
多分な。
と、全て内心台無しにして。
『自分に惚れるで、自惚れる。
自己愛だなんだ言ってるが……
割とあれ難しいのよ。
自分を愛すって言うのは、嫌なこともなんだかんだ恥ずかしい黒歴史も全部ひっくるめて。
好きじゃなけゃいけない苦行。
そんなものは、"あなた"を愛してくれる人間に任せて――――』
愛情友情。私が語りだしたら大体終わりだっつの。
まあ、終わりらしくて良いか。
『もう少し、笑えば？
貴方、可愛い顔してるのに。
もったいないぜ。』
なんて、嘘かもしれないぜ。
と、口にするのはやめにした。
癖は抜けないが、だからと言って、言ったら台無しだ。
それに私は。
もう、自分を偽れてない。
他人を騙す為にやるのに。
本心で語ってどうする。
畜生。
まあ、いよいよこんな茶番は嘘かもしれないがな。
なんて、そろそろ寒いか――――
『あなたを認めてくれる人間。
私で良いなら安請け合いするけれど……もっと、適役が居るぜ。
もう、分かるんじゃない？
貴方に殺される事すら認めた、ヘンテコな奴に押し付ければ、万事解決なんだけれど。』
【あいごころ。】
｢…そっか。｣
あーあ。無意味と無価値の意味を履き違えたのかな、こころは。
もう、騙るための仮面はない。修復する時間もない。だから、今残っているのは…その無意味な本心だけ。…ああ、だから、今だけは。
こころにある仮面を。
狐面を、外す。…まあ今は、ないのだけれど。
｢誰かに頼るなんて、馬鹿みたい。…でも、誰かを信じないと、ダメみたい。ああ、嫌になるなぁ。｣
本当に、嫌になる。
｢…自分だけ良ければ良かったはずなんだぁ。ここに来たのも自分のエゴが理由だから。なのに、ね。なんでだろう。｣
肩にほつりとなにかが落ちてきて。…ああ、雪か。
｢こんなにも、誰かに頼りたいのは、初めてだ。｣
全て自分の中で自己完結してきた。自分はズレているから、そうした方が楽だと思ってた。このゲームに入っても、それは同じだと思っていた。でも、それは違った。…いよいよ、こころも手遅れらしいね。
｢頼る。頼るかぁ…うん。…受け入れてくれればいいけれども。｣
そういって、いつの間にか伝っていた涙を片手で拭う。これが、こころの最後。
｢頼っても、いいのかな。｣
最初で最後の、弱さだ。
【マリア】
『まあ、良いんじゃない。
頼られた時に、頼られてあげれば良いんだから。そのヒガンバナだって、私に貴方をどうにかするよう頼んだんだし。』
まあ、この事実は彼女とヒガンバナ両方に色々気まずい空気を味あわせてやる事になるのだが。
まあ良い。
ざまあみろ、という所だ。
『――――……で、時に。
まあこれは関係ない話だけれど。私はヒガンバナを生き返らせた報酬で、元々の報酬だった食事からグレードアップして、東西の高級料理をうんと食わせてもらうはずだったんだけど。』
さて。
詐欺は一応、失敗した。
私が本心で話したからな。
ペテン師が金を渡されたからには、誰かを騙さねばならないが。
逆に言ったら、騙せないペテン師に、金を受け取る資格はない。
ほら。
自分を騙せなかったんだし。
と言って、私は折り合いを付け。
『生憎、私は食が細かったのを思い出してね…金ばかりかけてもま、仕方ないし。
私の分は断ろうかな、なんてこっそり考えていたのよねぇ……けどまあ、悔しいし、私こと、マリア、の名義で奢らせられたらなぁ。』
ロハでの仕事を引き受ける。
『仲直り、してきたら？
騙されたと思って。』
絶句するほど、寒いセリフを吐きながら、いよいよ寒々しい雪をスーツから払い落とし。
『まあなんであれ、せいぜい、幸せにやれば良い。
意味も無くても、幸せなら、割となんとかなるんだから。
応援してるわよ。』
胸がすく思いで、背を向け立ち去ろうと
―――――して。
忘れ物を、もとい、事を、思い出し、振り返る。
『なんて、嘘かもしれないけど』
これを忘れたらおしまいだろ。
【あいごころ。】
｢…わかった。｣
そうして、振り返る。
仮面を付けて生きてきた。底にある欲望が怖くて、誰に対してもそうしてきた。そしてそれはいつしか、自分にとって当たり前になっていた。…自分以外信じられなくなっていた…なんて言うつもりは無い。でも、裏切られる前提で信じることは、もう疲れた。…だから。
元来た道を歩き出す。
否、既に走り出していた。
もし、本当に、誰かを信じることが。誰かを頼ることが出来るのなら。
｢…少しだけ。…自分を、好きでいられるかな。｣
無価値じゃない、自分を。
ソロル集
ハツコイ 23rd
ああ、今何が起きているんだろうか。ちょっとオレには理解し難いかな。
起き上がって――あれ、オレ死んでなかったっけ？
死んでる？
死んでいるのに生きているとか、まあなんて非科学的で幾何学的。とか言ってみたり。
これも計算通りだったりする？いやー、流石にそこまではないよ！
"賭け"は順調に進んでいる？こころちゃんのコトだし、何処だかでドジをやらかしていなければいいんだけれど。
まあ、取り敢えずオレはリタイア<途中棄権>したワケだから、今のところ自由に動けたりはするのかな？
ああ、それとも、行動に制限があったりなかったり。
なんて、オレの知り得る範囲じゃないからどうでもいいのだけれど。まあとりあえず自由の身って解釈でいいよね！死なない人生ばんざーい！
…ま、このゲエムをちょっと愉しめなくなっちゃったのは代償って捉えておけばいい。
だからこそ、今は"それ以外"で存分に楽しもうか。手始めに修学旅行らしくお土産の品を漁ったり？温泉に入ったり？自由行動で仲間とはぐれたり？なかなか面白そうだね！
一人で出来ることには限界があると思うけど、何となくそれも良いような気がしてきた。縛りプレイで修学旅行とか中々、良いんじゃない？
閑話休題。
「然ういえば、世界にはこんな言葉があるって知ってる？こころちゃん」
誰に向けて言っているんだか。少なくとも彼女は此処にいないわけで、まあつまり一人で会話しているわけで。
ただ、誰かに聞かれたいような話でもないのでこのままでいい。
というか、むしろこのままがいい。
誰かに聞かれていたとしたら正直、恥ずかしくて死ぬ。
あれ、もう死んでるんだっけ！
「"初恋は実らないのが通例"だってね。」
まあ、つまり、そういうわけで。ああ恥ずかしい、初恋が高校二年10月のしかも修学旅行中とか恥ずかしい。
何が恥ずかしいのやら。でも仕方ないじゃん。
あ、さっきのは嘘かもしれないよ。実るか実らないかなんてその人たち次第でしかないじゃないか。
だから、たとえ話。もしかしたら実るかもしれないし、本当に実らないかもしれない。
真実がどっちかなんて図りようがないんだから。
けれど。
正直、オレの初恋は、実る気がしません。
ああ、彼女の意思とか関係なく、ね。死人との恋は難しいというのもあるけれど、そういう人もいるだろうから、また別の話。
もちろん彼女が死ぬ可能性もあり、なんやかんやあってオレと彼女が一緒に生き残る可能性もあり。
ただ、
「――オレが生き残った時は、確実に、絶対に、嘘偽りなく、この恋は実らない。」
何故だろうね。思いついてしまったから、かな。
まだゲエムは終わらないけれど、オレはほっと息吐いた。
ただゲエムを愉しみたいが為に、この答えに行き着いた。
起き上がって――あれ、オレ死んでなかったっけ？
死んでる？
死んでいるのに生きているとか、まあなんて非科学的で幾何学的。とか言ってみたり。
これも計算通りだったりする？いやー、流石にそこまではないよ！
"賭け"は順調に進んでいる？こころちゃんのコトだし、何処だかでドジをやらかしていなければいいんだけれど。
まあ、取り敢えずオレはリタイア<途中棄権>したワケだから、今のところ自由に動けたりはするのかな？
ああ、それとも、行動に制限があったりなかったり。
なんて、オレの知り得る範囲じゃないからどうでもいいのだけれど。まあとりあえず自由の身って解釈でいいよね！死なない人生ばんざーい！
…ま、このゲエムをちょっと愉しめなくなっちゃったのは代償って捉えておけばいい。
だからこそ、今は"それ以外"で存分に楽しもうか。手始めに修学旅行らしくお土産の品を漁ったり？温泉に入ったり？自由行動で仲間とはぐれたり？なかなか面白そうだね！
一人で出来ることには限界があると思うけど、何となくそれも良いような気がしてきた。縛りプレイで修学旅行とか中々、良いんじゃない？
閑話休題。
「然ういえば、世界にはこんな言葉があるって知ってる？こころちゃん」
誰に向けて言っているんだか。少なくとも彼女は此処にいないわけで、まあつまり一人で会話しているわけで。
ただ、誰かに聞かれたいような話でもないのでこのままでいい。
というか、むしろこのままがいい。
誰かに聞かれていたとしたら正直、恥ずかしくて死ぬ。
あれ、もう死んでるんだっけ！
「"初恋は実らないのが通例"だってね。」
まあ、つまり、そういうわけで。ああ恥ずかしい、初恋が高校二年10月のしかも修学旅行中とか恥ずかしい。
何が恥ずかしいのやら。でも仕方ないじゃん。
あ、さっきのは嘘かもしれないよ。実るか実らないかなんてその人たち次第でしかないじゃないか。
だから、たとえ話。もしかしたら実るかもしれないし、本当に実らないかもしれない。
真実がどっちかなんて図りようがないんだから。
けれど。
正直、オレの初恋は、実る気がしません。
ああ、彼女の意思とか関係なく、ね。死人との恋は難しいというのもあるけれど、そういう人もいるだろうから、また別の話。
もちろん彼女が死ぬ可能性もあり、なんやかんやあってオレと彼女が一緒に生き残る可能性もあり。
ただ、
「――オレが生き残った時は、確実に、絶対に、嘘偽りなく、この恋は実らない。」
何故だろうね。思いついてしまったから、かな。
まだゲエムは終わらないけれど、オレはほっと息吐いた。
ただゲエムを愉しみたいが為に、この答えに行き着いた。
裏話のはじめ 9th
人の噂も七十五日という。
暫くしたら、私が引っ掻き回したのなんてすぐに忘れたりするんじゃないか、という、有り得ざる可能性すら、妄想したりした。
暇である。
いや、別に、暇ではない。
また私はすぐ嘘をつく。
アゾートのフリをしたいのか、アゾートなのかは知らないが、もう既に、五、六件のメッセージが届き、ひっきりなしに通知が鳴る。
五、六件というのは少し鯖を読んだ数字だ。二、三件、というのがリアルで良いかもしれない。
だが、なんであれ数字の偽装なんぞというものは、万民またな、乳飲み子の時分から触れてきた所謂トークの一部で済む話だから、私だけがこれを機に嘘つき呼ばわりされるいわれはない。
地球が何回まわったかで、嘘をつかなかった人間は居ないはずだ。
実際、そう見ると一億国民皆嘘つきだが、それは差し引いても。
私が嘘つきだからといって、嘘ばかりついていると言われる筋合いは無いのだ。
疑わしきは罰せず。
悪人正機。
なんて言葉だってある。
素晴らしい金儲けのタネだ。
―――で。
本題に入るとしよう。
私は今、何をしてこんなどうでもいい平和になど浸れているのか、という話ではまさかあるまい。
いきなり、過去話だ。
支離滅裂というなら文句は私にではなく、文章が皆連結しているという常識を植え付けた教育を恨め。読んだお前の負けだ。
やーいやーい。
ばーかばーか。
つまらない。
では、語ろうかと思う。
という導入だけして、折を見つけては少しずつ。
私の空白期間についてそろそろ明かしていくべきだと思われる。
通知がひっきりなしじゃないのかって？
あれ自体、嘘じゃないなんて言ってないんだが。
まあ、という訳で。
裏話というやつを始めよう。
クラスメイトの殺し合いの物語とは、また別の。
私の過ごして来た殺し合いの物語をやるとしよう。
なんて、また、これ自体嘘かもしれないぜ。
暫くしたら、私が引っ掻き回したのなんてすぐに忘れたりするんじゃないか、という、有り得ざる可能性すら、妄想したりした。
暇である。
いや、別に、暇ではない。
また私はすぐ嘘をつく。
アゾートのフリをしたいのか、アゾートなのかは知らないが、もう既に、五、六件のメッセージが届き、ひっきりなしに通知が鳴る。
五、六件というのは少し鯖を読んだ数字だ。二、三件、というのがリアルで良いかもしれない。
だが、なんであれ数字の偽装なんぞというものは、万民またな、乳飲み子の時分から触れてきた所謂トークの一部で済む話だから、私だけがこれを機に嘘つき呼ばわりされるいわれはない。
地球が何回まわったかで、嘘をつかなかった人間は居ないはずだ。
実際、そう見ると一億国民皆嘘つきだが、それは差し引いても。
私が嘘つきだからといって、嘘ばかりついていると言われる筋合いは無いのだ。
疑わしきは罰せず。
悪人正機。
なんて言葉だってある。
素晴らしい金儲けのタネだ。
―――で。
本題に入るとしよう。
私は今、何をしてこんなどうでもいい平和になど浸れているのか、という話ではまさかあるまい。
いきなり、過去話だ。
支離滅裂というなら文句は私にではなく、文章が皆連結しているという常識を植え付けた教育を恨め。読んだお前の負けだ。
やーいやーい。
ばーかばーか。
つまらない。
では、語ろうかと思う。
という導入だけして、折を見つけては少しずつ。
私の空白期間についてそろそろ明かしていくべきだと思われる。
通知がひっきりなしじゃないのかって？
あれ自体、嘘じゃないなんて言ってないんだが。
まあ、という訳で。
裏話というやつを始めよう。
クラスメイトの殺し合いの物語とは、また別の。
私の過ごして来た殺し合いの物語をやるとしよう。
なんて、また、これ自体嘘かもしれないぜ。
プレゼント・イミテーション 22nd
1つ、瓶が増える。
さて…ここで"私"を呼び出すとしようか。
特に意味は無いが…いきなり出てこられると此方の気持が完全に狂ってしまうのでね。
また1つ、瓶が増える。
──何を、しているの？
「ふ…決まっているだろう。
全て、君のためさ。」
そうだ、全て私の為。
その言葉に嘘偽りなどなし、これは人助けだ。
──これの何処が、私の為だと言うの？
「なんだ、解らないのか。」
更に1つ、瓶が増える。
「これは君が望んでいた、最高の願いだろう？それは、君自身がよく分かっている筈だ。」
──違う、私が望んでいたのは、これじゃない。
それに…貴女はもう、居ないのよ。
少女が居ないだって？
面白い事を言ってくれるじゃないか。
「く…くふふ……ははははは…！」
止めてくれよ、少女を…ここまで笑わせないでくれよ。
もう1つ、瓶が増える。
「君はあの時から必死に動き、幸せを作ったな。そして、私を閉じ込めた。
だがな…君は甘いよ。
"私"の最大の敵は、"私"さ。」
それは、今のようにもう1人の自分？
違うな。
真の敵は自分にある…といったカッコつけ？
いいや、違う。
それとも、私に価値が見出せない？
はは、まさかここで近い回答を出してくるなんてね。偉い偉い。
報酬としてセメダインをあげよう。
──貴女は、本当に、何が目的なの？
「誰にも知られないって、物凄く怖ぇだろう？」
……………沈黙。
ほら、黙るだろう。言い返せないだろう。
そういう所なんだよ、私の弱さは。
「だがな、安心しろ。
私が私を"作って"やる。その為に、私は餌を撒いてきたんだ。
後は"私"が、覚悟を決めるだけ。」
……1つ、瓶が増える。
「見ろ、私は幸せ者だ。」
少女は立ち上がり、自分の四肢に目を通す。
少女は、ただの少女では無い。
包帯を見に纏った、弱々しい…包帯少女だ。
「ほら、行こうじゃないか。
"私"を見つける旅へとね。」
自分探しの旅なんて、素敵じゃないか。
此処だからこそ、見つけてくれる筈だ。
だから、私は歩く。
病人に、包帯はつきものだろう？
さて…ここで"私"を呼び出すとしようか。
特に意味は無いが…いきなり出てこられると此方の気持が完全に狂ってしまうのでね。
また1つ、瓶が増える。
──何を、しているの？
「ふ…決まっているだろう。
全て、君のためさ。」
そうだ、全て私の為。
その言葉に嘘偽りなどなし、これは人助けだ。
──これの何処が、私の為だと言うの？
「なんだ、解らないのか。」
更に1つ、瓶が増える。
「これは君が望んでいた、最高の願いだろう？それは、君自身がよく分かっている筈だ。」
──違う、私が望んでいたのは、これじゃない。
それに…貴女はもう、居ないのよ。
少女が居ないだって？
面白い事を言ってくれるじゃないか。
「く…くふふ……ははははは…！」
止めてくれよ、少女を…ここまで笑わせないでくれよ。
もう1つ、瓶が増える。
「君はあの時から必死に動き、幸せを作ったな。そして、私を閉じ込めた。
だがな…君は甘いよ。
"私"の最大の敵は、"私"さ。」
それは、今のようにもう1人の自分？
違うな。
真の敵は自分にある…といったカッコつけ？
いいや、違う。
それとも、私に価値が見出せない？
はは、まさかここで近い回答を出してくるなんてね。偉い偉い。
報酬としてセメダインをあげよう。
──貴女は、本当に、何が目的なの？
「誰にも知られないって、物凄く怖ぇだろう？」
……………沈黙。
ほら、黙るだろう。言い返せないだろう。
そういう所なんだよ、私の弱さは。
「だがな、安心しろ。
私が私を"作って"やる。その為に、私は餌を撒いてきたんだ。
後は"私"が、覚悟を決めるだけ。」
……1つ、瓶が増える。
「見ろ、私は幸せ者だ。」
少女は立ち上がり、自分の四肢に目を通す。
少女は、ただの少女では無い。
包帯を見に纏った、弱々しい…包帯少女だ。
「ほら、行こうじゃないか。
"私"を見つける旅へとね。」
自分探しの旅なんて、素敵じゃないか。
此処だからこそ、見つけてくれる筈だ。
だから、私は歩く。
病人に、包帯はつきものだろう？
全自動手番消費 6th
上空から眺める景色はどうか
なんというか……頭が痛い
使える駒使える駒全部使えない
個人チャットに書かれたこの文には
怒りすら覚えない。
ただ感情的な虚無が広がるだけだった。
「……私の安全もわかったもんじゃないわね」
欲しいカード、使うべきカードがすべて切られていく
頭が痛い。
なんというか……頭が痛い
使える駒使える駒全部使えない
個人チャットに書かれたこの文には
怒りすら覚えない。
ただ感情的な虚無が広がるだけだった。
「……私の安全もわかったもんじゃないわね」
欲しいカード、使うべきカードがすべて切られていく
頭が痛い。
諦観崩壊 13th
自室に置かれた将棋台。そこに山のような形に積み重なる駒。
何というか、もう何も考えたくなかった。
クラスメイトだからって信じてたのに、こうもあっさり切り捨てる人ばかり。たった数日でもう何人の死亡通知を見ただろうか。
「バカみたい…」
自分も、みんなも。
所詮自分のやりたいようにしかできない人ばかり。欲望のためなら、命すらぞんざいに扱える。そんなあいつらも。
そんな奴らに媚びへつらって、ただ敵にならないように振る舞うだけの自分も。
「…………もういいや。」
そんな呟きと共に、駒の山から、一つの駒を抜き取る。
それと共に、山はあっさりと崩れた。
抜き取ったのは、金。ほとんど守りに使われる、大事な駒。適当に取っただけ。深い意味はなかった。
まぁ、必要ないか、と、崩れた山から遠ざけて金将を捨てる。こんなもの、本当に要らない。
さて。それでは崩してやろう。なるべく多くを、自分すらその崩壊に巻き込むように。
あの愚か者達を、一人でも多くあるべきところへ送るために。
何というか、もう何も考えたくなかった。
クラスメイトだからって信じてたのに、こうもあっさり切り捨てる人ばかり。たった数日でもう何人の死亡通知を見ただろうか。
「バカみたい…」
自分も、みんなも。
所詮自分のやりたいようにしかできない人ばかり。欲望のためなら、命すらぞんざいに扱える。そんなあいつらも。
そんな奴らに媚びへつらって、ただ敵にならないように振る舞うだけの自分も。
「…………もういいや。」
そんな呟きと共に、駒の山から、一つの駒を抜き取る。
それと共に、山はあっさりと崩れた。
抜き取ったのは、金。ほとんど守りに使われる、大事な駒。適当に取っただけ。深い意味はなかった。
まぁ、必要ないか、と、崩れた山から遠ざけて金将を捨てる。こんなもの、本当に要らない。
さて。それでは崩してやろう。なるべく多くを、自分すらその崩壊に巻き込むように。
あの愚か者達を、一人でも多くあるべきところへ送るために。
うるさい(うるさい) 12th
タワーの展望台
ホテルの屋上
海
線路
廃工場
様々な場所を訪れ、そして-
＝＝＝＝＝
12th【トロンパ】が死亡しました。
12th【トロンパ】が死亡しました。
12th【トロンパ】が死亡しました。
12th【トロンパ】が死亡しました。
12th【トロンパ】が死亡しました。
＝＝＝＝＝＝＝
ホテルの屋上
海
線路
廃工場
様々な場所を訪れ、そして-
＝＝＝＝＝
12th【トロンパ】が死亡しました。
12th【トロンパ】が死亡しました。
12th【トロンパ】が死亡しました。
12th【トロンパ】が死亡しました。
12th【トロンパ】が死亡しました。
＝＝＝＝＝＝＝
アカギユイナ 9th
ただ、最後のセレスティアとは、一体誰だったのだろう。
私は推理する。
考えたところで死ぬだけだから、今から死ぬのだが。
もう暫くしたら死ぬが。
心残りがある。
手品のタネが最後の最後に分からないというのは、なんとも腹が立つように。
怠慢共を割り出して嫌味のひとつも言えないのはどうなのか。
とか考えた。
うーん。
うん？
確か、あいつは――――――？
ああ、全く。
最低最悪だ。
旧友のよしみが最後の切り札だったり、するなんて。
共有チャットに、記入。
私の最後の秘密。
それはね――――？
二周目。
という事象。
それが必ずしも。
私だけとは限らない―――――
まあ、そういう事である。
私の最後のカードとは。
私は推理する。
考えたところで死ぬだけだから、今から死ぬのだが。
もう暫くしたら死ぬが。
心残りがある。
手品のタネが最後の最後に分からないというのは、なんとも腹が立つように。
怠慢共を割り出して嫌味のひとつも言えないのはどうなのか。
とか考えた。
うーん。
うん？
確か、あいつは――――――？
ああ、全く。
最低最悪だ。
旧友のよしみが最後の切り札だったり、するなんて。
共有チャットに、記入。
私の最後の秘密。
それはね――――？
二周目。
という事象。
それが必ずしも。
私だけとは限らない―――――
まあ、そういう事である。
私の最後のカードとは。
とっぽぎ星からやってきた 8th
…嗚呼、最悪だ。
しんしんと降りしきる雪。頬を刺す冷たい風。
コートが風にふわりふわりと、はためく。
どこかも知らぬ、どこかも教えられぬその場所で。パイナポーは一人、目の前の見慣れた機械へと目を落とす。
映るのは共有チャットの文字。
事前に“アイツ”がいる事は知っていたが。
知らされていたが。
全く…。
あの『同盟』は終わったんじゃないのか。
そんな事を考えて、苦笑を一つ。
思い出されるのはとある南国、ホテルのロビーでの会話。あの頃は…まだ全員生き残れると思ってたっけ。まだ希望というものが擦り切れていないんだっけ。
くすくすくすくす。
こんな『死に損ない』、いや、死んではいる事には変わりはないから、『生き損ない』か。彼女が“俺”を頼るなんて。
御生憎様。俺はそんな逆転の切り札なんかじゃないよ……ニノマエ。精々贔屓目に見てスペードの10。あってもなくても変わらないのが…俺だからな。
「あーあ。セレスティアとしての使命投げ捨てて、適当に人殺して死にたかったんだけどな。このゲームも…ただの暇つぶしだったし。」
仕方ない、か。
アイツとは曲りなりとも同盟を組んだ仲。“お互いに情報を共有し、お互いに生き残れるベストを尽くす”…そう、約束したもんな。
「……ハーロー。ボーイアンドガール。どうだい気分はどうだい、最高？最悪？それもベター？
…そんなの関係ないさ、俺が来たからな。遠い遠い惑星から、大きな大きなとっぽぎ星から。」
誰に語る訳でも、騙る訳でも無く。
彼女にして、彼は呟く。
「きりたんぽ星人、『とっぽぎ三郎丸』。死者の島から只今参上。負け犬さんは南国フルーツパイナポーを引っさげて死に損ないに来たんだぜ。」
「……さて…、君の為に動こうか。」
嗤うソイツの左手には。銀の槍が。
しんしんと降りしきる雪。頬を刺す冷たい風。
コートが風にふわりふわりと、はためく。
どこかも知らぬ、どこかも教えられぬその場所で。パイナポーは一人、目の前の見慣れた機械へと目を落とす。
映るのは共有チャットの文字。
事前に“アイツ”がいる事は知っていたが。
知らされていたが。
全く…。
あの『同盟』は終わったんじゃないのか。
そんな事を考えて、苦笑を一つ。
思い出されるのはとある南国、ホテルのロビーでの会話。あの頃は…まだ全員生き残れると思ってたっけ。まだ希望というものが擦り切れていないんだっけ。
くすくすくすくす。
こんな『死に損ない』、いや、死んではいる事には変わりはないから、『生き損ない』か。彼女が“俺”を頼るなんて。
御生憎様。俺はそんな逆転の切り札なんかじゃないよ……ニノマエ。精々贔屓目に見てスペードの10。あってもなくても変わらないのが…俺だからな。
「あーあ。セレスティアとしての使命投げ捨てて、適当に人殺して死にたかったんだけどな。このゲームも…ただの暇つぶしだったし。」
仕方ない、か。
アイツとは曲りなりとも同盟を組んだ仲。“お互いに情報を共有し、お互いに生き残れるベストを尽くす”…そう、約束したもんな。
「……ハーロー。ボーイアンドガール。どうだい気分はどうだい、最高？最悪？それもベター？
…そんなの関係ないさ、俺が来たからな。遠い遠い惑星から、大きな大きなとっぽぎ星から。」
誰に語る訳でも、騙る訳でも無く。
彼女にして、彼は呟く。
「きりたんぽ星人、『とっぽぎ三郎丸』。死者の島から只今参上。負け犬さんは南国フルーツパイナポーを引っさげて死に損ないに来たんだぜ。」
「……さて…、君の為に動こうか。」
嗤うソイツの左手には。銀の槍が。
母と『エム』 17th
こんなに走ったことなんて、今まで無かった。
そう思うほどに、走った。
『ボク』も、こんな『エム』に何も言わないでいてくれた。
多分、呆れ果ててたんだと思う。
あくまで『ボク』に作られた存在なのに。
あくまで与えられていたただの『役』なのに。
こんなにも『ボク』の中で大きくなって、ひとつの人格にも似た何かになって。
「……ごめんね、『ボク』」
そんな謝罪の言葉まで、出てくるようになっちゃって。
――――仕方ない、僕が上手く演じすぎたんだ。
条件反射に似たなにかだったんだ、これから先は、任せるよ。
自問自答によく似た、自問他答。
別人格を作り出すなんて、僕も本気になりすぎたらしい。
まぁ、それだけ最高の演技ができたという事なら、満足だ。
ゲームには負けたけど、ある意味最高の演技ができたわけだから。
「――――――『見つけたよ』、おかあさん」
どれだけ走った頃だろう。
『エム』と『ボク』は、目当てのものを見つけた。
それは公園にあった、否、いた。
真っ白い地面に横たわる、ひとつの人影。
雪のように白くなってしまった肌。
それと対象的な黒の制服。
その間を取るように色の抜けた灰色の髪の毛。
そして、そんな場所に不相応なほどに鮮やかに咲いている、ヒガンバナ。
エム(ボク)は、そんな彼女を見つけて、駆け寄ることもしない。
とぼとぼと、歩み寄り始めた。
「…………ひどいよ、おかあさん」
約束を破るだなんて。
嘘をついてたなんて。
そんなことを言っても、もう遅いけど。
横たわる彼女の亡骸、その隣に座り込み、自分の膝に、おかあさんの頭を載せた。
こんなことをしても、おかあさんは戻ってこない。
もし生きていたとしても、殺し合う宿命だった。
陣営が違う限り、仲良しこよしのハッピーエンドは訪れるわけもない。
だから、これは『エム』のわがままだ。
「最後くらいは、一緒にいようね、どこにも行かないでね。
――――エムも、もうどこにも行かないから」
そう言って、彼女を抱きしめた。
どうせ、エムもあとは長くない。
だから、最後くらいはワガママになりたかった。
……もう、いい子なんてやめてもいいよね？
そんな言葉が、公園で虚しく響いた。
そう思うほどに、走った。
『ボク』も、こんな『エム』に何も言わないでいてくれた。
多分、呆れ果ててたんだと思う。
あくまで『ボク』に作られた存在なのに。
あくまで与えられていたただの『役』なのに。
こんなにも『ボク』の中で大きくなって、ひとつの人格にも似た何かになって。
「……ごめんね、『ボク』」
そんな謝罪の言葉まで、出てくるようになっちゃって。
――――仕方ない、僕が上手く演じすぎたんだ。
条件反射に似たなにかだったんだ、これから先は、任せるよ。
自問自答によく似た、自問他答。
別人格を作り出すなんて、僕も本気になりすぎたらしい。
まぁ、それだけ最高の演技ができたという事なら、満足だ。
ゲームには負けたけど、ある意味最高の演技ができたわけだから。
「――――――『見つけたよ』、おかあさん」
どれだけ走った頃だろう。
『エム』と『ボク』は、目当てのものを見つけた。
それは公園にあった、否、いた。
真っ白い地面に横たわる、ひとつの人影。
雪のように白くなってしまった肌。
それと対象的な黒の制服。
その間を取るように色の抜けた灰色の髪の毛。
そして、そんな場所に不相応なほどに鮮やかに咲いている、ヒガンバナ。
エム(ボク)は、そんな彼女を見つけて、駆け寄ることもしない。
とぼとぼと、歩み寄り始めた。
「…………ひどいよ、おかあさん」
約束を破るだなんて。
嘘をついてたなんて。
そんなことを言っても、もう遅いけど。
横たわる彼女の亡骸、その隣に座り込み、自分の膝に、おかあさんの頭を載せた。
こんなことをしても、おかあさんは戻ってこない。
もし生きていたとしても、殺し合う宿命だった。
陣営が違う限り、仲良しこよしのハッピーエンドは訪れるわけもない。
だから、これは『エム』のわがままだ。
「最後くらいは、一緒にいようね、どこにも行かないでね。
――――エムも、もうどこにも行かないから」
そう言って、彼女を抱きしめた。
どうせ、エムもあとは長くない。
だから、最後くらいはワガママになりたかった。
……もう、いい子なんてやめてもいいよね？
そんな言葉が、公園で虚しく響いた。
人間として 7th
『ふふ……ヒガンバナとエム、か……絵になるね、随分とさ……。
……私は、隅の方に居ようかな？』
遠目から見た2人は……本当に、母娘の様で。
彼処に……私が居る場所は無い。
なら、隅っこの方で大人しく見ていようか。
───嗚呼。
……微笑ましき絵画よ。
……この地に咲き誇る花達よ。
……赤と金の混濁よ。
素晴らしい、その世界を見せてくれたね。
■■■……私達、ようやく戻ったよ。
人間に、また……戻ったんだ。
なんて……思いながら煙草を吸う…つもりだったけど、そのまま握り潰してゴミ箱へ。
ライターも、要らないかな？
……けど、まだ、使えるから持っておくよ。
『……あ、今の痛いんだろうな…。』
なんとなく見ていて、ヒガンバナの胸に良い一撃が入った。
あれは……痛いね、うん。
……そんな光景すら、微笑ましいのさ。
『ヒガンバナの花言葉……あと二つあるんだよね……。
───“転生”と……“情熱”。
元の世界では……私も、あの輪に入れる花になれるのかな……？
……まあ、土も良い物だけど…ね？』
嗚呼……やはり、良いものだね……。
───人同士の……“愛”…なのかな？
これで……Azothとしてのロティは…終わりだよ。
今は……ただの、“ロティ”なのさ。
……私は、隅の方に居ようかな？』
遠目から見た2人は……本当に、母娘の様で。
彼処に……私が居る場所は無い。
なら、隅っこの方で大人しく見ていようか。
───嗚呼。
……微笑ましき絵画よ。
……この地に咲き誇る花達よ。
……赤と金の混濁よ。
素晴らしい、その世界を見せてくれたね。
■■■……私達、ようやく戻ったよ。
人間に、また……戻ったんだ。
なんて……思いながら煙草を吸う…つもりだったけど、そのまま握り潰してゴミ箱へ。
ライターも、要らないかな？
……けど、まだ、使えるから持っておくよ。
『……あ、今の痛いんだろうな…。』
なんとなく見ていて、ヒガンバナの胸に良い一撃が入った。
あれは……痛いね、うん。
……そんな光景すら、微笑ましいのさ。
『ヒガンバナの花言葉……あと二つあるんだよね……。
───“転生”と……“情熱”。
元の世界では……私も、あの輪に入れる花になれるのかな……？
……まあ、土も良い物だけど…ね？』
嗚呼……やはり、良いものだね……。
───人同士の……“愛”…なのかな？
これで……Azothとしてのロティは…終わりだよ。
今は……ただの、“ロティ”なのさ。
狂人でありたい！ 12th
ペンション
最後まで自分専用の隠れ家として確保していたそこで、ひたすらに思考を巡らせる
何か手はないのか
何も無いのか
(何か…！)
手にしたコロパッドには、個人チャット画面
…既に、打てる手は全て打っていた
アゾースに媚を売り
セレスティアに頼み込み
…"狂人"にも、望みをかけた
…それだけしか、できなかった。
…そして、それだけでは何にもならなかった。
「……ちく、しょう……」
悔しさがあった
悔しさがあった
"ゲーム"が始まってすぐ
コロパッドに送られてきたルールを全て読み終えた時に芽生えた感情は、どうしようもないほどの怒りと
悔しさだった
気の済むまで叫び散らしたかった
できる限り地団駄を踏み壁を蹴り家具を薙ぎ倒したかった
手当たり次第に物を掴んで叩きつけたかった
何かをひたすらに殴りたかった
何かをひたすらに思いつく言葉の限り罵りたかった
取り敢えず誰かを踏みにじりたかった
刃物でクッションでもひたすらに切りつけたかった
皿を全て叩き割りたかった
何かが壊れる様を見て存分に笑いたかった
なんでもいいから蹴飛ばしたかった
ベッドを叩き割り窓を砕き本を引きちぎりたかった
こんな機械は叩き割ってしまいたかった
悔しくて、悔しくて、悔しくて、悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて
悔しくて、仕方がなかった
自分の元に届いたのは、ゾディアックとルールのみ。
自分は"狂人"では無いのだと
そう、宣言されたからだ
『参加者の中で最も内なる狂気を秘めた者が選ばれる』
つまり
自分の能力は
思考は
生まれは
性格は
取り組みは
行いは
全ては"狂人"に値しないと
そういう事なんだと、思って
悔しかった
何故自分は選ばれなかった何故他の奴が選ばれた"そいつ"はなんで選ばれるんだ"そいつ"が一体何だというのだ"そいつ"は何をするというのだ？"お前"に何ができるってんだ！！！なんでお前が、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故！！！
…悔しくて、仕方がなかった
声の出る限り叫びたかったし、力のある限り暴れたかった
…でも。
"自分"はそんな事が出来る場所には居なかったのだ
…たまに、思い描く
「もし自分が"狂人"だったら」、と
取り敢えずは最初は堅実に情報収集か
いや、最初から派手に動いてどちらかの陣営に偏らせるのもいいかもしれない
いっそセレスティアを自称してアゾースと組むか
得た情報をひたすらに共有チャットに送っても面白いかもしれない
死んだと思わせて、牡羊座でしたと思わせて更に実は山羊座でしたからの実は狂人でした、とかも面白いかもしれない
狂人は帰ったら願いを叶える事ができるという
生存者の死亡でも望んでやろうか？
それとも、誰かの"大切な人"を殺すか
死んだ誰か一人の素性をかけて争わせるのもありかもしれない
あるいはどちらかの組織に入ってやるか
…考えて、しまうのだ。
『もし、自分が"狂人"なら
"彼女"を救ってやる事など、簡単だろうに』
…男っていうのは。実に単純な生き物なのだ
こんな状況で
こんな身体で
性別も分からないのに
本当の見た目も分からないのに
そもそも、"それ"が本当かどうかも怪しいのに
電子メールで、一言
「愛してる」と、そう言われるだけで
今まで10年以上かけて考えた"設定"なんて
跡形も無くなって
"君"の事を考えるだけで、動悸が激しくなる
激しくなった動悸を意識して、胸の内側
心臓とも、肺とも違う"そこ"が、とても熱くなって
"君"の顔を思い出すだけで
"君"の声を思い出すだけで
とても熱くて、でもそれはとても心地良くて
"君"を抱き締めたくて
"君"の事を、もっともっと知りたくて
"君"の笑顔が、もっと見たくて
ひたすらに、温もりを感じていたくて-
温もりを
感じて
いたくて
いたくて
…痛くて。
切なくて
苦しくて
もどかしくて
胸の内側はとっても暖かくて-でも、偶に思い出したかのようにきゅうっと締め付けてくるようで
…もっと、"君"を抱き締めたい
…もっと、"君"の事を知りたい
…もっと、"君"の笑顔を見たい
…もっと、"君"の事を知りたい
…もっと、"君"の温もりを感じたい
そんな風に願うのは、とても苦しくて
でも、とても心地良くて
ずっとこのままでいたいと思う
このままではなく、もっと進みたいと思う
…でも、そのどちらも自分にはできなくて
悔しくて
悔しくて
…悲しくて。
……まあ。
"何故"の答えは自分でもすぐに思いつく
此の期に及んでも"こんな事"を 思って/書いて いるから
"私"は選ばれなかったのだろうと
そう、"思ったり"する
……………………………………
ああ、本当に-
「…だっせぇなぁ…俺」
最後まで自分専用の隠れ家として確保していたそこで、ひたすらに思考を巡らせる
何か手はないのか
何も無いのか
(何か…！)
手にしたコロパッドには、個人チャット画面
…既に、打てる手は全て打っていた
アゾースに媚を売り
セレスティアに頼み込み
…"狂人"にも、望みをかけた
…それだけしか、できなかった。
…そして、それだけでは何にもならなかった。
「……ちく、しょう……」
悔しさがあった
悔しさがあった
"ゲーム"が始まってすぐ
コロパッドに送られてきたルールを全て読み終えた時に芽生えた感情は、どうしようもないほどの怒りと
悔しさだった
気の済むまで叫び散らしたかった
できる限り地団駄を踏み壁を蹴り家具を薙ぎ倒したかった
手当たり次第に物を掴んで叩きつけたかった
何かをひたすらに殴りたかった
何かをひたすらに思いつく言葉の限り罵りたかった
取り敢えず誰かを踏みにじりたかった
刃物でクッションでもひたすらに切りつけたかった
皿を全て叩き割りたかった
何かが壊れる様を見て存分に笑いたかった
なんでもいいから蹴飛ばしたかった
ベッドを叩き割り窓を砕き本を引きちぎりたかった
こんな機械は叩き割ってしまいたかった
悔しくて、悔しくて、悔しくて、悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて
悔しくて、仕方がなかった
自分の元に届いたのは、ゾディアックとルールのみ。
自分は"狂人"では無いのだと
そう、宣言されたからだ
『参加者の中で最も内なる狂気を秘めた者が選ばれる』
つまり
自分の能力は
思考は
生まれは
性格は
取り組みは
行いは
全ては"狂人"に値しないと
そういう事なんだと、思って
悔しかった
何故自分は選ばれなかった何故他の奴が選ばれた"そいつ"はなんで選ばれるんだ"そいつ"が一体何だというのだ"そいつ"は何をするというのだ？"お前"に何ができるってんだ！！！なんでお前が、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故！！！
…悔しくて、仕方がなかった
声の出る限り叫びたかったし、力のある限り暴れたかった
…でも。
"自分"はそんな事が出来る場所には居なかったのだ
…たまに、思い描く
「もし自分が"狂人"だったら」、と
取り敢えずは最初は堅実に情報収集か
いや、最初から派手に動いてどちらかの陣営に偏らせるのもいいかもしれない
いっそセレスティアを自称してアゾースと組むか
得た情報をひたすらに共有チャットに送っても面白いかもしれない
死んだと思わせて、牡羊座でしたと思わせて更に実は山羊座でしたからの実は狂人でした、とかも面白いかもしれない
狂人は帰ったら願いを叶える事ができるという
生存者の死亡でも望んでやろうか？
それとも、誰かの"大切な人"を殺すか
死んだ誰か一人の素性をかけて争わせるのもありかもしれない
あるいはどちらかの組織に入ってやるか
…考えて、しまうのだ。
『もし、自分が"狂人"なら
"彼女"を救ってやる事など、簡単だろうに』
…男っていうのは。実に単純な生き物なのだ
こんな状況で
こんな身体で
性別も分からないのに
本当の見た目も分からないのに
そもそも、"それ"が本当かどうかも怪しいのに
電子メールで、一言
「愛してる」と、そう言われるだけで
今まで10年以上かけて考えた"設定"なんて
跡形も無くなって
"君"の事を考えるだけで、動悸が激しくなる
激しくなった動悸を意識して、胸の内側
心臓とも、肺とも違う"そこ"が、とても熱くなって
"君"の顔を思い出すだけで
"君"の声を思い出すだけで
とても熱くて、でもそれはとても心地良くて
"君"を抱き締めたくて
"君"の事を、もっともっと知りたくて
"君"の笑顔が、もっと見たくて
ひたすらに、温もりを感じていたくて-
温もりを
感じて
いたくて
いたくて
…痛くて。
切なくて
苦しくて
もどかしくて
胸の内側はとっても暖かくて-でも、偶に思い出したかのようにきゅうっと締め付けてくるようで
…もっと、"君"を抱き締めたい
…もっと、"君"の事を知りたい
…もっと、"君"の笑顔を見たい
…もっと、"君"の事を知りたい
…もっと、"君"の温もりを感じたい
そんな風に願うのは、とても苦しくて
でも、とても心地良くて
ずっとこのままでいたいと思う
このままではなく、もっと進みたいと思う
…でも、そのどちらも自分にはできなくて
悔しくて
悔しくて
…悲しくて。
……まあ。
"何故"の答えは自分でもすぐに思いつく
此の期に及んでも"こんな事"を 思って/書いて いるから
"私"は選ばれなかったのだろうと
そう、"思ったり"する
……………………………………
ああ、本当に-
「…だっせぇなぁ…俺」
兎狩りの理由 9th
さて、多忙につき長らく忘れていた、二年間の話でもして、未来へのちょっとした展望を語り、私の嘘を終わらせてみよう。
なんて真似をしたら語るに尽きないので、まあ、各々に任せる。
武器をひとつだけ持たされてバトル・ロワイアルをしたのかも知れないし、学級裁判に興じたのかも知れないし、動物の被り物をしながら何か投票したかもしれないし、王様を名乗る者から来たメールに沿い、様々な無理難題をやっていたのかもしれない。
少なくとも私は複数回死んでいて、そのたびに何かしら生きていたりもして、殺して、殺されていたの、かもしれない。
と、人間の過去など嘘だらけだから、虚構しかない。かもしれないを追求したらキリがないので、それはどうでもいい。
スピンオフ作品にすれば良い。
OVA版に収録されるだろう。
問題は、何故、そうしたかだ。
それを改めて、再確認する。
最後に、自問自答しよう。
私が、人生を賭した理由を。
何もかも失わない永遠を選んだ彼女。
と。
何もかも失い未来を選んだ私が。
どうしてこうなったかを。
悲劇のヒロインとなったクラスメイトを、友情の下助けに行ってやる、というのはどうだ。清々しい気持ちになれるぜ。
―――Noだ。大体、私はウサギの敵である。寧ろ助けに行かない方が、すっとしてしまうだろう。
なら、最後の最後に、生死をとして争った、対立したライバルに、死なれるのが耐えらないというような気持ちはあるか。
―――Noだ。そんな情緒があったら、仲間を殺さないだろう。
なら、そうだな。確か、奴にはかがみんとか言う友人(？)が居たな。彼女との美しい友情に免じ……Noだ。誰だそいつは。
あれ、思いのほかNoばかりだ。
馬鹿なことはやめて帰ろうかな。
帰っちゃうか？
バカだろ。
と、私は自嘲する。
―――――――で。
なら、最後に。
まあ、まさかと思うんだが。
彼女の、ウサギのせいで、奴のなかでまだ終わっていない修学旅行を終わらせ。
奴を夢から現実に引き摺り戻し、吠え面をかかせて仕返しした後、一発殴る位して、まあ癪に障るが、私のかつての思いである、"みんなで帰る"に一歩でも近付け。
仕方ないから無間地獄からウサギを救ってやる。
なんて、絵に描いたようなバカバカしい綺麗事のためなら、命をかけたこれまでは無駄ではないか？
『―――――Yesだ。』
なんて真似をしたら語るに尽きないので、まあ、各々に任せる。
武器をひとつだけ持たされてバトル・ロワイアルをしたのかも知れないし、学級裁判に興じたのかも知れないし、動物の被り物をしながら何か投票したかもしれないし、王様を名乗る者から来たメールに沿い、様々な無理難題をやっていたのかもしれない。
少なくとも私は複数回死んでいて、そのたびに何かしら生きていたりもして、殺して、殺されていたの、かもしれない。
と、人間の過去など嘘だらけだから、虚構しかない。かもしれないを追求したらキリがないので、それはどうでもいい。
スピンオフ作品にすれば良い。
OVA版に収録されるだろう。
問題は、何故、そうしたかだ。
それを改めて、再確認する。
最後に、自問自答しよう。
私が、人生を賭した理由を。
何もかも失わない永遠を選んだ彼女。
と。
何もかも失い未来を選んだ私が。
どうしてこうなったかを。
悲劇のヒロインとなったクラスメイトを、友情の下助けに行ってやる、というのはどうだ。清々しい気持ちになれるぜ。
―――Noだ。大体、私はウサギの敵である。寧ろ助けに行かない方が、すっとしてしまうだろう。
なら、最後の最後に、生死をとして争った、対立したライバルに、死なれるのが耐えらないというような気持ちはあるか。
―――Noだ。そんな情緒があったら、仲間を殺さないだろう。
なら、そうだな。確か、奴にはかがみんとか言う友人(？)が居たな。彼女との美しい友情に免じ……Noだ。誰だそいつは。
あれ、思いのほかNoばかりだ。
馬鹿なことはやめて帰ろうかな。
帰っちゃうか？
バカだろ。
と、私は自嘲する。
―――――――で。
なら、最後に。
まあ、まさかと思うんだが。
彼女の、ウサギのせいで、奴のなかでまだ終わっていない修学旅行を終わらせ。
奴を夢から現実に引き摺り戻し、吠え面をかかせて仕返しした後、一発殴る位して、まあ癪に障るが、私のかつての思いである、"みんなで帰る"に一歩でも近付け。
仕方ないから無間地獄からウサギを救ってやる。
なんて、絵に描いたようなバカバカしい綺麗事のためなら、命をかけたこれまでは無駄ではないか？
『―――――Yesだ。』
【親子愛】 7th
さてさて…このゲームには勝った訳ですが。
どうにもやるせない物が残る。
……何故かって？
まあ、至極個人的な物なんだけどさ。
エムが何の花なのか、分かっていないんだよね。
いや……分からなくても良いかな？
二人の世界を邪魔してまで決めることじゃ無いさ。
…………けど、これ位なら良いかな。
せめて、“二人”には、花を見出そうか。
赤と金……合わせると何色？
……いや、色はどうでもいいよね。
『二人とも……幸せになると良いよ。
いずれ、君達も土に還る…が、それは無駄じゃあないからさ。
次の花を咲かせるのは、中々に楽しい物だぜ？』
なんて、呆れる様な事を言って。
二人の世界で二人の幸せを願おう。
土とは、子を持つ親の目線……花は、その子。
子はいずれ親へ。
花はいずれ土へ。
なるべきものになるのみなのさ。
私の場合は……土に還るのが早かった、狂い咲きの花なのさ。
厳密には親ではなく……リーダーとして。
あの時の、“皆”の笑顔と、拍手が。
────嗚呼……聞こえたよ。
だから、かの文豪の言葉を、借りて君へ。
【君、死にたまふことなかれ……】
……なんて、私には似合わないね。
さあ、おどけて見せて、私の中の“僕”
さあ、騒いでご覧、僕の中の“俺”
さあ、笑ってみろよ、俺の中の“私”
『さぁ……。』
君よ……君よ……。
『私と……。』
私の………………
『一緒に……。』
僕の………………
『生きてよ……。』
俺の………………
『私“達”の……妹分の、君よ…。』
嗚呼、此処での記憶は、君が為……。
私はまた……匣を作る。
けど、今度は……今度こそは。
パンドラの匣なんて、作るつもりは無いよ。
次は……逆さ。
ちょっとの絶望の後に……沢山の希望の溢れる、そんな匣を作るのさ。
そして、それは……君の為に…………。
『…………なんだろう、清々しい。
こんな気持ちは久々だ…そう思うだろう？
…………なぁ、赤城。』
……こんな形で良かったのかな？
けど、清々しいのは変わらなくて……良かったと思うよ。
2輪の花に……感謝の念を。
私の妹分……それが、私の大切な人だ。
今は、病気で入院しているけど…。
また……会おう。
そして、一緒に生きて行こうか。
なぁ……………妹分よ…。
妹分……………赤城よ…。
すぐに、逢いに行くよ……きっと、此奴達と。
『…………おや、これは…。』
ふと、足元を見て、咲いていた1輪の花。
…………そうだ、この2人に丁度良い。
この花を、手向けよう。
ここに咲いていた事も……奇跡かな？
いや、良いね……むしろ有難い奇跡だろう。
さぁ…………この花を。
あの二人に手向けるのさ……。
その花を……私は手折る。
そして……二人の元へと歩み寄る。
『さぁ……二人共。
私は君達の幸せを願おうか…最後の、私からの贈り花だ。
……これは、サルビア。
今の、君達の為にある花だろうね。』
…二人の後ろで、独りそう呟く。
───私が願うのは……二人の幸福。
願うと共に…最後の、最後の献花を。
二人の傍に……サルビアの花を。
今の、この2人のために、手向けるには最高の花だろう？
…………さぁ、ネタばらしだ。
『サルビアの花言葉を教えようか。』
今の、2人の為の花……。
『君達に丁度良い言葉さ……それは。
──────“家族愛”…だ。』
家族愛の花言葉を持ったその花を。
今、君たちに捧げましょう。
さぁ…………後は二人で…帰るといい。
私とは…………。
『私は、先に行くさ。
…………本当の私を見つけたら…また、声を掛けてくれよな？』
どうにもやるせない物が残る。
……何故かって？
まあ、至極個人的な物なんだけどさ。
エムが何の花なのか、分かっていないんだよね。
いや……分からなくても良いかな？
二人の世界を邪魔してまで決めることじゃ無いさ。
…………けど、これ位なら良いかな。
せめて、“二人”には、花を見出そうか。
赤と金……合わせると何色？
……いや、色はどうでもいいよね。
『二人とも……幸せになると良いよ。
いずれ、君達も土に還る…が、それは無駄じゃあないからさ。
次の花を咲かせるのは、中々に楽しい物だぜ？』
なんて、呆れる様な事を言って。
二人の世界で二人の幸せを願おう。
土とは、子を持つ親の目線……花は、その子。
子はいずれ親へ。
花はいずれ土へ。
なるべきものになるのみなのさ。
私の場合は……土に還るのが早かった、狂い咲きの花なのさ。
厳密には親ではなく……リーダーとして。
あの時の、“皆”の笑顔と、拍手が。
────嗚呼……聞こえたよ。
だから、かの文豪の言葉を、借りて君へ。
【君、死にたまふことなかれ……】
……なんて、私には似合わないね。
さあ、おどけて見せて、私の中の“僕”
さあ、騒いでご覧、僕の中の“俺”
さあ、笑ってみろよ、俺の中の“私”
『さぁ……。』
君よ……君よ……。
『私と……。』
私の………………
『一緒に……。』
僕の………………
『生きてよ……。』
俺の………………
『私“達”の……妹分の、君よ…。』
嗚呼、此処での記憶は、君が為……。
私はまた……匣を作る。
けど、今度は……今度こそは。
パンドラの匣なんて、作るつもりは無いよ。
次は……逆さ。
ちょっとの絶望の後に……沢山の希望の溢れる、そんな匣を作るのさ。
そして、それは……君の為に…………。
『…………なんだろう、清々しい。
こんな気持ちは久々だ…そう思うだろう？
…………なぁ、赤城。』
……こんな形で良かったのかな？
けど、清々しいのは変わらなくて……良かったと思うよ。
2輪の花に……感謝の念を。
私の妹分……それが、私の大切な人だ。
今は、病気で入院しているけど…。
また……会おう。
そして、一緒に生きて行こうか。
なぁ……………妹分よ…。
妹分……………赤城よ…。
すぐに、逢いに行くよ……きっと、此奴達と。
『…………おや、これは…。』
ふと、足元を見て、咲いていた1輪の花。
…………そうだ、この2人に丁度良い。
この花を、手向けよう。
ここに咲いていた事も……奇跡かな？
いや、良いね……むしろ有難い奇跡だろう。
さぁ…………この花を。
あの二人に手向けるのさ……。
その花を……私は手折る。
そして……二人の元へと歩み寄る。
『さぁ……二人共。
私は君達の幸せを願おうか…最後の、私からの贈り花だ。
……これは、サルビア。
今の、君達の為にある花だろうね。』
…二人の後ろで、独りそう呟く。
───私が願うのは……二人の幸福。
願うと共に…最後の、最後の献花を。
二人の傍に……サルビアの花を。
今の、この2人のために、手向けるには最高の花だろう？
…………さぁ、ネタばらしだ。
『サルビアの花言葉を教えようか。』
今の、2人の為の花……。
『君達に丁度良い言葉さ……それは。
──────“家族愛”…だ。』
家族愛の花言葉を持ったその花を。
今、君たちに捧げましょう。
さぁ…………後は二人で…帰るといい。
私とは…………。
『私は、先に行くさ。
…………本当の私を見つけたら…また、声を掛けてくれよな？』
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